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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1359件
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刑事・加賀シリーズの新作というか、従弟の松宮刑事を主役にしたスピンオフ作品。シリーズの持ち味を裏切らない、現代人情ミステリーである。
一人でカフェを経営していた50代の女性が殺害された。松宮刑事が捜査を進める中で浮かび上がってきた容疑者は、カフェの常連客の男性・汐見、被害者の元夫・綿貫など、数人いたのだが、犯行を決定付ける証拠が見つからなかった。そんな中、松宮の調べをヒントにした加賀刑事が犯人に接触し、自白を引き出したのだった。事件は一件落着と思われたのだが、割り切れない思いをかかえた松宮が独自に周辺調査を進めると、解き明かされたのは家族の絆とは何かに苦悩する普通の人々の出口のない葛藤だった。 あっさりと犯人が判明してしまうため、犯人探しミステリーとしては物足りないが、物語のメインテーマは現代版人情話で、その点では成功している作品である。登場人物が善人ばかりなので、気楽に読み進めることができ、読後感もいい。 シリーズのファンはもちろん、軽めのミステリー、人情ものファンにオススメだ。 |
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「クリムゾン・リバー」の大ヒットで知られるグランジェのデビュー作。ヨーロッパとアフリカを往復する渡り鳥・コウノトリが帰って来なかったという環境保護のような話から残虐な殺人事件につながっていく、驚くべき構成のアクション・ミステリーである。
32歳のモラトリアム青年・ルイは両親の紹介で渡り鳥研究家のマックスから「毎年春に欧州に帰って来るはずのコウノトリが、今年はかなりの数が帰って来なかった。その理由を調べたい」と言われ、助手を務めることになった。コウノトリの渡りの道をたどって行く旅に出る直前、打ち合わせのためにマックスを訪ねると、マックスはコウノトリの巣で無惨に殺害されていた。さらに検死解剖の結果、マックスは心臓移植を受けた痕跡があるのに医療記録が存在せず、しかも巨額の出所不明金を持っていることが判明した。単なる愛鳥家ではなかったマックスは何者なのか? ルイはバルカン半島からトルコ、イスラエル、アフリカへと南下するコウノトリを追い始めるのだが、その行く先々で残虐な殺人に遭遇することになる・・・。 数々の殺人事件は、誰が、何のために起こしているのか? 素人探偵・ルイが犯人と犯行動機を探るためにヨーロッパからアフリカ、最後はインドまでを旅するロード・ノワールであり、またルイ自身が何度も危機に陥るサスペンス小説でもある。渡り鳥が帰って来ないという牧歌的な発端が血みどろの陰惨な事件につながるという落差の大きさが印象的で、インパクトがある作品である。 ホラー作品ではないがかなり血腥い描写も多いので、心して読むことをオススメする。 |
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フランスの女流ミステリー作家の代表作「アダムスベルグ警視」シリーズの第2作。ミステリーの常識を無視した、ファンタジー系の警視が主役という作品である。
フランス・アルプスの山村で羊がかみ殺される事件が連続し、その噛み痕の巨大さに村人たちは超大型の狼か、あるいは狼男の仕業かと噂し合っていた。そんな中、村外れで孤独な生活を送っている変人・マサールが狼男ではないかと言っていた女牧場主・シュザンヌが殺害され、その喉には巨大な噛み痕がついていた。マサールが犯人だと信じたシュザンヌの養子・ソリマンと牧場の羊飼いの老人・ハリバンは、行方が分からなくなったマサールを追いかけようとする。シュザンヌの友だちだったカミーユは、車の運転が出来ないソリマン、ハリバンのために運転手として同行することになった・・・。 三人によるマサール追跡がメインストーリーなのだが、さらにカミーユがカナダ人の野生動物研究家・ローレンスと同棲していること、カミーユがアダムスベルグかつての恋人だったことが物語の重要な構成要素となっている。なので、本作については、主役はカミーユと言える。しかし、事件を解明するのはアダムスベルグである。で、肝心のアダムスベルグの捜査であるが、これがもう直感としか言いようがない迷推理で唖然とさせられた。伏線の張り方、事件の背景の解明、犯罪動機の掘り下げなど、ミステリーの基本が無視されており、果たしてこれはミステリーなのかと疑問だらけである。 このシリーズは、もう読まないことにした。 |
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アメリカではミリオンセラーを記録したという歴史ミステリー。史実に基づくものだけが持つ力強いエンターテイメント作品である。
ナチスドイツの空襲の傷跡が残る1947年のロンドン。戦時下のフランスで連絡が取れなくなったフランス人の従姉・ローズを探していたアメリカ人女学生・シャーリーは、手がかりを持っているはずの人物を訪ねるのだが、現われたのは両手の指が醜く潰れた酔っ払いの老女・イブだった。始めは全く関わろうとしなかったイブだったが、シャーリーが洩らしたローズの関連情報に興味を示して、ローズ探しを手伝ってもいいと言い出し、イブの運転手として雇われている元軍人のフィンとともに3人でフランスに渡った・・・。 実はイブは第一次世界大戦時、ドイツ占領下のフランス北部でイギリスのために諜報活動を行っていたスパイ組織「アリスネットワーク」の一員で、若さを武器に優秀な働きをしていたのだが、同時に、凄惨な経験もしてきた過去を持っていた。一方のシャーリーはアメリカの裕福な家庭で育った19歳の女学生だが、戦場から帰った兄が拳銃自殺するという経験があり、さらに自身も望まぬ妊娠により両親からプレッシャーを受けて自信喪失し、幼い頃から慕っていたローズを探し出すことで自分を取り戻そうとしていた。全く異なる背景を持つ二人だったが、それぞれの物語がフランスで交錯したことから、互いに影響し合いながら共通の目的に向かっていくことになる。 イブの視点から見れば復讐の物語であり、シャーリーの視点からは一人の女性として自立していく成長物語である。さらに、過去と現在を繋ぎながらフランスを旅するロードノベルであり、共通の目標に向かって力を合わせるバディ物語でもある。実在したスパイ組織をベースにしているだけに歴史小説としての完成度が高く、また逃げる人物を追いかけるマンハント・ミステリーとしてもよくできている。特に、敵役であるフランス人のレストラン経営者の悪辣ぶりが秀逸で、物語に深みを加えている。 007をはじめとするスーパースパイものとは一線を画す、リアルなスパイ小説として、また女性が主人公のミステリーとして、幅広いジャンルのミステリーファンにオススメしたい。 |
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【ネタバレかも!?】
(1件の連絡あり)[?]
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2016年〜19年に雑誌連載された長編ミステリー。昭和38年の吉展ちゃん誘拐殺人事件を下敷きに、社会性を欠いた孤独な男の衝動的な犯罪と時代の変化に翻弄される刑事警察の苦闘を描いた社会派ミステリーの傑作である。
一年後の東京オリンピックを控えて沸き立っていた東京下町で豆腐屋の子供・6歳の男児が誘拐され、身代金を要求する電話がかかってきた。同じ下町で起きた強盗殺人事件を捜査中だった警視庁捜査一課刑事・落合は、聞き込みの中で子供達から「莫迦」と言われている北国訛りの若者がいることに引っ掛かった。身代金要求の電話をしてきた男がつい口に出した訛りが気になっていたのである。警視庁は身代金受け渡しでの逮捕に失敗し、誘拐された子供の安否が気遣われるばかりで、犯行の全体像をつかめない警察は焦りの色を濃くして行くのだった・・・。 現実の事件をベースにしているだけあって事件の背景となる社会状況の描写はリアリティーがあり、捜査の進展にはサスペンスがある。さらに、犯人の人物像が緻密で心理描写に迫力があり、まさに社会派ミステリーの王道を行く作品と言える。 奥田英朗ファンのみならず、社会派ミステリーファンには自信を持ってオススメする。 |
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1981年に発表された、レナードらしさがあふれた作品。どこか壊れた登場人物たちが繰り広げる救いのないドラマ、病めるアメリカを味わい深いエンターテイメント作品に仕上げた軽快なアクション・サスペンスである。
フロリダの豪邸で、ハイチ人移民の男が射殺された。大富豪である豪邸の持ち主・ロビーは物盗りに入った男が山刀で襲ってきたので射ったと言う。捜査を担当した刑事・ウォルターは、以前、デトロイト警察に勤務していた時に事件を起こしてフロリダに移住してきた悪徳警官だった。ガン・マニアのロビーはウォルターにある計画を持ちかけ、ウォルターを運転手兼ボディガードとして雇い入れた。 デトロイト時代の事件でウォルターが裁判を受けた時、法廷で彼に不利な証言をした刑事・ハードは、同じ法廷でジャーナリストのアンジェラと出会い、付き合い始めたのだが、アンジェラは富豪をテーマにした記事の取材でロビーと接触しており、射殺事件のときには豪邸に滞在していたのだった。さらに、ウォルターを訴えた男性がデトロイトで射殺される事件が発生。ロビー、ウォルター、ハード、アンジェラは、複雑で滑稽な追跡ゲームを繰り広げることになる。 どれだけ凄惨な乱射事件が起きようと、年間数万人単位で射殺事件が起きていようと、決して銃規制しようとしないアメリカ社会の宿痾というべきガン・カルチャーを浮き彫りにした作品である。しかも、スピーディーなストーリー展開、軽妙な会話、陰影に富んだ人物像など、エンターテイメント作品としての完成度が非常に高く、30年以上前の作品とは思えない現実感がある。 レナード作品のファン、ユーモアのあるハードボイルドのファンに、自信を持ってオススメする。 |
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「未来三部作」と呼ばれる3本の中編を合体して1本の長編に仕上げた作品。
人間の強さと弱さが絡み合った決断がドミノを倒すように重なり合って歴史が動いていく、というテーマらしいのだが、「PK」、「超人」はまだしも「密使」に至っては完全にSFで、SFになじみがないため理解不能だった。 SFを読み慣れている人以外にはオススメしない。 |
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単行本を改定した文庫版に、さらに書き下ろし短編を加えた増補版(2019年)。東京湾を挟む品川ふ頭とお台場で働く若い男女の不器用な愛の物語である。
品川ふ頭で肉体労働に従事する亮介が25歳の誕生日に羽田空港で待ち合わせたのは、出会い系で見つけた涼子というOLだった。浜松町駅のキオスクで働いているという涼子に亮介は、また会いたいというのだが、涼子からは連絡が来なくなった。会社の同僚の彼女の紹介で真理と付合うようになった亮介だったが、ふと送ったメールをきっかけに再び涼子と会い、お互いに不安をいだきながら関係を深めていく。やがて、涼子が隠していた本名や職業などが判明し、亮介の過去の出来事も明らかになり、二人の関係は脆く、しかも激しくなっていく・・・。 揺れ動き、戸惑い、それでも止められない恋愛が見事な筆力で描かれており、ずしんと来る読み応えである。 吉田修一ファンはもちろん、現代的な恋愛小説のファン、若者が主役のエンターテイメント作品のファンにオススメする。 |
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テレビドラマにもなった「三匹のおっさん」シリーズの第1作。街の自警団を結成し、ご近所の悪を退治する3人のアラ還おやじの活躍をユーモラスに描いたアクション作品である。
全6話からなる連続もので、それぞれに窃盗、詐欺、痴漢、動物虐待など現代的な事件が中心になっているのだが、主眼となっているのは事件の解明ではなく、事件の背景を巡る人情話であり、ミステリー要素は薄い。だが、話の設定が面白く、登場人物たちのキャラ作りも上手いので、何の引っ掛かりもなくどんどん読み進められる。例えて言えば、お酒やコーヒーと一緒に過ごす自由時間に、あるいは旅に持っていくのに最適なタイプのエンターテイメント作品である。 ほのぼのとした読後感を楽しみたい方にオススメする。 |
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「小説宝石」の連載を改稿した長編小説。登場人物たちの不全感、自己肯定感の低さが織り成す救いようのない悲劇を描いた現代風俗小説である。
ストーリーはしっかりしているし、状況描写も巧みなのだが、肝心の人物像にリアリティも共感を呼ぶ力もなく、ただ長々と話が流れていくだけで、読後感はよくない。 朝倉かすみ作品はすべて読みたいというファン以外にはオススメしない。 |
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科学捜査の天才・リンカーン・ライムシリーズの第14作。ホームグラウンドであるニューヨークを舞台に、悪魔的な犯行計画の解明に取り組む、警察ミステリーの王道を行く作品である。
ニューヨークの宝飾店街で、店主であるダイヤモンド加工職人と婚約指輪を受け取りにきた男女が殺された。店内は荒らされ、極めて高価なダイヤモンドが行方不明になっていた。さらに、店主は凄惨な拷問を加えられており、犯人が何かを聞き出そうとしたのではないかと思われた。ライムのチームが捜査を担当することになったのだが、事件現場で犯人に遭遇した目撃者は警察に通報したものの、名乗り出ることはなく、自ら身を隠しているようだった。さらに、事件の直前に店を訪れていた人物が殺害され、婚約中の男女が襲撃される事件も連続した。事件に追われるライムたちをあざ笑うかのように、ダイヤモンドへの執着を表明した犯行声明が送り付けられた。次の犯行を防ぐために、ライムたちは隠れている目撃者を捕まえようとするのだが、犯人も目撃者を追いかけているのだった・・・。 ダイヤモンド強盗と思われた事件が、地中熱発電事業を巡る争いと関連し、さらに大規模な陰謀とつながっていく。相変わらずスケールが大きく、派手な物語である。しかし、従来のようなジェットコースター的急展開が影を潜め、綱渡り的緊張感のあるストーリー展開の作品となっている。その分、謎解きの面白さが際立ち、警察ミステリーとしてのレベルが高まっている。 リンカーン・ライムシリーズのファンはもちろん、アメリカ警察小説ファンにオススメする。 (なお、作品の評価とは関係ないのだが、単行本第一刷では漢字変換ミス、校正ミスが散見された。文藝春秋社ともあろうものが、と残念な思い) |
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イギリスの新人作家のデビュー作。本国ではすでに第三作まで刊行されているという、マンチェスターの刑事をヒーローにした新しい警察小説シリーズの登場である。
マンチェスターの麻薬売買を牛耳る組織に潜入し、ボスのカーヴァーが操っている警官を捜し出せという難しい秘密任務を命じられたのは、押収品の麻薬をくすねて停職処分を受けている巡査・ウェイツだった。堕落した警官なら麻薬組織も受け入れるだろうという計算である。しかも、この困難な潜入捜査に加えて、家出して麻薬組織に入り浸ってしまっている司法大臣の娘・イザベルの救出も任務とされた。毎週末にカーヴァーの豪邸で開かれるハウス・パーティーに潜り込み、カーヴァーの知遇を得たウェイツは組織の実態をつかみ、任務の目的に近づいたと思っていたのだが、イザベルが死体となって発見される事件に関与したことから思わぬ事態に巻き込まれることになった。 これまでの英国警察小説の主流であるダルグリッシュ警視、リーバス警部、ダイヤモンド警視など頑固で大人の警部たちとは異なり、まるでアメリカのはぐれ警官のような若くて破滅型の巡査が主人公という設定がとても新鮮。物語も麻薬密売組織と警察の不透明な関係、政治家一家のスキャンダル、大都会にはびこるドラッグの病魔など、現代的な要素をたっぷりと盛り込んだアクション小説である。文庫で600ページという長さから、途中にちょっと中だるみがあるものの読み応えがある作品で、次作以降の邦訳が待ち遠しい。 英国警察小説の王道作品のファンより、アメリカの刑事物のファンにオススメする。 |
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2005年に発売された書き下ろしの長編小説。大学新入生を主人公に、モラトリアムの喜びと悲しみを描いた、やや感傷的な青春小説である。
仙台の国立大学の新入生・北村は、金持ちの息子・鳥井、超能力少女・南、徹底的にクールな美人・東堂、暑苦しいほどの熱血漢・西嶋という4人の学生とつるんで学園生活を送ることになった。何事にも一歩引いて関わるため鳥瞰型と言われる北村だが、個性的な友人たちによって否応なく様々な問題に巻き込まれ、自由で無責任なモラトリアム時代ならではの青春を謳歌しながら卒業することになる。 作者にしては常識的というか、大人しい構成だが、それでもいくつもの山場となるエピソードがあり、物語を追いかけていく楽しさを満喫できる。さらに、ストーリー展開のテンポの良さ、会話のリズムの心地よさ、折々に出現する印象的なフレーズなど、いつも通りの伊坂幸太郎ワールドは不変である。 伊坂幸太郎ファンのみならず、安心して読める青春小説がお好きな方にオススメする。 |
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ハリー・ボッシュ・シリーズの第6作。難しい事件捜査で警察組織の闇に迷いながらも信念を貫こうとするボッシュの苦しい戦いを描いた、骨太の警察ミステリーである。
長年、ロス市警と対立してきた人権派の黒人弁護士が射殺された。マスコミを始め多くが警察官による犯行ではないかと疑っている難事件の捜査が、本来管轄外であるボッシュのチームに回ってきた。信頼する二人の部下とともに捜査を進めたボッシュは、事件の背景に数年前の少女誘拐殺人事件が関わっているのではないかとの疑念を抱くようになった。だがしかし、世間はロス市警と黒人社会との対立に焦点を当て、ロサンゼルスは人種間暴動の勃発寸前にまで緊張感が高まっていた。焦る市警上層部は、事件の真相解明より暴動の回避を優先し、ボッシュは厳しい立場に追い込まれるのだった。 ロドニー・キング事件の後遺症に囚われたロス市警、ロサンゼルス市の底流に流れる人種間対立を背景にした殺人事件捜査がメインで、それにボッシュの結婚生活という個人的事情が重なった、全体に非常に重苦しい雰囲気の作品である。そんな中で警官としての正義を貫くボッシュの姿は、現代の警察小説の典型例として輝いている。 ボッシュ・シリーズのファンはもちろん、重量感のある警察小説を読みたいというファンに、自信を持ってオススメする。 |
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本屋大賞を始め各種のミステリーランキングに入り、映画化もされた話題の作品。読み始めは「これがミステリー?」と疑問符だらけだが、最後にはきちんと伏線が回収されて納得できるユニークなミステリーである。
大学入学でアパートに引っ越してきた椎名は、最初に出会った隣人・河崎に「一緒に本屋を襲わないか」と誘われる。その目的は、1冊の広辞苑を奪い、隣室の外国人にプレゼントするためだという。優柔不断の塊りのような椎名は結局、河崎とともに書店を襲い、一冊の「広辞林」を奪うことになる。その2年前、同じ街のペットショップに勤める琴美は、同棲中のブータン人・ドルジと一緒に行方不明の黒柴犬を探しているうちに動物虐待犯たちのグループと遭遇し、トラブルに巻き込まれた・・・。 二つの物語が、どうつながっていくのか? その構成の奇抜さは、まさに伊坂幸太郎ワールド。訳の分からないエピソードたちが、1つのミステリーにきちんと収束していくところが恐ろしい。推理を重ねて謎を解くというのではなく、作者の手によって常識的な思考を振り回されるところに快感がある。ある種の不条理な世界である。 本格ミステリーではなく、アップテンポな風俗小説を読みたいという方にオススメする。 |
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フランスでいま最も人気がある作家の一人というミュッソの2016年の作品。失踪した婚約者を探しているうちに驚愕の事実に出会ってしまうというサスペンス・ミステリーである。
4歳の息子を育てているシングルファーザーで小説家のラファエルは、結婚を間近にした婚約者アンナと南フランスでのバカンスに出かけたのだが、自分の過去をひた隠しにするアンナに過去を話すように詰め寄り、衝撃的な写真を見せられることになった。動転したラファエルはホテルを飛び出し、冷静になって戻ったのだが、部屋にはアンナの姿はなかった。アンナがパリに戻ったことを知ったラファエルはすぐにパリに戻り、同じアパートに住む友人で元警部のマルクの手助けを得ながらアンナの行方を探し始めたのだったが、アンナがかつて起きた連続少女拉致監禁事件と関わりがあることが分かってきた。さらに、アンナには秘められた過去が存在することも明らかになった・・・。 失踪した婚約者探し、連続少女拉致監禁事件だけでなく、アンナの過去に関わる様々な事件が登場し、非常に複雑な構成のミステリーである。舞台もフランスからアメリカまで、時代も1990年代から2016年まで激しく動き回るのだが、作者のストーリーテラー能力が優れているので読んでいて混乱することはない。サイコ・サスペンス的な要素は含まれているが、主題は秘められた過去を解明するという謎解きミステリーでストーリー展開もスピーディーで楽しめる。ただ、最後に明かされるエピソードがちょっと拍子抜けなのが残念だ。 読みやすく、話も面白いので多くのミステリーファンに安心してオススメしたい。 |
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短編1本と雑誌掲載3本と書き下ろし1本で構成されながら、ちゃんと長編として成立しているところが伊坂幸太郎らしい作品である。
物語は時代やテーマを変えながら各章ごとに完結しているのだが、悪人のボスの下請けとして当たり屋をやっている二人の人物が物語世界を繋いでいく。伏線を張って回収するというより、別の話に発展させながらつながっていくのが、よく分からないけど面白い。そしてもちろん、エピソードや会話のテンポの良さ、ユニークさも楽しい。 肩の力を抜いて読書を楽しみたいときにオススメする。 |
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アメリカの現代詩人でヤングアダルト向け小説家の作品。エドガー賞を受賞したミステリーだが、現代詩の形態をとっている、不思議なエンターテイメント作品である。
敬愛する兄・ショーンを対立するストリートギャングに射殺された15歳の少年・ウィルは、街に生きる者の掟に従って犯人を殺すために、兄が隠していた拳銃を持って家を出て、エレベーターに乗り込んだのだが、自宅のある8階からロビーに降りるまでの1分少々の間にエレベーターは各階に停止し、それぞれの階で、もう会えるはずのない人たちが乗り込んできた。死んだはずの亡き兄の先輩、幼なじみの少女、伯父、父親らとの対話を通して、ウィルは復讐の決心を改めて確かめることになる・・・。 壊れた街に暮らす少年が殺された兄の敵討ちをしようとするというありがちな設定だが、エレベーターが地上に着くまでのわずかな時間、揺れる少年の心を現代詩の形態で描いたユニークさが新鮮である。内容はノワールだが、読後感は爽やかだ。 ミステリーファンにというより、ヤングアダルト小説のファンにオススメする。 |
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9年ぶりに登場した、陽気なギャングシリーズの第3作。相変わらず、個性的な登場人物が奇想天外な冒険を繰り返すコメディ・ミステリーである。
久しぶりに銀行強盗を働いた陽気なギャングたちだったが、ひょっとしたことから久遠がトラブルに巻き込まれた。その相手は、下劣で執念深い週刊誌記者・火尻で、しかも久遠が銀行強盗の一員であることを嗅ぎつかれてしまった。火尻から脅迫されることになった陽気なギャングたちは、火尻の執念深さに苦労しながらも、窮地を脱するためにギリギリの奇襲作戦を仕掛けるのだった・・・。 今回は、四人の個性を生かしたストーリー展開というより、悪役・火尻をはじめとする周辺人物のキャラクターが前面に出てきた物語である。他の方のレビューにあるように、オチのつけ方に切れ味がない感じはあるが、安定して楽しめる作品である。 シリーズ作品なので、当然のことながら第1作から順に読むことをオススメする。 |
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2018年の各ミステリーランキングでトップを独占しただけでなく、本屋大賞も受賞し、翻訳ミステリー界の話題を独占した作品。アガサ・クリスティへのオマージュと言われるだけあって、英国伝統の本格謎解きミステリーである。
上下巻2冊に別れ、上巻はアラン・コンウェイという作家の「カササギ殺人事件」という小説、下巻は同作品の担当編集者がコンウェイの死の謎を解くというダブルのフーダニット構成である。そして、それぞれの謎解きが極めて緻密に精緻に構成されており、まさに古き良きイギリスの探偵小説の王道を行く作品である。ただ、それ以上のものではない。 アガサ・クリスティに代表される古典的謎解きミステリーのファンには絶対のオススメ作品だ。 |
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