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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1393件
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史上初の三冠で話題になった短編集。収録された6作品はすべて高レベルで、しかもそれぞれにジャンル・テイストが異なるというヴァラエティ豊かな短編ミステリー集である。
これだけ完成度が高い、しかもジャンルが異なる短編集は初めて読んだ。すべてのミステリー・ファンに先入観無しに読むことをオススメする。 |
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常に新しいジャンルで水準以上の作品を発表し続けるウッズらしく、本作はこれまでのウッズのイメージを破る、社会派の謀略サスペンス・アクションである。
身に覚えのない罪でアトランタ刑務所に服役中の元麻薬取締局捜査官・ジェシーのもとを訪れたかつての同僚が、大統領特赦と引き換えに「カルト教団への潜入捜査」を持ちかけて来た。自由を得るのに他の選択肢がないジェシーは引受けるのだが、それはすでに二人の捜査官が潜入に失敗し消されたという危険な任務だった。司法省が用意した巧みな偽装をまとって教団の根拠地に着いたジェシーだったが、そこで待ち受けていたのは猜疑心が強く、街も警察も支配している教団の執拗な身元調べだった。地元の製材会社に就職し、下宿先の母娘と心を通わせ、さらには教団にも受け入れられたジェシーは、任務を遂行して完全な自由を獲得するために単身で命を賭けた戦いを挑むことになった・・・。 邪悪なカルト教団のテロを阻止するというミッション・インポッシブルに若干の恋愛要素をプラスした、いかにもなアメリカン・エンターテイメント。この系統の作品がお好きな方にオススメする。 |
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2005年に刊行されたノン・シリーズの書き下ろし長編。島根県松江市、隠岐島を舞台にした軽めのアクション・ハードボイルドである。
松江市の底辺の私立高校で日本史を教えている28歳の池田は、部活の顧問を務めるボクシング部のマネージャー・タマキと不適切な関係を続けているぐうたら教師だが、担任するクラスの女生徒が誘拐され、しかも現場に残されていた死体が、池田の高校からの旧友・郡のものであったことから、事件に巻き込まれてしまった。郡はなぜ死んだのか? 疑問を持った池田は郡の部屋を訪ね、地元のタウン誌の記者・的場と遭遇する。先に家捜ししていたらしい的場は、郡殺害事件の背景を探っているようだったのだが、その時、4人組の男たちが現われ二人は襲撃された。その場を逃れた池田と的場は事件の真相解明で協力することになり、誘拐された少女のボーイフレンドで池田の教え子でもある泰輔も加わって、怪しい素人探偵団が誕生した。 誘拐された教え子を救うために悪の集団(カルト教団がらみ)に立ち向かうというミステリー・アクションが基本で、そこにダメ教師の挫折と更生、見えないところでつながった人情物語がミックスされ、不思議なエンターテイメントに仕上がっている。舞台は異なっても、ススキノ探偵、幇間探偵・法間に連なるノリの良さと多彩な軽口は健在で、安定した東直己ワールドを楽しめる。 東直己ファンにはオススメ。軽くサクサクと読めるアクションもののファンにもオススメする。 |
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多彩なミステリーを描くスチュアート・ウッズによる、ストーカーをテーマにしたエンターテイメント・サスペンス。ハリウッド女優がヒロイン(被害者)だけあって華やかでスリリングな作品である。
大作のヒロインまであと一歩という地位にあり、普段からプライバシー管理には神経を使っているクリスだったが、ある日、自宅ポストで消印の無い封筒を受け取った。手紙には「賞賛者」という署名があり、これからも手紙を書くと書かれていた。クリスはプライバシーが侵害された不快感と気味悪さを感じたものの無視しようとしたのだが、クリスの行動を監視しているとしか思えない内容の手紙や花束が次々と届いた。さらに、自宅の新築現場を訪れて事故に遭い視力が失われたあと、現在の住まいに誰かが侵入したため地元警察に助けを求め、ストーカー対策専門刑事・ラーセンが派遣されて来た。身元につながるようなものは一切残さない、狡猾なストーカーに対しラーセンは奮闘するものの、ストーカーの行動はエスカレートするばかりで、ついにはクリスの秘書や親友のダニーまで命の危険にさらされるようになった。あらゆる手段で犯人を暴き出そうとしたクリスとラーセンだったが万策尽き、最後の手段としてクリス自身が囮となって罠を仕掛けることになった・・・。 攻撃がエスカレートするばかりで最後まで正体が判明しないストーカーの恐怖、果敢に反撃しようとするクリスの強さ、わずかな証拠から犯人像を突き止めようとするラーセンの執念がダイナミックでスリリングなストーリーを生み出している。さらに、ハリウッドという華やかな舞台で踊る個性的なキャラクターも魅力がある。 ストーカーものとは言え、残虐な要素が排除されているため、多くのミステリー・ファンに安心してオススメする。 |
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「用心棒」のジョー・ブロディーが帰って来た。ニューヨークの裏社会の保安官に任命されたジョーが再びテロ組織を壊滅させるべく立ち上がる、アクションミステリーであり、マカロニ・ウェスタンであり、現代ノワール小説である。
アルカイダ系組織の代理人がニューヨークで大量のヘロインを売りさばこうとしているという情報が裏社会のボスたちにもたらされた。問題のヘロインはニューヨークの組織と関係がある麻薬密売組織から奪ったもので、テロ組織側は活動の資金源とするために代金400万ドルにはダイヤモンドを要求しているという。このままではニューヨークの裏社会のバランスが崩れ、街が深刻なテロ被害に遭うと恐れたボスたちは、裏社会の保安官・ジョーに「囮となって接触し、ヘロインを買い取ったら代金を奪い返せ」という任務を課す。つまりジョーは、厳重に警備されているダイヤモンド会社から400万ドル相当のダイヤモンドを盗み出し、テロリストと交渉をまとめ、さらに相手に渡したダイヤモンドを再び奪い取るという、三つの極めて困難なミッションに挑むことになったのだ。ニューヨークの裏社会を牛耳る各組織からのバックアップを得て個性的なメンバーを揃えたジョーは、知恵と度胸でテロ組織、警察に対峙し、手に汗握るクライム・アクションを繰り広げるのだった…。 ダイヤモンドの強奪、テロ組織との血みどろの戦い、警察との攻防など、エンタメ要素が盛りだくさんで息つく暇も無い、ジェットコースター・クライムノベルである。それに加えて、前作から引き継ぐ複雑な人間関係、登場する悪党たちの人間くさいドラマ、ジョーの人情味と恋のゆくえなど、サイド・ストーリーも華やかで、まさにハリウッド映画顔負けの賑やかさである。 前作でジョーにハマった人には絶対のオススメ、また現代ハードボイルド、ノワール、クライムのファンにも自信を持ってオススメする。 |
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退職刑事ビル・ホッジス三部作の流れを受けた、2018年の長編作。ホラー、ファンタジーの巨匠キングらしさが十二分に発揮された娯楽超大作である。
オクラホマ州の小さな町で住民を震撼させる猟奇的な少年殺人事件が発生。地元警察の刑事ラルフたちは数々の目撃証人の証言、犯行に使われた車や指紋、さらには残されていたDNAなどの証拠を固め、地元の教師で少年野球のコーチでもあるテリーを、懲罰的に衆人環視の中で逮捕した。地域社会の尊敬を集めていたテリーの逮捕は衝撃を与え、住民の間に怒りの炎が燃え上がった。ところが、テリーの弁護側が調査すると、事件当時テリーは数百キロ離れた都市での会合に同僚教師たちと一緒に参加しており、それを証明するテレビ報道ビデオも発見された。もしテリーの犯行だとすると、同一人物が同じ時刻に、別の場所にいたことになる。刑事ラルフはこの事実に違和感を抱きながらも、確固とした証拠を基に裁判に進めたのだが、裁判所の前には憎むべき犯人に罵声を浴びせようという群衆が密集して大混乱になり、テリーが射殺されるという事態になってしまった。事態に責任を感じながらも業務執行上のやむを得ない悲劇と割り切ろうとしたラルフだったが、弁護側と交渉を重ねるうちに増々違和感を強く持つようになり、ついには弁護側と協力して真相解明に乗り出すことになった。絶対的に矛盾する事態を検証し続けた結果、ラルフたちがたどり着いたのは、現実認識を一変させる、信じがたい出来事だった…。 殺人事件の謎を解く謎解きミステリーとしての本筋はしっかりしているのだが、事件解明の最大のポイントが人知を超える超常現象というところで、ミステリーとしてはいまいち。もちろん、ホラー、ファンタジー系統の作品としては傑作である。 「ファインダーズ・キーパーズ」の調査員ホリーが登場する(下巻では、ほぼ主役)こともあって、ビル・ホッジス三部作のファンにはおススメ。さらに、キングのホラー、ファンタジーのファンには必読とおススメしたい。 |
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イタリア人ベテラン脚本家の小説デビュー作。還暦をとうに過ぎた殺し屋が40年間秘めて来た願いを叶えるために組織に逆らい、生き別れた妻と娘を捜す旅に出る、情感あふれたノワール・エンターテイメントである。
心臓発作に襲われ緊急手術を受けたマルセイユの国際犯罪組織の老殺し屋オルソは、病室で目を覚まし、これまでの自分の人生を振り返ったとき、40年前に組織のために別れることになった妻・アマルと娘・グレタに一目会いたいという、狂おしいまでの思いが募って来た。しかし、オルソを訪ねて来た組織のボス・ロッソは、周りから不死身の殺し屋として恐れられ自分の右腕と頼むオルソが軟弱になることを嫌い、アマルとグレタを探す手がかりの情報をくれたものの、組織としての手助けは一切しないと宣告した。二人がイタリアに暮らしているとの情報をつかんだオルソは、ボスの意向に反しひとりイタリアへと旅立ったのだが、目的地に着く前に列車内で正体不明の2人組に襲われた。その場はかろうじて逃れたものの、敵は次々と襲って来た。オルソの命を狙うのは誰か、孤立無援のオルソは組織の古くからのメンバーも信じられず、孤独な戦いを進めるしかなかった・・・。 イタリアのテレビ、映画界で活躍するベテラン脚本家だけあって、ストーリー展開がスピーディーだし、エピソードが映像的だし、主要登場人物の絵が無理なく浮かんで来るほどキャラ設定が巧みで、まさに第一級のアクション・ドラマである。さらにチャンドラーやエルロイの影響を強く感じさせるノワール要素、ハードボイルド要素もレベルが高い。最近、一つのジャンルを確立した感がある「高齢者ハードボイルド」だが、その中では最も娯楽性が豊かな成功作と言える。 老ヒーローもの、ハードボイルド、不器用な男の再生物語のファンに自信を持ってオススメする。 |
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骨髄移植のドナーとなるはずの男が謎の連続殺人に巻き込まれ、東京中を逃げ回るアクション・エンターテイメント作品。何も知らない男の逃亡アクション、警察による犯人探し、権力の陰謀など、冒険ものの面白さをたった一晩のできごとにてんこ盛りにした密度の濃い物語である。
生まれた時からの悪党を自認する八神が一生に一度の善行として骨髄移植のドナーとなることになり、入院準備のために悪党仲間である島中のアパートを訪ねると、島中は殺害されており、八神も謎の三人組に襲撃された。辛うじて逃げ出した八神だが、襲撃者たちは執拗に追跡し、八神は訳も分からず約束の時間までに入院予定の病院にたどり着けるように夜の東京中を駆け回ることになる。同じころ都内で一人住まいの女性の殺人事件が発生したのだが、被害者には奇妙な細工が施されており、同じような細工は島中にも施されていた。同一犯による犯行を疑った警察だったが、発生時刻と現場の位置関係から一人では実行不可能と判断し、犯罪者グループの存在を疑った。さらに、今度は八神を襲撃したグループのメンバーが殺害され、謎のグループを狙う別の犯罪者の姿まで垣間見えてきた。必死で逃げる八神、それをチームプレーで追い詰める犯人グループ、そしてある目的を秘めて神出鬼没の動きを見せる謎の男、連続殺人を防止するため懸命の捜査を進める警察・・・夜の東京に四巴の戦いが繰り広げられた…。 事件の背景になる要素がやや貧弱な印象だが、物語の展開がスピーディで登場人物のキャラクターが立っているので最後まで面白さが緩まない。現在の日本のミステリー、冒険小説の面白要素を全部盛り込んだ痛快な作品である。 アクションもの、警察もの、社会派ものなど、どのジャンルのファンでも楽しめる一冊としておススメする。 |
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ハリウッドを舞台にアメリカン・ドリームを実現しようとする若者の野望を描いた、1993年発表の作品。マフィアのチンピラから映画界の寵児に伸し上がる若者のジェットコースターのような生き様が読者を引きつけるエンターテイメント・ミステリーである。
ニューヨークマフィアの幹部の下で高利貸しの取り立て人としてすご腕を発揮するヴィニー・カラプレーゼは、ニューヨーク大学の映画学校に通うほどの無類の映画好きだった。そこで出会った監督志望の男の脚本に惚れ込んだヴィニーはプロデューサーを買って出て、一本の素晴らしい映画を完成させ、ハリウッドの映画会社の大物社長・ゴールドマンに見てもらうというチャンスをつかんだ。同じ頃、取り立てのトラブルが原因でマフィア幹部の怒りに触れたヴィニーは衝動的に幹部を殺害してしまい、同じ幹部の経理係を務めていた親友・トミーの手助けを受けてニューヨークを離れることになった。殺した幹部の金を行き掛けの駄賃としてトミーと山分けし、マイクル・ヴィンセントと名前を変えたヴィニーは、ハリウッドでの成功を夢見て、ゴールドマンを訪ねるのだった。映画への限りない情熱と、それ以上に成功への情熱を持つヴィニーは、口八丁手八丁の頭の良さと目的のためには手段を選ばない非情さで、一躍ハリウッドの寵児となるのが、そのために重ねた無理が積み重なり、予想もしなかった事態が訪れることになる・・・。 絵に描いたようなアメリカン・ドリームと、野心的な若者が陥る奈落の世界。まさにハリウッド映画以上に映画的なエンターテイメントである。ストーリー展開もキャラクターも簡潔明瞭、最初から最後まで物語に身をゆだねる楽しさを堪能できる。 ミステリー・ファンに限らず、軽快なアクション映画ファンにもオススメしたい。 |
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家庭裁判所の調査官補という地味な主人公が、どこにもありそうな事案に誠実に対応し、悩みながら成長して行く連作短編集。著者の代表作である佐方シリーズほどインパクトや深みはないものの、いかにも柚月裕子らしいテイストである。
全5話は、それぞれ家庭と社会の間で生じる日常的な問題で、扱いようによっては重苦しいテーマなのだが、問題の社会性、普遍性を損なうことなくエンターテイメントに仕上げているところはさすが。これが果たしてミステリーなのかという疑問はあるが、人の心の謎を解こうとする主人公の行動はディテクティブそのものとも言える。 柚月裕子ファンにはオススメ。人情社会派もののファンにも安心してオススメしたい。 |
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スカダーが戻ってきた! といっても、アメリカでは短編集として発売された作品と最新作になる中編を、日本独自に合本したものである。
短編集は日本初登場時に話題を呼んだ名作短編「バッグレディの死」をはじめとする70年代から2010年代までの11作品。スカダーがまだ制服警官時代の話から親友・ミック・バルーが結婚し(!)、グローガンの店をたたむ話まで、ヴァラエティ豊かな小品ぞろいで、どれをとっても面白く、改めてブロックの短編名人ぶりを再認識した。 最新作である中編「石を放つとき」は、80歳のスカダーがエレインの友人に頼まれてストーカー対策に乗り出すというハードボイルドもの。ひざの痛みや物忘れなど、年相応の悩みを抱えながらの私立探偵稼業に、スカダーファンならジンと来る。それでも、ハードボイルドな生き方は変わっておらず、かっこいい。 マット・スカダー・シリーズは、今後新作が出るのかどうか不明で、ひょっとするとシリーズ最終作となることも予想されるため、シリーズ・ファンは必読の一冊である。 |
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リストラ寸前の若いサラリーマンが、「足の下に地雷が埋まってるわけじゃなし。何をしようが死にゃあしない」と腹をくくることで事態を逆転していくユーモラスなサラリーマン応援小説。パターンが確立されているジャンルの作品だが、完成度は高い。
池井戸潤がお好きな方にオススメする。 |
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文芸誌の編集長を経て作家デビューしたというアメリカの女性作家の第三作。長編では本邦初訳となる本作は12歳の少女の成長物語であり、父と娘の絆の物語であり、父の過去と母の死の謎が明らかにされるミステリーでもある。
12歳になったとき、ルーは父親であるホーリーとともにニューイングランドの小さな漁村に移ってきた。ここは亡き母の故郷でもあり、父が娘のためにそれまでの転居を繰り返した生活をやめ、落ち着いた暮らしを始めようとして選んだ土地だった。そこで漁師となったホーリーはいつも複数の銃を持ち、体には12個の銃痕があるという謎めいた存在だった。しかも、父娘が亡き母の母親、ルーの祖母であるメイベルに会いに行くと、メイベルは二人を家に入れるのを拒否した。そこには、母の死と父の隠された過去を巡る深い話があったのだ。 12歳のルーが新しい環境でいじめにあいながらも自分を確立し、17歳の少女になっていく成長物語と、父の体に銃痕が刻まれた理由が交互に語られる構成で、そこに母が死んだ事件の謎が重なっていく。三つのストーリーがそれぞれに独立した重みをもちながらも、重なり合うことでさらに深さが生まれ、複雑で味わい深い物語になっている。さらに、アメリカ各地の大自然が生み出すドラマがスケールの大きさで強く印象に残る。 昨年話題になった「ザリガニの鳴くところ」に心ひかれた方には絶対のオススメ。さらに、叙情ミステリーのファンにもオススメする。 |
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雑誌連載に加筆訂正した長編小説。著者お得意の警察ものだが、主人公が刑事ではなく一般職の女性職員というのがユニークで、ストーリー展開も意表をつく捜査ミステリーである。
若い女性がストーカーに殺害される事件が起き、所轄署が事件前に被害者家族から相談されながら被害届の受理をしぶっていたことが発覚した。さらに地元紙に、被害届を放置したまま担当部署の職員が慰安旅行に出かけていたことまですっぱ抜かれ、警察は県民からの激しい非難の嵐に見舞われた、県警広報課に勤務する森口泉は、慰安旅行の件が漏れたのは、親友である地元紙の記者・千佳に洩らした自分の不用意な一言が原因ではないかと悩み、記事にはしないと約束した親友を信じられなくなっていた。ところが、自分が記事にしたのではないと断言して「名誉を回復する」と語り、すっぱ抜きの背景を探っていた千佳が不審死をとげ、泉は激しく動揺する。千佳は何を見つけ出したのか、なぜ殺されなければいけなかったのか、泉は友人である刑事や上司の助けを得ながら真相を探ろうとする。しかし、彼ら二人の前には得体の知れない闇が広がっていた・・・。 現実に起きた事件のあれこれを想起させる舞台装置だが、話の筋書きは独創的でスピーディーに展開され、ワイダニットの警察ミステリーとしてよくできている。殺人事件が次々に発生するのだが事件そのものよりも背景の解明に力点が置かれた社会派ミステリーである。 警察ミステリーのファン、社会派ミステリーのファンにオススメする。 |
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美人キャスターの転落事故に偶然遭遇したニューヨーク市警の刑事が、警察を離れた後も捜査を続けて犯人を見つけるという謎解きミステリー。1991年の作品だが少しも古さを感じさせないエンターテイメント作品である。
深夜のマンハッタンを酔い覚ましに歩いていた刑事・ストーンは偶然、高層マンションから落下する女性を発見、すぐに部屋に駆け付けたのだが犯人を取り逃がしてしまう。落ちた女性は有名な女性キャスターで、救急車が到着した時には生きていたものの病院へ搬送されるときに救急車が衝突事故を起こし、その後行方が分からなくなった。彼女は生きているのか、死んでいるのか? 一向に事件を解明できず、非難を恐れた警察は強引に犯人を断定しようとし、これに反対したストーンは体よく警察から追い出されてしまう。それでも事件にかかわり続けたストーンは、女性キャスターを巡るさまざまな陰謀や不可解な事実をつかみ、華やかなテレビの世界の裏側でうごめく人間の欲望の渦に切り込んでいく。 ワイダニット、フーダニットの謎解きなのだが、話の舞台が華やかで登場人物が個性的、さらにストーリー展開が目まぐるしく、スピード感のあるエンターテイメント作品である。話の運びに強引なところがあるものの、気になるほどではない。 ハリウッド映画のようなアクションミステリーのファンにオススメする。 |
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デビュー作「償いの雪が降る」で鮮烈な印象を残したエスケンスの邦訳第2弾。富豪である妻殺しの疑いをかけられた刑事弁護士の裁判を巡って、親友同士である刑事と弁護士が対決することになる犯人探しと法廷劇の傑作ミステリーである。
ミネアポリスの高級住宅地に住む刑事弁護士・プルイットの妻が殺害され、捜査を担当するマックス刑事は、向かいの家の住人の証言もあり被害者の夫を第一容疑者として捜査を進める。事件当時、プルイットはシカゴにいたというアリバイがあるのだが、それを疑問視する捜査側によって裁判に追い込まれたプルイットは、かつての同僚で敏腕弁護士だったボーディに弁護を依頼する。母を亡くし、父を失うことになりそうなプルイットの一人娘を気にかけるボーディは弁護を引受けるのだが、それはまた、親友であるマックス刑事と敵対することでもあった。しかしながら、たとえ天が墜ちようとも正義は貫かれるべきだと信じるボーディは裁判に勝利すべく、友情を犠牲にした裁判闘争を展開するのだった…。 まず、弁護士の妻殺しの犯人は誰か? 動機、犯行手段の解明プロセスがスリリング。言わばアリバイ崩しのパターンなのだが、アリバイが成立するかしないか、めまぐるしく入れ替わりサスペンスがある。さらに、正義と正義がぶつかり合う知性の戦いである裁判劇は検察官、弁護人、裁判官のそれぞれの個性が遺憾なく発揮されて白熱するアメリカの裁判の典型で、最後まで予断を許さずぐいぐい引き込まれる。謎解きミステリーとしても、法廷ミステリーとしても一級品である。それに加えて、登場人物の背景、人物像がきちんと描かれていてヒューマン・ドラマとしても完成度が高い。 謎解きミステリーのファン、法廷ミステリーのファン、どちらも満足させる傑作としてオススメする。 |
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メンフィス市警の退職刑事「バック・シャッツ」シリーズの第3弾。かつて逮捕した死刑囚から「自白はバックの暴力で強要されたものだ」と訴えられたバックが、孫の力も借りて汚名を晴らす法廷劇的なハードボイルド・ミステリーである。
89歳になり歩行器が手放せず、妻のガン宣告も忘れてしまうほど認知症が進行しているバックだが、誇り高さと毒舌だけは健在で、周囲を困らせながら生きていた。そんなある日、ラジオ番組プロデューサーから「あなたが逮捕した死刑囚が、自白はバックの暴力で強要されたものだと主張している」として、インタビューを要請された。番組は死刑制度廃止を目的としたもので、一人では手に負えないと考えたバックは弁護士試験に備えて勉強中の孫のテキーラの手を借りて対応することにした。バックと死刑囚・マーチの間には50年以上昔からの因縁があり、さらに死刑制度に反対する法学者、弁護士、ジャーナリストたちが絡んで来て事態は混沌を深めて行った・・・。 歩くこともままならない老人が主人公とあって、ハードボイルドとは言え拳銃をぶっ放すようなアクションは皆無。連続殺人犯逮捕の過去からの因縁を丁寧に辿り、さらに現在のアメリカの死刑に関するさまざまな議論を盛り込み、法廷劇的なミステリーになっている。それでも、過去の犯人逮捕までのプロセス、相変わらずのバック・シャッツの誇り高き毒舌とユーモアで、ハードボイルド・ミステリーとして満足できる作品である。シリーズはまだ次作が予定されているとのことで、最高齢ヒーロー記録はまだまだ更新されそうだ。 バック・シャッツ・ファンのみならず、死刑制度に関心がある方にオススメしたい。 それにしても本作の表紙は、どうしたことか? 前2作のテイストがぶち壊しになっているのが残念。 |
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2019年から20年に雑誌掲載された5作品を収載したオムニバス短編集。
5作品ともテーマは霊と人間の交流で、主人公は基本的に善人、霊も善意の存在で、読み終えた後には霊の存在を信じたくなり、心がふわっと温かくなる作品集である。とはいえ、さすが奥田英朗、物語の構成がしっかりしており、ストーリー展開も滑らかで短編の醍醐味を味わえる。 人情もの、ハートウォーミングな物語を読みたい方にオススメする。 |
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ノルウェーをというか北欧を代表するハードボイルド・ミステリー「ハリー・ホーレ」シリーズの第9作。愛する義理の息子を救うためにオスロに帰ってきたハリーが孤軍奮闘の末に悲しいクライマックスを迎えるサスペンス・アクションである。
別れた恋人・ラケルの息子であり、ハリーが父親代わりとして接してきたオレグが殺人容疑で逮捕されたという知らせを受けたハリーは信じることができず、急遽、香港からオスロに帰ってきた。警察に復帰し捜査に加わりたいと願い出たハリーだったが拒否され、昔の伝手を頼りながら一人で真相を探ることになった。しかし、ハリーが自分と母親を捨てて逃げたと思い込んでいるオレグは心を閉ざし、ハリーには口を開こうとしない。さらに、調べを進めるにつれオレグが犯人であるという証拠が重なっていった。事件の背景にはオスロの麻薬販売を巡るギャングの勢力争いがあり、しかも警察内部の高官が絡んでいるようだった。オレグを救うために、愛するラケルを救うために、ハリーはすべてを投げうってギャングと警察組織に戦いを挑むのだった…。 相変わらず超人的な意志の力と情熱で走り回るハリー、その姿は狂気そのものとも言えるのだが、物語の構成がしっかりしているので、ストーリー展開は緊密で破綻がない。ハリーの信念、生き方が貫かれたハードボイルドの部分、現代社会を深部から蝕む麻薬密売の闇、ハリーの命が狙われるサスペンスの部分、それが一体となってスケールの大きな犯罪ドラマを生み出した、読みごたえがあるエンターテイメント作品である。しかもクライマックスには、シリーズ読者が思わず息をのむシーンが用意されている。 本シリーズがオリジナルの順番を無視して邦訳出版されてきた経緯もあり、本作だけを読んでも十分に満足できる作品だが、できれば第一作から順を追って読むことをオススメする。 |
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現代アメリカの一流作家たちがE.ホッパーの絵から発想した17作品を収めた、ユニークな短編小説アンソロジー。ローレンス・ブロックが声をかけただけあってミステリー系の作家がほとんどで、ショートミステリー集として楽しめる。
きわめて印象的で有名な「ナイトホークス」(なんと、マイクル・コナリーがボッシュを登場させている)をはじめとする17点の絵はいずれも強いメッセージ性を持つというか、物語を感じさせるものばかりで、そこから紡ぎだされた物語はどれも読みごたえがある。 ぐいぐい引き込まれるような面白さではないが、読んで損はない。おススメする。 |
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