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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1393件
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客室乗務員経験があるという女性作家のデビュー作。テロリストにハイジャックされた旅客機の乗務員、家族、捜査陣が航空機テロを防ぐために死に物狂いで活躍するハイジャック・サスペンスである。
LAからNYへ飛んでいる民間航空機のパイロット・ビルのもとに届いた一通のメールには、妻のキャリーが自爆ベストを着せられ拘束されている写真が添付されていた。直後、PCのフェイスタイムで「飛行機を墜落させろ。さもないとあんたの家族を殺す」とのメッセージが届いた。墜落させるつもりはなく、家族を殺させるつもりもないと拒否したビルだったが、機内にテロリスト仲間が潜んでいると告げられた。窮地に陥ったビルは信頼するフライトアテンダントのジョーに密かに相談し、ジョーは甥でFBI捜査官のセオにメール連絡し、ビルの家族を救出する手配を依頼した。ハイジャック犯からは警察に知らせたら家族の命はないと言われていたのだが、機内の様子が乗客のSNSに投稿されたことから事件はマスコミに知られてしまった…。 家族か乗客かの決断を迫られるビル、パニックに陥った機内を落ち着かせようとするジョーたち、ビルの家族を助けるために犯人を追うFBI職員、それぞれが苦境を打開するために命を賭けて戦うアクションが主題だが、それを彩るビルやジョーの家族、テロリスト、航空管制官などの描写もリアルで迫力満点。一気読みの面白さである。機上と地上、それをつなぐネットの場面展開がスピーディーかつダイナミック。ハリウッド映画を見るようなエンターテイメント満点のサスペンス(すでに映画化権が売却されたという)である。 ハイジャック物に新しい可能性を開いた作品として、多くのサスペンス作品ファンに自信をもってオススメしたい。 |
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現代フランス・ミステリーを代表する一人であるミニエの「セルヴァズ警部(警部補)」シリーズの第5作。新人時代に遭遇した事件に関連すると思われる殺人事件に直面したセルヴァズが複雑に絡み合った事件の謎を解くパワフルな警察ミステリーである。
1993年、刑事になったばかりのセルヴァズは美人大学生姉妹の惨殺事件に遭遇する。その奇妙な犯行は人気ミステリーの内容を模倣したようで、しかも被害者二人とミステリー作家ラングは知り合いだった。警察はラングを有力容疑者として追求したのだが、想定外の犯人が見つかり事件は幕引きされた。その25年後、こんどはラングの妻が殺害され、その殺害現場は25年前の事件を想起させた。セルヴァズは二つの事件を切り離して考えることができず、両方の謎を解くべくもつれにもつれた人間関係を解きほぐしていくのだった…。 前半では奇妙な事件の捜査を通じて新人刑事のセルヴァズが成長していく姿が丁寧に描かれ、後半では実力ナンバーワン刑事になったセルヴァズが優れた推理力と行動力を発揮する王道の警察ミステリーとなっている。さらに、セルヴァズの人物像の背景となるエピソードがあるのが、シリーズ読者にはうれしい。700ページ近い長編だが謎解き、ヒューマンドラマの両面とも完成度が高く、中だるみすることもない。 シリーズ愛読者は必読。セルヴァズの刑事人生の原点が描かれているので、本作から読み始めても全く問題なし。警察ミステリーの傑作としてオススメする。 |
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アイスランドのベストセラー「エーレンデュル」シリーズの第6作。首吊り自殺した女性の背景をエーレンデュルが一人で探っていく、私立探偵的ミステリーである。
湖のそばのサマーハウスで首をつっているのが見つかったマリアは、2年前に母親が病死してから精神的に不安定だったとの証言があり、自殺として処理された。しかし、自殺説に疑問を持つマリアの友人が警察を訪れ、マリアが霊媒師と会話しているテープを提出し、捜査するように依頼した。霊媒師など信じないエーレンデュルだったが、内容に驚き、強い違和感を抱き、違和感の正体を解明すべく、組織としてではなく個人として背景を探ろうとする。警察の捜査ではなく、あくまで個人的な調査としてマリアの関係者を訪ね歩き、様々な証言を積み重ねるうちに、マリアの父親の事故死、家族の関係に深い闇が隠されていることに気付いていく。そしてたどり着いたのは、エーレンデュルが裁ききれない人間性の悲しみだった…。 典型的な北欧警察ミステリーとして続いてきた「エーレンデュル」シリーズだが、本作は警察捜査ではなくエーレンデュルの個人の調査が主体で、それに伴いエーレンデュルの家族関係、人間観などが重要な要素になっている。もちろん、犯人捜しの面白さも十分に楽しめることは間違いない。 シリーズのファン、北欧ミステリーのファンにオススメする。 |
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ボストン市警D.D.ウォレン刑事シリーズの第11作。ウォレン刑事、生還者フローラに加えて被害者の妻・イーヴィの3人がヒロインとなる複雑な犯人捜しミステリーである。
銃声を聞いたとの通報で警察が駆け付けると、部屋では男が銃殺されており、銃を手にした被害者・コンラッドの妻・イーヴィがいて、その場で逮捕された。容疑を否認するイーヴィだったが、イーヴィには16年前に銃の暴発事故で父親を射殺してしまったという過去があり、取り調べに当たったウォレンは二度も同じことが起きるものかと疑問を持った。しかも、現場にあったパソコンが12発もの銃弾で破壊されており、何かが隠されようとしたようだった。さらに、悲惨な監禁事件の生還者(「棺の女」)で被害女性のためのサバイバルサークルを運営し、ウォレン刑事の情報提供者でもあるフローラが「被害者の男の顔を知っている。(フローラを監禁した)ジェイコブの知り合いだ」と知らせてきた。良き夫で多忙なセールスマンだと思われていたコンラッドは正体を隠した、おぞましい性犯罪者だったのか? コンラッド殺害の犯人、動機、さらにコンラッドとジェイコブの関係は? それに加えて、16年前のイーヴィの事故は本当に事故だったのだろうか? いくつもの重なり合う疑問がウォレン、フローラ、イーヴィの3人の視点から解き明かされていく。 コンラッド殺害事件の犯人捜しがメインだが、それ以外の要素からも目が離せない、複雑な謎解きミステリーである。さらに犯人像、犯行動機なども読み応えがある。それでも、ミステリーとしてはスリル、サスペンスが不足していると感じるのは、被害女性たちの再生という重いテーマが強く出ていて話の展開が重苦しいためだろう。 「棺の女」、「完璧な家族」とつながっている作品なので、前2作を先に読むことをおススメするが、本作だけでも楽しめるのは間違いない。 |
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カルーセル麻紀さんを題材にした長編小説。美しく生まれついた少年が自分を貫きとおし、自分自身になっていく成長物語である。
持って生まれた気質、背景となる家族や地域社会、時代の流れが絡み合い、押しつぶされ叩き落されながらも自分の道を切り開いていったパイオニアの純粋さと強さが印象的。世の中全体がふわふわと付和雷同するばかりの今こそ読まれるべき作品である。 |
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「償いの雪が降る」に続くジョー・タルバート・シリーズの第2作。顔も知らない父親かもしれない男の死の真相を探るために、素人探偵となるジョーの不器用で誠実な生き方を描いた、情感豊かな青春小説であり、謎解きミステリーである。
前作から5年後、大学を卒業し恋人のライラ、弟のジェレミーと三人で暮らしながらAP通信社の記者として働いていたジョーはある日、上司から「近くの田舎町で、ジョー・タルバートという男性が不審死したという」プレスリリースを見せられた。確かに、ジョーが生まれるとすぐ自分と母親を捨てて出て行った男の名前はジョー・タルバートだった。もし自分の父親だったら? ジョーは真相を探るために田舎町に向かい聞き込みを始めたのだが、聞かされるのジョー・タルバートが「殺されて当然のくず野郎」だったという話ばかりで、ジョーの父親捜しは、ジョーを苦しめるばかりだった。それでも「真っ当な人でいる」ことにこだわるジョーは決してあきらめず、事件の真相を明らかにするのだった。 基本的にはフーダニット、ワイダニットのミステリーだが、父親(そして母親も)と対峙することで成長する青年の物語でもある。さらに、恋人のライラ、自閉症の弟のジェレミーと家族を築いていく家族小説でもある。 ジョー・タルバートのファンには必読。読後感がよい爽やかなミステリーを読みたい方にもおススメしたい。 |
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ドイツの大人気警察ミステリー「刑事オリヴァー&ピア」シリーズの第9作。史上まれな連続殺人事件の難題に挑むピアとオリヴァーたちの粘り強い捜査と複雑な背景が魅力的な超大作警察ミステリーである。
かつて修道院だった豪邸で、死後数日が経過したと思われる老人の腐敗死体が発見された。死んでいたのは一人暮らしをしていた舘の主人・テオで、単純な孤独死かと思われたが、敷地内でラップフィルムにくるまれ、死蝋化した死体が3体、発見されたことで事態は一変する。テオはかつて夫婦で孤児院から大勢の子供たちを引き取り、里子として育ててきた篤志家だという。テオは心優しい善意の人か、善人の仮面をかぶった連続殺人鬼なのか。捜査を進めたオリヴァーとピアのチームは過去数十年にさかのぼる複雑怪奇な背景に惑わされ、つまづかされながらも、徐々に犯人に迫っていったのだが、捜査は思いもかけない形でピアの愛する人を脅かす事態につながっていった…。 連続殺人と判明するまでのプロセスから最後の犯人逮捕まで、意表を突く展開の連続で手に汗握るサスペンスが維持され、700ページの長編だが少しも退屈させない。これこそ犯人と思いたくなる人物が次々に登場し、読者が最後まで悩まされるのも魅力的だ。また、意外な形でピアとピアの家族の隠され秘密が事件とかかわっていることが明らかになるのもインパクトがある。 オリヴァーの復帰とピアの新展開という、シリーズのターニングポイント的な作品であり、シリーズ愛読者は必読。もちろん、単独作品としても一級品の警察ミステリーであり、どなたにもおススメしたい。 |
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ハリー・ボッシュ・シリーズの第11作。3年ぶりに私立探偵からロス市警に戻ったハリーが17年前の未解決事件に取り組み、様々な困難に見舞われながらもきちんと真相を解明する正統派警察ミステリーである。
ロス市警に復帰し、未解決事件班に配属されたボッシュに与えられたのは、17年前の少女殺害事件だった。技術の進化により新たなDNAが見つかったという。これを手掛かりに捜査を進めようとしたボッシュと相棒のライダー刑事のコンビは、最初の捜査がずさんで、しかも途中から捜査の方向性が変わってしまっていたことに気が付いた。警察上層部の意向によって事件の背景が解明されないままになってしまったのではないか、疑問を持ったボッシュはマスコミを使った、おとり捜査に近い手段を強行したのだが、望んでいた結果を得ることができなかった。プレッシャーに押しつぶされそうになったボッシュは、徹底的に捜査資料を再検討することで解決への道筋を見つけようとする…。 ボッシュにはやはり私立探偵より刑事が似合う。地道な聞き込み、証拠の再検討、人間関係への深い洞察など、派手ではないが綿密な捜査がリアルな緊迫感を生み出し、最後までサスペンスを高めていく。 ボッシュ・シリーズ第三幕の開幕を告げる傑作であり、シリーズ・ファンは必読。シリーズ未読であっても十分に楽しめるので、警察ミステリーファンならどなたにもおススメしたい。 |
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夫婦の関係を淡々と綴る、桜木紫乃としては異色の連作短編集。これまでの桜木作品にはなかった、平穏で淡白な物語である。
こういう生き方、幸せの見つけ方も確かにあるよなぁ~と思わせる心優しい作品で、いつもの桜木ワールドを期待すると肩透かしを食らう。 読んで損はないというか、家族物語が好きな方なら十分に楽しめるだろう。 |
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ノルウェーの大ヒットミステリー「警部ヴィスティング」シリーズの第14作、邦訳では4冊目。解説によると「未解決事件4部作」の「カタリーナ・コード」、「鍵穴」に続く第3作である。
二人の女性を虐殺して服役中の男トム・ケルが、人道的だと言われる刑務所への移送を条件に第三の殺人を告白し、死体を埋めた場所に案内するという。警備の警察官、弁護士らが立ち会い現場に到着したケルは手足を拘束されていたのだが、足場の悪い森の中で何度も転倒したため足かせだけは外された。すると一瞬のスキをついて逃げ出し、追いかけた警察はブービートラップによる爆発で負傷者を出しただけでなく、まんまと逃げられてしまった。ケルの犯行には正体不明の共犯者「アザー・ワン」がいるとされていて、今回の事態もアザー・ワンの関与が疑われた。大失態を犯した警察はヴィスティングを中心に必死でケルを追いかけるのだが、まんまと裏をかかれ足跡をつかむこともできなかった。ヴィスティングたちはわずかな可能性を求めてアザー・ワンの割り出しに注力する…。 冒頭の派手な爆発から始まり最後の流血戦まで、北欧警察ミステリーの枠を外れてはいないが、これまでのシリーズとは異なるアクションたっぷりの物語である。アザー・ワンの正体が判明しそうになるとどんでん返しがあり、なかなかスリリングな展開で飽きさせない。ただ、その分だけ事件の背景やキャラクターに深みがない。 読みやすさはシリーズの中では一番で、シリーズ未読の方、北欧警察ミステリーに慣れていない方にもおススメできる。 これは作品の出来とは無関係だが、読みながら頭に浮かぶヴィスティングのイメージと表紙のイラストとの違和感がさらに強まったのが残念。何とかならないものか(苦笑) |
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いくつかの賞を得ている中堅作家の2021年の書き下ろし長編。還暦間近の元刑事が子供時代の因縁を引きずって仲間の死の真相を探る、謎解きミステリーである。
元警視庁捜査一課の刑事で、現在は派遣風俗のドライバーで身過ぎしている河辺のもとに、見知らぬ男から「あんた、五味佐登志って知ってるか」という電話があり、佐登志が死に、河辺宛の伝言があると告げられた。「栄光の五人組」と呼ばれて高校卒業まで一緒に育ってきた仲間の訃報に、仕事を放棄して松本市まで駆けつけた河辺が見たのは、衰弱しきって死んでいる佐登志と、彼の面倒を見ていたという地元のチンピラ・茂田だった。茂田の話では、佐登志はM資金の金塊を隠した場所の暗号を含んだ詩文を残しているという。金塊を手にしたい茂田と佐登志の死の真相を知りたい河辺は互いに反発し合い、対立しながらも一緒に真相を探り始めたのだが、そこには40年前、10年前からの「栄光の五人組」につながる深い闇が隠されていた…。 70年代の左翼過激派の活動、朝鮮人差別、警察・検察の内部事情などの社会的要素を背景に、素人と半グレが主役となる謎解きが本筋で、斜に構えたヒーローの軽口、鋭い推理がハードボイルド風味を醸し出している。ただ、暴力があまり得意でないという日本のハードボイルドの主役の枠を超えていないので、読みごたえは半熟である。謎解き(暗号の解明)部分も独り善がりでピンとこない。 良くも悪くも日本のハードボイルドであり、それなりに楽しめることは間違いない。 |
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ワイオミング州猟区管理官ジョー・ピケット・シリーズの第11作。今回は、殺人の疑いをかけられた義母・ミッシーを救うためにジョーが探偵役を果たす犯人捜しミステリーである。
あまりにも上昇志向が強く自分勝手で、ジョーにとっては天敵ともいえる義母・ミッシーの5人目の夫である大富豪・アールが射殺され、自分が経営する風力発電施設の発電タービンに吊るされているのを発見したジョーはすぐに保安官事務所に通報した。ところが、ジョーの宿敵であるマクラナハン保安官はすでに事件の概要を把握しているようだった。さらに、ミッシーが殺人容疑で逮捕されたという。なぜ保安官は事件を予測していたのか、ミッシーを逮捕する根拠は何か? 疑問だらけの事件を解明するために、ジョーは一人で真相を探り始めた。一方、ジョーの盟友・ネイトはかつて因縁があったシカゴギャングの女に狙われ、隠れ家をロケットランチャーで襲撃されて恋人のアリーシャを殺害された。ジョーは最愛の妻の母であり、娘たちの祖母であるミッシーの容疑を晴らすために、ネイトはアリーシャの復讐のために、すべてを投げうって走り出した…。 う~~ん、全体に西部劇的な自己中心の正義が強調された乱暴な物語になっている。ジョーの正義が信じられればこの展開でいいのだろうが、あまりにも独善的で「正義の暴走」が鼻につき、シリーズの基調である社会的正義が薄められた感がある。 シリーズのファンには安心してオススメする。冒険サスペンスのファンも楽しめるだろう。 |
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発売前から映画化権が売れ、2021年の年間ベストミステリーの一冊に選ばれるなど話題となったアメリカ人女性作家のデビュー作。著者が「太陽がいっぱい」を再読して執筆したと言っている通り、殺人が起きても陰惨ではなく、舞台となったモロッコの風土をほうふつさせる、明るくてひねりが効いた心理ミステリーである。
作家になる野望を抱いて都会に出てきたフローレンスだったが、編集アシスタントとして働く出版社の同僚をはじめとする周囲に圧倒され、一行も書けなくなっていた。厳しい現実に意気消沈し、生活が壊れかけていたフローレンスだったが、著名な匿名作家モード・ディクソンのアシスタントの仕事が舞い込んできた。願ってもないチャンスと喜んだフローレンスは住み込みで働き始め、次第にモードの生き方に影響されていった。そして、モードの取材旅行に同行したモロッコである事件が発生し、モードになりたいというフローレンスの欲望が爆発することになった…。 成功のためにすべてをかける野心的な若者がルールを踏み外し、崖を飛び越えて…という、よくあるパターンの物語で、途中から結末が見えてくるのだが、最後に一ひねりして今風の心理ミステリーに仕上がっている。「驚愕必至のサスペンス」という謳い文句はオーバーだが、最後まで面白く読める作品である。 軽めの心理ミステリーのファンにオススメする。 |
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胸アツ法廷ミステリー「トム・マクマートリー」シリーズの第4作にして完結編。シリーズの最後を飾るにふさわしい激情的なロマンチック・サスペンスである。
トムの宿敵である凶悪な殺人鬼ボーン・ウィーラーが仲間である殺し屋マニーの手引きで脱獄した。自分を監獄に送り込んだトムへの復讐の念に燃えるボーンは、トムが苦しむ姿を見たいがために、トムが愛する者たちを次々と襲い、トムを追い詰めてゆく。末期がんでいよいよ死期が迫っているトムだったが、愛する人々を守るために、命を削ってボーンに立ち向かうのだった…。 決してあきらめない男の最後なら、これしかないだろうという胸アツの物語で、第一作の時点ですでにがんに侵されていたトムが最後の気力を振り絞って戦う姿がこれでもかというぐらいに熱く、雄々しく、気高く描かれている。その分、ミステリー的な深さはなく、単調な勧善懲悪ものなのが惜しい。 シリーズのファンは必読。法廷ミステリー、現代的なヒーロー物語のファンにもオススメしたい。 本シリーズはこれで完結だが、トムの熱血を受け継ぐ弁護士ボーが主役の新シリーズが始まっているという。期待したい。 |
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テレビの報道キャスターでもある著者のデビュー作。報道記者としての経験を生かした、社会派ミステリーである。
テレビの報道記者として成功してきた榊美貴だったが、部下のミスの責任をかぶり深夜ドキュメンタリー制作という地味な部署に異動させられた。そこで出会ったのが、小学生の校舎からの転落死で、警察は事故として処理したのだが、死亡した清水大河の母親・結子の異様な言動にピンときた美貴が取材を始めると大河の祖父、裕子の父である今井武虎が少女と母親の誘拐殺人で死刑にされていたことが分かった。さらに、今井武虎は最後まで無実を主張し、しかも有罪の決め手となったDNA鑑定、目撃証言があやふやだったことも判明した。冤罪事件ではないかとして番組制作を企画した美貴だったが、それは警察と対決することであり、また事件の周辺人物と軋轢を生むことにもなった。事件の背景を探るにつれ「真実を明らかにすることが正義なのか」と悩みながら、美貴は自分の信じるところを貫き通すのだった。 犯人捜しというより事件の背景、波紋を描いた社会派作品で、シングルマザーである美貴をはじめ主要な登場人物が皆、それぞれのマイナスを抱えているところが作品に深みを与えている。ミステリーとしてのアイデア、構成、展開などは新人離れした上手さで、読み応えがあるエンターテイメント作品に仕上がっている。ただ、文章表現にやや過剰な装飾が感じられるのが玉に瑕。もう少しだけ削り込めば、さらに緊迫感がある作品になっただろう。 次作も期待できる作家の登場として、社会派ミステリーのファンにオススメしたい。 |
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ボストン市警の敏腕女性刑事「D.D.ウォレン」シリーズの第10作。第9作「棺の女」に登場したフローラとのダブル・ヒロインが複雑な一家殺人事件の謎を解く社会派ミステリーである。
仲睦まじい家族の4人が銃撃され殺害されているのが発見されたのだが、16歳の長女・ロクシーだけは2匹の犬の散歩に出ていたため被害を免れたようだった。ところが不思議なことにロクシーは帰宅せず、携帯電話にも反応がなく、姿を消してしまった。果たしてロクシーが殺害犯なのか、あるいは犯行の理由や犯人を知っていて必死で逃げているだけなのか? ウォレン部長刑事をリーダーにボストン市警は全力を挙げてロクシーの行方を追う。さらに、「棺の女」で監禁から生還したフローラは密かに、女性のためのサバイバル自助サークルを結成しており、ニュースを目にすると居ても立っても居られなくなり、ロクシーを助けようとする。ロクシーが犯人である可能性を捨てきれないウォレンたち警察と、あくまでも被害者として助けたいフローラたちは、対立しながらも同じ目的のために手を握り、事件の複雑な背景を読み解いていく。 アルコール依存症でネグレクトの母親による家族崩壊、里親制度の矛盾や貧困ビジネス、子供たちの孤独や受難、さらには家族とは何かという根源的な問いかけなど、いずれも大きくて重いテーマが盛りだくさんでかなりヘビーな作品である。そのため、犯人や犯行動機など物語の根本のアイデアは面白のだが、登場人物のキャラクター、犯行や捜査のプロセスなどが緻密ではなく、エンタメ作品としてまとまり切れていないのが残念。 「棺の女」が気に入った人は必読。本作がシリーズ初の方には「棺の女」だけは読んでおくことをオススメする。 |
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2020年から21年にかけて雑誌連載された連作短編集。戦後日本映画へのオマージュであり、人生賛歌でもある。
大手企業に就職したもののドロップアウトし、再度大学院生となった若者が、今は引退した往年の大女優の資料庫の整理を頼まれ一緒に過ごすうちに経験した「人生への気づき」を詩情豊かに描いている。 読み進めるうちにすべてのことを受容したくなる、爽やかな読後感が素晴らしい。吉田修一ファンはもちろん、初めてという方にもおススメしたい。 |
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国際的ベストセラー?「ヨーナ・リンナ警部」シリーズの第7作。タイトルから分かる通り、生きていた怪物ユレックとヨーナの最終決戦である。
「砂男」の最後でサーガ警部に撃たれて川に流されたはずのシリアルキラー・ユレックが蘇り、再びヨーナとサーガの破滅を画策する。その悪魔の手はヨーナとサーガが愛する人々にありとあらゆる手段で迫ってくる。驚異的な頭脳と体力を持つ怪物に追い詰められたヨーナとサーガは、命を賭けた戦いに打って出た…。 レクター博士を筆頭に、悪の権化のような犯人が登場する作品は犯人の怪物性が際立つほど面白いと言えるが、それも限度があり、本作ほどスーパーなキャラクターだと正直白けてしまう。論理的、緻密にサスペンスを楽しもうとすると粗が目立ち過ぎる。また、必要以上に残虐なシーンが多いのにも興ざめする。それでもエンターテイメント作品として成立しているのは展開のスピードと犯行手段に巧みなアイデアがあるから。 第4作「砂男」と深く連動する作品なので、絶対に「砂男」を読んでから手に取ることをオススメしたい。 |
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母国スウェーデンをはじめ国際的にベストセラーなのに、なぜか日本では翻訳が途絶えていた「ヨーナ・リンナ警部」シリーズの第4作。人間の悪意の塊のようなシリアルキラーと警察の攻防をスリリングに描いたサスペンス・ミステリーである。
吹雪の夜、13年前に行方不明になり死亡宣告されていた少年・ミカエルがフラフラの状態で発見された。彼が「砂男に誘拐された、妹のフェリシアがまだ監禁されている」と語っていると知った国家警察のヨーナ警部は強い衝撃を受けた。当時ミカエルとフェリシアの事件を捜査し、犯人としてユレックを逮捕し、閉鎖病棟に収容したのに、なぜミカエルたちは監禁され続けていたのか? 凶悪なシリアルキラーであるユレックを崇拝する模倣犯か、ユレックが病棟から誰かに指示を出しているのか? 一刻を争う状態で命の危険にさらされているフェリシアを救出するために警察は、ユレックの元に公安警察のサーガ警部を送り込む、極秘の潜入作戦を開始した。悪意の塊で極めて高度な頭脳を持つユレックに、たった一人で挑むサーガ警部の無謀な挑戦は成功するのだろうか? 13年にもわたって監禁され、命の危機が切迫している被害者を救出するための精神病院の閉鎖病棟への潜入捜査という仕掛けが度肝を抜く。さらにユレックの超人的な人心操作力、執念、その背景となった犯行動機など、どれをとってもかなり型破りで、北欧ミステリーというよりアメリカのサイコ・サスペンスに近い作品と言える。したがって、事件の背景となる社会問題、人間ドラマを味わうというより、奇抜なアイデアとぎりぎりのサスペンスを味わうエンターテイメント作品として読むことをオススメする。 |
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傑作「流」はこの小説に結実した!、というセールストークに見事に騙された。
これは家族の物語であり、作家の自己確認の物語である。読者にとって面白いかと言えば、何とも言えない。 ストーリーはそれなりに面白いのだが、読むことで何かが得られたという感覚はなかった。 |
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