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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数1360

全1360件 341~360 18/68ページ

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No.1020: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

広げすぎた大風呂敷を畳み損ねたかな?

スウェーデンでベストセラーになったという、54歳の遅咲き作家のデビュー作。すさまじい拷問を受けた男の発見をきっかけに判明した、猟奇的な連続殺人事件をテーマにしてサイコ・サスペンスである。
ストックホルム郊外で全裸で磔にされた上に局部を切り取られるという拷問を受けた男が発見され、その場は生き延びたものの病院で死亡した。国家犯罪捜査部のカール警部たちが捜査を始めたのだが、次々に同じような拷問を受けた死体が見つかり、連続殺人の様相を呈してきた。被害者は過去に凶悪犯罪を犯した男たちという共通点があり、犯罪組織絡みか、過去の被害者家族の報復かと疑われた。事件を知った新聞記者・アレクサンドラは独自の情報源を基に事件の背景を抉り出そうとセンセーショナルな報道を続ける。そして明らかになった事件の真相は悲惨で衝撃的なものだった…。
基本構成は犯人捜しの警察ミステリーなのだが、読みどころは事件の様相と犯行動機の方にあり、その意味ではサイコ・サスペンスである。最初にすさまじい拷問シーンで引き付け、中盤は犯人の独白で考えこませ、最後に思いもよらぬどんでん返しで驚かせるという巧みな技が光る。さらに、主要な登場人物が抱える個人的な人間ドラマも多彩で面白い。ただいかんせんオチが苦しい。大風呂敷を広げすぎて畳み切れなかったようなもどかしさを感じざるを得なかった。
北欧ミステリーのファン、「その女 アレックス」などのサイコ・サスペンスのファンにオススメする。
犠牲者の犠牲者 (ハーパーBOOKS)
No.1019:
(7pt)

読み終えても爽快感は皆無、ひたすらおぞましい

スペインでベストセラーを記録した匿名女性作家のデビュー作。猟奇殺人事件の驚天動地の真相を描いた警察サスペンス・ミステリーである。
マドリードの公園で頭に穴をあけ、蛆虫を埋め込むことで若い女性を殺害するという猟奇的な事件が発生した。被害者は結婚を目前にした花嫁であるばかりでなく、姉も7年前に同じ手口で殺害されていたのだった。しかも、姉の事件の犯人は現在服役中だという。ということは、服役中の犯人は冤罪で他に真犯人がいるのか、それとも模倣犯なのか? この難事件を担当するのはスペイン警察捜査本部長直属の精鋭「特殊分析班」で、リーダーのエレナ・ブランコ警部をはじめとする個性的なメンバーが各々の特技を駆使し、二つの事件をつなぐ深い闇を暴いていく…。
まず第一に事件の様相が、これまでのサイコ・サスペンス作品と比べても際立って印象的なほどおぞましく、強烈なインパクトを残す。さらに、事件の真相が明らかになったとき、そこからさらに深い谷に突き落とされるような怖さが襲ってくる。読み終えても爽快な読後感は皆無だが次作を待ち望んでしまう、第一級のサイコ・サスペンスである。また、ブランコ警部をはじめとするメンバーのキャラクター、警察組織内部の軋轢、スペイン社会におけるロマ(いわゆるジプシー)族の立ち位置などのサブストーリーも魅力的。スペインでは大ヒットし、すでに3作目まで刊行されているというのも納得できる。
サイコ・サスペンス、警察ミステリーのファンにオススメする。
花嫁殺し (ハーパーBOOKS)
カルメン・モラ花嫁殺し についてのレビュー
No.1018: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

破壊力抜群の赤毛のアマゾネス!

アメリカの女性作家の初ミステリー長編で2018年のMWA最優秀長編賞ノミネート作品。ダラス市警麻薬捜査課の女性刑事が体を張って難事件に取り組んでいく、警察ハードボイルドである。
NY市警からダラス市警に転職したベティはテキサスでは数少ない女性刑事として、保守的な社会や男性警官と衝突を繰り返しながらも実績を上げてきた。ある日、チームリーダーとして臨んだ捜査が思わぬハプニングで失敗し、逮捕をもくろんでいた麻薬カルテルの大物ディーラーが逃亡、さらに殺害されるという事態に陥った。カルテルの口封じなのか、縄張り争いなのか、執念の捜査を続けるベティのもとにディーラーの頭部が届けられという脅迫を受けた…。
180㎝を超える長身、男性警官をしのぐ身体能力、男性社会の圧力にへこたれないタフな精神の持ち主であるヒロインは、さらに女性医師と同棲するレズビアンであり、燃えるような赤毛という目立ちすぎる存在でもある。それだけに周囲のすべてと戦うことになり、並のハードボイルド・ヒーローには思いもつかないハードなストーリーが展開される。その破壊力はランボーかアマゾネスかと思うほど。
アクション・サスペンスがメインのハードボイルドのファンにオススメする。
ダラスの赤い髪 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
キャスリーン・ケントダラスの赤い髪 についてのレビュー
No.1017: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

さらに重く、閉塞感漂う三部作の完結編

「闇という名の娘」、「喪われた少女」に続くアイスランドの女性刑事・フルダシリーズ三部作の完結編。猛吹雪に襲われたクリスマス直前の時期にアイランド高原地帯の孤立した農場で起きた悲劇の事件を巡る、謎解きミステリーである。
1987年のクリスマスを目前にした猛吹雪の日に、集落から遠く離れた農場で暮らすエイーナルとエルラ夫婦の家に一人の男が現れた。こんな天候の日に人が訪れることなどありえないと思ったのだが、狩猟中に迷ったという男の言い分を信じて招き入れ、泊まらせることにした。すると、男の話はあいまいで、夜中に家の中を探っているようだった。不安を感じた夫妻は男を問い詰めようとして、逆に殺されてしまう。同じころ、フルダは若い女性の失踪事件を追っていたのだが成果を上げられず、しかも反抗的な娘・ディンマのために家庭内でも深刻な悩みを抱えていた。ここまでが、第一部。第二部は、その二か月後、エイーナルとエルラの死体が発見され、捜査のためにフルダが派遣される。そこでフルダが見つけた事件の真相は…。
第一部で思い込まされていた事件の構図が第二部で大逆転されるのが、本作の成功の要因。ワイダニットのだいご味が味わえる。本シリーズは第一作から三作へ年代をさかのぼっていくという特異な構成の三部作であり、読む前から本作で悲劇が起こることは分かっているのだが、それでもサスペンスを感じながら読み進められる。
逆年代記のシリーズなので、第三作の本書から読み始めても問題ないが、やはり第一作から読む方が断然面白い。北欧ミステリーのファンなら絶対に大満足できるだろう。

閉じ込められた女 (小学館文庫 ヨ 1-6)
ラグナル・ヨナソン閉じ込められた女 についてのレビュー
No.1016: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

目利き自慢ほど騙されやすい、せこくて痛快なコンゲーム(非ミステリー)

2011年から12年にかけて「オール読物」掲載6作品の短編集。黒川ファンにはおなじみの書画・骨董の世界を舞台にした狐とタヌキの化かし合い話である。
常識人なら絶対に近づかないであろう「だまされた方が悪い」という世界での真剣勝負の知恵比べ。魑魅魍魎同士の金とプライドを賭けた駆け引きが面白い。騙したはずが騙されていた欲望まみれの人間の愚かしさと可笑しさが極上の大阪弁と相まって、痛快なエンターテイメント作品に仕上がっている。
疫病神、大阪府警の2大シリーズとは異なる、気楽な読み物として、今後も新作を期待したいシリーズである。
離れ折紙
黒川博行離れ折紙 についてのレビュー
No.1015:
(7pt)

安全な暮らしを保証するのは銃、という社会

ジョー・ピケット・シリーズで知られるボックスのノンシリーズ作品。コロラド州デンヴァーに暮らす平凡な男が妻と養女を守るために、西部劇の主人公のように奮闘するハードボイルド・アクションである。
デンヴァー市の観光協会に勤めるジャックは愛する妻・メリッサと8か月になる養女と幸せな日々を送っていた。しかし、養女の実父である18歳の少年・ギャレットが突然親権を主張し、養女を引き渡せと言ってきた。しかも、ギャレットの父親は地域の有力者で法曹界に影響力がある連邦判事で、三週間以内に引き渡さないと法的な実力手段を実行すると言う。法的には勝ち目がなく、何とか穏便に親権を放棄してもらいたいと願うジャックとメリッサだったが、生まれつきのワルであるギャレットは仲間を引き連れて二人に様々な嫌がらせを仕掛けてきた。ジャックとメリッサに味方する友人たちが助けてくれていたのだがギャレットの嫌がらせは止まず、ついには友人の命まで奪うに至り、ジャックは法に従うことを拒否し、銃で家族を守ろうとする…。
法と秩序より銃と情理を優先する典型的なアメリカン・ヒーロー物語である。そのために、悪はあくまでも残酷で卑劣に描かれている。自分が信じる正義のためには殺人も辞さない、まさに西部劇、日本の仁侠映画の世界である。
基本的なテイストはジョー・ピケットものと同じで、シリーズ・ファンなら安心して楽しめることを保証する。
さよならまでの三週間 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ホ 12-2)
C・J・ボックスさよならまでの三週間 についてのレビュー
No.1014:
(7pt)

ギャンブラーなら読んで損はない(非ミステリー)

1993年~97年に雑誌掲載された7作品を収めた短編集。同じタイトルで3冊あるようだが、今回読んだのはポプラ文庫版(2016年)。
扱われているのは麻雀から手ホンビキ、ブラックジャック、バカラなど様々だが、いずれもギャンブラー心理をつかんだストーリー、心理描写で面白い。特に麻雀の読み、カジノでの必勝法などは実践的かもしれないが、ギャンブルをしない読者でも軽い読み物として十分に楽しめる。
ぎゃんぶる考現学―麻雀放蕩記 (徳間文庫)
黒川博行麻雀放蕩記 についてのレビュー
No.1013:
(7pt)

これはもう悪役の魅力でもってるとしか言いようがない。

フランスの人気警察小説「マルタン・セルヴァズ警部」シリーズの第4作。セルヴァズの宿敵・ハルトマンが帰ってきて、命を賭けた戦いを繰り広げるサスペンス・ミステリーである。
ノルウェーの教会で発見された女性惨殺死体にオスロ警察の女性刑事シュステンの名前が記されたメモが残されていたため、シュステンは被害者が働いていた北海に浮かぶ石油プラットフォームに飛んだ。そこでシュステンは悪名高き殺人鬼・ハルトマンのDNAを発見し、さらに部屋に残されていた大量の隠し撮り写真を見つけた。被写体がフランスの警部・セルヴァズであることを知ったシュステンはフランスに赴き、セルヴァズとの合同捜査を申し込む。最初は反発を覚えたセルヴァズだったがシュステンの熱意に応え、捜査に力を入れ始めたのだが、丁度そのころ、セルヴァズが過剰な暴力をふるったという訴えがあり、自由に動き回ることが難しくなり始めた。それでも二人は力を合わせハルトマンを追い詰めるのだが、ハルトマンが張り巡らせた奸計が二人の前に立ちはだかった…。
文庫本で700ページ近い長編で前半部分は展開が遅く、中だるみもあり、物語の骨格となる部分にルール違反的な仕掛けがある(最後の方で判明する)のも白ける。それでも最後まで読み続けられたのは、何と言っても悪役・ハルトマンの存在感が際立っていること。レクター博士には及ばないもののなかなかのキャラクターである。シリーズ第1作~第3作は未読なのだが、十分に楽しめた。
フレンチ・ミステリー、北欧ミステリー、サイコ・サスペンスのファンにオススメする。
夜 (ハーパーBOOKS)
ベルナール・ミニエ についてのレビュー

No.1012:

風葬 (文春文庫)

風葬

桜木紫乃

No.1012: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

桜木ワールドの萌芽が見られる初期作品

2008年に刊行された単独作品。認知症の母が漏らした地名から自らの出生の秘密を探ろうとした女性書家の行動が国境の港町の暗部につながっていく、ヒューマン・ノワール・ミステリーである。
釧路で書道教室を営む夏紀は、新聞の短歌欄に出てきた「涙香岬」の名前に驚き、作者である根室在住の元教師・沢井徳一を訪ねることにした。というのも、初期認知症を患う母・春江が「ルイカミサキに行かなくちゃ」とつぶやくのを耳にしていたからだった。母一人子一人で父親を知らない夏紀は、自分の出生にかかわる何事かが涙香岬にあるのではないかと疑問を持ったからだった。現地では何もわからないまま帰った夏紀だったが、案内した沢井徳一は夏紀を一目見て激しい衝撃を受けていた。夏紀は、徳一が若い時に救えなかった教え子の少女に瓜二つだったのだ。この運命的な出会いは、ソ連との国境で密猟を巡る暗闘が繰り広げらていた時代の根室の街に隠されていた秘密を暴き出すことになった…。
夏紀の出生の秘密、徳一の教え子に対する後悔、さらに徳一の息子・優作の現在直面している悩みという、三つのエピソードが少しずつ重なり合い、悲しい物語が紡がれていく。欲を言えば事件の動機、犯人像にもう少し深みが欲しいが、まさに桜木ワールドの原型が見れれるヒューマンドラマであり、文庫200ページ余りの中編だがずしりと重い読みごたえがある。
桜木紫乃ファンなら必読。ヒューマンドラマ要素が強いノワールのファンにもオススメしたい。
風葬 (文春文庫)
桜木紫乃風葬 についてのレビュー
No.1011: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ボッシュが「レイトショー」のバラードと初タッグ

ボッシュ・シリーズとしては第21作、深夜担当刑事・バラードものとしては第2作、二人がタッグを組むのは初めての作品。15歳の家出少女が殺害された未解決事件を、ボッシュ、バラードが協力して解決する警察サスペンス・ミステリーである。
バラードが深夜の出動からハリウッド署に戻ってみると、誰もいないはずのオフィスで古い事件ファイルを漁っている男がいた。ボッシュと名乗った男を追い出したバラードだったが、彼が見ていたファイルに興味を引かれボッシュとともに再捜査することになった。事件は、ボッシュの管轄外であるハリウッドで起きたものだったが、被害者の母親とボッシュにはある因縁があったのだ。またバラードは女性が被害者になった暴力事件を許すことができず、本来の職務以外の「趣味の捜査」として上司を説得し、日常業務外に寝る間も惜しんで捜査に取り組んだ。一方ボッシュも本来の仕事である地元のギャング絡みの事件を抱えており、その身辺には危険が迫っていた。二人それぞれの事情を抱えながらの捜査は困難を極めたが、粘り強く真相に近づいて行った…。
ボッシュ、バラードそれぞれの職務と共同で取り組む未解決事件とが入り混じり、やや散漫な印象があるもののオーソドックスな警察捜査ミステリーとして十分に楽しめる。ただ事件の派手さの割に犯人像が小粒なのが残念。
ボッシュ・シリーズ、バラード・シリーズのファンにオススメする。
素晴らしき世界(上) (講談社文庫)
マイクル・コナリー素晴らしき世界 についてのレビュー
No.1010: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

古色蒼然の古典的名作だが読みやすい

江戸川乱歩が高く評価したことで有名なイギリス本格派の古典的ミステリー。スコットランドの片田舎の古城に暮らす没落地主の墜死事件の真相を解く、トリッキーな謎解きミステリーである。
けた外れのケチとして地元民から疎まれていた没落地主ラナルドが、嵐(大雪と強風)の夜に自分の古城の塔から墜落死した。自殺か他殺か不明で、しかも一緒に暮らしていた姪のクリスティーンは事件の直前に恋人と駆け落ちしていた。謎に包まれた事件は、地元の関係者、雪を避けて偶然、白に身を寄せていた青年、地主の遺産相続にかかわる弁護士、捜査官らがそれぞれの視点から真相を語り、それらが合わさって複雑な物語が見えてくる。
舞台も時代も古色蒼然。ストーリー展開も極めてゆっくりで、前半部分は退屈と言える。しかし、事件を引き起こした背景、事件の様相が明らかになるとがぜん、ミステリー色が濃くなり、どんでん返しや伏線の回収も見事で読みごたえがある。1983年の作品だが、2021年の新訳(創元推理文庫)なのでとても読みやすい。
英国本格派謎解きミステリーのファンにオススメする。
ある詩人への挽歌 (現代教養文庫―ミステリ・ボックス)
マイケル・イネスある詩人への挽歌 についてのレビュー
No.1009:
(7pt)

泥沼に足を取られるような…(非ミステリー)

2000年前後に雑誌掲載された3作品を収めた短編集。3作とも「青春小説」というくくりに入るのかもしれないが、全編に行き場のない、やるせない、重苦しい雰囲気が横溢し、読後感はあまりよくない。それでも一応は読ませるのは、吉田修一ならではの独特な視点が効いているからか。

熱帯魚 (文春文庫)
吉田修一熱帯魚 についてのレビュー
No.1008: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

知らない方が幸せだった…

2020年の英国推理作家協会シルバーダガー賞候補になったという、日本初紹介作家の作品。アイルランド沖の島での結婚式を舞台にした、犯人捜し、被害者探しの孤島ミステリーである。
アイルランド沖の小さな孤島で女性起業家とテレビスターという、今を時めく二人の豪華な結婚式が行われた。似合いのカップルを祝福するために家族、友人が集まったのだが、それぞれの人に隠された過去や思惑があり、パーティーが進むほどにそれが表面化し、ぶつかり合うことになる。そして宴たけなわとなった嵐の夜、ついに殺人事件が発生した…。
誰が殺したのか、なぜ殺したのかはもちろん、誰が殺されたのかもなかなか明かされないのがユニーク。主要な登場人物たちの視点から語られるエピソードの積み重ねで物語が進行するのだが、ストーリーが展開するたびに想定する犯人、被害者が入れ替わっていくのが読みどころ。英国本格派謎解きミステリーの系譜を受け継ぎながら舞台や人物が現代的なところも面白い。
古典的ミステリーのファン、軽めの謎解き物のファンにオススメする。
ゲストリスト (ハヤカワ・ミステリ 1973)
ルーシー・フォーリーゲストリスト についてのレビュー
No.1007: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

それぞれに理由があって悲しい女たち

元プロのスカッシュ選手という異色の経歴を持つ新進女性作家の初邦訳作品。ロサンゼルスに暮らす6人の女性たちの、どうにもならない悲しみをドラマチックに描いたヒューマンドラマである。
LAのサウスウエストで起きた連続女性殺人事件は13人の犠牲者を出したところで新たな事件が起こらず、犯人が不明のまま捜査打ち切りとなった。それから15年後、同じ手口の事件が発生した。同一犯人が、また犯行を再開したのか? なぜ犯行が中断されていたのか? かつて事件に直接、あるいは間接的に関係していた6人の女性たちは再び事件に巻き込まれ、運命を狂わされていくことになった。
15年前に襲われながら生き残った女性、娘が犠牲者となった女性、新たな犠牲者、捜査に携わる女性刑事など、6人のそれぞれに異なる悲劇と生きづらさの告白が連続短編集のようなつながりで展開され、やがては事件の解明につながるという構成で、犯人捜し、謎解き、サスペンスというより、現在でも繰り返されている女性差別への怒りの方が印象に残る。
2021年のエドガー賞最優秀長編賞の最終候補となった作品だが、ミステリーとしてはいまいち。卑しい街で生きていかざるを得ない女性たちのドラマとして読むことをオススメする。
女たちが死んだ街で (ハヤカワ・ミステリ1972)
アイヴィ・ポコーダ女たちが死んだ街で についてのレビュー
No.1006: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

またも力強い歴史ミステリーだ

「戦場のアリス」がヒットしたクインの第二次大戦ミステリーの第2弾。ポーランドにいた冷酷な女殺人者を追うナチス・ハンター物語。主要な登場人物は「ザ・ハントレス」と呼ばれた女、彼女に弟を殺害されたジャーナリスト、戦場カメラマンを夢見る女子学生、戦時中は爆撃機に乗っていたロシア人女性の4人で、時代はロシア革命後の1920年代から50年代まで、舞台はシベリアからヨーロッパ、さらにボストンにまで広がっていく壮大な歴史ミステリーである。
戦後のウィーンでナチ・ハンターとして活動している英国人の元ジャーナリスト・イアンには、是が非でも捕まえたい女がいた。ポーランドでイアンの弟をはじめ幼い難民の子供たちを殺した「ザ・ハントレス」と呼ばれる女で、その所在を知る手がかりはまったくなかったが、ハントレスの魔手を逃れたロシア人女性ニーナにも協力を仰ぎ執拗に追い詰めようとしていた。同じころ、ボストンの女子学生・ジョーダンは父の再婚相手・アンネリーゼに不信感を抱いていた。
登場人物の背景を知ると分かる通りアンネリーゼがハントレスなのだが、それが判明するまでのプロセスが緻密で、クライマックスへのストーリー展開も緊迫感がある。しかし、何といっても魅力的なのがロシア人女性・ニーナである。バイカル湖畔で飲んだくれの暴力おやじのもとでサバイバル技術を身に着け、ロシア空軍の爆撃部隊に所属し、ポーランド戦線で脱出し独力で生き延びたという野生児で、粗野な言動と強烈なキャラクターは一読、忘れ難い。ニーナの造形に成功しただけで、本作は傑作と呼べる。
前作同様に第二次大戦にテーマを取った歴史ミステリーだが、前作以上の傑作で、現代史ミステリーのファンには自信をもってオススメする。
亡国のハントレス (ハーパーBOOKS)
ケイト・クイン亡国のハントレス についてのレビュー
No.1005:
(7pt)

ミステリーというよりロマンス作品

映画化されて話題になった「眺めのいい部屋売ります」の作家によるミステリー風味のロマンス小説。
少女が幼い弟を焼殺したという衝撃的な事件の陪審員となった50代の女性カメラマンが同じ陪審員仲間の40代の医師に惹かれ、情事におぼれていくというのがメインストーリーで、サブとして裁判で事件の真相解明が進んで行く。少女が真犯人か否かという興味はあるものの、事件の解明は中途半端。しかし、ヒロインの女性の情事に流されていく心理描写は綿密でリアリティがある。
秘めた情事が明かされていくプロセスがミステリーと言えば言えなくもないが、ミステリーだけを期待して読むと肩透かしである。
陪審員C-2の情事
ジル・シメント陪審員C-2の情事 についてのレビュー
No.1004:
(8pt)

悪役の圧倒的な存在感に注目!

アメリカ・ミステリー界の巨匠の長編第7作。ベトナム戦争時の南部の町を舞台にした社会派であり、家族小説でもあるサスペンス・ミステリーである。
1972年のノース・カロライナ州シャーロットの街に、ジェイソン・フレンチが帰ってきた。ベトナムに従軍し不名誉除隊になったあと、麻薬で服役していたのが出所したのだった。出来の悪い息子の帰還は、警官である父・ビル、母・ガブリエル、弟・ギビーの一家に不吉な影を及ぼした。さらに、若い女性の凄惨な殺害事件が起き、ジェイソンが容疑者と目されたことから一家崩壊の危機にさらされる。警官の立場と父親の立場で板挟みになるビル、兄の無実を信じるギビー、二人はそれぞれの信念で事件の真相を追い求めるのだが、事件の裏には想像を絶する悪の存在があった…。
物語の通奏低音にはジェイソンがベトナム戦争で壊れてしまった理由があり、父、兄、弟の三者三様にそこに絡めとられているのが悲劇的。当時のアメリカの泥沼化したベトナム戦争による閉そく感と絶望がひしひしと伝わってくる。しかし、何といっても本作で最も強いインパクトを与えるのは刑務所に収容されている大量殺人犯・Xである。冷酷非情、頭脳明晰、肉体強健のみならず大富豪でもあり、地下二階の特別室から刑務所を支配しているという、いわばレクター博士とメキシコ麻薬カルテルのボスを合わせた悪役と言える。このXとジェイソンの関わりが物語のキーポイントになるのだが、その部分の理由付けが弱いのが全体の評価を下げる要因になっているのが惜しい。
家族小説的ミステリー、社会派サスペンス・ドラマのファンにおススメする。
帰らざる故郷 (ハヤカワ・ミステリ)
ジョン・ハート帰らざる故郷 についてのレビュー
No.1003: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ろくでなし刑事たちの熱い思いと衝撃のラスト

イタリアの87分署シリーズと評価が高い「P分署シリーズ」の第2作。富豪一族の少年がされた誘拐事件を巡って、ろくでなし集団が奮闘する警察小説である。
高級マンションに住む夫妻から空き巣が入ったと通報があり、ロヤコーノとアレックスが出動したのだが現場の様子が明らかにおかしく、事件は自作自演ではないかと疑われた。同じ頃、美術館見学に訪れていた10歳の少年・ドドが行方不明になったと電話があり、ロマーノとアラゴーナが駆けつけた。一緒にいた同級生から「ドドは金髪の女性に手招きされて付いていった」との証言を得る。さらに、ドドがナポリでも有数の富豪の孫である事が判明し、捜査班は身代金目当ての誘拐ではないかと緊張する。空き巣と誘拐、二つの難事件を抱えた捜査班は「ろくでなし刑事たち」という外部の評価とは裏腹に使命感に燃え、すべてを投げうって捜査を進めていった。そして最後、犯人を突き止めた捜査班が見たものは…。
前作以上に、登場人物たちのキャラが立ち上がり、事件捜査も警察ものの王道を行く緻密な展開でミステリー度を高めている。イタリアではテレビドラマ化される人気だというのも納得の傑作エンターテイメントである。
前作が気に入った読者はもちろん、警察ミステリー・ファンには安心してオススメできる作品と言える。
誘拐 (創元推理文庫 M テ 19-2 P分署捜査班)
No.1002: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

作者(主人公ではなく)が万能すぎて白ける

懸賞金ハンター「コルター・ショウ」シリーズの第2弾。ショウが単身、山の中に孤立したカルト教団の研修施設に潜入し、教祖の悪辣なたくらみを暴くアクション・サスペンスである。
悪の集団の秘密を暴き、カルトに囚われた人々を救出するとともにサバイバリストだった父に教え込まれたスキルをフルに発揮してピンチを乗り切り、無事に帰ってくるというスーパーヒーローもののパターン。背景となるのがワシントン州の奥の山地という点ではC.J.ボックスのジョー・ピケット・シリーズを思い起こさせるが、あれほど自然の雄大さや美しさに依拠した作品ではない。自然環境はあくまでもショウのサバイバル能力を引き立てるための舞台と言える。ストーリー展開もどんでん返しも、ディーヴァー作品ならこう来るだろうという想定の範囲内で収まってしまっている。ストーリーのポイント・転換点があまりにもヒーローに都合よく進むのもちょっと白々しい印象である。
ディーヴァーのファンなら読んで損はないだろうが、ディーヴァー作品が初めてという方にはオススメしない、ぜひリンカーン・ライム・シリーズから読み始めていただきたい。

魔の山
ジェフリー・ディーヴァー魔の山 についてのレビュー
No.1001: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

雪まつり前夜の札幌で華々しい警察アクション!

2020年に発表された北海道警・シリーズの最新作。大通警察署のおなじみの面々が、雪まつり前夜の札幌市内で外国人実習生を食い物にする犯人を追跡する警察ミステリーである。
雪まつりを翌日に控えたあわただしい札幌の街中で2台の車がカーチェイスを繰り広げ、拳銃が発射された。その数時間前、ドライバーがコンビニに寄った隙に車を盗まれるという盗難事件が発生していた。拳銃を発射した方の車が盗難にあったものだったことから二つの事案はつながり、背景に外国人支援団体の姿が見え隠れした。人道的支援団体がなぜ狙われたのか? その糸を操っているのは外国人実習生制度を悪用する暴力団だった…。
おなじみのメンバーが日本の警察らしく法規にのっとって犯人を割り出していく、王道の警察ミステリー。驚くようなことは起きないが、その分、安心して読むことができる。
シリーズ読者はもちろん、日本の警察ミステリーのファンには絶対満足できる作品である。
雪に撃つ (ハルキ文庫 さ 9-10)
佐々木譲雪に撃つ についてのレビュー