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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1167件
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V.I.ウォーショースキー・シリーズの最新作は、期待にたがわぬ快作だ。
毎回、米国が抱える病巣を鋭く描いている本シリーズだが、今回はイラン戦争の帰還兵をテーマに兵士と銃後の社会、戦争産業の問題を取り上げている。「沈黙の時代に書くということ」というエッセイ集を出している筆者らしく、9.11以降のアメリカ社会の閉塞感に対する異議申立てが強く感じられた。 しかし、50代に突入したヒロイン・ヴィクの元気さには驚嘆するしかない。自分の体力に対する愚痴をこぼしながらも(事実、アクションシーンでは若い仲間の手を借りなければ、致命的な窮地に陥るところだった)、仕事も恋も現役バリバリ、前作からレギュラー入りした20代の従妹のペトラに負けていないのである。さらに、社会的不公平、マイノリティーへの差別に対する怒りはますます沸騰し、徹底的に突っ張り切っていくところが、格好いい! シカゴのダウンタウンで鍛えられたストリート・ファイターは衰え知らずなのである。 閉塞の時代に窒息気味の日本の中高年には、特にオススメかもしれない。 表紙も、前作「ミッドナイト・ララバイ」に比べれば(まあ、前作がひど過ぎるのだが)ぐっとリアリティがあり、数段出来が良い。 |
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桐野作品にしては軽めの仕上がりというか、読みやすいんだけど、その分だけ物足りないというか。もっと毒々しい展開を期待していました。
仕事には熱意が無く、ファッションと嫉妬に執着している開業医がレイプ犯で、その被害者達がネットを通じて集まり、協力して復讐するというお話。ストーリーも登場人物も、今の時代を反映していて、ちょっとご都合主義なところもあるが、まあ良くできていると思う。 犯人も被害者も、周囲の人々もみんな一癖も二癖もあるところは桐野夏生の得意分野で、まずまず面白いのだが、もう一段階深く追求していればなあという欲求不満が残った。 |
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ソビエト国家保安省捜査官・レオのシリーズ三部作完結編。
捜査官を辞め、今は工場長として平凡に(やや屈折し、覇気は失ってはいるが)、しかし、愛妻ライーサと二人の養女と一緒に幸せに暮らしていたレオに、思いがけない、身を引きちぎられるような不幸が襲いかかる。果たして、レオはこの不幸から立ち直れるのだろうか? 前半は、レオとライーサの出会いを中心にした恋物語からスタートし、思いがけない悲劇の勃発まで、冷戦時代の情報戦のお話が続き、比較的静かな展開で進む。それが後半になると、一気に“怒りのアフガン”ではないが、アフガニスタンでの冒険に変化し、不屈の男・レオの本領発揮となる。トム・ロブ・スミスという作家は、前二作と同様、本作でも徹頭徹尾レオを厳しい状況に追い込んでゆく。そんな苦境をいかにして脱出するのか・・・驚嘆すべきレオの知恵と体力と精神力が発揮される。 思想と人間性、国家と個人、夢と妥協など、さまざまに考えさせられる小説だが、アクション小説としても一級品なので、一気に読み通すことが出来る。 ラストシーンは、かなり悲しい。 |
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他の方の評価はあまり高くないようだが、個人的には面白く読めた。
東西冷戦時のベルリン、ハイテクメーカー横浜製作所のダミー会社の社員・神崎は、ココム違反の証拠隠滅を図る親会社によって命を狙われ、上司殺人犯の汚名を着せられたまま東ベルリンへの逃亡を余儀なくされた。それから五年、関係者の元へ神崎からの手紙が届き、神崎を追い続けている警視庁公安部員を含めた全員が小樽に集まって真相究明のときを迎えることになる・・・。 前半はベルリンでのスパイアクション、後半は小樽での真相究明サスペンスで、それぞれに楽しめる。ことに、警察が包囲網を敷く中で、神崎は果たして日本に帰ってこられるのか、どうやって小樽の地を踏むのかという部分は、非常にサスペンスがあった。謎解きの部分(絶対に先に結末やネタばれ感想を読まないことをおすすめする)では、きっと賛否両論があるだろうが、これはこれで、小説としては良くできていると思った。 神崎、神崎の母、殺された上司の娘などのいわば追われる側と、親会社社員、公安、フリーライターなどの追う側との人格の対比がかなり露骨で、作者の立ち位置がよく見えてきたのが面白かった。 |
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真珠湾攻撃をめぐる米国スパイの活躍を描いたスパイアクション小説。当然のことながら読者はみんな、真珠湾攻撃の奇襲が成功したことを知っている訳だが、それでも読ませる傑作だ。
第二次世界大戦のスパイアクションといえば、先ず第一が「針の眼」だが、本作は和製「針の眼」といっても過言ではない。 |
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北海道警察、大通警察署のはみだし?警官、佐伯、新宮、小島、津久井など、いつもの面々が警察の正義のために奮闘する、おなじみのシリーズの最新作。本作でも、犯罪捜査の過程で警察内部が絡む疑惑が判明し・・・・。
発端は、釧路、函館、小樽での死体発見。何の関係もないように見えた3つの事件が、ある一家の失踪とともにリンクされて、警察のS(エス、スパイ)が鍵の連続殺人という疑惑が発生し、佐伯たちの捜査の中で、ある密売人の存在が浮き上がってくる。ストーリーとしては、かなり面白いものだと思うが、エピソードの積み重ね、悪役のキャラクター設定の深さなどの点で、やや物足りない。いつもの佐々木譲の“コク”がない、あっさりし過ぎという印象だった。 その点で、シリーズものとして読めば7点、単独作品として読めば6点、と評価した。 |
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デンマークの警察小説「特捜部Q」シリーズの第二作。カール・マーク警部補とアシスタント・アサドのコンビに女性アシスタント・ローセが加わって、特捜部Qがさらにパワーアップした大活躍を繰り広げる。
このローセの、「警察学校を最優秀で修業しながら運転免許試験に落ちて警察官になれなかったため、秘書として警察に入った」という設定が笑える。そのキャラクターも、アサドに負けず劣らずユニークで、シリーズとしての面白さに一味も二味も新味が加わったといえる。 今回の主題は、二十年前の殺人事件、それも犯人が服役中の事件の再捜査である。犯人がひとりではなく、共犯者として同じ寄宿制学校の複数の同級生、しかも、いずれも社会的な成功をおさめている人物がいることを確信した特捜部のメンバーが、警察上層部をはじめとする様々な圧力を受けながらも真相にたどり着いて行く。事件の背景は、社会的エリートの秘められた暴力性という、まあ、ありがちな設定だが、メンバーのひとりが女性で、しかもわざと路上生活者として生きているというのがユニークで、ストーリーに変化をもたらしてくれる。 ところどころで、犯人達の精神構造を表現する重要な道具として「時計じかけのオレンジ」が使われているのが、あの映画をリアルタイムで観た世代として非常に興味深かった。 次回以降の作品への期待は高い。 |
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結婚式の一ヵ月半前に突然、「ごめん。もう、会えない」と電話して姿を消した婚約者・刑事を捜して日本中を駆け巡るヒロインの純愛(?)物語。最後の最後に婚約者が失踪した理由が明かされるのだが、その真実がやや説得力が弱いため、ミステリーとしては満点を付けられなかった。しかし、読みごたえのある作品であることは間違いない。
山の手のお嬢様であるヒロインが、婚約者を捜してドヤ街や私娼窟を訪ね歩いたり、捜査関係者との触れ合いで徐々に人間性、社会性を深めて行くところは好感がもてた。また、娘を殺害された老刑事・韮山の怒り、苦悩、再生の物語は、これだけでも一作品になるのではないかと思うほど読みごたえがあった。「涙」ということでは、ヒロインが流す涙より、韮山が流す涙の方が共感する部分が多かった。 時代設定が、東京オリンピックに沸く1964年からの2年間で、しかも時代の出来事や風俗が重要な要素として頻繁に登場するので、もろに同時代を生きた者としては、そのときどきの自分を思い出すことが多く、懐かしさを感じる楽しいタイムトリップだった。 |
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事件捜査が主役ではない警察小説を確立した横山秀夫の連作短編集。今回は、県庁所在地から遠く離れ、警察署と官舎、寮が同じ敷地に建つという三ツ鐘署を舞台に、交通課、鑑識係、少年係、会計課などの7人の職員の物語が収録されている。
元来が徹底した階級社会、ムラ社会の警察組織、しかも職場と住居が一体化されているとあって、三ツ鐘署の職員の人間関係はきわめて微妙なバランスの上に成り立っており、いつ、どこで破たんするか知れない危険性をはらんで展開されることになる。そんな中で生きる職員たちの組織人としての建前と個人としての本音の葛藤が、これでもかというほど繰り返され、かなり息苦しいエピソードが続くことになり。 しかし、一度落ち込んだり壊れたりした人間性、人間関係を立て直そうという姿勢がうかがえるエンディングが多いこともあり、読後感は「真相」などに比べて明るいものが多い。 7作品の中では、警官と泥棒、それぞれの老いと技術の継承を通して人間の業を描いた「引き継ぎ」が一番面白く、印象に残った。 |
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女刑事・音道貴子シリーズの長編第2作は、デビュー作以上に読み応えがある作品だった。
音道が大量殺人犯グループに拉致・監禁されるという、とんでもないお話だが、監禁物ミステリーとしても、警察の捜査小説としても、はたまた音道の成長物語としても、一級品の読み物に仕上がっている。デビュー作の「凍える牙」は、犬を重要登場人物に据えたこともあって(個人的には)非常にファンタジー色が強い作品と評価したが、本作は、犯行動機や犯行手段、犯人の背景などの面で社会派ミステリーとしての完成度が高く、個人的にはこちらの方が高く評価できる。 デビュー作でコンビを組み、さんざん音道を悩ませた皇帝ペンギン・滝沢刑事が、こんどは警察の救出チームのメンバーとして登場し、大活躍を見せるのが面白い。相変わらず、女性刑事と組むことには難色を示しながらも、音道が刑事として優れた資質を持ち仲間として信頼できることを断言し、そんな仲間の救出のために全身全霊をかけて奮闘する。その言動の端々には、父親の娘に対するような愛情が見え隠れし、なかなかにハードボイルドでカッコいい! いやいや、カッコよ過ぎる。 シリーズとしてはもちろん、単発作品としても十分に楽しめる警察ミステリーだと思う。 |
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文庫本60ページ余りの作品で展開される各話のメリハリの効いた起承転結、絶妙の心理描写、人間心理を鋭く射抜く視点の確かさなどなど、短編の名手と称される横山秀夫の名人芸を堪能できる作品集だ。
いずれの作品も、過去の事件、事故にとらわれた人物が、その事件や事故に隠されていた真相に触れ、人間性、生き方を見つめるというテーマ性が共通している。事件捜査だけではない警察小説を確立した著者の得意なジャンルと言えるだけに、作品の完成度はどれもきわめて高い。 5作品の中では、親とはどういう存在であるかを苦渋とともに描いた「真相」が一番読みごたえがあったが、中年男性にとって生きがいとは何かを哀切に描いた「不眠」も忘れ難い印象を残した。 |
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ススキノを駈け抜ける〈俺〉シリーズも第12作になり、長寿作品に付きもののマンネリ感と安心感が強くなったようだ。熱は感じられないが、うま味は濃くなったような。細部を味わう作品とでも言えばいいのだろうか。本作だけを読む方にはオススメ度7、シリーズの読者にはオススメ度9という評価にした。
例によって、頼まれもしないのに犯人探しに奔走するのだが、今回は舞台がほとんどススキノに限られている上に、犯人の悪らつさや残虐さが抑えられているため、他の作品に比べるとストーリー展開のスピードに欠け、アクションシーンも少なくなっている。その理由は、作品中でも数ヵ所、五十代になった自分の衰えを嘆く部分が出て来るが、〈俺〉の年齢的な変化と言えるだろう。 〈俺〉シリーズの魅力の一つに、バカや田舎者に対する罵倒の辛辣さとボキャブラリーのユニークさがあると思っているが、今作品ではバカや田舎者にずいぶんやさしくなった印象を受けた。これも、〈俺〉が年を取って丸くなったせいかもしれない。 さらに、タイトルにもなっているように、今回は猫が主要な役割を果たしているが、猫とハードボイルドの相性はあまり良くないのではないか? パートナーの華と猫の二人に押されて、〈俺〉のハードボイルドな生き方が徐々に崩されかけている・・・さて、どうする〈俺〉? |
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カーソン・ライダー刑事シリーズの第二作は、解説者が書いている通りの“まさに全方位的なエンタテイメント・ミステリ”だ。
蝋燭と花で異常なまでに装飾された女性の遺体が発見され、それが30年前に殺された連続殺人犯につながっており、さらに現在の連続殺人とも密接に絡まって行く・・・・。 デビュー作に続くサイコミステリーとして、前作の印象を上手に生かしながら話が展開されて行く。しかし、前作が効果をあげているのは登場人物のキャラクターにまつわる部分だけであり、本筋は本作だけで本格派のミステリーとして完成しているので、この作品からライダー刑事シリーズに触れた読者もとまどうことはなく、面白く読めるだろう。特に、謎解きの上手さ、伏線の張り方の巧みさには舌を巻くしかない。読み終ったときに初めて気づかされる伏線の多さと答えの深さには、多くの読者が感動するしかないだろう。 それでもオススメポイントを「7」にしたのは、「百番目の男」、「ブラッド・ブラザー」に比べると技巧的な部分が勝ち過ぎていて、犯行動機や犯人像にやや物足りなさを感じたせいである。とはいえ、多くの方にオススメできる作品であることは間違いない。 |
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主人公は引退したFBI捜査官なので何の目新しさもないが、心臓移植手術後わずか60日余りで捜査に乗り出すという設定が極めてユニーク。しかも、捜査を依頼してきたのが心臓を提供したドナーの姉というのだから、そのユニークさは飛びぬけているというしかない。
病み上がり(というか、まだ治療中?)なので激しいアクションはできないが、それでも格闘シーンなどもあって読者をハラハラさせる主人公だが、FBI捜査官らしいち密な分析で犯人を割り出していくのが基本で、この謎解きの部分も非常によくできている。また、FBIものによく見られる地元警察との軋轢に、退職した上に私立探偵のライセンスも持っていない(つまり、なんの捜査権もない)主人公が絡んで複雑なパワーゲームを繰り広げるのも面白い。さらに、ハードボイルドには欠かせない恋人や家族との葛藤も丁寧に描かれていて、実に素直に読むことができた。 多くのハードボイルドファンを納得させる傑作だと思う。 |
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カーソン・ライダー刑事シリーズの第一作というより、ジャック・カーリイのデビュー作。
いや、あまりの上手さに驚いた。これで本当にデビュー作なんだろうか? ジェフリー・ディーヴァーを追いかける作家という評価も買いかぶりではないと実感した。 残念なことに(?)第4作の「ブラッド・ブラザー」を先に読んでしまったので、兄・ジェレミーの存在がそれほど衝撃的ではなかったが、本作から読み始めた人にはこの兄弟関係が強いインパクトを与えただろう。ただ、このシリーズ全体を貫く重要な要素になっているカーソンにつきまとう家族、過去の重さや深さは「ブラッド・ブラザー」の方がよく描けていたと思う。 ストーリーは、サイコサスペンスの王道を行く、首無し連続殺人事件。このなぞ解きだけでも十分に楽しめるレベルだが、登場人物のキャラクターやエピソードがしっかりしているので、物語として非常に厚みがあり、たんなるサイコ物ではない面白さがある。シリーズとして成功しているのも、当然だろう。 |
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カーソン・ライダー刑事シリーズの最新作。シリーズものを途中から読んだので、シリーズの最初から読んでいる読者とは面白さが違うと思うが、それでも十分に満足できる傑作だ。
主人公が刑事で、その兄がシリアル・キラーのサイコパスという、かなりあざとい設定だが、しっかりした構成と緻密なストーリー展開で違和感なく作品世界に入って行けた。 連続殺人事件の犯人探しと警察内部での対立や人間関係の面白さなど、読みどころは沢山あるが、犯人判明のどんでんがえしが強烈で、これだけでも高く評価できるだろう。 さらに、今後のシリーズ展開への期待を高めるラストシーンも印象的だった。 |
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女刑事・音道貴子シリーズの短編集第二弾。
表題作の「未練」は男同士の絆が壊れる様を描いているが、こういう話は作者は苦手なのか? いつもの切れ味の鋭さが無く、凡庸な印象。むしろ、サイドストーリーの音道の友人に紹介された男との付き合いの話の方が、音道らしさにあふれていて面白かった。 いつまでたっても大人になりきらず、不器用でまっすぐな音道の生き方は、読者をハラハラさせると同時に、こんなにぶれない人もいるんだという爽快感を与えてくれるが、本短編集では、それがいっそう強調されているように感じられた。 全体を通して、音道のファンには彼女の性格をより深く知って行く面白さがあるだろうが、初めての読者にはややストーリーの深みの無さが物足りなく感じるのではないだろうか。 |
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ある書評では「サーフ・ノワール」と分類されたそうだが、サーフとノワールという、どちらかと言えば正反対の言葉をつないで表現されているところに、この小説の本質がよくあらわされている。
南カリフォルニア・サンディエゴを舞台にした、サーファーのPI小説とくれば、明るくノー天気な主人公かと思うが、ところがどっこい、ドン・ウィンズロウにかかると明るいだけでは終わらない。確かに、いつも軽口をたたき、仕事よりサーフィンが生きがいで独身という主人公は、一見、典型的な肉体派に見えて、実は知性的で深い洞察力を秘めている。彼を取り巻くサーフィン仲間たちも、軽薄な外見とは裏腹にそれぞれに悩みやトラウマや葛藤を抱えている。 片方には、これまでにない大きな波への挑戦というサーフィンの王道の話があり、もう一方では少女売春組織との戦いという人間の暗部をえぐるような話が展開される。しかも、場面展開が早いので、読む側の気分は上昇と下降を繰り返すジェットコースターに乗せられたようになる。 ただ、両方の要素が並び立ち過ぎているせいか、いまいち、話に深みが足りない気がした。 これが新シリーズの第一作ということなので、今後、どう展開していくのか期待したい。 |
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女刑事・音道貴子シリーズの短編集、第3弾。
表題作の「嗤う闇」は犯人と被害者の関係、音道の恋人が犯人と間違えられる設定にちょっと違和感があり、いまひとつ満足できなかったが、シリーズの精神はしっかり受け継がれているし、音道のキャラも全開で、ファンには楽しめるだろう。 それよりも、よき相棒?滝沢が登場する「木綿の部屋」が、ストーリーも人物描写も上出来。滝沢のキャラクターに深みを加えて、秀逸。これまた、音道シリーズの愛読者には必読の一作と言えるだろう。 |
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上下2巻、800ページを読み終えての感想は、一言でいえば、重くて複雑な小説だった。
ケネディ暗殺からベトナム戦争終結までの時代のアメリカの暗部でうごめいた、有名、無名の人物たちが織りなす、きわめて重層的で精緻に構成された政治的ノワールの世界。つまり、エルロイ・ワールド全開の物語だ。 物語の第一印象として、いわゆる「善人」が登場しない。もちろん、そんなことはないのだが、続々登場する悪人たちの存在感が強すぎて、善人は吹っ飛んでしまっている。それだけキャラクターの立った人物が続々登場し、複雑に絡み合ってストーリーが展開するため、読者側が強いられる緊張感も半端ではない。エルロイ・ワールドを楽しむことは、知的興奮はあるものの倫理的、情緒的に非常に疲れることは間違いない。 反則技かもしれないが、巻末の「訳者あとがき」を先に読んでから本文を読めば良かった気がしている。 |
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