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いわし雲 さんのレビュー一覧
いわし雲さんのページへ書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点7.08pt |
レビュー数25件
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真梨幸子といえばイヤミスの代表的作家ということなんですが、同時に叙述ミステリの名手でもありますね。
この作品は、そのどちらも堪能できる彼女の傑作だと思います。ホント、作家というのはこんな小説よく書けますね。感心です。 細かいことはネタバレになるというか、ヒントになるのでほとんど書けないんですが、簡単に言うと「パラレルワールド」ってありますよね。無限にある異世界のことです。この作品にはA面とB面がありまして、交互に出てくるという構成になっています。パラレルワールドなので、登場人物もほぼ一緒です。基本この二つの世界が接触することはありえないんですが、主人公の陽子の「夢」でこの二つの異世界はつながっていたりします。そしてどちらの世界でも残虐な連続殺人が起こります。果たして犯人は? 1ページ目から真梨幸子ワールド全開、最初から「騙し」に入ってます。詳しくは書けないので読んでみて下さい。ユーモア的要素もあって吹き出すシーンもたくさんあります。真梨幸子の代表作になり得る傑作です。 |
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基本的にミステリというものは、欲や憎悪などある意味人間の嫌な部分を扱ったものなので、やはり読むのにはエネルギーを使いますね。イヤミスなんか特にそうですが。この作品も最初はそういう憎しみから来る復讐話かと思ってたんですけど、予想外に読後感がさわやかでしたね。
主人公の西尾木敏也は大企業の経営者西尾木雄太郎の次男、といっても実は法的には息子ではない、血のつながりはありません。雄太郎の愛人の連れ子なんですね。長男の雄一は抑圧的な父に逆らい家を出て数年、千秋という貧しいが心の美しい女性と暮らしていました。 二人の間には、結希という幼い女の子がいます。ところが雄一は事故で不幸な死を遂げます。敏也自身も嫌いな義父の元を離れ、一人暮らしをしているわけです。仕事はその義父のコネで入った系列会社。 さらに不幸なことに千秋は癌のために亡くなってしまいます。そこで敏也は血のつながらない兄雄一の子供である結希を自らの養子にして育てるのです。どうしてわざわざ慣れない子育てを苦労してするのか。果たして敏也の目的とは? 詳しくはネタバレになるので、書けませんが、ある程度読者は想像がつくでしょう。要はある目的というか、計画のために数年費やして結希を育てるわけですね。結希が10歳になったとき、敏也はある行動に出ます。 ここまで書くと怖い復讐話に思えますが、あまり怖さはありません。 敏也という青年がいい奴なのと、同居する亜沙子とおねえの汐野のキャラによるものだと思いますが、血のつながらない4人の同居生活が楽しそうだからです。最後にはどんでん返しもありますが私はこの結末を受け入れますね。いずれにしても読後感が良く、たまにはこういう作品もいいのではと思いましたね。 |
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白河三兎という作家の作品についてはほとんど読んではいますが、非常にテクニックのある作家という印象を持っています。逆に言うとテクニックがありすぎる故に分かりづらいそういう感じのする作家でもあるわけです。今回の作品はまだ一度しか読んでいませんが非常に素晴らしいものでした。.
ある高校のクラスでの話なのですがこの高校のあるクラスに一人の女子校生が転校してきます。舞台は東京東京の高校なのですがこの女の子は大阪出身の子で様々な事情があり、東京のこのクラスに転校してきたというわけです。この女子校生は非常にキャラクター的にものすごく立っているという感じがします。そしてこの高校生を取り巻く何人かの生徒たち、彼らはみんなぼっちと呼ばれる孤独な生徒たちです。彼らは修学旅行に出かけていきます。この時にぼっちたちのグループのリーダーを務めるのがこの女子校生なわけです。そこから先を言うとこれからこの小説を読む人の興味をそぐことになってしまうのでこれ以上は言えませんが、結論的に言うとこの作品は私が読んだ中でも非常に素晴らしい最上位のものでした。この作品から学んだことは、今伝えるべきことは今伝えておかないと、後になって伝えようとしても手遅れになってしまうということです。今を生きることの大事さを一番言いたかったのが作品ではないかと私は思っています。非常に巧妙な叙述テクニックその結果最後の章で明かされる非常に意外などんでん返し。そしてショッキングな結末。これを予想できた人が誰がいるでしょうか。私も予想できなかったしこれを予想した人がいるとすればそれは天才としか言いようがありません。それぐらいこの作家の技巧はすごいものです。是非皆さんも読んでいただきたいと思います。そしてこの最後の結果を知った時に胸に起こるこの切なさ寂しさ悲しさ。これを皆さんに共有していただきたい、そういうふうに私は思っています.。 |
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この本を読んだ感想をまず言うとすれば、一度読んですぐに理解できるような代物ではないということです。非常に難しいと思います。こんがらがっていてなかなか頭の整理ができません。しかし2度3度読むとそれほど難しい構造の本でないということが分かってきます。
この作品はいわゆる論理学の面白さをミステリーに導入したということです。 ただ私は論理学をほとんど知らないので、それがどのように生かされているかどうかは正確には判断できません。ただ私なりに考えるとある命題があったとしてそれに反する証明を次々と完全に粉砕することによって、ある命題が証明されるそういうことではないかと思います。ここで言うところの命題とは何か、それは「奇蹟」です 十数年前にある狂信的なカルト教集団がありました。そのカルト教集団の住む村で信者のほとんどが殺されるという事件がありました。その殺され方はほとんどが首を切り落とされるという残酷なものでした。ただその事件で唯一生き残っていた少女がいました。その少女の名前がリゼ。彼女はひそかに心を寄せていた仲間の信者の少年ドウニの首を切って殺したかもしれないこのことで精神を非常に病んでいるわけです。その真相を見つけてくださいという依頼にリゼは探偵事務所に尋ねてきたわけです。 この探偵事務所の探偵はウエオロと言いますそして助手これがフーリンという中国人女性です。この二人が中心となって話は進められるわけなんですけども、 このリゼという女性の悩みを解決する唯一の方法は何かと言うと、この事件は神の「奇蹟」によって起こされたものであって、犯人はいないのだということなのです。世の中には人知の及ばない「奇蹟」がある、この事件の真相が「奇蹟」だと証明されれば、少女の心は救われます。 そのためには「奇蹟」以外の理由を全否定しなければならない。ウエオロは数日間考えてこの事件の真相は「奇蹟」だと証明したと報告書を持って事務所に現れました。ところがこのウエオロに対して挑戦者が次々と現れてくるわけで。すこの3人の挑戦者はそれぞれが独自の推理をしてウエオロに挑んできます。ただこの勝負は明らかに挑戦者が優位なのですね。 なぜなら挑戦者はこの事件の真相は「奇蹟」ではないという可能性だけを示せばいいからなんです。実際に犯人がいる可能性だけを証明すればいい。可能性ですから100%正しいという証明をする必要はないわけです。探偵ウエオロとしては非常に不利な勝負を挑まれた訳なのですが、彼はこの3人の挑戦者の推理をことごとく粉砕し退けます。 ところがこれでめでたしめでたウエオロの勝利という風には簡単にはいかなかったのです。ウエオロの反論にも矛盾が・・・・・。ここから先はネタバレになるので詳しくはもう書けませんがどんでん返しとまではいきませんがちょっとした展開があります。 私がこの作品を読んで思った疑問は「その可能性はすでに考えた」そういうふうに言いますけども、全部の可能性ではないわけですね。挑戦者もたった三人です。実際に可能性の話で言えば無限にあるはずです。その無限なものを全て否定することは事実上不可能ではないのでしょうか。したがって「奇蹟」の証明はそもそも最初から不可能なのではないか、と私はこう思うわけです。最後にウエオロが示す本当の意味での真相というものも非常に古典的なありがちなトリックに基づいた推理であり、斬新さが全くないのです。つまりこの小説は非常に肩透かしに終わったという感じがします。登場人物もラノベ的で非常に違和感のある感じがしますし、もっと別の書き方があるのではないかと思います。そうすれば面白くなった可能性もありますが 実際はあまり面白くはありません。もっとすっきりと誰にもわかるような書き方をしてほしいというふうに私は思いました。 |
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この作品は構成が凝っています。主な登場人物は4人。
この4人を主人公とするストーリーが並列的に進行していきます。 相沢ふたば、藤倉和博、連城美和子、御通川進の順番でそれぞれ約10ページ前後を 費やされた賞が、1人7章、トータルで28章で完結されるわけです。 4つのストーリーは一見何の接点もありません。 心に悩みを抱え心療内科に通う若い女性、相沢ふたば。 幻の名画を探す中小企業社長藤倉和博。 喫茶店を開業したいという客のために奔走する不動産会社員連城美和子。 なりすまし事件の被害者になってしまう会社員御通川進。 当然ながら興味はこの4つの物語の接点は一体何なのかということに 尽きるわけです。そこで読者としては一刻も早く先が読みたくなるというわけです。 そういう意味では一気読みは必至ですし、面白いと思いましたね。 ただこれはお読みいただければすぐ分かる事なのでネタバレにはならないと 思いますが、この4つの物語には温度差があるんですね。 ある人物の章だけがより深く書き込まれていて、ああこれがこの小説の中心なんだと 分かってしまうんですね。それが誰かは言いませんけど。 結局それ以外の人物の章は、これに付随しているおまけみたいなものであって、 そのつながりも大きな意外性もなく、無理に4つに分けた意味もあまり感じられませんでした。 あくまでも構成のための構成という感じですね。 他の候補作を読んでないので判断は難しいですが、荒削りなものより完成度の高い 無難な作品が選ばれたのだと思いますね。 4つの異なる事件が最後に鮮やかに集束という小説は飛鳥高の『細い赤い糸』という 名作がありますので是非それを読んでいただきたいですね。 |
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巨大な客船の沈没事故を描いたパニック小説です。
そういう意味では手に汗握る面白さなんですが、 とにかく沈没の最大の戦犯である船長がクソ過ぎて その怒りばかりが胸に沸いてきて素直に楽しめませんでした。 小説の中では、鹿児島の種子島にカジノが作られるという 設定になってます。実際はご存知のようにお台場なんですが 種子島にカジノの客を運ぶには船が必要なんですね。 それを一手に引き受けたいという利権欲しさにこの船長は いろいろ無理をするんですね。 もちろん悪いのは船長ではなくこの船会社なんですが この船長には全く同情できません。 種子島選出の議員を、早く鹿児島に連れて行きたいがために 台風が来るということがわかっていながら無理に出港し 船底に亀裂は入って水が入っているのに、認めないところは メルトダウンはないと言い張る東電みたいで、怒りを覚えずに いられません。 結局暴風雨のなか船は火災炎上しパニック状態になるのですが この船長は自分と政治家が助かることしか考えていません。 主人公ともいえるたまたま客として乗り合わせた女性消防士ふたり組 の活躍、そしてかつて別の会社の船で同様の事故を起こし、 今は客室係としてこの船で働いている男などの奮闘が感動を呼ぶのですが どうもこの船長のクズぶりばかりが目立って楽しめませんでした。 難しいでしょうが映画化すれば面白いかもしれませんね。 |
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発想自体は非常に面白いと思いました。かつて子供時代、同じ絵画教室で絵を学んでいた二人の男女、優希と淳之介が大学時代に再会するんですね。
この二人が過去の子供時代の共通のある知り合いの人物について会話を交わすわけです。それはその絵画教室の講師だったある女性の息子で 健と呼ばれる人物なんです。二人で話しているうちにどうにも奇妙な気分になってくるわけです。なぜかと言うと同じ人物について話しているはずなのにどうも記憶に違いが見られるわけです。 優希の方はこのタケシのことを絵本の中の架空の人物だと思い込んでいました。ところが淳之介は全国的に有名なバレーボール選手だと思い込んでいるわけです。不思議ですよね、二人の記憶がなぜこれだけ食い違ってくるのか。もしかすると二人の記憶は書き換えられたのではないかそう思って彼らは色々調査を始めるわけです。 ここまでは非常に話の流れとしては面白いんです。非常に怖く思えます。薄ら寒い感じすらしますよね。ところがここから先がイマイチなんですね。この記憶の書き換えという行為自体がそもそも実際にできるものなのかどうか可能なのかどうか。これがよく分かりません。いかにも簡単にできるように言っていますが、実際には実現不可能だと思います。それぐらい稚拙な方法なんですね。こんなことで人の記憶は簡単には書き換えられない、そういう風に私は感じました。 それともう一つの記憶を書き換えたその理由です。これもなんだかよくわからないんですね。果たしてこんなことで人の記憶を書き換えるようなことをするものかどうか、すごく幼稚なわけなんですよ。読んでいただければ分かると思いますけども。そんなことは絶対に普通やらないでしょう。つまり動機と方法、この二つが非常に幼稚というかありえないんですね。記憶の書き換えという発想としては非常に面白いんですよ。ただ内容がそれについて行ってないんですね。そこが最大の問題なんですよこの小説の。その部分が作者の力量がまだ足りないと言えば言えるわけで、そこが非常に残念だと思うんです。探偵役として出てくる女性心理カウンセラーこの人物なんかも非常に魅力的な存在ではあるんですけれどもこのような内容の薄い事件だと彼女の凄さも生きてこないと思うんですよ。その部分が非常に残念だ、そう思うわけです。 話はちょっと違うかもしれませんが人間の記憶というものは非常に不思議なものですよね。私なんかもよく夢を見ますが、長い間全く頭の片隅にも思い浮かばなかった何十年前の小学生時代の同級生が、夢に出てくるわけです。 しかも夢の中においてストーリーに組み込まれて出てくるわけです。なぜ 突然出てきたのでしょうか。不思議ですね。このように人の記憶とは非常に不思議で面白いものです。ですから その面白さがうまく伝わるように小説を書いていただきたいというのが私からのお願いです。 |
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この中山七里という作家は ご存知のようにいくつかのタイプのミステリー小説を使い分けることで有名です。
彼が最も一番得意としているのはやはり音楽ミステリーだと思います。もちろん一番有名なのはあの「さよならドビュッシー」であることは疑いの余地はありません。 ところであの作品に出てきた主人公の岬洋介、音楽の天才特にピアノの天才である彼は非常にミステリアスな人物でした。その彼の高校時代の話を描いたのがこの「どこかでベートーヴェン」なんですね。つまり後日談ならぬ前日談とでも申しましょうか、岬洋介がいかなる人物であったかということがここで描かれているというわけなんです。従って岬洋介ファンにとっては面白いかもしれませんが、もしかすると知らない方にとっては面白くないかもしれません。というのはミステリーとしてはこの作品はあくまでも平均点の出来であってそれほど素晴らしくはありません。 また事件が起こるのは最初から約100ページぐらいのところなんですね。 。それまではずっと岬洋介がいかに天才であるがすごいか、 そのことだけに費やされていると言ってもいいでしょう。 だからある意味知らない人にとってはじれったいという感じがするかもしれませんね。 この岬洋介という人物はとにかく変わっていると言うか天才であるがゆえに、 ピアノ以外の事に関しては全く無頓着である意味非常に浮世離れした感じの人物です。 とにかく人の心が一切わからないと言っていいんですね。 このことは要するにクラスのみんなからの反感を買ったりするわけですそれが 事件と直接繋がってるというわけではないにしても彼が容疑者として疑われるわけにはなっているわけですね。 この岬洋介が地方のある高校の音楽科に入ってくるわけです。 音楽科と言ってもプロを目指すような優れた生徒が入ってくるそんな学校ではありません。 あくまでも落ちこぼれが入ってくる学校なんです。そこに岬洋介のような天才が入ってくると 様々な軋轢を生むわけですね。その軋轢の話が色々出てくるわけなんですけども、 この岬洋介をいじめていた同級生の少年が集中豪雨のあったその日屋外で殺されてしまうわけです。 この岬洋介は集中豪雨からクラスのみんなを救うために色々外に出て行動していたんですね。 だから彼はそのことも疑われる理由になったわけです。 彼が疑いを解くには自分から真犯人を見つけるしかない、そして探偵役となって捜査を始めるわけです。 彼は音楽の天才でもあると同時に、ある意味天才的な探偵でもあるわけなんですね。 このことはあまり触れられていませんが、音楽の才能と同時に探偵の才能もあるわけです。 とにかく頭が超人的にいいんですよ。 しかも他人のために徹底的に尽くすことのできる人間ではあるわけで、逆にそのことが、 みんなから嫌われる理由でもあるわけなんですよ。つまり人の心が読めないという ある意味計算が一切できないそれほど純粋な男、それが岬洋介です。 岬洋介の魅力に取り憑かれた人にとっては、この小説は非常に読む価値のあるものでしょう。 ただそれ以外の人にとってはあまりお薦めすることはできません。 トリックの面でもそれほど優れたものではありませんし、犯人の意外性もあまりありません。 ただ岬洋介ファンにとっては必ず読んでおくべき作品だと思います。 またもう一つ面白いのがこの中山七里という作家の一番得意な、音楽を文章で書くということです。 音を文章で表現するといいのは非常に難しいことだと思いますが、この中山という作家はそれが非常にうまいんですね。 本人もおそらく大の音楽ファンであるのでしょう。 私のようなクラシックに疎い人間にもその魅力がかなり伝わってくるそんな感じがしますね。 まあ以上のことから結論付けるならば岬洋介ファンには必ず読んでおいてほしい本ではありますが ミステリーとしてはあくまでも普通のものであり、それほど高い評価を与えられるものではないということです。 そのことを事前にご認識の上で読んでいただければというふうに私は思っています。 |
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作者の岡田秀文は時代物を得意とする作家ですが、その一方で明治や昭和初期を舞台とするミステリーをたくさん書いております。個人的には私はそれらのほとんどを読んでおりますが非常に気に入っています。時代背景あるいはその時代の雰囲気というものが非常によく伝わってきて面白いのです。今回の作品は「白霧学舎探偵小説倶楽部」というものです この作品は太平洋戦争さなかのある地方の街を舞台とした作品ですこの作品の主人公である宗八郎は、ある事情から東京から地方のこの街の高校に編入してきます。 この高校でできた何人かの親しい友人たちと一緒に難解な殺人事件を開始していこうというそういう話です 。この街では何年か前から不審な連続殺人が起こっていました。この事件を彼らが結成した探偵倶楽部が色々調査して解決しようとします。ところがある日彼らの仲間の一人が殺されてしまいます。果たしてこれまで起きてきた連続殺人と何らかの関係があるのかどうか、彼らは仲間を殺した犯人を探すためにまた捜査を再開するわけです。この小説はミステリーでもあると同時にあの時代を描いた青春小説という一面をもっています。そしてこの事件はこれ以上話すとネタバレになるので言えませんが、実は戦争という暗い影が起こした犯罪でもあるのです。それは読んでいただくしかありません今回のミステリーはトリック的にはイマイチだと思います。これまでの中ではあまりレベルの高くないそんな作品かもしれません。しかし今このような戦前戦中を描くそんな作家が少なくなった現在において、この作家の貴重性というものは非常に大事なのではないでしょうか。これからも注目していきたい作家だなという風に私は思っています。
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芦沢央と言えば、どろどろとした人間関係を描いたいわゆる「イヤミス」の代表作家ではありますが
この本の表紙を見るとこれまでの作品とは傾向が違うのではと思われます。 実際読んでみると、イヤミス的な印象はほとんど無く、むしろ人間の素晴らしさを肯定する感動的な作品になっています。 この本は既に発表された4編に、「序幕」と「終幕」を書き下ろして付けた短編集となっています。 それぞれの作品はほとんどが何らかの意味でつながっており、事実上は長編といっていいかも知れません。 例えば登場人物が重なっているなど、この種の「つながりのある短編集」はこれまでも多々ありましたが 中でもこの本は最も秀逸な作品のひとつかも知れません。それほどよくできています。 「序章」 若手サラリーマンの松尾が、康子先輩がいやな上司の背任を告発するための証拠集めに協力させられ、奔走する話。 これを読むとまるでくだらないドタバタ喜劇さながらの内容で、もしかすると面白くないのでは?と懸念させられますが、ある意味重要な出だしであるわけなんですね。実は。 「第一幕 息子の親友」 シングルマザーと小学生の息子の話。 自分の子供の素晴らしさを知らないのは実は母親だったりする、というちょっと感動的な話です。 「第二幕 始まるまで、あと五分」 個人的には一番好きな作品です。恋愛ものなんですがホッコリする話すね。 「第三幕 舞台裏の事情」 舞台に出演する男性人気アイドルが女性関係をネタに降板しろという脅迫状を受け取る。 果たしてその意外な犯人とは? 「第四幕 千賀稚子にはかなわない」 認知症の影が忍び寄るベテラン女優の、覚悟と決意。 プロとは何なのかを考えさせられます。 「終幕」 この小説のまさに終幕というか最初の「序章」の意外な結末がここに書かれています。 この小説のシメですかね。松尾と康子の関係も気になるところです。 |
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あまり詳しく書くとすぐにネタバレしてしまう危険があるので
注意しないといけないんですが、早い段階でトリックを察知した人は この小説は楽しめないでしょう。 もちろん私は最後まで気付かずだまされてしまいました(笑) ミステリなんてその方がいいんじゃないでしょうか。 1年前に愛する恋人美紀を亡くした若者、高辻裕樹。恋人の亡くなった場所が 特異だった。廃島と呼ばれる軍艦島を小さくしたようなかつて炭鉱のあった 島。いまは無人島でマニアしか知らないような場所です。 美紀を亡くしてメンタルを病んでいる裕樹ですが、この無人島探索ツアーに参加し 謎の死を遂げた美紀の死の原因を探り、真犯人がいるなら見つけ出し復讐することだけが 唯一の生きる理由だと確信します。そして彼は孤独な捜査を開始します。 果たしてたどり着いた驚愕の真相とは? 意外な真犯人とは? これ以上書くと未読の読者の楽しみを奪うことになるので止めましょう(笑) |
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時代物を得意とする作者ですが過去明治時代を舞台にしたミステリーを
何冊か出しています。それらは時代背景を含め非常に面白いもので 私は全て気に入っています。最も楽しみな作家の一人です。 今回は舞台が明治ではなく昭和初期となっています。昭和11年ですね。 したがってこれまでの作品と違い、近代化がかなり進んでおり、車も電話も普及しており 捜査においても指紋が重要視されていて、基本的に現代の話として読んでもさほど違和感がありません。 帝都東京において次々と死体が発見されます。 最初に見つかった被害者には刺し傷が7ヵ所ありました。次の被害者は6ヵ所、次は5ヵ所 とだんだん減っていきます。これは一体どういう理由なのか。謎に隠された驚愕の真相とは? ほとんどの読者は予想がつかないと思います。 事件の捜査は特別捜査隊が行います。隊長は腕利きの郷咲警視、彼は1年前に事故で妻を失い 娘の多都子と二人暮しです。探偵小説好きの多都子は言ってみれば郷咲のアドバイザー的存在。 果たして警視庁と特捜隊の誇りをかけた捜査はどうなるのか。この類まれなる怪事件の真相とは? 面白くて一気読みしてしまいました。本格ものではあるんですが、ちょっと事件が事件だけに ホラー的な色彩もあるような気がします。後半はどんでん返しに次ぐどんでん返し、最後の1行は 悲しいですかね。 文章が抜群に上手く読みやすいので 是非お薦めしたいですね。 他の作品も。 |
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いきなり最初に白骨化した四人の死体発掘のシーンから始まります。
果たしてこの死体は誰のものなのか、これがこの作品の最大の謎であり 中心部分なのですが、割と簡単に想像がついてしまいます。 したがってミステリとしては大きな意外性や展開はありません。 しかし文章が非常に上手く読みやすく、心理描写も巧みで小説としては かなりのものだと思います。 この物語の主役はかつて悪辣な金貸し商売で富を築いた「人食い」と呼ばれた男の 子孫「五十坂家」の家族です。家族以外の人物はほとんど出てこないという珍しい作品です。 大正時代に誕生した、人食いの子孫である五十坂公一郎とその妻弥生、公一郎の妹璃理子 そして四人の娘たちとさらにその子供たちが登場人物です。 過去と現在が交互に描かれ、人食いの子孫という業を背負った一族の深い闇が次第に 明らかにされていくその過程は面白く一気読みしました。双子間の心の確執であったり そういった心理も上手く描かれていますし、家族とは何かを考えさせる作品になっています。 |
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関西の老舗製薬会社を経営する氷姫一族の豪邸「赤屋敷が」六甲の山中にあります。ここで4人の若者が次々と謎の自殺を遂げます。
はたしてこれらは自殺なのか、それとも・・・・。 亡くなった4人に共通するのはそれぞれ理由は異なれ、全員「ひきこもり」だということです。最初に自殺したのが、氷姫家の跡取り、高校生の智耶でした。 これは密室での死ということで自殺と結論づけられました。これ以降氷姫家ではボランティアとして引きこもりの若者を預かるのですが、彼らが次々と自殺していきます。 この事件に挑むのが、カルト玩具店を営む独特なキャラを持つ鴉原という男です。 とここまで書くと普通のミステリーではないかと思われるでしょうが、この作品が特異なのは、 タイトルからもお分かりのように、すべての事件にケムール人の影が見え隠れしていることです。 ケムール人とは改めて言うまでもなく、特撮ドラマ「ウルトラQ」の第19話「2020年の挑戦」に登場する宇宙人で、実にシュールで不気味な外見をした怪人です。 このデザインを作ったのが成田亨で、彼はウルトラQの多くの怪獣のキャラクターデザインだけでなく、ウルトラマンをはじめとする数多くのヒーローや怪獣を生み出したにもかかわらず 著作権問題で、円谷プロと対立し、その後不遇の死を遂げます。 なぜケムール人なのかというと、おどろおどろしい雰囲気に合っているからというのもあるでしょうが、ケムール人であるという必然性は無いと思います。やはりケムール人を通して 世間で過小評価されすぎている成田亨という稀代の天才芸術家を世に知らしめ、評価してもらうために、強烈なるりスペクトを込めて書かれた作品だという気がします。 私も恥ずかしながら彼のことは詳しくなかったのですが、ええっ! アレもコレも成田の作品かよと驚かされました。まさに戦後最大のアーティストの一人だと思います。 大人の事情で、ケムール人の写真がどこにもないのが残念ですね。 ミステリーとしてはトリックや犯人など、ある程度読みなれている読者にはすぐに分かると思います。ただ何かを伝えたいという強い思いは評価したいですね。 |
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心温まる短編集 良作です。
東京郊外にあるマンモス団地を舞台にした7編が収められた短編集です。 団地というのは大勢の人が住んでおり、さまざまな店舗や病院、郵便局などがあります。 また学校や保育園などもあったりして、そこから出なくても極端な話生活が成り立ってしまう ある意味一つの閉じられた町という感じがします。 それゆえそこには無数の物語が存在するのです。 7編はそれぞれが独立した物語ではありますが、全体が上手くつながっていて しかも同じ団地内ですから、登場人物も当然共通していたりします。 その人間関係のアヤもこの作品の大切な要素の一つですが、さらに大きな魅力は SF的な仕掛けです。具体的には書けませんが、この仕掛けが上手く功を奏しているのでは ないでしょうか。派手さはありませんが、心温まる佳作としてお薦めします。 作者の一番言いたいことは、みんながちょっとした勇気を持てば、人生は変えられるというものでは ないかと思います。あのときああしていれば、こうしていれば、という小さな後悔の連続、積み重ねが 思い出なのではないかとあくまでも個人的解釈ですが、そう感じますね。 「しらず森」 団地のそばの神社の裏手にある小高い丘、通称ひょうたん島で、団地に住む尚之少年が 神隠し?にあう話。ひょうたん島は全編通して、重要な場所になっています。 「団地の孤児」 団地内の敷地に住むホームレス、キリストおじさんを扱った作品。意外な結末がもの悲しい。 「溜池のトゥイ・マリラ」 溜池で釣りをする老人と、亀の話です。 「ノートリアス・オールドマン」 変わり者の小池老人の意外な正体とは? 「一人ぼっちの王国」 引越しの不用品のワープロのフロッピーに収められていた小説と その書き手の謎。 「裏倉庫のヨセフ」 尚之に妹が出来た話と、謎の螺旋階段の話です。 「少年時代の終わり」 最初の「しらず森」ともつながる話であり、ある意味SF的な仕掛けも施された 作品。読後、胸がきゅんとなるようなそんな感動がここにあります。 |
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この作品は第52回メフィスト賞を受賞した作品だそうですが、メフィスト賞というイメージとはちょっと違った非常に正統派の、なおかつ社会派でもあるサスペンスミステリーだと思います。現在の日本は少子化社会ということで妊活や出産そして子育てに注目の集まっている時代とも言えるでしょう。そのような現代社会が抱える問題を正面から誠実に扱ったのがこのミステリー「誰かが見ている」です。
登場人物は20代から30代の女性たち。みんなそれぞれ結婚或いは出産というものに対して大きな苦悩を抱えています。ですから同年代の女性がこのレビューを見ていらっしゃったとしたら是非お勧めしたい、そんな作品だと思います。主な登場人物は4人います。 まず千夏子。彼女は夫と子供がいます。そして毎日パートに働きに出ています。一見恵まれたそのような家庭ですが、彼女には一つだけ大きな悩みがあります。それは自分の子供を愛せないということなのです。彼女は母親になることが長年の夢でした。しかし今子供が産まれてみるとどうしてもその子供を愛せないのです。そのことが精神的な悩みになっていきます。妊活の頃始めたブログも一時は人気が出たものの、子育ての嫌悪感の中からほぼ休止状態となってしまいます。そのような満たされない日々の中、夫との関係もあまり良くなくなっていくわけです。 もう一人の登場人物こちらは仕事を持つ女性で結子という名前です。彼女は年齢は30代、そして5歳年下の夫がいます 。夫の家族からのプレッシャーもあり彼女はどうしても子供が欲しいと願っています。しかしなかなか望ように子供はできません。そこで彼女は今妊活に励んでいます。ところが夫が最近夜の生活を拒否するだけではなくなかなか言葉も交わしてくれない、何らかの異変が起き始めているのです。彼女もこの作品の中では重要な役割を占めています。 次に紹介するのが春花と言う保育園の保育士をしている20代の女性です。彼女は職場での人間関係もうまくいかず早く保育士を辞めて結婚したいと望んでいます。漸く結婚相手も見つかり結婚することになりましたが、夫や夫の家族は彼女に対して子供を強く望んでいる、それなのに彼女自身は子供が欲しくないのです。 彼女はこの結婚に対してすごく悩み始めます果たしてこのまま結婚していいのだろうか。 もう一人の女性は柚季と言う主婦の女性です。彼女には杏と言う保育園に通う娘がいます。引っ越してきたばかりの彼女は千夏子と親しくなります。そのきっかけは娘の杏が千夏子の子供である夏紀と同じ保育園に通っているということでした。彼女は夫と娘の杏と3人でタワーマンションで暮らしています。一見すると非常にお金持ちで何の悩みもないようにも見えます。千夏子と柚季の人間関係も最初の頃は友好的だったのですが様々な事柄が起こりトラブルを抱えて行きます。 基本的に今あげた4人の女性を中心にストーリーを展開していきます。激しいストーリーの展開はあまりありません。わりと淡々と進んでいきます。どんでん返しもあることにはあるのですがそこは売り物ではありません。むしろこの小説の最も重要な部分は女性の生き様、妊活、出産子育てそしてさらに夫婦の問題、このことに対して真正面から誠実に書かれたのがこの作品なんだと私は思っています。したがって派手なストーリー展開やドキドキする展開を望んでいる方には非常に地味な作品かもしれません。しかし読み終わった後非常に感動できますし、読んで良かったなと思える作品になっていると思います。是非この作品を読んでいただきたいなとそういう風に思っています。 |
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前川裕先生の最高傑作は個人的には「死屍累々の夜」ではないかと思っています。これにはいろんな意見があるだろうと思いますので、あくまでも私自身の意見です。あの作品で描かれていたのは、ほとんどサイコパスと言って良いような、稀代の悪党の犯罪の物語でした。あの作品の特徴はルポ形式で書かれたものであったということです。今回のこの「アンタッチャブル」これは厳密に言えばルポではありませんがルポ的な視点から書かれた犯罪小説と言っていいかもしれません。様々なストーリーが最後に一点に終結するこれが前川ミステリーの特徴なのですが今回も複数の登場人物の遭遇する犯罪を中心に描かれています。
ストーリーの流れは2つあります。まずは芸能マネージャーの保住、この男は北森という老俳優のマネージャーをやっております。北森は昭和30年代にヒーローものの主役として活躍したものの、その後仕事もなく落ちぶれており今では認知症を患っているのではないかと思われます。ある意味大変な厄介ものです。 保住はこの老俳優をなんとかしたいと考えます。そしてそこからストーリーは展開していくわけです。これ以上は語れませんが、非常に面白い展開を見せていきます。 もう一つの流れは元プロボクサーの瀬尾です。彼は世界チャンピオンにはなれなかったもの日本国内ではそこそこの成績を残したボクサーでした。しかしボクシングでは食えず、今はラーメン屋のバイトとジムでのトレーナーの二つをやりながら生計を立てています。彼には美人の妻もいます。彼が勤務しているラーメン屋にある日長崎と言うヤクザものが現れます。そこからストーリーは恐怖の展開を迎えていくわけです。 この二つの流れがどこで合流するのか、そして事件はどこまで展開していくのか。極めてスリル満点サスペンス満点の犯罪小説となっております。 前川作品ではとにかくよく人が殺されるなという印象です。サイコパス的に平気で人を殺せるような人間がいるというのは、非常に怖いことだと思います。またそのような性格がどんな生い立ちによって形成されたのか、それはよく分かりません。 前川先生は本業は比較文学、アメリカ文学を研究する大学教授と言うことですが、彼の書く小説は非常にいい意味で通俗的というかエンターテイメントに徹しているところが凄いと思います。 結構エロい表現も出てきますね。ちょっと気になるのはこの人の作品の中に出てくる登場人物のセリフの中に「でしょ」という言葉がたくさん出てくるところです。これは先生の口癖なのかもしれませんが、いろんな登場人物が必ず何度もこの「でしょ」を会話の中で使うのです。とにかくよく出てきます。どうでもいいことですが、そこに注目して読んでいただくと言うのも面白いかもしれません。 いずれにせよこの作品「アンタッチャブル」は非常に面白い作品なので読んで損はないと思います。ちなみにアンタッチャブルというタイトルは元プロボクサー瀬尾の現役時代のニックネームです。 |
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とにかくこの本は読んでる途中は非常に面白いです。一気読みです。早く結末が知りたくてページをめくる手が止まりません。私も1時間か2時間ぐらいで読み切ってしまいました。ただ結論的にいますと面白いけれども結末が納得いきませんでしたね。動機もはっきりしないしこのようなことで大量の猟奇殺人を行うとも思えない。前半はものすごいサスペンスでしたが後半は平凡な作品になってしまったという感じしかしませんね。
主人公は真壁修という刑事です。真壁は奥さんを何者かに殺されてしまいました。そして犯人とされる人物は逮捕される直前に交通事故でたまたま死んでしまいました。そして事件が終わって1年後真壁は刑事をやめる決心をします。ところがそこから 官内で次々と連続殺人が起こるんですね。これが極めて猟奇的な殺人で殺し方も残酷で、目を覆うような遺体なんですね。そして奇妙なことに殺されているその被害者は全て女性なのですが、胸に痣があるんですね。この痣と言うのが実はこの真壁の殺された奥さんがの胸にあった痣とそっくりなんです。ということは別れを殺した犯人は別にいて真壁に対して何らかの恨みを抱いて復讐をしている。そしてそのために次々と女性を殺しているんではないのかそういう風にも疑われるわけです。 ここから事件は色々急展開していくわけですね。そしてこの真壁の勤めるその警察の内部の刑事たちとの色々な人間関係の問題。これが複雑に絡んでいくわけです。この辺りの人間模様と言うのが非常に面白いですね。一体犯人は誰なのか、どんでん返しがあるのか、一体どうやって相続させるのかとても興味がありますよねそして結局最後に事件は解決を見るわけですけども、その解決の仕方がちょっと納得いかないですよね。犯人も捕まってみればなんだかなという感じがします。ある意味予想の範囲内でもあるし動機もちょっとわかりません。確かに犯人がこのような気持ちを抱いて育った人間だと言うのは分かります。かといってこれだけ猟奇的な殺人を何件も何件も犯すかと言うとそれはちょっとないんじゃないか。そういう感じがします。何か無理やりそういう人物像を作り上げて犯人にしたという感じがして、どうもこの結末は納得いきませんでした。 正直意外性もそれほどはありません。私としては最後にドカンと大きな意外性があるのかと思いましたが、それほどではなかったです。従ってこの本を評価するとすれば読むのは非常に面白いが、結末がいまいち納得いかないということで、悪くはないんですけども前半期待されたほどの結果が後半出てこないと言うのが 正直な感想です。タイトルの痣というのも思わせぶりな感じがします。一気読みであることは間違いないです。面白いことは面白いです。ただ突き抜けたものはないと言うことですね。そこが少し残念だと思います。 この作者の「乙霧村の殺人」というのを読んだことがありますが、あれも前半超面白くて、後半がひどかったのを思い出しました。 |
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この作者のサンドラ・ブラウンという人はロマンスサスペンス、略してロマサスの代表的な作家の一人だということです。私はロマサスというものは読んだことはなかったのですが、この作品に関してはロマンスというよりもサスペンスいやミステリーの要素は非常に強いと思いました。解説にもありますようにどんでん返しがあるということで、期待して読んだんですが、途中まで読んでもあまりどんでん返し的なものは出てきません。ところが最後の最後に見事などんでん返しがありまして、騙されないように気を付けていた私もまんまと騙されてしまいました。それほど見事などんでん返しでした。
このどんでん返しにあたり、文章が非常に巧妙だというのがありますアンフェアとまではいかないのですが、記述上のあるテクニックと言うか読者を騙すような書き方があります。ただ今も言いましたようにアンフェアとは言えないと思います。この記述上のあるテクニックがなければどんでん返しはおそらく成功しなかったでしょう。あと登場人物欄ですね。ここもよく見ると読者を騙すような仕掛けがあります。アンフェアとは言えないんですが、何かあります。そこは注意していただくしかないと思います。 ストーリーとしては主人公がエモリーという名前の女性医師なんですね。この女性が マラソンの練習のために車で国立公園まで行くわけです。そこで何者かに石で頭を殴られ意識を失って倒れてしまいます。そして目を覚ますといきなり山小屋の中にいるわけです。そしてそばには見たこともない大男がいました。この男がエモリーを山小屋に閉じ込めてなかなか帰してくれないわけです。決して乱暴な男でもありませんし、知的な雰囲気も醸し出すある意味謎の多い人物です。名前も全くわかりませんし、なぜ自分を山小屋に監禁するのかも分かりません。果たして自分を石で殴ったのはこの男なのかまた別に犯人がいるのか、そして何のために自分は石で殴られてここに連れてこられたのか。その理由がさっぱりわからないのです。そしてこの山小屋で暮らす間にエモリーはこの男にある意味 惹かれていく気持ちもあるわけです。そしてこの山で様々な事件が起こります。詳しくは書けませんがいろいろあった末にエモリーはこの山小屋を脱出し、自宅に帰ることが出来たのです。ところがその後あの山小屋の男がエモリーのもとにいきなり現れます。一体何が? ここから先はこれ以上書くことはできません。なぜならこの後にどんでん返しが待ち受けているからです。ロマンスの部分に関して言えばある意味定型的類型的と言えるかもしれません。しかしミステリーの部分に関して言えばかなり面白かったです。気をつけていても騙されてしまうんですね。そういうところがこの作品の優れたいたところだと思います。かなり巧妙なテクニックの持ち主ではないでしょうか 。他の作品も読んでみたくなるような作家ですね |
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「深山の桜」という作品はこのミス大賞の優秀賞を受賞した作品で、アフリカの南スーダンという当時世界で一番新しい国での自衛隊の PKO活動をテーマにした作品です。読んでわかるのはとにかくディテールが細かいということです。いかにも臨場感があり自衛隊の内部のことを非常によく知っている人間でなければ描けない作品なのです。それもそのはずこの作者の神家正成という人は元陸上自衛隊の隊員出身だということです。陸上自衛隊少年工科学校というところを出ている、そういう人ですから生粋の自衛隊員ということになります。もちろん自衛隊幹部つまりキャリア組のエリートではありません。従って地に着いた自衛隊の地味な非常に大変な活動をよく知っているということです。自衛隊のアフリカやカンボジア中東などにおけるPKO活動についてはいろんな議論が国内でなされていることは事実です。戦闘状態にあるかどうかそれの判断で揉めていることも事実です。いずれにしても実際に現場に行くのは自衛隊員であり生身の人間なのです。その現場というものが置き去りにされて国会で政治家たちがあれやこれやと空虚な議論をしているのは非常に虚しい気がします。この作品は自衛隊の有意義さを訴えてはいますが、イデオロギー的に右や左の立場から訴えているものではありません。あくまでも現場を中心とした自衛隊員の矜持を語っているものであります。そのことは非常に有意義なことだと思いますし、自衛隊に対する国民の意義もこの小説を読んで深まることでありましょう。そのことに関して私は一定の評価をいたします。しかしミステリーというのはあくまでもエンターテイメントであり娯楽であり小説です。従って読んで面白いかどうかというのが必要な条件だと思います。果たしてこの小説が読んでいて面白いかと言われれば、ミステリー的には面白くないと言わざるを得ないのです。大きな事件も起こりませんしカタルシスと言うか何と言うか、サスペンスもあまりありません。ある意味自衛隊の基地の内部で銃弾が盗まれるというそういう話ですので、当然外部からの犯行説は非常に考えにくいところなので犯人が誰かというのも大体想像もつきます。従ってミステリ的に見た場合大きなトリックもありませんし、面白くはありませんでした。したがってあまり良い点はつけられないというのが私の感想です。登場人物について言うと中心となるのはこの亀尾と言う准陸尉そして杉村という陸士長、この二人が中心となって展開されています。他にも登場人物がたくさんいますが、あまり登場回数が多くなくあまり重要な人物はいません。ただ不思議に思ったのは東さつきという地元の孤児院に勤めている日本人女性が出てくることです。この女性は民間人なのですが何故かこの自衛隊の基地に出入りしております。果たしてそういうことが実際にあるのかどうかちょっと疑問に思いました。そしてこの東さつきという人をなぜ登場させたのかそれがさっぱり分かりませんそんなに重要な役割を持っていません。よく分かりませんでした。それから南スーダンの避難民の少年イサムという少年もいるんですがあまり重要な役割を果たしておりません。これもとってつけたような登場という感じがします。それからちょっと問題になっているのが植木礼三郎というこの亀尾の友人の息子、これは警務官と言って自衛隊内部の事件を調査するという仕事をしている男なのですが、この男が銃弾の紛失事件の捜査のために、わざわざ日本から来て、調べるわけですちょっとキャラが異様なキャラでいわゆるオネエ、オカマキャラなのです。なぜこのようなキャラにしたのかちょっと理解に苦しみますが、私個人としてそれほど気にはなりませんでした。ただこの人の登場する意味それはあまり感じませんでした。いずれにしても大きな展開もなくこの小説は終わって行きます。ただ一つだけ意外性のある事実が出てきます。これは重要なことではありますがいかがなものでしょう。賛否あるでしょう。これは詳しくはここでは言えませんそれはネタバレになるので、言えません。どうなんでしょうか。それは読んで皆さんに判断していただくしかありません。
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