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いわし雲 さんのレビュー一覧
いわし雲さんのページへレビュー数10件
全10件 1~10 1/1ページ
※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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白河三兎という作家の作品についてはほとんど読んではいますが、非常にテクニックのある作家という印象を持っています。逆に言うとテクニックがありすぎる故に分かりづらいそういう感じのする作家でもあるわけです。今回の作品はまだ一度しか読んでいませんが非常に素晴らしいものでした。.
ある高校のクラスでの話なのですがこの高校のあるクラスに一人の女子校生が転校してきます。舞台は東京東京の高校なのですがこの女の子は大阪出身の子で様々な事情があり、東京のこのクラスに転校してきたというわけです。この女子校生は非常にキャラクター的にものすごく立っているという感じがします。そしてこの高校生を取り巻く何人かの生徒たち、彼らはみんなぼっちと呼ばれる孤独な生徒たちです。彼らは修学旅行に出かけていきます。この時にぼっちたちのグループのリーダーを務めるのがこの女子校生なわけです。そこから先を言うとこれからこの小説を読む人の興味をそぐことになってしまうのでこれ以上は言えませんが、結論的に言うとこの作品は私が読んだ中でも非常に素晴らしい最上位のものでした。この作品から学んだことは、今伝えるべきことは今伝えておかないと、後になって伝えようとしても手遅れになってしまうということです。今を生きることの大事さを一番言いたかったのが作品ではないかと私は思っています。非常に巧妙な叙述テクニックその結果最後の章で明かされる非常に意外などんでん返し。そしてショッキングな結末。これを予想できた人が誰がいるでしょうか。私も予想できなかったしこれを予想した人がいるとすればそれは天才としか言いようがありません。それぐらいこの作家の技巧はすごいものです。是非皆さんも読んでいただきたいと思います。そしてこの最後の結果を知った時に胸に起こるこの切なさ寂しさ悲しさ。これを皆さんに共有していただきたい、そういうふうに私は思っています.。 |
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芦沢央と言えば、どろどろとした人間関係を描いたいわゆる「イヤミス」の代表作家ではありますが
この本の表紙を見るとこれまでの作品とは傾向が違うのではと思われます。 実際読んでみると、イヤミス的な印象はほとんど無く、むしろ人間の素晴らしさを肯定する感動的な作品になっています。 この本は既に発表された4編に、「序幕」と「終幕」を書き下ろして付けた短編集となっています。 それぞれの作品はほとんどが何らかの意味でつながっており、事実上は長編といっていいかも知れません。 例えば登場人物が重なっているなど、この種の「つながりのある短編集」はこれまでも多々ありましたが 中でもこの本は最も秀逸な作品のひとつかも知れません。それほどよくできています。 「序章」 若手サラリーマンの松尾が、康子先輩がいやな上司の背任を告発するための証拠集めに協力させられ、奔走する話。 これを読むとまるでくだらないドタバタ喜劇さながらの内容で、もしかすると面白くないのでは?と懸念させられますが、ある意味重要な出だしであるわけなんですね。実は。 「第一幕 息子の親友」 シングルマザーと小学生の息子の話。 自分の子供の素晴らしさを知らないのは実は母親だったりする、というちょっと感動的な話です。 「第二幕 始まるまで、あと五分」 個人的には一番好きな作品です。恋愛ものなんですがホッコリする話すね。 「第三幕 舞台裏の事情」 舞台に出演する男性人気アイドルが女性関係をネタに降板しろという脅迫状を受け取る。 果たしてその意外な犯人とは? 「第四幕 千賀稚子にはかなわない」 認知症の影が忍び寄るベテラン女優の、覚悟と決意。 プロとは何なのかを考えさせられます。 「終幕」 この小説のまさに終幕というか最初の「序章」の意外な結末がここに書かれています。 この小説のシメですかね。松尾と康子の関係も気になるところです。 |
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時代物を得意とする作者ですが過去明治時代を舞台にしたミステリーを
何冊か出しています。それらは時代背景を含め非常に面白いもので 私は全て気に入っています。最も楽しみな作家の一人です。 今回は舞台が明治ではなく昭和初期となっています。昭和11年ですね。 したがってこれまでの作品と違い、近代化がかなり進んでおり、車も電話も普及しており 捜査においても指紋が重要視されていて、基本的に現代の話として読んでもさほど違和感がありません。 帝都東京において次々と死体が発見されます。 最初に見つかった被害者には刺し傷が7ヵ所ありました。次の被害者は6ヵ所、次は5ヵ所 とだんだん減っていきます。これは一体どういう理由なのか。謎に隠された驚愕の真相とは? ほとんどの読者は予想がつかないと思います。 事件の捜査は特別捜査隊が行います。隊長は腕利きの郷咲警視、彼は1年前に事故で妻を失い 娘の多都子と二人暮しです。探偵小説好きの多都子は言ってみれば郷咲のアドバイザー的存在。 果たして警視庁と特捜隊の誇りをかけた捜査はどうなるのか。この類まれなる怪事件の真相とは? 面白くて一気読みしてしまいました。本格ものではあるんですが、ちょっと事件が事件だけに ホラー的な色彩もあるような気がします。後半はどんでん返しに次ぐどんでん返し、最後の1行は 悲しいですかね。 文章が抜群に上手く読みやすいので 是非お薦めしたいですね。 他の作品も。 |
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いきなり最初に白骨化した四人の死体発掘のシーンから始まります。
果たしてこの死体は誰のものなのか、これがこの作品の最大の謎であり 中心部分なのですが、割と簡単に想像がついてしまいます。 したがってミステリとしては大きな意外性や展開はありません。 しかし文章が非常に上手く読みやすく、心理描写も巧みで小説としては かなりのものだと思います。 この物語の主役はかつて悪辣な金貸し商売で富を築いた「人食い」と呼ばれた男の 子孫「五十坂家」の家族です。家族以外の人物はほとんど出てこないという珍しい作品です。 大正時代に誕生した、人食いの子孫である五十坂公一郎とその妻弥生、公一郎の妹璃理子 そして四人の娘たちとさらにその子供たちが登場人物です。 過去と現在が交互に描かれ、人食いの子孫という業を背負った一族の深い闇が次第に 明らかにされていくその過程は面白く一気読みしました。双子間の心の確執であったり そういった心理も上手く描かれていますし、家族とは何かを考えさせる作品になっています。 |
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関西の老舗製薬会社を経営する氷姫一族の豪邸「赤屋敷が」六甲の山中にあります。ここで4人の若者が次々と謎の自殺を遂げます。
はたしてこれらは自殺なのか、それとも・・・・。 亡くなった4人に共通するのはそれぞれ理由は異なれ、全員「ひきこもり」だということです。最初に自殺したのが、氷姫家の跡取り、高校生の智耶でした。 これは密室での死ということで自殺と結論づけられました。これ以降氷姫家ではボランティアとして引きこもりの若者を預かるのですが、彼らが次々と自殺していきます。 この事件に挑むのが、カルト玩具店を営む独特なキャラを持つ鴉原という男です。 とここまで書くと普通のミステリーではないかと思われるでしょうが、この作品が特異なのは、 タイトルからもお分かりのように、すべての事件にケムール人の影が見え隠れしていることです。 ケムール人とは改めて言うまでもなく、特撮ドラマ「ウルトラQ」の第19話「2020年の挑戦」に登場する宇宙人で、実にシュールで不気味な外見をした怪人です。 このデザインを作ったのが成田亨で、彼はウルトラQの多くの怪獣のキャラクターデザインだけでなく、ウルトラマンをはじめとする数多くのヒーローや怪獣を生み出したにもかかわらず 著作権問題で、円谷プロと対立し、その後不遇の死を遂げます。 なぜケムール人なのかというと、おどろおどろしい雰囲気に合っているからというのもあるでしょうが、ケムール人であるという必然性は無いと思います。やはりケムール人を通して 世間で過小評価されすぎている成田亨という稀代の天才芸術家を世に知らしめ、評価してもらうために、強烈なるりスペクトを込めて書かれた作品だという気がします。 私も恥ずかしながら彼のことは詳しくなかったのですが、ええっ! アレもコレも成田の作品かよと驚かされました。まさに戦後最大のアーティストの一人だと思います。 大人の事情で、ケムール人の写真がどこにもないのが残念ですね。 ミステリーとしてはトリックや犯人など、ある程度読みなれている読者にはすぐに分かると思います。ただ何かを伝えたいという強い思いは評価したいですね。 |
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心温まる短編集 良作です。
東京郊外にあるマンモス団地を舞台にした7編が収められた短編集です。 団地というのは大勢の人が住んでおり、さまざまな店舗や病院、郵便局などがあります。 また学校や保育園などもあったりして、そこから出なくても極端な話生活が成り立ってしまう ある意味一つの閉じられた町という感じがします。 それゆえそこには無数の物語が存在するのです。 7編はそれぞれが独立した物語ではありますが、全体が上手くつながっていて しかも同じ団地内ですから、登場人物も当然共通していたりします。 その人間関係のアヤもこの作品の大切な要素の一つですが、さらに大きな魅力は SF的な仕掛けです。具体的には書けませんが、この仕掛けが上手く功を奏しているのでは ないでしょうか。派手さはありませんが、心温まる佳作としてお薦めします。 作者の一番言いたいことは、みんながちょっとした勇気を持てば、人生は変えられるというものでは ないかと思います。あのときああしていれば、こうしていれば、という小さな後悔の連続、積み重ねが 思い出なのではないかとあくまでも個人的解釈ですが、そう感じますね。 「しらず森」 団地のそばの神社の裏手にある小高い丘、通称ひょうたん島で、団地に住む尚之少年が 神隠し?にあう話。ひょうたん島は全編通して、重要な場所になっています。 「団地の孤児」 団地内の敷地に住むホームレス、キリストおじさんを扱った作品。意外な結末がもの悲しい。 「溜池のトゥイ・マリラ」 溜池で釣りをする老人と、亀の話です。 「ノートリアス・オールドマン」 変わり者の小池老人の意外な正体とは? 「一人ぼっちの王国」 引越しの不用品のワープロのフロッピーに収められていた小説と その書き手の謎。 「裏倉庫のヨセフ」 尚之に妹が出来た話と、謎の螺旋階段の話です。 「少年時代の終わり」 最初の「しらず森」ともつながる話であり、ある意味SF的な仕掛けも施された 作品。読後、胸がきゅんとなるようなそんな感動がここにあります。 |
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この作品は第52回メフィスト賞を受賞した作品だそうですが、メフィスト賞というイメージとはちょっと違った非常に正統派の、なおかつ社会派でもあるサスペンスミステリーだと思います。現在の日本は少子化社会ということで妊活や出産そして子育てに注目の集まっている時代とも言えるでしょう。そのような現代社会が抱える問題を正面から誠実に扱ったのがこのミステリー「誰かが見ている」です。
登場人物は20代から30代の女性たち。みんなそれぞれ結婚或いは出産というものに対して大きな苦悩を抱えています。ですから同年代の女性がこのレビューを見ていらっしゃったとしたら是非お勧めしたい、そんな作品だと思います。主な登場人物は4人います。 まず千夏子。彼女は夫と子供がいます。そして毎日パートに働きに出ています。一見恵まれたそのような家庭ですが、彼女には一つだけ大きな悩みがあります。それは自分の子供を愛せないということなのです。彼女は母親になることが長年の夢でした。しかし今子供が産まれてみるとどうしてもその子供を愛せないのです。そのことが精神的な悩みになっていきます。妊活の頃始めたブログも一時は人気が出たものの、子育ての嫌悪感の中からほぼ休止状態となってしまいます。そのような満たされない日々の中、夫との関係もあまり良くなくなっていくわけです。 もう一人の登場人物こちらは仕事を持つ女性で結子という名前です。彼女は年齢は30代、そして5歳年下の夫がいます 。夫の家族からのプレッシャーもあり彼女はどうしても子供が欲しいと願っています。しかしなかなか望ように子供はできません。そこで彼女は今妊活に励んでいます。ところが夫が最近夜の生活を拒否するだけではなくなかなか言葉も交わしてくれない、何らかの異変が起き始めているのです。彼女もこの作品の中では重要な役割を占めています。 次に紹介するのが春花と言う保育園の保育士をしている20代の女性です。彼女は職場での人間関係もうまくいかず早く保育士を辞めて結婚したいと望んでいます。漸く結婚相手も見つかり結婚することになりましたが、夫や夫の家族は彼女に対して子供を強く望んでいる、それなのに彼女自身は子供が欲しくないのです。 彼女はこの結婚に対してすごく悩み始めます果たしてこのまま結婚していいのだろうか。 もう一人の女性は柚季と言う主婦の女性です。彼女には杏と言う保育園に通う娘がいます。引っ越してきたばかりの彼女は千夏子と親しくなります。そのきっかけは娘の杏が千夏子の子供である夏紀と同じ保育園に通っているということでした。彼女は夫と娘の杏と3人でタワーマンションで暮らしています。一見すると非常にお金持ちで何の悩みもないようにも見えます。千夏子と柚季の人間関係も最初の頃は友好的だったのですが様々な事柄が起こりトラブルを抱えて行きます。 基本的に今あげた4人の女性を中心にストーリーを展開していきます。激しいストーリーの展開はあまりありません。わりと淡々と進んでいきます。どんでん返しもあることにはあるのですがそこは売り物ではありません。むしろこの小説の最も重要な部分は女性の生き様、妊活、出産子育てそしてさらに夫婦の問題、このことに対して真正面から誠実に書かれたのがこの作品なんだと私は思っています。したがって派手なストーリー展開やドキドキする展開を望んでいる方には非常に地味な作品かもしれません。しかし読み終わった後非常に感動できますし、読んで良かったなと思える作品になっていると思います。是非この作品を読んでいただきたいなとそういう風に思っています。 |
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この作者のサンドラ・ブラウンという人はロマンスサスペンス、略してロマサスの代表的な作家の一人だということです。私はロマサスというものは読んだことはなかったのですが、この作品に関してはロマンスというよりもサスペンスいやミステリーの要素は非常に強いと思いました。解説にもありますようにどんでん返しがあるということで、期待して読んだんですが、途中まで読んでもあまりどんでん返し的なものは出てきません。ところが最後の最後に見事などんでん返しがありまして、騙されないように気を付けていた私もまんまと騙されてしまいました。それほど見事などんでん返しでした。
このどんでん返しにあたり、文章が非常に巧妙だというのがありますアンフェアとまではいかないのですが、記述上のあるテクニックと言うか読者を騙すような書き方があります。ただ今も言いましたようにアンフェアとは言えないと思います。この記述上のあるテクニックがなければどんでん返しはおそらく成功しなかったでしょう。あと登場人物欄ですね。ここもよく見ると読者を騙すような仕掛けがあります。アンフェアとは言えないんですが、何かあります。そこは注意していただくしかないと思います。 ストーリーとしては主人公がエモリーという名前の女性医師なんですね。この女性が マラソンの練習のために車で国立公園まで行くわけです。そこで何者かに石で頭を殴られ意識を失って倒れてしまいます。そして目を覚ますといきなり山小屋の中にいるわけです。そしてそばには見たこともない大男がいました。この男がエモリーを山小屋に閉じ込めてなかなか帰してくれないわけです。決して乱暴な男でもありませんし、知的な雰囲気も醸し出すある意味謎の多い人物です。名前も全くわかりませんし、なぜ自分を山小屋に監禁するのかも分かりません。果たして自分を石で殴ったのはこの男なのかまた別に犯人がいるのか、そして何のために自分は石で殴られてここに連れてこられたのか。その理由がさっぱりわからないのです。そしてこの山小屋で暮らす間にエモリーはこの男にある意味 惹かれていく気持ちもあるわけです。そしてこの山で様々な事件が起こります。詳しくは書けませんがいろいろあった末にエモリーはこの山小屋を脱出し、自宅に帰ることが出来たのです。ところがその後あの山小屋の男がエモリーのもとにいきなり現れます。一体何が? ここから先はこれ以上書くことはできません。なぜならこの後にどんでん返しが待ち受けているからです。ロマンスの部分に関して言えばある意味定型的類型的と言えるかもしれません。しかしミステリーの部分に関して言えばかなり面白かったです。気をつけていても騙されてしまうんですね。そういうところがこの作品の優れたいたところだと思います。かなり巧妙なテクニックの持ち主ではないでしょうか 。他の作品も読んでみたくなるような作家ですね |
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櫛木理宇という作家は以前読んだことがありますが、あまり面白かった印象はありません。ただ今回選んだこの作品は、最近読んだものの中ではかなり面白いものでした。いわゆるイヤミス系のホラーとでも言いましょうか。短編が5つ収められておりそれぞれが独立して読んでも面白いのですが、全て繋がっていて全体を読むと事の真相が分かります。
それぞれの作品に共通しているのは女性が主役ということです。彼女たちは皆心に闇を抱えております。非常に傷ついた心で毎日を送っている。そんな女性が不幸に巻き込まれていきます。舞台はある瀟洒なマンションです 。ここの209号室から来たという謎の少年、「葵」この少年がまさに魔を呼ぶ少年というか、彼が現れることでそれぞれの家族が破綻していくというストーリーになっています。 イヤミスの最大の特徴は読後感が悪いということではないでしょうか。事件は解決されたのに何か嫌な気持ちが残ってしまう。 本来であれば楽しむために読書をするのですが、このイヤミスを読むと気分が何か悪くなってしまう、この作品もまさにそういった作品です。しかもこの作品はホラーなのです。楽しい理由はありません。しかし209号室にいったい何がいるのかそして全てを明らかにするその真相とは一体何なのか、 時間忘れて読まざるを得ません。これもまた読書の楽しみのひとつだと思います。嫌だ嫌だと言いながら結局読んでしまうのが イヤミスの魅力だと思います。結局面白いんですね。 第一話「コドモの王国」 このマンションの一室に住む若い若い夫婦と三歳の男の子雄斗。どこにでもいるようなほほえましい一家ではあるのですが、妻の菜穂は夫に不満を抱いています。やんちゃで悪戯好きな息子、その息子の教育を一切せず息子と一緒になって遊んでばかりいる、そんな夫に対して菜穂は大きなストレスを抱えています。そんな中ある日息子の雄斗に新しい友達が友達が出来ました。その友達の名前は「葵」という6歳の少年。209号室に住んでいると言います。どうやら鍵っ子らしく両親は昼間いないようです。葵は毎日のように菜穂の家に入り浸り朝から晩まで雄斗と遊んだり、また食事も全て一家と一緒に食べるようになりました。その事で菜穂はさらにストレスをを抱えていくのですが、この葵という少年の正体は一体なのなんなのか。そして待ち受ける悲劇とはいったい何なのか。209号にはいったい何があるのか。最初の作品にふさわしい出来だと思います。 第二話「スープが冷める」 第2話の主人公もストレスを抱える女性です。彼女の名前は石井亜沙子。ある会社の主任を務めています。非常に仕事のできるキャリアウーマンということで会社では通っています。年下の夫はいますが、現在海外に赴任中。自宅では夫の母親と二人で暮らしています。子供はいません。この夫の母親は人間的には悪い人物ではないのですが、50代半ばを過ぎて未だに少女趣味の抜けない世間知らずな女性で、いわゆる空気の読めない人物なのです。悪い人でないだけにやることなすこと気に障り、亜沙子はこの義母のことが非常に嫌いになります。とにかくこの義母は常識というものが一切ありません。なんとある日3歳ぐらいの男の子をスーパーで見つけ、自宅に連れ帰ってきます。そしてまるで自分の真の孫のように世話を始めるのです。この男の子の名前が「あおい」という名前なのです。この男の子が来ることによってまた不幸な事態が起こり始めます。それは読んでからのお楽しみです。 第三話「父帰る」 専業主婦である千晶が主人公です。彼女はまだ24歳ですが17歳の義理の息子がいます。つまり彼女は後妻であり夫はかつての上司なのです。夫の前妻つまり義理の息子の本当の母親は数ヶ月前に病気で亡くなっています。このような複雑な関係を抱える彼女はやはり心にストレスというものを持っています。また彼女は幼い頃養子に出されたそんな体験があります。なぜ彼女は養子に出されたのかその裏に隠された秘密とは何なのか。そこもまた興味深いところではあります。そんな中ある日、義理の息子が一人の男の子を連れ帰ってきます。その男の子はランドセルを背負った小学生で名前が「葵」と言います。もちろんこの「あおい」という少年は209号室から来たと言います。例によってこの「葵」が来てから恐ろしい出来事が次々と起こるのです。これもまた読んでからのお楽しみだと思います。 第4話「あまくてにがい」 第4話の主人公はOLの和葉です。ストーリーの終盤に向けて物語は少し動きを見せてきます。 和葉が住んでいるのは何とあの209号室なのです。この和葉には別のところに住んでい奈々香という妹がいます。子供の頃から何でも和葉ものを欲しがってきたこの妹を、和葉は大変憎んでいました。 この和葉のもとに7歳から8歳ぐらいの少年がやってきます。そして USBメモリを残して行きますこの USB メモリを和葉は再生してみました。そこには動画が写っておりました 果たして動画に写っていたものは何なのか。事件は急展開を始めていきます。 第五話「忌み箱」 この作品で全体の謎が解き明かされます。よって詳しいことは書けません。主人公は209号室のオーナーである波佐野羽美です。彼女もまた心に闇を抱える女性でした。ここから先は読んでいただくしかないのですが、着地点がここだったというのはなにか腑に落ちないというか、肩透かしを食った感が無きにしもあらずですかね。ありがちな種明かしといえるかも知れませんね。ただ面白く、一気に読み終えてしまったほどですから、作品の出来はかなりのものだと思います。ホラーなんですが、あまりおどろおどろしい内容ではないです。肩の凝らないさくっと読める作品に仕上がっていてとても楽しめました。 |
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【ネタバレかも!?】
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非常に残酷な過去の歴史があった、そのことに目を背けて生きていくことは非常に楽かもしれませんが、やはり見逃してはいけない歴史というものがあります。その一つがこの作品で描かれているハンセン病なのではないでしょうか。ハンセン病が他人に伝染する可能性は全くないということが今の医学ではわかっており、治療する方法も確立されているということです。それにもかかわらず戦前から戦後にかけてまでは彼らは差別の対象とされ療養所と称する場所に隔離されてしまう、これが国策として行われていたという事にまずは驚かされてしまいます。この作品はルポルタージュを得意とする石井光太という作家が書いた初めての小説だそうです。この作品の舞台は四国は香川県の高松市にある雲岡という田舎の小さな村での話です。この閉鎖的な村においてハンセン病患者もまた非常で過酷な差別の対象でありました。ハンセン病患者たちは寺に十数人人がまとまって住み、世の中から隠れるようにして生きていました。この中のに乙彦というハンセン病ではない少年が、あるきっかけで紛れ込んで来ます。そこから始まる極めて残虐非道な差別と暴力の世界、見方によってはグロいというふうに思われる方も居るでしょう。この本の批評などを見ると一般の読者は、やりすぎなのではないかこういう風に思っている人が多いようです。しかしどうでしょうか。逆にタンパクに書いていればこんなものじゃないよ現実はという批判がくるでしょう。私個人の感想で言うならば現実はもっとひどかったと思っています。ここに書いてあることですが相当ひどいです。目を背けたくなるような描写がかなり出てきます。物語の舞台となったのは昭和27年頃です。そこから約60年の時を経て、かつてこの寺に住んでいた乙彦に殺人の疑惑をかけられます。乙彦はこの60年の間に血反吐を吐くようなものすごい努力をして事業家として成功して、都議になり人権問題に取り組むいわば叩き上げの人物でした。この乙彦がなぜ殺人の疑惑をかけられたのか、その根本は60年前のあの村での生活にあったのです。物語は60年前と現在と交互に描くという形で構成されています。物語の中心にあるのはこの乙彦の息子、彼は医者です。彼は医者であることに対して非常に心の中で葛藤を抱えています。なぜなら彼を医者にしたのは父親乙彦だったからです。乙彦は子供の頃ハンセン病患者を見てきたその思いから何としても息子を医者にしたかったのです。果たして父親は殺人を犯したのか。そしてその被害者は乙彦たちを苦しめた村人の中の二人であったのです。既に彼らは90歳の齢を迎えていました。動機は十分あります。しかしさらに重要な人物がこの事件の中にはいます。それは60年前に乙彦たちと一緒に暮らしていたハンセン病の少女小春です。この小春は果たしてその後生きているのかいないのか、 それはこの本の結末を読んでいただければわかると思いますが、この少女の存在というものが非常にこの物語の中では大きい位置を占めています。ある意味この物語の中心的な人物は子の小春ではないでしょうか。そして最後に明かされる大きな秘密、その部分はネタバレになるのでここでは書けませんが、いずれにしても一人でも多くの人に読んでいただきたい作品だと思います。この物語の中で小春がつぶやく一つの言葉があります。「そうよ生きちゃいけなかったのよ。らい病ってのはこの世でのうのうと生きちゃいけない存在なの。」非常に心にグサリと突き刺さる言葉です。この言葉が少女の口から出てくるほど厳しい時代だったということがよくお分かりだと思います。ほんの60年前の話です。60年と言うと長いように思えますが、長い歴史の中ではつい昨日のような話です。 多くのハンセン病患者を苦しめてきた、らい予防法、この悪法が1996年に廃止されるまで、続いてきたということに驚きを禁じえません。ほんの少し前までこのような差別的な法律が存在してきた。そしてさらに大きな問題は決してハンセン病は終わったというものではないのです。裁判で賠償を受けた人以外にも数え切れないほどの患者がいるのです。また裁判に勝ったからといって、それまで受けてきた差別や苦しみは回復されるものではありません。我々はこの長い差別の歴史を絶対に忘れてはいけないと思います。そしてこれから明るい未来をつくるためにこの教訓を生かして行くべきだと思っています。それとこの物語で使われているセリフ、これが共通語なのを読者の中には批判をする人がいます。たしかに香川県の田舎で使われている言葉がなぜか共通語というのには、違和感を覚えることは事実です。しかしとはいっても完全に地元の方言で書いてしまったのでは読者のほとんどは理解できないのではないでしょうか。だからその違和感をがあったとしてもあくまでも多くの人がより理解しやすいということを優先して、作者は共通語を使ったと思います。 NHKの大河ドラマでもだいたい出てくる言葉は共通語です。それは仕方のない話だと思います。方言だと誰も分からないですから、その地方以外の人達は。ここはしょうがないと思います。
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