■スポンサードリンク
いわし雲 さんのレビュー一覧
いわし雲さんのページへレビュー数3件
全3件 1~3 1/1ページ
※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
閲覧する時は、『このレビューを表示する場合はここをクリック』を押してください。
閲覧する時は、『このレビューを表示する場合はここをクリック』を押してください。
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
発想自体は非常に面白いと思いました。かつて子供時代、同じ絵画教室で絵を学んでいた二人の男女、優希と淳之介が大学時代に再会するんですね。
この二人が過去の子供時代の共通のある知り合いの人物について会話を交わすわけです。それはその絵画教室の講師だったある女性の息子で 健と呼ばれる人物なんです。二人で話しているうちにどうにも奇妙な気分になってくるわけです。なぜかと言うと同じ人物について話しているはずなのにどうも記憶に違いが見られるわけです。 優希の方はこのタケシのことを絵本の中の架空の人物だと思い込んでいました。ところが淳之介は全国的に有名なバレーボール選手だと思い込んでいるわけです。不思議ですよね、二人の記憶がなぜこれだけ食い違ってくるのか。もしかすると二人の記憶は書き換えられたのではないかそう思って彼らは色々調査を始めるわけです。 ここまでは非常に話の流れとしては面白いんです。非常に怖く思えます。薄ら寒い感じすらしますよね。ところがここから先がイマイチなんですね。この記憶の書き換えという行為自体がそもそも実際にできるものなのかどうか可能なのかどうか。これがよく分かりません。いかにも簡単にできるように言っていますが、実際には実現不可能だと思います。それぐらい稚拙な方法なんですね。こんなことで人の記憶は簡単には書き換えられない、そういう風に私は感じました。 それともう一つの記憶を書き換えたその理由です。これもなんだかよくわからないんですね。果たしてこんなことで人の記憶を書き換えるようなことをするものかどうか、すごく幼稚なわけなんですよ。読んでいただければ分かると思いますけども。そんなことは絶対に普通やらないでしょう。つまり動機と方法、この二つが非常に幼稚というかありえないんですね。記憶の書き換えという発想としては非常に面白いんですよ。ただ内容がそれについて行ってないんですね。そこが最大の問題なんですよこの小説の。その部分が作者の力量がまだ足りないと言えば言えるわけで、そこが非常に残念だと思うんです。探偵役として出てくる女性心理カウンセラーこの人物なんかも非常に魅力的な存在ではあるんですけれどもこのような内容の薄い事件だと彼女の凄さも生きてこないと思うんですよ。その部分が非常に残念だ、そう思うわけです。 話はちょっと違うかもしれませんが人間の記憶というものは非常に不思議なものですよね。私なんかもよく夢を見ますが、長い間全く頭の片隅にも思い浮かばなかった何十年前の小学生時代の同級生が、夢に出てくるわけです。 しかも夢の中においてストーリーに組み込まれて出てくるわけです。なぜ 突然出てきたのでしょうか。不思議ですね。このように人の記憶とは非常に不思議で面白いものです。ですから その面白さがうまく伝わるように小説を書いていただきたいというのが私からのお願いです。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
「深山の桜」という作品はこのミス大賞の優秀賞を受賞した作品で、アフリカの南スーダンという当時世界で一番新しい国での自衛隊の PKO活動をテーマにした作品です。読んでわかるのはとにかくディテールが細かいということです。いかにも臨場感があり自衛隊の内部のことを非常によく知っている人間でなければ描けない作品なのです。それもそのはずこの作者の神家正成という人は元陸上自衛隊の隊員出身だということです。陸上自衛隊少年工科学校というところを出ている、そういう人ですから生粋の自衛隊員ということになります。もちろん自衛隊幹部つまりキャリア組のエリートではありません。従って地に着いた自衛隊の地味な非常に大変な活動をよく知っているということです。自衛隊のアフリカやカンボジア中東などにおけるPKO活動についてはいろんな議論が国内でなされていることは事実です。戦闘状態にあるかどうかそれの判断で揉めていることも事実です。いずれにしても実際に現場に行くのは自衛隊員であり生身の人間なのです。その現場というものが置き去りにされて国会で政治家たちがあれやこれやと空虚な議論をしているのは非常に虚しい気がします。この作品は自衛隊の有意義さを訴えてはいますが、イデオロギー的に右や左の立場から訴えているものではありません。あくまでも現場を中心とした自衛隊員の矜持を語っているものであります。そのことは非常に有意義なことだと思いますし、自衛隊に対する国民の意義もこの小説を読んで深まることでありましょう。そのことに関して私は一定の評価をいたします。しかしミステリーというのはあくまでもエンターテイメントであり娯楽であり小説です。従って読んで面白いかどうかというのが必要な条件だと思います。果たしてこの小説が読んでいて面白いかと言われれば、ミステリー的には面白くないと言わざるを得ないのです。大きな事件も起こりませんしカタルシスと言うか何と言うか、サスペンスもあまりありません。ある意味自衛隊の基地の内部で銃弾が盗まれるというそういう話ですので、当然外部からの犯行説は非常に考えにくいところなので犯人が誰かというのも大体想像もつきます。従ってミステリ的に見た場合大きなトリックもありませんし、面白くはありませんでした。したがってあまり良い点はつけられないというのが私の感想です。登場人物について言うと中心となるのはこの亀尾と言う准陸尉そして杉村という陸士長、この二人が中心となって展開されています。他にも登場人物がたくさんいますが、あまり登場回数が多くなくあまり重要な人物はいません。ただ不思議に思ったのは東さつきという地元の孤児院に勤めている日本人女性が出てくることです。この女性は民間人なのですが何故かこの自衛隊の基地に出入りしております。果たしてそういうことが実際にあるのかどうかちょっと疑問に思いました。そしてこの東さつきという人をなぜ登場させたのかそれがさっぱり分かりませんそんなに重要な役割を持っていません。よく分かりませんでした。それから南スーダンの避難民の少年イサムという少年もいるんですがあまり重要な役割を果たしておりません。これもとってつけたような登場という感じがします。それからちょっと問題になっているのが植木礼三郎というこの亀尾の友人の息子、これは警務官と言って自衛隊内部の事件を調査するという仕事をしている男なのですが、この男が銃弾の紛失事件の捜査のために、わざわざ日本から来て、調べるわけですちょっとキャラが異様なキャラでいわゆるオネエ、オカマキャラなのです。なぜこのようなキャラにしたのかちょっと理解に苦しみますが、私個人としてそれほど気にはなりませんでした。ただこの人の登場する意味それはあまり感じませんでした。いずれにしても大きな展開もなくこの小説は終わって行きます。ただ一つだけ意外性のある事実が出てきます。これは重要なことではありますがいかがなものでしょう。賛否あるでしょう。これは詳しくはここでは言えませんそれはネタバレになるので、言えません。どうなんでしょうか。それは読んで皆さんに判断していただくしかありません。
|
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
人工知能をテーマとした近未来ミステリー小説ということで、横溝正史賞というイメージとはかなりかけ離れたものになっています。それでいながらこのような賞を取ったからにはよほど面白いのだろうと期待しましたが、読んでみるとあまり面白いものではなかったというのが正直な感想です。
主人公は人工知能の開発に関わる研究者の工藤という若いという男です。ある時彼の所属する会社が新しいソフトを開発することになりました。そのソフトとは、今は亡き謎の美少女ゲームクリエイター水科晴の人工知能を作ること、そしてそのソフトを会社として売り出すのが目的です。 人工知能とはご存知のように自ら学習して賢くなっていくそんなソフトのことを言います。この本を読んで納得がいかないのはこの工藤という男が人工知能というものをあまり信用していないということです。 人工知能は人間を超えるような知性でもなんでもなく時には予想を超える行動をすることがあるが、それはあくまでも説明可能な範囲での行動であり、単なる道具に過ぎない。そんな考えを彼は人工知能に対して持っているわけです。言ってみれば人工知能を否定しているという、そんな感じすらします。その彼が会社としての開発が中止になった後も、水科晴の人工知能を個人的に作ろうとするということ自体非常に矛盾した感じがいたします。しかもその人工知能を作るモチベーションとなるのが晴に対する恋愛感情だということなのです。この工藤という男は恋愛というものに関しても非常に否定的な考えを持っている男で、そんな男がすでにこの地球上に存在しない晴に対して恋心を抱くというのも非常に矛盾した感じがします。 一言で言うと全体的に浅い、そんな印象を受ける小説なのです。ミステリー小説としても謎が非常に浅いという感じがします。ドキドキするような展開もなく大きなスリルもサスペンスもなく、淡々と話は進んでいきます。そして終わってみればあーやっぱりそうか やっぱり着地点はそういうことか、というがっかり感がハンパないのです。ミステリーとして非常に底が浅いし、近未来のSF小説というそんな感じもない,また恋愛小説としてみたとしても中途半端な感じがいたします.とにかくどのような読み方をしても基本的に全てが浅い,それがこの小説だという気がします。本の最後に載っている選評を読むと、他の作品を圧倒した内容で、短時間で選考が終わったという有栖川有栖氏のコメントが載っていますが、果たしてそうなのでしょうか。これが他を圧倒していたというのであれば他はよほどひどかったとしか、言いようがないのではないでしょうか 。もっとちゃんと選んで欲しかったと思います。 |
||||
|
||||
|