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いわし雲 さんのレビュー一覧

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レビュー数4

全4件 1~4 1/1ページ

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No.4:
(7pt)

読後感がいい 家族とは血とは何かを考えさせる良作

基本的にミステリというものは、欲や憎悪などある意味人間の嫌な部分を扱ったものなので、やはり読むのにはエネルギーを使いますね。イヤミスなんか特にそうですが。この作品も最初はそういう憎しみから来る復讐話かと思ってたんですけど、予想外に読後感がさわやかでしたね。

主人公の西尾木敏也は大企業の経営者西尾木雄太郎の次男、といっても実は法的には息子ではない、血のつながりはありません。雄太郎の愛人の連れ子なんですね。長男の雄一は抑圧的な父に逆らい家を出て数年、千秋という貧しいが心の美しい女性と暮らしていました。

二人の間には、結希という幼い女の子がいます。ところが雄一は事故で不幸な死を遂げます。敏也自身も嫌いな義父の元を離れ、一人暮らしをしているわけです。仕事はその義父のコネで入った系列会社。

さらに不幸なことに千秋は癌のために亡くなってしまいます。そこで敏也は血のつながらない兄雄一の子供である結希を自らの養子にして育てるのです。どうしてわざわざ慣れない子育てを苦労してするのか。果たして敏也の目的とは? 詳しくはネタバレになるので、書けませんが、ある程度読者は想像がつくでしょう。要はある目的というか、計画のために数年費やして結希を育てるわけですね。結希が10歳になったとき、敏也はある行動に出ます。

ここまで書くと怖い復讐話に思えますが、あまり怖さはありません。
敏也という青年がいい奴なのと、同居する亜沙子とおねえの汐野のキャラによるものだと思いますが、血のつながらない4人の同居生活が楽しそうだからです。最後にはどんでん返しもありますが私はこの結末を受け入れますね。いずれにしても読後感が良く、たまにはこういう作品もいいのではと思いましたね。





空色の小鳥 (祥伝社文庫)
大崎梢空色の小鳥 についてのレビュー
No.3: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

戦中ミステリの佳作

作者の岡田秀文は時代物を得意とする作家ですが、その一方で明治や昭和初期を舞台とするミステリーをたくさん書いております。個人的には私はそれらのほとんどを読んでおりますが非常に気に入っています。時代背景あるいはその時代の雰囲気というものが非常によく伝わってきて面白いのです。今回の作品は「白霧学舎探偵小説倶楽部」というものです この作品は太平洋戦争さなかのある地方の街を舞台とした作品ですこの作品の主人公である宗八郎は、ある事情から東京から地方のこの街の高校に編入してきます。 この高校でできた何人かの親しい友人たちと一緒に難解な殺人事件を開始していこうというそういう話です 。この街では何年か前から不審な連続殺人が起こっていました。この事件を彼らが結成した探偵倶楽部が色々調査して解決しようとします。ところがある日彼らの仲間の一人が殺されてしまいます。果たしてこれまで起きてきた連続殺人と何らかの関係があるのかどうか、彼らは仲間を殺した犯人を探すためにまた捜査を再開するわけです。この小説はミステリーでもあると同時にあの時代を描いた青春小説という一面をもっています。そしてこの事件はこれ以上話すとネタバレになるので言えませんが、実は戦争という暗い影が起こした犯罪でもあるのです。それは読んでいただくしかありません今回のミステリーはトリック的にはイマイチだと思います。これまでの中ではあまりレベルの高くないそんな作品かもしれません。しかし今このような戦前戦中を描くそんな作家が少なくなった現在において、この作家の貴重性というものは非常に大事なのではないでしょうか。これからも注目していきたい作家だなという風に私は思っています。

白霧学舎 探偵小説倶楽部 (光文社文庫 お)
岡田秀文白霧学舎 探偵小説倶楽部 についてのレビュー
No.2: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

どんでん返しにびっくり

あまり詳しく書くとすぐにネタバレしてしまう危険があるので
注意しないといけないんですが、早い段階でトリックを察知した人は
この小説は楽しめないでしょう。

もちろん私は最後まで気付かずだまされてしまいました(笑)
ミステリなんてその方がいいんじゃないでしょうか。

1年前に愛する恋人美紀を亡くした若者、高辻裕樹。恋人の亡くなった場所が
特異だった。廃島と呼ばれる軍艦島を小さくしたようなかつて炭鉱のあった
島。いまは無人島でマニアしか知らないような場所です。

美紀を亡くしてメンタルを病んでいる裕樹ですが、この無人島探索ツアーに参加し
謎の死を遂げた美紀の死の原因を探り、真犯人がいるなら見つけ出し復讐することだけが
唯一の生きる理由だと確信します。そして彼は孤独な捜査を開始します。
果たしてたどり着いた驚愕の真相とは? 意外な真犯人とは?

これ以上書くと未読の読者の楽しみを奪うことになるので止めましょう(笑)

あなたは嘘を見抜けない (講談社タイガ)
菅原和也あなたは嘘を見抜けない についてのレビュー
No.1:
(7pt)

「監獄舎の殺人」の感想です。

この本は東京創元社の「ミステリーズ!」という専門誌の新人賞を獲った作品を集めた短編集です。
それぞれの作品をみていきましょう。


「強欲な羊」美輪和音・著

最初の「強欲な羊」美輪和音・著。これは大豪邸を舞台にしたサイコサスペンスものです。大きなお屋敷に二人の美少女が住んでいます。姉の麻耶子は大輪の薔薇のように艶やかで気性が激しく、妹の沙耶子は桜のように可憐でどこか儚げで優しい。この2人の対照的な姉妹をめぐる屋敷内での様々な殺人事件。「強欲な羊」とは果たして誰のことなのか。物語はこの屋敷に住む使用人の女性の視点で語られます。文章も非常に手慣れて巧みでなかなか読みやすかったです。そして最後にどんでん返しもあり、非常に面白いそんな作品でした。少し読み進んでいくうちにある程度このストーリーの展開は読めるのですが、最後の本当のどんでん返しはちょっと想像できませんでした。そういう意味では非常に上手く書かれた作品だと思います。 美輪和音氏は映画, 『着信アリ』シリーズの脚本家だそうです。

「かんがえるひとになりかけ」近田鳶迩・著

これはいわゆる最後の1行であっと言わせるそういう小説ですね。もしかすると頭のいい読者の中には途中で気がついた人もいるかもしれません。ただ私は気づきませんでした。この作品は胎児の視点から語られます。まずそのことが非常にユニークです。胎児の視点から語られた作品、私はあまり読んだことがありませんが、実に面白いと思います。ただこの胎児はただの胎児ではありません。実は この「胎児=私」はある女性に殺されていたのです。殺された私がこの胎児に憑依したのかあるいはまた別の理由があるのか、そこの部分に触れるとネタバレになるので触れるわけにはいきませんが、何のために私は殺されそして殺した犯人が誰なのか、そこがこの作品の中心となる謎の部分です。途中までどういう展開になるのか全く予想がつかず一気に読んでしまいました。そして最後の最後に書かれたその1行、確かに驚きではありますが、ちょっとユーモラスな印象を持ちました。思わず笑ってしまいますね。 驚くというよりも何だこれはとニヤニヤしてしまうそちらのほうが、感想としては正しいかもしれません。

「サーチライトと誘蛾灯」桜田智也・著

この本の中では、これだけが面白さが分かりませんでした。確かに会話の部分は漫才の台本みたいででおかしいのですが、ミステリとしてはまったく楽しめかったというのが、正直な感想です。逆にどこが面白いのか選んだ人に聞いてみたいほどです。公園の見回りをしている吉森という男が、殺人事件に出くわすという話なのですが、謎の部分がまったくありません。なんせ犯人が出頭してしまうのですから。「あの方を本当に殺してしまったのは私かも知れません」と言って。もしかすると私の知らない楽しみ方があるかのかも知れませんでしたが、私には理解できなかったということです。


「消えた脳病変」浅ノ宮遼・著

これはちょっと変わった医療ミステリでした。 ある大学の医学部の脳外科の授業で 榊という教授が授業をするのですが、その授業はこの教授の医師としての経験に基づいた問題を学生に対して投げかけます。それに対して学生がどう答えるか、それによって教授は点数をつけるわけです 。榊の出した問題はこうです。「目の前に1人の女性が意識を失って倒れているどんな処置をすべきかどんな、検査はすべきか君たちになりに考え病気の原因を探って欲しい 。」榊が担当していた患者の中に Aさんという女性がいました。この女性がある日病院で急に意識を失って倒れてしまいました。彼女の脳にはもともと脳病変がありました。ところが、これが検査の結果全く消えてしまっていたのです。じゃあなぜ倒れたのでしょう。一体どういうことなのでしょうか。この謎に対して学生達は様々な回答します。しかしほとんどがはずれでした。ある学生が答えたその正解は実に驚くべき内容のものだったのです。
この作品はあまり読んだことの無いタイプの医療ミステリで、作者は医者のようですが、難しい表現もなく素人にも分かりやすいもので、面白かったです。


「監獄舎の殺人」伊吹亜門・著

これは歴史ものいうか明治維新を舞台にした作品です。京都にある監獄舎に一人の男が囚われていましたこの男の名前は平針六五。罪名は政府転覆を企てた謀反です。 この平針がある日、死罪になることが決まりました。ところが彼はその直前になぜか毒を飲み自害してしまいます。果たしてその原因は何なのでしょうか。長州藩士であり政府高官にまで上り詰めた 彼がなぜ死罪を恐れて自害するなどという恥知らずな行為を選んだのか。そもそも果たして本当に自害だったのか。その驚くべき謎は。この結末はちょっと予想がつかないものでした。


この本全体を読んでの感想は、それなりに面白かったけれども、ものすごく突き抜けたものはなかった、そういう感じですかね 。合格点ではありますが、新人の作品としてはもっとぶち抜けたものが欲しかったなという感じがします。点数としては10点満点で言えばなら7点ぐらいでしょう。8点はあげられませんね。作品的には最初の「強欲な羊」それから2作目の「かんがえるひとになりかけ」これ面白かったです。 期待できる作家だと思います。





監獄舎の殺人 (ミステリーズ! 新人賞受賞作品集) (創元推理文庫)
美輪和音監獄舎の殺人 についてのレビュー