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ニコラス刑事 さんのレビュー一覧

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レビュー数324

全324件 101~120 6/17ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.224: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

だれがコマドリを殺したのか?の感想

ミステリの黎明期に触れ、先人の知恵が今のミステリ界にどれほど影響を与えているかを知るために古典を好んで読む人には外せない一冊です。今時のミステリで街を歩き聞き込みだけで調べを進めるタイプの探偵はいざ知らず、鑑識課員が
主人公になっているような形式のミステリでは完全にアウトなトリックです。しかし、この本は1924年の作品です。あの当時これを読んだ人はどれほどの衝撃を受けたことでしょう。物語構成の巧みさ、人物造形と心理を語る丁寧な文章。
すっかり物語の世界に入り込んでしまいます。恋に落ちた二人の心情は読んでいるものには何の違和感もなく納得させられます。熱々の恋愛関係から結婚となって二人で暮らす実生活からの些細な亀裂の種。二人の生活と周りの人物たちとの
係わりや距離と影響を及ぼす人たち。しっかりと丁寧に描かれていますのでこの部分だけでも読んでいて楽しめます。ニコル・ハートは私立探偵で主人公の親友でもある。親友の窮地を救うために事件を調べ始めるが、途中で奇想天外な
仮説を思いつく。まさにあり得ない仮説であるが、それ以外には説明がつかないともいえるのが告発の手紙の存在である。告発の手紙はどのような意味があるのか、それがこのミステリの芯になるところで良く考えられたところでもあると思います。いろんな本でこのトリックのバリエーションを読んだものですが1924年であればさぞ驚いたことでしょう。読みやすい新訳で出ているので古典好きの人にはお勧めしたい作品です。だれがコマドリを殺したのか?さて、真相は・・・。
だれがコマドリを殺したのか? (創元推理文庫)
No.223:
(7pt)

貘の檻の感想

ミステリの手法を使った内容の物語と捉えた方が良いと思います。本格物のミステリではありません。子供のころの経験や記憶でネガティブな精神状態にある主人公の物語は割と多くあるように見受けられますが、結果として主人公の胸の内を語るモノローグは暗い重いトーンで書かれることなどが多くて、読んでいて
気分の良いものではなくどちらかと云うと敬遠したいものです。過去の記憶と現在に起こった出来事をきっかけに確かめておきたいことを調べるために過去に住んでいた村に帰った主人公の物語ですが、いろいろなピースがすべて繋がるなどミステリの要素がキチンとはめ込まれていますが、物語自体が読んでいて面白い話
ではないのでごく普通の印象です。きめ細かくいろんな事象やエピソードを散りばめてそれらが収束されていく様は見事ですが、いかんせんストーリー自体に魅力がなければ読み終えた後の感想も尻つぼみになります。まだ、荒唐無稽の内容でもああ面白かったと言えるものの方が良いように思います。
もっともこれは私個人の感想なので他の人が読めば面白いと感じるかも知れません。何度も書きますがいろいろな出来事がすべて収束する様子は手慣れた作業と感じさせる筆者の力量ですが、もう少し物語自体に魅力を感じるものを書いて欲しいと思います。
貘の檻 (新潮文庫)
道尾秀介貘の檻 についてのレビュー
No.222: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ジョン・ディクスン・カーを読んだ男の感想

ミステリの巨匠と呼ばれる人たちの作品をもじった、パロディーとも云える作品を集めた短編集です。自分は読んでいて単純に楽しめました。好きな作家のオマージュとも見える内容で各編とも読んでいてニヤリとすること請け合いです。
個人的に一番面白かったのは、チャールズ・ディケンズの愛読者が探偵として事件に挑むとして書かれた「うそつき」でした。話の内容が「ン?」と思っていると、まるで違う見方から事件の本質が分かり主人公の頭の冴えにびっくりしました。
このネタは今でも十分使える内容で、多分いろんなバリエーションで多くの作家が書かれているだろうなと思います。つまり一つの方程式ですね。解説にも登場する有名作家のエピソードが詳しく書かれていてお宝情報が満載です。
今読んでも色あせた感じのない新鮮さがあり、良く出来たパロディー集として楽しめる一冊です。
ジョン・ディクスン・カーを読んだ男 (論創海外ミステリ)
No.221: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)
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スロウハイツの神様の感想

ミステリの手法を使った青春小説。そう捉えた方が分かりやすい。しかし、文章が濃い。心身ともに疲れているときに読めばさらにぐったりするほどの拘った言い回しの言葉の数々。
いろんなセリフやさらりと流した情景が最後に説明され、みんな繋がっていく有様は爽快だ。不覚にも最後のページで目頭が熱くなった。著者が始めに断っているように「おとぎ話」だけれど
別に懐古趣味でなくても胸打つストーリーだ。「イニシエーション・ラブ」とこの「スロウハイツの神様」どっちが好み?と聞かれたら迷わずこの「スロウハイツの神様」。
「たっくん」よりも「コウちゃん」の方が人間的にも魅力的だから。
スロウハイツの神様(上) (講談社文庫)
辻村深月スロウハイツの神様 についてのレビュー
No.220: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

化石少女の感想

本を読むと云っても有名人の気楽なエッセイとか、そんな類の本ばかりを読んでた人が仮にこの本を読んだとしたら「何これ?」と思うでしょうね。ミステリに特化した内容であって学園内で起きる殺人にあれこれとツッコミは不要で
すから予めお断りを申しておきます。最後の章のために書かれた殺人事件のお話です。麻耶雄嵩という作家を端的に表したオチでこれがこの人の特徴です。いい意味でも悪い意味でもミステリ小説の評価を左右する問題の書を書く人です。
しかし、そろそろ読む方は疲れてきました。この辺で方向転換も必要ではないかと思います。正攻法で攻めたミステリを読ませて欲しいと思います。古来の本格物が書ける人だと思うからです。しかし、1章から6章そしてエピローグまで計算された構成はお見事です。すべてはそこにってことですが、プロットの段階でそう決められていたのか、書きながらそうなったのか分かりませんが着地はそれまでの流れから当然の帰結でしょう。
職人芸と云える内容です。
化石少女 (徳間文庫 ま)
麻耶雄嵩化石少女 についてのレビュー
No.219:
(8pt)

窓辺の老人の感想

英国四代女流ミステリ作家のひとりマージェリー・アリンガムの、キャビオン氏の事件簿Ⅰと銘打った一冊です。古典を読むと内容はともかくとして、現代と余りにもかけ離れた環境や習慣などに
戸惑いを覚えて、当時でこそのトリックだと思うものがほとんどです。でもこの本に収められているものは、七編ともそれほど違和感がなく現代でも無理なく通る話です。個人的には
「懐かしの我が家」が好みです。七編とも殺伐とした殺人事件がなくコンゲームのような内容の話しが多いせいでしょうか、肩の凝らないリラックスして読めるミステリです。主人公の
キャビオン氏も正体がはっきりしないという設定で書かれており、時に触れて彼が漏らす言葉で素性が推察されるというようなキャラクターです。本のタイトルになっている「窓辺の老人」も
組み込まれたいろいろな謎をすっきりと収める話の持って行き方は上手いです。小品と云えばそんな感じもしますが良い感じの作品ばかりで、ちっとした時間に珈琲片手に読むにはぴったりの本と云えるでしょう。
窓辺の老人 (キャンピオン氏の事件簿1) (創元推理文庫)
マージェリー・アリンガム窓辺の老人 についてのレビュー
No.218:
(8pt)

五番目の女の感想

クルト・ヴァランダー警部シリーズ10作品のうちの6作目です。シリーズものとして脂の乗った読み応えのある作品でした。イースタ警察の捜査チームの面々のキャラクターがとても良く描かれ、個々のエピソードが物語に彩を添える役割を十分に
果たしています。残虐な殺人事件を捜査するヴァランダー以下のチームも、皆目犯人像が見えない中、地道な捜査で一歩一歩犯人に迫っていく様子が丹念に描かれていて読み応えがあります。天才的な閃きとかそう言ったことで捜査が進むといった
都合のよい話ではなく、時には迷い仲間の意見や別のとらえ方で状況を推理し直す着実な捜査の仕方が読むものを引っ張っていきます。この、物語に没頭させて読者を引っ張っていく力量は並みではありません。その筆力で試行錯誤しながら連続殺人犯を追うヴァランダーたちの過酷な日常が淡々と描かれているところもとても好感が持てます。証拠を残さずミスリードを図る犯人に最初は迷わされますが、始めから感じていた違和感を信じ仮説を追っていくヴァランダー警部。チーム責任者としての苦悩を盛り込みながら犯人に辿り着く過程がミステリとしても警察小説としても大変良くできた作品であると感じました。後記に著者の経歴やエピソードが書かれていますが自分としては意外な感じの人だと思いました。才能のある人はそこにピタッとはまるように世の中は出来ているんですね。
五番目の女 上 (創元推理文庫)
ヘニング・マンケル五番目の女 についてのレビュー
No.217:
(8pt)

喪失の感想

裕福な家の一人娘が家や両親を捨てホームレスとなって他人と係わらずに一人で生きていく道を選ぶ。そこまでの過程は途中のモノローグや回想で読者に示されていて、多分に読者の共感を得られるように工夫して書かれている。
これまで社会とは無縁で生きてきたのに、その社会から追いつめられた彼女はやがて社会と戦うことを決めるのだが、その気持ちの変化に無理のない設定で一人の協力者が現れるところは中々上手い。
殺人者の追跡を開始するくだりもシビラの心情をしっかりと描きながら行動させているので、調べを進める過程が自然になり動き出す事態も必然のように移る。しつけとか教育という言葉に置き換えて子供をコントロールしたり
管理して思うように育てようとする母親や父親のあり方と、残虐な猟奇殺人者の追跡というシビラの切羽詰まった生き方がしっかりと分かりやすい言葉で書かれていて楽しめる。
こういう少女もいるだろうと思うのは著者の作った世界の上手さであり、それとは別に容疑者となった事件の犯人捜しの様子がシビラの心情と交差して進むところが読ませる部分で、トータルで見れば始まりから最後までシビラの
人生というか運命がこの物語そのものである。ラストも彼女に相応しい終わり方と云えるだろう。

喪失 (小学館文庫)
カーリン・アルヴテーゲン喪失 についてのレビュー
No.216: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

雪に閉ざされた村の感想

荒筋を見るとコテコテのシチュエーションだと分かる。こういったシチュエーションでは何が重要か、著者はちゃんと把握している。それはヒーローではなくストーリーを盛り上げて、更にヒーローをよりカッコ良く見せる悪役の設定だ。
ただ単に極悪人なんですと云ってもワザトラシサが鼻に付くようではストーリーの面白さが生きない。だがこの物語の場合は強盗に失敗して逃亡先に用意してあった村の住処に潜り込んだ男たち三人のそれぞれのキャラクターが良く書き分けられている。
中でも一人異常な振る舞いでキレていく男の壊れ方がとても上手く描かれている。精神的な疾患のある人間のようでその内面がリアリティーたっぷりで、徐々に異常になっていく過程がストーリーの緊迫感を生む効果絶大である。
この男の目線で書かれているところは、仲間の他の男たちへの気持ちの変化や村人からの強奪計画にのめり込んでいく心情が薄気味悪いほど上手く書かれているので、相対的に村人や中でも引退した元群保安官と村人などとは一切係わらない謎の男や、村の実力者たちの普段の
日常などから非常事態となっていく様子などがとても良く伝わってくる。悪く言えばB級映画のノリのようであるしラストシーンも定石どうりだけれど、吹雪の村で対決する過程がスリリングに描かれている後半が読み応え十分といえる。
雪に閉ざされた村 (扶桑社ミステリー)
ビル・プロンジーニ雪に閉ざされた村 についてのレビュー
No.215: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

邪馬台国はどこですか?の感想

歴史上の人物や史実のあいまいな部分を別の解釈で解き明かすというスタイルで書かれた内容です。このやり方は他にも義経=ジンギスカン伝説とか写楽に関してあれこれ想像を逞しくした物語などがあって、それほど目新しいわけではないと思います。
バーの常連客が激論を交わすという設定で読ませる内容ですが、目からウロコといった斬新さは感じられず(宮田六郎の話し)史実の隙間を自由に解釈したという程度で、それほど彼の話しに引き付けられる様なことはなかった。
「講釈師見てきたようなウソを言い」という言葉があるように、広げる風呂敷はもっと大きくリアリティーをもって書かれなければ説得力は生まれない。単なるこじつけ程度では新解釈とは言えないし小話程度に収まってしまう。
まぁ、軽く読めるところは良しとして話題性があって著者の名が売れたのは成功と言えるだろう。
邪馬台国はどこですか? (創元推理文庫)
鯨統一郎邪馬台国はどこですか? についてのレビュー
No.214:
(8pt)

神様が殺してくれるの感想

久しぶりの最後に「ん!」となるオチが用意されたミステリでした。海外が舞台でこのストーリーでは日本よりもそのほうが自然に受け取れると思います。周到に用意されたミスリードの上手さとお話の面白さ、主人公を取り巻く人間関係の多彩さなどが話の内容や展開を盛り上げます。
インターポールの事務職員が遭遇するミステリアスな事件。連続殺人のオチがそう来たかと思うほど予想外でした。(もっとも何も考えずに読んでいるので、オチが楽しめるわけですが)森博嗣氏の久々のミステリらしいミステリを読ませて頂きました。今後も楽しいミステリをお願いいたします。
最後のシーンまで犯人の予想はつかなかったのですが、チラホラと見える伏線でもしかしたらと感じた読者もいたことでしょう。でもその鋭さはこのミステリを楽しむためには少し仇となっているかも知れません。最後のオチを楽しむスタイルがこの本をもっとも面白く読む方法だと思います。
神様が殺してくれる
森博嗣神様が殺してくれる Dieu aime Lion についてのレビュー
No.213: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

僕はお父さんを訴えますの感想

タイトルどうりの内容なので隠された真意を、どうドラマチックに見せるかが重要になるストーリーだと考える。その意味ではミステリとしてプロローグから中盤の展開、そしてクライマックスへと流れる話の持っていき方は
良く書かれている。伏線の張り方、登場人物の心情、裁判を起こしどう訴えるかなど丁寧に書かれていてわかりやすい。しかし、トータルで言えば後味の悪い話といえる。その問題をこういった切り口でみせ更に驚きの事実を白日の
元に曝すという手法は良いけれど主人公にとっても重い話だと思う。一件落着してもその事実は消えない、そのあとに引きずる重さは普通ではないだろう。良く考えれば主人公の行動も歪んでいるように見える。
他に解決の方法があるだろうと思ってしまう。読後に感じるそれらの事が自分としては残念といえる。
僕はお父さんを訴えます (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
友井羊僕はお父さんを訴えます についてのレビュー
No.212:
(7pt)

春から夏、やがて冬の感想

洗練された文章で綴られた救いの無い話。意図は何だろう。暗い話と暗い人物。誰が救われたのか?理不尽な結末。医者の推測がそのとうりだとしても、それで主人公は救われたと云えるのか?
どうしたんだろう歌野晶午、愛読者を置いて何処に行くんだろうか。こんな話はちっとも面白くない。

春から夏、やがて冬
歌野晶午春から夏、やがて冬 についてのレビュー
No.211: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

100人館の殺人の感想

ミステリのいろいろなガジェットを使った遊び心満載の快作。初めに登場人物一覧があり館の主の親族が21名。招待客が63名。使用人が29名。その他に5名。すべてに名前があり職業等が記載してあるのが笑ってしまう。
山から麓に下りる道にある橋が爆破され、外は暴風雨。電話線は切断されるしケータイは圏外。お約束の「閉鎖状況」で起きる連続殺人。さて、どんな料理が出されるのか興味津々で読み始める。
最初から名探偵が登場しメイドや何だかんだとオチャラケているようだけれど、中身はけっこう本格。すべての辻褄もキチンと合うように説明され齟齬はない。動機は是か非かと問われれば、そこを否定されたらそもそもこの話は
成立しない。何故100人かを突き詰めたフーダニットとハウダニット。自分としては面白かった。一読の価値はある。
100人館の殺人
山口芳宏100人館の殺人 についてのレビュー
No.210: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

目くらましの道の感想

この本に限って云えば、この人のこの作品はそれぞれのエピソードが最後に集約するその様はとても自然で、無理の無い形でそれぞれが繋がっていくところが上手いなと感心させられる。
作者の都合で人が動いたりとか、そのような不自然さが皆無で全てがキッチリと嵌まって一枚の絵になるような構成の巧みさがある。しかし、国が違えば日本の常識が通用しないのは
分かるけれども、どうも「え?」と思うことが多々あり過ぎてその辺が少し可笑しい。事件があればその家の周辺に徹底的に聞き込みを入れて目撃情報を得るのは捜査のイロハだが、
どうもスウェーデンでは違うらしい。こういった点や子供を迎えに行くために刑事が夕方5時に帰るとか、日本じゃちょっと考えられないところがあって、異文化の面白さが味わえる面もあり
海外小説ならではの別の楽しみ方も出来る。とはいっても、捜査の様子がきめ細かく描かれ着実に犯人に迫っていく捜査チームの動きが、かなりの枚数だけれども中ダレすることなく書かれており、
先の展開が気になってとても途中で放り投げるような事は出来ない。主人公の警部も人間味溢れるキャラクターでこういった点もこの物語を面白くしている一因なのは間違いない。
でも一番の良さは無理のない展開とそれぞれの人の考えや行動がとても自然に描かれているところだと思う。文庫本上・下のボリュームだけれど読み応えのある内容だった。
目くらましの道 上 (創元推理文庫)
ヘニング・マンケル目くらましの道 についてのレビュー
No.209: 5人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

絶叫の感想

陽子、あなたが生まれたのは1973年10月21日と、自身のことを第三者の視点で語るスタイルで物語が始まる。そして、それとは別に現在の時間軸で女刑事が110番通報によりマンションの一室で発見された死体を確認に赴くところから
女刑事の捜査の過程を追っていくスタイルで物語が展開していく。ふたつの時間軸が最後には交差するのだがラストは自分としては予想外だった。陽子が成長するその年代の社会背景などがキッチリ描かれていて、とても読み応えが
あり、陽子が堕ちていくその生き様とかを納得させると共に共感さえ生む物語だ。マンションの一室で検めた死体は不審な点は見つからず今流行の孤独死かと思われた。この死体の検分のため所轄から出動した女刑事もバツイチで、人間的にも
欠陥のある人物として描かれ、ある意味では陽子と似通った部分を持っているような人物だ。つまり女刑事も主人公の陽子もその他登場する人物みんなが欠陥のあるような人間ばかりで、パーフェクトな人間は一人も登場しない内容だ。
重いと云えば重い。暗いと云えば暗い話だけれど、それ以前にリアルな時代背景を使った陽子の人生の軌跡がジーンと胸に響く。居場所を探す陽子と同じく女刑事も自分の居場所を探しているところがとても良い。
交互にストーリーは進むが、滅茶苦茶面白くいろんなエピソードが盛り込まれているが最後まで二人の行いというか行動に眼が離せない。内容と構成と物語の面白さにニクイと感じる作家で、初めて読んだ作家だがすっかりやられちまった。
読後に興奮して眠れなかったのは久しぶりだ。

▼以下、ネタバレ感想
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絶叫 (光文社文庫)
葉真中顕絶叫 についてのレビュー
No.208: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

鬼に捧げる夜想曲の感想

同時受賞の「密室の鎮魂歌」はプロットは面白いけど肝心のトリック部分が拍子抜けするぐらいのもので、読み終わった後はすぐに忘れ去る内容だった。この本も著者が19歳という若さでの受賞なので一抹の不安はあったが
内容的に興味があったので読んでみた。孤島、独特の風習、そして密室とそそる材料は揃っている。料理の腕はどうかと期待しながら読み進む。探偵が披露した推理が真犯人を欺くためのものであり、本当の真相はそのあと
明かされるという筋書きは目新しくはないけれど、密室のトリックを打ち破るためにはその方法が有効であるとする探偵のやり方は理解できる。時代背景に合った硬い文章で書かれているが著者の年齢からすると苦労した
事と思う。その硬い文章も物語の雰囲気作りに役立っており、登場人物たちの描写や会話などもしっかり描かれていて物語世界を構築している。肝心の犯行動機がイマイチ良く分からない点が致命的と思うが全体的に年齢を
越えた力量を見せてくれた作品だと思う。さて、二作目三作目と書き続けられるのだろうか、職業作家として書く気があるのか不明だけれどこの一冊だけでも世に残せたことは彼にとっては有意義なことでしょう。
鬼に捧げる夜想曲
神津慶次朗鬼に捧げる夜想曲 についてのレビュー
No.207:
(7pt)

死亡フラグが立ちました!の感想

かなりコジツケ気味の殺し屋の犯行だけれど、都市伝説的な殺し屋を本気で追う売れないライターの主人公の設定が面白い。都合よくとんとん拍子に話が進み過ぎと思うが、いろいろな登場人物が交差して集約する構成は
中々上手い。と云うよりも文章がこなれていて新人らしからぬ筆致でスラスラ読ませるのはたいした者だ。笑い話しのような仕掛けで仕事をする殺し屋と深読みし過ぎの追うライターと友人達の行動が何となく納得させられるのも
その文章の上手さだと思う。作中にも出てくる某映画のアイデアの一部を拝借したような展開があるが、おバカな話のようでいて最後まで読ませるパワーはある。しかし、登場人物で光っていたのはヤクザの松重ぐらいであとはイマイチな感じ
なのが残念だ。安定した文章力でもっと登場人物に磨きをかけて、ちょっと破天荒な視点から生み出すストーリーに期待ができそうだ。
死亡フラグが立ちました! (宝島社文庫) (宝島社文庫 C な 5-1)
七尾与史死亡フラグが立ちました! についてのレビュー
No.206:
(7pt)

そのケータイはXX(エクスクロス)での感想

要点は閉鎖的な環境の村にある温泉宿から脱出する話で二人の視点でストーリーが進む構成。そして部屋にあったケータイからの男の話を半信半疑で聞きながら、男の誘導に乗って村の外に逃げる過程が描かれている。
つまり、誰の話が信用できるのか?という事と村からの脱出は成功するかという緊迫感を読むものに見せる物語だ。生き神様にされるという村の因習を話すケータイの謎の男。急に村に現れた元カレの男。不可抗力でケガを
させた温泉宿の番頭のこともあり、また祭りの夜と云う事もあって大勢の村人が主人公を探して村中を徘徊する状況で、いったい誰を信用することができるのか。そんなスリリングな展開の中主人公を助けるものが唯一部屋にあった持ち主不明のケ
ータイでそのケータイもバッテリーが残り半分という設定になっている。さて、ここまで見ると話の骨子は面白そうと感じる。でも二人の視点で進む物語構成のバランスが悪いように思う。愛子のアクションシーンにページを割きすぎだし
しよりのキャラクターにも魅力が無い。シチュエーションは面白いのだからもう少しストーリーを煮詰めれば良かったのにと思ってしまう。ラストも取ってつけたような印象で感じ悪い。
著者には悪いがブックオフで100円で買って読んだ。
そのケータイはXX(エクスクロス)で (宝島社文庫)
No.205: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

チャイルド44の感想

旧ソビエトの社会主義国が舞台の物語。従って一部の理想国家を追求する人種たちは別にして、一般の人々はただ盲従的に国の取り決めに無言で従うしかない。上の人間は「信用しろ、しかし、確かめろ」と一般人を見る。
当然隣人同士で相互監視が起きる。密告により反体制派とレッテルを貼られ処刑される人々は数知れない。そんな世界だ。主人公のレオ・デミドフは国家保安省の捜査官。国家に忠実であればこそこれまでに無実の人を
たくさん殺してきた。仲間の捜査官の子供が死んだが、殺人だと騒ぐのを上司の命令で収めに行く。みんな平等なのだからこの社会に犯罪は存在しない。これがこの国の基盤。死体も検分せず目撃者にもろくに話を聞かず
ウムを言わせず事故で片付けた。そんなレオが子供ばかりを殺害した連続殺人鬼を追う物語。当然このような事件は表面上存在しない。存在しない事件を調べるとどうなるか?それがこの物語の最大の背景。
レオと妻のライーサの物語。レオと宿敵ワシーリーの物語。過酷な状況のなか信念を持って殺人鬼を追うレオ。ジェットコースター・ムービーのように波乱の展開が続くストーリー。伏線もちゃんと張られ無理の無い
ストーリー展開。文庫本上・下のボリュームだけれど一気読みをするほど物語にのめり込んだ。社会的背景が主人公の敵となって立ちはだかる、その設定の面白さが良く描かれている作品といえる。
チャイルド44 上巻 (新潮文庫)
トム・ロブ・スミスチャイルド44 についてのレビュー