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木でできた海
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木でできた海の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.00pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全7件 1~7 1/1ページ
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ニューヨーク近郊の小さな町クレインズ・ビューを舞台にした3部作の3作目です。これまでは脇役だった町の警察署長フラニー・マケイブが主人公となりフルに活躍します。 それでなくても複雑怪奇なキャロルの作風ですが、この作品が今までで一番ブッ飛んでるんじゃないでしょうか。いかにもキャロルらしいマジック・リアリズム的雰囲気で、死んだ犬が何度も生き返ってくるとか、ご近所の夫婦がある日突然蒸発、誰もいなくなったその家が真夜中に投光機で煌々と照らされ家が囲まれていくとか、おかしなことが起きる現場にはいつもカラフルな鳥の羽根が落ちている、そしてどこからともなく漂ってくるいい香り・・。 そんな時、優秀でおとなしい女生徒が学校のトイレでヘロインの過剰摂取で死亡します。なぜか彼女のノートにはその死んだ犬の絵が描かれていた、そのまったく同じ犬の絵は存在しているはずのない1750年頃の絵画集にもあって・・・。 2度目の妻を愛し、義理の娘を愛し幸せに暮らしているマケイブの前に、若い頃の凶暴な悪ガキだった自分が現れます。そうかと思えば突然自分はよぼよぼに年老いて別の妻と一緒にウィーンにいる・・こうして要約をピックアップするだけでもいかにメタメタな話かわかると思います(笑)。 時空が交差し、タイムワープもののお約束など完全無視で、違う年齢の自分が同時代に存在している、これはパラレルワールドものなのか?それともいつもキャロル作品のバックに感じられるキリスト教的絶対的な何か=神が存在しているのか?ネタばれするのであまり書けませんが、今回は神ではありませんでした。 作品全体を通じてハイ・テンションが持続、それに飲まれて引っ張られ一気読みしてしまいました。非常に荒唐無稽な話でありながら読ませるパワーはすごいです。 ファンタジーでありながらというとおかしいですが、キャロルの小説はとてもアメリカ的です。大味で量ばかり多い軽食を出す安食堂、ハンバーガーにコーク、スラングで乱暴な口ばかりきいているラフな登場人物たち、アメ車、冗談がきついティーンエージャー。今回もそんなものがフルに出てきます。 それでいてさりげなく、深遠な言葉がさらっと読み流してしまいそうな合間合間にはさまれます。 「17歳の頃、死は何光年も離れた星にすぎず、強力な望遠鏡でもなかなか見ることはできない。その後、年を食うにつれて死が遠のく星ではなく、自分の頭めがけてまっすぐ落ちてくるいまいましい小惑星だと気がつく」 「おれは毎日が、つれあいが、仕事が、環境が気に入っている。自分を好きになろうと努力している最中だが、そんなのは先が見えないままいつまでも続いて行く作業だ」 「恐怖は自分が生み出してるんだ。伝染病みたいに外にあるものじゃない。たいていは愛から生まれる。失うことに耐えられないほど何かを愛してる時、恐怖はいつも近いところにある。」などなど。 怒涛の展開のままラストとなり、いったい問題が解決したと言えるのか、それともまったくしていないのかよくわかりませんでした。この終わり方には賛否両論あると思います。自分も正直ここで星1つマイナスでした。それでもこの筆力、迫力には負けました。 また、ずっとキャロルの翻訳を担当してこられた浅羽莢子さんがお亡くなりになり、その後の翻訳はどうかなと思っていましたが、市川泉さんの訳も、今までよりは生真面目な感じですが、これまでの独特のリズムをそのまま継承してとてもよかったと思います。 ただ、翻訳がこの2001年作品で途切れているのが残念です。熱狂的なファンがいるキャロル作品ですが、マニアックなため実はあまり売れないとか・・。2002年から2019年にかけて本国ではすでに5作が出版されているのに。どうかこれらも次々と翻訳してくださるようお願いしたいです。 | ||||
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2010/2/1現在キャロル最新作まで読了してしまったのが寂しい。クレインズ・ビュー三部作三作目、他二作で名脇役だったこの町の警察所長マケイブが主人公、彼の人間性とジョーク満載の小気味よい語りが、ダークな物語に温かさを添えている。主人公に同化できない、とよく言われるキャロル作品だが、同化しきれなくなってゆく仕掛けはこの作品にも仕込まれているものの、人と生を愛するマケイブは読者に共感を呼び愛さずにはいられないだろう。キャロル作品では、生と死、現実と非現実の境界の破壊と修復(成功しきれない修復だが)、不完全な神?に操られる全体と個人の生…といった大きなテーマと共に、細部に散りばめられたの卑小とも言える日常的事象が輝きを放っているのも、通底した魅力だ。この作品でもそれは変わりなく、私は、フラニー・マケイブが張り込んだガジアで淹れるエスプレッソの香りを、珈琲にマクスウェルしか思い浮かばないもう一人の登場人物と共に堪能しつつ、アラジンのストーブが元気に燃える部屋でじゃがりこをつまみネスカフェを飲みながら読書に浸る自分の時に幸福を覚えた。作者の細部へのこだわり…というか愛着は徹底しており、多少目を引く位置に車が出てくれば、ボンドが乗りそうな銀のカエルみたいな姿のいすずBX250馬力で後部に死角がある故時に危険…とまで語らずにはおかない。しばしばキャロルならではの奇妙さに溢れた他の登場人物達も、その装いや性癖など細かな描写から個性が魅力的に引き出されている。大きな仕掛けについては口をつぐむしかないが、本作もまた魔法に満ちた創世の修正物語。SFでもあるところが他作品にないカラーか。SF味は残念ながら私の好みではないが、緻密に入り組んだ抜かりない構成と、この作者らしい謎を残すラストの毒と救い、そして他作品より親しみが感じられる主人公に満足した。 | ||||
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2010/2/1現在キャロル最新作まで読了してしまったのが寂しい。 クレインズ・ビュー三部作三作目、他二作で名脇役だったこの町の警察所長マケイブが主人公、彼の人間性とジョーク満載の小気味よい語りが、ダークな物語に温かさを添えている。 主人公に同化できない、とよく言われるキャロル作品だが、同化しきれなくなってゆく仕掛けはこの作品にも仕込まれているものの、人と生を愛するマケイブは読者に共感を呼び愛さずにはいられないだろう。 キャロル作品では、生と死、現実と非現実の境界の破壊と修復(成功しきれない修復だが)、不完全な神?に操られる全体と個人の生…といった大きなテーマと共に、細部に散りばめられたの卑小とも言える日常的事象が輝きを放っているのも、通底した魅力だ。 この作品でもそれは変わりなく、私は、フラニー・マケイブが張り込んだガジアで淹れるエスプレッソの香りを、珈琲にマクスウェルしか思い浮かばないもう一人の登場人物と共に堪能しつつ、アラジンのストーブが元気に燃える部屋でじゃがりこをつまみネスカフェを飲みながら読書に浸る自分の時に幸福を覚えた。 作者の細部へのこだわり…というか愛着は徹底しており、多少目を引く位置に車が出てくれば、ボンドが乗りそうな銀のカエルみたいな姿のいすずBX250馬力で後部に死角がある故時に危険…とまで語らずにはおかない。しばしばキャロルならではの奇妙さに溢れた他の登場人物達も、その装いや性癖など細かな描写から個性が魅力的に引き出されている。 大きな仕掛けについては口をつぐむしかないが、本作もまた魔法に満ちた創世の修正物語。SFでもあるところが他作品にないカラーか。SF味は残念ながら私の好みではないが、緻密に入り組んだ抜かりない構成と、この作者らしい謎を残すラストの毒と救い、そして他作品より親しみが感じられる主人公に満足した。 | ||||
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ジョナサン・キャロルの最新三部作(クレインズ・ビュー三部作)の掉尾を飾る一冊。 ジョナサン・キャロルの面目躍如の信じられない展開、信じられないプロット、この世の中は一体どうなっているのか確固たる足場はないのか、といつものごとくページを繰る手がとまらなくなる一冊でした。 特に今回は、キャロル作品に初めて? 宇宙人が登場。そのおかげでいつもの神学的というか哲学的な問いが前面に出る感じがやや薄らいでいますが、そのぶん何でもありの混乱度合いはいつも以上で最後の最後まで読み手は地の文も主人公も世界の枠組みさえも信じられずに、作品世界を追っかけることになります。 (タイムトラベル的な要素まで絡んでくるということで、上辺だけみてSFとして紹介されたりもしたようですが、本質的なところは何も変わっていません。これをSFとして紹介してしまうのは、ガジェットだけみてSFと断定するようなものでSFファンにもキャロルにも失礼な話です) あらすじをざっと紹介すると、主人公は元悪たれで今は街の警察署長となったフラニー・マケイブ。彼のところにある日、一本足の足りない三本足の黒い犬が連れてこられます。ただ、その犬はあっけなく死んでしまい、日常のエピソードの一つとして終るはずでした。しかし、夫婦喧嘩の仲裁に入ったはずの家では、夫婦が煙のように消え失せるなど、その後は不可思議な事件が連続。埋めた筈の死体はいつの間にか車のトランクに戻って来てしまうし、ドラッグで死んだと思われた少女の死体はマケイブに語りかけるし、マケイブの数日間を彼と一度も出会うことなく絵にしていました。また、気がつけばマケイブは未来の世界に飛ばされていて、自分の妻が死んだと新しい妻に語られます。現代と過去、そして未来を自分自身の精神と肉体、そしてそれぞれの時代の自分たちと出会いつつ彼は何故こんな事態が生まれたのか探ろうとしますが、わけがわかりません。 そんな彼の前に現れる謎の存在は七日以内にすべてが正しくならなければ、世界は終わると言います。ルールのわからない、解決策のわからない世界で走り回るマケイブ、自分のあり方、自分の過去、未来、そして死。それらをひたすら考えながら動くマケイブと一緒に読者はあらゆることを考えることになります。 その中で問いかけられる問いの一つがこれ。 「木でできた海で、どうやってボートを漕ぐのか?」 答は、いかに。一人一人の中で違うことと思いますが、一見禅問答にも似たこのような問いかけと、明解な善悪二元論が通用しないのがこのジョナサン・キャロルの世界であり真骨頂です。良質の海外小説です。 | ||||
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ジョナサン・キャロルの最新三部作(クレインズ・ビュー三部作)の掉尾を飾る一冊。 ジョナサン・キャロルの面目躍如の信じられない展開、信じられないプロット、この世の中は一体どうなっているのか確固たる足場はないのか、といつものごとくページを繰る手がとまらなくなる一冊でした。 特に今回は、キャロル作品に初めて? 宇宙人が登場。そのおかげでいつもの神学的というか哲学的な問いが前面に出る感じがやや薄らいでいますが、そのぶん何でもありの混乱度合いはいつも以上で最後の最後まで読み手は地の文も主人公も世界の枠組みさえも信じられずに、作品世界を追っかけることになります。 (タイムトラベル的な要素まで絡んでくるということで、上辺だけみてSFとして紹介されたりもしたようですが、本質的なところは何も変わっていません。これをSFとして紹介してしまうのは、ガジェットだけみてSFと断定するようなものでSFファンにもキャロルにも失礼な話です) あらすじをざっと紹介すると、主人公は元悪たれで今は街の警察署長となったフラニー・マケイブ。彼のところにある日、一本足の足りない三本足の黒い犬が連れてこられます。ただ、その犬はあっけなく死んでしまい、日常のエピソードの一つとして終るはずでした。しかし、夫婦喧嘩の仲裁に入ったはずの家では、夫婦が煙のように消え失せるなど、その後は不可思議な事件が連続。埋めた筈の死体はいつの間にか車のトランクに戻って来てしまうし、ドラッグで死んだと思われた少女の死体はマケイブに語りかけるし、マケイブの数日間を彼と一度も出会うことなく絵にしていました。また、気がつけばマケイブは未来の世界に飛ばされていて、自分の妻が死んだと新しい妻に語られます。現代と過去、そして未来を自分自身の精神と肉体、そしてそれぞれの時代の自分たちと出会いつつ彼は何故こんな事態が生まれたのか探ろうとしますが、わけがわかりません。 そんな彼の前に現れる謎の存在は七日以内にすべてが正しくならなければ、世界は終わると言います。ルールのわからない、解決策のわからない世界で走り回るマケイブ、自分のあり方、自分の過去、未来、そして死。それらをひたすら考えながら動くマケイブと一緒に読者はあらゆることを考えることになります。 その中で問いかけられる問いの一つがこれ。 「木でできた海で、どうやってボートを漕ぐのか?」 答は、いかに。一人一人の中で違うことと思いますが、一見禅問答にも似たこのような問いかけと、明解な善悪二元論が通用しないのがこのジョナサン・キャロルの世界であり真骨頂です。良質の海外小説です。 | ||||
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ジョナサン・キャロルは初めて読みましたが非常に気に入りました。 まず訳が良いのでマケイブが生き生きとしています。 何度も笑いが口から漏れてしまいましたがそれもこの訳のお陰であると思うし、 突拍子の無さが全く気にならないのもマケイブのキャラが好ましく それを(きっと原文通りに)表現出来ている訳のお陰だと思います。 何よりも突拍子の無さの中に人生のあれこれについて一本筋が通っているので それを噛み締めながら読みました。 是非ジョナサン・キャロルの他の作品も読みたいと思わせるユニークな作品でした。 | ||||
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「死者の書」「犬博物館の外で」など、独創的で神秘的な傑作を生み出してきたジョナサン・キャロルの新作です。 ジャンルの固定が難しい作家ですが、やはり過去作同様、今回も大人向けのダークファンタジーと呼ぶのが一番相応しいでしょう。 今回の主人公は前二作にも登場した元不良の警察署長、フラニー・マケイブです。とは言っても連作ではありませんので、今作から読んでも全く問題ありません。 物語は、自ら死を看取り埋葬したはずの老犬の死体が、フラニーの元に戻ってくる事件を皮切りに、キャロル得意の「普通の人生が少しずつ狂っていく」さまを、丹念にそして圧倒的な描写力で描ききっています。リーダビリティも相変わらずで、読者は様々な伏線の張られた迷路の中をグイグイと導かれていきます。 主人公をはじめとした愛すべきキャラクター造形も見事であり、秀逸なセリフ回しと相まって、いつも間にか感情移入している事でしょう。 中盤、謎の一部が明確になるにつれて主人公の使命が明かされ、哀しくも寓話的な結末へと向かっていきます。ただのホラーやファンタジーに収まらない、いい意味でのキャロルらしさが全開のエンディングは、読み手に、少し立ち止まって人生を考える時間を与えてくれます。 久々に上質の物語に浸かる事ができました。 「木でできた海で、どうやってボートを漕ぐか?」 答えは人それぞれ違うのでしょうね。 | ||||
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