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冬に子供が生まれる



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【この小説が収録されている参考書籍】
冬に子供が生まれる

冬に子供が生まれるの評価: 3.71/5点 レビュー 17件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.71pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全17件 1~17 1/1ページ
No.17:
(4pt)

人称(視点)の問題に苦労する

冒頭、「今年の冬、彼女はおまえの子供を産む」という小説タイトルになるメッセージが提示される。そして、「丸田君の回想によると、というかここからは多分に私の想像もまじるのだが…」と続くのだが、一体「私」は誰なのか? これが最後に近いところまで来ないと明かされない。とても気持ち悪いのだが、果たして、小説としてその効果はあったのだろうか。

以下、ネタバレにならない程度に書くと、謎が謎のまま終わるというよりも、割り切って真秀の母親の述懐を中心に絵解きしていると考えた方がスッキリ読めるかと思う。あまりに醜悪なので小説としては口を濁したと。著者が「それは誤読だ」と言うのであれば、書き方が悪いのではないか。
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No.16:
(3pt)

よく分かりません

学がないのか、回りくどく、よく分かりません。
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No.15:
(1pt)

がっかり。

ジャンプ以降からの読者で著者の作品はほぼすべて読んできました。今回久しぶりの新刊ということで楽しみにしていましたが、途中で断念しようかと思うほど登場人物やストーリーに魅力が感じられませんでした。もうYのような作品は期待できないのかと思うとただただ寂しく非常に残念です。
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No.14:
(5pt)

縁、えにしのふしぎ

佐藤正午先生には、毎度ながら新作を随分と待たされる。
月の満ち欠け、から7年、いや正確に言えば連載開始が2023年の1月からということだから、連載を追いかければ六年。
しかし単行本になるのを待って良かった、というのが今の正直な気持ちです。
通勤の電車、就寝前、休日、じっくりと堪能させて頂きました。
私も今年50歳になり、未来に思いを馳せるよりは、過去の出来事をふと省みることが増えてきたように思います。
読み終えた後、自分の越し方に、不思議な縁の数々に想いをはせて、また今日から頑張ろうと思わせてくれる、不思議な物語です。
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No.13:
(4pt)

不思議な読後感が残る

この作者は、何年か前に『鳩の撃退法』という小説を読んだ。
メタミステリーのような手法が用いられていて、何というかこの小説に書かれていることを、小説内的な「事実」として信じていいのかという不安定な気分に常時とらわれながら読んだ記憶がある。
本書にしても、視点人物が誰であるのか、真ん中あたりまで不明なままで読み進める。
しかも描かれている内容も、登場人物たちの記憶が混乱していたり錯綜していたりするので、余計に不安定な心持ちで読み進めざるをえない。
こういうのが、この人の持ち味なのであろう。
本書では丸田という姓の二人の男性が描かれる。
この二人は小学校の頃は大の親友で、転校してきた佐渡君はこの二人を区別するために、マルユウとマルセイというニックネームをつける。
マルユウは高校大学で野球に専念するが挫折する。
マルセイは高校時代に、後に有名になるバンドのベース奏者として加わるが、これも挫折する。
田舎に帰って働いていたマルセイは、ショッピングセンターの駐車場の屋上から身投げして死ぬという不可思議な出来事があり、その葬儀に参列した元の同級生たちはマルユウとマルセイの記憶が混同・混乱している。
そして、実際、マルユウとマルセイの本人たちですら、これは本当に自分の経験したことなのか、それとも相手の経験と自分の経験が混同しているのかがあやふやなまま生きている。
その発端には小学校3年生で一緒にUFOらしきものを見た記憶があり、それが噂となって地方紙に「UFOの子供たち」として取り上げられたのだが、それから10年後の高校卒業直後に「あれから10年」的な記事の企画があって、その取材の終了後に坂道を下る車ががけ下にダイブしたという事故があった。
その事故で、付き添っていた教師と地方紙の記者は死亡したのだが、マルセイとマルユウと佐渡君は奇跡的に生存。
そこから記憶の錯綜が始まっていく。
このように書いただけでは、なんのことだかさっぱり分からないと思う。
しかし、この分からなさと不安定さを愉しむ小説であるような気がする。
実際、読んでいる最中はページをめくる駆動力が湧き出していたのだから。
そしていささか中途半端ではあるけれども、不思議な読後感が残る。
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No.12:
(3pt)

いつものキレがないといか続かない

中盤までは読みながら混乱する場面をちりばめながら、ストーリーに引き込まされる。
読みにくいと感じる人もいるかもしれないが、先の見えない展開としてはのテクニックに翻弄される。

それなのに、終盤にかけて結末が想像できるようになってくると突然ありきたりの展開になってしまって、ここまでの長編でのアプローチが色あせてしまう。

前半は期待大きかっただけに終わりに近づくにつれ残念な気持ちになる。
今までの著者の面白さとはちょっと違った作風を狙ったのかもしれないけど、刺さらなかった。
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No.11:
(5pt)

一気読み

佐藤正午のファンです。
面白くて読み終わりたくなかった。
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No.10:
(5pt)

(2024-39冊目)佐藤正午ワールドに今回も魅せられた。

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 その年の七月、38歳の丸田君のスマホに奇妙なメッセージが届く。
「今年の冬、彼女はおまえの子供を産む」
 だが、独身の丸田君にはまるで思い当たる節がない。
 このときから丸田君は、小学生時代の仲良しだった3人との楽しくも悲しい思い出を引き寄せる……。
----------------------
 佐藤正午氏、待望の直木賞受賞第一作です。ようやくですが、新作を7年も待つことになるとは思いませんでした。

 さて、物語は不思議なメッセージから始まったかと思うと、マルセイとマルユウという、かつての同級生すらどちらがどちらなのか区別がつかなくなってしまった二人の男の話が展開します。やがてUFO騒ぎや、謎の自殺、周囲で起こる失踪事件、不可思議な入れ替わり、といった具合に次々と現実感のない出来事が続き、事実と空想の境界線が淡く曖昧になっていくのです。佐藤氏のデビュー作『永遠の1/2』から始まって、『Y』や『5』、『月の満ち欠け』といった作品の系譜に連なる幻想譚といっていいでしょう。『ジャンプ』のような事の次第が明確に明かされる物語とは一線を画しています。

 この摩訶不思議なストーリーを私は、ヒントとなる断片を必死で拾い集めて頭の中で一片一片パズルのように嵌めていきながら読みました。あぁ、こっちがマルユウでこっちがマルセイだな、丸田君というのはこっちのことで、この女性とこの子が母娘で……といった具合に全体像が、徐々に見えてきます。ミステリを読むようなぞくりとする思いにとらわれます。

 最後に私が感じたのは、なにか神秘的な縁(えにし)で人と人とが結びつけられる現実です。たまさか同じ学校に通っていた子どもたちが、長じるにつれて、何かきっかけがあったわけではないのに急に疎遠になり、そして何か不思議なものに導かれるようにして再度接点を見出す。理由だとか原因だとかいった明確なものではなく、まさに因縁としか言いようのないものです。そしてその点もまた、佐藤正午ワールド最大の特徴。
「人生は偶然のいたずらで動いている」(201頁)
 佐藤氏は『ダンスホール』や『事の次第』といった作品で「六次の隔たり」としか言いようのない人間関係の不思議を描いていました。それは私が最も好みとするものです。

 佐藤正午氏の文章はとにもかくにもリーダビリティが高く、私にとっては日本語のお手本としたくなるようなもの。今回の小説も、物語の不可思議さにもかかわらず、リーダビリティの高い文章によって360頁超の長さを難なく読むことができました。

 私は佐藤氏の小説を何年か時を隔てて読み返しています。そうすることによって新たな発見が必ずあるからです。
 この『冬に子供が生まれる』も、数年後にまた読み返してみたいと思います。

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No.9:
(2pt)

あまりにもひどくてびっくりしました

佐藤氏の過去作品の大半を、この半年で読了しました。
いずれも丁寧かつ見事な構成の作品なのですが、氏の作品世界における最大の特徴は「同じ小説は書かない」という事かと思っております。分類不能な作品群ですが、一貫して読者にとって良い意味で想定外な仕掛けが施されております。読み進むにつれ意外なスペースに枝が伸ばされたり、或いは意表を突く個所にぴったり当てはまるパズルのピースが出現します。

…ところが、本作品はどうでしょう?
常に意味不明で思わせぶりな物言いが氾濫しています。おそらく作者もそれに自覚的であるのか、登場人物の口を借りて「何が言いたいの?」という問いかけが何度も出てきます。
いつもの佐藤作品なら、読み進めればすんなり納得のいく展開が待ち受けていますが…本作品には全くそれがありませんでした。主要人物4人は全くと言って良いほど交わらないし、語り部たる湊先生についても存在意義がよくわかりません。本筋と関係のない丁寧な情景描写に苛立つことも度々ありました。過去、佐藤氏の作品を読んでいる最中にそのような経験はしたことがありませんでした。
結局「彼女はお前の子供を産む」という携帯電話へ送信されたメッセージについても、真意と送信者は不明なままです。
当初「なんのこっちゃ?」と首をかしげていた主人公(?)も、何やら突然未亡人と結婚し子供が生まれることになっています。UFOやらジェダイやらが一体この作品で何を説明しているのかも、全くわかりませんでした。

これほど不親切かつ意味不明で、読者に対して不誠実な作品を佐藤氏が書いたということが信じられませんでした。
最悪の事態…例えば、すでに作品を創造する能力が欠失した作家に対し担当編集者が何も意見を言えないまま出版という最終段階に至ってしまった…という顛末でなければ良いと、それだけを切に祈っています。
彼の生み出してくださったこれまでの作品群に敬意を表して星2つにしますが、本来は作品単体で見れば1つ以下です。
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No.8:
(3pt)

ヒンドゥー哲学的純文学そしてすこしオカルト

もともと超技巧派投手でしたが本作はこの作品のなかにも書かれている通り「右利きなのにあえて左投げ」しかもアンダースローで投げている、という感じです。直木賞をとられているので出身は「エンタメ系」だと思うのですがかなり純文学路線に寄せています。

「肉体と精神の不滅」「善と悪の永遠に終わらない戦い」「曖昧なままの結末」「輪廻」「広大で重厚な宇宙観」「孤独な修行」などインド・ヒンドゥー哲学の匂いもしました。

大ヴェテランなのに実験作ともいえる小説を直木賞受賞後第一作に持ち込む作者と編集者、出版社の熱意にはたして読者が応えられるのかがポイントとなる作品でした。
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No.7:
(5pt)

自己像が不安定で、漠然とした不全感や虚無感を抱える男たちの物語

UFOや入れ替わり、不思議な現象等が強調されていて主なテーマをわかりにくくしているが、たぶん、自己像が不安定(自分はどういう人間なのかわからない)で、漠然とした不全感を抱え、自尊心が強い一方で自分に自信が持てず、他人を真似てみたり他人の意見に流されて行動し、なりたい自分になかなかなれなくて空虚に生きてしまう男たちの物語だと受けとった。だから最後、著者である湊先生はすべてが愚かで悲しく思えてひとりで泣いているのではないかと思う。
よく読むと各人物像がとても丁寧に描かれており、なぜそのように精神的な問題(パーソナリティ障害)を抱えてしまったのかがわかって面白かった。(マルセイの家庭環境をもうちょっと描いてほしかったが)
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No.6:
(2pt)

オカルトがすぎる

過去と現在を倒置したり、ト書き、会話、手紙を上手に組み合わせたり、最初からミナまで説明せずに徐々に露にしたり、描写も上手だったりと類をみない小説家ですよね

ただ、「月の満ち欠け」からオカルト色が強くなってきて、今回はそれが全面に。それでも、リアリティを感じさせるところは流石なんだけど、ちょっとオカルト色が強いかな。期待していたのとは違う感じ
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No.5:
(3pt)

普通だった

記憶があいまいな登場人物に合わせて、あやふやではどちらにもとれるような表現が目立ちます。話の中心が定まらない感じが続く。探りながら読むことになるので、読書のリズムがあまり良くない。
このような中心をはぐらかす書き方はテクニックの一つだと思うけど、こういう手法を、ワクワクすると感じるか、回りくどいと感じるかは人それぞれ。自分はどちらかというと後者。
「月の満ち欠け」「身の上話」など筆者の作品は大変面白かったので、これも期待して読んだけど普通でした。
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No.4:
(5pt)

なるほど

佐藤正午さんの作品には共通したテイストがあると思っていますが、この作品はちょい変化球ですね。結局何もわからないで終了なのかな。もやもやします。でも、もやもやするのがある意味とても気持ち良いです。
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No.3:
(5pt)

小説ならではの楽しさ

最初は誰の話?そもそも語ってるのは誰?(津田さんか?)ってなるけど、全容が見えてくると、あとはイッキ読みの面白さ。
 UFOが話の核だけど、意外と些細なことなのかな?
人の記憶、時間とは何か‥みたいなのを問うているのかも。
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No.2:
(5pt)

入れ替わっても外見が変わっても、愛する人を求め、見つけること、うしなうこと。

丸田誠一郎(まるたせいいちろう)と丸田優(まるたまさる)。
同じ小学校に通う2人は小学生のときに、転校生の佐渡理(さどおさむ)と共にUFOに遭遇し、その事件は新聞にも掲載される。
そして10年後「あのときの子供たち」という取材が行われ、そのときの山道での事故で先導のバイクと取材者の2人が亡くなってしまう。

運命が変わる。

大学入学目前の春休み、事故のあとにマルセイとマルユウには変化が起きる。
まるで「メビウスの輪のように」お互いの人格が入れ替わり、趣味までも変わってしまう。
マルユウと、春休みには近しい距離にいた杉森真秀(すぎもりまほ)は、手紙を書く約束をしたのに、マルユウからの返事はない。東京まで会いに来ても「なぜここにいるのか?」と事もなく言われてしまう。

そこにいるのは、外見はマルユウでも、中身は杉森とは仲の悪かったマルセイなのだから。

入れ替わりのせいで、趣味嗜好が変わるだけでなく、心が繋がっていた相手さえも繋がることができなくなってしまう。

それでも真秀はマルセイの姿をしたマルユウを見つける。
見つけるのに、そこには絡まった糸がいくつもあって、そしてマルセイは、20年の時を経てだんだんとマルセイ自身へと戻ってゆく。

という「入れ替わりの物語」ではあるが、入れ替わることで「その顔のままで、愛しい人が他人になってしまう」真秀の絶望、絶望を超え、自分の心を信じた選択、根拠のない選択をするためのいくつもの葛藤がとてもせつない。

自分を突き進む真秀に賛同できない母親の苦悩や後悔、つがいの相手を失うことの切なさが真秀だけでなく、真秀の母親や同僚の教師を通じて描かれている。
喪うことのせつなさが重厚的に描かれていて、もう最後は号泣しました。

結局、連載を含めて3度読んだけれど。
1度目は「入れ替わりの物語」として楽しみ。
2度目は「入れ替わりから起こる、いろんな人間関係の絶望や選択」に驚き。
そして3度目に、ひとりひとりの心にある「つがいを失なうことの悲しみと、そのあとを人はどう生きるのか」という物語にやっとたどり着けました。
もちろん、佐藤正午らしい、軽やかさや意外性もたくさん楽しみました
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No.1:
(3pt)

佐藤正午から三島由紀夫と坂口安吾へ

佐藤正午の直木賞受賞作「月の満ち欠け」(岩波書店、2017年)以来の新作、本の帯に書かれた文章をそのまま書けば、「さらなる代表作が誕生!」とある。大変な期待をもって読み始めた。

「月の満ち欠け」は、衝撃が大きくて、熱中して読んだ作品だった。純粋な愛、ひたむきな愛というものを、このような形で表現できるのか、という驚きによるものだった。それは転生譚であり、私の乏しい読書体験のなかでは、三島由紀夫の「豊饒の海」(新潮文庫)を想起させるものだった。

さて、この「冬に子供が生まれる」は、丸田優、丸田誠一郎、佐渡理という小学生以来の仲良しの友人(大きな体験を共有した友人)、そして、中学生からこのグループに加わった杉森真秀の4人が主人公で、彼らは高校時代と不慮の事故を経て疎遠になっていき、40歳も間近になっている。それぞれの記憶や手紙により、4人の過去から現在までが「私」によって再構成される。しかし、その大事な核心的な事実は、不透明で混濁しており、何が物語の上で、本当であるかを確定することは難しい。

読み進むにつれ、私は、再び三島の「豊饒の海」を想起してしまった。「豊饒の海」の最後で、綾倉聡子は、松枝清顕を知らないと言い、それにより物語の基礎が失われてしまい、私は愕然としたものだ。この本は、基礎が失われるのではなく、現れないような感じだ。そして最終章まで辿り着く。そして、最終章で、「私」は、物語の基礎をなす、「真実」に辿り着けたのだろうか。

最終章を読み、私は、坂口安吾の「桜の森の満開の下」を思い起こした。それは、このようなイメージである。

「彼の呼吸はとまりました。 彼の力も、彼の思念も、すべてが同時にとまりました。女の屍体の上には、すでに幾つかの桜の花びらが落ちてきました。彼は女をゆさぶりました。呼びました。 抱きました。 徒労でした。彼はワッと泣きしました。 たぶん彼がこの山に住みついてから、この日まで、泣いたことはなかったでしょう。 そして彼が自然に我にかえったとき、彼の背には白い花びらがつもっていました。
そこは桜の森のちょうどまんなかのあたりでした。四方の涯は花にかくれて奥が見えませんでした。日頃のような怖れや不安は消えていました。 花の涯から吹きよせる冷めたい風もありません。ただひっそりと、そしてひそひそと、花びらが散りつづけているばかりでした。彼は始めて桜の森の満開の下に坐っていました。いつまでもそこに坐っていることができます。 彼はもう帰るところがないのですから。
桜の森の満開の下の秘密は誰にも今も分りません。あるいは「孤独」というものであったかも知れません。なぜなら、男はもはや孤独を怖れる必要がなかったのです。 」(坂口安吾「桜の森の満開の下」講談社文芸文庫、129頁)

私にとって、この作品は、流れるような物語には読み応えがあり、さまざまなイメージを喚起するものはあるが、その物語の核心は霧の向こうにある。物語を書くことによる、「私」の再生がテーマなのだろうか。自分で読み直してみても、よくわからないレビューになったが、私はこの作品の価値や本質を掴めていないのだろう。評価は標準点としての☆3つとした。これは私の書いた62番目のレビューである。2024年2月2日読了。
冬に子供が生まれるAmazon書評・レビュー:冬に子供が生まれるより
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