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旅人の首



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旅人の首の評価: 3.75/5点 レビュー 4件。 -ランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.75pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(2pt)

死体の出し方は良いんですが、それ以外はすごく後味わるかったです

若い男女が川岸に平底船を付けた時、首なし死体が!
 …と、いう紹介文(アオリ)の通りに書いてくれてた方が、なんぼかサスペンスで面白かったのではないか?という悠長というかだらだらと長ったらしいイギリスの田舎の描写に、主人公素人探偵ナイジェル・ストレンジウェイ(変わった名前ですね。変道氏とでも訳すべきか)が、のちにこの小説の舞台になる邸宅ブラッシュ・メド―を訪ね、詩人とその俗物的な妻、居候をしている彫刻家とその娘、といった人物たちをいわば「読者にご紹介」する出だしから、河で出現した首なし死体の首(しかもその正体は不明なのでタイトル・ロール「旅人の首」というわけだ)が見事、あっと驚くところから出現する第一部、全260ページの最初の100ページは退屈かつ冗長、人物は魅力がなく(それは結末まで首尾一貫している)なんども読み止めようかと思うつまらなさ(ないし波長が合わなさ)で、タイトルとアオリでつい好奇心を出して読んでみた自分の軽挙妄動を猛省した。

 後半160ページはこの冗漫の欠陥は同じだが、それでも静止していた物語は、登場人物たちが過去をさらけ出されることによって解凍されるので、イギリス式のしぶいユーモアと、人間観察の手堅い安定によって読み進める滑らかさを獲得する。

 「つまりずいぶん大勢の女の人がこんな目にあっているのね…とにかく、年頃の女なら」
 もちろんそうさ、そして、これで前途有望な彫刻家ともおさらばだろうな、とナイジェルはものうげに目を閉じながら胸中で呟く(167ページ)

 (根幹に触れずに紹介すると)彫刻家の娘はかつて強姦されたことがあり、それが主人公(探偵)と話をするなかでトラウマになっていたその過去と対決し、心理学的というかセラピー的な心理的な人格の変容、成長を遂げるところは、個人的にはたいへん感動した。ここが謎解きよりもクライマックスだったかもしれない。

 とはいえこの結末は納得がいかない。犯人も暴露され、真相もあらわになるが(ならないとミステリではない)それが、そこまでするべきものか疑問を抱く展開だし、探偵が公式真相をどうすべきか苦悩する、というミステリにあるまじき逡巡ぶりで、お前は太宰治かといいたくなるほどの現実世界の優柔不断をエンタメのミステリに持ち込むのはどうかと思う(いくら英国ミステリが半分純文学みたいなものだとしてもだ)やはりQ,E,Dとほざいて高笑いする脳筋な爽快さがなくてはねえ。
 
 と言う訳で、物語はすっきりと構築されている(でも見せ方が下手なのと、登場人物がグダグダで好感が持てる魅力がないのと、描写が物語を停滞させるのと、進行が唐突かつ停留させるという、娯楽小説としては致命的な下手糞さがあるけど)のにも関わらず、これほど後味の悪いミステリはまれである。
 リアルではあるのかもしれない。だが、ミステリに求めているものは(少なくとも筆者は)爽快な解決による宇宙の秩序の回復であり(大袈裟だな)、イギリスミステリなら社会分析や人間観察を大人の知性で記載する成熟であり、そしてユーモアでそれを辛く表現する現実逃避だった。

 著者ニコラス・ブレイクはペンネームで、俗名セシル・ディ・ルイス(1904-1972)。英国の桂冠詩人、つまり王室御用達の詩人に任命されたのだから詩人としては最高の栄達を遂げたというべきだろう。なお、ハリウッド俳優ダニエル・ディ・ルイスはこのミステリ作家としてはいまいち、と筆者には思えるこの人物の令息にあたる。
 このミステリというにはやや壊れた結末を持つこの物語は、詩、という複雑怪奇な見方をする世界観がもたらしたものなのかもしれない。正直、この著者の物語はもう読まずにおいても良いかな、という読後感でした。個人の感想ですので、これが世紀の大傑作と看破する方もいらっしゃるでしょうから、そのういう方には申し訳ないのですが…。
 が、私には時間の無駄でした。
旅人の首 (ハヤカワ・ミステリ 610)Amazon書評・レビュー:旅人の首 (ハヤカワ・ミステリ 610)より
4150006105

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