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狼たちの城



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【この小説が収録されている参考書籍】
狼たちの城 (海外文庫)

狼たちの城の評価: 3.92/5点 レビュー 13件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.92pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全13件 1~13 1/1ページ
No.13:
(3pt)

ミステリーではなくて冒険小説

ナチ時代のユダヤ人古書店主
とても興味がそそられる主人公設定で、時に出てくる文学の引用も少しだけど良い。

設定は面白く、さくさくとは読めるが
期待した「ミステリー小説」というより「冒険小説」

「狼たちの城」とも呼ばれるニュルンベルクの城を使ったミステリ的趣はなく
城の中も登場人物もとてもあっけなく単純。
(あ、若いシュミット君のキャラはとてもいい。)

残されたユダヤ人の持ち物とかを漁りポケットに入れるドイツ人や
毅然と正装して収容所に送られるユダヤ婦人などの姿などは鮮明に描写されて
これはこれで良かった。

歴史背景を絡ませるのと人物描写、そして事件提起と解明
全部を大団円に持っていくには、まだ作者には荷が重かったのかも。

鮮やかな所とぼけている所がまだら模様のような小説だったような気がする。
狼たちの城 (海外文庫)Amazon書評・レビュー:狼たちの城 (海外文庫)より
4594088031
No.12:
(1pt)

これは、笑える

ツッコミどころ満載のお馬鹿小説。同時代を扱った「ベルリンに墜ちる闇」は面白かったけどな。
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4594088031
No.11:
(5pt)

カスタマー

ユダヤ人がドイツの犯罪調査の将校に似ていることから、変わって捜査を進めていく物語です。その過程で自分の家族を守り、レジスタンスに協力していきます。
最初からずっと次へ次へと読み進めます。緊張感とハラハラしながら読んでしまいます。
ユダヤを迫害する当時のナチスの言動もよくわかります。
まだ早いのですが、今年のベスト小説ではないかと思います。
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4594088031
No.10:
(3pt)

ナチス政権下を舞台にした娯楽小説の限界

先が読めない、二転三転するストーリーは読者を飽きさない。
ナチス政権下のドイツをリアルに描写している。
この二点が優れていると思ったが、いろいろと無理な設定があると思った、ネタバレになるから書かないが。
何よりも気になったのは、ナチスによるユダヤ人大虐殺がどのような経緯を経てどういう結果に辿り着いたのか、という動かしようのない歴史的事実がある以上、創作された勇猛果敢で魅力的な探偵やレジスタンスがどれほど活躍しようと、非常に虚しい結末に至るほかないということである。
密室ミステリ、スパイもの、と複数のジャンルが融合しているが、一つ一つは弱い気がした。むしろいろんなジャンルを横断していることがこの小説の凄さであり、面白さなのだと思う。
主人公は素人探偵として活躍しているが、元古書店主としての経験をもっと活かして欲しかった。そこも残念。
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No.9:
(5pt)

手に汗握るとは、このこと

まさに怒涛の展開で、一気に読み切りました。時代考証も優れており、当時のナチ政権下におけるニュウルンベルグの状況がよく分かります。続編も楽しみです。
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No.8:
(4pt)

邦訳がなかなかよろしい

ゲシュタポ刑事部捜査官である親衛隊少佐のカバーを対独レジスタンスメンバーから提供されてナチス政権下を生き延びようとするユダヤ人元古書店主。
家族の安否、強制収容所に移送される多くの同胞、正体が露見する恐怖の中で殺人事件の犯人捜しを任せられ葛藤しながら憎いドイツ人を演じる、というストーリーですが尻すぼみ感が残念。
本文中では俊英さを垣間見せていたシュミット伍長が結末では置いてきぼりをくらったマヌケに変貌してるし、犯人捜しはポワロかホームズか金田一耕助ばりの種明かしでグダグダとなり結局は軍内部の権力闘争で強制終了。
頭脳明晰なはずのゲシュタポ長官も副長官も親衛隊将校もシャープさに欠けた俗人風に描かれているのはナチスに対する著者の思いかもしれません。
しかしながら、いつの間にか主人公イザークに感情移入させる邦訳が秀逸。
続編の「Unter Wölfen - Der verborgene Feind」も同じ翻訳者であれば期待できます。
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No.7:
(4pt)

痛快?それとも?

歴史的事実を下地にしたフィクションが大好きである。この『狼たちの城』も、1942年3月のニュルンベルクを舞台に、ナチスが計画しているユダヤ人問題の最終解決方法を世に公表し阻止しようと画策するレジスタンスの突拍子もない計画に巻き込まれるユダヤ人が主人公だ。本人ももちろん家族と共に収容所送りになる危機に直面している。
強制収容所への抑留決定書の文面はじめ、実際の文書が活かされ、当時の様子が良くわかるし、ユダヤ人がナチス側の人間になりすますという設定にハラハラしながら一読した。
ただもう一度ゆっくり読み直してみると、トリックに疑問があったり(「肉眼では見分けがつきません」と専門家でさえ言っている地下通路、しかもどこに繋がってるかわからないと言っている、この情報を入手できたとして敢えて使う?ラナーが1度目に退出する偽装で十分ではないか?)、なりすました主人公が本人を知っている古い友人に対面しなければならないシチュエーションとか、本人そのものと対峙した時に「あの男はわたしだと名乗っている」と周りの人間に信じさせて本物が殺されるとか、なんだか所々、既視感が。そしてすごくコメデイ感が。次から次と口から出てくるデマカセ。しかも咄嗟に。これでナチスがまんまと騙されるわけだけど、これを痛快と思う人もいるでしょう。ただ私は、テーマとの間にチグハグな感じを受けました。
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4594088031
No.6:
(5pt)

(2021年―第82冊)スピーディで手に汗握る展開に頁を繰る手が止まらないドイツ語圏ミステリー

1942年3月19日、ドイツ・バイエルン州のニュルンベルクのナチス高官フリッツ・ノスケの屋敷で、その愛人である女優ロッテ・ラナーの殺害遺体が発見される。その犯人を捜索するために秘密警察の特別犯罪捜査官アドルフ・ヴァイスマンがベルリンから招へいされてくる。
 一方、ユダヤ人古書店主のイザーク・ルビンシュタインは、家族ともどもポーランドへの移送通知を受け取る。かつての恋人で非ユダヤ人のクララがレジスタンスの一員だと聞きつけ、イザークは助けを求める。クララはイザークと家族を助ける代わりに、ある使命を果たすよう求める。それはイザークが、容姿の似ているアドルフ・ヴァイスマンに偽装して、ナチス中枢に潜入することだった……。
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 オーストリア人作家アレックス・ベールのサスペンス・ミステリー『Unter Wölfen』の邦訳文庫です。実に堪能しました。

 事件発生から解決までわずか6日間の物語です。イザークは、ユダヤ人問題の最終解決に向けた計画が進む中、密室殺人事件の解決と、反ナチス闘争に奔走せざるをえなくなります。私は主人公とともに、濃密な6日間を伴走することになりました。
 イザークには、ユダヤ人であることが露見しそうになる危機が一再ならず訪れます。その危難をいかにして乗り切るか。手に汗握る展開は、ハリウッド映画のよう。スピーディで緊迫感あふれる筋運びは、この作家がなかなかの手練れだと確信させるに足るものです。

 古書店主であった主人公は古今東西の小説から、引き写した言葉で、ナチスたちをけむに巻くこともあり、ギリギリの状況下におけるユーモアは一服の清涼剤のようで、実に粋です。

 また、別れた恋人クララとの間に横たわる戦時下の男女の機微にも心ゆすぶられるところがありました。
「自分と一緒だったころからもう三年も経っている。にもかかわらず心が痛んだ。いまだに彼女への気持ちが残っているのだろうか? それとも自尊心が傷つけられたのだろうか?」(146頁)

 さらにいえば、些細なことですが、ドイツ語圏ミステリーを読むときの楽しみは、ところどころに紹介される地元料理です。「オクスマズルサラダ」や「ニュルンベルガー・グヴェルチ」など、食す機会があればぜひとも味わってみたいものです。

 この邦訳文庫は500頁近い厚さを持ちますが、訳者・小津薫氏の流れるような訳文に乗せられて、するすると物語を渡っていくことができました。
 私は一昨年、ドイツ在住のゾラン・ドヴェンカーのミステリー『 沈黙の少女 』で小津氏の訳文に初めて触れ、その卓抜たる翻訳手腕に感嘆したことを今も覚えています。今回は下記に記すようにドイツ語原音のカタカナ表記に首をかしげる点はいくつかありましたが、それは編集者と校正・校正担当者が責めを負うべきではないかと思います。

 すでにイザークを主人公にした続編『Unter Wölfen - Der verborgene Feind』がドイツで発表されています。近い将来、小津氏の翻訳で、この続編も楽しめる日が来ることを願っています。

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*10頁:「親衛隊員のオーバーハウズナー」という人物が出てきますが、「Oberhausner」ですから「オーバーハウスナー」とするべきです。

*11頁:「ヴァルターPKK」という銃の名が登場しますが、これは「ワルサーPKK」とカタカナ表記してもよいのではないでしょうか。確かに「Walther PPK」はドイツ製の銃ですから、現地読みすれば「ヴァルター」のほうが原音に近いとはいえ、ジェームズ・ボンドの銃として知られていますし、ルパン三世を通じて日本人には「ワルサー」ということばのほうが人口に膾炙しているでしょう。

*19頁:「ルードヴィッヒ通り」とありますが、「Ludwigstraße」の最初から3番目の「d」は無声子音ですから /t/ の音になります。つまり「ルートヴィッヒ通り」とカタカナ表記するのが通例です。ヴィスコンティ監督の往年の映画の邦題も『ルートヴィヒ』ですし、ベートーベンのファーストネームも日本では「ルートヴィヒ」とするのが一般的です。

*20頁:ユダヤ人のイザークが、「われわれは引かれていく羊のようにただ東に行くわけにはいかない」と言いますが、この原文は「wir können nicht einfach nach Osten gehen wie die Lämmer zur Schlachtbank.」です。逐語訳するなら「われわれは屠り場【=畜殺台Schlachtbank】に引かれていく小羊のようにただ東に行くわけにはいかない」です。つまり「羊(Schaf)」ではなく「小羊(Lämmer)」は、単に移送されるだけではなく、「屠り場(Schlachtbank)」、つまり殺されるために連れていかれるのです。 
 イザークのセリフは旧約聖書「エレミヤ書」11章19節にある「わたしは、飼いならされた小羊が屠り場に引かれて行くように、何も知らなかった」(=「危険を知らずに従順に」)ということばが下敷きになっています。(ドイツ語訳聖書ではIch selbst war wie ein zutrauliches Lamm, das zum Schlachten geführt wird, und ahnte nicht)ですから聖書の通り、「羊」ではなく「小羊」と訳すべきです。
 なおドイツ語の辞書には「sich4 wie ein Lamm zur Schlachtbank führen lassen/従容として罰を受ける」という慣用句が説明されています。(『プログレッシブ 独和辞典』より)
 140頁にも「引かれていく羊のように」という訳文が出てきますが、これも同様です。
 ところが419頁には「これらの人々は子羊だった。死ぬ運命にあった」という訳語が出てきます。ここで「子羊(=小羊)」とするのであれば、初出の20頁からそうしておいたほうが効果的だったでしょう。

*21頁:「アーロン・グラスシャイブ」という人名が出てきますが、Glasscheibの最後の「b」は無声子音ですから /p/ の音になります。つまり「グラスシャイプ」とカタカナ表記するべきです。
 なお、56頁に登場するユダヤ教共同体事務長Benjamin Gelbの名字は「ゲルプ」と最後の「b」を正しく /p/ としてカタカナ表記しています。

*70頁:国務大臣「ゲッペルス」というカタカナ表記が出てきますが、さすがに「Goebbels」のカタカナ表記は「ゲッベルス」とするべきでしょう。高校の世界史の教科書でも出てくる名前ですから。
 今、Wikipediaを見たら、「「ゲッペルス」は誤記。」とわざわざ記されていましたから、こういう誤記をする日本人は珍しくないのかもしれませんね。

*91頁:「衛星兵」とありますが、正しくは「衛生兵」です。

*126頁:「ウルスラ」という女性が登場しますが、Ursulaはドイツ語では「ウルズラ」です。現在のEUトップの欧州委員会委員長はドイツ人のUrsula Gertrud von der Leyen氏で、欧州委員会初の女性委員長である同氏は日本の日刊紙(朝日・読売・毎日・産経・日経)でも盛んに取り上げられ、その名は決まって「ウルズラ・フォンデアライエン」とカタカナ表記されています。

*149頁:「ゲーリンク」というカタカナ表記がありますが、ドイツ国家元帥の「Göring」は「ゲーリング」とカタカナ表記するのが原音に忠実です。この場合の「ng」の発音は /ŋ/ です。

*151頁:「ランクヴァッサー」とありますが、「Langwasser」は「ラングヴァッサー」です。(なぜか400頁では「ラングヴァッサー」と正しく表記されています。)

*153頁:「メルツェデス・ベンツ」とありますが、これはなにも現地ドイツ語の発音を優先せずとも、これほど著名なブランド名は日本で一般的に用いられる表記の「メルセデス・ベンツ」で十分ではないでしょうか。

*207頁:「誰かが隠れていたとということではないでしょうか?」という訳文がありますが、正しくは「誰かが隠れていたということではないでしょうか?」です。「と」の字がひとつ余計です。

*裏表紙:裏筋(裏表紙のあらすじ)の書き出しが「第二次世界大戦の末期」とありますが、この小説は1942年に舞台設定されています。第二次世界大戦は1939年から1945年ですから、1942年は「末期」とはとても言えません。1939年の開戦から3年で、終戦まで3年という時期ですから、「第二次世界大戦の半ば」とするのが正しい計算です。

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 第二次世界大戦中のドイツで、ユダヤ人が殺人事件解決に奔走するミステリーとして以下の小説を紹介しておきます。

◆ハラルト・ギルバース『 ゲルマニア 』(集英社文庫)
:時代は1944年5月。舞台は戦時下のベルリン。かつては敏腕刑事だったオッペンハイマーは、ユダヤ人であるためにその職を失っている。彼が収容所送りにならずにすんでいるのは、ひとえに妻リザがアーリア人種だからだ。ある日、彼はナチス親衛隊のフォーグラー大尉に呼び出され、目下ベルリンで起こっている連続猟奇殺人事件の捜査を託されることになる。ユダヤ人という立場にあるオッペンハイマーには捜査を拒む余地はない。彼が捜査を進める間にも、被害者は次々と数を増していく…。

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No.5:
(5pt)

狼たちの城

実に面白いニ三日で読み終えた。
これほどに、百読み終えたのは、最近記憶にない。
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4594088031
No.4:
(3pt)

終盤までは我慢だが

ナチスドイツの統制下のドイツ。ユダヤ人である主人公は、レジスタンスの手を借りてドイツ人になりすますことになってしまう。
その身分を使って、レジスタンスのミッションと、困難な事件の解決を同時達成しなければならなくなるのだが、というストーリー。

派手なアクションは一切なく、時に暗い時代の描写に心が塞がれるシーンもあるが、作品としては良くできていると思います。
序盤~中盤はやや冗長ですが、後半の畳みかけは良かったです。

個人的には、扶桑社はアクション小説が少なくスティーヴンハンターなど限られているので、もっとアクション活劇を翻訳して欲しい。
ネットフリックスで映画化される「ターミナルリスト」とか、たくさん候補はあると思うので、是非お願いします。
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4594088031
No.3:
(5pt)

設定の妙、そしてサスペンスの巧さ。一気読み不可避の大傑作!

第三帝国を舞台としたサスペンス小説のあらたな傑作が邦訳された。それがこの『狼たちの城』である。

 (前置きとして、本稿においてネタバレはしていないつもりですが、部分的にでもそれを嫌う人は本稿をお読みにならないことをおすすめします……というよりも、もしそうであるならば、このままご購入いただくことをおすすめします)

 本作のもつ、ユダヤ人なのにひょんなことから弾圧者であるゲシュタポの最奥に潜入するという「設定の妙」、そして密室殺人事件に挑むという「ミステリとしての面白さ」、このふたつがきちんとバランス良く同居している作品はめったにお目にかかれない。
 そういった意味では、この設定を聞くと、2015年に集英社文庫で出版されたドイツ人作家ハラルト・ギルバースの『 ゲルマニア 』(酒寄進一訳)を想起される方もいるかもしれない。だから、『ゲルマニア』三部作を気に入っている方はまず、マストバイだろう。
 ギルバースの『ゲルマニア』の舞台は大戦末期のベルリンという本作と同じ時代背景をもち、かつ、「ユダヤ人の元・殺人課敏腕刑事があるSS将校に連行され、その将校とコンビを組んで連続殺人事件に従事させられる」というストーリー。こちらも、当時のユダヤ人としての扱われ方をひとつのファクターとした、「いつ死んでもおかしくない状況下で殺人事件に挑む」というサスペンス・ミステリだ。
  だが、本作『狼たちの城』の主人公イザーク・ルビンシュタインは、『ゲルマニア』のオッペンハイマーとは違い、元刑事ですらない。ただの古書店主である。まったく捜査とは縁のない人間である。
 それなのに、命をつなぐために手にした身分証のために、周りからは「ベルリンから特命で来た辣腕刑事アドルフ・ヴァイスマン」として、本来なら自身を迫害する存在であるはずのゲシュタポの面々に、尊敬のまなざしで一挙手一投足を見つめられるのだから、イザークにとってはたまったものではない。
 だが、そんな渦中にあっても、イザークにつきまとうさまざまな問題を解決するには、やはり結局のところ、まずは事件の捜査を「ヴァイスマン」として完遂しなければ(すくなくとも、捜査しているフリでもしなければ)ならない。そうした極限状態のなかに身を置くうちに、ただの古書店主だったはずのイザークが、ときに書物の力を借りながら、だんだんと「刑事」としての資質をみずからのうちに見出していく。「えーそんなことあるかい」、と思う場面ももちろんあるが、意外や意外に、それでもイザークは捜査をきちんとこなしてしまうのだ。それがまず、なにより面白い。
 ナチ将校の権力構造/ふるまい、ゲシュタポの官僚機構を利用しながら、したたかに生きぬこうとするイザークの姿を追ううちに、いつのまにか読者はイザークを応援しているような気分になるだろう。第三帝国で最悪の窮地に置かれた「素人探偵」が密室殺人に挑む、これぞまさに本作だけの設定の妙といえよう。

 しかし、本作の魅力はたんにそれだけではない。
 物語の中盤で、イザークの持つ「ヴァイスマン」の身分に重大な綻びが示され、本作は「タイムリミット・サスペンス」としての様相をも見せはじめる。
 そう、身分詐称の証拠がイザークのいるニュルンベルクに届いてしまうまでに、イザークは事件のことも、家族の移送も、抵抗運動も、すべてをなんとかしなければならない。そうした物語におけるすべての終着点が、中盤のこの瞬間に明確に示され、あとは突きすすむだけとなるのだ。ここから先はパズルのピースがひとつひとつカチッと嵌っていくようにどんどん物語は進んでいくので、ページを繰る手がもどかしくなるほどである。
 終着点にいたるまでのサスペンスフルな展開の連続、そして訪れるカタルシス……。思わず「おおお」と唸ってしまうような決着の付け方だが、これ以上語るのはよそう。ぜひ本作の面白さを体感してほしい。
 
 本作の著者アレックス・ベールは本邦では『狼たちの城』が初訳作品となった。ベールは本作だけでなく、たとえば第一次世界大戦後のウィーンを舞台にした刑事モノなど、すでに何シリーズか持っているようだ。ぜひ今後の日本での紹介に期待したい。
狼たちの城 (海外文庫)Amazon書評・レビュー:狼たちの城 (海外文庫)より
4594088031
No.2:
(3pt)

巧みな時代考証といくつかの不満

「狼たちの城」(アレックス・ベール 扶桑社BOOKSミステリー)を読み終えました。
 時代は、1942年3月。主なる舞台は、ナチス政権下のドイツ、ニュルンベルク。ゲシュタポ高官のノスケと恋愛関係にあった人気絶頂の美人女優ロッテ・ラナーが喉をかき切られて殺害されるという事件が発生します。場所は、12世紀に築城されたニュルンベルクの城内。
 一方、かつて古書店を営んでいたユダヤ人青年・イザークは家族と共に家を追い出され、ポーランドへ移送される日が迫っていました。2021/4月に読んだノンフィクション「アウシュヴィッツで君を想う」のヒストリーに直結しています。イザークは、レジスタンス・グループのかつての恋人クララを頼り、家族を逃亡させることを承諾させますが、それにはある条件が付帯します。ゲシュタポの特別捜査官・アドルフ・ヴァイスマンになりすまし、「ロッテ・ラナー殺害事件」を捜査、解決することが命題として差し出されます。一介の古書店主にその任務が務まるのだろうか?美人女優を殺害したのは一体誰?果たして、イザークの家族は逃げ切れるのだろうか?
 パズラーを内に秘めた歴史ミステリ。いくつか不満も残りました。序盤、本物の特別捜査官・アドルフ・ヴァイスマンの扱いにミステリとしてシャープな切り口を感じさせたにも関わらず、尻すぼみでした。また、「水晶の夜」へと連なるナチスによる反ユダヤ、大虐殺という歴史上の重さが、巻頭から次第に薄れていく<過程>に違和感を感じたこと。伏線はしっかりと張られていますが、「狼たちの城」とも呼べるニュルンベルクの城を使ったミステリ的興趣がそれほど感心できるものではなかったことが挙げられます。
 しかしながら、その時代のドイツの一部を再現した時代考証がとても興味深く、「話術」が巧みなため、最後までサクサクと読み進めることができる冒険小説であることには間違いありません。
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4594088031
No.1:
(5pt)

“狼たちの城”に、入らざるを得なくなった男

期待以上におもしろかったです。
30代半ばのイザークはユダヤ人の古書店主。本をこよなく愛するやさしい男で、決して格闘や銃撃の特技があるわけではありません。1942年3月、ナチスによって家族と共にいよいよ国外に送られそうになったとき、3年前に別れたレジスタンス活動をしている疑いのある元恋人クララに助けを求めに行きます。
彼女が用意してくれたのは、ドイツ人のゲシュタポ特別捜査官の身代わり。
イザークは自分に自信をもっていませんが、クララは彼が実は芯が強く機転が利くことを見抜いています。
あり得ない立場に置かれて、動揺し不安でいっぱいのイザーク。しかしこの危機的状況においては引くに引けません。ポーカーフェイスを装いつつも、心中は薄氷を踏むように偽装しているようすが、決して出来過ぎ感なく描かれています。彼が持てるものは、探偵小説等で得た知識や有名人の格言だけ。それを駆使して、同行する生真面目な若いナチス親衛隊伍長を何とか誤魔化し切り抜けようと悪戦苦闘するところが痛快でもありました。
でも物語の内容は全体的にシビアで悲哀に満ちています。ナチスによる恐怖政治は、ユダヤ人のみならず同調しないドイツ人にも容赦しません。ユダヤ人が疎まれるようになったいきさつや容赦なく行われた仕打ち、どんなに闘志があっても暴力をふるわれ処刑を直前にしたときの絶望に変わるさま、それらを目にしたイザークの怒りと悲しみとやるせなさが、リアルに描かれています。加えてナチス内の権力闘争も。
そして終盤はやりきれない悲哀が…。
果たしてイザークは事件を解決できるのか?アウシュビッツ送りから逃れられるのか?
展開はテンポよく緊迫感に満ちており、どきどきしながらページをめくる手が止まりませんでした。とてもよかったです。
ここで一段落はしますがたっぷりと余韻を残しており、物語は続きます。早く読みたい!…次の出版を心待ちにしております。
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4594088031

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