狼たちの宴
- 名探偵 (559)
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前作『 狼たちの城 』でニュルンベルクに暮らしていたユダヤ人古書店主イザーク・ルビンシュタインは、家族ともどもポーランドへの移送通知を受け取ります。彼は家族を守ろうと、かつての恋人で今はレジスタンスの一員となっている非ユダヤ人のクララに助けを求めました。クララはイザークと家族を助ける代償として、ある使命を果たすよう依頼します。それはイザークが、容姿の似ているゲシュタポ捜査官アドルフ・ヴァイスマンに偽装して、ナチス中枢に潜入して情報を得ることでした。 その途上である女優の殺害事件の捜査を任されたイザークはヴァイスマンとして犯人をなんとか突き止め、解決後にニュルンベルクを後にしようとします。ここから続編『狼たちの宴』が始まるのですが、ここでさらなる殺人事件が発生します。有力者の若く美しい娘が絞殺体で発見されたため、イザークはベルリンのゲシュタポ長官ルドルフ・ヘスに捜査を命じられて街を出られなくなってしまいます。地元ニュルンベルク警察の刑事パウル・ケーラーとコンビを組まされますが、ケーラーはがさつなうえ、ヴァイスマンことルビンシュタインの素性にかすかに疑いの目を向け始めていくのです。 このようにゲシュタポ捜査官に偽装したユダヤ人の主人公が怪異な事件の解決を求められ、その一方で自らの素性が暴かれる危険と背中合わせでニュルンベルクを疾駆する筋立ては前作を踏襲しています。さらにはウルスラというゲシュタポ高官の秘書で、なおかつヴァイスマンに熱を上げた女性がとう登場してイザーク・ルビンシュタインにしつこくつきまとう様子は、緊張感と微苦笑を伴う物語としてこの小説に一層の興趣を加えてくれています。なかなか読ませます。 ただし、前作に比べると少しばかり首をかしげるところも残りました。 まず、この物語は初期段階で、マリアンヌという若い女性と、素性が明かされない男との実を結ばない恋物語が紹介されます。マリアンヌはなぜか結婚を渋り、男はその理由を知らされない事態に焦燥感を募らせていきます。この下りを読んで、私は「まさかマリアンヌが結婚を渋る理由はあれじゃないだろうな」とある程度の予測を立てたのですが、その予測どおりの展開で物語が着地したので拍子抜けしてしまいました。つまり驚きがないのです。 また最終盤で<ニュルンベルガー・オーバハター>紙にある記事が掲載されますが、街の有力人物の名誉を大いに傷つける恐れのある文章を、一人の記者が書き上げた翌日の朝刊に大手地方紙が掲載するのは無理ではないでしょうか。裏取りが一切されていないのですから、記者の上司や法務部が内容を吟味しないうちに掲載に踏み切るのは現実味がありません。 そんなわけで少々食い足りない思いがしましたが、ここまで来た以上、この『狼たちの宴』で宙ぶらりんな状況に取り残されたイザーク・ルビンシュタインの命運を確認するためにも、シリーズ第3作の邦訳を期待したいところですが、今日2022年8月7日現在、第3作は作者アレックス・ベールの本国オーストリアでも物語の舞台のドイツでもまだ出来(しゅったい)していません。第1作が2020年11月、第2作が2021年11月に出ていますから、彼女が第3作を出すのは今年2022年11月に出ることでしょう。邦訳は来年の夏でしょうか。 ------------------------ *62頁:「マグダ・ゲッベルス」という表記が出てきますが、正しくは「マクダ・ゲッベルス」です。ドイツ語では「Magda」の「g」は母音が後続しない場合、無声子音の/k/ですから。 *249頁:「ラインゴールト」というレストラン名が出てきますが、「Rheingold」はワーグナー作曲「ラインの黄金(Das Rheingold)」で知られていて、日本では「ラインゴルト」のカタカナ表記のほうが使われることが多いでしょう。 *257頁:「やつは障害罪で何度も逮捕されている」という訳文がありますが、正しくは「やつは傷害罪で何度も逮捕されている」です。「傷害」が「障害」と誤変換されています。 *259頁:「失策を冒した」という訳文がありますが、正しくは「失策を犯した」です。「犯した」が「冒した」と誤変換されています。 *271頁:「まるで誰がが水晶を撒き散らしたかのように」という訳文がありますが、正しくは「まるで誰かが水晶を撒き散らしたかのように」です。「誰かが」が「誰がが」となってしまっています。 *291頁:引退した警察官が暮らす田舎家を見てイザークが「われわれは今、ヘンゼルとグレーテルみたいに立っている」と言い、それに対してケーラーが「レープクーヘンは無いがね」と応える場面があります。「レープクーヘン」という言葉に割注で「ニュルンベルク名物の焼き菓子」と説明がされていて、その事自体には誤りはないものの、この割注だけでは何が面白いのかが日本の読者には伝わりにくいかもしれないので補足しておきます。 原文の「レープクーヘンは無いがね」にあたるドイツ語「Nur ohne den Lebkuchen.」は「レープクーヘンは(供され)ないがね」ということではなく「(この家は)レープクーヘンは(使ってい)ないがね」ということです。 ヘンゼルとグレーテルの物語に由来するお菓子の家、Pfefferkuchenhäuschenがレープクーヘンで作られることを背景知識として知る必要があります。ですからケーラーは、「この田舎家は確かにあなたが言うようにヘンゼルとグレーテルに出てくる家みたいだが、材質はさすがにレープクーヘンじゃないな」と気の利いた切り返しをしているのです。 偏屈者だと思われてきたケーラーからこんなセリフが出てくると、彼が意外とユーモアを解する男に見えてきて、思わず笑みがこぼれます。 *337頁:「エリザベス」という女性名が出てきますが、この人物はどうみてもドイツ人なのでElisabethと綴る場合、英語名の「エリザベス」ではなくドイツ語名の「エリザベート」となるはずです。ドイツ系のElisabethといえば、オーストリア=ハンガリー帝国の皇后エリザベートが日本人には最も知られている名前でしょう。 345頁では「Martha」を「マルタ」とドイツ語読みしたカタカナ表記をしているのですから、Elisabethも「エリザベート」とドイツ語読みしておけば統一感があったと思います。 ----------------------------- *38頁にナチス政権下では月に一度、日曜日に質素な煮込み料理を食べることを義務付けられていた話が出てきます。これは下記の書によれば、「アイントプフ(Eintopf)」というようです。 ◆藤原 辰史『 ナチスのキッチン―「食べること」の環境史 』(共和国) *176頁や194頁に代用コーヒーの話題が出てきます。戦時中のドイツの代用コーヒーに関しては、下記の書籍が参考になるので紹介しておきます。 ◆臼井 隆一郎『 アウシュヴィッツのコーヒー―コーヒーが映す総力戦の世界 』(石風社) . | ||||
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取り掛かりが遅れた上に、この小説とは一切関連がありませんが、数日前、奈良でヒストリカルな「警察不祥事」が勃発してしまいましたので、読書どころではなくなりました。類まれな「事実」は、多くのフィクションを凌駕し、人々を立ち止まらせる力があります。スリラーは、一時売れなくなるかもしれません。 2021/6月に読んだ「狼たちの城」に続く「狼たちの宴」(アレックス・ベール 扶桑社BOOKSミステリー)を読み終えました。 前作に続き、舞台はニュルンベルク。1942年。主人公は、これも前作に続きユダヤ人で元古書店主、イザーク。彼はゲシュタポの特別捜査官、アドルフ・ヴァイスマンに扮したまま、ナチス高官の娘が絞殺される事件が起き、本部から捜査を命じられ、地元警察のケーラーと共にその捜査にあたることになります。 不穏なプロローグ。"マリアンネ"。ポーランドの強制収容所。レジスタンス。イザークの恋人・クララは?背後には「ユダヤ人殲滅計画」を記した議定書があって、イザークはまた「イギリス襲撃計画」が進行中であることに気づいてしまいます。そして、過去へと遡る「連続殺人事件」は、現在の絞殺事件といかに結びついているのか?犯人は一体誰なのか?イザークの正体はバレずに済むのだろうか? ナチスの時代。その歴史サスペンス小説として、前作「狼たちの城」ほどの新しさはなく、こぢんまりと纏まってしまった印象がありました。一方、イザークは、ユニークなキャラクターとしてその存在感を増しており、次なる作品を読んでみたいと思わせる一篇に仕上がっているようにも感じられます。 ここからは一切この小説との関連はありませんが、にも関わらずこの小説からの一方的な引用と改変で恐縮ですが、「カタストロフは、曜日に関わらずいつでも起こりうる」。それは、今回の類まれな「事実」が証明してしまっています。 人は一旦「武器」を持ってしまうと、その理由に関わらずそれを行使してしまいたくなるのかもしれません。巨大な「自我」がそうさせてしまう。 | ||||
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『狼たちの城』の続編。 1942年春、第二次世界大戦下のドイツ。前作でユダヤ人の古書店主イザーク・ルビンシュタインは収容所へ移送される寸前、元恋人クララの助力でナチス犯罪捜査官アドルフ・ヴァイスマンになりすますことによって危機を脱する。冷や汗をかきながらも何とか事件を解決し、いよいよ家族が待つ国外へ逃亡する時になって、この新たな立場を利用してドイツの戦力を弱め敗戦に追い込むことで少しでもユダヤ人たちを救うことに貢献できるのではないかと考え、もう少しそこに留まることを決意した。 本作は前作終了から1か月弱経ったところから始まる。ヴァイスマンに扮したままのイザークは、ドイツの戦略に関する機密情報を盗み出そうともくろみ、ゲシュタポ高官の秘書で有力者の娘でもあるウルスラに近づく。そうしている間に有力者仲間の娘が絞殺される事件が起き、イザークは上層部の命令で再び捜査することに。しかも今回は、ごまかしの利く見習いではなく、やり手の刑事とともに捜査しなければならなくなり窮地に陥る。さらに偽ヴァイスマンを怪しむジャーナリストにも付け狙われ、ますますピンチに。果たしてイザークは事件解決と本来の目的を達成できるのか――? このシリーズは、重くて暗い時代と主人公の非常に苦難な立ち位置を夢物語風にしつつ、現実的な面もシビアに描き出している。本作における悲哀も実情だろう。現在ウクライナで戦争が続行中だが、いつの時代にも狂った指導者には怒りと呆れ、軽蔑の念が沸き上がる。犠牲になるのは国民の貴重な人生だ。 前作ではコミカルな面も見受けられたが、本作ではそれは薄らいでいる。ストーリー的には前作の方が波乱万丈だったが、本作も十分におもしろかった。ただ、終盤の解決策には個人的にちょっと満足できず、さらにラストの主人公の行動には何が待っているかを考えると疑問が残る。しかし策があってのことなのか? ユダヤ人のイザークがこの時代をどう乗り切るのか?続刊の出版を楽しみにしている。 | ||||
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