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喪失のブルース



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【この小説が収録されている参考書籍】
喪失のブルース (ハーパーBOOKS)

喪失のブルースの評価: 3.05/5点 レビュー 20件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.05pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全6件 1~6 1/1ページ
No.6:
(4pt)

粗削りだが、主人公の変化の期待できる三部作序章

アンチ・ヒーローならぬアンチ・ヒロイン。十代後半でこの世の悲劇がすべて襲いかかってきたような女性ノラ・ワッツ、ネイティブ・アメリカンとのハーフでもである彼女の三部作の幕開け第一作である。さてその悲劇。レイプと暴力と遺棄。ジャーナリストに救出されたものの、長い昏睡期間を経て出産の大量出血のさなかで目覚める。レイプ犯の子を妊娠していたのだ。精神を病んだままのノラ。生まれた娘は里子に出され、ノラはブルース・シンガーとしての才能を活かし歌手を志したもののアルコール依存症となる。

 アル中からどうやら脱け出せたという段階で、探偵事務所の調査員として不完全ながら社会復帰を果たす。調査事務所の地下室に、雇い主に内緒でこっそり住み着いている。同じく偶然地下に迷い込んできた雑種犬ウィスパーとともに。社会復帰が十分に果たせていないため、精神も外見も傷つき薄汚れている。穴の開いていないまともな衣類はひとつもない。

 ぼくがこの本を手に取ったのは、彼女の住む街がバンクーバーであるからだ。小説では、雨が降り続く冬のバンクーバー。ぼくが春に観光で訪れたときのバンクーバーの美しい記憶と、本作で描かれる灰色の雨降る街とはイメージが相当に異なるが、傷ついたヒロインの心を通してもなお、バンクーバーは海に囲まれた美しい街である。ガスタウンの石畳の坂を下ると、小樽にも弟分がいる世界にただ二つの蒸気時計、その兄貴分の方があって観光ガイドはここを必ず案内してくれるみたいである。観光スポットとして有名な名所なのだが、残念ながら蒸気時計の記述は本書にはない。ちなみに小樽の蒸気時計の方は、最後に見たときは残念ながら「故障調整中」と貼り紙があり、針もすっかり止まってしまっていた。昨夏の北海道地震の影響である。

 さてバンクーバーだ。スタイリッシュなビルと歴史的な建物が混在するビジネス街と、犯罪者たちの多い危険なエリアとして観光客が必ず注意喚起されるイーストヘイスティング通り界隈(ダウンタウンとも呼ばれる)との間の緩衝地帯として、レトロな町ガスタウン(本書では翻訳者によりギャスタウンとされている)が広がる。石畳のレトロで素敵な街並みは、青銅のガッシー・ジャック像の立つ交差点で終わりを告げる。交差点にある肉料理屋でハンバーガーを齧りながら、道路向こうのダウンタウンを眺めていた時間をぼくとしては思い出す。そちら側を歩く人々の表情は確かに、こちら側にいる人々とは違った影を纏っているように見えてならなかった。もしかしたらウィスパーを連れて歩くノラの姿を目撃していたかもしれない。

 美しく海や島を柵越しに見渡すスタンレーパークは、AAのスポンサーであるブラズーカと定期的に会い、互いの禁酒状態を確認し合うスポットとして用意されている。ブラズーカは、不思議な距離感のある存在で、最後まで掴みにくいだけに印象的なキャラクターだ。ノラへの献身的な愛情の行方が今後どうなってゆくかも見どころとなりそうである。

 さて本書の特徴として際立っているのが、ヒロイン、ノラの孤独な風貌である。十代の少女期を、レイプで台無しにされ、アル中の幻の中で二十代を過ごした。そんな設定が、既に彼女の性格を十分にひん曲げている。そして、まだ精神は癒えてない。この本の評判は、実はアマゾン・レビューでは決して良くはない。それもそのはず、ヒロインがまず感情移入を拒むタイプの孤立した可愛げのない存在であるからだ。社会は、彼女を完全に見捨てているわけではないとは言え、真の意味で彼女の心の救いとなっているのは一頭の雑種犬ウィスパーだけである。人を信じず、敵であり距離のある存在としか見られない悲しきヒロインの痛みが、本書を綴る物語の骨子となっているのである。読者をも拒むその人嫌いで性悪な性格と、美しくもない外見は、優しく美しいヒロインしか期待しない読者には既に愛想をつかされているかに見える。

 レイプ事件に蹴りをつけようとするノラの、新たな探索と闘いの旅が、本書ではメインストーリーとなっている。顔を見たこともない実の娘が行方不明になった、と里親から相談を受けたことに端を発し、バンクーバーから、吹雪のスキーリゾートへ。そして、戻ってきたノラは、バンクーバー島の美しい海岸と決着をつけることになる。激しいアクションの連鎖と、これに耐性を持つノラのサバイバル根性がひと昔前の冒険小説を彷彿とさせる。

 女性作家が冒険小説をうまく書けたためしがない、というのはぼくの感覚である。残念ながら本書でもその感覚は否定されることがなかった。むしろ、女性作家としてはうまく書けた部類だろう。それにしてもやはり問題は残る。活劇シーンがダイハードなみのぎりぎり感でリアリティに欠けている。さらにいくつか。しっぺ返しを食らうのを知らずにノラを助ける、気のいい人たちとの出会いが多すぎたり、ノラの進む方向に極めて都合の良い偶然が用意されていたり。物語づくりということを言うと、詰めの甘さを感じさせるが、デビュー作ということでここは許容したい。極めて多いスリリングなアクション・シーンのいずれもがリズム感とリアリティに乏しいが、ラストの危機に対しブルース・シンガーとしての才能でどんでん返しを図るアクロバティックな仕掛けは、エンターテインメントとして、小説がロマンだということに於いてはとてお素敵な仕掛けとして捉えたい。

 訳者がその解説で勧めている通り、ニーナ・シモンのブルース"Feelig Good"をYouTubeで聴いて本作に臨むと良いと思う。そそられる歌である。また、途中出会うピックアップトラックの女性運転手が、ぼくが世界で最も敬愛するミュージシャン、ニール・ヤング(カナディアンです)をかけていた。ノラはこの助手席で「フォーク・ソングを聴きながら」窮状から逃げ出すことができるのだ。"Heart Of Gold"あたりが、ノラの精神を救い出した形跡は、残念ながらどこにも見られなかったけれども。

 第二作『鎮魂のデトロイト』は今春4月に発売された。本書でも父の自殺は語られているが、その真相を追ってデトロイトに飛ぶ話らしい。作家としての腕が上がっている、とのもっぱらの評判である。ブルース好きの楽しみが一つ増えた。
喪失のブルース (ハーパーBOOKS)Amazon書評・レビュー:喪失のブルース (ハーパーBOOKS)より
4596550727
No.5:
(4pt)

どきどき

何が起こるのか本当にどきどきします。
 米国の今のハードな状況も良くわかりますが、一方で、あまりに日本とかけ離れた世界に入り込むのが困難に感じられる面も。
 良くも悪くも海外ミステリー好きに向けた作品と思われます。
喪失のブルース (ハーパーBOOKS)Amazon書評・レビュー:喪失のブルース (ハーパーBOOKS)より
4596550727
No.4:
(4pt)

読みやすいですが、ストーリーの盛り上がりが欠けます。

翻訳は読みやすく、すらすらと読めます。
ですが、ある中の主人公に感情移入がしにくくストーリーも盛り上がりが欠ける気がしました。
読んだ後の読後感があまり残らない、印象の薄い作品です。
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4596550727
No.3:
(4pt)

人生を捨てた女性のハードボイルド

女性が登場するハードボイルド作品もいくつかありますが、本作品もほぼ人生を捨てたような女性が主人公になっています。
ストーリーは正直ご都合主義的なところがあるという印象ですが、全体的にまとまっていて楽しく読むことができました。とはいえ登場人物ひとりひとりの存在感の書き込みが不足しているのか主人公を含め登場人物に対する感情移入が難しいという感じがします。
なんというか次作に期待というところでしょうか?
ダメダメな主人公に好感を持ったので、できれば次作もっと活躍して欲しいと思っています。
喪失のブルース (ハーパーBOOKS)Amazon書評・レビュー:喪失のブルース (ハーパーBOOKS)より
4596550727
No.2:
(4pt)

ハードボイルド

私立探偵とフリージャーナリストの男性2人が共同で営む事務所で助手の仕事をしている主人公のノラ・ワッツは、「娘が行方不明になった」という夫婦に会いに行くが、行方不明になったその少女はノワが産んですぐに養子に出した実の娘のことであった。警察は真剣に捜索をしないが、単なる家出ではないと夫妻は主張する。
調査をつづけるうちにノラは実の娘ボニーに大きな危険が迫っていることを知る。

相棒は「狼の血を引く雌犬ウィスパー」という粗筋と表紙絵の印象に反して、主人公は犬と常には行動を共にしません。序盤を過ぎてようやく一緒に行動をし、匂いを嗅ぎとったり、番犬的役割を果たしますが、またすぐに別れてしまいます。「犬と女探偵のコンビ物」だと思って読むと、肩透かしを喰らいます。しかしながらチャンドラー的な雰囲気がある小説なので、何か新しい物を読みたいと思っている探偵小説ファン・ハードボイルド小説ファンには最良の1冊になっているとも思います。

全5部構成で、各部8〜29章。1章1章は短く、次々とシーンが切り替わっていくので、テンポがよいです。主人公ノラ・ワッツの一人称「わたし」で文章が進んでいきますが、各部の最終章のみ「あたし」で娘のボニーの一人称。緊迫感が、そして否が応でも先が気になる構成になっています。
喪失のブルース (ハーパーBOOKS)Amazon書評・レビュー:喪失のブルース (ハーパーBOOKS)より
4596550727
No.1:
(4pt)

魅力的なヒロインだが御都合主義的なところも

この作家のデビュー作。
ヒロインは「ホームレス以上、探偵未満」とのキャッチフレーズで語られる程に異質な境遇と現状に置かれている。
人探しの依頼を受けたのが自分がかつて産んで養子に出した実の娘。
他人の嘘を見抜く才能で巨悪に満身創痍で挑んでいく様は清々しいが、展開には少し御都合主義的な所が見られる。
ではあるが、社会の深層の闇の部分を強く意識したストーリー展開は著者の深い洞察力の賜物であろう。
相棒である愛犬の存在も味合いを増している。
読後には早くも次回作を期待している自分がいた。
喪失のブルース (ハーパーBOOKS)Amazon書評・レビュー:喪失のブルース (ハーパーBOOKS)より
4596550727

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