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(短編集)
遠い唇
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遠い唇の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.00pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全13件 1~13 1/1ページ
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久しぶりの北村作品、『円紫さんと私』シリーズ以来の長年のフアンで著者の作品は欠かせず読んできたはずなんですが、この本は読んでいませんでした。ブログアップは『中野のお父さん』以来でしょうか。 7編の短編集ですが、本格的ミステリーは、「続・二銭銅貨」と「ビスケット」の二編、あとの5編は軽いタッチの短編ないしは掌編というところでしょうか。 形式は様々でも上品で優しくしみじみとした情感に溢れていて、懐かしい北村ワールドが味わえました。 巻頭の「遠い唇」や「しりとり」は俳句の話も出て来て、俳句愛好者の私には嬉しかったですな。 簡単に各短編につきコメントしておきますと 「遠い唇」 本の題名にもなっていてちょっと思わせぶりな「遠い唇」。 今は大学教授の主人公が同僚との俳句の話から、学生時代、ミステリークラブの1年先輩であり姉と慕った女性から届いたアルファベットで綴られた暗号もどきの文面の葉書を再読し、驚きの発見をする。この暗号もどきの文章については、主人公が先輩に聞いたとき<何でもないわ。―――-いたずら書き>と、先輩は唇を硬くして語っただけだったが。 私が思うに、主人公はミステリークラブの一員であったのだから、このコーヒー銘柄尽くしの比較的簡単な謎を解くことができたはずだと思うのですが、まことに残念で切ない気持ちです。 「しりとり」 作家の私が編集者の女性から「しりとりや駅に かな」という俳句の謎解きを頼まれる。俳句は高校の国語教師であった亡夫が、俳人の妻に残したもので和菓子の黄身しぐれの包み紙に書き残したものだった。この謎めいた俳句には、二人が初めて知り合った、高校生時代のあるしぐれの一日の青春の出来事が読み込まれていた。 単なる謎解きに終わらない文学的情感に溢れた、これぞ北村ワールドという味わいの素敵でお洒落な短編。 「パトラッシュ」 パトラッシュとは、なんのことかと思ったら、児童文学の名作『フランダースの犬』の老犬の名。美術館の広報という多忙な職務を担当している女性が、同棲中の男を「パトラッシュ」と名付け、ストレスを感じた時に叫ぶんですな。 そして、ある日。パートナーの男性に「私のことをクレオパトラと呼んでいいよ!」と甘えていう。もう勝手にしろと読者の私は言いたくなる。 どうでもいいようなありふれた若い男女の日常生活の一齣を切り取った掌編ですが、フェミニンな北村氏はほのぼのとした感じの短編に仕立てています。 「解釈」 家族団らんの外食後、小さな書店に立ち寄った、父、母、高校1年生の娘。話題にし手に取ったのは、『吾輩は猫である』、『走れメロス』、『蛇を踏む』(川上弘美)の本。 地球探索に来ていた宇宙人の情報機関がその三冊の本を物体コピー機を介して円盤内に持ち込む。夏目漱石と猫を同一にしたり、突飛にしてハチャメチャ、奇抜な解釈をし始める。 落語好きの北村氏の一面が出たSFちっくなユーモアたっぷりの異色の短編。 「続・二銭銅貨」 大正時代の江戸川乱歩の出世作で日本での最初の本格探偵小説と言われる『二銭銅貨』に対するオマージュと言うべき作品。 『二銭銅貨』では、トリックに使われた贋の二銭銅貨の所持者は秘密扱いになっているんですが、著者の北村氏は、この二銭銅貨の所持者で、小説のネタを持ち込んだ人物を、江戸川乱歩が訪問するという設定で、この「続・二銭銅貨」の物語を作った。 謎解きの本格ミステリー派の重鎮らしい著者のチャレンジ精神の現れた作品で、とくに二銭銅貨に仕組まれていた暗号トリックが、「南無阿弥陀仏と点字の組み合わせ」でなく、本当は「八卦・四象とモールス信号」だとの話は興味深いものがありました。 「ゴースト」 巻末の解説者の天野慶(歌人)によれば、この短編は『八月の六日間』の主人公の心を描く習作だということですが、やり手の女性編集者で、一時同棲していた男性からは「菜の花のように元気」だと言われたこともあるが、実はストレスに悩ませられ、神経過敏になり昔のテレビのゴースト現象のような錯覚にしばしば襲われる女性を描いた短編。 この作品も、著者が仕事柄よく接する女性編集者に向けての応援歌だと思いました。 「ビスケット」 この短編に出てくる探偵の巫弓彦と筆記者の姫宮あゆみは、『冬のオペラ』の主人公たちとのことですが、『冬のオペラ』は未読でした。 この二人、特に姫宮あゆみにはどこかであったような気もするんですが。 ともかくこの巫弓彦は「人知を超えた難事件を即解決」という看板を事務所に掲げるほどの名探偵。今回も死者の指のダイイングメッセージを香道の「源氏物語」のマークを基に犯人を割り出してしまう。 著者の謎解きのトリックには、俳句や占いの八卦、香道が出て来たり多彩で優雅で楽しいですね。 | ||||
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名手・北村薫の短編集である。 ちょっと毛色が異なる7編が収録されている。それぞれ味わいが違う。なかなか面白い構成だと思う。 個人的には冒頭を飾る「遠い唇」にすっかりやられた感じ。提示される謎自体はまあ良いのです。学生が誰かをだまそうとかそういう意図じゃなくちょろっと仕掛けたものなので、これで良いのです。でも、ふとしたことで長年の謎が解けて、それで?いやしかし?という余韻。というより残留思念にちかい何か。う~ん。北村だけに軽い筆致だが、案外に重い。個人的にもこういうのはずしんと来る。考えさせられました。 もちろんほかの6編も楽しめます。巻末の解説その他が充実しているのも、この種のものにしては丁寧ですね。 すっきりした読後感でした。 | ||||
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もはや、匠の域に達した、著者の至芸が楽しめる短編集。 「その時」に分からなかった「謎」が、長い歳月が流れたあと、 ふっと、その「謎」が氷解された瞬間の、なんとも云えない深い味わい。 一篇一篇、とても優しく、こころ温かい読後感に浸ることができた。 ネタバレは避けるが、なかには謎が解けた瞬間、涙腺が緩んだ短編もあり、 短いながらも、確かな満足感のある一冊だった。 なのに、どうして☆みっつなのか?というと、北村薫さんなら、もっと凄い傑作が書けるのを知っているから。 『盤上の敵』や、円紫さんシリーズの『秋の花』などの、ガツン!とくる傑作を、また読ませて頂きたいので、 この作品に☆みっつ以上はあげられないわけです。 | ||||
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ミステリー短篇集、初恋のように淡い雰囲気の作品もある。『ゴースト』は菜の花に重ねて、元気そうな女性のいっぱいいっぱいの姿と、隠された心の痛みが描かれる。 文体は短く切るような形で、『パトラッシュ』はどこかにいそうな女性の孤独を満たすオトコとは、大きな頼れる犬のような存在なのかもしれないと思わせた。 | ||||
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時を経てまた会えた、という喜びを感じました。 円紫さんと「私」にもまた会えたらなあ。 | ||||
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短編で読みやすい!なかなか心が熱くなりました。是非読んでみてください。 | ||||
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「日常の謎」を得意とする、ミステリー大家の短編集。 七編の短編が収められているが、冒頭に収録された 表題作は僅か15ページという掌編ながら、その切れ味、 そしてその後味のほろ苦さといい、傑作というほかない。 全作品、大きなドラマもアクションもあるわけではないが 手練れ、というのはこういうものかと深く思い知らされる。 | ||||
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初めての作家の初めての作品です。ミステリーの材料を小出しにした短編集で、マジックのネタを1つ1つ披露したとうな印象です。『解釈』は毛色が違いますが、これは面白かった。 | ||||
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コーヒー欲る(ほる)。というなんとも品のいい 柳澤教授が似合いそうな言葉があるそうで、 最初の短篇の冒頭に出てくるのですが、この本の中の7篇は それぞれ形は違えども、この言葉に繋がって来るような、 いい空気感とでも言うようなものが漂っています。 北村薫による日常生活の中で巡り逢った小さなささやかな謎。 ある話は憧れた女子の先輩が残した手紙の暗号だったり、 ある話は病院のベットで夫が妻にかけた俳句の穴埋めの謎かけ だったりします。 小さなささやかな謎だったり、謎にさえなる前の泡のようなものだったりもするのですが、解けた後と前では当事者にとっては人生の 意味合いとでも言うようなものが随分と変わったものになりそうな 感覚を与えてくれていて、やはり些細な謎でも謎は解かれることに 意味があるのだな。と思いました。 唐突に宇宙人が走れメロスや吾輩は猫である、を読んで解釈に 苦しんだりする話が入っていたり、あとがきで名探偵の推理法と インターネットの共通点に解説したりしてくれているところも なかなかに興味深かったり新鮮だったりしました。(>ω<。) すぐ読めるので大作の準備運動とかハード本のリハビリには とてもピッタリしそうですよ。 | ||||
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l此の短篇集の最初の「遠い唇」、この本の中で一番好きな短編です。 昔、憧れの人からもらった暗号。 その人は遠い昔にこの世からいなくなっているという。 何気なく暗号解きに挑んだ結果は。 あの頃には戻れない、暗号に残した彼女の心ももう尋ねることはできない。 切なさと悲しさが余韻となって心に沁みました。 誰でも過去に何かしらやり残したものや後悔があるものです。 それが自分の前に現実として現れた時、どうすることもできない思いにとらわれます。 静かな文章で暗号解きと切ない思いを融合させたこの短編は、小さな宝石のように私の心の中にずっと残っていくと思いました。 | ||||
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北村氏のお話は、例え死人が出ようとも、ふんわりとした優しい空気感の中にある。 「ゴースト」の「相手がカメのときくらい、横になりたい」がツボにはまった。 子供心にイソップ寓話が「イマイチ納得しきれなかった」のはそういう訳だったか。と今さらながらに認識した。 中里先生の「思いがけない力が働いているようです」に脱帽。格が高い上品に接すると敬して伏し、仰ぎたくなる。 楽しみました | ||||
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七つの短編を集めた、北村薫ファン待望の最新刊です。 ◆「遠い唇」 経済学部の教授・寺脇は学生時代に文学部の先輩だった長内からの古い葉書を見つけるところから物語は始まります。女性の先輩だった長内はアルファベットの暗号を綴っていました。数十年の時を超えて長内が伝えたかったこととは…。 時が移ろい往く中で忘れていたあの人からのメッセージがふっと現れる。その不思議を前にして人は、取り戻すことのできない時間のことと、それでも生きてきたことの確かな手ごたえとを感じることができます。 人の情と文学作品を絡めた日常の不思議を描かせたら天下一品の北村薫らしいミステリ掌編です。この七つの短編の中ではもっとも好きな一編です。 ◆「しりとり」 作家である「わたし」は編集担当者・向井美奈子に亡き夫が遺した暗号めいた俳句をみせられます。その謎を解いたときに立ち現れるのは、「それぞれに遠い日の、自分がいなくなれば消えてしまう、夢のような記憶」です。この掌編もまた、あの人と共に生きたあの時間のかけがえのない様をまざまざと感じさせてくれます。 ◆「パトラッシュ」 美術館の広報を担当する「わたし」は、出入りの運送業者だった彼と一緒に暮らしています。彼のことを「パトラッシュ」と呼ぶ理由が明かされ、やがて二人はチーム・パトラーズとなっていくまでが描かれます。ミステリの要素はほとんどありません。若い二人の同棲生活を描いた、ちょっぴり心がくすぐったくなる物語です。 ◆「解釈」 町のさびれた書店で人間の家族3人がそれぞれ手にした『吾輩は猫である』、『走れメロス』、『蛇を踏む』を、地球外生命体が脇から読んでいくというSF短編です。<夏目漱石という名がありながら「まだ名はない」と言う猫の手記>や、<駆けるメロスに伴走しながら記録を遺した超人・太宰>という摩訶不思議な存在に宇宙人は目が点になっていきます。「いずれにしても、読むというのは難しく、また面白い」ということを、風変りな設定で思い知らせてくれる佳品です。 ◆「続・二銭銅貨」 戦争末期、江戸川乱歩が「わたし」を訪ねてきます。日本の探偵推理小説の嚆矢とされる「二銭銅貨」は実は「わたし」の体験談を乱歩に伝え、彼がそれを小説化したものですが、実際の暗号はあの「南無阿弥陀仏」の文言を使ったものではなく、八卦と四象を使ったものでした。北村薫ならではの、続編ならぬ、「真正・二銭銅貨」というべき暗号判じ物です。ただし、わずか20頁ほどの短編の形に押し込めたため、せっかくの暗号もあっという間に解答が披露されてしまうので、知的興奮をゆっくり味わういとまが足りないうらみがありました。 ◆「ゴースト」 出版編集に携わる朝美は日々仕事に追われてゆっくり一息つくいとまがありません。ある日、美術評論家の中里先生に取材の約束をするものの、「思わぬ力が働いて」その約束をキャンセルせざるをえなくなります。そのキャンセルの結果、朝美の人生で謎めいた何かが新しく動き始めるかと思いきや、物語は唐突に終わってしまいます。この短編は、朝美が「自分の時間を切り取って、相手に渡す。そうしないでは、いられない」日常を思う物語でした。誰にでも覚えのある人生の苦みを、見事に切り出してみせる小説だと思いました。 ◆「ビスケット」 ミステリ作家の姫宮あゆみはさる大学でのトークショーに担ぎ出されます。対談相手はアメリカ人作家のトリリン氏。しかし氏は当日に何者かに撲殺されてしまいます。右手の指は奇妙な形に曲げられていて、氏のダイイング・メッセージとみられます。姫宮は古くからの知人である名探偵の巫(かんなぎ)弓彦に推理を依頼するという中編です。 私は実は『』を手にしたことがないので、その登場人物である姫宮と巫のコンビの18年ぶりの登場に欣喜雀躍することができなかったのが残念です。「わたしと円紫」に17年ぶりに『』で再会できたときの喜びをこの「ビスケット」でも味わえたらよかったと悔やむ思いが残ります。 作者が巻末で付記しているとおり、今やネット検索の登場によって名探偵の存在がかすみがちな時代となっているのかもしれません。 | ||||
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私も「冬のオペラ」を読んだ頃から、ずいぶん、歳をとりました。 でも、そんな、歳をとったことが、うれしく感じる物語でした。 若い頃の友達に再会できたような喜びを味わえ、 「名探偵・巫弓彦さんもあゆみちゃんも、いろいろなことがあったんだね」 と、ふたりの今までを称えたいです。 北村薫先生、本当にありがとう。ふたりに、また、会わせてくれて。 何より、巫弓彦さんが手にした幸せを教えてくれたことがうれしいです。 | ||||
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