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蒲生邸事件
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蒲生邸事件の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.12pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全100件 41~60 3/5ページ
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「タイムトラベル」というSF的要素を取り入れているが、「ありえない」の一言では終わらない作品だと思った。確かに「タイムとラベル」はありえない。けれど、タイムスリップに巻き込まれた主人公の行動、そして、歴史を変えようとする主人公への周囲の対応は「あるかもしれない」「そうかもしれない」という説得力があった。読み終えた後、「この世界で生きること」「今、与えられた世界で自分に正直にまっすぐに生きること」それらがどれだけ難しいことなのか、そしてどれだけ幸せなことなのかをかみ締めた。 | ||||
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かねて読みたかった作者の代表作。宮部ファンとしてはやっと読めて満足。 | ||||
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色んなサイトなどで煽りやあらすじを読んでいて勝手にミステリ的な物語を想像していたのですが、ミステリ部分はほんのオマケ程度のものでした。かと言って期待外れだったということはなく、700ページ弱ですが一気に読めました。 ただ、序盤における尾崎の狼藉には開いた口が塞がらず、想像の斜め上を行く行動力にはただただ脱帽です。終盤へ向けて綺麗にまとまっていきますが、尾崎のクズみたいな本質が強烈すぎて、萎える一方でした。作中のある葛藤には時代柄思わずツッコミを入れてしまいました。「てめーなんかが就職出来るわけねぇだろ」と。 尾崎がもう少しまとまな人間であったら(主に序盤の立ち振舞い)、文句なしの星5つで、素直に感動できたと思います。 | ||||
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よく練られている。 自分達だけが時間旅行者と思っていたら、実はもう1人いて、さらに被害者がそれに連れられる形で未来へ旅行しており、、、という構造は重層的。戦前の軍人が戦後を見て日本の未来を憂うが現実は厳しく、、、というあたりに社会性が織りこまれている。ヒロインや葛城医師の人物造形も重厚だ。あと時間旅行に対する独自の視点も織りこまれている。 欠点は、とにかく長いこと。とくに現代からの時間旅行者(しかも学生)を視点者に据える構成のため、世相描写が表面的なものに留まり、長さの割に濃度がうすく感じられる。辛党なら冗長と言うかもしれない。宮部氏なら資料調べは完璧のはずだから、これだけの枚数を使うなら、昭和初期の世相をもっとガンガン書きこんで欲しかった。時間旅行という架空要素と引き替えに、昭和初期という魅力的な設定を導入した訳だから、屋外描写が散歩程度に留まっているのはもったいないと感じさせる。 それを差しひいて星4つ。とはいえタイムトラベル物としては上質作品に仕上がっている。 | ||||
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宮部みゆきさんの本との相性は50パーセントみたいです。二冊あったら、一冊は夢中になり、一冊は途中でやめてしまいます。レビューを書いているこの作品は大当たりでした。歴史物は苦手で読まないのですが、タイムトラベルする歴史物は別です。受験生が主人公で戦前の日本にタイムトラベルしてしまいます。最初は未来人な私は優越感を持って読んでました。主人公と同じ気持ちになってました。読んで行くうちに、傲慢な私が説かれて恐縮させられてしまいました。未来人は過去の戦争は違っていたとか思い上がってなんとでも言えるんですよね。主人公くんも反省しておりました。 | ||||
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推理小説においても時代小説においても優れた作品を残している宮部みゆきによって生み出された600ページをこえるタイムスリップものの日本SF大賞受賞作品でしたが、先が気になり一気に読みました。人物描写の巧みさと戦前の時代考証の確かさ、少し推理小説仕立ての展開が飽きさせません。暖房用の炭火による一酸化炭素の中毒、メリヤス製の衣類、革製の旅行鞄など戦前の日本の生活が見えてきます。 皇道派と統制派がせめぎ合う中、退役したとはいえ、渦中の人物の1人ともいえる蒲生大将(昭和10年のA事件にも関わりを持とうとした人物ゆえ)の邸宅に氏素性のはっきりしない主人公・孝史が留まれたという蒲生邸での存在理由には無理があるように感じましたが、それを言い出すとこの小説が成り立ちませんのでそこは受けとめて読み進めました。 二・二六事件によって戒厳令がひかれている帝都・東京も映像を見るように鮮やかに描写してあります。架空の蒲生邸ですが、その位置関係も現代の地図と照らし合わせてみれば位置関係が見えてくるでしょう。反乱軍の占領していた領域も史実に合致する内容でしたから、よく考証されていると思います。 タイムスリップの描写、時間の進み具合の辻褄など違和感はありませんでした。大きな歴史の流れを変えることができないという設定も頷けるものがありました。 終章孝史での鮮やかな大団円がこの小説を引き締めていますし、なんとも心温まるまとめは作者の思いが感じられる展開でした。「なるほどそうしめるか」というラストは作者のストーリー・テラーとしての巧さを感じました。甘酸っぱい余韻が残る締めだからこそ皆に支持され読み継がれているのでしょう。 | ||||
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2・26事件の当日にタイムスリップして、かつ殺人事件が重なって、最後までストーリーに釘付けでした。タイムトラベラーが二人も登場していて、タイムスリップする話ではよくあることですが、現在過去未来に時間旅行して、ぐちゃぐちゃ。でも、よく辻褄合わせているなぁって関心しました。印象的だったのは、ある人の歴史を書き換えても、社会全体の歴史は全く代わらないという考え方が目からウロコでした。 たとえば、どういうことかというと、ヒトラーが独裁者になる前に未然に殺したとしても、同じ時代に別の同じような人が同じように独裁者になりうるということです。ちなみに、このたとえは、本には出てこないけど、そういう考え方がすごく納得しました。 | ||||
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有名なクーデター、二・二六事件をテーマにした宮部みゆきのSF大作。 人は自分の思い通りに生きる事は出来ない。 他人と繋がりあって、思い出ができ、過去を共有する限り。 誰もが何かを求めて、その代償として違う何かに苦しんでいる。 庶民の主人公・時間旅行者の平田・裕福な蒲生家の人々・・・ すべての登場人物が感じる「無力」。 これこそが本作における最大のテーマである。 物語は二・二六事件が起きているすぐ近くにある蒲生邸の内部で展開する。 時間旅行者の平田と共に昭和の終了間際の時代からその時代に降り立った主人公・孝史は 蒲生邸の人々を取り巻く様々な軋轢に飲み込まれていく。 登場するすべての人々が実際に存在していたかのように思わせる人物描写が秀逸。 ビジョンすら浮かんでくる情景描写もさすが宮部みゆきといったところだ。 読み終える頃にはなんとも言えない気持ちにさせてくれる。 存在しないはずの人々に、なぜ私たちは涙して、恋をするのだろう。 練りこまれた仕掛けが、何度でも蒲生邸に誘ってくれるだろう。 ページは多いがそれだけの価値もある名作。 | ||||
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宮部みゆきの作品は今までたくさん読んできましたが、この本が一番好きです。 もともと“タイムスリップもの”が好きっていうのもあるけど…1冊の本で、笑って、ハラハラして、意外な事実に驚いて、そして涙して…と、数ある本の中でこれだけ「エンターテインメント」が凝縮されたものには、なかなか出会えません。実際にあった「ニ・ニ六事件」を絡ませているっていうのも巧いですよね。そして何より、ラストシーンが大好きです。何度読み返しても胸が詰まりそうな…。 結構分厚い本だけど、一気に読めること間違いなしですよ。 | ||||
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トリックとかいまいちですが、青春小説とはして読むとすがすがしい気持ちになれます。 この作者は、人(特に若い男や少年)の心の成長を描くのがとても上手です。 青春ミステリーの傑作のひとつではないでしょうか。 | ||||
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フィクション(それもSFというとりわけ超現実的なジャンル)にもかかわらず、戦争資料から史実を読みとくかのごとく、生きた歴史の断片を垣間見ながら、その虚構の世界の住人になりきれる。これは、宮部みゆき渾身の、そして稀代のサーガだ。 平成の世の一受験生が、ホテル火災から九死に一生を得る…が、助けてくれた男は時間旅行者、助け出された先は何と2・26事件真っ只中の昭和初期!トラベルミステリーならぬ、タイムトラベルミステリー。それも、舞台が太平洋戦争へと日本が舵をきる歴史の転換点というこの設定が、著者の慧眼を如実に浮き彫りにしている。 タイムトラベルなどといえども、単なるエンタメでは決してない。軍部による暗黒時代への序章の中で紡がれる物語は、そんな一語で切り捨てるには余りにも壮観過ぎるのだ。そこには、蒲生邸で生きる一家が、そしてその他の名もなき大衆が、歴史に刻み込んだ軌跡がある。 普通の人間とは異なる能力を持つゆえに、その人生に翻弄される時間旅行者。その目に映る歴史の重みは、我々のそれとは微妙に違うのだろう。しかし、歴史は修正できても変えることはできないと知りつつも、それでも己の信ずるものの為にタイムトリップを繰り返す彼らの姿を、我々は同じ現代人として謙虚に見つめなければならないと思う。 この作品は実に複合的なテーマが絡み合っているのだが、その一つに現代人と戦前の人々との間の絆がある。それは、絶対に有り得ない出逢いであるからこそに輝き、そして儚いものなのだ。現代に帰還した後の孝史の過去の蒲生邸との邂逅は、さながら遠い昔に海で無くした宝物を浜辺の一握の砂の中から見つけ出したような感慨の音だけを、いつまでも、いつまでも、読後の心へと反響し続ける。 | ||||
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二・二六事件にスポットを当てたタイムトリップ物のSF推理小説だが、真のテーマは「歴史」である。 歴史の相対性、具体的には「過去を過去であることとして差別しない」という理念が謳われている。 この時代は客観的に評価することが極めて難しい時代である。 どうしても偏ってしまいがちであり、まるで腫れ物に触るかのような扱いを受ける昭和史であるが、この「蒲生邸事件」ではその難問に真っ向から切り込み、我々に「歴史の見方」を提示してくれている。 二・二六事件の詳細に限らず、昭和史全般についてとてもよく調べられており、現代史に関心のある人にはたまらない作品となっている。 もちろん、本来の娯楽小説として非常に優れているので、関心がないという人にも自信を持ってお勧めできる作品だ。寧ろ、そのような人にこそ是非読んでもらって、「歴史を評価する」とはどういうことなのかを考えるきっかけにしてもらいたいものである。 650Pにも及ぶ長編だが、一度読み始めると昭和11年2月26日の世界にどっぷり惹き込まれて抜け出せなくなること間違い無しだ。 | ||||
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登場人物があまりいないせいか、とても読みやすい。 歴史は細部の修正しかできないのか・・・。となると歴史は大きくはもう決まっていることなんだろうか。登場人物が入れ替わったり場所が入れ替わったりするだけで、歴史の目的はやっぱり果たされる・・・ そのへんがむしろ印象的だった。 | ||||
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内容はもう語るまでもなさそうだ。他のレビューもすべては読んでいないので、かぶっていたら申しわけない。 個人的な感想だが、デビュー当初から順に読んできた者として、この作品から後、作風が変わった気がする。この後「理由」で直木賞を受賞されるわけだが、宮部みゆきらしいのは断然こちらだ。宮部氏の持ち味は、社会的に大きな問題を扱いつつ、最後にどこか希望が残る、その爽快さだった。この作品も直木賞候補に上がったというから、そこでご本人に迷いが出たか、何か回りからのアドバイスがあったのかわからないが、「理由」よりこちらが劣るとはどうしても思えない。ただ現実を突きつけるだけよりは、夢物語の方がはるかにましだ。 その後「模倣犯」までは発売時に読んだが、あとはリアルタイムで追いかける気がしなくなった。 今さらだが、「蒲生邸」で直木賞、が正解だった気がする。 | ||||
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宮部作品は初なのですが、いやー面白かった! 主人公が普通の感覚の人で行動や、考え方も読み手に理解しやすくなってます。 内容は浪人決定した現代っ子が、入塾試験の為上京した東京のホテルで火事に巻き込まれ 時間旅行者に助けられた先が226事件真最中の東京・蒲生邸だったというものです。 そこで起こる殺人・使用人としての生活・もう一人の時間旅行者・女中ふきに対しての思い、そして日本が世界大戦に歩み始める分かれ道のひとつ226事件。 ページ数どおりの盛りだくさん設定です。 トリックやラストは勘のよい方は正直早い段階で気づけます。 ミステリーというか青春モノというかSFというか位置づけの難しい作品でした。 ただ、読後にのこるさわやかさ、せつなさが非常に心地よくいい作品でした。 この小説はドラマ化されていたようで、CASTは今では色んな意味でさわやかさからほど遠い方々ですが、興味のある方は見てみるといいかもしれません。 226事件とタイムトラベル。 この組み合わせが好きなかたは、恩田陸の『ねじの回転』も読んでみてください。 あてられてる焦点がまったく違うのですが、どちらも秀作で読み比べると面白いですよ! | ||||
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2・26事件の時代に現代の受験生が飛ばされてしまう小説。 現代人と当時の時代の人との考え方の差、身分。 私の考えでは、この本の醍醐味はまさに最終章であると思う。 この最終章は実に秀逸な出来で、とても感動的。 主人公に感情移入してしまうこと請け合いである。 別れはかくも辛いことなのか…。 | ||||
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最初は毎日少しずつ読んでいましたが、残り半分は朝まで一気読みでした(翌日仕事にもかかわらず)! SFあり、謎解きあり、主人公の成長あり、そして何といっても背景に二・二六事件あり。歴史にあまり詳しくない現代人・孝史を通して描かれているので事件の解釈がわかりやすいし、わからないことはわからないと(孝史が)言ってくれることで読者を置いてけぼりにしないところもよかった。時間旅行者の坂田の人生がとってもとっっっても切ない。ラストの選択も、彼にとって幸せなことなんだ、と信じたい!孝史が現代に戻ってからの話は泣けた〜。蒲生邸に関わる人々のその後の人生も垣間見れてよかった。でもまだなんとなく、半身をあの戦前の二・二六に置いてきちゃっているような孝史と同じく、読者の私も、仕事しようが、ご飯を食べようが、頭に「蒲生邸」のお話がまだ離れず…一週間くらいはぼ〜っと過ごしそうです。改めて宮部みゆきの良さを思い知りました。 | ||||
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最後までぐいぐいひっぱり、結局、短時間で読破してしまった、 さすがの、宮部みゆき様の娯楽大作です。 ラストが「あれ?」という感じで、もっと「あ!」というような ドンデン返しを期待していましたが、まあ、本作品の主眼は、そういう ところにあるわけではなさそうなので、これはこれで、雄大な時間を 隔てた二人の(ある意味)再会が読者にも感慨深いものになる、という 展開ということで納得ではあります。 現代の平河町の火災事件、そして時間旅行と、二・二六事件という装置は、 あまり前面にはでてきません。これらは、現代人である孝史に、読者が自分を 感情移入させて、過去に実在し、息をし、存在し、歴史の大きな波間で 生活していた人々を、主人公と一緒に追体験するための、仕掛けにしかすぎません。 小説なので、読者によっていろいろ考えはあると思いますが、私がもっとも 感じたのは、「歴史は、積み重ねで成り立っている」というメッセージ でしょうか。戦争や歴史的大事件でのみ現代が構成されているわけでは なく、その時、その時代に、まさに、暮らしていた生身の人間たちの生死の 積み重ねが、連綿と今に連なることの、不思議さ、と神にも思いをはせて しまうような、人間の運命というものへの、挑戦。 これらを、読ませるために、作者は、SF、推理小説、人情話、蒲生邸という 舞台、さまざまな登場人物、時間旅行という、ある種、ガジェットと言える 大物、小物を駆使し、読者の前に物語りとして提示してくれた。 そんな、ある種、ノスタルジーと懐古趣味にも浸れる、一級の娯楽大作を 堪能できました。 | ||||
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おかしなもので、タイムトラベルなどしたこともないのに、もしそれができるとしたら、きっと歴史は変えられる、と思っていた。いつの時代の出来事にもそれを決定づけた事件や人物というのがいる。日本史の試験などで出てくる事柄だ。だから、それに影響を及ぼすようなことができれば、歴史は変わるんじゃないかと。そうすれば、たくさんの人がなくなってしまうような事件や事故を防ぐことができるんじゃないか、と思っていた。 しかし、ここに出て来るタイムトラベラー平田は「歴史の細部は変えられても、歴史そのものは変えられない。そんなことをしようとしても、それは所詮”まがいものの神”でしかない」と言う。最初はそれが理解できなかった。日本が戦争に突入しない方法、原爆が投下されない方法、または、これほど大きな犠牲をだす前に戦争をやめる方法・・・なにか手だてがあるんじゃないか、そう思いながら読み進めた。 しかし、読んでいくうちに彼の言うことがよくわかった。私たちは後世の人間として、なにが起きるか知っているから後からあれこれ批評もできるけれど、その時代に生きている人たち全ての考えでも変えない限り、歴史を変更するというのは無理なのだ。たとえば東條首相を暗殺したとしても、別の東條がでてくる、それだけのことなのだ。 歴史というのは、人間が積み上げていくものだけれど、個々の出来事に多少の変更があっても、それは歴史全体にはたいした影響のないものらしい。読んでいて、その点は納得ができた。戦前に戻り、自分の祖父や祖母を戦災から守ろうとすることはできるかもしれない。だけど、戦争そのものを防ぐことはできない。 だからこそ、今この時代に生きている、ということが大事になってくる。これからの歴史を決定づけるのは、今を生きている私たちなんだから。 私はSF小説があんまり好きではないので、おもしろいんだろうか、とあまり期待せずに読み始めたこの作品、先が気になって、これだけの厚さだというのに一気に読んだ。あまり急いで読んでしまったから、もう一度ゆっくり読みたいな、と思っている。設定がタイムトラベルした先の時代だからジャンルとしてはSFになるんだろうけれど、いやはや、そんなジャンル分けできるような小説じゃない。いろんな要素を詰め込んだエンターテイメントです。 蒲生邸で働く女中・ふきと、この戦争を生き延びたら浅草で会おうと約束する。昭和20年に蒲生低付近も大規模な空襲にあうことを知っている孝史にしてみれば、会えない確率の方が高い、切ない約束だっただろう。まがいものの神でもいい、せめて関わりを持った人たちだけでも幸せになってほしい、という彼の気持ちが痛いほど伝わってきた。 推理小説の要素もありながら、最後はほろりとさせてくれる。終戦記念日間近のこの時期だからこそ、いろんな人たちに読んでほしいと思う作品だった。 | ||||
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タイムトラベル、自殺か他殺か、密室、複雑な人間関係、淡い恋とひととおり、ミステリーに関係するものは何でも入っている。おまけにそこの舞台は、2.26事件の真っ只中とこれが面白くないわけが無い。 また、いつものあの宮部みゆきの文体のとおり、非常に分かりやすいものである。長い作品であるがテーマの面白さともあいまって一気に読めてしまう。流石である。 が、いつもならこのままべた褒めするところであるが、ちょっと今回は、この主人公の男の子の描き方などに力なさというか詰めの甘さが感じられた。例えば、この子は大学を落ちた受験生であり、2.26事件さえろくに知らないのだ。なのになぜか不敬罪を知っているなど、もう少しこの子を作り上げてから書いた方が良かったのではないか。ふきとの淡い恋愛関係にしても、いつもの宮部さんならもっと、わき道をそれたエピソードを書いてでも表現しているはず。また、この子があのご時勢で陸軍関係の要人の蒲生邸内でこれだけ動き回るに当たってもう少しすんなり納得のいく筋立てが欲しかったように思う。 あの「火車」の宮部みゆきである。あえて、厳しいことを書かせていただいたが、上述のとおり、一気に読めたのは流石と思った。 | ||||
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