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(短編集)
文学賞殺人事件
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【この小説が収録されている参考書籍】
文学賞殺人事件の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.67pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全3件 1~3 1/1ページ
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この小説にふれた人の数だけ、物語が生まれる、そんな気がしている作品です。 最後まで読んで、この女子大生に関わった人数が、偶然を呼びまた違う展開を招く、そんな連鎖が起きそうだと、私は想像しました。この本はそれぞれに主人公を変えて話を進めた場合、また読者の想像を掻き立て、ストーリーが出来上がるとも思いました。 原作では疑問を持った作家の1人が、事件を追うという設定がより読者に近く、不思議さを増したのが良かったです。そしてもちろんこの本でも、男女の欲望や偶然が交差する、ありそうな人間模様も見れて森村作品の面白さを堪能しました。 私はもう、虚構か現実かの二択というよりも、この小説ほど幾重にも幅と奥行きが広がり、立体化する話はなかったです。それぞれの視点の、その先に見える展開とは‥‥? なんか現実でもこんなことがありそうな気がする・・と、私もすでに作者の仕掛けにかかってしまいました。普通に推理小説を読んだだけで、マジックミラーに入ったかのような今までと違う感覚に陥り、とても楽しいです。私の中で、イメージが固定化されてしまう前に、できれば先に「原作」を読んでほしい本ナンバーワンになりました!Σ(・□・;) | ||||
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この短編集は、1971年10月サンケイ新聞社出版局から初出版されたもので、それを1996年1月徳間文庫が再出版したものです。 「文学賞殺人事件」 小高省吾と松江俊吉は同人誌“潮流”の仲間である。ある日、松江が小高のところへ千枚ほどの長編小説を書いて来た。松江は、地方銀行に勤務し、小説はあくまで趣味で書いていた。一方小高は、小説家になるために“潮流”を主催していた。松江は「千枚だと同人誌で、発表するのは無理なので、どうしようかと迷っている」と小高に相談する。小高は家に持ち帰り、それを読んだ。松江の小説は、緊密な構成と、起伏に富むストーリー展開で素晴らしい小説だった。小高は、松江に対し、激しい嫉妬を覚えるほど興奮した。その時期、恒例の大手出版社が主催する、長編小説の新人文学賞の作品を募集していた。小高は松江に、その新人文学賞への応募を勧める。しかし、松江は、そんなところへ出して、万一、自分の名前が出たりすれば、副業を禁止している銀行から、処罰を受けるという思いがあり、それは出来なかった。そこで、小高は、自分の名前で出せばよいと言って唆す。すると松江は、自分の名前が絶対に出ないのを条件にして、小高に任せることにした。早速、小高の名前で応募した。そして、一か月後通知が来た。なんと、その小説が予選を通過し、遂に当選してしたと書いてあった。盛大な授賞式で、スポットを浴びた小高は、満面の笑みを浮かべた。しかし、ある心配事で頭の中は一杯だった。それは、本当の作者が露見することは勿論だが、それ以外にも大きな問題があった。この賞の受賞者は、その出版社から、次作を出版するのが慣例になっていたのだ。さらに、他の出版社からも依頼が殺到していた。しかし、小高の小説では、余りにも劣り過ぎる。悩みに悩んだ末、考えたのは、松江の力を借りることだった。そこから二人の悲惨でおぞましい不幸が始まる。 「奔放の宴」 朝川好郎と昌子が、結婚したのは二年ほど前。朝川は、かなり名の通った一流会社に勤務し、平均的なサラリーマンより良い待遇を得ていた。昌子とは、会社の同じビルで知り合い、半年ほど交際して結婚したのだ。新家庭の生活資金には、困らないので、共稼ぎを嫌う朝川の希望で、昌子には勤めを止めてもらった。昌子は、さして美人ではないが、胸や腰は、豊満で、いわゆる男好きのするタイプの女だった。最近になって朝川は、昌子の異変に気付き、不審に思い始める。それは朝の恒例行事“朝の接吻”に変化が表れたからで、更に、夫婦の“夜のサイン”も送ってこない。昌子に聞いても、何でも無いと答えるばかりで、ハッキリしない。朝川の胸に、疑いが萌し始める。それは一度、疑い出すと積雲のように発達してしまうものだ。会社に行ってから、他の男と痴戯に浸っているのではないか?結婚した時、昌子は、処女ではなかったのではないか?など空想による猜疑の種は、大きくなるばかりだ。結婚前は、妻の処女性には、こだわらないつもりでいた。ところが、毎夜生活を共にしているあいだに、閨房において朝川に対する奔放な姿態を、過去の男にもしていたのかと考えると、屈辱的な瞋恚が膨らんできた。心の中で疑惑は巨大になる。風船なら破裂するが、こればかりは、破裂することを知らず、日に日に巨大化していく。朝川は、耐えられず、会社関係で縁故の興信所に調査を依頼した。これが間違いだった。最後に「俺は、妻のとんでもない過去を、ほじくり返してしまった」と、後悔するが、もう戻れない。知らぬが仏と言う言葉がある。 「サギ・カンパニー」 原野九郎は、小学生の頃に受けた屈辱的な経験から、絶対に人を信用しないことを信条にしている。小学校五年生の時、市長の息子、野沢弓彦と同じクラスになった。その時、同じクラスに大地主の娘の佐川清子もいた。清子は、目鼻立ちの整った生徒で、すべての男子生徒は、清子を意識していた。野沢も勿論、清子に興味を抱いている。九郎の家は、スラムにあるアパートで、崩れ落ちそうな老朽木造アパートだった。日雇い人工だの行商人だの行員などが、身を寄せ合って住んでいた。町の人も、気持ち悪がって近づかない。だから九郎は「アパート野郎」だとか「ノラクロウ」などと嘲られた。ところが、清子は九郎に対し、親切な素振りで接してくれていた。弓彦にとっては、面白くない。弓彦には、命令のままに動く子分が何人もいる。そこで、弓彦は清子の前で、九郎にいたずらをして恥をかかそうと考えた。子分に計画を説明し、打ち合わせ通り動くよう命令する。もはや、いたずらでは無く、立派な悪党の謀略だった。先ず、お姫様みたいに気取った清子を、解剖してやろう!と騒ぎたてた。九郎は、今まで優しくしてくれた清子の手前、黙って見ているわけにはいかない。「止めろよ!女の子を虐めるな!」と言った瞬間、弓彦の罠にまんまと嵌ってしまった。九郎は、清子や他の女子生徒も含め、クラス全員の前で下半身を露出(解剖)されてしまった。その時、九郎は、汚い物でも見る様な、目付きをしている清子と目が合った。それからは、絶対、人を信用しない、優しくしない事を信条としたのだ。それと同時に、自分を罠に嵌めた様に、弓彦に対して罠(詐欺・サギ)を仕掛けて、復讐しようと心に決める。そして、十数年後。それを実行する日がやってきた。 「暗渠の狼群」 新宿西口の京急ホテルで一人の女が青酸ガスによって殺害された。女の名は、高野繁子、三十八才。職業は、中央区兜町の栄進証券勤務で、経理主任ポストのベテラン経理ウーマンだった。栄進証券専務の小笠原儀平は、今の地位と収入には、満足していない。勿論、一般社員より高給をもらい、社内では、小笠原に頭を下げる社員ばかりだ。ところが、株の世界では、一日に数千万~数億の金を動かす投資家たちはザラにいる。一応、専務の地位を得て、サラリーマン人生では成功した部類に入る。しかし、大金を操る投資家たちと接しているうちに、感覚が狂ってしまうのだ。今日では、証券会社の社員や家族が株式投資することは禁じられている。だが、そうではなかった時代の話だ。兜町から小網町に向かう途中に“中央経済資料研究所”という胡散臭い事務所があった。小笠原は、勤務が終わると、毎日ここを訪れた。ここの所長、川津久蔵に一部上場企業オリオン電気の株式を安値で大量に買わせていたのだ。いわゆる仕手グループと言うもので、二束三文の株式を大量に買い込んでおき、大型合併が起こる、日本初の新製品開発などと提灯記事を雑誌に書き、値が急騰したところで、売り抜け、大量の売却益を得るのが、こう言ったグループの手法だ。小笠原は、ここで会社からもらえる予定の退職金の数十倍の利益を得ようと目論んでいた。その原資が栄進証券のB勘(ブラックマネー・裏金)であり、その経理一切を取り仕切っていたのが、高野繁子だったのだ。小笠原は、中年女で決して美人では無い繁子と、嫌々ながら交際していたのも、その為だった。しかし、繁子は急変して小笠原に牙を剝き出したのだ。 「垂直の憎悪」 新宿西口の副都心地域に地上62階建ての超高層ビル“スタービル”がオープンした。私鉄資本が250億円かけて建設した、軒高190メートルの超高層ビルである。その屋上の展望台“スカイデッキ”は、週末から日曜にかけて、たいへん賑わっていた。スカイデッキに上がるには、専用のエレベーターがあり、専用のエントランスまであった。そこへ入っただけで客は、いい気分にさせられてしまう。この日も、二組のカップルが来た。一組は、東京に本社がある電器会社の社員、小西文彦と松井陽子。もう一組は、商事会社の社員、松原進と三橋和子だった。どちらも名の通った一流会社である。男は、二人とも28才。女は、松井が23才、三橋が22才だ。松井陽子は大柄でグラマーなタイプ。三橋和子は、典型的な美人タイプで、男二人は、エリートサラリーマン。エントランスに入るとホテルのボーイが案内する。二組のカップルは、特別な待遇を受け、増々気分が良くなった。エレベーターのドアが閉まりかけた時、一人の男が急に乗り込んできた。目つきの険しい30才前後の男で、どことなく、尋常では無い世界の雰囲気を身に着けている。ボーイの制止を無視して男が乗り込むと、エレベーターが動き出した。この男、堀越直人は、一人の女と信じ、愛した女に裏切られた。そして今日、スタービルの最上階の宴会場で行われる、別の男との結婚披露宴会場に乗り込み、女と共に、この世を去るつもりだった。スーツの内ポケットに刃物を隠して。二組のカップルは、堀越がエレベーターに、体を傾け乗り込んで来る瞬間に、そのスーツの裏に隠している物体を確認した。ただでさえ、目つきの悪い男で、凶器を持っていると知れば、刺激しない様にするしかない。到着までの辛抱だ。最新式のエレベーターは、高速、スムーズで頂上を目指している。ところが、あと少しで最上階というところで、乗っていたケージにガクンと衝撃が伝わり、上昇速度が弱まると、ガクガクと二、三度揺れて、ピタリと止まった。それと同時に、ライトが数回点滅して消えた。停電だ。さらに不幸なことに、非常用の呼び出し電話も通じない。命の危険を感じる狭く暗い密室の中で、二組のカップルは信頼関係を問われることになる。この非常事態に、一番冷静に対応できたのは、堀越だった。残念ながら、二組のカップルは、無事に救出されたものの、ホテルから帰る時、それぞれの男と女は別々の道に分かれて行った。 「静かなる発狂」 私立の名門F大学経済学部は、卒業生が実業界で活躍している事で有名である。矢吹邦彦と柏木武男は、地方出身で家は貧しい。本来なら財界人の子弟が集まるF大学など、とうてい入学できる身分ではなかったが、ずば抜けた成績を惜しんで、高校の先生が両親を説得してくれたのだ。学費は、奨学資金とアルバイトで賄った。二人は、F大学経済学部では、常に上位の席次を確保していた。ただ少し違うのは。柏木は天才型で、矢吹は努力型であるということだ。彼らの求職に対して、就職斡旋部は、菱井銀行を推薦してくれた。菱井銀行は、日本で預金量一位二位を争う大銀行で、菱井マンと言うだけで世間の見る目が違う。就職斡旋部も、無事パスするよと、太鼓判を押してくれた。都心の一流ホテルの会場を借り切って、入社試験が行われた。秀才揃い300人が集まったが、合格するのは12名と言われていた。柏木は、試験を受けて自信があった。良く出来た。しかし、矢吹は少し不安を感じた。結果は郵便で、パスした者だけに通知が行くことになっている。数日たって、矢吹に通知が来た。ところが、柏木には来ない。柏木は、試験の後、参考書を調べて、ほぼ満点に近いことを確かめている。堪りかねて人事課に面会を求めると「合計226点だ。満点で500点だから問題外だ」と言われてしまった。柏木が、アパートで自殺しているのを発見したのは、電話の取次ぎに来た、アパートの管理人だった。その電話の主は、菱井銀行の人事課からで、柏木が落ちたのは、コンピューターのミスによるものだと言うのである。間に合わなかった。一方、矢吹の、菱井マンになれた得意さは計り知れない。さらに、配属されたのが、オンライン・リアルタイムシステムを中央統御する、本社内の計算センターだったから、なお更だ。同期の仲間からも羨ましがられた。しかし、勝ち誇った矢吹を待っていたのは、菱井銀行名物、新入社員特訓である。大学でノンビリ過ごした連中を、筋金入りの菱井マンに人間改造するのが狙いである。計算センターの室長は、納見と言う。彼は、仕事の厳しさには定評がある。仕事のミスやルーズな勤務ぶりには容赦しない。納見は、入社試験のコンピューターの統括責任者でもあった。その納見が、エリート選抜社員のほか、一般入社した社員を集め、何の遮蔽物も無いところで伊吹に行った言葉は、コンピューターのミスにより落ちた柏木の代わりに、コンピューターのミスで合格したのが伊吹だと言うのだ。社内の伊吹を見る目が一変してしまう。それと比例するかの様に、伊吹の納見に対する憎悪が増し始める。書けないが、伊吹は、コンピューターのミスを利用して、納見に復讐するのだ。 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自分が犯した過去の殺人そっくりの小説を審査員として読んでしまった浅沼!! じわじわと迫ってくる恐怖・・・。築きあげた地位への確執・・・。 驚愕のラストに辿り着くまで、正に『目』が離せない!! 解き明かす“目”がユニークで、想像を膨らませる事が出来た1冊!! 読み進めるごとに、新たな想像が生まれてドキドキした。 エピローグのスピーチ部分は余分だったと思うけれど・・・。 これも作者の業でしょうか!!! | ||||
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