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紙の月



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【この小説が収録されている参考書籍】
紙の月
紙の月 (ハルキ文庫 か 8-2)

紙の月の評価: 3.78/5点 レビュー 158件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.78pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全102件 81~100 5/6ページ
No.22:
(4pt)

うまいなあ、としみじみ

角田光代さんは何冊目だろう。これの前に読んでいたのが新人作家さんの作品だったので、特にそう感じてしまうのかもしれないが、この人は上手い、本当に巧い。丁寧に、丁寧に、何気ない会話、何気ない行動から少しずつ違和感を覚え、日常からずれていく、そういう心理を無理なく描き出し、読んでいる私も一緒に導いていく。なんでこんなにうまく書けるのかと溜息が出るぐらい。丁寧なんですよね、急がなくて。でも、気づくと話は着実に進んでいる。ひずみは驚くほど大きくなっている。お金というのはほとんどの人が興味のあるものでしょう。そして、女性なら、ショッピングが大好きというのも、お金がたくさんあったら、値段も気にせず片っ端から気に入った服を買いたいという欲望も理解できる人は多いのでは。それだけに怖いし、だめだと思うから、たがが外れた女性の気持ちはわかりすぎるほどわかる。若い男に貢ぐために横領と聞くと、あらら、馬鹿ねえとしか思わないけれど、こういうふうに書かれてしまうと、うーん、梨花さんの生い立ちからなにからひっくるめて、せつなくなりますねえ。
紙の月Amazon書評・レビュー:紙の月より
4758411905
No.21:
(5pt)

代償のありすぎる承認欲求

角田作品では珍しく映像から入った作品(ドラマ面白かった…)

角田作品でおなじみのアジアへの逃避で幕を開ける。
今までと違うのは主人公が「罪をおかしアジアを放浪している事」であろう。

一億円を横領した女。
ともすればドラマティックになるであろうこの作品は淡々と綴られていて、
横領という行為もあまりの自然さにいつからだったっけと頁を戻る始末。
些細な事で一線を越えた…というのとも違う気がする。
主人公が考えたように光太に会わなくてもいつかこの線を飛び越えていたのではないか…。
学生時代親のお金を多額に寄付していた梨花。
手持ちのお金が足りずお客のお金から躊躇せず借りた梨花。
これは繋がった行為だ。主人公自体この行為に疑問を持っていない。

彼女は彼女の承認欲求を満たそうとして「お金」という物を使ったのではないだろうか。
それが貧しい国の子供か現実にいる若い男かはきっとあまり大差ないだろう。
そしてそれを持たない時にやっと感じる万能感。
彼女の代償のありすぎる承認欲求は彼女自身を飲み込みそして彼女を丸裸にしてやっと得られたのであろう。

夫の言動はとくに悪くも取れず、逆に受動的な梨花にイライラした。
その位スルーすればいいじゃないと。
光太の恋愛でも能動的に見えるがここでもやはり受動的だと思う。
愛してはいたが「若い男に見初められた自分」を守ろうとしたのではないだろうか。
彼女が求めているものはお金でも恋愛でも無かったのだ。

他登場人物の章も少しずつ梨花の言動にリンクしていてとても読み応えがあった。
今後私も「同級生の一億円を横領した梨花ちゃん」がこんな時どう思ったのか反芻しそうだ。
紙の月Amazon書評・レビュー:紙の月より
4758411905
No.20:
(5pt)

ドラマも・・・

ドラマが始まる前に読みました
どこにでもありえそうで無さそうな...
とても考えさせられました。
ドラマも凄く良かった!
紙の月Amazon書評・レビュー:紙の月より
4758411905
No.19:
(4pt)

丁寧な手仕事のような小説

横領という犯罪を扱った小説だが、事件をセンセーショナルに扱った話ではない。
登場人物の心理を丁寧に描き出している小説だと思う。
筆者は、レース編みを編むように、心の動きを繊細にあぶりだしていく。
丁寧に編まれていく心の模様を、楽しみながら読了した。
「お金」という即物的な物を中心にしながら、
心に残るのは人間が生まれながらに抱いている「空虚」だと感じた。
余韻の残る小説だった。
紙の月Amazon書評・レビュー:紙の月より
4758411905
No.18:
(4pt)

ドラマよりも

ドラマより、本の方がずっと楽しめると思います。
銀行という場所や犯罪の描写が本題ではなく、
女性の心理がとても細やかに描かれていてました。
紙の月Amazon書評・レビュー:紙の月より
4758411905
No.17:
(4pt)

「フトしたキッカケ」より遥かに怖い、作者の一段の成熟を示す秀作

「八日目の蝉」と同じ様な息苦しく重厚な雰囲気を全編に漂わせておきながら、別の意匠を巧みに織り込んだ作品。特に、前半と後半(特に終盤)とで受ける印象が全く異なる。夫からは相手にされず、子供も出来ない銀行の契約社員であるヒロインが若い男に貢いで数千万の横領事件を起こすという設定はありきたり。倹約家及び買物依存症の2人のヒロインの友人を登場させ、ヒロインと対比させるという手法もありきたり。作者の筆力で一応は読ませるものの、前半は本作の意匠が全く読めず、凡作なのではないかと思った。特に、若い男は男性としての魅力が皆無であり、ヒロインが何故この男のために横領にまで走ってしまうのか、説得力に欠けると感じた。また、2人の友人の描写もさしたる効果が上がっていない様に思えた。

しかし、終盤、この若い男の心の底からの"告白"の辺りから、作者の意匠が分かってくると共に、2人の友人の描写も含めた全体構成の妙を感じた。一見、「フトしたキッカケ」で少額の横領から手を染め、それが段々エスカレートして.....という風に見えるが、それは違うと作者は言っている。子供の頃からの経済面(本作では"お金"が持つ意味(特にその魔性)を重視している)を含めた生活環境、躾、それらに基づいた自身の考え方の"積み重ね"で人間が出来上がっており、ヒロインの犯罪はある意味"必然"だったと言うものである。これは、「フトしたキッカケ」より遥かに怖い。「当り前」に対する考え方あるいはその対象が、人によってマチマチである事、金(犯罪)によって得られる自由・満足感は、それと同程度の束縛・渇望感をもたらす事等も本作全体で主張している事である。作者の一段の成熟を示す秀作と言って良いのではないか。
紙の月Amazon書評・レビュー:紙の月より
4758411905
No.16:
(4pt)

えぐられる、覚悟

NHKドラマを第3話まで見て、原作が気になりました。
ドラマのセリフを探しながら、立ち読みをしていると、
だんだん苦しくなりました。
ドラマとは異なり、3者の生き方が、丁寧に描かれています。
(当然だと思いますが)。

私は、犯罪者ではありません。
でも、自分が、この物語によって、えぐられている気がしました。
たぶん、3者の部分的な言動に、私自身がフィットしていて、
自分の日記を読むような感じになった・・からだと、今思います。

私は、ドラマを最後まで見ようと思います。

30〜40代の女性のみなさま、またその年齢の女性と一緒に
過ごされているみなさま。
下手な性別論を読むよりも、腑に落ちる本だと思います。
紙の月Amazon書評・レビュー:紙の月より
4758411905
No.15:
(5pt)

とても怖くて、とてもためになる小説

主人公梅澤梨花が若い男にはまり公金横領をして破滅してゆく過程が描かれているが、私にはむしろ男に貢いだ梨花よりも、身の丈に合わぬ買い物や贅沢をして人生が破綻してゆく彼女の友人や知人の妻の方が恐ろしかった。
主人公の友人中條亜紀は買い物依存症で高価な洋服や靴などを買わずにいられない。主人公の元彼氏山田和貴の妻牧子は、子供時代は裕福に育ったが父の死後没落し、平凡なサラリーマン和貴と結婚した。子供が生まれてからは、自分が味わった贅沢を自分の子供たちにはさせてあげられないことから次第にどす黒い不満がたまってゆく。
二人とも身の丈に合わぬぜいたくがしたいがために、あるいは私にはそういう生活ができるんだという錯覚をして、高金利の消費者金融に手を出し多額の借金をつくってしまう。
しかし登場人物の女性たちは、主人公も含め、誰ひとり特別な人ではない。彼女らは私であり、あなたであるというほど普遍的に普通の女性として描かれている。拝金主義の日常、墓穴はすぐあなたや私の足元にあるのだと実感させられる。私も墓穴の一歩手前だったかもしれないが、この小説に出会えてかなり正気に戻ったようだ。すでにアブナイ方にもこれから消費社会に出てゆく若い方にもおすすめです。
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4758411905
No.14:
(5pt)

すべての人の人生には理由がある

全編通して胃がキリキリ痛むほど身につまされる。それほど主人公の人生に感情移入させられる筆力に圧倒された。
世間でニュースになる人達にも、それぞれ理由があり、本人にしかわからない必然の選択の積み重ねの結果である。加害者の人生に思いを馳せるようになった。
紙の月Amazon書評・レビュー:紙の月より
4758411905
No.13:
(5pt)

他人の事情

今の私とほぼ同年齢の主人公が横領に手を染めていく様が描かれていました。

時代設定は2013年現在よりは少し前。
だからでしょうか、働く女性の結婚について語られる部分で、思考の流れ方がとてもリアルでシビアだったのが印象に残っています。

オープニングから犯罪を犯していることだけが明らかにされており、それがどういういきさつによるものであったかということを知りたくてついつい読み進めてしまいました。
もちろん主人公目線からも語られていくのですが、彼女の過去を知る複数の人間の目線も織り交ぜられていく形式。
それぞれの現在の生活が描かれ、その中で悪いニュースの渦中の人となった主人公 梨花について考えを巡らせていくという語り方なので、
薄い色を塗り重ねるように梨花の生い立ちと人となりがおぼろげに立体化されていきます。

チャート式でどんどん負の選択肢を選んでしまう梨花。
一言で言えば、見栄っ張りな普通の中年女性が、他人のお金でええかっこして、取り返しの付かなくなったお話なんですが、私にはどうしても醒めた目でみることはできませんでした。
たぶん全ての行動の動機になっている、「私でも人の役に立てるかも!」→「期待(それが錯覚であっても)に応えなくちゃ!」→「喜んでもらえた!嬉しい!」という、梨花の自己肯定の快感が、他人事には思えないのです。

「自分の善意を満足させる」ことが、「犯罪」へと足を向けさせていることはないだろうか。
自分の中にいる潜在的な梨花が目覚めてしまわないように、この本で教えられたことを忘れるなかれと、読書中何度も自分を戒めながら読んだ作品でした。
紙の月Amazon書評・レビュー:紙の月より
4758411905
No.12:
(5pt)

紙の月について

新聞で書評を読み、amazonで求めました。
久しぶりに一気に読み終わりました。
主人公の女性の気持ちや行動に共感するところ
もあり、女性として考えさせられた本でした。
紙の月Amazon書評・レビュー:紙の月より
4758411905
No.11:
(4pt)

お金じゃない豊かさってないのか

読んでいる間中、ずっと苦しかった。

銀行のATMの前に立った時、ふと思ってしまう。
これは、自分のお金だよね、、、

実際には経験することはないことなのに、ここまで作中の人物の気分を
持たせられてしまうのは、やはり作者の力量なのだろう。

苦しいのに、最後まで読まなくてはいられない。

ここから出して、
早くみつけて、

作中の人物のつぶやきが、胸に痛い。
紙の月Amazon書評・レビュー:紙の月より
4758411905
No.10:
(5pt)

ペーパームーン・インスパイヤ

「紙の月」というタイトルならば、名作の誉れ高い映画「ペーパー・ムーン」を想起する。
それを日本語に置き換えると、何か詩情がごっそりはぎ取られたペラペラの安っぽい非現実感が漂う。
 それじゃ詐欺のお話なのかというと、これが実際詐欺のお話なのだ。
映画のストーリーとは全く関連がないけど。

 日常のリアリティーなどというが、そうかな。学生生活にリアリティーなんかあるのか。
映画造りだのサブカルチャーだのバンドだのとうわごとのような言動で過ごしているが。というか、私はそうしていたが。
 光太のぺらぺらした感じは、だからよくわかったし、過去の自分が責められているようで身が縮まった。

 逆に、ちょっと贅沢をしてレストランで食事をしたり旅行をしているときも、日常的な現実感はない。
スカイツリーを見ているとき、何か現実離れしている気はしないか。空の月が、何かぺらぺらと空に貼りついているだけのように見えることは無いか。
しかしそれは、しっかり現実である。

 日常性、連続性がリアリティーなのだ。殺人など信じられないと言っていた人が、戦争になれば優秀な兵士になって正確に人を打ち殺したりする。
犯罪が連続性を持ってこちらに忍び込んでくるとき、それは日常的なリアリティーを持ってしまう。梨花はリアリティーを持って、詐欺の仕事をこなし続けていく。どこかで超えた一線など、あとづけの理由でしかない。もう一度同じチャンスを与えられても、たぶんそっくり同じことが起きる。

 夫の正文は、かなり自分勝手な嫌なやつである。会社じゃあいい人なのかもしれないけど。こんな夫を「いい人に違いない」と自分に言い聞かせ続けた梨花が、かわいそうだ。
紙の月Amazon書評・レビュー:紙の月より
4758411905
No.9:
(4pt)

怖い話だが面白い

わかば銀行から41歳の契約社員・梅澤梨花が1億円を横領した。海外へ逃亡した梨花は果たして逃げ切れるのか?

今回は事件性を扱った長編小説

角田さんの作品はデビュー当初から読んでいましたが「森に眠る魚」以来、かなりお気に入りの作家の1人です。

「森〜」以来、特に人物描写が巧みでそれぞれの登場人物が脳内映像で動めき
時には共感したり時には反発したりと小説の中にどっぷりと嵌まり込んでしまいます。

いわゆる、どこにでもいそうな人々がほんの些細な事がきっかけで
人生を狂わせて行く様子がリアルに描かれていて怖い程でした。

文中、何度か出て来る「もし〜だったら」は自分にも当てはまる事で
そこで立ち止まって自分自身の人生を振り返ってみたりも出来ました。

角田さんの作品はどんどん読み応えのある物になって来ていて次作も楽しみです。
紙の月Amazon書評・レビュー:紙の月より
4758411905
No.8:
(5pt)

タイトルがいい

角田光代さんの小説はタイトルも好きです。上手いなぁと思います。特に長編。

梨花が専業主婦から働きに出るようになり、
夫の言動に違和感を感じる箇所が多々出てきます。
女性から見れば梨花の気持ちに共感できますが、
男性はやはり夫がそういう言動に出る気持ちがわかるという方のほうが多いのかな?と
少し気になりました。
また過去に梨花と接点を持ったことがある人達の梨花の印象や、
それぞれの現在の生活も興味深く読みました

主人公の梨花が横領するきっかけとも言える場面が出てきますが、
同じ状況になってもそれをできる人とできない人に分かれます。
(できない人と言うか、そもそもそういう概念がない人)

梨花が前者だったのですが、大きな事件を起こす芽は持っていたんだなと思います。
そう考えると、物語の終盤に逃亡先で「あの時もし・・」と、
いくつかの分岐点を振り返りながら出した結論に納得です。
横領のことだけを言っているのではないと思いますが。

給料25万円で生活できている人が転職し、35万円になりました。
差額の10万円は大事に使えるか、ちゃんと貯金できるかというと、
そうではない人のほうが多いという話を聞いたことがあります。
35万になったら35万に見合った生活を自然とするそうです。
今回この本を読み終えてさらにお金ってそういうものなんだなぁとしみじみ思ってしまいました。
紙の月Amazon書評・レビュー:紙の月より
4758411905
No.7:
(5pt)

切ない・・・

誰もが、この本の中に登場する様々な人物の要素を持ちえていて、共感する部分が多いのではないかと感じました。真面目でごく普通にきちんと育った娘・・・そういった女性が、日々の結婚生活の中で少しづつ澱をためてゆき、ほんの少しのきっかけから、次第次第にずれてゆき、気づいたときには、元に戻れなくなっていたという、誰もが、陥る可能性のあることなんだよと示唆されているように感じました。
紙の月Amazon書評・レビュー:紙の月より
4758411905
No.6:
(5pt)

日常から破滅へ。一気に流れる恐ろしい物語

伊藤素子のあの1億円横領事件をモチーフにしたこの小説、抑圧された主人公の心の移ろいと破滅に向かってひたひたと進行していく様が
わかり易い文体でスリリングに描かれており、私は非常に面白くて一気に読破しました。
穏やかな家庭の主婦でありながら夫の言動から抑え込まれた感情を持ったひとりの主婦が保険会社にパート勤務をします。
営業を担当し努力を重ねて顧客に可愛がられるようになり、成績を上げ成績優秀な保険レディに変わって行く過程で、
年下で映画監督を夢見る貧乏学生との出会いがありその男への複雑な感情が愛情に変わって行きながら、
どんどん破滅への道を辿って行く。
彼女は若い頃から正義感が強くボランティア活動にも積極的に参加していた事が
結果的にはその貧乏学生を救い上げようとする感情の基になってしまいます。
どこか怯えたように毎日を過ごしていた主人公は、徐々に考え方まで変わって行き
顧客から預かったお金に手をつけて行く。
そこからの転落過程の心の描写が非常に上手く、一気に読ませられます。
これは非常に怖い物語。
誰もがこの主人公のようになり得る、“つまずく”題材は日常に潜んでいる…という事を思わせる
不気味な怖さを持った物語です。
紙の月Amazon書評・レビュー:紙の月より
4758411905
No.5:
(4pt)

誰にもある、満たされないもの

逃亡劇ではなく、逃亡にいたる過程がていねいに描かれています。
主人公の梅澤梨花にとって、1億円の横領は目的ではなく結果。引き返せない道にたたずむ自分に気が付き、歩み続けるしかない。そういうせつなさであり、やるせなさであり、理由なき理由が書き込まれているのは、角田さんの巧さですね。周辺に、梅澤梨花と過去に接点をもった男女のミニストーリーが描かれ、平行して進む。それぞれの共通点は、満たされないものに対する抗いであり、逃避なのだと思います。その手段として、横領であったり、浪費であったり、倹約であったりと、お金の存在絡ませていますが、そこに、誰にもある満たされないもの、のリアリティがあるように思います。
紙の月Amazon書評・レビュー:紙の月より
4758411905
No.4:
(5pt)

「梅澤梨花(41歳)」を体感する313頁

帯書きは「梅澤梨花(41歳)が1億円を横領した。梨花は海外へ逃亡する。彼女は果たして逃げ切れるのか?」とあり、タイでの梨花の話から始まる。

しかし、「彼女は果たして逃げ切れるのか?」という点に、本書の「スリリングで、狂おしいまでの切実な」内容はない。
その後は、梨花と過去のある時期に接点のあった複数の同世代の者達の現在が描かれていく。
その別々の現在が、ぼんやりと ゆっくりと しかし 確実に絡み合う螺旋が 次第にラストへと上り詰めていくところにこそ、本書の感じるべきところがある。
その絡み合いを、彼女達の心理描写から感じるか、ちょっとした台詞や描写が重複する点から気付いていくのか、いずれにしても、その絡み合いを感じるならば、本書の終盤は正に角田光代ならではの、濃厚なものとして堪能できるだろう。

それにしても、角田光代は、比較的ドライな描写から、次第にネットリと纏わりつくものを読者に感じさせるのが上手い。「梅澤梨花(41歳)」という、実体のある一人の女性が、いつしか、人が誰もが心のどこかに抱えるものの集合名詞のように転じていくところは、同世代の女性にはどう感じられるのだろう。
紙の月Amazon書評・レビュー:紙の月より
4758411905
No.3:
(4pt)

お金と心の、不思議な関係

あいかわらず巧いです。主人公が少しずつおかしくなっていく様子が、これでもかこれでもかというくらい丁寧に綿密に描かれています。私はまともな経済観念をもっている自信があるのに、読んでいくうちに主人公の狂気に引きずられそうになるような恐怖を覚えました。最後まで読んだら、もしかして私も道を踏み外してしまうかも…と。彼女は完全におかしいと理性ではわかっているのに、他人事ではないという切実さ。お金って、時にはほんとうに不思議な魔物だなと、あらためて感じました。お金に支配されることもある、人の心もまた不思議。そんな大きなテーマをこれだけ執拗に描く力量に、いつもながら感服です。
ですが「対岸の彼女」「八日目の蝉」のような読後感ではないので、★は1つ減らしました、ごめんなさい。
紙の月Amazon書評・レビュー:紙の月より
4758411905

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