春にして君を離れ
評判
春にして君を離れの評価:
4.48/5点 レビュー 244件。 B ランク
Amazonレビュー一覧
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全466件 161〜180 9/24ページ
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春にして君を離れの評価:
4.48/5点 レビュー 244件。 B ランク
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ポワロやマープルのシリーズで知られるアガサ・クリスティが、メアリ・ウェストマコット名義で1944年に発表した長編小説です。
凶悪な事件が起こるわけではなりません。家族にとって最大の幸福を追求し、それを守らんがためにジョーンがこれまで下してきた決断の数々は見方によっては保守の極みであり、彼女はキリスト教信仰に支えられた伝統的家族観の信奉者といえるでしょう。自身がリスクや冒険や変化を恐れるがあまり、夫と子どもたちの人生にもその保守を求めていく妻であり母です。
「自由ですって? 【中略】そんなもの、いったいこの世の中にありまして?」とジョーンは夫に軽蔑的に語ります。
一方、夫ロドニーは「何か事をする前にすべてを綿密に計算し、けっして冒険をしないような慎重きわまる世間というものにつくづく嫌気がさしただけだ」とつぶやきます。
ジョーン自身はいささかも自己の生き方に疑問をさしはさまなかったはずですが、異国情趣あふれる中東への旅が彼女の夢想と妄想に拍車をかけ、やがて自身の生き方に罪悪感を抱くにいたる物語が展開していきます。
ジョーンの生き方、考え方は大なり小なり、ささやかな家族の幸せを維持するうえで求められうる負の側面であり、読者自身の人生観にも沿うところがないとはいえません。ですから彼女の旅路に同行することは、ジョーンの中に読者が自身を見つける旅にもなります。
彼女は後段、自身の生き方について贖罪の念を抱くかに至りますが、その思いが家族に届くことはないようです。エピローグは一転して夫ロドニーの視点から家族の真相が語られますが、それは底なしの哀しみとおののきを読者に与えるものでしょう。
しかし私自身は、ジョーンの生き方を徹頭徹尾斥ける気持ちにもなりませんし、かといってそのすべてをまるまる受け入れることもできません。
ボブ・ディランの楽曲「いつもの朝に」にはこんな一節があります。
“You’re right from your side. I’m right from mine.”
(きみの立場からすればきみは正しく 私の立場からすれば私は正しいのだ)
まさにジョーンと家族の視点はこのディランの歌詞のとおり。ジョーンだけを断罪することも、ロドニーら家族の視点だけを無邪気に肯(がえ)んずることもするまいと自己を戒めながら書を閉じました。
人と家族の一筋縄ではいかない実相を巧みにえがいた長編小説です。
最後に、この邦訳についても言及しておきたいと思います。
訳者の中村妙子氏がこの小説を日本語に移し替えたのは昭和46(1971)年とのこと。しかしその妙なる訳文は今読んでも決して古びていません。ジョーンの心のひだの揺れ動きを見事に描出していて、ほれぼれします。中村氏の訳文があったればこそ、この小説が今もクリスティの傑作のひとつと数えられるのでしょう。
私はこの小説を堪能しました。
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主人公の姓は「スカダモア」とカタカナ表記されていますが、イギリス人の名前Scudamoreは「スク(―)ダモア」とするのが原音に近いといえます。2010年代にサッカーのイングランド・プレミアリーグの最高経営責任者(CEO)だったRichard Scudamore氏は、日本のスポーツ紙では「リチャード・スクダモア」と表記されていました。
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この小説を読んでいるうちに、以下の小説のことを思い出しました。
◆モーパッサン『女の一生』
:主人公ジャンヌは妻として母としての幸福を夢見て結婚生活に入るものの、そこには決して無垢な幸せが待ち受けていたわけではないという悲劇です。
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