春にして君を離れ
評判
春にして君を離れの評価:
4.48/5点 レビュー 244件。 B ランク
Amazonレビュー一覧
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全466件 261〜280 14/24ページ
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春にして君を離れの評価:
4.48/5点 レビュー 244件。 B ランク
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小説の詳細ページを閲覧すると、ここに履歴が表示されます。最近閲覧した小説詳細ページへ簡単に戻る事が出来ます。
「もしも、あの時、こちらの道を選択していたら、どんな人生だっただろうか」 という、生きられなかったもうひとつの(あるいは別の)生き方を思うことがあるという。
主人公の主婦も、そんなひとり。子供たちが巣立ち、人生の残り時間を意識するお年頃・・・・というありふれた主題なのだが、ぐいぐいと引き込まれてしまった。推理小説のように、主人公の人物像が一点に集約されてゆく。
ミステリーの女王といわれたクリスティーがこんな小説を書いていたのは驚きだった。
もっとも、出版時は、ミステリーファンをがっかりさせないため、クリスティー自身により「メアリ・ウェストマコット」名義で発表された、ということも初めて知った。
七つの海を支配したといわれる大英帝国だが、この主婦の旅にもそんな残像が背景に描かれている。
イラク(バクダッド)からトルコ、ヨーロッパを横断して、故国イギリスまでの女のひとり旅。
だが、そんな広い土地がみんな小さくなってしまうほど、彼女の家族やその周辺の人々のことが語られる。
時代は作中では、「ヒトラーが戦争を始めるかもしれない」という話題からも、原作の初出が1944年(昭和19年)ということからも、時代背景のずいぶん違う作品のはずだが、親子、夫婦の普遍的なものがたくさん盛り込まれている。
さいごの栗本薫さんの解説も若々しく鋭い。こういう事って往々にしてあるな、こういう人っているな、と思う。
他人に対して共感を欠く人、ということだが。
この主婦は、昔気質でいわゆる「良妻賢母」ともいえる、完璧な女性。
父が軍人だった、ということからも、義務や規律を重んじる家庭に育ったのだろう。
この主婦の「ちょっと変」というか、ある意味「暴力的」というか、そういうところが子供たちにとっては辛かったろうが、そこを夫君である父親が補ってきたらしい。
しかし、その夫君は決して優しいだけの男ではないものの、どうやら「強い女性」が好きらしい。
恋愛結婚だったという、この主婦を妻にしたのは、夫にとっても運命の出会いだったのだろうなと想像できる。
この「母」と同性である娘たちは、いったいどんな家庭を築いてゆくのだろうか。
そういう意味ではたぶん、異性の「息子」よりも、同性の「娘たち」の方が、苦労が多そうな感じだ。
「平穏な家庭にもある微妙な問題」の、現代にも通じそうな見事な描写の小説だと思う。
部屋なんか、家なんか、多少散らかっていても、温かく細やかな愛情のある家庭が、子供にはいちばん、そう、「レスリー」の家のように、というふうにも見えるし、そうすると、”「理解ある親」をもつ子はたまらない ”という『こころの処方箋』にでてくる故・河合隼雄さんの言葉を思い出し、思春期にまでわかりあっていたら、それはそれでまた、大変なんだろうな、と、親の年になった自分の体験も絡んでいろいろと考えさせられる。
主人公の主婦は、生活に困る境遇ではなく、では「どんな妻」、「どんな母」であればよかったのか、”愛するだけでは十分ではないのだ”、と旅の途上で心を震わせる。
あくまでも健気な女性ではあるし、けっして悪人ではない。きちんとした恥ずかしくない人生をおくり、立派な仕事をやり遂げた。
昔読んだ、曾野綾子の『善人はなぜまわりの人を不幸にするのか』という本も思い出した。
でも、善人って、どんなひとだろうか?
思い込みや信念の強い人で、周囲にはちょっと迷惑、往々にして迷惑、という人は、男でも女でも、世の中にたくさんいる。
家族にとっては迷惑でも、仕事では有能な人、とか、場所により、役割やそれぞれの立場によっても変わってくるだろう。
それが、神ではない人の哀しさなんだろうか。
温和な夫の接し方は、「いやなやつ」とも言えようが、他人を(怒鳴り散らしたりして)変えようとはしない、という意味ではオトナ、それもまた愛であり、受け入れる強さ、といえるのだろうか?
それとも、もっと語り合って(あるいは喧嘩でもして)、解りあえる可能性があるのだろうか?
(この夫婦には、そんな可能性もあるような気がする。)
作品は、ハッピーエンドだろうな、というところまで話が行くけれど、どっこい現実は違った、という結末だった。
「あなたのお気持ち、(ぜんぶ)解ってましたよ。」という金婚式成熟シーンが、この作品の将来にはなさそうな気配だが、あったらあったで、気持ち悪いということになるんだろうか。または「妻は悪かった」、「母は悪かった」ということにされてしまうんだろうか、とまた、いろいろと考えさせられてしまった。