春にして君を離れ

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評判

春にして君を離れの評価:

4.48/5点 レビュー 244件。 B ランク

Amazon書評・レビュー点数毎のグラフです

平均点4.48pt

Amazonレビュー一覧

Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全466件 181〜200 10/24ページ
No.286
(5pt)

読み手まで巻き込まれます

クリスティーの本は何冊も読んでいますが、殺人事件が起きないのでこの作品は敬遠していました。
しかし評価が高いので読んでみたら、まさかのこれがクリスティー作品の中で一番のお気に入りに。

子育てを終えた中年女性である主人公が、過去の自分の言動を振り返る、ただそれだけの話です。
しかし次第に不安感に襲われ、追い詰められていく描写が見事です。
そしてこの主人公の過去の言動が、読み手である私自身の過去にもあるのではないかと気付くと、急に背筋がゾッとしました。
今まで意識していなかった心の奥底を抉られたような感じでした。

主人公の心の変遷に読み手まで巻き込んでしまう、人間の本質を描いた傑作でした。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) Amazon書評・レビュー: 春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)より
4151300813
No.285
(5pt)

読み手まで巻き込まれます

クリスティーの本は何冊も読んでいますが、殺人事件が起きないのでこの作品は敬遠していました。
しかし評価が高いので読んでみたら、まさかのこれがクリスティー作品の中で一番のお気に入りに。

子育てを終えた中年女性である主人公が、過去の自分の言動を振り返る、ただそれだけの話です。
しかし次第に不安感に襲われ、追い詰められていく描写が見事です。
そしてこの主人公の過去の言動が、読み手である私自身の過去にもあるのではないかと気付くと、急に背筋がゾッとしました。
今まで意識していなかった心の奥底を抉られたような感じでした。

主人公の心の変遷に読み手まで巻き込んでしまう、人間の本質を描いた傑作でした。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38) Amazon書評・レビュー: 春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)より
4150400385
No.284
(5pt)

栗本薫氏の解説もとても良かった

あなたの目を通して見た世界、あなたの目を通して見た周囲の人々は、本当にあなたの解釈した通りに存在し、行動し、感情を持ち、あなたが定義づけた通りにあなたを扱ってくれているのでしょうか? 本当に???

なんとも地味な筋書きなんです。けれどこれは、探偵役も、犯人役も、被害者役も主人公という立派なミステリー。その要のトリックは、人間の傲慢な自意識。だからこの小説はきっと、千年経っても廃れないことでしょう。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) Amazon書評・レビュー: 春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)より
4151300813
No.283
(5pt)

栗本薫氏の解説もとても良かった

あなたの目を通して見た世界、あなたの目を通して見た周囲の人々は、本当にあなたの解釈した通りに存在し、行動し、感情を持ち、あなたが定義づけた通りにあなたを扱ってくれているのでしょうか? 本当に???

なんとも地味な筋書きなんです。けれどこれは、探偵役も、犯人役も、被害者役も主人公という立派なミステリー。その要のトリックは、人間の傲慢な自意識。だからこの小説はきっと、千年経っても廃れないことでしょう。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38) Amazon書評・レビュー: 春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)より
4150400385
No.282
(5pt)

真実を見えてない私達への本

表面に見えている部分が真実だと疑わない。テレビの言うことや、新聞の書くこと、政府の言い分、いわゆる常識、これを信じていたら戦争に突入したり、気候変動が起きたりする。この小説こそ現代の常識がコロコロ覆っている我々が読むべきではないか、そんな風に思う。多分こんな主人公の様な人、世の中の殆どの人は死んだ時に全てを気づいてそして去っていくのだろう。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) Amazon書評・レビュー: 春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)より
4151300813
No.281
(5pt)

真実を見えてない私達への本

表面に見えている部分が真実だと疑わない。テレビの言うことや、新聞の書くこと、政府の言い分、いわゆる常識、これを信じていたら戦争に突入したり、気候変動が起きたりする。この小説こそ現代の常識がコロコロ覆っている我々が読むべきではないか、そんな風に思う。多分こんな主人公の様な人、世の中の殆どの人は死んだ時に全てを気づいてそして去っていくのだろう。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38) Amazon書評・レビュー: 春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)より
4150400385
No.280
(3pt)

かわいそうなロドニー

翻訳は、もう少し現代風にしてもいいのではないかと思います。

ネタバレです。

一番不幸なのは、間違いなく夫のロドニーですね。「休暇もついに終わりか」の一言に尽きます。

「かわいそうなジョーン」という自分を棚に上げ、上から目線の発言。

かわいそうなロドニー。
こんな男にはなりたくない。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) Amazon書評・レビュー: 春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)より
4151300813
No.279
(3pt)

かわいそうなロドニー

翻訳は、もう少し現代風にしてもいいのではないかと思います。

ネタバレです。

一番不幸なのは、間違いなく夫のロドニーですね。「休暇もついに終わりか」の一言に尽きます。

「かわいそうなジョーン」という自分を棚に上げ、上から目線の発言。

かわいそうなロドニー。
こんな男にはなりたくない。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38) Amazon書評・レビュー: 春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)より
4150400385
No.278
(5pt)

ささやかな慰めに

既婚男性にぜひ読んでいただきたい。あなたの奥さんは主人公よりいい奥さんだろうか。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) Amazon書評・レビュー: 春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)より
4151300813
No.277
(5pt)

ささやかな慰めに

既婚男性にぜひ読んでいただきたい。あなたの奥さんは主人公よりいい奥さんだろうか。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38) Amazon書評・レビュー: 春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)より
4150400385
No.276
(5pt)

今まで読んでなかったがもったいない、と心の底から思ったアガサクリスティの名作

個人的にアガサクリスティの代表作(オリエント急行殺人事件、ABC殺人事件、アクロイド殺し等)
は読んでいたのですが、この作品は恥ずかしながら未読でした。

評判が高かったので読み始めたところ、翻訳は非常にすばらしく読みやすい文章ではあるのですが、
読み進めるうちに次第に不穏な雰囲気があらわになってきて「どう考えてもハッピーエンドで終わらないだろ」
という不吉な予感しか感じられず、読み進めるのに非常に時間がかかりました。

終盤で明らかになる真相に(というか、主人公が真相に気がつく瞬間に)明らかなカタルシスはあるのですが、
その後の展開が、もうなんと言って良いのか分からないような重苦しい展開となり、
最後は主人公の旦那さんの重い独白で終わるという構成。

読んだ人は共感してくれると思うのだけど最後の一文を読んだ瞬間に、なんとも言えない気持ちに包まれました。
自分の人生に当てはめてみても、果たして主人公のような振る舞いをしてないか、と考え込んでしまいました。

この小説は殺人事件は無いですし、厳密な意味では推理小説ではないのかも知れないけれども、
アガサクリスティが残したものすごい名作だ、と個人的には思いました。

希有な読書体験をしたい人にオススメな1冊ですね。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) Amazon書評・レビュー: 春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)より
4151300813
No.275
(5pt)

今まで読んでなかったがもったいない、と心の底から思ったアガサクリスティの名作

個人的にアガサクリスティの代表作(オリエント急行殺人事件、ABC殺人事件、アクロイド殺し等)
は読んでいたのですが、この作品は恥ずかしながら未読でした。

評判が高かったので読み始めたところ、翻訳は非常にすばらしく読みやすい文章ではあるのですが、
読み進めるうちに次第に不穏な雰囲気があらわになってきて「どう考えてもハッピーエンドで終わらないだろ」
という不吉な予感しか感じられず、読み進めるのに非常に時間がかかりました。

終盤で明らかになる真相に(というか、主人公が真相に気がつく瞬間に)明らかなカタルシスはあるのですが、
その後の展開が、もうなんと言って良いのか分からないような重苦しい展開となり、
最後は主人公の旦那さんの重い独白で終わるという構成。

読んだ人は共感してくれると思うのだけど最後の一文を読んだ瞬間に、なんとも言えない気持ちに包まれました。
自分の人生に当てはめてみても、果たして主人公のような振る舞いをしてないか、と考え込んでしまいました。

この小説は殺人事件は無いですし、厳密な意味では推理小説ではないのかも知れないけれども、
アガサクリスティが残したものすごい名作だ、と個人的には思いました。

希有な読書体験をしたい人にオススメな1冊ですね。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38) Amazon書評・レビュー: 春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)より
4150400385
No.274
(4pt)

人間の「悔い改め」の不完全さ

いわゆるキリスト教圏ではない日本では馴染みのない「回心=悔い改め」ですが、キリスト教の基本であり最高の美徳でもあります。
自分の愚かさや無力さ、罪深さを実感し、自分が「塵から作られ塵に還る」ただそれだけの虚しい存在であることを認める絶望。
しかしそのような自分のためにも、キリストは命を捨ててくださった、キリストの犠牲によって神との和解が成立したことを受け入れ「生まれ変わる」のがクリスチャンです。

けれども人の心には防衛機制があり、正当化したり忘れたり都合のいい記憶に塗り替えたりしてしまいます。人間には完全な悔い改めというのは、不可能なことなのでしょう。
クリスティーはクリスマスをテーマにキリスト教を皮肉る内容の短編集も書いているので、この小説はもしかしたら、そこまでの「悔い改め」が本当に人間に可能なのか。あるいは「かわいそうなジョーン」には永遠に救いは訪れないのか。というキリスト教の「救い」への問いのようなテーマかもしれません。

この小説の「ジョーン」という語り手は、わかりやすく独善的で、自分を直視できない臆病者として描かれているのでつい「こういう人いるよね」と他人事として
「問題のある誰かさん」と重ねて読んでしまいがちですが、そうやって読んでいる自分こそが、ジョーンと似た状態に陥っているのだと思います。

「いくらなんでもジョーンほど愚かではない、私はもうちょっと人の気持ちに気づけるわ」
あるいは母親としてのジョーンに対して
「ウチも似たような面があるのかな…いや、でもウチは結局、最後は子どものが我を通したこともあるもの。やっぱりジョーンの家庭ほどの問題はない」

こういう読み手は、ジョーンが「私がブランチのようでないことを感謝します」と祈ったのと同じ場所にいるのです。「ジョーンのような鈍い性格でなくてよかった」と。

ちなみに「私が〜のような罪人でなくて感謝します」という祈りは、罪を嘆き、神の哀れみを請う祈りを捧げる罪びとの祈りとの対比で、聖書に記されている有名なエピソードです。「〜さんのような罪を犯していないことを感謝します」という祈りは誤りであり、罪人の祈りこそ神は求めておられる、という教訓として。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) Amazon書評・レビュー: 春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)より
4151300813
No.273
(4pt)

人間の「悔い改め」の不完全さ

いわゆるキリスト教圏ではない日本では馴染みのない「回心=悔い改め」ですが、キリスト教の基本であり最高の美徳でもあります。
自分の愚かさや無力さ、罪深さを実感し、自分が「塵から作られ塵に還る」ただそれだけの虚しい存在であることを認める絶望。
しかしそのような自分のためにも、キリストは命を捨ててくださった、キリストの犠牲によって神との和解が成立したことを受け入れ「生まれ変わる」のがクリスチャンです。

けれども人の心には防衛機制があり、正当化したり忘れたり都合のいい記憶に塗り替えたりしてしまいます。人間には完全な悔い改めというのは、不可能なことなのでしょう。
クリスティーはクリスマスをテーマにキリスト教を皮肉る内容の短編集も書いているので、この小説はもしかしたら、そこまでの「悔い改め」が本当に人間に可能なのか。あるいは「かわいそうなジョーン」には永遠に救いは訪れないのか。というキリスト教の「救い」への問いのようなテーマかもしれません。

この小説の「ジョーン」という語り手は、わかりやすく独善的で、自分を直視できない臆病者として描かれているのでつい「こういう人いるよね」と他人事として
「問題のある誰かさん」と重ねて読んでしまいがちですが、そうやって読んでいる自分こそが、ジョーンと似た状態に陥っているのだと思います。

「いくらなんでもジョーンほど愚かではない、私はもうちょっと人の気持ちに気づけるわ」
あるいは母親としてのジョーンに対して
「ウチも似たような面があるのかな…いや、でもウチは結局、最後は子どものが我を通したこともあるもの。やっぱりジョーンの家庭ほどの問題はない」

こういう読み手は、ジョーンが「私がブランチのようでないことを感謝します」と祈ったのと同じ場所にいるのです。「ジョーンのような鈍い性格でなくてよかった」と。

ちなみに「私が〜のような罪人でなくて感謝します」という祈りは、罪を嘆き、神の哀れみを請う祈りを捧げる罪びとの祈りとの対比で、聖書に記されている有名なエピソードです。「〜さんのような罪を犯していないことを感謝します」という祈りは誤りであり、罪人の祈りこそ神は求めておられる、という教訓として。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38) Amazon書評・レビュー: 春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)より
4150400385
No.272
(5pt)

ミステリーだけでないアガサの魅力

登場人物の心理や描写、観察力のある筆が素敵です。こういう作品も書かれていたのですね。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) Amazon書評・レビュー: 春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)より
4151300813
No.271
(5pt)

ミステリーだけでないアガサの魅力

登場人物の心理や描写、観察力のある筆が素敵です。こういう作品も書かれていたのですね。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38) Amazon書評・レビュー: 春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)より
4150400385
No.270
(2pt)

長い

評価の高い作品だったので期待した分、残念。人生とは確かにそうなんだろうけど、くどくどと書き込む程の内容では無いと思います。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) Amazon書評・レビュー: 春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)より
4151300813
No.269
(2pt)

長い

評価の高い作品だったので期待した分、残念。人生とは確かにそうなんだろうけど、くどくどと書き込む程の内容では無いと思います。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38) Amazon書評・レビュー: 春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)より
4150400385
No.268
(5pt)

究極の推理小説

究極の推理小説とはどういうものかというと、その候補の一つは、小説ではないが、紀元前に書かれたギリシャ悲劇が原型を示しているかも知れない。アリストテレス「詩学」が簡便にまとめたように、ここでの物語は「発見」とそれによる「急展開」を中核とする。そして、さらにその中の典型としてはソフォクレス「オィディプス王」が挙げられる。「自分」を発見することで、急転直下破滅へと至る男が主人公で、これがつまりは推理ものの究極と言えるのではないだろうか。
 アガサ・クリスティーは、ミステリーの女王の名に相応しく、様々な手法に挑戦している。その要点は、「真相」のすごさというよりはむしろ、「発見」を、どのような形でどのように描くか、それによってどのように読者を驚かせつつ納得させるか、にある。その点から見て、叙述トリックを使った「アクロイド殺し」と「そして誰もいなくなった」は特に傑作の名が高い。しかし、その彼女にしても、犯人=探偵のプロットは、推理小説としては書けなかった。叙述トリックとは読者をだますもので、広く見ればすべての推理小説がそうだ。しかし、主人公が自分の行為の意味を最初は知らず、つまり、自分で自分をだましていて、後になってそれを発見する、というのは、ありそうな気もするが、我々がよくなじんでいる推理小説の型からはかけ離れている。
 そこでこのような作品は、別人名義で、「ロマンス小説」として発表された。八割以上がヒロインの内面で展開する。そこで彼女は、たまたま会った学生時代の友人と、天候のために足止めされたトルコ国境の町の荒涼たる景色に触発され、自分を見つめ直す。自分が家人にとってどのような存在であったか、本当は気づいていたのに意識の底に沈めてしまっていたものを、改めて発見するのである。犯罪などまったくないのに、回想と情景描写とが重層的に積み重なる叙述は、この種の小説としては稀なスリリングさを獲得している。
 ところで、この「発見」は「客観的な真実」であるのかどうか。そのへんは曖昧にして小説を終えることもできたろう。トルストイ「クロイツェル・ソナタ」はそのように構成されている。この作品は、最後の章で主人公の夫の視点を出して、彼女の「発見」は他者から見ても真実であることがわかる。これはエンターテインメント小説だからだろうか? 必ずしもそうではないようだ。この末尾で、主人公が「真実」を再び無意識へと追いやってしまったこと、それに、もっと短く、世間的な基準からすれば、彼女は「正しい」としか言えないことが示されているからだ。最後にきてこの人生の皮肉には、かなり慄然とさせられた。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) Amazon書評・レビュー: 春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)より
4151300813
No.267
(5pt)

究極の推理小説

究極の推理小説とはどういうものかというと、その候補の一つは、小説ではないが、紀元前に書かれたギリシャ悲劇が原型を示しているかも知れない。アリストテレス「詩学」が簡便にまとめたように、ここでの物語は「発見」とそれによる「急展開」を中核とする。そして、さらにその中の典型としてはソフォクレス「オィディプス王」が挙げられる。「自分」を発見することで、急転直下破滅へと至る男が主人公で、これがつまりは推理ものの究極と言えるのではないだろうか。
 アガサ・クリスティーは、ミステリーの女王の名に相応しく、様々な手法に挑戦している。その要点は、「真相」のすごさというよりはむしろ、「発見」を、どのような形でどのように描くか、それによってどのように読者を驚かせつつ納得させるか、にある。その点から見て、叙述トリックを使った「アクロイド殺し」と「そして誰もいなくなった」は特に傑作の名が高い。しかし、その彼女にしても、犯人=探偵のプロットは、推理小説としては書けなかった。叙述トリックとは読者をだますもので、広く見ればすべての推理小説がそうだ。しかし、主人公が自分の行為の意味を最初は知らず、つまり、自分で自分をだましていて、後になってそれを発見する、というのは、ありそうな気もするが、我々がよくなじんでいる推理小説の型からはかけ離れている。
 そこでこのような作品は、別人名義で、「ロマンス小説」として発表された。八割以上がヒロインの内面で展開する。そこで彼女は、たまたま会った学生時代の友人と、天候のために足止めされたトルコ国境の町の荒涼たる景色に触発され、自分を見つめ直す。自分が家人にとってどのような存在であったか、本当は気づいていたのに意識の底に沈めてしまっていたものを、改めて発見するのである。犯罪などまったくないのに、回想と情景描写とが重層的に積み重なる叙述は、この種の小説としては稀なスリリングさを獲得している。
 ところで、この「発見」は「客観的な真実」であるのかどうか。そのへんは曖昧にして小説を終えることもできたろう。トルストイ「クロイツェル・ソナタ」はそのように構成されている。この作品は、最後の章で主人公の夫の視点を出して、彼女の「発見」は他者から見ても真実であることがわかる。これはエンターテインメント小説だからだろうか? 必ずしもそうではないようだ。この末尾で、主人公が「真実」を再び無意識へと追いやってしまったこと、それに、もっと短く、世間的な基準からすれば、彼女は「正しい」としか言えないことが示されているからだ。最後にきてこの人生の皮肉には、かなり慄然とさせられた。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38) Amazon書評・レビュー: 春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)より
4150400385