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ひげのある男たち



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ひげのある男たちの評価: 5.50/10点 レビュー 2件。 Dランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点5.50pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ひげが特別だった頃の時代のミステリ

直木賞作家でハードボイルドの先駆者と呼ばれながら、数々のジャンルで傑作を物にしている昭和を代表する作家の1人、結城昌治氏。その彼のデビュー長編である本書は意外にもユーモアミステリであった。

しかも本書は数少ない結城作品の中でも貴重なシリーズキャラクター、郷原刑事が登場する1編なのである。
郷原刑事物は本書を含めて3作あるとのこと。デビュー長編に登場した刑事を主人公に書き継いだというのが結果かもしれないが、本書における郷原刑事は立派なひげを蓄えた名刑事として名の知られている事や家に拾ってきた野良犬を17匹飼っているといった特徴づけがなされていることから当初からシリーズ化する意向はあったのだろう。

さてユーモアミステリと云っても扱っているのは殺人事件であり、多数の刑事が登場する警察小説でもある。しかし名刑事と呼ばれている主人公の郷原刑事の、ところどころに挟まれる吐露する心情などが非常に人間臭いところ、そして何よりも捜査の対象となる独身女性殺人事件の容疑者がおしなべてひげを生やしているという妙味にある。
そして上述のように捜査を担当する郷原刑事もまたひげを蓄えた刑事であり、とにかくひげ尽くしのミステリとなっているのだ。

さてこのひげ、男性にあって女性にないものの1つである。

ひげ。
この男性性の象徴ともいえるものに対し、結城氏はまず物語の冒頭で簡単なひげの歴史とひげに纏わるエピソード、そしてひげが内包する意味などを語る。

最近私は平成における男性がひげを生やすことに対する意識の変化について書かれたウェブ記事を偶然ながら読むことができた。そこにはおおむね次のように書かれていた。

戦国武将の時代ではその威光を示すために生やしたとされるひげは高度経済成長を迎え、サラリーマン社会となった昭和では身だしなみを整えなければならないという観点から男性はひげを剃り、常に清潔であることを強要された。
しかし平成になり、無精ひげを生やしても清潔感が滲み出るタレントが多く出たことからひげを生やすことに抵抗がなくなり、無精ひげも違和感なく受け入れられるようになったという。

しかし最近では男性も女性のように美しくあることを求めるようになり、再びひげを剃る風潮になってきたが、以前と異なるのはひげを剃る道具類に美肌効果やひげが生えにくくなる成分が加味され、常につるつるの美しい肌をキープできるのが若者の間で流行っている、といった内容だった。

まあ、この記事の内容の是非についてはそれぞれ異論はあろうが、だいたいの流れは掴んでいると考えられる。
従って本書においてひげを生やした男がいやに強調されるのは上の記事でも語られているように、男にひげを剃ることが求められていた時代だからこそ、事件の関係者・容疑者がひげのある男たちであるところが面白いのであろう。

また男はひげに対して特別な思いを抱きがちだ。
例えばスポーツ選手は調子がいい時はそれが続くことを願ってわざとひげを剃らないでいるし、また逆も然りで調子が悪いとトレードマークと云われるまでに伸ばしていたを心機一転とばかりにばっさりと剃る者もいる。

また出世して要職に就くと威厳と自身の心構えを変えるためにひげを蓄える人もいれば、ひげがあることで男ぶりが上がるのでわざとひげを生やす人もいる。
またある人は相手から表情を読み取りにくくするためにひげを生やすことを選択する。

本書もその例に漏れず、ひげを生やす人物は転職をして心機一転する者やチンピラの親分となって若いながらに威厳を保つために生やす者など出てくるし、出所して新生活のために逆にそれまで生やしたひげを剃る人物も出てくる。

さてひげ、ひげ、ひげと自分で書いていてもしつこくなってきたので本書の感想に戻ろう。

アパートの一室で亡くなった女性の部屋を訪れた男を目撃者はべレエ帽をかぶり、灰色のコートを着たひげの男だと証言するが、なぜか歩き方についての証言が人によって異なっていた。

更にひげを蓄えた被害者の周囲に浮上する3人の容疑者達。物語の終盤、その3人を尾行する警察は悉く巻かれるに当たり、俄然容疑は濃くなっていく。

しかし犯人は意外なところから出てくる。

結城氏は作家になる前は東京地方検察庁に事務官として働いていた経験があるからだろうか、本書に描かれる郷原刑事たち捜査陣たちがやけに人間臭く感じるのは、それを目の当たりにした経験が存分に活かされているのだろう。

特に捜査会議にマスクをした身元不明の人物が紛れながら、警察側、検察側それぞれがどちらかの関係者だろうとして放置するシーンは今までのミステリでも前例のない奇妙な展開でありながら、妙なリアルさを感じる。ちなみにその正体は探偵の香月栗介だったわけだが、当時の警察の一風景を切り取った珍エピソードではないだろうか。

しかし昭和を代表するミステリ作家結城氏もさすがにデビュー作はまだまだ粗さが目立った。ひげのある男たちが登場しながら、もう少しひげについてガジェットを豊富にしてほしかったし、郷原刑事の猫好きもあまり物語に寄与しているとは思えない。

そして最たるものは延々25ページに亘って香月栗介による事件解明の講釈が書かれていることである。しかも見開き目いっぱいに文字が埋め尽くされ、ずっと事件の発端から犯人断定に至るまでの推理の道筋が続くのである。
これは今では作品を応募する新人でもしないことだろう。大作家も人の子であったと思わされた場面であった。

さて令和最初の読書はなんと平成でもなく昭和34年に書かれた昭和を代表する作家の1人のデビュー長編となった。しかも意図してこの作品を選んだものではなく、たまたま読む順番にこの本が巡ってきたのだ。

元号昭和と同じ漢字が使われた新元号令和の1冊目に本書を読むことになったのは何かの啓示だろうか?
私も50に近づいたことだし、まずはひげでも生やしてみようか。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.1:
(4pt)

小振りな作品でした

シンプルな話なのですが少し分かりにくいところがありました。

わたろう
0BCEGGR4

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