公園には誰もいない・密室の惨劇
- 別荘 (163)
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<真鍮の真に材木の木>真木探偵シリーズの2作目。2年ぶりの登場である。好評を博したわけでもないが、作者がこだわりを持っていたということか。今回の依頼も若い女性の捜索である。探偵が一度も彼女に出会えないのも一緒だ。また、一種の家庭劇であるのも共通している。さらには、探偵は今度も頭を殴打され、物語の序盤でその任務を終える。いや、依頼された時点ですでに終っていたのかもしれない。だから、<あとは道楽だと思われても仕様がない>のだ。もちろん、この“道楽”が心地よいものにたどりつくはずもない。探偵は、またしても人間の深い謎に降りて行き、そして高い塀に囲まれた誰も近寄れない“孤独”に遭遇する…。 中西三保子という元女優に失踪した娘・伶子の捜索を依頼される。<公園には誰もいない>というのは、伶子自作の歌のタイトルだった。レコードも発売され、好評で、これから、というときだった。伶子には理江という妹がおり、父親は癌で入院中だった。伶子は母親似の派手好きでわがままな性格で、当時流行だったフーテンたちとつき合い、ジャズ喫茶などに出入りしていた。<彼らはこの穴倉に似た密室にもぐり、外部から閉ざされることによって、初めて彼ら自身を解放しているように見え>た。“自由”は“現実” の中にではなく、“空想”の中にしか存在しなかったのだろう。67年当時の日本の若者の生態も描かれる。 特徴的なのは、前作で見え隠れしていたレトリックの妙が冴えてきていること。<派手な色彩のスポーツ・カーが捨てられた女のように並んでいた>。<老いた犬はそんな風景どこ吹く風の、相変わらず色即是空といった様子でねそべっている>。<人生を投げてしまった者が残り滓を吐きだすような声>。<「もう五、六回失恋してるわ」清子は、小銭しか入っていない財布を落としたように言った>。<いったん疑われたら、アリバイなどはクリスマス・ケーキのように崩れやすいものだ>。それから、会話の妙。<低劣な人間は低劣なことしか考えない>。<その代わり、低劣な人間は低劣な奴のやりそうなことがすぐ分る>。そうなんだ。私立探偵とは実にダーティな仕事である。このことを真木は自覚している。<私の冷たさは今に始まったことではない>。<私もまた、嘘に慣れている男だった>。さらには、哲学的考察。<虫が鳴いていた。><彼らは間もなく死ぬことを知っているのだろうか。><しかし虫たちと人間とどこが違うのか。><わたしは鳴かないでウィスキーを飲む。誰もいない部屋で。侘しい習慣にすぎない>。<―そう不愛想なつらをするなよ。わたしは、氷が溶けて水っぽくなったウィスキーに向かって呟いた>。<目下のところ、わたしが愛しているのはこのよたよたの車だけだ。>等々。侘しいながらも、どこかユーモアの匂いがする。匂いといえば、探偵の記憶が<ニンニクの口臭>で甦るシーンは鮮やかだった。 まるで、「ブギウギ」で、羽鳥善一が期待したジャズのリズムを習得した福来スズ子のように実にリズミカルになってきた。ますます原尞の沢崎シリーズに似て来たとも言える。シリーズ最終作『炎の終り』が楽しみだ。 | ||||
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遊び戯れていた子供たちも、井戸端会議に花を咲かせていた主婦たちも家路につき、静寂のなかに夜の影だけが濃さをましてゆく、黄昏どきの淋しげな公園がイメージに浮かぶタイトルがいい。『公園には誰もいない』という題名は、作中の若い女性歌手がうたう歌のタイトルでもあり、ふいに行方不明となった彼女の捜索を、私立探偵が依頼されるところから物語は始まる。 謎の美女の失踪というハードボイルド小説の定石ともいうべき入口から、抑制のきいた簡潔な文体で語られる探偵のダンディズムと、タイトルに表される儚げなリリシズムとの二重奏が、ページをめくる手を止めさせない流暢なメロディーをつむいでいる。それによって飽きることなく謎の迷路を彷徨させられた果てにたどり着いた物語の風景も、事件の底に隠されていた真相も、再び『公園には誰もいない』というタイトルの内に、すべて集約されてゆく構成の妙が見事である。 併録されている『密室の惨劇』は、正直どうということもない掌編であるが、高校生むきの雑誌に掲載された単行本未収録の作品ということで、著者の熱心なファンにとっては有り難いプレゼントではないだろうか。 | ||||
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