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英雄



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【この小説が収録されている参考書籍】
英雄〈上〉 (新潮文庫)
英雄〈下〉 (新潮文庫)

英雄の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

シリーズ第2作目から読んで第1作目のネタバレに(ノд-。)あぅ。。

ロシアの民警ダニーロフとアメリカのFBI捜査官カウリーが国境を越えてコンビを組むダニーロフ&カウリーシリーズ第2弾。不幸な事に第1弾である『猟鬼』は絶版で手に入れることが叶わず、未読。そして本書はその『猟鬼』の真相に存分に触れているというシリーズ読者には親切な作品。

前回の事件で活躍をしたダニーロフはロシア国民には英雄視される一方、モスクワ民警では“便宜には便宜を”図らない清廉潔白な捜査官であったため、約束されていたと見込んでいた本部長の座を格下のメトキンに奪われ、憤懣やるかたない日々を送っていた。
一方、アメリカではロシア大使館員が銃殺されるという事件が起き、続いてスイスの投資会社社長が同様の手口で銃殺される事件が連続して起きていた。事件解明にはロシアの協力が必要と感じたFBIはカウリーを捜査の担当者に任命し、またダニーロフを協力者としてロシア政府に要請した。
アメリカに飛んだダニーロフは再びカウリーとコンビを組む事になったが、意外にも捜査は一向に進まなかった。ロシア大使館の監視の中、ダニーロフは被害者セロフのメモ帳にある符号を見出す。果たしてそれは暗号で、7人のロシア人の名前が浮かび上がる。ようやく得た手掛かりに沸き立つ捜査陣。しかし事件はこの後、ロシアマフィアの恐怖に彩られた戒厳令の下、更に混迷を深めていく。

ダニーロフの人物造形がまず面白い。不当な扱いを受けながらもそれを糧に有能振りを発揮し、上司をいいようにあしらう辣腕ぶりは痛快だ。そしてそれが強固な背骨を持った、やわな虚勢でない事をロシアマフィアとの対話で知る事になる。
またストイックな性格のカウリーは心理学に基づいた尋問をしたり、FBIの最新捜査技術を駆使して、ロシア側だけなら何ヶ月もかかる捜査をあれよあれよという間に進めていく。
無骨ながらも少ない頭髪を気にしたり、友人の妻と浮気をしているロシアの警察官、酒を控え、ストイックなまでに任務を遂行するFBI捜査官。ロシア人とアメリカ人とで比べれば、大方その人物設定は逆になるであろうと思われる。これこそフリーマントルならではの味付けといったところか。

事件の真相はゴルバチョフの時代に起きたクーデターで紛失した2,000万ドルにもなる共産党資金についての争奪戦の様相を深めていく。
ロシアの大使館員とスイスの投資会社社長のパイプ、そしてマフィアネットワークの構築など、話が進めていくにつれ、事は大きくなっていく。

この辺は後に読むノンフィクション『ユーロマフィア』で培った取材に基づくところによるものだろうが、よく考えられている。何しろ破綻が無い。
かつて天敵であったロシアとアメリカがチームを組むが、やはり冷戦の頃の根は深く、お互いが大団円で利益を分け合うようにはいかない。この辺のリアルさが作者の誠実さなのだろう。
ロシアの大使館員が被害者という事で両者のうちダニーロフに関する描写・挿話の比重が高く、カウリーの印象が薄かった。前作『猟鬼』が未読なので不明だが、カウリーについては前作で語られたのかもしれない。もしそうでなければ作者はダニーロフの方が好きなのかも。

色々思うところは他にもある。
例えば上巻のラストでダニーロフがロシア高官の歴々の面前で上司を伴いながら公然と批判するところ。批判だけでなく、証拠無しで本部長罷免の要請をするのだ。ここを読んでたら映画『ア・フュー・グッド・メン』を思い出した。畳み掛ける挑発で証拠無しで自供を勝ち取るあの緊迫感。こういう手法もロシアならではなのか。
あとやはりダニーロフの私生活について、特に愛人と妻との間で揺れる感情の機微について感銘を受けた。歳を取るにつれ、肉体を求める事が無くなり、じわじわと蝕まれるように愛情が損なわれ、破綻していく二人の関係。一方で魅力を増す友人の妻。どきりとするところがあり、思わず我が身を振り返る。幸いな事に自分には浮気や不倫などという事には縁がないが、ふとした時に過ぎるセックスレスの心情などは胸が痛くなる思いがした。
そして意図せず自らが行った親切に無邪気に喜ぶ妻を見た時に訪れる憐憫の情。これは解るなぁ。私自身、大学当時、毛嫌いしていた親父がTVのつまらないギャグで大笑いしているのを見て、「こんなことぐらいしか楽しい事がないのか」と感じたあの感覚。忘れていたあの時のことをふと思い出してしまった。

しかし、全体的に冗漫だと感じた。特にマフィアと繋がっているダニーロフの悪友コソフや上巻で道化師役を割り当てられるメトキンの二人の狂言回しが長すぎる。これもダニーロフの人物像を深めるためのエピソードなのだろうが、なかなか核心に行かず、焦れた。
こういう冗漫さを感じるところが傑作と佳作の壁なのだろう。面白いがその面白さが突き抜けなかったなあ。

Tetchy
WHOKS60S

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