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報復



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【この小説が収録されている参考書籍】
報復 (角川文庫)

報復の評価: 6.50/10点 レビュー 2件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点6.50pt

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No.1:
(7pt)
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ウィンズロウ版『ナヴァロンの要塞』

久々のウィンズロウはノンシリーズの復讐劇。妻子をテロリストに殺された元デルタフォースの男が遺族たちの賠償金を募ってそのお金でかつての上司が率いる世界各国の精鋭たちを集めた傭兵部隊を雇い、テロリストを追い詰める物語だ。

とにかく物語の展開はスピーディで、勿体ぶったところがなく、デイヴが精鋭たちを雇うのは全ページ610ページ強のうち、178ページと3分の1に満たないところだ。そこからウィンズロウは主人公デイヴ達が標的に迫っていく様を世界中を舞台に入念に語っていく。

航空機爆破テロ。9・11を経験したアメリカならば即大統領は声明を発表し、テロに屈しないとメッセージを出し、どんな手を使っても犯人を見つけ出し、報復行為に出るはずだ。
しかし本書では逆に相次ぐ報復行為で疲弊したアメリカが事件を事故と発表して穏便に済ませようとする。従って本書でテロリストに行う報復は一個人によるものだ。
つまりデイヴの行う襲撃は全て犯罪に変わってしまう。従って異国で行われる作戦は絶対にその国の政府に見つかってはならない。見つかると部隊は全て刑務所にぶち込まれるからだ。

従ってデイヴの行為が各国政府に知られると国際問題に発展しかねない危険性を孕んでいる為、政府としても彼らを止めなければならない。アメリカ国防情報局のデーナ・ウェンデリンはデイヴ達を執拗に追う。デイヴは追う側でありながら追われる側でもあるのだ。
しかしウェンデリン本人もデイヴ達の行為こそ自分たちがすべきことだと思っているジレンマを抱えている。にもかかわらずウェンデリンはデイヴの資金源を、情報源を絶ち、じわりじわりと追い詰めていく。

さてそんな物語の中心となるデイヴの上司マイク・ドノヴァンが率いる“ドリーム・チーム”の面々はウィンズロウらしく実にキャラが立っている。

まず“ドリーム・チーム”の長マイク・ドノヴァンはデルタフォース時代のデイヴの直属の上司であり、共に死線を駆け抜けた同志でもあるため、デイヴは絶大な信頼を置いており、命を補い合った者同士が持つ断ちがたい絆が2人の間にある。ピッツバーグ郊外の鉱山町生まれで安定した食事と寝場所を求めて陸軍に入隊。そんな下層階級の出でありながらノートルダム大学で憲法史の文学士号を持ち、海軍大学院で特殊作戦と低強度紛争課程を履修し、文学修士号を授与されたエリートでもある。彼の決断は信頼する元部下デイヴであっても能力が不足していると思えば切り捨てる意志の強さを持つ。しかしそれは自分の部下を一人たりとも死なせたくないという優しさの裏返しでもある。

コーディ・ペレスはメキシコ出身の元アメリカ空軍パラレスキューで医療及び高度特殊作戦の訓練を受けた兵士。アフガニスタンのタンギ渓谷でSEALs隊員を助けるために死線に飛び込みながら、1人の隊員を救えなかった苦い過去を抱えて生きている。

ドイツ人のウルリッヒ・マンは元ドイツ連邦陸軍特殊戦団出身で破壊工作のプロフェッショナル。アフガニスタンの任務でタリバンを目の前にしながら上からの命令で敵を抹殺せずに捕獲を要請されたため、自身を危険に曝しながらも観察を強いられた事から隊を辞任した。

金のために戦うと公言して憚らないのが元イタリア陸軍空挺部隊のアレッサンドロ・ボルギ。兵士でありながらモデル並みの容姿を持ち、ダウンヒルのスキーヤーでもある。報酬は全てフェラーリと女性へと消える。

チームの中で興味深いのは歴史的犬猿の仲であるイスラエル人とパレスチナ人が同居していることだ。
前者のレヴ・ベン・マロムはイスラエルの選りすぐりの精鋭で構成された極秘組織“ザ・ユニット”出身で多くのテロリストを殺した。
後者のアミール・ハダドは難民キャンプの出でイスラエル軍に母親を殺害された拭いきれない過去を持つ。従って彼はイスラエル軍と戦ってきたが、ある任務で爆破テロを命ぜられながらも出来なかったことから組織だけでなく父親からも勘当され、追い出されたところをドノヴァンに拾われた。しかしイスラエルに対する憎しみは続いており、レヴとの仲は今でも険悪だ。
この2人が死闘の中でお互いの立場を理解し、認め合うところが意外なアクセントとなっている。

ドノヴァンの片腕で前線での作戦の指揮を任されるミッシェル・ディアロはフランスの海軍コマンド出身。しかし軍への緊縮政策による予算削減の際にアフリカ系フランス人であるという理由で除隊を命ぜられたところをドノヴァンに拾われた。

今ではジンバブエと云う名の別の国になったローデシア出身で隊最年長のロルフ・フォルスターはセルース・スカウツ出身の格闘術のプロ。祖国を失い、各国で雇われ用心棒をしながら流浪していたところをドノヴァンにスカウトされた。

マイク・ドノヴァンと云うカリスマの許に集められた精鋭たち。激しい訓練と死地を幾度となく潜り抜けてきた彼らの絆は海よりも深いと考えられていたが、意外な形で彼らの作戦は綻び始める。それはメンバーの裏切りだ。

上にも書いたように訳者が変わったせいではないだろうが、短い文章でテンポよく物語を運ぶのはウィンズロウらしさがあるものの、彼の持ち味であるユーモア交えた小気味いい文体が本書では一切ない。
実にストイックに家族を喪い復讐に燃える男の物語が、専門知識をふんだんに盛り込まれながらも悪戯に感傷を煽るようにならず、ほどよい匙加減で切り詰められた文章で進んでいく。
特に描写がリアリティに満ちていて実に痛々しい。
例えばよく映画で目の前で敵の頭が吹き飛び、血漿を浴びるセンセーショナルなシーンがあるが、本書ではさらに砕けた頭蓋骨の破片が顔に突き刺さり、それらを除去しないと感染症に罹ってしまうという実に生々しい説明が付け加えられる。

また飛行機から飛び降りる高高度降下落下傘にしても単に潜入するだけに留まらない。高高度から飛来することの危険性―気温が摂氏マイナス48度であるから凍傷や低体温症の危険性がある、飛来する人が“X”の形で降りるのは風の抵抗を受けて少しでも落下スピードを落とす為で、落下スピードが速すぎるとパラシュートを開いた瞬間の衝撃で関節が外れてしまう、等―を詳らかに数行に亘って説明する。それも決して熱を帯びていなく、あくまで淡々と。
『野蛮なやつら』や『キング・オブ・クール』で見られた実験的な文体を書いた作者と同一人物とはとても思えないほどの変わりようだ。

特に最後のテロリストの巣窟への襲撃戦はさながらマクリーンの『ナヴァロンの要塞』のようだ。

そしてウィンズロウ版『ナヴァロンの嵐』がいつか読めることを期待しよう。


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