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緑のハートをもつ女



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【この小説が収録されている参考書籍】
緑のハートをもつ女 (創元推理文庫)

緑のハートをもつ女の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

貨幣価値の違いが気になる

ローレンス・ブロックのごく初期の作品で私にとって本書がこれから読んでいく一連の作品の中の記念すべき1冊目だ。
主要登場人物わずかに4人。詐欺師コンビのダグとジョン、カモにされる男ガンダーマンと2人の協力者でガンダーマンの秘書のエヴィ。こんな少人数で繰り広げられる詐欺と云う名のコン・ゲームが実に面白い。さながらクウェンティン・タランティーノの映画を観ているかのようだ。

土地を買いに来たと見せかけ、逆に二束三文の土地を高く売りつける。それは相手が利口であり、抜け目がなく、そしてプライドの高い人間だからこそ成功する、それがジョン・ヘイドンとダグ・ランスの描いた絵だ。
彼らの標的はガンダーマンと云う土地成金ただ一人。その彼の信用を得るために彼らは実際に株式会社を設立し、また実際に土地を買い漁る。そして秘書のエヴィからはガンダーマンが送ろうとした手紙を確認し、偽の返事を書き、わざわざ当該地の消印で届くように、各地に飛んで投函する。
ちょっとした手間を惜しまず、あくまでリアルと細部にこだわる。相手が詐欺に遭ったと気付かないように罠にかける。それがジョンとダグの流儀。

こんなに入念な準備をされれば、ずぶの素人の私などは絶対騙されたことに気付かないだろう。いやあ、詐欺の手口というのは実に恐ろしい。

そんな2人の詐欺師に加わる1人の協力者の女。しかもその女はとび切りの美人。そんな3人だから色恋沙汰が起きないはずがない。今回の仕事を最後と決心していたジョンが次第にエヴィに惹かれていくのだ。彼の将来の夢にいつの間にか彼女がパートナーとなって加わっていく。

少人数のチームの中に一人だけ異性が加わると、理性の中に感情が加わり、不協和音が響きだす。これはこういったコン・ゲームに不確定要素を加える常套手段と云える。
本書も例によって例の如くだが、特徴的なのはエヴィがこのような物語にありがちな狡猾で勝気な女性として描かれず、退屈な町と社長の愛人としてこの先暮らしていく未来に絶望し、その現状を打破したいともがく一人の女性として描かれる。そして詐欺師として、いや男として完璧なジョンを愛するようになる。
全く男が夢に描くような女性である。

しかしそこはやはりコン・ゲーム小説ゆえの展開。
題名にあるようにこの物語の中心は女性、つまりエヴィになるのだが、ガンダーマンが死ぬ250ページまでエヴィの悪女ぶりは上に書いたように全く解らない。むしろエヴィは初めて大がかりな詐欺の手伝いをする危うげな女性として描かれている。

しかし私は一方でエヴィが陰の主役でありながらも、これは一度人生を諦め、ささやかな夢に賭けたジョン・ヘイドンという元詐欺師の再生の物語だと思わざるを得ない。本書は彼の中に眠っていた詐欺師の血が再燃する物語なのだ。

また1965年の作品だからか、架空の会社を設立してまで行う一大詐欺作戦の割には想定する報酬が7万ドルと実に低いのが終始気になった。当時の貨幣価値に換算すると、7,700万円相当の価値があるようだ。う~ん、それでも微妙な数字ではあるが。

生憎現在でもこの作品の続編は書かれていない。もはやブロックの中では既に記憶にない作品なのかもしれない。
しかし数年前に来日したブロックの話によれば、彼の小説の登場人物は彼の中で生きており、ふと何かのきっかけで甦って、また物語が生まれるとのこと。

もしかしたら…の期待を抱いてしまうなぁ。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S

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