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夜明けのパトロール



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【この小説が収録されている参考書籍】
夜明けのパトロール (角川文庫)

夜明けのパトロールの評価: 7.00/10点 レビュー 3件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:
(8pt)

サーファー探偵はご機嫌だぜ!

すこぶる腕の立つ私立探偵なのだが、三度の飯よりもサーフィンが好きなせいでそのためにはどんな依頼よりもサーフィンを優先する。そんな魅力的な探偵ブーン・ダニエルズがウィンズロウの新シリーズの主役だ。

まずもうのっけから作品世界にのめり込むほどの面白さ。ところどころに織り込まれるエピソードが面白く、一気に引き込まれてしまった。
恐らく亡くなった児玉清氏が存命で本書を読んだなら快哉を挙げること、間違いないだろう。

まずブーン・ダニエルズの造形が素晴らしい。

両親ともにサーファーで母親が妊娠六ヶ月の頃から波に乗っていた、「海から生まれた子」。2歳で親父のサーフィンボードに乗せられ、7歳で初サーフィン、11歳で新米サーファーとなり、14歳になる頃には数多のプロサーフチームからスカウトを受ける―この件で登場するブーンの両親たちが実に愛情に満ち溢れていて素晴らしい―。
しかし純粋にサーフィンを愉しみたかった彼はその道を選ばず、刑事になり、その職を辞し、私立探偵業を営む。

そして彼を取り巻くサーフィン仲間“ドーン・パトロール”の面々の造形もまた実に魅力的なのだ。

日系人でサンディエゴ市警殺人課刑事のジョニー・バンザイは仲間のブレイン的存在。

水難救助員のデイヴ・ザ・ラブゴッドはギリシア彫刻のモデルになるほどの美男子でナンパ成功率100%。

チームで一番の若手ハング・トゥエルブはサーファーショップの店員でいいムードメーカー。その仇名の由来がまた実にウィンズロウらしい―なんと足の指が12本あるのだ!―。

海に入ると水位が上がるとまで云われている160キロの巨漢ハイ・タイドはサンディエゴ公共事業課作業監督だが、何しろ食べ物に詳しい。

そして紅一点サニー・デイはブーンを凌ぐサーフィンの腕前でウェイトレスをしながらプロサーファーを目指している、夢に出てくるような“カリフォルニア・ガール”。

もうこの彼らの人物設定だけでこの物語が面白いものになると確信してしまった。

そして彼らがいかにブーンと関りあうことになったのか、それらのエピソードがどれもキラキラとして美しい。
幼馴染の頃からブーンと親しい者や決して幸せでなかった者が彼に声をかけられることでサーフィンというやり甲斐を見つけ、“ドーン・パトロール”の仲間になっていく。

とまあ、ご機嫌な奴らが繰り広げられる物語はオフビートな語り口で軽快に流れていくのだが、ブーンが捜査していくうちに判明する真実は重い。

カリフォルニアの燦々たる陽光の下で繰り広げられた物語に、光が強ければ影もまた濃くなるという犯罪社会の現実をウィンズロウは痛烈に投げかける。

本音を云えば、前作『フランキー・マシーンの冬』のように痛快に物語を突っ走って欲しかった。最後の展開はあまりに重く、なかなかページを繰る手が進まなくなるような描写もあった。
『犬の力』でメキシコの悲惨な社会状況を教えてくれたが、人身売買、少女買春のエピソードが頻出する後半のテイストはそれに似ている。

しかし『カリフォルニアの炎』、『フランキー・マシーンの冬』と(間に『犬の力』を挟むものの)ここ最近訳出された作品には共通してサーファーが主人公になっている。
しかしこれらの作品と決定的に違うのは今回はサーフィンが人生を彩るスパイスに留まらず、サーフィンの申し子のような男であり、また彼の仲間とサーフィンチームを作っており、それぞれも個性的な面々であるという点でサーフィンに対する想いが一層強くなっていることだ。
本書は新シリーズの1作目だと謳われている。恐らく今後もブーンたち“ドーン・パトロール”のメンバー達はサーフィンに興じながら一致団結して事件を、降りかかる災厄を解決していくことだろう。

特にブーンは過去警官時代に解決できなかった少女誘拐事件の犯人の追跡が残っており、これが今後シリーズにどう絡むのか興味深いところだ。

そして今回ビッグ・ウェーヴに見事に乗り、一躍時の人となったサニーの今後もまた非常に気になる。彼女がいるのといないのとではシリーズの彩りが変わることは必定だから、この展開はまさに痛し痒しである。

最後に忘れてはならないのはやはりウィンズロウは名文家だということ。読んでいて思わず心に留めたくなる言葉に満ちている。

“波に乗るのは、水に乗る行為ではない。水は媒介にすぎず、じつはエネルギーに乗っている”
“家系というものはあくまで土台であり、錨であってはならない”

なんと魅力的な言葉たちではないか。
そして今回最もジーンと残る文章は最後の一行にある(“何であろうと、トルティーヤにのっけりゃ旨くなる”)。それがどんな文章かは読んで確かめて欲しい。

しかし今回訳者が東江氏から中山宥氏に代わったが、全く違和感がなかった。ウィンズロウ作品の読みどころを実によく捉えた文章だ。東江はやはり仕事を多く抱えて、手が回らなかったのだろう。

さて中山氏という優秀な訳者を得たことだし、これからもっと短いサイクルでウィンズロウ作品が訳出されることを期待しよう。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.1:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

サーフ・ノワール、ねぇ?

ある書評では「サーフ・ノワール」と分類されたそうだが、サーフとノワールという、どちらかと言えば正反対の言葉をつないで表現されているところに、この小説の本質がよくあらわされている。
南カリフォルニア・サンディエゴを舞台にした、サーファーのPI小説とくれば、明るくノー天気な主人公かと思うが、ところがどっこい、ドン・ウィンズロウにかかると明るいだけでは終わらない。確かに、いつも軽口をたたき、仕事よりサーフィンが生きがいで独身という主人公は、一見、典型的な肉体派に見えて、実は知性的で深い洞察力を秘めている。彼を取り巻くサーフィン仲間たちも、軽薄な外見とは裏腹にそれぞれに悩みやトラウマや葛藤を抱えている。
片方には、これまでにない大きな波への挑戦というサーフィンの王道の話があり、もう一方では少女売春組織との戦いという人間の暗部をえぐるような話が展開される。しかも、場面展開が早いので、読む側の気分は上昇と下降を繰り返すジェットコースターに乗せられたようになる。
ただ、両方の要素が並び立ち過ぎているせいか、いまいち、話に深みが足りない気がした。
これが新シリーズの第一作ということなので、今後、どう展開していくのか期待したい。

iisan
927253Y1

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