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眠れぬイヴのために



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眠れぬイヴのためにの評価: 6.00/10点 レビュー 2件。 Dランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点6.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:
(4pt)

あの本を参考に書いたのか、ディーヴァーよ

ジェフリー・ディーヴァー自身が作家生活の転機となった作品と評したのが本書。精神病院を抜け出した患者マイケル・ルーベックの逃走とそれを追う者たち、そしてマイケルを恐れる者たちの三者三様の物語。

追う者と追われる者という設定から往年のクーンツ作品を思い出した。
邪教集団トワイライトの襲撃』、『ウォッチャーズ』など彼の傑作はこの手の作品が多い。従って本書もその出来栄えを期待したが、それらと比べるといささか劣るというのが正直な感想。その先入観だけでなく、本書は随所に「クーンツらしさ」というのがそこここに見られる。

最も顕著な特徴が上に書いた逃走する者とそれを追う者の二極構造を描いたロード・サスペンス的物語構成であるが、それ以外にも敵役であるマイケル・ルーベックの造形。巨躯で怪力を誇り、精神分裂症にもかかわらず、機転で追っ手を撒くしたたかさを持っている。

またルーベックを追う者のうち、元警官のトレントン・ヘックは犬を飼っており、このエイミールという犬に絶大なる信頼を持っている。彼がエイミールを飼うに至ったエピソードは警察犬のブリーダーとしての知識を得られると共に、恐らくほとんどのブリーダーが抱いている思いをも代弁しているかのようだ。
この犬が物語のアクセントになっているのもクーンツ色を感じる。そう、まるでクーンツが著した『ベストセラー小説の書き方』をテキストにして書いたような錯覚を受けた。

ただ違うのはクーンツの敵役はこの上もなく強大な力を持ち、残忍で己のルールに従い、何者も寄せ付けない圧倒的な強さが強調され、主人公は果たして助かるのか?とハッピーエンドで終わることを予想しながらも読者は今度こそはダメなんじゃないか?と思わさせられるが、ディーヴァーの描くルーベックは精神分裂症で実はかなり臆病であり、リズに逢う目的のためにそれらをどうにか克服していこうとする。つまり敵役としてはさほど脅威ではなく、寧ろ社会的弱者ですらあるのだ。これがディーヴァーの味付けだろう。

さてこの追われる者、追う者、そして恐れる者それぞれに事情があるのは物語の定石だ。

追われる者、マイケル・ルーベックはインディアン・リープ事件で逮捕された犯罪者だ。彼は精神分裂症患者としてマーズデン州立精神病院に収容されていたが、そこを脱走し、追っ手を狡猾な知恵でまき、時には巨躯から繰り出す腕力でなぎ倒す。

追う者たち、精神科医リチャード・コーラー、元警官トレントン・ヘック、弁護士オーエン・アチスン。彼らはそれぞれの事情でルーベックを追う。
コーラーはルーベックの担当医であり、彼を保護し、被害が拡大する前に捕らえて病院へ戻そうとする。
ヘックは病院から提示された1万ドルの賞金を元手に別れた妻ジルとよりを戻すことを求めて彼を追う。
しかし次第にその目的も変容していく。オーエンは妻リズをルーベックの魔の手から守るべくルーベックを仕留めんがために彼を追う。

恐れる者、リズ・アチスンとルーベックを繋ぎ合わせているのは彼女がルーベックの裁判で証言したインディアン・リープ事件だ。このインディアン・リープ事件が何なのか?この真相はずっと引っ張られる。

さらにマイケルが唱える“イヴ”とは何なのか?

まず物語のキーとなるインディアン・リープ事件だが、これは上巻から下巻に渡る中間部でその内容が語られる。

それはリズとオーエン夫妻が当時近所付合いをしていたギレスピー夫妻とリズの教え子のクレア、そしてリズの妹ポーシャと共にインディアン・リープへピクニックに行った際に起きた忌まわしい事件のことだ。
彼らはそこでロバート・ギレスピーとクレアを洞窟の中で亡くすという惨劇に出くわし、そこの現場にいたのが当時放浪中の身であったルーベックだった。そしてリズは裁判でルーベックが有罪となる証言をし、精神疾患を鑑定されたことでルーベックはマーズデン州の精神病院に収監されたのだった。

しかしこの物語の反転はディーヴァーにしてはなんとも普通な感じがして仕方がない。ページの手を止めるような驚きもなく、なるほどねのレベルで終わってしまった。

冒頭にも書いたがディーヴァー自身が作者人生の転機となった作品と述べたことで期待値を高くして望んだが、その出来栄えは凡百のミステリと変わらず、寧ろそれまでのディーヴァーの作品の中にもっと光るものがあったように感じた。

次の作品にディーヴァーマジックを期待しよう。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

眠れぬイヴのためにの感想

ジェフリー・ディーヴァーとくればリンカーン・ライムシリーズが思い起こされるが、これはそれより前の94年に出たものだ。サイコ・サスペンスと紹介されているがそれほど深くは無い。
ただ、読ませる筆力はこの本でもすでに確立されているようで、一ページ上下に組まれた文章が432ページもあるボリュームで、そう簡単に読み終えることはない。
普通これぐらいあると気を抜いて飛ばし読みをしたりするものだけれど、この本に限ってそうはしなかった。ストーリーを追いながらじっくり読んで楽しい時間を過ごした。飛ばし読みをしようと考えなかったし、そうはさせない作者の
上手さがあった。迫りくる嵐、分裂症の殺人犯が西へ向かう、それを追う訳ありの三人。各人をメインに据えた各章の動きと展開。証言した事件の秘密と姉妹の葛藤。
お約束の意外なラストの真相。
リンカーン・ライムシリーズは云ってみれば大向こうを唸らせる派手な演出のストーリーが身上だけれど、これはどちらかと云えば地味な内容とも云えるしストーリー展開も派手さはない。
派手な演出は迫り来る嵐といったところだけで、肝心なのは各人の心の動きでありそれらがキッチリ描かれていることが効果的に緊迫感を醸し出す結果になっていると思う。
追跡者の裏をかき西へ向かうルーべック。彼の後をじっくり読み進む時、読書の至福の時間を味わえることでしょう。

ニコラス刑事
25MT9OHA

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