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ベルリン・コンスピラシー



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【この小説が収録されている参考書籍】
ベルリン・コンスピラシー (ハヤカワ文庫NV)

ベルリン・コンスピラシーの評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

21世紀になってもナチスの翳は色濃い

いやあ、バー=ゾウハーの新作がまさか読めるとは思わなかった。なんと原書刊行2008年。正真正銘の新作だ。

私がこの作家が好きなのはエスピオナージュを書きながらもストーリーやプロットにミステリマインドが溢れているからだ。私が好んで読む同じジャンルの作家フリーマントルも同様だが、バー=ゾウハーの場合はスピード感と緊張感に溢れている。
さて本作ではどうだろうか。

まず冒頭、ロンドンで宿泊していた男がベルリンのホテルで警察に叩き起こされ、そのまま逮捕されてしまうという、いきなり窮地から始まる。その逮捕もなんと60年以上も前に犯した元ナチス将校殺害事件の容疑者としてだから驚きだ。
作中人物の話によればドイツには殺人罪には時効がなく、市民が訴えれば捜査は開始されるらしい。

そこから長らく絶縁状態だった息子ギデオンが登場し、ルドルフがロンドンにいた事実を探ろうとする。しかし何かを恐れるかの如く、ルドルフに関わった人たちは彼と逢ったことを否定する。
この辺はアイリッシュの『幻の女』を髣髴する。

更にネオナチの狂信者たちのルドルフに対する感情は募り、やがて魔の手が迫り行く。

今回の主役は逮捕されたルドルフと疎遠だった息子ギデオン・ブレイヴァマン。父親の意向に背き、世界中を旅した後、民俗学者になった男だ。
彼が拘束中の父親の許を訪れ、久方ぶりに邂逅するシーンは2人の間に広がる溝が明らかにまだ存在している事を感じさせ、ぎこちない。しかしギデオンは父親が訃報逮捕された証拠を掴もうと躍起になる。

そして彼の前に立ち塞がるのがベルリン州女性上級検察官マグダ・レナート。
今回の任務に賭ける意欲は並々ならぬものがあることを知らされるのだが、それも無理もないことが物語半ばで判明する。なんと彼女の祖父はユダヤ人のパルチザンだったルドルフによって殺されたSS将校の1人だったのだ。
しかしその事実もある事実で彼女にとって屈辱に代わる。親しかった祖母から教えられた亡き祖父像は第2次大戦で英雄的な戦死を遂げた将校ではなく、ユダヤ人収容所でのホロコースト実行の中心的人物だったからだ。

このくだりを読むと、やはりドイツ人はナチスが第2次大戦で行ったホロコーストを忌むべき過去とし、歴史の汚点としているのが解る。自分の先祖が大量虐殺行為に関わっていた事はやはり不名誉であり、隠したい過去なのだろう。この憶測が裏打ちされるのは、ルドルフ逮捕に隠れた陰謀が明かされる段になってからだ。

ルドルフが今回の陰謀に巻き込まれる引鉄となったのはかつて愛した女性をロンドンで見たという戦友からの手紙である。第2次大戦の恐怖を伴う呪わしき記憶が残る彼の地ヨーロッパを踏ませた原動力が愛する人に一目逢いたいという想いだったのはなんともロマンチックではあるが、これが実に共感できる。
もし私にも同じ報せが入れば、どうにかしてそこを訪れ、再会したいと思うだろう。私もそんな齢になってきたのかと苦笑してしまった。

北上次郎氏も云っていたが率直に云ってかつての名作から比較すれば冒頭に述べたスピード感は減じている。
しかしそれを補う物語はここにはある。
傑作とは云えないまでもやはり続けて読みたくなる作家である事は確か。
バー=ゾウハー御齢80歳。同年代のフリーマントルが旺盛な執筆活動を見せている今、この作家にも次作を期待したい。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
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