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Tetchy さんのレビュー一覧
Tetchyさんのページへレビュー数217件
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学生の時に読んだ『詐欺師の饗宴』の時にも感じたのだが、笠原作品の特徴は印象は地味ながらも忘れられない味わいがあり、なんだか人に紹介したくなる魅力を備えている。
本作も内容はやはり地味である。しかし、よく練られたトリック・プロット・ロジックが非常に人を飽きさせない。 題名にも梗概にもあるように本書の目玉は冒頭の3人のサンタクロースの内、1人が殺人を行っていることが明白にも拘らず、それが3人の内、誰かわからない、「2/3アリバイ」論にある。こういう地味ながらも無視できない魅力的な設定を軸に更に第2の殺人が、しかも同様のシチュエーションで起こる。 しかしこれこそが作者の仕掛けたレッド・ヘリングで、一見立証不可能に見えた犯罪が最後見事に真相へと結実するロジックの妙は実に味わい深い。 殺人の動機は非常に細い線ではあったのだが、大人になった今、十分説得力のあるものだと感心した。 惜しむらくは笠原作品が本作と『詐欺師の饗宴』以外に『詐欺師の紋章』しか上梓されていなくしかも『~の紋章』が未だに文庫化されていない事。新作も含め復活を望む。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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『銀英伝』関連の田中作品に関してはもはや云う所無し。向かう所敵無しである。その圧倒的なクオリティの高さとエピソードの豊富さは比肩する物無しといった感じである。
本書は各所に散らばった『銀英伝』関連の短編を1冊に纏めた、云わば企画本であるが、冒頭の「ダゴン星域会戦記」以外はラインハルトとキルヒアイスを主人公とした物語が並び、統一感を感じさせる。不満を云えばそのラインナップゆえにどちらかと云えば帝国軍側寄りで、ヤン・ウェンリー好きな私としてはちと物足りない。 しかし、読めば読むほど『銀英伝』の深さに感嘆する読み物である。まず「ダゴン星域会戦記」はまさに本編第1巻から提示されたエピソードであることに驚嘆させられる。特に英雄視されているリン・パオとトパロウルの闘いが思ったよりも稚拙だったというのがミソ。ここらへんが実に田中氏らしいのである。 次からはラインハルト・キルヒアイス物となるのだが、その多彩さに再度驚かされた。なんと本格ミステリがあるのである。「朝の夢、夜の歌」がそれだが、他にも「汚名」などはミステリ風味の謎を含んだハード・ボイルド物ともとれ、非常に堪能できた。 これらの作品がいつ頃書かれたのかは寡聞にして知らないが、田中氏の万能振りをこれでもかとばかりに魅せつけられた。これが10点でなくてどうなる!?といった次第である。 |
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やっと来た、という感じの満足感が得られた。物語作家ドイルの面目躍如たる一作。私は世評高い『バスカーヴィル家の犬』よりも本作を推す。今回はドイルがここまで書けるのかと感嘆させられた。
物語の構成はエピローグを加えると大きく分けて3部になる。1部は通常のホームズ譚―依頼人が来て、事件の概要を話し、ホームズが現地に乗り出し、事件発生後、証拠を捜索して驚嘆の事実を暴露する―である。しかし、今回白眉なのは第2部、つまり事件の背景となる加害者側のストーリーなのだ。これが実にいい!! この構成は先に出てきた『バスカヴィル~』以外の長編、『緋色の研究』、『四つの署名』と同じなのだが、『緋色の研究』の時にも感嘆させられたが今回は更に作家としての円熟味が増したせいか、ものすごく芳醇な味わいがあるのだ。 なんとハード・ボイルドなのである!!!ハメットすら唸らせるかのようなその臨場感はまるでスペクタクル映画を観ているよう! しかもそのサイド・ストーリーにも驚きの仕掛―これは今考えるとほとんどサスペンスの常套手段なのだが私には全く予想つかなかった―が施されている辺りにも正にぬかりなしといった感じ。 ドイルはやはりドイルなのだと感じ入った次第。思うに本来ドイルはこのような小説を書きたかったのではないだろうか。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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はっきり云って最後にやられた。打ちのめされました。
前回読んだ『ファントム』は「太古からの敵」というほとんど太刀打ちできないような怪物を生み出し、パニックホラーを繰り広げてくれた。その先入観から今回は不死の殺人鬼がモチーフだと思い、どんな原因・理由でこの殺人鬼は蘇えるのだろうと思っていた所、下巻の登場人物一覧に「オカルティスト」なる文字が。これで以前読んだある作品の焼き直しかとがっかりしたが、あにはからんや、今回は論理的解決が用意されていた。 これで私は感心した反面、恐怖の正体が少し安易過ぎてがっかりしたのだが、最後に現れるブルーノ・フライを脅かす「ささやき」の正体のおぞましさ!背筋に文字通り虫唾が走りました。 あれだけの存在感で迫るブルーノ・フライがいやに打たれ弱かったり、最期が呆気なかったり、幾分か瑕疵はあるが、トニーとヒラリーのラヴ・シーンに共感し、思わず胸が熱いなるシーンがあったり(クーンツはこういう人と人との感情の交わらせ方が非常に巧い!!)、フランクの殉職シーン、また各登場人物の愛する人を失った哀しみなどドラマティックな演出が散りばめられており、非常に美味しい作品だった。 |
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旅先で読むことになり、読みやすい薄さにも関わらず時間をかなり費やしてしまった。
梗概にも書かれてあったが本作は島田作品の中でも異色の物で、作者本人でさえあとがきで全く予想外に生まれた副産物であると述べている。内容的にはミステリではなく云うなれば幻想小説のテイストを含んだ中間小説とでもなるだろうか、不思議な読後感の残る作品である。 そして私はこのような作品に弱い。 島田ミステリに通底する弱者への真心とロマンシズム、これが一貫して物語のBGMとして流れ、進んでいく。最後には珍しく悲劇的な結末で無機質に締められ、読者の心には冤罪に対してのほろ苦さが色濃く残る。 最後に門脇春男は救われたのか、それは判らないが不幸な者がここにいるということを強く教えられた。 |
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泡坂初期の短編にはチェスタトン張りのロジックが愉しめる。それは歪んだ論理とでも云おうか、読後に奇妙な味わいを残す。
本作では「赤の追走」、「紳士の園」、「煙の殺意」、「開橋式次第」がそれに当たる。 しかし本作は先ほど「奇妙な味わい」と述べたようにエリンの『特別料理』を意識したに違いないと思われる作品がある。『閏の花嫁』はもうほとんどオマージュであろうし、『歯と胴』は一種のホラーとも云える(題名からすればバリンジャーか)。 恐らく雑誌掲載の短編を寄せ集めたものであろうが、この完成度は素晴らしい。 |
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『展望塔の殺人』のように御手洗、吉敷に頼らない短編集でサスペンス・倒叙物・幻想文学・時代物とそれぞれヴァラエティに富んでいる。
新宿地下街図を「踊る手なが猿」になぞらえた奇抜な発想が見事な表題作、正統派トリック物から一転して意外な真相にいたる「Y字路」もいいが、何といっても最後に収められた「暗闇団子」が白眉だろう。こういう切ない恋愛物を書かせたら島田荘司は抜群に上手い。一瞬泡坂妻夫かと思った。これが読めて私は倖せだよ。 |
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今回の鮫島は云わば忍耐の男だ。“静”の新宿鮫である。それは作者が「時の深み」を底流に物語を紡いでいるからだ。
新宿鮫Ⅰの頃から出ていた真壁を核にし、これまでの集大成として本書を書いた事は疑いない。当初ギラついたバイプレイヤーとして出てきた真壁をこんな風に鮫島と対峙させるとは誰が予想し得ただろう。私自身、丁々発止の大攻防戦を考えていただけにこれだけじっくりと味わい深い物語を展開させられるとはいい意味で裏切られた。 そして雪絵の母と大江の物語…。最後の、機動隊の奏でる喧騒をバックに駐車場の詰所で静かに語らう鮫島と大江。サイレンとパトライトの只中でそこだけ音の消えた世界で見つめ合う雪絵の母と大江。静と動が織り成す大人の時間の味わいが、この上なく美味であった。 傑作。 |
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忙しい中で読んだにも関わらず、ストーリーがしっかりと脳裏に刻まれていく巧みなストーリーテリング。傑作!
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幸福に恵まれなかった人たちの物語。鮫島は今回脇役!?
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新宿鮫。
この強烈なタイトルを書店で見た時、興味が沸くとともにえげつなさを感じ、食指は伸びなかった。 その後、『このミス』を購入するようになり、そこで載せられていた過去のランキング作品で堂々の1位となっていたのをきっかけに俄然興味が沸いたのはミーハー心のなせる業。 評判に違わぬ面白さだった。いきなり怪しい雰囲気で始まるこの作品はぐいぐいと私を夜の新宿へと誘う。 そこは大都市新宿ではなく、混沌の街新宿。夜になると顔を変え、犯罪が蠢く街。 そこをキャリアながら一匹狼然として歩き、やくざたちにも一目置かれている新宿鮫。まさにその姿は鮫が悠然と大海を泳ぐが如く強い男と私には映った。 しかしそんな鮫島も窮地に陥る。そこに私は悲しみを覚えた。鮫島は恐怖を覚えない強い男であってほしかったからだ。 しかしそれはバイプレイヤー桃井を読者に印象付ける演出でもあった。 ロック歌手晶がこの時はまだ存在感を発揮していて、それがまたバブルの香りを彷彿させたりもする。シリーズが続くとこの晶の存在が次第に仇になってきて希薄していくのが悲しいが、この頃はまだそんな雰囲気はない。 とにもかくにも読むべき小説の1冊である。シリーズ10作+短編集が現在刊行されているが、11作目はまだ気配すらない。 手にしていない人はまだ間に合う。 読め。 そして浸れ。 |
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ストーリーやプロットに驚嘆はない。もうこれはひたすら文章構成に全てがある。
これは推理小説界のみならず、文壇史上最高の仕事だと云っても過言ではないし、また歴史に残る一作と云ってしまいたい。 日本語の持つ二面性を巧みに利用して行間さえをもトリックにしてしまう技の冴え!何処までこの作者は行ってしまうのだろうか!?頭の中身はどんな風になっているのだろうか?小説にはまだこんな奇跡を起こす事が出来る、そんな無限の可能性を感じさせた一作だ。 |
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まさに私をして、これがクーンツなのかと驚嘆させられた一作。初の「クーンツ体験」としてこの作品を読んだ事を実に幸運に思う。
内容は正にこれぞエンタテインメントとばかりに畳み掛ける活劇のオンパレードである。男やもめの獣医の再婚話と村人に起きたごく小さな災い事という静かな立上り方からソーンズベリの狂気の度合いと呼応するように徐々に加速度を増していく筋運びは職人技の一言に尽きる。 特に以前評判になったサブリミナル効果を’77年に主題として扱っているあたりにクーンツの先見性をまざまざと見せ付けられた。いやはや流石はクーンツである。 |
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今この瞬間、7ツ星評価から9ツ星へと変わった。それはこの本の題名の真の意味が解ったからだ。
凄い! 久々のカタルシスである。 しかも本書が口述テープの体裁を採った理由もはっきりと解った。今にして思えば、こういう体裁を採る事が最も本書に相応しいのだ。 さて、内容は前2作のサンディ・スターンという敏腕弁護士とは打って変わって巨大法律事務所でいつ解雇されてもおかしくない凋落した弁護士が主人公として顧客の金を持ち逃げした弁護士を捜す物語。この主人公、実の息子や警察にオナニーを見られるほど、情けない。だがこうした自分を卑下する者の眼を通して捜査過程、また登場人物の掘り下げを行う事で、実は理想的な生活、何の支障もなく生活をしているかのように見えた各登場人物が実は自分と同じように何らかの影を我が身に落としているのだという事を、虚飾のヴェールを1枚1枚剥ぐように徐々に明らかにしていく。これは主人公がプライドを捨てているからこそ可能なことなのだろう。しかし悔しい事に、その内容を十分堪能するほどには、自分は成熟していない。何年か経て、再び本書を手に取るべきだろう。 最後の一行、「世の中には被害者しか存在しないのだ」これが本書の全てを語っている。 |
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これは掛け値なしの本物である。上手く云えないが、登場人物全てに嘘が無い。要するに、作り物めいた感じがしないのだ。
特に現職検事補であった作者の最大の長所を存分に活かした法廷劇は史上最高の知的ゲームであり、今までシドニー・シェルダンの諸作で読んだそれが所詮素人の手になるものでしかない事をむざむざと見せつけられた。正に圧巻である。 ただ惜しむらくは、ストーリー全体に通底する過度なまでのペシミズム、重厚というより陰鬱である。私はどうも苦手だった。 しかし次作が非常に楽しみである。 |
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ひたすら脱帽である。
よくもまあ、ここまで精緻に“歴史”を紡ぎ上げたものだ。実際の歴史的事実を織り交ぜ―しかも史実を織り交ぜた事が紛失した日記の一部のキーとなっている!―、また実際にそこにあるかのような細かい描写。強烈な個性を放つアスタを筆頭に一読忘れ難い人々。 そのあまりの詳細さに疲弊し、また睡魔との格闘を幾度となく繰り返したが、今はただ最後まで読み通せ、また素晴らしい幕切れに感無量である。 要した日数15日。読んだ内容86年分。 |
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呆然。
真相が語られる最終章20ページは、途轍もない内容だった。しかもそれが理解できる、いや共感できるが故に恐ろしい。 なんと表現すればいいのだろうか、論理などという左脳的驚愕ではなく、狂おしいほどの愛情という情念の、右脳的驚愕。 私を含め、誰もが持っているであろう歪んだ心の部分、心の奥底に潜む獣性を引き摺り出された感じだ。 死にたいほどの幸福ではなく、死んでもいいという幸福。そこに美しさはなく、ただ純粋さがあるのみ。だからこそ温かく見守れるのか…。 |
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内容は純本格、文体はハードボイルド調と、実に島田荘司らしい仕上りになっている。
今回の目玉は2つ。 まずは吉敷物とは思えぬほどの超絶技巧を凝らした大トリックの殺人。とは云え、トリックの内容は後の御手洗物を読んでいる身にとっては十分予想のつくもの。ただそれを吉敷が解くというのが珍しい。 2点目はやや没個性的だった吉敷の個性、存在感がいつにも増して顕著だったこと。通子の存在が不屈の精神を幾度となく蘇らせ、熱い魂と言葉を持った存在にまで押し上げている。 |
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