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Tetchy さんのレビュー一覧
Tetchyさんのページへレビュー数896件
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久々の吉敷刑事シリーズ物でなかなかの佳作。今回はミッシング・リンク物にやはりなるのだろうか。
冒頭の通子とのやりとりに結局解決が見られないのが残念だが、これは恐らく後の『涙流れるままに』で明らかになるのだろうからそれまでおあずけ。ただ一応のタイムリミット物にもなっているがもう少しその状況作りが良ければサスペンス性が増したように思えるのだが。 それにしても島田の『天に昇った男』がもう既に品切れ状態だとは恐れ入った。それが故に本作が繰り上げられたわけだが、集英社文庫の島田作品もどの書店に行っても見当たらないというのはまさに危機的状態である。だってあの『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』でさえないのだよ、信じられる!? まさかこれほど早く島田作品の底が見えるとは思わなかった。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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その題名に冠せられた名前が物語るように、これはかつてミステリファンを驚喜させた『亜愛一郎シリーズ』の先祖に当たる亜智一郎を主人公にした時代ミステリである。が、アイデア溢れる作者のこと、決して亜愛一郎シリーズを踏襲するような二番煎じは行わず、これは云わば泡坂版『仕事人』である。『必殺』は敢えて除いておこう、血生臭い話が並んでいるわけではないので。
亜智一郎を筆頭に、芝居好きな似非荒武者緋熊重三郎に、甲賀忍術を体得した藻湖猛蔵、豪腕誇る古山奈津之助の4名で構成された雲見番衆。とてもこの一冊で終わるのは勿体ないではないか!!!願わくばシリーズ化を求む。 そんな粋な彼らが織りなす物語はかつての『亜愛一郎シリーズ』の特色であったチェスタトンばりのアクロバティックなロジックは鳴りを潜め、むしろ宝引の辰シリーズや夢狸庵シリーズに近い雰囲気を持っているが今回は将軍直属の人物という設定だけに江戸時代の歴史を色濃く繁栄しているのも興味深い。従ってタイトルの『恐慌』の文字は物語の勇ましさには何とも似合わないとは思うのだが。 |
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恐らく今までの例に漏れず不定期に小説誌に発表された短編を寄せ集めた作品集であろう、内容も怪奇小説、人情小説、はたまたエッセイめいた私小説などヴァラエティに富んでいる。
それらの作品に通暁しているのは透明な視線で描かれた抑揚のない文章。ただこれはけなし言葉ではなく、そういった文章であるのにも関わらず登場人物達の彩りが鮮やかであること。特に紋章上絵師を主人公にした一連の作品群はもう縦横無尽ぶりの独壇場である。それ故、それらが最も印象に残ったことは云うまでもない。 ただ、不思議なのはいやに「死」を結末にすること。特に美しい女性に対し、その色が濃い。これは、使い古された言葉だが、「滅びの美学」を泡坂が老境に入った今、如実に意識しているのではないだろうか。紋章上絵師として、奇術師として、そして作家として去り際は粋で美しくありたい、そういう願望が見え隠れしているように私は思えるのである。 |
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泡坂妻夫の時代小説もこれで何冊目になるだろうか。当初、『鬼女の鱗』あたりから手を出したのだが、時代小説自体初めて読むと云うこともあり、不慣れな言葉が濫出してくることから自分には合わない物だと敬遠しており、『写楽百面相』の余りの専門ぶりにそれが頂点に達し、やや諦めの境地に至った時もあった。しかし、ここ最近は私自身がこなれてきたせいか非常に愉しく読め、本作もまた同様、読書の愉悦に浸ったのであった。
最初に宝引の辰シリーズを読んだ時は、泡坂のその洗練された文体を無味乾燥という風に受け止め、何とも特徴のない主人公だなと思ったがここに至り、その人情の良さが滲み出てたまらない人物となった。 本作は前半、温かみのある人情話二編で幕を開け、何とも清々しい余韻を残して終えるが、後半の二編はどちらも幸せを望んだ女性の死で幕を閉じる。江戸の町人同士のままならない生き方が泡坂の一歩引いた文体で淡々と語られ、更に切なさを助長する。特に各短編に混じられる当時の江戸風俗模様が物語のエッセンスとして活用されているこの旨さ!! 池波正太郎や柴田鎌三郎を読んだことがない私だが、それでも泡坂は本物の江戸を描ける作家だと確信した。 |
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まずタイトルを見て、「何だこりゃ!?」と面食らった。『幽体離脱殺人事件』と1,2を争う変なタイトルである。
しかし、内容は吉敷シリーズで結構渋く、扱っているテーマも歪んだ学校教育という社会問題を挙げ、手堅く纏まっている。 この頃の島田荘司氏はこの動機付けのエピソードが面白く、謎解き部分が逆に添え物になっているきらいがある。ただ今回は犯人が「ら抜き言葉」に執着する動機が純文学よりだったのが、惜しい所だ。 |
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正直、島田荘司の「暗闇団子」を読んだ後ではかなり評価が落ちると思っていたのだが、杞憂だった。寧ろ、「暗闇団子」の印象が強烈なせいか、かわって泡坂作品の洗練さが際立って、その粋さが堪能できた。
特に最後に持ってくるエピソードが短編のテーマと結実していて秀逸である。そこには江戸庶民の、貧しくもヴァイタリティ溢れる生活ぶりが行間から滲み出してくるかのようだ。 正に「今日もお江戸は日本晴れ」だった。 |
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今回のクーンツは面白かった!!かなり高く評価できる。なぜなら設定、ストーリー展開に破綻がないからだ。SFということで作者なりの世界観が構築されたところがその要因だろう。
しかし、クーンツは異質な物を組み合わせ、そこから人情話を作るのが非常に巧い。今回も地球を滅ぼした異星人と人類の子供との交流が素晴らしい。 結末はやや急ぎすぎた感があるが、何よりもSFをも手中にしてしまうこの作家の力量に改めて脱帽。 |
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タイトルにある「からくり」には余り意味がなく、市次、たか、市太郎ら3人の波乱万丈な冒険振りを評したような意味が強い。
ところで今思えば、泡坂の時代小説は数あれど長編はこれが初めてなのではないか。そのせいか主人公3人がいつもより生き生きと感じられ、心地よい。 また主人公たちも名前が変わっていくように、周辺の登場人物も名前が変わっていき、泡坂お得意の文学遊びが楽しめる。 ともあれ、なんとも粋な小説だった。 |
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『しあわせの書』、『生者と死者』でそれぞれ小説の形態を使って離れ業を演じた泡坂妻夫が今回選んだのが回文。それも章題が全て回文、登場人物、ことさら被害者の名前が全て回文。
序章と終章の題がそれぞれの逆さ言葉になっており、おまけに物語の最初と最後の1行も回文という徹底振りだがやはりこういう遊びに凝ると物語の結構が疎かになってしまうのは無理もないのか。ちょっと残念。 |
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記念すべき名探偵シャーロック・ホームズの初登場作品だが、私は今回初めて読んだ。
で、感想はと云えば、これが思った以上に凝った構成になっていることに驚いた。黄金期もしくはそれ以前の推理小説は事件の起きた時間軸上を登場人物が右往左往し、やがて真相に辿り着くという趣向がほとんどなのだが、本作は犯人発覚後、いきなり昔の西部開拓時代へ移行し、動機に至るエピソードが語られる。これが短編小説並に素晴らしいのだ。 このような革新的な構成をもって現れたホームズ。今に息づく真価が見えたか! |
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正にハリウッド映画のようなケレン味たっぷりの一作だったが、前半うまくのれなかったので7点としたい。
これはほとんど好みの問題だと思うのだが、「あれ」が具体的にどのような方法で被害者を抹殺するのかをもっと早い段階で見せてもらえば印象は強まったように思う。人が死んだという結果のみを何度も書かれるとやきもきしてしまうのだ、私は。 しかし、主人公のダンをもう少し書込めば引立ったように思えるのだが。トラウマがある点や一匹狼という設定はステレオタイプ過ぎると思う。 |
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「怖い話」と銘打ってはいるが、ホラーではなく、恋愛物あり、幻想文学あり、伝奇物あり、小咄ありとヴァリエーション豊かなショート・ショート集。その縦横無尽ぶりと相反する飄々とした文体は私をしてこれは泡坂版「徒然草」だと思わしめた。
特に日常的な話を描いて普通小説だと思わせておいて、いきなり非現実な表現(「壁をすり抜けるところを見られた」等)とさりげなく滑り込ませる手際は美事。 ただ飄々としすぎて味気なかったのは確かだなあ。 |
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いかな名作と云えど、やはりそれを読む時期というものがあって、本作も例外ではない。
この『シャーロック・ホームズの冒険』はオールタイム・ベスト選出に必ず上位5作の内に入る逸品ではあるが、四十路を控えた我が身にはやはり幼少の頃のように純粋に愉しめたとは云えない。ホームズが依頼人の特徴を瞬時に捉えて職業を云い当てる件は、今読むと滑稽だし、ワトスンも医者の割には脳が足りないように見える。 しかし、今の目で見ても収められている短編の内容はヴァラエティに富んでいる。 幼少の頃読んで以来、手にしなかったホームズ譚を改めて大人になった今、じっくり読み直そう。 |
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曾我佳城とヨギ ガンジーと並んで広く読者に今でも愛されているキャラクター、亜愛一郎シリーズの完結編である。
本作についてはもう寧ろチェスタトンばりの逆説論理を縦横無尽に展開するといった印象は薄れ、大人の読み物としての洒脱さが結びの部分に窺われ、作者の老練な筆捌きに酔いさせられる感が強い。そしてそれがまた来たるべき幕引きへ徐々に徐々に向かっていく読者の別れ難き喪失感を促すような効果をあげているように思えるのだ。 さらば亜愛一郎。そして今までありがとう。 |
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世評高い『~の狼狽』は些か肩透かしを食らった感があったが、この2作目はどうしてどうして逸品揃いだ。何が1作目と違うかと云えば、現在の泡坂作品に見られる歪んだ論理がエキスとして加わったことが大きい。読者の、というか常人の考えの及ばない人間の不思議さ、曖昧さをまざまざと、しかもコミカルに提示する手際は見事!
更に上手く云えないが、ひっくり返すことの面白さ、最後の「病人に刃物」が正にそれなのだが、わかるかな? |
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題名と表紙と内容紹介文を読めば正にディック・フランシスの競馬ミステリを想起させるが、作者はクーンツである。
内容はそれぞれ個性を持つ主人公率いる犯罪グループの中に裏切者がいたり、かつての栄華の復活を願う一見完璧な破滅型経営者がいたり、筋金入りのベテランガードマンがいたり、そして二重三重に起こる事件の数々を配したりとこれでもかこれでもかと読者を愉しませようとする旺盛ぶり。しかも競馬の事を詳細に描くのだから抜け目がない。 つくづく器用な作家だ、クーンツは。 |
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前作『鬼女の鱗』の印象が悪かったせいか、今回も同様の危惧を抱いていたが、意外にも読めた。
1つは前回は日本の情緒を過大に期待していたような姿勢があり、肩透かしを食らった感じが強かった事。 もう1つは専門的な知識に翻弄された事。 しかし今回は免疫が出来たのか、すんなり物語世界に入る事が出来た。そして気付いたのは簡素な文体に宝引の辰の優しさが見え隠れすること。また江戸町人の日々を生きる逞しさが存分に描かれている事。やはり泡坂妻夫は粋な作家だ。 |
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コンセプトがないオムニバス作品集。理屈では解明できない奇怪な出来事を軸に展開する普通小説もあれば、些末な事が実に意外な真相を孕んでいるミステリめいた小説もあり、話の流れに身を委ねるような純文学作品もある。
ミステリとしては「藤棚」が一番それらしいのだが、やはり人間関係が瞬時に裏返り、深い余韻を残して掉尾を飾る「子持菱」がベストか。奇妙な印象が残るのは「るいの恋人」。結末が少々あざといのが瑕。 全体としては『蔭桔梗』、『折鶴』ほどの日本色が豊かでなかった所が薄く感じた。 |
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“差別”が本書の一貫したテーマになっている。
事件の本筋のように人種差別は元より、軽い物では女が男を養うことへの抵抗を示した女性蔑視、老人の記憶は当てにならないという先入観、醜い者を見ると苛めたくなる心理。差別は心に悪戯をする。それが時には人の死に至るまでの事になる。 内容はウェクスフォードの推理が神がかり過ぎるところが多々あるが、明かされる真実が痛々しく、心を打つ。 最後の最後で明らかになるタイトルの意味は簡単な物だが、別の意味で一人の人間の尊厳を謳っているように思える。 |
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相変わらずの複雑な人間関係が眼の前で繰り広げられるため、元々の発端を見失いがちだったが、途中で簡単な人物相関図を描いたため、字面を追うだけの読書にはならずにすみ、作品世界に没入は出来た。が、しかし、カタルシスは得られなかった。
この小説の最大のポイントはジニー・ファブロンなる一見無垢な美人を巡って周辺の男女―その父母までもが!―が運命に翻弄され、やがて無垢だと思われていたジニーが実は…という所にあるのにタイトルが腑に落ちない。「脱税した金」という意味を持つタイトルは相応しくないのだ。 この話にそっくりな御伽噺を私は知っている。しかし、それが何だったのか思い出せない。 |
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