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たこやき さんのレビュー一覧

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レビュー数41

全41件 1~20 1/3ページ
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No.41: 11人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

楽園のカンヴァスの感想

大原美術館で監視員をしているオリエものとにニューヨーク近代美術館から絵画の貸出をする交渉役になってほしいという依頼が来ます。
20代の頃には新進のアンリ・ルソーの研究者として活躍していたものの、事情があって研究職からは離れ母と娘の3人で暮らしていたのですが、そのオリエに17年前の出来事がよみがえります。

ピカソやルソーの絵を(実物は見たことはないのですが)美術の授業などで見てはいるもののいまひとつ理解できなかったのですが、芸術にかける情熱というものがみずみずしく描かれていて、またミステリーとしても秀逸だとおもいました。

日本と違い、西洋の美術館はガラス越しなどではなく間近で眺められたり、美術館での模写も許されるといった文化に対する意識の高さや寛容さにも憧憬を感じずにはいられません。
芸術を近くに感じられるのはすばらしいことだと思いました。

本を読むばかりで、なかなか絵画にふれる機会はないのですが、これを読んで実際にルーブルやオルセーやMoMaに行って、本物の作品を見てみたくなりました。

楽園のカンヴァス (新潮文庫)
原田マハ楽園のカンヴァス についてのレビュー
No.40:
(9pt)

三秒間の死角の感想

グレーンス警部のシリーズの中では一番にあげたいです。
最初、潜入捜査官とあったので警察官の話かと思ったのですが、そうではないのですね。
日本でいうところの「エス」と言う雇われたスパイなのですが、権力者達の都合で簡単に切り捨てられるというのは万国共通でしょうか。
グレーンス警部の個人的なトラウマとの葛藤や、主役とも思えるパウラの人物描写がすばらしく秀逸です。

後半のパウラのサバイバルとも言えるハードアクションはとても緊迫感があり、まさに手に汗にぎる展開で最後まで一気読みでした。
タイトルの意味も最後になってなるほどと思える絶妙なもので、スカッとする結末です。
三秒間の死角 上 (角川文庫)
アンデシュ・ルースルンド三秒間の死角 についてのレビュー
No.39:
(9pt)

ブラックアウトの感想

「最後の人質」で活躍したFBI捜査官、キャット・ブロンスキーの第2段。会議での講演のため香港にきていたキャットは取材にきていたロバートから、一月ほどまえのメキシコ湾での原因不明の旅客機墜落事故について相談を受けますが、そのロバートが殺し屋に付け狙われます。一計を案じて香港警察に依頼し無事飛行機に乗り込むものの、別の任務を言い渡されキャットだけが飛行機からおろされます。
しかしロバートの乗った飛行機は離陸後しばらくして正面から協力な閃光爆弾?を浴び機長は死亡、副機長は失明してしまいます。
乗客の協力を得てなんとか引き返し着陸を試みるのですが、おりしも悪天に阻まれ落雷などによってオートパイロット機能が使えなくなり飛行機は迷走することになります。

それにしても怖い、怖かったです。フィクションであり荒唐無稽な内容でありながら、アメリカなら本当にこういうことがありそうだと思えてしまいます。次々と武器を作り出すアメリカと言う国を垣間見た気がしました。

▼以下、ネタバレ感想
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ブラックアウト〈上〉 (新潮文庫)
ジョン・J・ナンスブラックアウト についてのレビュー
No.38: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

シンクロニシティ 法医昆虫学捜査官の感想

1作目がとても面白く、シリーズものの2作目と言うことで続けて読みましたが、期待を裏切らない出来だと思いました。
1作目同様、これまた個性的な存在である捜査一課の刑事である岩楯警部補と赤堀先生とのコンビが絶妙でした。

腐乱死体が発見され、前回の活躍で存在を認められつつある法医昆虫学の赤堀先生にお呼びがかかります。
手がかりがなく一向に身元が判明しないままですが、そこにいる虫から少しずつ辿っていく過程は緻密でとても説得力があります。

物語の本筋とは違いますが、商売のために乱獲されるクワガタの話がでてきますが、人間とはなんと強欲なんだろうと思いつつ、赤堀が、生き延びるために虫は賢く変化していくと言うような言葉があって、みょうに納得してしまいました。
自然環境を露骨に破壊している生き物は人間だけですが、絶滅したものも、しそうなものもそんな風に淘汰されて、最後には虫だけが生き残る時代がいつかくるのかもしれないと思いました。

是非ともまた続きを書いてもらいたいと思える物語です。
シンクロニシティ 法医昆虫学捜査官 (講談社文庫)
No.37: 5人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

147ヘルツの警鐘 法医昆虫学捜査官の感想

乱歩賞をとった『よろずのことに気をつけろ』はちょっとこじつけ的なところがあって今一つと思っていたのですが、こちらは構成も登場人物の描写もよくそれぞれの個性が際立っていてとても面白かったです。
法医昆虫学と言う珍しい分野で、それが実際にあるのかどうかはわかりませんが(全部科学捜査の範疇だと思っていたので)描写がリアルでとても説得力がありました。アメリカなんかでは専門分野がいろいろわかれているので実際にありそうですが、閉鎖的な警察機構に外野からの協力の入りにくさなんてところも現実にありそうな話ですが、一般人ならどう考えてもおぞましいとしか思えない、死体につくウジから死亡時刻やその他色々な情報を導き出すという珍しい観点からの作品で読みごたえがありました。

虫の苦手な人には冒頭からちょっと辛い表現が続きますが、そこはフィクションであり本からは臭ってきたりしないのでご安心を。
かなり変人ですが、明るく元気なキャラである赤堀さんと言う学者さんがとても魅力的です。

法医昆虫学捜査官 (講談社文庫)
No.36: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

代官山コールドケースの感想

17年前に起きた若い女性の殺人事件。被疑者死亡で不起訴のまま事件は解決したかと思われていたが、似たような事件が神奈川県で起り、当時遺留品で判定されたのと同じDNAが検出され、17年前の事件は冤罪事件の疑いが出てきて特命捜査対策室の水戸部警部補が呼ばれることになります。
素人の感覚だと誰がどんな形で犯人を逮捕してもいいのではと思うものの、面目を重んじる警視庁は極秘に神奈川県警より先に解決しろと水戸部に命じます。事件は当時は地下鉄サリン事件の直後であり、あまり人出が割けなかったと言う事情はあるものの、当時も納得していなかった担当の刑事の協力などもあり真相が解明されるのですが、警察の在り様などが非常にリアルでさすがだなと思いました。
展開も早く一気に最後まで読める面白さです。

▼以下、ネタバレ感想
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代官山コールドケース
佐々木譲代官山コールドケース についてのレビュー
No.35: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

最後の審判の感想

『罪の段階』ではサンフランシスコ郡の地裁判事として、『子供の眼』では敏腕弁護士として脇役にもかかわらずとても公正ですばらしい弁論を繰り広げていたキャロラインですが、今回は彼女が主役で前2作とはかなり趣が違っていますが、この物語が構成においても人物描写や内容においても一番良かった気がします。

過去の確執から20年間会うことがなかった父と異母姉夫婦。その娘であるブレットが恋人の殺人容疑で逮捕されます。連邦裁判所の判事に任命されようとしていた時、小さな町で長年判事を勤め名士として存在してきた父から姪の弁護を頼まれ、わだかまりを胸に抱いたままニューハンプシャーの故郷に帰郷します。姪はお酒とマリファナで酩酊状態で警察に保護されるのですが、目撃者もなく新たな証人も現れ窮地に陥っていきます。

予審でのやりとりは、司法制度の違うアメリカとの違いをまざまざと感じます。前作でも思いましたが真相を明らかにするものではなくいかに相手の論証の弱点を責めていくかが焦点で、被告が実際に罪を犯しているのかどうかよりも、いかに決定的な証拠を排除するかと言うことに重点があって、検察とのやりとりは非常に面白いです。日本人からすれば相手の揚げ足取りに終始しているようにも思えますが、自白ばかりに頼り録音もさせず、何日も拘留を可能にする日本の司法制度は問題だらけとしか思えません。

キャロラインも最初は姪の有罪を心の中では確信していたにも関わらず、家族との確執や過去のいきさつなどからなかなか客観的になれず、自ら法を犯すことまでしてしまいますが、母の死や家族との訣別を描いた過去の話の挿入が物語を引き締め、タイトルに相応しく最後は圧巻でした。事件を通して描かれる親子の確執は非常に読みごたえがあり、キャロラインの潔さがとても引き立っていました。


最後の審判〈上〉 (新潮文庫)
No.34: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

蛇の形の感想

上手い!とうなってしまいました。
同じ通りに暮らす一人暮らしの黒人女性が、道端に倒れているところに遭遇するのですが、言葉も交わさぬまま亡くなってしまいます。人嫌いで全く交流もなかった女性でしたが、自分が何故殺されなければならないのか・・・と言う無言のメッセージを感じとり警察にも訴えるものの、結局交通事故として処理されてしまいます。
それから20年後、執念とも思える調査ののち、彼女を殺した犯人を告発する主人公のM・ライラ。

親しい友人だったわけでもないのに何故そこまで?と最初は思うのですが、読み進めるうちに明らかになっていきます。過去の手紙や報告書が現在の話の中に挿入されていて、構成もすばらしいのですが、何より人物描写がすばらしい。

虐待する側される側、差別する側とされる側、親子や夫婦の葛藤、社会的弱者でありながら、より立場の弱い者への攻撃や偏見がなくならないのは何故なのか、支配的な母と子の対比が色んな親子の場合としてあますことなく描かれていて、深く考えさせられました。『親』になることの難しさを改めて実感しました。

爽やかとはちょっと違いますが、ミセスライラが自分の人生を取り戻し再生していく過程は読みごたえがあり、最後の手紙には非常に感動しました。
蛇の形 (創元推理文庫)
ミネット・ウォルターズ蛇の形 についてのレビュー
No.33: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

KGBから来た男の感想

ソ連(今はロシア)の壮絶な歴史が垣間見られます。
スターリンの時代の狂気じみた大粛清はまさに理屈も何もなくただただ酷い歴史だと思いますが、その犠牲となり、のちに語学堪能と言うことでKGBにスカウトされ、ソヴィエトの崩壊とともにKGBをやめ、アメリカに移り住んでいるターボと言う調査員が主人公の物語です。

誘拐された娘を取り戻してほしいと言う依頼からKGB時代の陰謀に至る過程は非常に面白く、それまで20年も関わりのなかったロシアでの人間関係が、ニューヨークで再び絡むことでロシアの暗部に迫っていきます。
民主国家?となった今のロシアですが、どこの国でも権力を持つものにまつわる闇は酷いものばかりで、フィクションとはいえ、ありえそうな話で怖いです。強制収容所については事実をもとに描かれているのですが、同じ国の人間に対してあそこまで酷い仕打ちができるものかと思わずにはいられません。

ターボの父親については今回はまだ真相がはっきりしていない中途半端な終わり方でしたが、すでに次作が書かれているようなので、翻訳されるのが楽しみです。

しかし、アメリカでは本当にあんなに簡単に個人情報がばれてしまうんでしょうか?
ネット社会だからありえない事ではないんでしょうが、マイナンバーなんかできたらまさにそんな事になりそうでそちらはもっと怖いです。
KGBから来た男 (ハヤカワ文庫 NV タ 6-1)
デイヴィッド・ダフィKGBから来た男 についてのレビュー
No.32: 6人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

64(ロクヨン)の感想

フィクションでありながら、これほどリアルに警察の世界を描ける方は少ないのではないでしょうか。
花形である刑事ではなく広報官という一般市民にはあまりなじみのない主人公ですが警察機構の中での部署の違いや、キャリア・ノンキャリアの違い、地本と中央、そしてマスコミと役所と言った対立の構図と、それぞれの葛藤や立場の主張があますところなく盛り込まれて非常に読み応えのある物語でした。

物語の本筋ではないものの、匿名報道についてのマスコミと警察側のやりとりは特に考えさせられました。
どちらの言い分にもそれぞれうなずけるものがあり、事件の報道の難しさを感じました。


▼以下、ネタバレ感想
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64(ロクヨン) 上 (文春文庫)
横山秀夫64(ロクヨン) についてのレビュー
No.31: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

ナイト・ストームの感想

読み始めた時は30代だったヴィクもついに私と同世代の50代に。ストリートファイターもさすがに以前のような肉体的なキレはなくなってきたものの、輝けるおばちゃんの星(彼氏もいるんですからおばちゃんは失礼か!)健在です。
従妹のペトラからのSOSでティーンエイジャーを探しに出かけ、死体を発見してしまうところから物語が始まるのですが、今回も、永遠になくならないかと思われる人種差別(今回はユダヤ人差別)の問題が横たわっていて、第二次大戦下のユダヤ人の悲劇がクローズアップされていきます。

それにしても言論の自由とはなんだろう?と考えさせられてしまいました。ウェイドのようなテレビタレントが嘘八百や人種差別的な発言をあからさまにテレビで放映させるのが、果たして言論の自由と言えるのでしょうか?
最近の我が国を見ても、言論の自由を盾に聞くに堪えないような言葉を使って平気で街をねり歩く輩がいるのですが、人権意識の高いヨーロッパんどではこう言った人種差別的な発言は当たり前の事として取り締まられます。
日本もアメリカも人権意識の低い国だと宣伝しているようなものですね。

物語は、いつものようにヴィクが危険に陥りながらも胸のすくような解決を果たし、気分爽快なのですが、現実のアメリカはリベラルと言われたオバマが、多くの国を盗聴することを容認していたことで今後どうなっていくのか気になるところです。(盗聴されていたとわかってもろくろく抗議もできない日本は論外ですが)

物語が非常に面白かった半面、本当の正義や個人の自由、と言うのがフィクションの世界だけになっていってしまうのではないかと、選挙を前にして考えさせられる作品となりました。

ナイト・ストーム〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕 (V・I・ウォーショースキー)
サラ・パレツキーナイト・ストーム についてのレビュー
No.30: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

ウィンター・ビートの感想

ヴィクの14作目を読む前に、同じ作者のエッセイである『沈黙の時代に書くということ』、そして堤未果さんの『貧困大国アメリカ』をよみました。
自由の国と言われ世界でもっとも大国であるこの国が、とてつもなく貧しい国であるということを切々と訴えています。人の命までも商売にしてしまうような事はどう考えても正しいとは思えません。

史上最低と言われたブッシュが始めたイラク戦争の犠牲者であり、所属していた隊の唯一の生き残りでPTSDのために以前のような快活さを失ってしまった若者が殺人の疑いをかけられ、逮捕されてしまい、息子の無実を信じる両親に依頼されて真相をつきとめる事になるのですが、その後ろにはまさに命を商売にするような巨大な会社が存在し、現実の話ではないかと思われるほどリアリティがあります。

ヴィクもすでに50歳間近という年齢で、今迄のように突っ走り周りを巻き込んでの大騒動に、自分は本当に正しいことをしているのかと思い悩む事も以前よりずっと深くなってきます。
シリーズ始めの頃にはなかったパソコンや通信機器を同じように使い、便利だと認める反面それに伴う弊害についてのヴィクの感覚には非常に共感できます。

結末もスッキリ爽やかとはいかず、これもまた現実の世界でも実際この通りなのだろうと思えるような終わり方で、癒されたい・・・と思う彼女の気持ちが切実なももだと感じてしまいます。
そんな中でも毎回協力してくれる友人や隣人に支えられてこれからも頑張って欲しいと思わずにはいられません。特に初期のころから物語とは直接関係ないのですが脇役出演してくれるダロウ・グレアムが最高に素敵ですね(彼は11作目では脇役ではないのですが)常連の依頼人であり、ヴィクの生活をある意味一番支えている人でもあり、さりげなく協力してくれたり、変わらぬ友情を持ち続けてくれるまっとうなお金持ちの社長。
現実の世界にもこういう良心的な人がいると信じたいです。

そしてやみくもに追従しようとしている我が国ですが、なんでも民営化しようとし軍事国家をと公の場で声高に主張する某政治家を見ていると、うすら寒い心地さえしてきます。


ウィンター・ビート (ハヤカワ・ミステリ文庫)))
サラ・パレツキーウィンター・ビート についてのレビュー
No.29: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

ミッドナイト・ララバイの感想

巨悪を相手に孤軍奮闘するヴィクもすでに40代半ば?でしょうか。あまりの突っ張り具合が痛々しいとも思えますが、それでも最後まで貫き通す姿勢にはやっぱり応援したくなります。今回は40年前に失踪してしまった黒人男性を探して欲しいと言うあまり気の進まない依頼から始まるのですが、その根っこには公民権運動が盛んだったころの壮絶な人種差別の問題が横たわり、権力や富を持つ者たちがいかに非道なことをしてきたのかを暴きだしていきます。

9・11テロの後も、愛国者法という権力側にとって都合のいい法律に振り回されるマイノリティの存在。極端な格差や犯罪の蔓延など、アメリカの社会の恥部をまざまざと見せつけられます。

常に弱者の側にいるヴィクですが、自分に関わることで周りの人間に被害が及ぶことで罪悪感で一杯になるのですが、それでも最後まであきらめない姿勢に作者の気持ちがこめられているように思います。
またこのあきらめの悪さこそが、女性の感覚なのかもしれないと感じたりします。
ずっと活躍し続けて欲しいですね。


ミッドナイト・ララバイ ((ハヤカワ・ミステリ文庫))
No.28: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

死刑判決の感想

レストランの店主と客など3人が殺された事件。3ヶ月後に犯人が捕まり自白することで死刑判決を出されるのですが、10年たっていよいよ執行間近になって公選弁護人となったアーサー。犯人とされるロミーと面接するうちに真犯人を名乗る人物から連絡があり、彼の無罪を主張していく物語です。

誠実で真面目だけどさえない弁護人、問題を抱え自らも服役することになってしまった判事、野心でいっぱいの検事、正義感はあるものの偏見と思い込みで強引な自白強要をしてしまう刑事、と4人の違う立場の人物それぞれの心理描写が抜群に上手いと感じました。

また4人の男女の私的な関係を横軸に入れて、実際にあった事件をもとに書かれたということですがアメリカの司法制度の実態がわかりやすく描かれています。

裁判は決して真実を明らかにする場所などではなく、いかに自分に有利な判決を勝ち取るかと言う闘いの場なんだと言うことがよくわかります。
日本ではあまりない司法取引などは犯罪の多いアメリカでは日常のことのようですが、いかにお金や権力のあるものが優位な社会なのかと言うことをまざまざと見せつけられているような気がしました。

そして冤罪事件はこんな風にできあがっていくんだなと言う典型的な話でもあり、司法制度は微妙に違うものの日本でも現実に起こっていることと重ねてみてしまいました。

▼以下、ネタバレ感想
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死刑判決〈上〉 (講談社文庫)
スコット・トゥロー死刑判決 についてのレビュー
No.27: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

フランキー・マシーンの冬の感想

すっごく良かったです!一遍の映画を見てるようで、大人の物語だなあと。
老境にさしかかっているフランクはサンディエゴで釣り餌屋をやりながら、恋人との時間、週1回の娘とのランチデートや友人との波乗り、規則正しい日常の生活を愛し人生を楽しんでいたのですが、ある冬の夜家に帰ると一台の車が止まっており、それから命を狙われるはめになるのです。

もう何年もまっとうな生活をしていたものの、実はマフィアの1人であり伝説の殺し屋でもあったのですが、狙われる理由がわからないフランク。何が原因なのか理由をさぐるため過去を思い出すエピソードが、そのままフランクの青春の回想物語でもあるような気がしました。

決して褒められるような事をしてきたわけではないのですが、常にどこかファミリーからは一歩引いたところから眺め、決して仲間を裏切らず、自分に課した規律を守り生きてきたフランクがやっと見つけた平穏な日々を壊され追い詰められていく中で、かつて自分が追い詰めた人間のエピソードがあったりと、その対比も秀逸です。

エピソードに挿入される実際にあった出来事や映画の話など非常にリアルで、フィクションでありながら政治家や警察官などの汚職やそれまつわる世界観も全く違和感がなく、病んだアメリカ(日本もあまり違わないかもしれませんが)の現実が見えてきます。

それにしても渋くてカッコいいフランク。サーフィン仲間であるデイブも素敵です。
雨のサンディエゴと言うだけでも絵になりそうですが、最後もすごくよかったです。映画にしてほしい!
唯一の難点は登場人物が多く、名前が複雑で覚えるのがちょっと大変だったかもしれません。
フランキー・マシーンの冬 上 (角川文庫)

No.26:

冷血(上)

冷血

高村薫

No.26: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

冷血の感想

ミステリーでも謎解きでありませんが、一級の警察小説です。
フィクションでありながら、まるで実在の事件のドキュメンタリーを読んでいるような錯覚さえ感じました。
行き当たりばったりで何の計画もなくATMを襲撃し、その足でコンビニ強盗に入り、ちょっとした思いつきで空き巣に入った歯科医の家で一家4人を惨殺すると言う残忍な犯人2人。
捕まった後なんとか動機を明らかにしようとする警察だが、お金にも人にも全く執着を見せない2人に戸惑う合田をはじめとした警察官達。

何が2人をここまで過激な行動に走らせてしまったのか?をなんとか理解しようとする合田の揺らぐ気持ちには非常に共感しました。
他人への無関心や、想像力の欠如。まるで思い通りにならない子どもが暴れているのと変らないような無軌道な犯人の行動。
少しずつだが明らかにされる2人の子ども時代だが、読んでいて酷いと思うものの、果たしてそれほど特殊なものだろうか?と思ってしまう。

事件の前に少しだけ被害者家族の日常が娘の目を通して描かれているのだが、犯人のような極端なものではないものの、両親2人の目はともに自分のほうを向いているようで、規則正しい毎日の生活はあるものの、娘は醒めた目で2人を見ていて、正直家族としての濃い繋がりをあまり感じることができなかった。戸田の人生も挫折はしたものの、それほど違いはなかったのではないかとさえ思える。

携帯やネットなど対人関係を希薄にするようなツールばかりが出回り、人と向き合うことができない人達はちまたに山とあふれている現在。
東北の地震の後や沖縄の辛酸をニュースなどでみるにつけ、大方の人間はやはり他人ごとのように過ごしている毎日の中で、私達は知らないうちに2人のような人間を量産しているのではないかと感じてしまう。
家庭教育や、格差をより広げてしまうようなことをあからさまに押し進めようとする今の政治家達は本当の子ども達の現実を見る気があるのだろうかと思えてならない。

合田の目を通して、このままで良いのかと言う重い問いかけを向けられているのだと思います。
冷血(上)
高村薫冷血 についてのレビュー
No.25:
(9pt)

子供の眼の感想

前作『罪の段階』の続編です。前作でもすでに危うい雰囲気を出していたテリの夫リッチーが、殺されてしまい、動機が山のようにあるクリスが逮捕されてしまいます。前回のキャレリ裁判で判事をしていたキャロライン(今回は弁護士となっています)に弁護を頼みますが、次々と不利な証拠が出てくる上に証人にもならないことを頑なに貫きます。しかもそこに政治的な陰謀もからんでくるのですが、公判の場面は緊迫感があり、とても読み応えがありました。前作のような煮え切らなさがなく、キャロラインの弁護ぶりがすばらしく、自分がもし陪審員だったらどうするだろうと思いながら、ページをくる手を止められませんでした。

真相については途中でなんとなくわかったのですが、それにしても虐待の連鎖や、親子であることの因果というか、内容は重くて考えさせられました。あそこまで極端でないにしろテリの葛藤(親子としての)に共感できる女性は結構いるのではないでしょうか?
子どもにとっては親は選べないわけで、親としてのあり様を問われているようでもありました。
前作を読んでからこちらを読むことをお薦めします。
子供の眼〈上〉 (新潮文庫)
No.24:
(9pt)

泥棒は深夜に徘徊するの感想

バーニイシリーズの現在の最新刊です。
相変わらずバーニイ・キャロリン・レイと言う3人の漫才は健在です。
今回は、自分が直接には全く関係のない事件だったのに、たまたまその近くを徘徊していた為に監視カメラに映ってしまい、いつものごとくレイに逮捕されてしまうと言うところから話はややこしくなっていきます。しかもえらく国際的な事件であり、事件のスケールも大きくなります。

警察物のように緻密な捜査の過程で、真実があばかれていく・・・と言うような話ではなく、偶然のオンパレードなのですが、それでもやっぱりユーモアたっぷりで会話が面白く、雑学知識も満載で本当に楽しめます。

あとがきにも書かれていた通り、作者はご高齢でそう簡単に次々と新作を出すこともままならないような感じですが、ぜひともバーニイの新しい物語を読みたいです。
泥棒は深夜に徘徊する ― 泥棒バーニイ・シリーズ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
No.23: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

深い疵の感想

邦訳の本としてはまだこれ一冊と言う本作。こちらのサイトでの高評価なレビューを見て手にとってみました。その高評価を裏切らない、非常に読み応えのある警察小説でした。
アウシュビッツを生き抜いたユダヤ人であり60年もアメリカの大統領顧問として活躍してきた著名人が頭を撃ち抜かれて殺される事件が起こり、司法解剖の結果被害者はナチだった事が判明するのですが、政治的な圧力がかかり捜査することを強引に止められてしまいます。
しかし第2、第3の殺人が続いて起こり、主役のオリヴァーはじめ殺人捜査課のメンバーが事の真相を追っていくのですが、捜査の過程や人物描写も素晴らしく、内容も深く重く読みかけると最後までやめることができませんでした。

ただ、シリーズの3作目だと言う事で、物語は独立していて面白いものの主役を含めた捜査陣の背景などが1作目からだともっと感情移入しやすかったかもしれません。

それにしても戦後の対応の違いをまざまざと見せ付けられた気がしました。同じ軍国主義に走り敗戦国となったにもかかわらず、ドイツと日本ではあまりにもその後が違いますね。
昨今の状況を見る限り、ただ臭いものに蓋をしてきただけの日本は、本当の意味で戦後の責任や反省をしてきたとは思えません。あんな時代にまた逆戻りするのではないかと、読み終わったときに思わず感じてしまいました。

登場人物も多く名前もなじみにくいので敬遠する方もいるでしょうが、ぜひ多くの方に読んでもらいたいと思いました。
深い疵 (創元推理文庫)
ネレ・ノイハウス深い疵 についてのレビュー
No.22: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

煉獄の丘の感想

前作で少しだけ夫婦の信頼を取り戻したかに見えたコークとジョーですが、次の保安官にと周りから噂
されるようになって、過去の傷を心配する2人は再びギクシャクするようになります。
その家族の変化と同時に、アニシナーベ族がとても大切に思っている森や樹齢何百年の巨木を守ろうと
する団体と、その樹を伐ろうとする製材所との対立が激しくなってくる中で、製材所で爆発事故が起こ
ります。
保護団体の行き過ぎた抗議行動かと思われたのですが、そこで1人のアニシナーベ族の遺体が見つかり、
事件の発端となります。

それにしても毎回素晴らしいと思える雄大な自然の描写。
沈んでしまったら浮かんでこないほど冷たい水のスペリオル湖、自然に起きる山火事など日本ではあま
り考えられないような厳しい自然の中で生きる人達のたくましさ、特にネイティブの人の生き様に感動
します。

横軸には現実に起こったスペリオル湖での沈没事故を題材にしていて読み応え抜群です。
欲にかられる人間の愚かさを、人にとって本当に大切なものは何かを、巧みに表現している作者は本当に素晴らしいです。
まだ続編があるようなので、非常に楽しみです。
煉獄の丘 (講談社文庫)
ウィリアム・K・クルーガー煉獄の丘 についてのレビュー


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