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マリオネットK さんのレビュー一覧

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レビュー数144

全144件 41~60 3/8ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.104:
(7pt)

デスゲーム物に通じる所がある短編古典の名作

異端審問によって捕らえられた主人公が入れられた場所は”牢獄”であると同時に”処刑場”でもあった……

牢獄内のさまざまな仕掛けに主人公が命を脅かされる緊迫感のある展開は、現代のデスゲーム作品に通じるものがあり、もう150年以上前に発表された話ですが、現代の読者も退屈させない作品だと思います。



▼以下、ネタバレ感想
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No.103: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

『学生アリスシリーズ』のファンブック的な短編集

『学生アリスシリーズ』では現在唯一となる短編集作品。
長編では毎回旅先で連続殺人事件に巻き込まれる、クローズドサークルがお約束のシリーズですが、短編集の今回は江神部長やアリスらEMCのメンバーによる日常の謎の解決などが中心となっているほか、他愛ないミステリ談義や大学生らしい日常が描かれています。
しかし一部の話では短編とはいえガッツリ殺人事件を扱っていたり、はたまた誘拐事件や、メンバーの執筆したミステリに挑む作中作などもある、バラエティに富んだ内容です。

作中の時系列的には アリスの入学・入部~月光ゲームの後~マリアの入部。
というアリス入学の最初の約一年のEMCを書いている形式で、作者の実質的なデビュー作である『やけた線路の上の死体』から、書き下ろし作品『除夜を歩く』までが収録され、実に二十七年という歳月をかけて完成した短編集ですが、その辺の違和感は特になく読めます。
(作中でも触れられている、江神さんが二十七歳、クイーンが名作を四連発した年齢も二十七歳というのはただの偶然でしょうか?狙ったのでしょうか)

『学生アリスシリーズ』のファンなら必読と言える一冊ですが、シリーズを未読の人はまず長編の方を読んでキャラに愛着を持ってから読んで欲しいかなと感じる作品です。

以下個別ネタバレ感想です。

▼以下、ネタバレ感想
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江神二郎の洞察 (創元推理文庫)
有栖川有栖江神二郎の洞察 についてのレビュー
No.102: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

推理小説の面白くなる要素を全部つめこんでいるような作品

いかにもな雰囲気の舞台、猟奇的な連続見立て殺人、奇抜すぎるトリック、名探偵二人の推理対決、どんでん返し、過去の名作のオマージュやパロディ……

あとがきの解説でも言われていましたが、まさに本格ミステリの読者が望む、面白くなる要素を全部詰め込んだような作品です。
読者を意識してと言うよりは、作者自身が自分の好きな要素を全部詰め込んで書いてみたデビュー作でしょうか?
若干21歳の時に発表された作品だと読み終えた後に知り衝撃を受けました。
いろんな意味でぶっ飛んでおり、賛否両論は必至の作品だと思いますが、自分はツボにはまったので大変面白かったです。

三大奇書の一つ、『黒死館殺人事件』のパロディ的な面が強い作品ですが、あっちと違って非常に読みやすくていいですね(笑)
また海外の某有名シリーズのオマージュが事件に深く関わり、それを知っているか否かで面白さが段違いになってしまうため、実際に全部読みはしないまでも基本情報ぐらいは頭に入れた状態で読むことをおススメしたいのですが、シリーズの具体名を挙げてしまうとそれ自体が重大なネタバレになってしまいもどかしいです。


▼以下、ネタバレ感想
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新装版 翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件 (講談社ノベルス)
麻耶雄嵩翼ある闇 についてのレビュー
No.101:
(7pt)

このシリーズは「本格」というより、もはや独自のこういうジャンルとして読むべき?

シリーズ第五弾。
最初に読んだのがノベルス版だったので読み終わった後に知ったのですが、前作の『鉄鼠の檻』よりさらにブ厚い、シリーズ最長作品とのこと。
(次作の『塗仏の宴』を二作セットで考えればそちらがさらに長いですが)
真相部分に二作目の『魍魎の匣』に関する内容が含まれているため、ネタバレとまではいかないですが、先にそちらを読むべきでしょう。

前作の『鉄鼠の檻』の舞台が山寺という男の世界を描いていたのの対となっているのかはわかりませんが、今回の舞台はミッション系の女学園や代々女系の一族の屋敷といった華のある舞台です。しかし綺麗な華には棘が……というのもお約束です。

相変わらずこのシリーズはキャラクターが抜群に魅力的です。
今作のメインゲストキャラは女性中心ですが、いずれも「強い」女たちで、対する男性ゲストキャラは全体的に矮小な印象で押されぎみです。
しかし、そんな強い女たちに対しても、レギュラーキャラの京極堂、榎木津、木場はやはり別格の存在感ですね。(この三人は各々別ベクトルで無敵感があります)
特に自分は榎木津が大好きです。もう1000ページぐらい彼がひたすら暴れるだけの話でもいいと思うぐらい。
木場は前作までは正直粗暴すぎる印象であまり好きではなかったんですが、今作で好感度が上がりました。まさに作中で三女の葵が当初は木場の粗野な態度に眉をひそめたけれど、ただ男というだけで威張りたがるような連中とは違う、彼の公平で気取らない態度を見直したのに近い感想です。(まさに正しい意味で「男らしい」んですね木場は)

今作は、ジェンダー論的なテーマとキリスト教関連の薀蓄が特徴ですが、個人的には「男性の女性らしさに憧れる気持ちと、それを否定される苦悩」に触れていた部分が印象的でした。結局人間誰しも男性的な部分と女性的な部分があるわけで、女性を蔑視、軽視することは生物学上の女性だけではなく、男性の中の女性性も否定される問題であるのではないかと考えさせられました。(「女々しい」という言葉は女性を蔑視する言葉であると同時に、実際には男性を攻撃するために使われる言葉だな、などともふと思いました)

ミステリ部分に関しては、真犯人をロジックで導くのは不可能に近いですし、犯行方法も現実的とは思えずあまり評価できないのですが、そもそも前作を読み終えた時点でも感じていたことですが、このシリーズは所謂「本格」の括りで考えて読むものではないというのを改めて思いました。(三作目の『狂骨の夢』あたりは紛れもなく本格だと思いますが)
この世界観やキャラクター、溢れる薀蓄会話などを楽しむ、もはや独立した「こういうジャンル」なのがこの『百鬼夜行シリーズ』ですね。

余談ですがこの作品をモチーフにした『桜花の理』という曲を『陰陽座』という和風へヴィメタルバンドが発表しており、楽曲のレベルも高く、この作品を知っている人ならニヤリと出来る歌詞なので興味がある方は聞いてみてください。

▼以下、ネタバレ感想
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文庫版 絡新婦の理 (講談社文庫)
京極夏彦絡新婦の理 についてのレビュー
No.100: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

舞台のスケールは大きいけれど、気軽に手軽に楽しめる作品

ドイツの古城を舞台にしたクローズドサークル作品。
古城ならではの雰囲気や仕掛けが存分に活かされておりエンターテイメント性の高い一冊です。
シリーズの中でもスケールの大きい舞台のためか、映画の『ドラえもん』とか『クレヨンしんちゃん』に通じるような豪華さを感じます。
活発ながら捕らわれのヒロイン役もつとめる晴美、剣や斧を手にして中世の騎士さながら大暴れの石津、頼りないながら〆る所は〆る片山、おなじみのキャラクター達の個性も特に際立つ作品でした。

古城に閉じ込められ、血塗られた連続殺人が起こるというそれだけなら陰惨なストーリーも、赤川氏の手にかかれば相変わらず全編通してユーモアに溢れた明るい作風で安心して読めますし、小中学生にもおすすめですね。
(食事を用意していた使用人が殺された直後、大食漢の石津が「食事はどうなるんでしょう……」と心配するなどはもはやブラックジョーク寸前ですが)

このシリーズで最高傑作と言えば間違いなく一作目の『推理』なんでしょうけど、単純に面白いかどうかで言えば個人的にはこれが一番で、小学生の頃何度か読み返した一冊です。(このたびは20年ぶりぐらいに再読しました)
昔から私はクローズドサークルが好きだったんだと改めて感じましたね。


三毛猫ホームズの騎士道 (角川文庫)
赤川次郎三毛猫ホームズの騎士道 についてのレビュー
No.99:
(8pt)

あざとすぎる……でもこういうの大好き!

美貌の双子姉妹を主に持つ、ライン川渓谷にたたずむ古城”双月城”を舞台に繰り広げられる、人間の手には不可能と思われる奇怪な連続殺人と、第一次世界大戦時にはフランスとドイツに分かれ軍人として火花を散らした好敵手である二人の探偵による推理対決を描いた本格推理作品。

国内作家の作品ながら1930年代のドイツが舞台で、登場人物もみなヨーロッパ人。
文章も、意図的かはわかりませんが全体的に翻訳物のような固さと淡白さがあり、ジョン・ディクスン・カーの翻訳作品だと言われたら信じてしまいそうになる一作です。

個性的な建物、怪奇趣味、密室、首なし死体、連続見立て殺人、双子入れ替わり、アリバイ崩し、推理対決……
本格における”美味しい”題材のフルコースのような作品で「こういうの好きなんだろ?」と言わんばかりのあざとすぎる作品でしたが、悔しいですがこういうの大好きです。

しかし決して私のような読者をシチュエーションで釣るだけのB級作品ではなく、終始魅力あるストーリーと高い完成度を感じた、「本格ミステリ」の良作だと思います。
一つ一つにはそこまで目新しさを感じないものの、作中通して数えると二桁に上るのではないかというほどの多彩なトリックが用いられるのも、トリック好きには嬉しいポイントです。

とりあえず「こういうのが好き」という方には読んで損をさせない一冊だと思います。




▼以下、ネタバレ感想
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双月城の惨劇 (カッパ・ノベルス―カッパ・ワン)
加賀美雅之双月城の惨劇 についてのレビュー
No.98: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

無駄のないプロットと、秀逸なトリックが見事な不朽の名作

ジョン・ディクスン・カー氏の代表作の一つです。
私が今日まで読んでいる同氏の作品の中ではこれが最高傑作だと思います。
ただし、彼「らしさ」はない作品ですね。

長編作品としては比較的コンパクトな分量で、話の筋もシンプルで無駄がなく非常に読みやすく、判りやすい作品なので初心者にもおススメです。

クリスティ女史が「このトリックには私も脱帽した」と絶賛したことで有名な作品ですが、彼女自身も以前に似たようなプロット、トリックの作品を発表しているにも関わらずそう発言しているのは、発想そのものを評価したのではなく、その料理の上手さに感心したのでしょうね。

▼以下、ネタバレ感想
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皇帝のかぎ煙草入れ【新訳版】 (創元推理文庫)
No.97: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

本格推理小説の教科書のような良質短編集

主人公は和製『ブラウン神父』とも言うべき、職業はカメラマンの素人探偵、亜愛一郎(「亜」が苗字。学生時代間違いなく出席番号一番だったでしょう)
そんな彼のユニークなキャラクターをはじめ、事件の様子がコミカルに描かれるユーモアミステリーとも言える短編集ですが、内容はれっきとした殺人事件を、トリックを解明したりフーダニットを突き詰め解決していく本格推理小説です。
また一話あたりいずれも40~50ページ程度と殺人事件を取り扱うには短編にしても短めですが、いずれも良質な出来で、さらに話のバリエーションも豊富でこれ一作でちょっとした本格推理の教科書のようです。
短い時間で一話ずつ読めるので、まとまった時間が取れない方にもお勧めですね。

しかし基本的に短編の域を出ておらず、特別感心したり面白いと言うほどのネタはありませんでした。
少し古臭さを感じる部分も多く、現代のミステリ好きが読むと少し物足りないと思うところもあるかもしれません。


一冊通して残った謎
・顔が三角形の老婆は結局何者なのか……(てっきり最後の事件で何かオチがあるのかと思った)
・亜は結局ドジなだけで運動神経は抜群なんでしょうか?

▼以下、ネタバレ感想
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亜愛一郎の狼狽 (創元推理文庫)
泡坂妻夫亜愛一郎の狼狽 についてのレビュー
No.96:
(8pt)

『そして誰もいなくなった』を題材に使った時点である程度面白いのは当然なのだけれど

一体いくつあるのかもわからない『そして誰もいなくなった』をインスパイア、モチーフとしたミステリの一つですが、その中でも個人的にはかなりのお気に入りです。
私の場合、元ネタとなる作品が好きすぎるので、もうその時点である程度面白く読めるのは必然なのですが、これは決して他人のふんどしで相撲を取った作品ではなく、『そして誰もいなくなった』を題材としながらまったく独自の良作に仕上がっていると思います。

まずこの作品は所謂クローズド・サークルではなく、舞台は女子高で、そこの学園祭で上演される『そして誰もいなくなった』の演劇の最中、実際に殺人が発生し、当然劇はその場で中止されるのですが、その後も『そして誰もいなくなった』のストーリーをなぞらえて、配役どおりに一人、また一人と死んでいくというストーリーです。
マザーグースの歌詞による連続見立て殺人である『そして誰もいなくなった』の見立て殺人という、いわば”見立て殺人の見立て殺人”ということになります。

ページ数的にはそこまで長い作品ではないですが、元ネタ同様次から次へと人が死に、ジェットコースター的な展開の連続で読者を飽きさせない構成です。
(この作品に限らず『そして誰もいなくなった』を題材としている作品は流石そのへんの本家の魅力を理解しているものが多いと思います)
まさ終盤にさしかかるとさらに驚きの展開の連続で、人によっては「つめこみすぎ」「ひねりすぎ」「強引すぎ」との感想を抱くかもしれませんが、個人的にはとても楽しめ、また完成度も高いシナリオだったと感じます。

流石にこの作品は『そして誰もいなくなった』を事前に読んでいることは前提に書かれているのかな、と思いましたが犯人や真相部分はちゃんとネタバレしないように伏せてるんですね。
それでも絶対に事前に元ネタ作品を読んでいた方が面白いと思いますが、ふと、この作品を読んでから本家の方を読んだらどんな感想になるのかな……ともう絶対に叶わない好奇心をふと覚えました。

あと仮に殺人が起こらず、無事に『そして誰もいなくなった』の劇が進行していたらどんな演出となっていたんだろう、とそんな部分まで興味がわいた作品でした。


▼以下、ネタバレ感想
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そして誰もいなくなる (中公文庫)
今邑彩そして誰もいなくなる についてのレビュー
No.95: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

時空と世界を駆ける壮大なるバカミス(?)

『御手洗潔シリーズ』の長編作第5弾。
前作『暗闇坂の人喰いの木』も事件が戦前から戦後の時代、さらに舞台が日本とスコットランドを股にかける壮大な作品でしたが、今回は前作をさらに時間的にも空間的にも、そしてドラマ的にも全てにおいてスケールアップさせたような壮大な物語です。

まず作品構成からしてかなり独特で、序盤は古代エジプトを舞台にナイル川に住んでいた少女と若きファラオの物語と、1914年・大西洋に沈む運命のタイタニック号の船上での様子が交互に進行します。
まず冒頭200ページ読んだ時点では誰も『御手洗潔シリーズ』とわからない。それどころかミステリーとさえわからないような作りです。
この時点で人によっては「御手洗潔シリーズが読みたいんだよ!」「本格推理小説が読みたいんだよ!」と拒否反応が出るかもしれませんが、私としてはどちらも独立して魅力的なストーリーであったため楽しむことができ、またこの2つの物語と現代の御手洗潔がどう交わっていくのか序盤から作品に引き込まれました。

200ページを越えた所でようやく、物語は20世紀のアメリカに時代と場所が移り、前作に引き続き、シリーズのヒロイン役となるレオナが登場します。
このレオナも割りと好き嫌いが別れそうなキャラクターかなと思いますが、個人的には好きです。
強気でプライドが高く、ともすれば自己中心的で高慢な女性に映るのですが、実は結構Mっぽい所が好みですね(笑)

今回の事件の本当の主要舞台となるのはアメリカ南部のとある岬に建てられた、エジプトの最も有名で巨大な「クフ王のピラミッド」を上半分を透明にした上で実寸大で再現して作ったという、とんでもない建物。
(本当にアメリカ国内にそんなものが建てられたら、本物のピラミッドに劣らぬ観光名所になっちゃいそうですが)
宗谷岬の「流氷館」も個人が建てたものとしては極めてユニークで凄い建物でしたが、流石アメリカはスケールが違うと感じてしまいます(笑)

そして、そこで奇怪な殺人事件が発生し、地元警察はもちろんアメリカの探偵も皆お手上げの状態となった所で、事件に巻き込まれたレオナが助けを求める形でようやく御手洗が登場するのは、400ページを越えてから。しかも鬱病での登場です。
しかしいざ動き出せば相変わらずのスーパーマンっぷりです。

事件現場のアメリカに向かうのはもちろん、その前に「本物」のピラミッドを見るためにエジプトにも向かい、前作に続き御手洗一行の旅行記も楽しむことが出来ます。

極めて壮大で豪華な作品なのですが、悪い部分も多々あり、人によっては(特にあくまで本格推理小説として見れば)駄作と断じられてやむなしと感じる作品ですが、個人的には単純にエンターテイメントとして見るなら最高に面白かったです。
(その点も前作をさらにパワーアップさせたような作品という感想です)

ただその面白さも「ピラミッド」「タイタニック」そして「御手洗潔シリーズ」という元々あった魅力的な題材のブランドイメージのおかげという側面もあるかもしれませんね。


▼以下、ネタバレ感想
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水晶のピラミッド (講談社文庫)
島田荘司水晶のピラミッド についてのレビュー
No.94: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

まさに「悪意」としか言えない

発想の斬新さもさることながら、非常に全体の構成が巧みで、かつテンポの良いストーリーは読むものを退屈させない。
東野圭吾氏の才能というよりも、作家としての総合力の高さを見せ付けているような作品で、このサイトではあまり総合順位が高くないのが意外に感じます。

通常のミステリの流れでは終わらない、二転三転するストーリーと、真相でまさに気づかされるタイトルに込められた意味に唸らされました。
この作品は出来れば、話全体の長さ、続きが後どれぐらいなのかわからないような形式で読みたかったです。
(と言っても私は仮に電子などで読むにしても全体の分量がどれぐらいなのか読む前にどうしても気になっちゃうんですけどね)



▼以下、ネタバレ感想
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悪意 (講談社文庫)
東野圭吾悪意 についてのレビュー
No.93: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

『ヒカルの碁』のように囲碁を知らなくても楽しめる作品ではない

タイトルのまんま囲碁に関わる殺人事件です。
全編にわたって囲碁の薀蓄が溢れているのをはじめ、いろいろな部分で囲碁のルールを理解していないと判らないだろうという所がありました。
冒頭のルール説明の文章からして、ルールを知らない人へのフォローというよりはむしろふるい落とそうとしてんのかと思う判りにくさでした。
私は碁が打てるので(弱いけど)割りと楽しんで読めましたが『ヒカルの碁』のように囲碁を知らない人が読んでも面白いという話ではありません。

純粋にミステリとして見てもそこまで出来が良いとは思いませんが、囲碁を題材にするという独創性を評価してこの点数としました。

主人公(?)のIQ208の天才少年智久が天才でありながら言動は実年齢より幼いぐらいに見えて少し違和感でした。
天才であってもあくまで年相応の子供であるというキャラを前面に押し出したかったのかもしれませんが、あまりにも記号的な「無邪気な可愛い男の子キャラ」を押し出してる感があってちょっと苦手でしたね。
囲碁殺人事件 (講談社文庫)
竹本健治囲碁殺人事件 についてのレビュー
No.92: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

本当に愛したのは誰かというフーダニット

個々の話に直接の繋がりはないけれど、一貫したテーマと雰囲気を持った連作短編集という形の有名作品。
タイトルは個人的にはシリーズの総評である「花葬」の方が良かったのではないかなと思います。

いずれも「花」をテーマとして男女の情愛が絡んだ殺人(心中)事件を扱ったミステリ作品になりますが
その美しい文章で紡がれる悲劇的な五編の物語は、まさに花が儚くも美しく散る様のようです。
純文学としても純ミステリとしても非常に質の高い作品だと感じました。
(純文学と呼ばれるジャンルの作品を普段から殆ど読まない私が言うのもなんですが)

フーダニットよりホワイダニットに焦点が当てられた作品、というのは他人の感想でもよく目にしますが、
私はそれとは別に、「誰が犯人であるか」のフーダニットではなく、「本当に愛したのは誰だったのか」というフーダニットを全ての話に共通して感じました。

以下個別ネタバレ感想です。

▼以下、ネタバレ感想
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戻り川心中 (光文社文庫)
連城三紀彦戻り川心中 についてのレビュー
No.91: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

一章はブラジルに来た日本人の話、二章以降は日本に来たブラジル人の話

戦後、政府の移民政策で、希望を抱きブラジルの大地へと渡った日本人たち。
しかしそこで待っていたのは国から聞いていた話とは全く異なる、地獄だった。
満足な耕地も住む場所も用意されないまま未開のジャングルの中に放り出されるような形となった日本人移民たちは極貧や病気に苦しみ、多くの者が命を落としていった……

それから時は流れ、二十一世紀。日本に地球の裏から3人の男たちがやってきた。
彼らの目的はかつて自分たちを、自分の父や母を、騙し見捨てた日本政府への復讐だった。

という戦後の日本のブラジル移民問題を取り扱った本作。
バリバリの本格好きで、社会派やハードボイルドはあまり好きではない私ですが、これは面白かったです。

まず第一章のブラジルでの話は、読む前から大まかな知識としては向こうに渡った人たちがとても苦労したことは聞いていたものの
詳しい実情を知らされると、そのあまりに過酷で悲惨な描写に、読んでいて辛くなる部分も多かったです。
それでも目を離せない、まさに読まされる文章とストーリーでした。
そしてこれは二章以降のストーリーのために、絶対に必要な描写であったと思います。

二章以降からは時代は一気に二十一世紀に飛び、一章の主役であった日本人移民の男の義理の息子であるケイへと主役が移ります。
見た目は日本人ながら中身は生粋のブラジル人である彼の、その豪胆さと快活さゆえに、題材こそ重いものの、決して陰惨なストーリーではなく、エンターテイメント性の高い話へと変貌したと感じました。
ジャングルで生まれ、原始人さながらの極貧の中で育ち、病気で死んだ両親が目の前で腐っていく様子を見たケイの境遇も親世代に勝るとも劣らぬ過酷さと悲惨さなのですが
それでも明るく楽しそうに生きているのが、まさに一章から二章で主役が日本人からブラジル人に交代し、その民族的気質の違いを見たように感じました。

日本とブラジル、日本人とブラジル人、どちらの方が良いとは言えないと思いますが、物語の主役にして面白いのは圧倒的にブラジル人的な性格のキャラクターだと思いました。


▼以下、ネタバレ感想
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ワイルド・ソウル〈上〉 (新潮文庫)
垣根涼介ワイルド・ソウル についてのレビュー
No.90:
(7pt)

性格の悪い人間の方が、外から見ている分には面白い

とある美女の殺人事件について、フリーライターが友人の女性の口コミを口切りに、事件と時を同じくして行方をくらませている容疑者最有力候補の女性について独自に取材調査を行い、自身のSNSや雑誌記事に取材情報を多分な誇張・歪曲表現を用いて発信していく様子が描かれる、リアルかつ異色なミステリです。

多くの人の視点で事件が語られますが、視点ごとに事件の印象や形がコロコロと変ってしまうという構成や
人間の醜さ、いやらしさが存分に出ているけれど、それが不快感よりは話を面白くする絶妙のスパイス(むしろメインディッシュ?)になっている作風など
この作品も彼女の作品「らしさ」が存分に出ていました。

文章だけでなく、SNSのやりとりやゴシップ雑誌の記事が資料として組み込まれているという手法が斬新かつ妙なリアリティを産んでいて面白かったですが、SMSや記事の部分は全部巻末にまとめられて、章の終わりごとに参照ページが書かれると言う形式だったため、どういう順番に読めばいいのかちょっと混乱しました。
実際の所私のように、章の終わりごとにその都度資料に飛んで読んでもいいし、最後にまとめて読むのでもいいし、極論読まなくても大丈夫っぽいですが、章の終わりごとに挿入するのではダメだったんでしょうかね?

真相そのものは面白かったですがラストはやや尻すぼみな印象でした。


▼以下、ネタバレ感想
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白ゆき姫殺人事件
湊かなえ白ゆき姫殺人事件 についてのレビュー
No.89: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

まさに「おそロシア」

スターリン体制時代のソ連を舞台とした、国家安保捜査官が主役の物語。

実在した連続児童殺人犯である「アンドレイ・チカチーロ」をモデルとした殺人鬼がソ連全土を舞台に次々と子供を殺害するのを主人公が追うストーリーとなりますが、それはあくまで物語の一面に過ぎず、主人公の本当の敵や脅威は殺人鬼よりもむしろ、彼自身が忠誠を誓ったはずの国家体制そのものというのがこの話の最大の特徴だと思います。
国民の誰もが、それこそ昨日までは取り締まる側であるはずだった安保官までもがいつあらぬ疑いをかけられ、処刑されたり強制収容所送りになってもおかしくないという、この時代のソ連の恐ろしさが存分に描かれている作品です。

すごく重そうな内容であることに加え、海外翻訳物、さらに上下巻で700ページ越え、と読みにくそうさの数え役満状態に身構えてしまいましたが、いざ読んで見ると近年の作品と言うこともあり、内容は想像以上にハードなものの、読みやすかったです。
物語のどこを切り取っても緊迫感があって非常に先が気になり、あらゆる面で悲惨・陰惨・凄惨を極めるストーリーでありながらも、とても面白く読めました。
残酷なシーンそのものが苦手な人は別として、決してドストエフスキーの作品みたいに「読みにくそう・難しそう」と身構える必要はありません。

前半部分はとにかく残酷ながらもすごく惹きつけられるストーリーで、関心させられる作品だったのですが、物語の最大の転機となる、これまで保身と出世のために”国”というよりも”体制”に対して忠誠を誓い、スターリン体制の手先となってきた主人公が、自分自身の矜持や本当の意味で自分の生まれ育った”国”のために、”体制”に反旗を翻すように個人で殺人鬼の正体を追うことになった場面あたりから、正直首をかしげたくなる展開になってきました。

また、前半はあらゆる面が主人公への逆境となり、まさに超ハードモードなのに対し、逆に後半になると主人公とヒロインの置かれた過酷な状況そのものは変らないものの、不自然なレベルで全てが主人公にとって上手くいく、ご都合主義全開になってしまったのが残念です。

前半は文句なしに面白くて9点。後半は一気に薄っぺらいただの娯楽作品になり下がった気がして5点。
平均してこの点数という感想です。(後半を酷評してますが、後半も「面白い」ことには変らないんですよ)


▼以下、ネタバレ感想
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チャイルド44 上巻 (新潮文庫)
トム・ロブ・スミスチャイルド44 についてのレビュー
No.88: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

警察小説でありながら青春ミステリでもある

「十五年前、とある高校で起きた、自殺と判断された女教師の墜落死事件は実は殺人であった」というタレコミの元、時効成立当日にして一大捜査が始まるという、これだけなら典型的な警察小説のストーリーの作品なのですが、その十五年前の事件の重要参考人になる、事件当夜、学校に忍び込んでいた不良三人組の回想が青春ミステリとしての要素も強めています。(個人的に社会派ミステリ……とはちょっと違うと思います)
十五年前の殺人事件だけにとどまらず、丁度当時時効をむかえたあの「三億円事件」も物語に関わってくるという盛りだくさんなストーリーで、実質的な処女作にも関わらず、数多くの伏線に、二転三転する真相と非常に練りこまれた大作でした。

個人的には警察が必死こいて追っている事件よりも、不良三人組の試験問題を盗む計画、「ルパン作戦」のパートの方が本筋以上に面白かったです。
ただ喜多たち三人は、ただの不良の高校生のスケールを越えている連中で、ケンカでは米兵二人をブチのめせるほどの強さに加え、喜多も十分不良とは思えない頭の良さだけれど、それに輪をかけ橘は天才的な機転の持ち主で、正直こいつらは今更「試験問題盗む」なんて程度のことを必死になってやるような器じゃなくないか?と思ってしまいました。

プロットを分解すると2つ3つの作品が書けてしまうのではないかと思うほどの作品ですが、むしろ「盛り込みすぎ」で若干話の展開に無理があったり、リアリティに欠けると感じる所はありました(いくらなんでも時効成立一日前でここまで捜査が進むのは……それ以前にタレコミだけでここまで警察は必死に動くものなの?という疑問が沸きました)しかし「フィクションなんだから細かいところはいいんだよ」と割り切ってしまえるパワーとエンターテイメント性がある作品だったと思います。

ルパンの消息 (光文社文庫)
横山秀夫ルパンの消息 についてのレビュー
No.87: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

吉敷とともに悩み、苦しみ、カタルシスを味わえた快作

殺人犯の汚名を着せられ、真犯人に口封じに殺されようとしている、別れた妻・通子を救うため、主人公の刑事・吉敷が孤軍奮闘するストーリーです。

満身創痍になり、文字通り血を吐く思いをしながら、過酷な冬の北海道で通子を探し続ける吉敷の姿は痛々しく、読んでいるこちらも苦しくなるほどでしたが、「惚れた女のためだろ!頑張れ!」と前向きな気持ちで読み続けることができ、ラストには吉敷も読者も報われる、いろんな意味でのカタルシスが待ち受けていた作品でした。

全体的な作風はハードボイルド寄りなのですが、不可能犯罪を可能とする驚きのトリックは実に島田氏らしいですね。
すでに彼の作品はそれなりに読んでいたので、なんとなくどんなトリックかは察しがついたし、人によってはこういうのを「バカトリック」と呼ぶのでしょうが、私は好きですね。

▼以下、ネタバレ感想
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北の夕鶴2/3の殺人 (光文社文庫)
島田荘司北の夕鶴2/3の殺人 についてのレビュー
No.86: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

医療の現場という特殊な舞台設定ながら中身は紛れも無い「本格ミステリ」

とある大学付属病院が誇る、優秀な外科医・桐生を中心に、成功率六割という難易度の高いバチスタ手術を二十例以上連続で成功させてきた、栄光の「チーム・バチスタ」
しかし、状況は突如一転し、三件の術中死が相次いで発生するようになり、その真相を探るという医療ミステリ。
映画化などもされた有名作ですね。

医療の現場という特殊な舞台・状況設定であり、現在の大学付属病院や手術の現場体制の問題に切り込んでいる社会派ミステリの側面も持つものの、探偵役・ワトソン役が存在し、フーダニットを突き詰める形式は紛れも無い本格ミステリであると思います。

作者の海藤氏が現役の勤務医ということで、医療現場に関する知識、リアリティ、説得力は言うまでもないですが、主役の田口は医者でありながら外科手術は門外漢であり読者目線に立ってくれるため、特に医療知識は必要とせずに読めます。
また、内容は最初もっと硬くて重い話と言う先入観があったのですが、キャラクターや会話にはコミカルな部分も多くて読みやすく、いい意味で裏切られました。
それでも前半部分はやや退屈だったのですが、後半に探偵役であり、真の主役である白鳥が登場してからは一気に話に活気が出てきました。
この白鳥の強烈なキャラクターは人によっては拒否反応が起きそうですが個人的には好きです(あくまで読者という外から目線で、実際にはお近づきになりたくないですが…)

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新装版 チーム・バチスタの栄光 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
海堂尊チーム・バチスタの栄光 についてのレビュー
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(8pt)

作家クイーンの全盛期にして、探偵クイーンの成長期の作品

『国名シリーズ』の4作目ですが、時系列的には大学を卒業したたてのクイーンが本格的に犯罪捜査に関わった最初の事件とされている作品であり、それゆえにまだ彼が探偵としても人間としても未熟な面が多々あり、後期クイーン問題とはまた違った苦渋を舐めさせられることになるお話です。
クイーンに限らず、なぜ名探偵は何かに気づいていながらもったいぶった言動で最後まで真相を告げず、周囲の人間や読者をイラつかせるのか、という答えを提示してくれていると言ってもいい作品です。

この事件は作中人物が、どいつもこいつもとにかく嘘つきだらけです。
そして真犯人を筆頭に事件の中心にいる人物ほど、重要かつ高度な嘘をつくので、探偵と犯人の壮絶な知略戦に読者は巻き込まれることになります。

ロジカルさもさることながら、まさに二転三転していく真相は凄まじいものがあり、戦前ですでにこんな作品があっては、欧米ではとっくに本格推理というジャンルが廃れてしまったのもやむなしか……と思うほどでした。

クイーンの中で「最長」の作品でもあり、海外古典で500ページクラスとなると少し読むのに尻ごみしましたが、序盤から終盤まで話の動きが大きかったので退屈せずに読めました。ただ、登場人物が多いわりに人物相関がわかりにくいのが難点かなと。

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ギリシャ棺の謎【新訳版】 (創元推理文庫)
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