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egut さんのレビュー一覧
egutさんのページへレビュー数745件
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突然の過去の恋人からのメッセージ。2人のメールのやり取りだけで進行する書簡体小説です。
この仕組みの小説は文学的な技術以外に読者へ与える情報量を小出しにする事で生まれる面白さが狙いとなります。本書はその狙いが巧みに行われている為、出版社が本書をミステリーというジャンルではないと言いつつもミステリー小説の2度読み系の娯楽を兼ね備えた作品であると感じました。SNSで話題になっているのも納得です。 文庫版で170ページ台と短く490円という価格設定。気軽にサクッと多くの方に読まれ口コミで広がる狙いを感じるなど、娯楽小説としての作りが色々と巧いと思います。 読書中の気持ちとしては、なんか内容が気持ち悪いなという気持ち。男側の内容が粘着で女側もよく答えるなぁというやり取り。SNSメッセージで長文……など。他にも昔の恋人同士のやりとりにしては、会話内容がローカル会話ではなく第三者の読者に向けて説明調になっていると感じた次第。現実のやり取りには見え辛いのが本音ですが小説だからこういうものかと思いながら読み進めました。 最後まで読むとそういう気持ちもなるほどなと納得。個人的な読後感は、やられた!ではなく、なるほど巧いなぁという気持ち。いろいろな設定が巧く考えられている技巧的な作品。面白かったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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昭和初期を舞台とした女学校の学園ミステリ。
連作短編集のようなスタイルで各話の物語ごとに謎解きがある構成です。 レトロなお嬢様学校の雰囲気が良く殺伐さがないのが好感。挨拶も「おはよう」ではなく「ごきげんよう」というやりとりが時代を良い意味で感じさせてくれます。 設定や雰囲気はとても好感だったのですが、点数が良くないのは内容の把握のし辛さ。文章の相性が悪かった為か、事件や謎解きや学園風景や友達とのやり取りなどなど、よくわからない読書でした。物語が頭に入ってこなかった為、雰囲気は良さそうなんだけどどんな話だったのか把握できなかったのが正直な気持ち。 最終話の『満月を撃ち落とした男』については「だからこの時代でこの設定にしたんだろうな」と感じられたのは良かったです。この物語がアイディアの始まりなんだろうなと思いました。雰囲気やキャラクターは良いのでシリーズ化すると楽しそうです。ただ自分にはもう少し把握しやすい文章になるか漫画化して画が見えないと楽しめないなという感想を得た次第でした。 |
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『流浪の月』の読書で著者の作品に惹きこまれたので本書も手に取ってみました。
本書はミステリではなく、すれ違い系の恋愛小説。ただよくあるような軽い話ではなく、あらすじにある通り、生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた著者が紡ぐ物語となっております。 地方と都会、親と子、仕事とお金、人生の占める割合が大きなこれらのポイントや分岐点、それに伴う男と女、不倫や浮気など、読者が感じるポイントは様々でしょう。 恋愛や不倫など男女の物語としてみる方もいると思うし、やりたい事を貫く為の自立や勇気を感じさせる側面も感じました。身近な人だったりお金だったり仕事だったり、各人の心の支えとなる柱を見つめる物語にも感じられました。 『流浪の月』でも感じましたが、心模様の描き方が本当に凄い。現実的には共感できない事が多いのですが、読書中はその人物の気持ちがわかる気分になってしまう。夢中にさせられる読書です。一つの恋愛物語としても良いラストでした。個人的には好きな事を自分で決断して動いてくという自立をテーマに感じた作品でした。 タイトルの『汝、星のごとく』についても、どこにいても想い人を感じる星の意味もあれば、自分が独りでも輝ける存在にという意味にも感じ取った次第です。心に残る名セリフも多く素晴らしい作品でした。 |
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映画化したり2020年の本屋大賞に選ばれたりで書店でよく目にしていた本書。
よくある一般文芸かと思い気に留めていなかったのですが、本書の出所がミステリ・SFでおなじみの東京創元社からであり、しかも新たに創設された"創元文芸文庫レーベルの1作目"に選ばれているという事を最近知り興味を持った次第。 結果は大満足。流石創元といいますか、ミステリではないにしても技法は入り込んでいるのを感じる事でしょう。東京創元社の今までの読者はもちろんの事、さらに一般読者を獲得する狙いをも感じるレーベル1作目でした。 著者本は初読み。今まで普通とは違った恋愛小説を描いてきた著者。本書は少女誘拐事件の当事者視点で描かれる物語。ミステリ好きな方へ本書をPRするとするなら、イヤミスや倒叙ミステリ傾向。事件の真相が先に読者に伝えられており、真相と事実の違いが扱われます。合わせて本書は様々な"違い"を多く感じました。それは常識と非常識だったり、人や環境の違い、心の中とそれを巧く言葉にできない違い、様々な違う事による苦悩、違っていても良いという救済、これらの情景や感情の描き方が素晴らしく惹きこまれた読書でした。 内容は好みが別れると思います。不幸寄りの物語なので、どんよりと重く暗く、たまに見える希望が明るい。そんな感覚でした。イライラさせられたり嫌な気持ちになる事が多いのですが、それだけ惹きこまれる文章である事は確か。内容は好みではなく登場人物達にまったく共感はできないのですが、物語としてはとても面白い読書体験でした。 |
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記憶喪失ものの恋愛小説。
この手の組み合わせは昔から多くありますが、好みなのでついつい手に取ってしまう次第。 本書の特徴は“パズル病”という病。勉強や趣味で好きな事がジグソーパズルのピースのように剥がれ落ちて記憶を失っていく症状。 あらすじや帯にある通りキャッチフレーズとなる「私、先輩のことが世界で一番……嫌いです!」という妙な導入が面白い。好きなものを忘れる奇病。だから嫌いな先輩を頼るという可笑しさ。ライトノベル作品としての掴みはバッチリでした。 今風の作品として面白く、会話の砕け方やボケなどクスッとさせられましたし、イラストもオタク臭くなく丁度良くいい感じです。ラノベ好きな読者層には好感に映る要素が豊富でした。ミステリ好きの読者としては何がどういう風な結末を迎えるか予想できてしまう構成かと。気軽にサクッと読めるという意味では良かったです。 欲をいうと終盤はもっと丁寧に描いて欲しかったです。中盤以降は話が駆け足なのが気になりました。全てが良い方向でどんどん繋がるので、話が繋がるというより、描きたいシーンだけ並べましたというブツ切り感をとても感じてしまった次第。 話や真相は面白かったので、もう少し丁寧かつ話に惹きこまれる展開や演出があればもっと感動しただろうなと思います。最終章の4章は特にそうで、大事な話や展開が30ページだけで描くのは急過ぎです。商品として300ページ以内に収めたと思われますが、これにより味わい感動する間がなく終わってしまったのが勿体なく感じました。綺麗に終わる物語としては良かったです。 |
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大雨の中、バス事故で避難した先の廃墟にて発生する怪死事件。
スプラッターホラー映画のように惨殺されていく乗客たち。何が起きているのか理解不能のまま恋人を助けたいと渇望する主人公の身に起きたのはバス事故前を基点としたループ現象だった。 本書は怪異が存在するという事が前提状況にあるホラーミステリーのシリーズ4作目。 今作は怪異+SFお馴染みのループ現象という事で冒頭からのワクワク感が良かったです。バッドエンドを繰り返す序盤のテンポも〇。ループ現象での絶望の先でシリーズお馴染みの那々木悠志郎が登場と、気持ちがあがる展開が良かったです。 中盤は怪異説明の伏線なのか仏像の蘊蓄が多く語られるのですが、それも楽しく読ました。仏像話はとても参考になります。 さて、中盤までは凄く楽しかったのですが後半はちょっと低迷。 怪異や物語の真相はよく考えられており、読み終わってみればシリーズの中では一番凝った造りだと思われました。 ただ、個人的な気持ちとしてもどかしいのは伏線から論理的に探偵役が真相を導くのではなくて、なんというか突然の解説のように全部説明されてしまう事。ミステリで萎える展開の一つに犯人が全部解説するというのがありますがそんな感覚。色々と面白くなるはずの終盤が残念だった印象でした。勿体ない気持ちで終わりました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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【ネタバレかも!?】
(1件の連絡あり)[?]
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玄人向けの濃厚なミステリ。もの凄い作品でした。
タイトルが似ている『名探偵のはらわた』とは関連はなく、本書単体で楽しめます。 ライトな読者や登場人物名がカタカナの外人なので海外ものが苦手な方には合わないかもです。 物語よりも凝りに凝ったマニアックなミステリを読みたい方にオススメです。 1978年に実在したカルト宗教の人民寺院集団自殺事件をモチーフとした作品。 本書を読んだ後に実際にあった事件である事を知ったのですが、事件を知るほど本書の本格ミステリに落とし込んだ扱われ方が見事だと感じました。本作品を読む前にちょっとでも事件の概要を調べておくと作品の雰囲気や登場人物が把握しやすくなると思います。 時系列や毒や凶器、調査団、などなど実際に起きた事はそのまま扱い、ミステリを構築しているのに驚きました。 カルトの異常性を活用した特殊設定ミステリ。そして多重解決ものの組み合わせが見事。ここ数年ミステリで話題となる名探偵のテーマや、特殊設定の流行や、著者の異常な世界観が良い形で絡み合っていると感じました。 著者の作品はいくつか読んでおりますが、過去作で好みでなかった要素が払拭されています。例えば鬼畜系のグロ表現は単語表現だけで気持ち悪くないと感じる事が多かったのですが、今作はグロい単語は軽減されていても、不気味さ、異常さ、宗教の怪しさを感じられました。『少女を殺す100の方法』では100という数が商業的なPRで意味を感じなかったのですが、そういう数字的な事に意味をちゃんと持たせた内容があり、表現の描き方や意味の持たせ方が進化していました。個人的に著者の作品の中で一番良い作品。 正直な気持ちとして物語としての面白さは弱かったのですが、ミステリの技巧作品としては一品でした。カルトの異常性と多重解決の組み合わせが本当に見事で凄く練られたミステリを堪能しました。 |
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図書室を主な舞台とした青春ミステリ。
著者初期の古典部や小市民シリーズを感じさせる新たな学園もののビブリオミステリーです。 短編集なのでサクサク読み易い。“図書本"の特徴を用いた日常の謎。各話はミステリとして暗号やアリバイ、意外な〇〇ものなどバラエティを兼ね備えており楽しめました。 ただ個人的な好みとして、日常の謎の短編で青春小説というのは特に刺激もなく何か心に残るようなものが得られ辛かったのが正直な気持ちです。 短編集の中では『ない本』が好み。ビブリオミステリとして推理のとっかかりが巧く、学園ミステリとして登場人物の背景に至るまでよい塩梅でした。 |
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警察小説の爆弾もの。
爆弾による緊迫感。愉快犯との頭脳戦。先が気になる展開で止め時が見つからない読書でした。非常に面白かったです。 著者の作品は初読み。年末のミステリランキングで目にしたので手に取りました。今まで著者の本は凄く難しそうで硬派なイメージを持っており、手に取る事を躊躇していました。ランキングを切っ掛けに手に取ったわけですが、そんなイメージは杞憂でして大変読み易いエンタメでした。食わず嫌いだったと思った次第。 スズキタゴサクという不気味なキャラが強烈で良い。いわゆる無敵の人であり常識が通用しない相手。警察を翻弄し次に何をしてくるのか、そして何を考えているのかが不安と期待で読んでしまう。この気持ちは著者の悪だくみが組み込まれており、読者は傍観者だから楽しんでいるという毒を感じました。そう表現する登場人物やセリフもあり巧いなと思います。 非常に楽しめた読書だったからこその気持ちですが、欲を言うと最後の結末への展開が駆け足に感じました。前半、中盤、後半と8割ぐらいまではハラハラドキドキで警察と一緒に翻弄される読書でしたが、最後の終盤だけ正答だけ突き進んで物語が急に終わってしまって置いてけぼりになった気分なのが少し勿体ない。印象としては推理して真相に辿り着くのではなく犯人や神の声で真相を全部喋っちゃった系の感覚。ページ数を400台に収める為に削られたのかなとも感じ、もう少し推理模様があれば本格ミステリとしても行けたんじゃないかと感じました。と、面白かったゆえの欲ですね。 |
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著者の作品は毎回違ったテーマを用いており、本作も新しい種類の物語を世に出してきたのが凄い。本作は現代のコロナ禍を舞台としており、かつ自殺をテーマにした作品。
自殺の肯定派と反対派の若者がネットメディアにて討論会を行う。この討論会の終盤から徐々に参加者の思惑が見え隠れしていき、その不明瞭な謎がミステリーとして展開していく。 ただ謎を追いかける話ではなく、自殺の考え方から、残るもの・残されるもの・残すものなど、登場人物達を通して著者の考え方に触れた読書。 人にオススメするようなエンタメ小説ではなく、自殺をテーマとした著者の創作物としての作品。好みとは違うものでしたが、著者の本は読み易いので自分にはない考え方に面白く触れさせてもらったような読書として楽しめました。 |
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前作から大躍進を感じたとても好みの作品でした。
デビュー1作目の『密室黄金時代の殺人』はトリックを数で勝負みたいな問題集で好みとは違ったのですが、今作は前作で気になった不満点が一気に改善され面白い作品となっておりました。 作品の雰囲気はライトミステリ。殺人が起きていても会話やキャラは軽い雰囲気です。その為、細かい事を気にする現実的なリアル志向のミステリ読者には不向きです。一方、ライトノベルやゲーム系のミステリが好きな方にはオススメな作品となります。何を期待して読むかにより評価が分かれると思いました。 物語の舞台は金網に囲まれた金網島。富豪に招待された密室のスペシャリスト達。密室トリック当てゲームの予定が本物の密室殺人事件に巻き込まれるという流れ。 前作に引き続き『密室の不解証明は、現場の不在証明と同等の価値がある』という判例が起きた世界が効果的。アリバイ同様、密室が破られなければ有罪にならない世界なので、苦労してでも密室を行う事に意味がある。この設定により奇想な仕掛けが有効となっているのが見事です。 密室トリックについても小粒から壮大なものまで面白いラインナップでした。 前作では物語に関連なくバラバラな印象だったのが、本書では読者に提示する順番まで考えられていたと感じます。徐々に密室トリックの難度が上がるのと同時にそれを納得させる説明が段階的に読者へ伝えられている構成なのがよい。最後の最後まで問題編と解答編が繰り返される贅沢な展開なので仕掛け好きなミステリ読者にはオススメです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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スピード感あるクライムサスペンス。
まず面白いのは冒頭からの急展開。少女の目の前で母親が殺し屋に襲われるシーンから始まります。読者はこの主人公の少女と共に何が起きたのか状況が不明で逃げる事から始まります。いきなりの展開でこの本のジャンルがホラーなのかアクション何なのか混乱しつつも、物語に引っ張られて読み進められた読書でした。 そして大きく2つの視点が交互に描かれるのですが、1つ目は上記の少女の視点。もう1つはこの犯罪を企てている(と思われる)犯罪者側の視点。何者か不明。だけどなんか狂っているヤバい奴ら。半グレ達の視点です。 逃亡する側、追う側の視点を交互に描く犯罪小説。倫理観の無い半グレの暴力含む結構ハードな内容なのでそれが苦手な人は合わないのでご注意を。 読み進めていくと物語の方向が様変わりし意外な所へ着地する内容でした。ミステリーとしてそういう物語だったのかと繋がりを楽しむこともできました。そしてこれは犯罪を描きながら、家族や愛情を描かれていると感じた次第。ちょっと表現が悪くて恐縮ですがB級映画で当たりを見つけたような面白さを感じた作品でした。 |
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表紙とタイトルに惹かれて購入。表紙のイラストが綺麗。
期待値が高かった為か、作品との相性が悪かったのが正直な気持ちです。 身体を動かす事ができない身体障碍者が脳(思考)で操作可能なデバイスにより介護ロボットを動かして自分自身を介護するという、近未来的な世界観と技術は面白く読めました。仮想現実や医療を交えたエンタメ作品です。 正直な所、設定上の問題かもしれませんが、他のSF作品や有名どころのアニメで見知っているような設定が多く感じられました。そして悪い事に本書の中盤までは非常に分り辛く教科書を読んでいるような気分で惹きこまれませんでした。相性の問題かもしれません。中身が把握できない説明主体の物語が展開されて、それを読まされたような気分です。それでいてどこかで見知っている設定達なのでそのイメージで補いながらの読書でした。 中盤から物語が稼働し始めてよくなるとはいえ、その時点では気持ちが離れてしまった読書でした。 ※その他売り方について小言っぽくなりますが思う事を。 帯には【『同志少女よ、敵を撃て』につづくアガサ・クリスティー賞大賞受賞作】としてPRされています。版元の気持ちを察する印象です。本書の物語を純粋にPRするのではなく、わざわざ『同志少女』の名前を載せて、アガサ・クリスティー賞の自社の賞をPR。作品の帯がこれでは受賞者にちょっと失礼ではないでしょうか。作品内容からSFの読者を増やしたい意図も含まれているのだろうなと感じた次第。アガサ・クリスティー賞はまた迷走してしまったように感じました。 |
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タイムループが発生する特殊設定ミステリー。
タイムループものとして特徴的な要素は主人公だけがループする話ではなく集団でループに巻き込まれる点です。巻き戻しを認識できる薬を飲んだメンバー達がループの事象を認識し、何がどういう理由で発生しているのか皆で解決していくようなお話。 読書前は報酬に釣られたデスゲーム的な殺伐とした話を予感していましたが、そうではなく登場人物達は仲間として協力して問題解決へ向けて動いている雰囲気。前向きな気持ちが良かったです。 読後感としてはミステリーというよりSFに近い印象。それでいて主人公とヒロインの恋愛模様も加わった物語としてよい展開。印象としては前述の雰囲気ですが、ちゃんとタイムリープ要素を活用したミステリーともなっており、総じて面白く読めた物語でした。 あと登場するオバちゃんがめちゃめちゃ良いキャラ。作品内の雰囲気を明るくし、難しい話をオバちゃんに分かるように優しく説明されるという補助がナイス。面白かったです。 |
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著者のタイトルに釣られて手に取りました。
まず手に取る読者層は『イニシエーション・ラブ』『セカンド・ラブ』といった流れを期待して手に取ると思います。本書は7つの短編集となっており、どの作品も仕掛けが施された作品となっており楽しめました。 短編集としての作品の並びが良かったです。 冒頭は日本推理作家協会賞候補となった短編『夫の余命』。まずはこの作品で本書の期待に応えてきました。 続いて『同級生』は著者の他の本を知っているとこれ系できたかという思いと、これもアリな作品集なのね。と思い当たる事でしょう。中盤の『なんて素敵な握手会』は4ページのショートで、サクッと仕掛けを楽しめて気分転換になった作品で巧いです。そこから頭を使う作品を配置していき、最後は書下ろしの『数学科の女』。 個人的にはこの最後の『数学科の女』が本を手に取った時の期待に沿っていて好みでした。 作品並びの始まりと終わりが良かった構成なので読後感は満足で本書を閉じる事ができました。 『数学科の女』について。好みではあったのですが、似たような真相の純愛を用いたミステリを他で知っていた為、結末が読めてしまったのとそれを超えるものではなかった為、印象が薄かったのが正直な気持ち。ただ短編として最小限の設定で構築されておりイヤミスとして楽しめた作品でした。 タイトル『ハートフル・ラブ』の名づけが巧く、それで統一された作品集として良かったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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2021年度のメフィスト賞受賞作。メフィスト賞らしく変わった趣向の作品で楽しめました。
高額なアルバイトの内容はスマホにインストールしたスイッチを押しても押さなくても毎日1万円が手に入り、1カ月後にはさらに100万円が支給されるというもの。誰かがスイッチを押したら報酬がなくなるわけではない。ただしスイッチを押すとある家族が破滅するという内容。"悪意"の存在についての実験です。 あらすじがデスゲームのような内容だったので興味を引かれて手に取りましたが、中盤からは違った物語が展開された印象でした。世の中の多くのレビューの声にある通り、心理学から善悪や宗教に関する考え方が作品内に色濃くでてきます。個人的には思っていた作品と違うイメージでしたが本書の個性として面白く読めました。読み易い文章であり、考え方や説明が理解しやすかったのも好感でした。 メフィスト賞らしい広義のミステリーの物語として味わいました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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多くの人に知られている赤ずきんを主人公&探偵役としたシリーズ2作目(著者の童話シリーズとしては4作目)。シリーズ順序は関係ないので本作から読んでも大丈夫です。
皆の知っているキャラクターを用いる事で読者を得やすくなっている作りを感じました。 今回扱われる題材は『白雪姫』『ハーメルンの笛吹き男』『三匹の子豚』。そしてタイトルにある『赤ずきん』『ピノキオ』。これらのキャラクターを混ぜ込んで作られた著者流の童話となります。個人的にはミステリというより大人向けに再構築されたオリジナル童話という印象でした。 木でできた人形の右腕を拾った事から始まり、赤ずきんはピノキオの部品探しをする先々で各童話の世界に入りそこで事件に遭遇するという流れです。 元の童話とは全然違う話でありキャラクターも多く出てくる為か、話がわかりやすそうで分り辛いという変な気持ちの読書でした。キャラクターは分かるけど、キャラがどこで何をしているのか情景が浮かび辛い物語だったのが正直な気持ちです。各物語の事件概要が把握し辛いのですが、結末側は読み易く描かれているので何が起きていたのかが後でわかるという読後感でした。 良かった点として各物語は前作よりもちゃんと童話をモチーフとした仕掛けがあるミステリーとなっていたのが好感でした。ただ童話の世界なので魔法のような現象で何でもありな世界になっていて、ミステリとしてはルール説明不足な気がするのが難点に感じました。 話の構造として『ハーメルンの最終審判』が好み。物語の背景や各人の行動の意味が明かされる物語として面白かったです。 |
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凄く楽しく好みの作品でした。※点数は大分好み補正で加点。
作品雰囲気はライトノベル寄りの法廷ミステリ。 『シンデレラ』のパロディで、ゲーム『逆転裁判』のオマージュを感じた童話題材のミステリ×法廷ものです。 『逆転裁判』が好きな人は特にオススメ。裁判中の展開がそのままです。 シンデレラの設定を用いる事で登場人物や雰囲気を説明する必要がない為すんなり物語に入れます。始まりは魔法使いにドレスアップされて舞踏会へという定番の流れ。王子の私室に訪れたシンデレラが目にしたのは王子の他殺死体。その場に訪れた兵士に現行犯逮捕され緊急的な臨時法廷で裁かれる事になりこのままでは死刑は確実。無罪を証明する為にシンデレラは推理の力で裁判に挑むという展開です。 ページの半分以上は法廷劇。 証人の証言から手がかりやおかしな点を指摘していくたびに事件模様や人物像が変わっていくのが面白い。魔法が存在する世界なので何ができて何ができないのか、ちゃんとロジカルな推理で真実が明かされていくのが良かったです。 これはもう知っている人が読めばキャラ違いの『逆転裁判』です。流石に「意義あり!」のセリフはでませんが、裁判長とのやりとり、証拠をつきつけたり証人をゆさぶったり、証人が発言する度に新たな展開が起きる作りがそう感じます。読書中、頭の中では追求BGMが流れていました。。人によっては真似事という評価になりそうなのですが、個人的には面白い所を巧く取り入れたオマージュに感じました。何よりも真似だけでは終わらずちゃんと物語として面白い作品になっている為です。結果が良ければ細かい事は気にならないという感覚。 変わった雰囲気のシンデレラも好感。継母や姉達と仲が良い設定もよく、作品全体で嫌な気持ちになる点がない。純粋に楽しい作品が読めたという気持ちで大満足でした。 |
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特殊設定もの作品で薔薇の表紙に惹かれて手に取りました。
あらすじや帯に記されているのですが、"ミステリ"ではなく"ミステリー"と書かれており、これはあえて表記していると感じる読後感。謎解きものではなく、個人的に感じたジャンルはSFの医療小説です。 物語は「オスロ昏睡病」と呼ばれる難病にかかると昏睡状態になり記憶を失ってしまうという病気がある世界。ただ本書は冒頭で既にその病気の解決策が見つかっていて、その治療の副作用として身体に薔薇のような腫瘍が生まれるという設定。その腫瘍を持った人々が次々に襲われるという事件が起き、それの調査からミステリーが始まります。 まずこの世界の設定を序盤で読み易く展開されるのが良かったです。どういうルールが適用されているのか説明が巧いので苦なく読み進められました。著者は物語の説明がとても巧いです。複雑な世界を分かりやすく伝えていると感じる所が多々ありました。 先程医療小説と挙げた理由は、事件の謎よりも腫瘍を基点とした物語をメインに感じた為です。腫瘍の謎もありますが、治療方法や腫瘍を持った人々の交流など、空想要素を取り除けば身近にないめずらしい病気の医療物語の印象です。薔薇や腫瘍などの設定がミステリとして必須アイテムというわけではなく物語の表現や演出寄りに感じた次第。 SFの医療小説+青春ものの物語として手に取ると良いと思います。 著者の作品は初めてだったのですが、読みやすく物語の世界が独特で気になる為、他の作品も手に取って見ようと思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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