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egut さんのレビュー一覧

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レビュー数738

全738件 121~140 7/37ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.618: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

本と鍵の季節の感想

図書室を主な舞台とした青春ミステリ。
著者初期の古典部や小市民シリーズを感じさせる新たな学園もののビブリオミステリーです。

短編集なのでサクサク読み易い。“図書本"の特徴を用いた日常の謎。各話はミステリとして暗号やアリバイ、意外な〇〇ものなどバラエティを兼ね備えており楽しめました。

ただ個人的な好みとして、日常の謎の短編で青春小説というのは特に刺激もなく何か心に残るようなものが得られ辛かったのが正直な気持ちです。
短編集の中では『ない本』が好み。ビブリオミステリとして推理のとっかかりが巧く、学園ミステリとして登場人物の背景に至るまでよい塩梅でした。
本と鍵の季節
米澤穂信本と鍵の季節 についてのレビュー

No.617:

爆弾 (講談社文庫)

爆弾

呉勝浩

No.617: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

爆弾の感想

警察小説の爆弾もの。
爆弾による緊迫感。愉快犯との頭脳戦。先が気になる展開で止め時が見つからない読書でした。非常に面白かったです。

著者の作品は初読み。年末のミステリランキングで目にしたので手に取りました。今まで著者の本は凄く難しそうで硬派なイメージを持っており、手に取る事を躊躇していました。ランキングを切っ掛けに手に取ったわけですが、そんなイメージは杞憂でして大変読み易いエンタメでした。食わず嫌いだったと思った次第。

スズキタゴサクという不気味なキャラが強烈で良い。いわゆる無敵の人であり常識が通用しない相手。警察を翻弄し次に何をしてくるのか、そして何を考えているのかが不安と期待で読んでしまう。この気持ちは著者の悪だくみが組み込まれており、読者は傍観者だから楽しんでいるという毒を感じました。そう表現する登場人物やセリフもあり巧いなと思います。

非常に楽しめた読書だったからこその気持ちですが、欲を言うと最後の結末への展開が駆け足に感じました。前半、中盤、後半と8割ぐらいまではハラハラドキドキで警察と一緒に翻弄される読書でしたが、最後の終盤だけ正答だけ突き進んで物語が急に終わってしまって置いてけぼりになった気分なのが少し勿体ない。印象としては推理して真相に辿り着くのではなく犯人や神の声で真相を全部喋っちゃった系の感覚。ページ数を400台に収める為に削られたのかなとも感じ、もう少し推理模様があれば本格ミステリとしても行けたんじゃないかと感じました。と、面白かったゆえの欲ですね。
爆弾 (講談社文庫)
呉勝浩爆弾 についてのレビュー
No.616: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

エンドロールの感想

著者の作品は毎回違ったテーマを用いており、本作も新しい種類の物語を世に出してきたのが凄い。本作は現代のコロナ禍を舞台としており、かつ自殺をテーマにした作品。

自殺の肯定派と反対派の若者がネットメディアにて討論会を行う。この討論会の終盤から徐々に参加者の思惑が見え隠れしていき、その不明瞭な謎がミステリーとして展開していく。
ただ謎を追いかける話ではなく、自殺の考え方から、残るもの・残されるもの・残すものなど、登場人物達を通して著者の考え方に触れた読書。
人にオススメするようなエンタメ小説ではなく、自殺をテーマとした著者の創作物としての作品。好みとは違うものでしたが、著者の本は読み易いので自分にはない考え方に面白く触れさせてもらったような読書として楽しめました。
エンドロール (講談社文庫)
潮谷験エンドロール についてのレビュー
No.615: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリックの感想

前作から大躍進を感じたとても好みの作品でした。

デビュー1作目の『密室黄金時代の殺人』はトリックを数で勝負みたいな問題集で好みとは違ったのですが、今作は前作で気になった不満点が一気に改善され面白い作品となっておりました。

作品の雰囲気はライトミステリ。殺人が起きていても会話やキャラは軽い雰囲気です。その為、細かい事を気にする現実的なリアル志向のミステリ読者には不向きです。一方、ライトノベルやゲーム系のミステリが好きな方にはオススメな作品となります。何を期待して読むかにより評価が分かれると思いました。

物語の舞台は金網に囲まれた金網島。富豪に招待された密室のスペシャリスト達。密室トリック当てゲームの予定が本物の密室殺人事件に巻き込まれるという流れ。

前作に引き続き『密室の不解証明は、現場の不在証明と同等の価値がある』という判例が起きた世界が効果的。アリバイ同様、密室が破られなければ有罪にならない世界なので、苦労してでも密室を行う事に意味がある。この設定により奇想な仕掛けが有効となっているのが見事です。

密室トリックについても小粒から壮大なものまで面白いラインナップでした。
前作では物語に関連なくバラバラな印象だったのが、本書では読者に提示する順番まで考えられていたと感じます。徐々に密室トリックの難度が上がるのと同時にそれを納得させる説明が段階的に読者へ伝えられている構成なのがよい。最後の最後まで問題編と解答編が繰り返される贅沢な展開なので仕掛け好きなミステリ読者にはオススメです。

▼以下、ネタバレ感想
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密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
No.614: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

リズム・マム・キルの感想

スピード感あるクライムサスペンス。

まず面白いのは冒頭からの急展開。少女の目の前で母親が殺し屋に襲われるシーンから始まります。読者はこの主人公の少女と共に何が起きたのか状況が不明で逃げる事から始まります。いきなりの展開でこの本のジャンルがホラーなのかアクション何なのか混乱しつつも、物語に引っ張られて読み進められた読書でした。
そして大きく2つの視点が交互に描かれるのですが、1つ目は上記の少女の視点。もう1つはこの犯罪を企てている(と思われる)犯罪者側の視点。何者か不明。だけどなんか狂っているヤバい奴ら。半グレ達の視点です。

逃亡する側、追う側の視点を交互に描く犯罪小説。倫理観の無い半グレの暴力含む結構ハードな内容なのでそれが苦手な人は合わないのでご注意を。

読み進めていくと物語の方向が様変わりし意外な所へ着地する内容でした。ミステリーとしてそういう物語だったのかと繋がりを楽しむこともできました。そしてこれは犯罪を描きながら、家族や愛情を描かれていると感じた次第。ちょっと表現が悪くて恐縮ですがB級映画で当たりを見つけたような面白さを感じた作品でした。
リズム・マム・キル
北原真理リズム・マム・キル についてのレビュー
No.613: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(3pt)

そして、よみがえる世界。の感想

表紙とタイトルに惹かれて購入。表紙のイラストが綺麗。
期待値が高かった為か、作品との相性が悪かったのが正直な気持ちです。

身体を動かす事ができない身体障碍者が脳(思考)で操作可能なデバイスにより介護ロボットを動かして自分自身を介護するという、近未来的な世界観と技術は面白く読めました。仮想現実や医療を交えたエンタメ作品です。

正直な所、設定上の問題かもしれませんが、他のSF作品や有名どころのアニメで見知っているような設定が多く感じられました。そして悪い事に本書の中盤までは非常に分り辛く教科書を読んでいるような気分で惹きこまれませんでした。相性の問題かもしれません。中身が把握できない説明主体の物語が展開されて、それを読まされたような気分です。それでいてどこかで見知っている設定達なのでそのイメージで補いながらの読書でした。
中盤から物語が稼働し始めてよくなるとはいえ、その時点では気持ちが離れてしまった読書でした。

※その他売り方について小言っぽくなりますが思う事を。
帯には【『同志少女よ、敵を撃て』につづくアガサ・クリスティー賞大賞受賞作】としてPRされています。版元の気持ちを察する印象です。本書の物語を純粋にPRするのではなく、わざわざ『同志少女』の名前を載せて、アガサ・クリスティー賞の自社の賞をPR。作品の帯がこれでは受賞者にちょっと失礼ではないでしょうか。作品内容からSFの読者を増やしたい意図も含まれているのだろうなと感じた次第。アガサ・クリスティー賞はまた迷走してしまったように感じました。
そして、よみがえる世界。
西式豊そして、よみがえる世界。 についてのレビュー
No.612: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

時空犯の感想

タイムループが発生する特殊設定ミステリー。
タイムループものとして特徴的な要素は主人公だけがループする話ではなく集団でループに巻き込まれる点です。巻き戻しを認識できる薬を飲んだメンバー達がループの事象を認識し、何がどういう理由で発生しているのか皆で解決していくようなお話。

読書前は報酬に釣られたデスゲーム的な殺伐とした話を予感していましたが、そうではなく登場人物達は仲間として協力して問題解決へ向けて動いている雰囲気。前向きな気持ちが良かったです。

読後感としてはミステリーというよりSFに近い印象。それでいて主人公とヒロインの恋愛模様も加わった物語としてよい展開。印象としては前述の雰囲気ですが、ちゃんとタイムリープ要素を活用したミステリーともなっており、総じて面白く読めた物語でした。

あと登場するオバちゃんがめちゃめちゃ良いキャラ。作品内の雰囲気を明るくし、難しい話をオバちゃんに分かるように優しく説明されるという補助がナイス。面白かったです。
時空犯 (講談社文庫)
潮谷験時空犯 についてのレビュー
No.611: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

逆転美人の感想

素晴らしい作品でした。SNSや書店で盛り上がっている本書。
ただ帯のテキストが問題で残念なのでそれを目にしない&何の予備知識もなく手に取る事を推奨します。

物語はある美人の不幸話を主体とする為、雰囲気はイヤミス模様。ベースの物語がどんよりする内容なのが好みの別れ所。

これ系統の前例は有名作がいくつかあります。ただ本書は前例作の弱点を解決しており、それを行う事に必然性がある物語となっているのが素晴らしい。この系統の進化を感じた一冊でした。

▼以下、ネタバレ感想
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逆転美人 (双葉文庫 ふ 31-03)
藤崎翔逆転美人 についてのレビュー
No.610: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ハートフル・ラブの感想

著者のタイトルに釣られて手に取りました。
まず手に取る読者層は『イニシエーション・ラブ』『セカンド・ラブ』といった流れを期待して手に取ると思います。本書は7つの短編集となっており、どの作品も仕掛けが施された作品となっており楽しめました。

短編集としての作品の並びが良かったです。
冒頭は日本推理作家協会賞候補となった短編『夫の余命』。まずはこの作品で本書の期待に応えてきました。
続いて『同級生』は著者の他の本を知っているとこれ系できたかという思いと、これもアリな作品集なのね。と思い当たる事でしょう。中盤の『なんて素敵な握手会』は4ページのショートで、サクッと仕掛けを楽しめて気分転換になった作品で巧いです。そこから頭を使う作品を配置していき、最後は書下ろしの『数学科の女』。
個人的にはこの最後の『数学科の女』が本を手に取った時の期待に沿っていて好みでした。
作品並びの始まりと終わりが良かった構成なので読後感は満足で本書を閉じる事ができました。

『数学科の女』について。好みではあったのですが、似たような真相の純愛を用いたミステリを他で知っていた為、結末が読めてしまったのとそれを超えるものではなかった為、印象が薄かったのが正直な気持ち。ただ短編として最小限の設定で構築されておりイヤミスとして楽しめた作品でした。

タイトル『ハートフル・ラブ』の名づけが巧く、それで統一された作品集として良かったです。

▼以下、ネタバレ感想
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ハートフル・ラブ (文春文庫)
乾くるみハートフル・ラブ についてのレビュー
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(6pt)

スイッチ 悪意の実験の感想

2021年度のメフィスト賞受賞作。メフィスト賞らしく変わった趣向の作品で楽しめました。

高額なアルバイトの内容はスマホにインストールしたスイッチを押しても押さなくても毎日1万円が手に入り、1カ月後にはさらに100万円が支給されるというもの。誰かがスイッチを押したら報酬がなくなるわけではない。ただしスイッチを押すとある家族が破滅するという内容。"悪意"の存在についての実験です。

あらすじがデスゲームのような内容だったので興味を引かれて手に取りましたが、中盤からは違った物語が展開された印象でした。世の中の多くのレビューの声にある通り、心理学から善悪や宗教に関する考え方が作品内に色濃くでてきます。個人的には思っていた作品と違うイメージでしたが本書の個性として面白く読めました。読み易い文章であり、考え方や説明が理解しやすかったのも好感でした。

メフィスト賞らしい広義のミステリーの物語として味わいました。

▼以下、ネタバレ感想
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スイッチ 悪意の実験 (講談社文庫)
潮谷験スイッチ 悪意の実験 についてのレビュー
No.608: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

赤ずきん、ピノキオ拾って死体と出会う。の感想

多くの人に知られている赤ずきんを主人公&探偵役としたシリーズ2作目(著者の童話シリーズとしては4作目)。シリーズ順序は関係ないので本作から読んでも大丈夫です。

皆の知っているキャラクターを用いる事で読者を得やすくなっている作りを感じました。
今回扱われる題材は『白雪姫』『ハーメルンの笛吹き男』『三匹の子豚』。そしてタイトルにある『赤ずきん』『ピノキオ』。これらのキャラクターを混ぜ込んで作られた著者流の童話となります。個人的にはミステリというより大人向けに再構築されたオリジナル童話という印象でした。
木でできた人形の右腕を拾った事から始まり、赤ずきんはピノキオの部品探しをする先々で各童話の世界に入りそこで事件に遭遇するという流れです。

元の童話とは全然違う話でありキャラクターも多く出てくる為か、話がわかりやすそうで分り辛いという変な気持ちの読書でした。キャラクターは分かるけど、キャラがどこで何をしているのか情景が浮かび辛い物語だったのが正直な気持ちです。各物語の事件概要が把握し辛いのですが、結末側は読み易く描かれているので何が起きていたのかが後でわかるという読後感でした。
良かった点として各物語は前作よりもちゃんと童話をモチーフとした仕掛けがあるミステリーとなっていたのが好感でした。ただ童話の世界なので魔法のような現象で何でもありな世界になっていて、ミステリとしてはルール説明不足な気がするのが難点に感じました。

話の構造として『ハーメルンの最終審判』が好み。物語の背景や各人の行動の意味が明かされる物語として面白かったです。
赤ずきん、ピノキオ拾って死体と出会う。
No.607: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

シンデレラ城の殺人の感想

凄く楽しく好みの作品でした。※点数は大分好み補正で加点。

作品雰囲気はライトノベル寄りの法廷ミステリ。
『シンデレラ』のパロディで、ゲーム『逆転裁判』のオマージュを感じた童話題材のミステリ×法廷ものです。
『逆転裁判』が好きな人は特にオススメ。裁判中の展開がそのままです。

シンデレラの設定を用いる事で登場人物や雰囲気を説明する必要がない為すんなり物語に入れます。始まりは魔法使いにドレスアップされて舞踏会へという定番の流れ。王子の私室に訪れたシンデレラが目にしたのは王子の他殺死体。その場に訪れた兵士に現行犯逮捕され緊急的な臨時法廷で裁かれる事になりこのままでは死刑は確実。無罪を証明する為にシンデレラは推理の力で裁判に挑むという展開です。

ページの半分以上は法廷劇。
証人の証言から手がかりやおかしな点を指摘していくたびに事件模様や人物像が変わっていくのが面白い。魔法が存在する世界なので何ができて何ができないのか、ちゃんとロジカルな推理で真実が明かされていくのが良かったです。

これはもう知っている人が読めばキャラ違いの『逆転裁判』です。流石に「意義あり!」のセリフはでませんが、裁判長とのやりとり、証拠をつきつけたり証人をゆさぶったり、証人が発言する度に新たな展開が起きる作りがそう感じます。読書中、頭の中では追求BGMが流れていました。。人によっては真似事という評価になりそうなのですが、個人的には面白い所を巧く取り入れたオマージュに感じました。何よりも真似だけでは終わらずちゃんと物語として面白い作品になっている為です。結果が良ければ細かい事は気にならないという感覚。

変わった雰囲気のシンデレラも好感。継母や姉達と仲が良い設定もよく、作品全体で嫌な気持ちになる点がない。純粋に楽しい作品が読めたという気持ちで大満足でした。
シンデレラ城の殺人 (小学館文庫)
紺野天龍シンデレラ城の殺人 についてのレビュー
No.606: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

あらゆる薔薇のためにの感想

特殊設定もの作品で薔薇の表紙に惹かれて手に取りました。

あらすじや帯に記されているのですが、"ミステリ"ではなく"ミステリー"と書かれており、これはあえて表記していると感じる読後感。謎解きものではなく、個人的に感じたジャンルはSFの医療小説です。

物語は「オスロ昏睡病」と呼ばれる難病にかかると昏睡状態になり記憶を失ってしまうという病気がある世界。ただ本書は冒頭で既にその病気の解決策が見つかっていて、その治療の副作用として身体に薔薇のような腫瘍が生まれるという設定。その腫瘍を持った人々が次々に襲われるという事件が起き、それの調査からミステリーが始まります。

まずこの世界の設定を序盤で読み易く展開されるのが良かったです。どういうルールが適用されているのか説明が巧いので苦なく読み進められました。著者は物語の説明がとても巧いです。複雑な世界を分かりやすく伝えていると感じる所が多々ありました。

先程医療小説と挙げた理由は、事件の謎よりも腫瘍を基点とした物語をメインに感じた為です。腫瘍の謎もありますが、治療方法や腫瘍を持った人々の交流など、空想要素を取り除けば身近にないめずらしい病気の医療物語の印象です。薔薇や腫瘍などの設定がミステリとして必須アイテムというわけではなく物語の表現や演出寄りに感じた次第。

SFの医療小説+青春ものの物語として手に取ると良いと思います。
著者の作品は初めてだったのですが、読みやすく物語の世界が独特で気になる為、他の作品も手に取って見ようと思いました。

▼以下、ネタバレ感想
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あらゆる薔薇のために (講談社文庫)
潮谷験あらゆる薔薇のために についてのレビュー

No.605:

QJKJQ (講談社文庫)

QJKJQ

佐藤究

No.605: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

QJKJQの感想

2016年度の江戸川乱歩賞受賞作。
乱歩賞は新人の賞ではありますが、著者はペンネームを変えての再デビューなので他の乱歩賞のような初々しさはなく、個性的な作品でありかつ異質を放っている作品だと感じました。

猟奇殺人鬼の一家に生まれた主人公。自身も父も母も兄も殺人鬼。ある日部屋で兄の惨殺死体が発見され、しばらくすると消失する謎が発生する。殺人鬼として狙う加害者側から一変、主人公は被害者側となり、死体消失の謎によるミステリ模様が始まるする流れ。
本書を手に取る前のイメージは、猟奇殺人ものなのでドロドロなグロなものを想像していましたが、そういう気分にさせるのは序盤ぐらい。主人公の家族に何が起きたのか?という謎を追う流れで、本筋は"殺人"について、歴史、考察、哲学などの思考を巡らす物語。

なんとなく読んでいて、内容は違いますが夢野久作の『ドグラ・マグラ』を感じました。「ゴオォゥン――ゴオォゥン……」とか、現実の話なのか虚構や幻想の話なのかごちゃごちゃになるような展開。奇書と感じるのも分かります。

本書は個性的な作品。一つの物語として完成されています。
ただそれが好みかどうかは人それぞれでありまして、個人的にはあまり楽しめなかった作品でした。
QJKJQ (講談社文庫)
佐藤究QJKJQ についてのレビュー
No.604: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

忌木のマジナイ 作家・那々木悠志郎、最初の事件の感想

シリーズ3作目。本作も面白かったです。
シリーズの特徴は怪異が存在する事を前提とし、何が、何故起きるのか?をミステリ模様で展開されるのが面白いシリーズ。
本作の怪異は『崩れ顔の女』という、顔を見たら失明し死に至る怪異。一般に有名な『口裂け女』に近いイメージを設定して読書が怪異を想像しやすくしている点がよく、非現実的なオカルトものなのに読み易かったのが好感です。

シリーズ3作目にして、共通キャラクターである那々木悠志郎の最初の事件が舞台。
シリーズものとして大事な過去編を扱った物語。作品の良し悪しでシリーズの今後が決まるとも言われそうな設定ですが、見事に面白い物語が描かれており個人的に満足でした。単純に過去の回想を描くのではなく、作中作を用いて描かれる過去は、作品内の読み手と読者がシンクロして徐々に怪異に飲まれつつ、また明かされていく展開。これはオカルトとミステリの見事な融合だと思いました。

シリーズものとして、怪異だけでなく登場人物の那々木悠志郎と他キャラクターの人物設定に深みが増しています。
過去エピソードで登場したあのキャラは今後の作品に登場するのかなと、そういう楽しみも増えました。

▼以下、ネタバレ感想
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忌木のマジナイ 作家・那々木悠志郎、最初の事件 (角川ホラー文庫)
No.603: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

真相は読者が考えて解く仕掛け本

『いけない2』が話題なので1作目を予備知識なしで手に取りました。
普通のミステリとは違う為、これは少しどういう本か予め知ったうえで手に取るとよいです。

ネタバレなしであらすじの範囲で説明しますと、各短編の最後の1ページに写真があり、その写真を見ると真相が推理できるという仕掛け本です。注意点としては写真を見れば全てが理解できてあっと驚くような快感が得られるわけではなく、あくまで【最後に推理のヒントが得られる】作り。最後の得られたヒントを元に、もう一度読み直しながらセリフや状況を分析して真相を自分で解き明かす構造です。ひと昔前のゲームブックを思い出しました。
個人的な難点は、最後にヒントが得られる構成の為に初読では叙述トリック作品のように何かが隠された物語の描き方で内容の把握が難しく、かつ読みづらく感じたのが本音です。

本書は自分で推理をしたい&問題を解きたいという人にオススメな本。
真相は分からずモヤモヤする人には不向きです。この点を踏まえて手に取ると良いでしょう。

物語の雰囲気は初期の頃の道尾秀介の作風で、ちょっと暗く嫌な気持ちにさせられました。真相がわかっても気持ちが晴れるわけではなく、むしろ気分はどんよりと沈むような気持です。

真相がわかないとモヤモヤする為、何度か本を読みなおしました。2章がスッキリしませんが最終章および1,3章はこういう話だなと理解できたような読後感です。個人的には手に取る気持ちの準備不足とタイミングが悪かったのもありますが、謎も物語もスッキリしない気持ちが少し好みに合わずでした。
著者作品をみると『いけない2』や『N』のような、本として意味がある事や読者を楽しませる仕掛けを考えた作品でしてとても好感でした。自分で謎を解きたくなったら『いけない2』を手に取って見ようと思います。

▼以下、ネタバレ感想
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いけない (文春文庫)
道尾秀介いけない についてのレビュー
No.602:
(7pt)

金色機械の感想

2014年度の日本推理作家協会賞受賞作品ということで手に取りました。読んでみた所、"推理作家協会賞"の推理ものとしてではなく"エンターテイメント"としての面白い物語としての受賞を感じました。
時代は江戸。金色様という謎の存在(ロボット)。相手の殺意が読める男。手で触るだけで殺せる女。不思議な設定が織りなす壮大な物語。

普段なじみがない小説でして、面白く読めたのですが何がどう面白いかが伝えづらく、異世界の物語に呑み込まれたという感覚でした。知らない世界を体験したような読書。
江戸時代にいるロボット、不思議な能力者達、そこに生きる者それぞれの物語が交差して繋がる様。派手さはなくて、なんとなく表紙の雰囲気にあるどんよりと灰色の物語。"金色機械"という文字も金にせず白文字なのが良い。物語中も金色様だけが何故か色を持ったような存在を感じました。

日本推理作家協会賞ということで、ミステリを期待すると違う作品。物語としては不思議な体験で面白かったです。
金色機械 (文春文庫)
恒川光太郎金色機械 についてのレビュー
No.601: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

invert II 覗き窓の死角の感想

シリーズ3作目。今回も面白かった。 ☆7(+1好み補正)
本シリーズは1作目から順番に読むことを推奨します。
本書は『生者の言伝』と『覗き窓の死角』の2編からなる中編集。どちらも倒叙ミステリです。

『生者の言伝』は倒叙ミステリドラマの古畑任三郎の一話目『死者からの伝言』のタイトルオマージュ。
犯行が行われた洋館に豪雨で立ち往生した翡翠と真が訪れるという始まり。この導入は古畑任三郎と合わせてありますが中身は別物。
倒叙の作風は行き当たりバッタリな犯人の慌てふためく様が楽しめるユーモアミステリ調。ユーモア&ドタバタのまま終わるかと思いきや、しっかり手がかりを得て推理して真相に到達する様が見事でした。明かされていない問題の癖の解答についてはネタバレで後述。

『覗き窓の死角』
「翡翠ちゃんかわいい」と言ってる場合じゃなく感じる程、城塚翡翠の内面を掘り下げた物語でした。
※これも次回以降に向けて読者をミスリードさせたキャラ作り……と言われたらショックですが(汗)
倒叙ミステリなので犯人は明確なのですが、どのような犯行だったのかは伏せられているのが面白い。提出されている手がかりを元にロジカルに推理した結果、犯行方法が明らかになるのが見事でした。倒叙ミステリというより本格的な倒叙推理小説であり、推理をする楽しさが堪能できました。

どちらもミステリとしての楽しさは然ることながら、キャラクターの良さ、翡翠と真のユーモアあるやり取りの緩急が面白く読んでいて楽しい読書でした。続編も楽しみです。

▼以下、ネタバレ感想
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invert II 覗き窓の死角
相沢沙呼invert II 覗き窓の死角 についてのレビュー
No.600: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

#真相をお話ししますの感想

日本推理作家協会賞受賞の短編『#拡散希望』を含む短編集。
ネットやSNSなど、現代要素を活用したミステリでとても面白かったです。

短編集として5つの物語がありますが、個人的に全て面白く読めました。
人に薦める時の懸念点としては、真相がわかりやすくて結末が見えすぎる事です。人によっては驚きがなくて物足りないという感想になると思いますが、個人的には良い方向で感じてまして、現代的な内容を扱った本書はミステリ初心者や本をあまり読まない人にとても刺さる内容だと思いました。
タイトルに組み込まれているハッシュタグ然り、若者を対象としたSNSでバズリ易い本であるとも感じます。最近の若い読者はネタバレを許容する傾向があり、先に真相を知って安心してから物語を楽しむ層が一定数いる為、そういう層にも好まれる本という姿を感じました。

『惨者面談』『ヤリモク』『パンドラ』の3作品は結末が読めやすいのでそこにどう導くのかを楽しみました。
『三角奸計』はリモート会議をネタとしたミステリ。これは現代的な仕掛けで面白い。
『#拡散希望』は第74回日本推理作家協会賞の短編賞受賞作品であり、その名に恥じない見事な真相の短編でした。この仕掛けは過去の作品や映画にもありますが、現代要素が効いていて見事な伏線回収と個性を生み出した作品でした。

本書は良い意味で現代要素を取り入れたミステリとなりますが、悪い意味では賞味期限があります。
SNSやアプリやネットの状況が50年後には変わったものになるからです。ただでさえITの状況は1年で移り変わりが早い為、本書で使われている内容がすぐに古臭くなってしまう事でしょう。
未来における名作として名を残すのは難しいかもしれません。ただ、2020年代の今のネタを取り入れた短編ミステリとしては丁度良いですし、巧く考えられた作品集ですので早めに読書推奨な作品です。
#真相をお話しします (新潮文庫 ゆ 16-3)
結城真一郎#真相をお話しします についてのレビュー
No.599: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

猫は知っていた 仁木兄妹の事件簿の感想

新装版が出たので改めて読書。

1957年の江戸川乱歩賞受賞作。本作が最初の公募作品の受賞作となります。

日本の推理小説の歴史における転換期となった作品とも言われており、本書が世に出るまでの探偵小説は陰惨で暗い作風が多く読者が少数だったのが、本書の柔らかい文体と兄妹の探偵役を描く様が大衆にヒットして探偵小説のブームを築いたとされています。
ブームとなった背景には著者の境遇も少なからず影響していると感じます。それは幼い頃から病気で寝たきり状態、学校教育は受けられず兄から勉強を教わり外の世界を読書で身に着けた事です。最初は本名で児童文学を書きそれから本書の推理小説が生まれました。本書が生まれた時も寝たきり状態でしたが、本書のヒットにより手術が受けらえるようになり、さらに歩けるようになったというエピソードもあります。

この背景をここで書いたのは、知っていると本書の印象が変わったからです。
実は自分が大分昔に本書を読んでいるのですがあまり良い印象に残っていませんでした。著者の事を知り改めて再読すると、作品内の二木兄妹のモデルが著者自身であり優しく頼れる兄の存在や、病院が舞台、児童文学のような柔らかい文章、海外黄金期におけるエラリークイーンやアガサクリスティのような事件の謎とトリックと解明の仕方などなど、本書の見え方が大きく変わりました。
本書単体の物語だけ見るとさすがに70年前の作品なので文章やミステリの仕掛けに古さを感じてしまいますが、上記のような著者と日本の推理小説の背景を感じるという意味では外せない一読の価値がある作品でした。
猫は知っていた 新装版 (講談社文庫)