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egut さんのレビュー一覧

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レビュー数773

全773件 41~60 3/39ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.733:
(7pt)

図書館に火をつけたらの感想

図書館を舞台としたミステリ。
ミステリ要素となるのは、図書館で起きた火災事件と、その焼け跡から発見された焼死体、そして遺体が見つかった地下書庫における密室要素です。図書館関係者への聞き込みを主人公の刑事が担当するという王道の構成であり、正統派のミステリとして楽しめました。さらに現代では珍しくなった「読者への挑戦」付きの推理小説なのが好感でした。これがあるだけで、手がかりや推理がしっかり考えられて作っていることが伝わってきて、作者の意気込みを感じます。

本作は単なる謎解きだけでなく、「図書館」という場所に関わる人々の思いや姿が描かれていたのが印象的です。不登校の生徒の居場所となっていたり、地域の交流の場となっていたりと、利用者の視点だけでなく、運営側や司書、職場環境に至るまで、図書館を軸にした多面的な描写がなされていました。
事件やトリックに派手さはなく、やや地味に感じる面もありましたが、図書館という舞台とミステリ要素がしっかり結びついており、全体としてきちんとまとまった作品だと感じました。推理小説を読みたいけど古い作品が苦手という方や、ミステリ初心者にオススメしやすい作品です。

▼以下、ネタバレ感想
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図書館に火をつけたら (宝島社文庫)
貴戸湊太図書館に火をつけたら についてのレビュー
No.732: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

よって、初恋は証明された。 デルタとガンマの理学部ノート1の感想

学園を舞台とした理系の「日常の謎」の物語。ミステリー要素は控えめで、科学を取り入れた青春小説です。
ミステリーの要素は控えめでしたが、作品全体に漂う心地よさや、物語の魅力がとても好みに合いました。高校生や学園ものが好きな方には、おすすめな一冊です。

まず、登場人物に嫌なキャラクターがいないのが良かったです。基本的に皆いいやつで、読んでいて気持ちがよい。理系の高校が舞台ということで、科学や数学に関する会話が登場しますが、その雰囲気も楽しく味わえました。物語は4月の入学から始まり、新入生と先輩たちの出会い、部活の勧誘といった、学園ものの王道の展開をたどります。そこに、理系ならではの「日常の謎」が加わり、独自の魅力を放つ作品となっています。

本書は『理学部ノート1』というタイトルからシリーズ化を見据えた作品のようですが、内容自体は本書単体でしっかり完結しています。あらすじ冒頭で高校生活のある結末を描いてますので完結している状態です。勝手な想像ですが、完成後に作品の出来が良かったため、出版社がシリーズ化を決めたのではないかと思うほどです。それほど本書単体でも満足感のある素敵な物語でした。またイラストも綺麗で可愛らしく作品の雰囲気にぴったりで、大事なシーンがより印象的に映りました。なかなか力の入ったシリーズになりそうな気配。次作も楽しみです。
よって、初恋は証明された。 -デルタとガンマの理学部ノート1- (電撃文庫)
No.731:
(5pt)

二人一組になってくださいの感想

タイトルや雰囲気作りは抜群に面白かったです。ただ、勿体なさを感じた作品でした。

『二人一組になってください』という、学校で馴染みのある言葉をタイトルにしたセンスがとても良いです。卒業式直前のデスゲームのルールも、"誰とも組めなかった者は失格" というシンプルで分かりやすく、読者が手に取りやすい作品で巧いなと思ったのが最初の感想でした。作品序盤の出席名簿やカースト表を見せる演出も好感で期待が高まりました。
文章も読みやすく、デスゲーム特有の理不尽なペナルティが発生する序盤のパニック感や心理描写も良いので最後まで一気読みで、面白く楽しめた……はずなのですが、なんというか結果は何も残らない作品でした。

デスゲームものとしての感想ですが、頭脳戦要素は皆無でした。最初に示されたルールから読者なら思いつきそうな戦略もまったく描かれず、登場人物たちは場の流れに身を任せるばかり。考え方の刺激や登場人物の悔しさも伝わらず、ただ死んでいくだけの展開が続いたことで、死の重みが軽くなってしまっていたのが残念でした。結果として大事なテーマや内容の印象が残りにくく、達成感や結末への感情移入もしづらかったため、終盤に至ってもどこか醒めた視点で物語を見てしまいました。

テーマ性について。
「いじめ」がテーマという話が序盤で示されているのですが、正直なところ、根底に「いじめ」があったという事は最後まで隠しておいた方がよかったような気がします。物語の導入で、いじめがあったからデスゲームが行われたと提示されるので、読者にいじめについて考えさせる狙いがありそうな気がしますが、それがあまり伝わってきませんでした。というのも、描かれているエピソードの多くは思春期の女子高生たちの悩みに重きがある為、「いじめが理由でデスゲームに巻き込まれた」という必然性に共感しづらかったからです。むしろ、最初は「なぜデスゲームに巻き込まれたのか?」という理不尽さと緊張感を前面に出し、最後に「実はいじめが背景にあった」と明かすほうが、より印象に残る展開になったのではないかと思います。

文章や雰囲気はとても読みやすく魅力的だったのに、デスゲームといじめのテーマの描き方がチグハグで、もっと良くなりそうな惜しさを感じる作品でした。女子高生たちの空気感や、生徒たちの悩み、友人関係の各エピソードはそれぞれ面白かっただけに、最後は何も残らなかったのが正直勿体ない作品に感じました。

最終章の最後の2行みたいな要素がもっと全編に欲しかったです。

▼以下、ネタバレ感想
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二人一組になってください
木爾チレン二人一組になってください についてのレビュー
No.730: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

サロメの断頭台の感想

読後に知りましたが、シリーズものの3作目でした。
ただ、メインの登場人物が続投してる程度なので本作単体で読んでも大丈夫です。

好みの評価に関しては非常に悩ましい点数でした。
480ページのボリュームの中、残り数十ページの終盤までは何が起きているのか、何が大事な話なのかよく分からず退屈だったのが正直な気持ちです。読書中の気分は3~4点ぐらいがホンネ。面白くない。色々と事件が起きているのですが、把握したり真相を読み解くのは難しいでしょう。ただ、全ての理由や繋がりや真相が明かされる終盤は圧巻であり驚かされました。これまでのエピソードの数々が大いなる伏線となり、意味も変わり真相に帰結するのです。これは本当に凄かった。本格ミステリとしての鮮やかさを久々に体験しました。そして最近の作者の作品の持ち味となる後味の悪さも良い意味で健在。真相と心に残る読後感は9~10点の傑作でした。なので平均でこのぐらいの点数で。

物語の読み物としては好みに合わなかったのですが、ミステリとしては傑作です。
サロメの断頭台
夕木春央サロメの断頭台 についてのレビュー
No.729: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

禁忌の子の感想

2024年度の鮎川哲也賞受賞作品。
物語は救急医の元に搬送された溺死体が主人公に瓜二つであった事から始まる。彼は何者なのか? なぜ同じ顔をしているのか?ミステリとしての謎が魅力的であり、文章も読みやすく没入感がある作品でした。

作者は現役の女性医師である方。その為か医療現場の雰囲気や描写が専門的で面白く刺激になりました。特に救急現場のシーンは臨場感があって引き込まれました。そして作者が女性医師というのは、本書の評価において重要な要素の一つになっていると感じます。世のレビューにも多くみられますが、ミステリーとしての物語を作る為か、倫理感が独特だったり、嫌悪されるであろう要素がいくつか見られます。でもこの作者なら、理解した上で書いているのだと納得できる為です。一般的な男性作家だったら非難を受けていたかもしれません。予備知識がない方が楽しめる作品なので、どういう要素なのかはネタバレ側で後述しますが、小説というフィクションだから描ける社会問題を内包した作品です。
タイトルの作り方が巧みで、意味合いや印象も抜群でした。事件の結末や探偵役のキャラクターも魅力的で好みでした。後味は好みが分かれるかもしれませんが、強く印象に残るのは大きな魅力。シリーズ化されるなら次作も読んでみたいと思わせる作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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禁忌の子
山口未桜禁忌の子 についてのレビュー
No.728: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

全員犯人、だけど被害者、しかも探偵の感想

興味が湧くタイトルが一品。それを実現させる作品作りの意気込みが好感です。
ただ難点は期待値が高すぎるものになる為、「思っていたのと違った」と感じ、世の中の評判は控えめになってしまうのは避けられないかなと思いました。個人的には、こうしたテーマを持って作られている作品は好きです。

物語は過去の事件の再調査もの。
過去の事件現場を模した場所に集められた7名。「犯人以外は毒ガスで殺される」というデスゲームに巻き込まれる流れ。生き残るためには「自分が犯人だと認められなければならない」というひねりの効いた設定が面白い作品です。
自分が犯人になるために、事件のトリックや背景を自供する。しかし、その主張に対して他者が探偵役となり、矛盾を突いて反論していく。そんな巧妙な構造が展開される物語です。タイトルに偽りなく、変わったミステリーとしての面白さがありました。
一方で悩ましかったのは、真実か嘘なのかに関係なく「犯人にされるためのエピソード」が語られるため、内容の把握が難しく興味を持ちにくかった点です。後で覆されるかもしれない嘘の物語を、ちゃんと把握して読もうとは無意識で思えなかったからです。何か印象に残るトリックやキャラクターなど魅力が欲しかったのが正直な気持ち。内容ではなくタイトルが一番目立ってしまったのが残念に感じました。

似ている雰囲気のアニメやミステリー系のゲームやマーダーミステリーなどが思いあたるのですが、それらは強烈な個性のキャラやイラストで彩られ、面白く引き立てているなと改めて感じました。ライト系なら何でもアリな設定が誤魔化せますし。本作はリアル寄りのミステリに作者が挑んだという結果として意気込みは好感なのですが、やや地味に終わってしまったのが惜しく感じました。
全員犯人、だけど被害者、しかも探偵
No.727:
(7pt)

密室偏愛時代の殺人 閉ざされた村と八つのトリックの感想

シリーズ3作目。単体では楽しめないのでシリーズを読んできた人向けです。
本作は、通常のミステリでは扱いづらい非現実的な密室トリックを次々と繰り出す作品です。
作中では登場人物のセリフを通じて、読者の心情を代弁するような呆れた反応も示されており、それも作者の計算のうちでしょう。
細かい現実性にとらわれず、純粋に奇想天外なトリックを楽しむ作品です。
そうした視点で読めば、堪能できます。

トリック以外の要素には特に重きが置かれていません。
登場人物の名前も分かりやすく記号的で、ストーリーや舞台もあくまでトリックを引き立てるためのもの。
物語として何か深く感じ取るような内容ではなく、純粋に仕掛けを楽しむ作品です。

内容とは別に、2作目から急に値段が上がっている点が残念でした。ファンなら購入することを見越した価格設定ですし、それ自体は理解できます。ただ本作はトリック重視でストーリーの面白さを求める作品ではないため、価格に対してやや割高に感じてしまうのも否めません。とはいえ、不思議と次回作も手に取ってしまう魅力があるシリーズなのが悩ましいところです。
密室偏愛時代の殺人 閉ざされた村と八つのトリック (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
No.726:
(7pt)

滅茶苦茶の感想

コロナ禍を背景に、他人の転落人生を描いた作品です。
複数の視点で展開される群像劇となっており、場面が適度に切り替わるため、テンポよく読めて最後まで飽きることなく楽しめました。
群像劇の構成は、仕掛けミステリーを狙ったものというより、読者がスムーズに読み進められるよう工夫されたものです。なおミステリー要素はあまりありません。

転落人生や不幸を描いた作品なので、あまり気持ちの良い読書ではないです。なのでそういうのが苦手な方は事前にご注意を。

個人的に本書で感じた感想は、コロナ禍で孤立した人々への救済物語です。
コロナ禍で人との接触が減り、一人で孤独や不幸を感じていた人に、他人の強烈な不幸を描いた物語を届けることで、共感や「自分はまだマシ」と感じたり、少しでも前向きに生きるきっかけを与えたい。そんな思いも込められているように感じました。
さらに、不幸に陥る人物たちのパターンや、浅はかな思考が描かれる様子は、ある意味で半面教師的な教訓としても受け取れる部分があります。そのため、若いうちに読んでもらいたい作品とも思えました。
滅茶苦茶 (講談社文庫)
染井為人滅茶苦茶 についてのレビュー
No.725:
(7pt)

リカの感想

ネットでの出会い系トラブルを題材とした現代ホラー作品です。
インターネットが一般に普及し始めた2001年の作品であり、当時の時代背景を巧みに取り入れた作品だと感じます。

ネットや出会い系といった要素や設定自体は特に特別なものではありませんが、読ませる文章に引き込まれた読書でした。
今読んでも古臭さを感じさせない面白さには驚きました。携帯やネット環境などの話は昔のものですし、ネットトラブルを用いた作品は世に沢山あり見慣れてしまっているのですが、古臭さを感じず惹き付けられます。なんといいますか、変に奇を衒わない王道のホラーとして無駄のない話構成で高い完成度を感じた次第。主人公やリカの人物像も現実にいそうなリアルさがあり、身近で現実的な怖さをジワジワ感じる魅力的な作品でした。

幻冬舎文庫版では、ラストに結末が追加された完全版となっています。この追加エピソードが、物語の結末をさらに際立たせており、ホラー作品としてよい後味でした。
シリーズ化されていますが、本作内に無理にシリーズ化を狙ったような伏線はなく、この一作目だけで無駄なく完結している点に好感です。
リカ (幻冬社文庫)
五十嵐貴久リカ についてのレビュー
No.724: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

少女には向かない完全犯罪の感想

幽霊となった完全犯罪請負人と、両親を殺された小学生・音葉。それぞれ個では無力だが復讐を目的に協力するバディもの。
古典ミステリへのオマージュが随所に散りばめられ、二転三転ではすまない多重解決模様の物語は圧巻でした。読後感も良く、ミステリ要素が満載の一作です。

作品としては素晴らしいのですが、個人的な事情から点数は控えめになりました。
本作品は文章密度が高く、450ページに及ぶ大ボリュームです。このボリュームを楽しめたかというと、前半は良かったのですが後半になるにつれて、内容の把握が難しく読書が少し大変に感じられました。小説の終わりどころを見極める難しさはあると思いますが、本作では「気持ちよく終わった」と思った瞬間にまだページが続いているという感覚を何度も味わいました。大長編作品が好きな方にとってはプラス要素かもしれませんが、個人的には少しマイナスに感じた部分です。
特に多重解決ものは、スピード感とともに一気に読むことで連続的な意外性の爽快感が生まれると思うのですが、本作では残りのページ数の多さからか、今読んでいる推理や結末は後で覆る「ダミー」案の間違えを読まされている感覚になってしまい、爽快感ではなく面倒な気持ちになりました。内容を把握する気持ちが得られず「読みたい」ではなく「読まなくちゃ」と使命感で読書していたような気持ちでした。

他にも、印刷された文章の密度や文字の大きさの影響か、「音葉」が「音楽」に見えてしまうなど、読書中に引っかかることが多く、気持ちが入りづらい読書体験でした。読みやすい講談社文庫化されたら改めて再読したいと思います。また文字サイズを調整でき、残りページ数が見えない電子書籍版で読むのも良さそうです。

本作は要素が盛りだくさんで面白いのですが、個人的にはどこか名作になりきれなかったような勿体なさを感じる作品でした。
少女には向かない完全犯罪
方丈貴恵少女には向かない完全犯罪 についてのレビュー
No.723: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

小説の感想

作者買いしている一人なので、新刊が出たことが素直に嬉しいです。点数には好み補正が入っています。

今回は「小説とは何か?」そして「読者」がテーマとなっている作品です。
作者はこれまでもテーマ性のある作品を多く手がけており、『know』では「知る」とは何か、『タイタン』では「働く」とは何かを描いてきました。本作では『小説』というタイトルで「読者」をテーマとして描かれています。『アムリタ』から『2』の頃は「創作」に関する作り手側の視点を描いていましたが、本作ではそれを受け取る側に焦点を当てた作品だと感じます。

本を読むことが好きな人ほど、心に刺さる言葉があるのではないでしょうか。
「そんなに本が好きなら自分で作らないの?」から受けるネガティブとか、「読むだけじゃ駄目なのか」という問いは、読み手側の心情を代弁しており、かつその問いに対して野﨑まど流の哲学的な考えが展開される物語です。今回も「解法」や「解放」となる考え方に触れることができとてもよかったです。小説に対する見え方が変わる一作でした。
小説
野﨑まど小説 についてのレビュー
No.722: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

木挽町のあだ討ちの感想

これは傑作!とても感動の読書でした。多くの方にオススメです。
技巧的な小説としての面白さ、人情ものとしての物語・内容の良さ、そしてミステリ模様、どれも素晴らしく個人的に大満足の作品でした。

2023年度のミステリのランキングで目にしていたのですが、正直なところ、あまりピンとこない表紙とタイトルで見逃しておりました。作者は歴史・時代小説で活躍されている方なのでミステリー作品としては意識していませんでした。しかし、世間の高い評価を知り、改めて注目して手に取ることにしました。

物語の舞台は江戸・木挽町。時代ものと人情小説の要素を持つ作品です。ミステリーとしては、過去の仇討ちを再調査するという構成になっています。
調査の過程では、関係者への聞き取りを中心に進むのですが、その一つひとつが単なる事件の断片ではなく、人情小説として深みのある短編のような物語として描かれている点がとても良かったです。さらに特徴的なのは、全編が関係者の独白のみで構成され、地の文が一切ない点です。再調査のために訪ねた登場人物たちのセリフだけで物語が紡がれるという、非常に技巧的な文章も見どころでした。

時代小説というと難しそうなイメージを持たれるかもしれませんが、本作は非常に読みやすく、その心配は不要です。全編が現代的なセリフで構成されているため、内容も把握しやすくスムーズに読めます。読みやすさの中にも、当時の文化や表現について学べる場面がしばしばあり、知的な楽しさも味わえる一冊です。さらに、物語にはユーモアや人間味あふれる温かさが多く描かれており、感情の振れ幅がとても豊かです。心に響くシーンが多く、読んでいて気持ちが良い内容なのも大きな魅力でした。

非常に満足度が高い作品で、万人におすすめしたい作品です。
木挽町のあだ討ち
永井紗耶子木挽町のあだ討ち についてのレビュー
No.721:
(8pt)

変な家2~11の間取り図~の感想

あまり期待せずに手に取った為か、予想以上にミステリーとして巧みに仕上がった物語に驚かされました。※誤解しないように言うと驚き系ではないです。
本作はシリーズ第2作目ですが、単体でも十分に楽しめます。1作目はYoutubeネタでミステリーとして小粒な感じでしたが、本書はミステリとしてしっかりとした読み応えがあります。
不動産ミステリーというユニークなコンセプトのもと、間取りを題材にした謎解きと推理が見事でした。間取りの不自然な違和感を手掛かりに、そこに隠された意図をホラーやドキュメンタリーの雰囲気で描き出しています。解釈がやや強引な部分もありますが、ホラー調の緊張感が物語に深く引き込んでくれるので、読書中は不自然なく読めました。

本作は短編集の形式で、11編の物語から構成されています。
どの物語も適度な長さで、謎解きと推理がテンポよく進むため、間延びすることなく最後まで飽きずに楽しめました。
そして間取りを用いた図解ベースの構成になっているため、普段読書をしない人にも楽しみやすい構造になっているのが作品の大きな魅力だと感じました。サクサク読める面白さがあります。

さらに、あらすじや帯に書かれている通り、11の物語を読むと、それぞれの繋がりが見えてくる構造が一品。
「実はこういう話なのではないか」、「あれとあれが繋がって……」と、最終章がなければ、深読み・考察系の小説としてネットで話題になれることでしょう。本書は最後にその構造の真相が丁寧に明かされるため、読後感も非常にすっきりします。

多くの伏線も然ることながら、『間取り』という題材を見事に昇華したミステリーが素晴らしかったです。
期待値としてはパズラー寄りの内容で、ストーリーの面白さよりも、間取りを活用した各物語の繋がりや伏線を楽しんだ作品でした。
一般読者を多く生み出した話題作になるのも頷ける作品でした。
変な家2 〜11の間取り図〜
雨穴変な家2~11の間取り図~ についてのレビュー
No.720: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

そして誰もいなくなるのかの感想

2023年度の鮎川哲也賞 優秀賞作。
死に戻りによって残された余命の中で事件が展開する、特殊状況下のミステリーです。
おすすめな読者はミステリーを読み"慣れていない"人向け。90年代のミステリーが盛り上がった頃の作品が味わえます。

個人的に悩ましく感じた理由は、設定が多いミステリーであるため、人物や物語の広がりが限定的に感じられた点です。ある程度ミステリーに慣れている読者にとっては、「こういう展開になるのだろう」と結末が予想の範囲内に収まりやすく、結末が見えることで設定作りの意図も逆算的に読めてしまいます。その結果、驚かされるはずが「やっぱりな」という感覚に落ち着いてしまうのではないでしょうか。また展開が強引に感じられる部分もやや気になる点でした。

本作を読んで感じたのは、90年代ごろの尖ったアイディアが詰まったミステリーを読んでいるような印象でした。見慣れてますが好きなので読んでいて楽しいです。そのため細かいことは気にせず、物語がどのような結末を迎えるのかという気持ちでの読書。ただ、結末の描き方も90年代当時に見られたネタに近く、なんというか本書はその当時に盛り上がった設定が集まってできた作品であると感じました。おそらく著者もこの時代のミステリーを愛する方なのでしょう。作者名"小松立人"は岡嶋二人(おかしなふたり)みたいな感じで、小松立人(困った人)と命名していますし、先人のアイディアを多く感じる内容でした。ポジティブに考えると好きなもので作られた作品です。

気軽に楽しめるミステリーとして、わかりやすい構造は好みでした。ただ真相の明かされ方やネガティブな思考の描写は、読んでいてあまり気持ちの良いものではなく、読後感が悪くなってしまいました。そのため人に薦めづらい点が残念でした。

▼以下、ネタバレ感想
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そして誰もいなくなるのか
小松立人そして誰もいなくなるのか についてのレビュー
No.719:
(7pt)

死に髪の棲む家の感想

今年の横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈読者賞〉受賞作。
ホラーとミステリが巧みに組み合わされた、まさに賞の趣旨にふさわしい作品でした。

文章や扱われる言葉がオカルトや民俗・伝承の要素を取り入れた雰囲気のあるもので、とても魅力的でした。髪の毛を題材にした怪異的なホラー小説として存分に楽しめた一方で、単なる怪異ホラーにとどまらず、密室や死体の入れ替わりといった要素を取り入れた本格ミステリ寄りの構成も見事でした。

怪異的なホラー小説というジャンルが現代でどれほど通用するのか気になるところではありますが、本作においては、閉ざされた富豪の屋敷という舞台設定が非常によく考えられていると感じました。広大な屋敷内で展開される物語だからこそ、多様な条件や空間の存在に説得力が生まれており、納得感のある作品に仕上がっていると感じます。少し気になった点を挙げると、終盤の展開で事件の全容がやや分かりづらく、スッキリとした読後感が得られない部分もありました。ただ、これは私自身の読解力の問題かもしれません。

ホラー×ミステリー作品として雰囲気もライトで読みやすい作品でした。シリーズ化するなら次作も読んでみたいと思います。
死に髪の棲む家 (角川ホラー文庫)
織部泰助死に髪の棲む家 についてのレビュー
No.718:
(7pt)

蛇影の館の感想

奇想の物語による特殊設定ミステリ。
ミステリの為の物語ともいえるし、物語の為のミステリともいえる一作です。複雑な構成なのですが、新しい物語の体験として心に残る印象的な作品でした。

物語は古来より存在していた人間に寄生する生命体『蛇』の物語。
『蛇』は無敵の存在。人に寄生し、その人の記憶を継承して人間に成りすまして生活している。宇宙生物的な感覚で捉えるとイメージしやすいです。
そしてこの蛇は死なない蛇。死んでも蘇る。ただし死んだり消滅する時にはそれなりのデメリットがある。現代では5匹存在しており、その5匹の「衣装変え」という名の人間の寄生先を変えるイベントで事件が発生するという展開です。

正直なところ「ミステリの謎を解く事を楽しみにする」という視点で読むには向かない作品です。
その理由は、物語があまりにも奇抜で現実的に考えられないからです。ただし、訳が分からないから楽しめないのかというとそうではなく、複雑で難解な内容ながらも、読んでいると不思議と面白いのが不思議な味。人間を殺したり乗っ取ったりと倫理感に欠ける部分もありますが、どこか青春ミステリーのような味わいがある奇妙な味わいでした。

特殊設定ミステリとしても適当な特殊性なのではなく、この物語の設定だから可能とするミステリが見事でした。
発想は物語が先なのかミステリの仕掛けが先なのかわかりませんが、絡み合った構造が非常に巧妙でした。

前半の1章・2章ぐらいまでは内容が把握しやすく楽しめたのですが、3章からはかなり複雑な事件模様となり、理解するのが難しくなりました。
ミステリの内容については「整合性がとれているのか」や「他に可能性がないのか」といった点を気にするのはやめ、あまり考えず物語の雰囲気を楽しむ読書となりました。

普通のミステリは読み慣れてしまっていて、新しい変わった特殊設定もの作品を求める方にオススメです。
蛇影の館
松城明蛇影の館 についてのレビュー
No.717: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(2pt)

口に関するアンケートの感想

SNSや書店で話題になっている一般書です。
内容はモキュメンタリー風のホラー。
手のひらサイズの60ページほどの小さな本で、不気味な表紙が特徴。立ち読み防止のためシュリンク加工され、価格は約600円。
口コミが多く、ホラーっぽい内容が話題で気になり手に取りました。

結果として、好みの問題ではありますが、個人的には本の内容だけでなく、本として商品化する出版業界、販売する書店の状況に対して危惧する残念な気持ちになる商品でした。

なんというか、この本は作品というより、「こういう商品」という感想です。
話の内容も短編1話分で、出来栄えが特に際立っているわけではなく既存のホラー作品の1つといったところです。このジャンルで活躍する作家さんが読んだら「この1話で600円も取れるのか」と少し複雑な気持ちになるのではないでしょうか。

製本の内容もなんというか同人誌のような質感で、しっかりとした本を感じられません。一度読めば終わりといった商品です。タイトルが「アンケート」なので、意味合いが違うのかもしれません。
出版社は児童書を多く手がけるポプラ社なので、仕掛け絵本のような感覚で捉えれば、そういうものかとも思えます。

SNSや口コミで注目を集めて売れること自体は素晴らしいのですが、これを本としての成功例と認めてしまうと今後文芸作品の内容や書店に並ぶ本がこのようなものばかりになるのではないかと、危惧するような内容でした。

学校で友人同士で、「不気味だよね~」、「こういう意味だよね」と、気軽に話を共有しながら考察して楽しむ用途としては有効だと思います。SNSで話題になったのもそういう背景だと感じました。
口に関するアンケート (一般書)
背筋口に関するアンケート についてのレビュー
No.716: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

伯爵と三つの棺の感想

フランス革命期を舞台にした歴史ミステリ。
当時の背景や環境が巧みに活かされた物語です。
読む前は「もしかして、カーの『三つの棺』に関連するのかな」と期待する方がいるかもしれませんが、そういった作品ではありません。

科学捜査が存在しない時代。犯人は襲撃現場を目撃されていたものの、容姿がそっくりな三つ子の1人だったため、誰が犯人か特定できないという事件です。しかし、物語はこれだけでは終わらず、二転三転する展開が見事でした。
また、時代の雰囲気を再現するため、作中には当時の服装や銃器の写真が挿絵として掲載され、立派な地図も添えられるなど、雰囲気づくりにもこだわりが感じられる点は良かったです。
ただ難点は、文体まで当時の雰囲気を模したためか、非常に読みにくく感じました。著者の作品はいくつか読んでおり、読みやすい作品もあることは知っているのですが、本書の序盤は読むのに苦労しました。

最後まで読み終えた結果、とても面白く、この時代背景だからこそ成立するミステリを堪能できた点はよかったです。
ただ、文章が合わなかった事と、その先の物語の展開がある程度予想の範囲内だったこともあり、少し好みとは違うものだったのが正直な気持ちでした。
伯爵と三つの棺 (講談社文庫)
潮谷験伯爵と三つの棺 についてのレビュー
No.715: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

Q eND Aの感想

素晴らしいデスゲーム作品でした。(☆8+好み)
雰囲気はマンガアニメ系ですが、ギャンブル・ミステリー系の仕掛けが盛り込まれた作品。

デスゲーム×クイズ×異能力バトルもの。
ゲームの参加者はそれぞれ異なる特殊能力が与えられており、クイズのラウンドごとに誰かが持つ異能力が明かされる。
クイズに負けるか、誰かに自分の異能力を当てられると死となる。

最上位の能力が「クイズの答えがわかる(Answerアンサー)」という設定がまず面白い。答えがわかるため、早押しクイズにおいてはチート級で有利かと思われますが、早く答えすぎると誰かにアンサー能力者だと指摘されてしまい死となる。このジレンマがゲームの戦略に効果的に使われています。

序盤はよくあるデスゲームものの展開で進みますが、早押しクイズの特性や、この世界ならではの展開が見事であり、現代的な要素も取り入れた独自性のあるデスゲーム作品となっているのが見事でした。

終盤の熱い展開も素晴らしく、デスゲーム作品における結末の描き方も好みであり、非常に満足度の高い作品でした。
デスゲーム好きにはおすすめです。

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Q eND A (角川ホラー文庫)
獅子吼れおQ eND A についてのレビュー
No.714: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

逆転ミワ子の感想

作者の『逆転美人』の好評を受けて、『逆転シリーズ』としてシリーズ化した第三弾。
この本は帯やあらすじで「紙の本ならではの仕掛け本」と謳われており、ネタバレではなく、あえてその点を伝える宣伝PRがされています。しかし正直なところ、このPRが評判を落とす結果につながるような不安を感じました。

シリーズであるため、読者はすでに驚きの要素についてある程度把握している状況で読み進めることになります。しかし、PRが過剰に期待を煽り、さらに仕掛けの内容をほぼ明かしてしまっているため、実際の内容がその期待に応えきれていない印象です。そのため、評判も控えめなものになってしまうでしょう。
また、想定される読者を驚かせようと仕掛けに凝った工夫が施されていますが、そのためか、真相が明かされても少し分かりづらく、面白みに欠ける印象を受けました。こだわりすぎて伝わりにくい作例になってしまったように感じます。

そのため、仕掛け自体にはあまり面白さを感じませんでしたが、物語の本筋であるショートショートには、作者のネタ帳のような小ネタが満載で、楽しんで読むことができました。気軽に楽しめるショートショート集として手に取ると良いと思います。
逆転ミワ子 (双葉文庫)
藤崎翔逆転ミワ子 についてのレビュー