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egut さんのレビュー一覧

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レビュー数745

全745件 41~60 3/38ページ

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No.705: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ファラオの密室の感想

新鮮な読書体験でした。奇抜な設定による古代エジプトを舞台としたミステリー。面白かったです。

主人公は蘇ったミイラというのがまず面白い。古代エジプトの死生観が活用されており、ミイラとして保存された肉体は死者の魂が戻るとされている。なので、主人公が蘇っても普通に村になじんでいる奇妙さが印象的です。
ミステリーとしても、主人公の心臓が欠けている謎や、ピラミッドからのミイラ消失など、あまり目にしたことがない珍しい設定に惹き込まれ、興味津々で読み進めました。
登場人物が全員カタカナなので、最初は少し取っつきにくかったものの、物語が分かりやすく登場人物の配置も整っているので、すぐに慣れることができました。
あまり多くは語れないのですが、要素要素の設定が実はそうだったのかという驚きもあり、かなり満足のミステリーでした。物語としても読後感が良かった点が好みのポイントです。

他思う所として小言になりますが、タイトルに"密室"と書かれているので密室ネタに期待してしまう次第ですが、その密室については物足りなかったです。ミステリー好きに興味をもってもらうタイトルとしてはアリなのかな。応募作時点のタイトル『欠けのある心臓(イブ)』の方が好み。
本書をミステリーとして期待すると物足りなさが出てしまうかも。ただし古代エジプトを舞台とした物語を楽しみ、ちょっとミステリー要素があるぐらいの感覚で読むと楽しめると思います。個人的には物語の面白さを楽しみました。

そして装丁については、表紙絵がナイス。そしてタイトルや見返しに金の装飾を使ったり等、こだわりを感じる内容でした。

▼以下、ネタバレ感想
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ファラオの密室 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
白川尚史ファラオの密室 についてのレビュー
No.704: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

死んだ山田と教室の感想

2024年度のメフィスト賞受賞作。

読書前にあらすじを読んだ印象では、転生もので、転生先がスピーカーという面白い設定だな~、ぐらいの気持ちでした。しかし読み終えてみるとラノベによくある転生ものとは違い、奥深いテーマを持った作品だと感じました。個人的に感じたテーマは「思春期の悩み」、そして「生」と「死」についてでした。
ミステリー要素はほんの少しですが、男子高校生の学校生活を舞台とした青春小説となります。そのぐらいの気持ちで手に取ると良いです。

小説の傾向としては、文学小説に近い印象です。
男子高校生たちのノリが面白く、下ネタやくだらない話、そしてテンション高めの会話が絶妙に味を出しています。ここは好みが分かれる部分かもしれませんが、個人的には大いに楽しめました。彼らがバカをやっている姿が日常パートとしての平和であり、毎日の普通が「生」であるという事をワザとバカバカしく描いていると感じました。声だけの山田視点による同級生達とのやり取り、独り言のラジオパート、描き方が文学的で普段読むことが多いミステリーとは違う文章で面白かったです。

本書、実は昔からよくある「幽霊もの」の作品だと感じました。スピーカーへの転生や、男子高校生たちの会話が今風の雰囲気を醸し出していますが、昔からある地縛霊による幽霊もの作品のジャンルであります。
山田はすでに死んでいる為、学校を舞台にすると、卒業などを通じて必然的に「別れ」が訪れます。幽霊作品における別れの描き方。ここをどうするのだろうと読書の序盤から気になっていたのですが、その演出や構成、そしてテーマを文学的なタッチで見事に表現していた作品でした。
読後に著者を調べたところ、純文学を志している方だと知り、非常に納得しました。

下ネタもばかばかしいノリも狙い通り。その後に訪れる「死」というテーマとのギャップが強い印象を与え、効果的に心に響きます。高校生達との「仲間」と「生」に対する、スピーカー山田の「孤独」と「死」。その間に若者の喜怒哀楽の叫びが盛り込まれている感覚です。いろいろな側面から深く考えさせられる読書体験でした。読後感としては、少し気持ちが沈む部分もありますが、だからこそこの作品が読者の心に深く残る、独特の魅力を持っているのだと思います。

▼以下、ネタバレ感想
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死んだ山田と教室
金子玲介死んだ山田と教室 についてのレビュー
No.703: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

法廷占拠 爆弾2の感想

前作の続編がまさかの登場。
世界観が前作の延長にあるため、爆弾事件後の物語が描かれています。前作を読んでおくことを強くおすすめします。

爆弾魔かつ愉快犯の「スズキタゴサク」という人物設定がかなり魅力的であり、今作も良い味を出していました。いわゆる「無敵の人」である知能犯。相手を不愉快にさせる言動や行動は今作も健在。特徴的なセリフ回しが、キャラクターを際立たせています。前作を楽しんだ方や、この犯人に興味を持った方は、今作も間違いなく楽しめるでしょう。

裁判所を舞台とした立てこもり事件。100名近い人質をコントールしているという事に納得できる文章の緊迫した雰囲気が見事でした。この手の作品では、文章が軽いとどうしても現実味が薄れたり、無理のある展開に感じてしまうことが多いですが、本作はそうした不安を感じさせない圧倒的な緊張感で引き込まれます。

犯人が明かされているミステリーながら、犯行理由や目的が謎に包まれており、その点が非常に興味を引きます。キャラクター造形や警察ものとしての要素も楽しめる作品でした。
ミステリーの仕掛けや社会的テーマが現代的な要素に巧みに絡んでおり、まさに今の時代にふさわしいミステリー作品だと感じました。"スズキタゴサク"の今後の展開が非常に楽しみです。

余談ですが、この爆弾シリーズの装丁が好みでした。表紙画像だとわからないですが、実物はモノトーンの写真にツルツルした加工の飛沫が施されており、その触り心地が面白い。こだわりを感じる表紙でした。

▼以下、ネタバレ感想
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法廷占拠 爆弾2
呉勝浩法廷占拠 爆弾2 についてのレビュー
No.702: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

フェイク・マッスルの感想

今年の江戸川乱歩賞受賞作。
本作は乱歩賞作品の中では、新人賞とは思えないぐらい大変読み易い文章であり、明るい雰囲気で楽しめる作品でした。

物語はアイドルがたった3カ月間のトレーニングでボディビル大会で上位入賞を果たすのですが、「そんな短期間ではあの筋肉ができるわけがない」とドーピング疑惑でSNS炎上する始まり。
SNSの炎上から始まる展開が現代的で面白いです。本書は新人記者がその疑惑を調査するため、アイドルが運営するパーソナルジムに潜入するという、潜入調査ものの作品です。

乱歩賞作品に対する個人的なイメージは社会派で難しい印象だったのですが、本書は気軽に楽しめる雰囲気で、その点に驚きました。
「筋肉は本物なのか?」というわかりやすい謎かけ。潜入調査ものながら、内容は大変コミカルで、主人公の行動には思わずクスッとさせられます。コツコツ筋トレして努力は人を裏切らない的な、成長小説にも感じる作品であり、読後感がとても良い作品でした。欲を言えば成長性をより感じさせる為に、失敗や苦難も描いてほしかったかな。トントン拍子で進むのでちょっと物足りなかったです。ただその分スピード感を優先したのかもですね。

一方で、雰囲気や読みやすさは抜群ですが、ミステリとしての要素、特に謎解きや社会派のテーマといった従来の乱歩賞作品をイメージする部分においては、物足りなさを感じるかもしれません。ミステリに対する正直な感想としまして、何か驚きやテーマを感じさせて欲しかったです。仕掛けの面でもやや弱さを感じ、提示された謎に対する解答にも少し問題があるように思いました。この点については、ネタバレ側で記載します。
個人的には、乱歩賞作品というよりも「メフィスト賞」や「このミステリーがすごい!大賞」の印象を受けました。ユーモアミステリではなくライトミステリの部類かと思います。しかし、ポジティブに考えますと、乱歩賞の苦手な部分のイメージが払拭でき、気軽に楽しめる万人向けなミステリーとして、多くの読者を獲得できる可能性がある作品だと感じました。
読みやすく、楽しめる作品であることは間違いありません。また、作者はこれまでに何度か乱歩賞に応募している方なので、今後の作品にも期待です。

▼以下、ネタバレ感想
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フェイク・マッスル
日野瑛太郎フェイク・マッスル についてのレビュー
No.701:
(5pt)

蝋燭は燃えているかの感想

前作『星くずの殺人』に登場した真田周が主人公となる本作。前作はあれで完結していたと思っていたので、まさかの続きとなるお話に驚きました。
ただ、続きものとは言っても大きな関連性はないので本作から読んでも問題ありません。

前作の宇宙を舞台にしたお話から一転、今回はその宇宙旅行から帰ってきた真田周の高校生活から始まります。事件に巻き込まれた者への好奇心からの街頭インタビューやSNSでの攻撃、YouTuberによる突撃取材などの迷惑行為に巻き込まれていきます。ネット上の"炎上"と言葉を合わせる形で、京都市内での放火事件("炎上")が描かれているストーリーです。
扱うテーマの要素が結構重苦しく、毒親やカルト、被害者と加害者問題など、社会派小説となります。著者のデビュー作からの流れを考えると、武侠、SF、社会派という流れで色々な作品が描ける方なんだなと感じました。今作は社会的なテーマがしっかりと描かれている為、これまでの作品の中では最も江戸川乱歩賞らしい内容だと感じました。過去の作品を真田周を主人公としたシリーズとしてリメイクしたものではないかと感じます。

社会派ミステリーとしてのテーマは興味深かったのですが、個人的にはいくつか気になる点がありました。
例えば、放火事件で名所が次々と炎上する場面では、警備やセキュリティの存在が感じられず、リアリティに欠ける違和感がありました。事件自体の映像は華やかですが、どこか都合よく描かれており、実現性が低く感じられました。さらに、京都や関西に関する雑談が多く、話が脱線してしまい、大切なテーマが散漫になってしまった印象を受けました。事件の構造に無理を感じる為、読んでいる最中に何度か引っかかり、テーマやミステリーを純粋に楽しめなかった次第でした。
蝋燭は燃えているか
桃野雑派蝋燭は燃えているか についてのレビュー
No.700: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

永劫館超連続殺人事件 魔女はXと死ぬことにしたの感想

タイムループを用いたファンタジーミステリとしてかなり面白い作品でした。

物語は母の危篤を知った長男のヒースクリフが数年ぶりに生家となる永劫館に訪れる始まり。葬儀に絡む遺言状の公開、集まる親戚や胡散臭い者達、舞台は洋館で海外の雰囲気なのですが、どことなく日本の古典作品を思わせるフォーマットが馴染みやすいだけでなく新鮮に映り面白いです。そして大嵐で陸の孤島となった舞台で連続殺人が発生する流れ。

定番の面白いミステリ要素を用いつつも独自の世界を構築しているのは魔女のルールとタイムループ(死に戻り)の存在。この設定が加わることで、読者に馴染みのある密室や館もの、クローズドサークルといった装置が新鮮に活用されており、その巧みさが見事でした。

シリーズ展開が期待できそうな含みを持たせた終盤も好印象でした。続編が出るなら、ぜひまた読みたいと思います。

▼以下、ネタバレ感想
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永劫館超連続殺人事件 魔女はXと死ぬことにした (星海社FICTIONS)
No.699: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

VR浮遊館の謎 探偵AIのリアル・ディープラーニングの感想

今作も奇想に満ちた仕掛けを楽しむことができました。前作の3作目同様にAI探偵シリーズだから可能かつ納得できる大仕掛けです。前作は素晴らしい作品でしたが、今作もそれに劣らず奇想天外なミステリでした。作者の発想は本当に凄い。

あらゆるものが浮遊する館という舞台の斬新さや、魔法を用いた頭脳戦の様子など、一見するとなんでもアリなトンデモ設定ですが、しっかりとミステリーの面白さも兼ね備えています。推理に必要な手掛かりが散りばめられた謎解きと驚きが楽しめる作品でした。
初期の頃に『RPGスクール』という作品がありましたが、今回の作品はそれに比べて格段にゲームとしての面白さが味わえる読みやすくて楽しい作品でした。

人工知能やVRの要素として触覚による入力の扱いを取り入れているのが面白い。テキストや音声だけでなく未来では触覚による入力インターフェイスやフィードバックがユーザーに提供されるようになるでしょう。この作品はそうした未来的な要素も取り入れています。
今作では人工知能探偵の相以が体を手に入れ、初めて触覚を堪能するシーンがあります。その喜びがとても可愛らしく微笑ましいです。また相以と輔は今回ゲームクリアを目指すライバル関係でしたが、互いに信頼し合っている良いコンビで、その関係性がとても心地よく感じられました。

シリーズを重ねるごとに読者の期待を上回る作品が生まれてきます。今後の展開も楽しみです。

▼以下、ネタバレ感想
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VR浮遊館の謎:探偵AIのリアル・ディープラーニング
No.698:
(8pt)

推しの殺人の感想

扱われる要素の数々が無駄なく配置されており、完成度の高い作品でした。若い世代向けの表現がライトなクライムノベルであり、文章も読み易く面白いです。読後感が良いのもポイントです。

物語は崩壊寸前の3人組の地下アイドルのお話。メンバーの1人が人を殺してしまい、相談の結果、3人は死体を山中に埋める事を決意するという流れ。本書はこの犯人視点の倒叙ミステリです。

アイドルが犯人という倒叙ミステリにおいて、読者が犯人に共感できるように芸能の闇を扱う点が上手かったです。その闇の表現がドロドロしたものではないため、嫌な気持ちにならずに読めるのもよいです。また、感情の扱いや表現がとても巧みで、アイドルを応援したい気持ち、同情や共感したい気持ちが芽生え、3人組の物語に惹かれていくのを感じました。

ミステリー的な仕掛けを期待する作品ではないのですが、配役や設定や、ちょっとした驚きなど、作品のまとめ方がとても巧くラストの切り方も好みでした。
推しの殺人 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
遠藤かたる推しの殺人 についてのレビュー
No.697: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

アンデッドガール・マーダーファルス 1の感想

予想以上にかなり好みの作品でした。(☆8+好み)
吸血鬼ドラキュラ、フランケンシュタインの人造人間など異形のものが存在する世界での怪奇小説であり、しっかりとした推理を行う本格ミステリでもあり、バトルあり、落語のような笑いありと、いろいろ混ぜ込んでいながら破綻せず面白い物語になっている独特な作品。

第一章吸血鬼については、銀の杭に貫かれた吸血鬼夫人殺害の謎。
読書前はライトノベルのファンタジーものくらいの気持ちで手に取ったのですが、手がかりや推理をするロジックなど、本書の題材を用いたしっかりとした謎解きミステリであることに驚かされました。本書がミステリであることに気づき、期待以上の面白さに嬉しい悲鳴でした。

『怪物専門の探偵』と名乗る『鳥籠使い』という二つ名もカッコよく、かつ今まで体験した事がない探偵設定なのが個性的でよい。探偵役と戦闘担当というコンビも、怪物相手の物語においてバトルの見せ所が生まれるなどで見所が豊富でした。今後も期待のシリーズです。
アンデッドガール・マーダーファルス 1 (講談社タイガ)
No.696:
(6pt)

自由殺人の感想

社会的な風刺があるエログロ系ではない方の大石作品。
物語はビルを吹き飛ばす程の爆弾がプレゼントされたらあなたはどうするか?という話。複数人に配られた爆弾を受け取った者達の姿を描く群像劇。まずは疑心暗鬼に始まり、はなから悪戯だと信じない者、警察に届ける者など様々。社会への不満、格差による嫉妬、幸せな奴らを吹き飛ばしたい悪意など、負の感情が渦巻く姿を描くのはいつもの作者の持ち味で楽しめました。
爆弾が爆発するシーンや社会が混乱する所など、世の中を描くシーンは作者には珍しい場面で新鮮でした。いつもは個対個や犯人や被害者の異常性を読むことが多いので珍しいと思った次第。作者の作品は人には薦め辛い内容なのですが個人的に好みが多い。なかなか面白かったです。

▼以下、ネタバレ感想
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自由殺人 (角川ホラー文庫)
大石圭自由殺人 についてのレビュー
No.695: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

黄土館の殺人の感想

シリーズ3作目。このシリーズは1作目から順に読む事が必須です。
1作目は少し好みと違う作品でしたが、その後の2作目、3作目は期待通りの面白い作品となっています。4部作なので、次巻も楽しみです。

シリーズを通して感じる「名探偵とは」のテーマは今回も健在です。さらにそのテーマに負けないくらいミステリ要素が豊富なのが魅力的でした。地震&落石によるクローズド・サークル、交換殺人、序盤は片側の犯人視点による倒叙ミステリ、後半は館で起こる連続殺人。ミステリ好きにはたまらない展開です。ただ、豊富なミステリ要素は大好物ですが、数が多すぎて事件の把握に難航しました。加えて、600ページ超の長さなので読了までかなりの時間がかかったのが少し大変でした。読みやすく面白かったのですが、読書中は先が気になる面白さというより、犯人や結末をなんとなく予感してしまい、答え合わせまでの道のりが長く感じました。

とはいえ、3人組のキャラや元名探偵との間柄も好みですし、近年のミステリの新作の中では期待のシリーズです。次巻の災害は嵐をテーマにしたものでしょうか。とても楽しみです。

▼以下、ネタバレ感想
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黄土館の殺人 (講談社タイガ)
阿津川辰海黄土館の殺人 についてのレビュー
No.694:
(6pt)

クリスマスの4人の感想

あらすじやタイトルから感じる期待感と中身が合ってないと感じました。
発売月が11-12月なのでその時期に合わせたタイトルとしてクリスマスにしたのかなという印象。たしかにクリスマスの奇跡ととらえる事もできる内容ですが、ちょっと安易な気がしました。

物語は4人の若者がドライブ中に交通事故で人を殺してしまうという始まり。夜で誰も見ていない為、事故を隠蔽し4人の秘密とします。それから数年後、10年ごとのクリスマスの日に何故か轢き殺してしまった男性が生きて姿を現します。一体何が起きているのか。という物語。

著者の作品は読みやすい為、物語に没入できるのが良かったです。事故を起こしてしまった不安や何故か現れる男性の姿によるパニック。不安な気持ちによるホラー模様で序盤は楽しめました。ただ中盤以降や真相についてはちょっとアンフェアに感じます。良い意味では予想外の物語へ展開したとも言えますが、悪い意味では突然の設定変更みたいな気持ちで腑に落ちませんでした。

▼以下、ネタバレ感想
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クリスマスの4人 (光文社文庫)
井上夢人クリスマスの4人 についてのレビュー
No.693:
(6pt)

きこえるの感想

小説を用いた新しい読書体験作りを感じた一冊でした。

『いけない』シリーズでは最後のヒントとして写真画像を見せて読者に真相を推理させる話となっていましたが、本作はそれの動画バージョンです。小説中にYoutubeへのURLが書かれたQRコードがあり、そこからYotubeにて最後の手掛かりとなる音を聴くわけです。
ちょっと悩ましい所は音を聴けばすぐに真相がわかるという訳ではありません。あくまで最後のヒントとなるもので、音を聴いてそこから読者が真相を推理する必要があります。ゲームブックや謎解きゲーム/イベントに参加している感覚なので自分で謎を解くのが好きな人向けです。言い換えると『いけない』シリーズと同様に真相は描かれていないので、結末が分からずスッキリしない作品でもあるのでそれが好みではない人には不向きです。
他、普段読書をどこでするのかが影響する作品です。私は電車移動中や外出先で読書をする事が多い為、外では結末の音が聴けず家に帰ってから動画を見るという手順だった為、没入感が途切れました。『いけない』シリーズだと読書のまま画像が見れたのですが、本書は動画を再生する必要があるので悩ましい所でした。本書は家でじっくり読むのに適してます。

5作の短編集ですが、個人的には『ハリガネムシ』が一番良かったです。本書の音に関する物語と仕掛けがマッチしていますし、抑揚のある音声を聴いたからこそわかる真相や心情が見事です。物語の内容は作者らしく重苦しいのがちょっと苦手ではありますがミステリと本書の音のテーマには一番マッチしていると感じました。

その他本書のおもしろい所はYoutubeの再生数ですね。ある意味読者数の集計ができるわけです。出版部数に対しての再生数の動きをちゃんと解析していけば、読者の広がり、中古や図書館での読者数、著者のファン数の推測値、文庫化した時の動きなど、分析に活用できるなと思いました。
きこえる
道尾秀介きこえる についてのレビュー
No.692:
(6pt)

デルタの悲劇の感想

読後に感じたのはミステリの仕掛けを施した技巧本という印象でした。こういう作り方の物語だったのかという感覚。技術的な視点で見ると面白い構成なのですが、物語としてはあまり好みではなかったです。
物語は過去のいじめの真相を追う話。鬱々とした話が続き、特に興味がわかない話の進み具合に退屈な読書でした。
終盤解説があるのですが読んでも凄いとか驚くとかそういう感情は沸かず、ただ分り辛いという気持ちでした。

本書が神がかった印象を受けるのは物語が著者の遺作設定である事が挙げられます。著者作品の特徴として自身の本名を登場人物として作品内に登場しますが本書もその1つです。著者の遺作としての設定の本書なので物語中で亡くなったのですが、現実に著者が急死してしまった為、本書の物語が虚構なのか現実の事なのかと奇妙な感覚を得る次第でした。
デルタの悲劇 (角川文庫)
浦賀和宏デルタの悲劇 についてのレビュー
No.691:
(7pt)

パワー・オフの感想

96年に書かれたコンピューターウィルスを用いたサイバーミステリー。
MS-DOSやパソコン通信時代が描かれており、その時代ですでに人工知能を巧く絡めた作品となっているのが驚きでした。
90-00年代のパソコン好きやエンジニアの方にとても楽しめる作品となっております。ミステリーやサスペンス的な要素や構成については今読んでも十分に面白く、コンピューターやウィルスの進化の目的は今読んでも違和感がないのが素晴らしいです。著者の当時からのコンピューターの知識量が垣間見れる作品でした。
MS-DOSやフロッピー、モデムなど、機材や環境については古い単語である事は否めませんが、それを気にしなければコンピューターのベーシックな要素で物語が進むため、ネットワークやコンピューターの原理など初心者エンジニアの方にはそういう面でも楽しめそうです。

ウィルスは何故広まるのか、どこへ到達するのか、終盤の1つの解については現代のAIとの関りの考え方と違和感のない道を示しています。著者の先見性に驚かされました。

▼以下、ネタバレ感想
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パワー・オフ (集英社文庫)
井上夢人パワー・オフ についてのレビュー
No.690:
(8pt)

ダレカガナカニイル…の感想

かなり好みの作品でした。92年の作品ですが今も問題なく楽しめます。

冒頭は宗教施設や反対運動の過激なデモ模様がレトロな村を舞台とするホラーを感じさせました。そこから監視カメラで囲まれた宗教施設の火災の謎、教祖の死、そしてそれを切っ掛けに生まれた主人公の頭の中に入り込んだ意思。という具合にどんな物語に展開するのか予想できないワクワク感のある読書でした。
あらすじにある通り、SF、ミステリー、恋愛、など当時には珍しいジャンルミックスの作品です。所々に生まれる奇妙な違和感がホラーやSFでの演出と思いきや、ミステリー的な解法で巧く繋がるスッキリ感もあり、かなり巧妙な作品だと感じました。

恋愛要素についてはとても好みなのですが、惜しむべきはもう少し男性と女性が惹かれ合う切っ掛けを描いて欲しかったです。あまり説明がないので一目惚れ感が凄くて、そんなご縁でこの行動力は違和感です。ベタですが男性側に頼りがいがあったり、知的な要素があったり、女性を助けたとか何かしらのエピソードがちゃんとあれば個人的に非の打ち所がないと感じる作品でした。
ダレカガナカニイル… (講談社文庫)
井上夢人ダレカガナカニイル… についてのレビュー
No.689: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

プラスティックの感想

2024年の本屋大賞超発掘本に選ばれたきっかけで読書。
1994年の作品であり、その年代を考えればやはり先駆け的存在の1つだと感じます。思い返せば90-00年代ごろこのネタが流行りました。そのままの単語が使われている映画も頭によぎるぐらいです。とはいえ本書のテーマが分かってしまっても先が気になる面白さの作品である事は間違いありませんでした。

読者はワープロで打たれた54個の文書ファイルを読み進めるという構成です。
複数名によって書かれた文書を読み進めるうちに奇妙な違和感が起きてきて、序盤は誰かの勘違い?こういう事なのでは?と思ったらそんなの想定済みですよと言わんばかりにその考えをボツにする展開が発生し、この作品はホラーなのか?SFなのか?一体これはどういう事なのだ?と先が気になる物語で楽しみました。

▼以下、ネタバレ感想
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プラスティック (講談社文庫)
井上夢人プラスティック についてのレビュー
No.688: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

可燃物の感想

5編の本格ミステリ。捜査資料として事件の概要を知り、追加の捜査や取り調べで得た情報から事件の構造がわかる警察小説を用いた本格ミステリでした。
率直な感想として、かなり丁寧な物語で細かい所まで気を使って描かれていると感じます。大きな派手さはなく、一発ネタの仕掛けで盛り上がるようなものでもないのですが、細かい手掛かりを元にちゃんと考えれば真相が見えてくる謎解きの面白さがある内容でした。
まぁ、、、個人的な好みの問題なのですが、地味かなと。キャラクターも事件もあまり印象に残らないというか、そういう風に描いているのでここは好みの問題です。なんというか丁寧で嫌な所がない上品な警察小説だなというのか個人的な感想でした。
可燃物
米澤穂信可燃物 についてのレビュー
No.687:
(6pt)

優雅なる監禁の感想

著者の作品に期待する通りではありましたが、本書の場合はただひたすらに陵辱シーンのエロを描いたという作品でした。著者の作品ラインナップによってはホラー/官能/暴力/テーマ性/の成分が振り分けられ、たまに名作になるバランスが存在するのですが、今回の作品に関しては暴力とエロです。

物語はあらすじ通り二部構成。
第一部はエリート医者の双子に監禁され陵辱されるという、ある意味安定のいつも通りの大石圭作品。ただ他の作品との違いとしては犯行に至るまでの過程や思考を描くのではなく、プレイ内容を主に描かれていると感じました。読み進めていく中で、あぁ今回の作品はそこを描くのがメインなのかと思った次第。そういう内容なのですが文章はサラッとしていて読み易く、そこまで具合悪くなるような気持ち悪い表現もないという、ここもいつも通りの著者の文章なので楽しめました。
ただ第二部からの復讐についてはちょっと残念でした。あまりにも上手く行き過ぎており、ターゲットも急に頭が悪くなるような感じで違和感です。恋は盲目なのかもしれませんが、ちょっと残念な展開でした。船上のシーンは著者が復活して目覚めたようなノリの良い展開で好みではあります。

ホラー小説における暴力等の嫌なシーンの対比ともなる、幸福となる食事のシーン。ここら辺のシーンがいくつかあり印象に残りました。なので本書のテーマは性欲や食欲、人間の内面に抑圧されている暴力的な欲求。「監禁」されているのは実はそういう暗黒面の欲求の事を比喩しているのではないか。とか勝手に深読みしながら著者の作品を楽しんだ次第でした。内容はアレなんですが謎の中毒性がある作家だなと感じます。
優雅なる監禁 (角川ホラー文庫)
大石圭優雅なる監禁 についてのレビュー
No.686:
(8pt)

正解するマドの感想

本書は事前の予習が必要な作品。
対象読者は野﨑まど作品が好きな人、そして野﨑まどが脚本を手掛けた『正解するカド』を視聴している人向けとなります。その内容を知っている人に向けて仕掛けられた予想外の展開の物語となります。狭い読者層向けの作品なのですが、該当する方に楽しめる作品です。ファンの期待に応えている作品と言えるでしょう。

本書はアニメオリジナル作品となった野﨑まどの『正解するカド』のスピンオフ作品を、野﨑まどファンである作者の乙野四方字が依頼を受けて執筆するという物語です。アニメのストーリーを小説化した作品ではなく、完全オリジナルの物語です。

物語の主人公は乙野四方字自身。大ファンの野﨑まど作品に関われる依頼に喜ぶ一面もあれば、その期待故にプレッシャーでまったく書けなくなる悩みが描かれます。登場人物や出版社とのエピソードが本当の事のようにリアルに描かれているのが面白く、どこまでが本当の事でどこから創作なのか不思議な感覚での読書でした。その雰囲気が続いていく中で、まったく執筆できずに病んでいる作者の前にアニメ作品に登場するキャラクターが現れるという流れです。

ジャンルとしてはSFメタフィクション小説。現実や虚構やその他いろいろな要素が入り混じる作品です。そして要素として何を混ぜているかというと、野﨑まどの作風や、アニメの『正解するカド』の内容なので本当に読者は限定的です。ただそれらを知っている人にはわかると思いますが、野﨑まどが最後にどんでん返しのように仕掛ける構成やユーモアを本書特有の世界で行われているのが見事でした。

▼以下、ネタバレ感想
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正解するマド (ハヤカワ文庫JA)
乙野四方字正解するマド についてのレビュー