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egut さんのレビュー一覧
egutさんのページへレビュー数359件
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読み切った。。。何だかよく判らないままも、最後は不思議なエネルギーをもらって、凄かったぜ!!とテンション上がっちゃうような作品。
文庫版1500ページ。『煙か土か食い物』のように改行がなく、ひたすら文章が襲いかかってくる。それでいて内容は、帯にある『あらゆるジャンルを越境した…』の通り、ミステリをベースにSFやら哲学やらが、ぐちゃぐちゃに絡んできて、もうわけわからない・・・。なんだけど、最後まで読めちゃう文章作りが不思議で面白い。5,6冊ぐらい読んだ気分のボリュームでした。 読書前に本書は現代の奇書みたいな話を知っていたので、その感覚を踏まえて読むと、大分昔に読んだ奇書の1つ『黒死館殺人事件』を思い出しました。あの作品は、いきなり紋章学やら医学やらおかしな推理が始まって内容が把握できなくて、さらに言葉も古いからさっぱり頭に入らず眠くなった記憶がありました。が、本書は現代語なので、ちゃんと読めて分かりながら放り投げられる感覚が得られますので、奇書っぽいものを読みたい人には昔の作品より本書を薦められます。現代の奇書と誰が言ったか分かりませんが、的を射ていると思いました。 さて、表紙に書かれている女の子が探偵ディスコなのかと思いきや、探偵は30代男性のアメリカ人でハードボイルド寄り。手に取った時と最初にページをめくった時とでギャップを食らいましたが、この後の展開のインパクトを思い返すと軽いジャブにもなっていない些細な事。迷子探しの探偵が救出した女の子の梢の中に未来の梢の魂が入りこんで序盤から魂やら未来話やらで哲学やSFが展開して、その後のパインハウスを舞台に探偵達の推理合戦が開始。密室、暗号、見立て、などミステリの定番から星座や神話やらと衒学的に話が飛んでいきます。 話の整合性やらロジックなどは真面目に考えても仕様がない状態なので、探偵達が語る話を受けるがまま脳を刺激される印象で読み進めました。 なんといいますが、話の全貌やネタバレ的な事を仮に語ったとしても、その要所要所では本書を把握する事はできない作品です。 作品に触れて、四方八方に話が発散する中に、自身がどんな所に刺激を受けるかという文学的な作品で、どう表現したらいいか分からないぐらい、作者凄い。と思う次第です。 著者の中に『好き好き大好き超愛してる。』という作品があり、いろんな設定での愛の姿がありましたが、本書もディスコが梢を想う愛が根底に敷かれているように感じましたし、全部包み込んだ外側に作者の気持ちを感じました。 |
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ほんわかすると言うか、感動的で、よかったなぁ。と、読後しみじみする作品でした。
書籍区分はミステリですが、恋模様や不思議な事がおきる広義のミステリ。中身は恋愛小説に近いです。 登場人物達が基本みんな良い人で、恋の邪魔に感じる所もそれぞれが前向きに行動している結果なだけなので、 何が起きていても基本的に嫌な気持ちにはならず、読んでいて気持ちが良かったです。 序盤は、万年筆の話が面白く、最近はPCや携帯で文字を打つので、ペンで文字を書く機会が減ったな…とか、 作中に出てくる万年筆を調べてみたら凄いオシャレで興味が沸いたりと、楽しみながら読みました。 香恵の初々しい恋模様や、伊吹先生のノートが良きメンターとして活用され成長していく流れなど、とても心地よい作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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日本の高齢化社会、介護問題を改めて突きつけられ、なんとも言えない気持ちになりました。
ミステリ要素は弱め。ただ、ミステリの形式を借りた社会派小説としては一級品です。 扱われている伏線も社会的なテーマの為に存在していると感じました。 裁判にかけられた犯人の供述から始まる冒頭。 犯人が行なった犯罪は、在宅介護に苦しむ家庭を探し出し、老体を自然死に見せかけて毒殺して周った事。 殺人=罪で悪い事だという人間的な感情がありますが、介護に苦しんだ家庭にとっては地獄の日々が終わり、救われた気持ちも芽生える事から、殺人が必ず悪ではない状況が生まれている問題を読者に投げかけます。 正義の立場である検事をキリスト教徒とし、度々現れる教えの扱いが凄い。 黄金律である、 『人にしてもらいたいと思う事は何でも、あなた方も人にしなさい』 この言葉の意味を本書の介護においてみた時、介護の苦しみを終わらせてほしいという希望を叶えた犯人の行動は正しかったのか?道徳的に考えさせられます。キリスト教徒の検事の葛藤が何とも言えませんでした。 犯人、キリスト教の検事、介護会社の社員、現場の介護スタッフ…。それぞれの視点から描く高齢化社会の問題。お金が無ければ安全地帯である老人ホームの施設に入るのも難しい。また介護者達の時間、金銭的、精神的なストレスなど、今は身に覚えなくても将来自分が高齢になった時、社会や家族はどうなるのか。とても考えさせられました。 誰が犯人なのか?と言ったミステリの下地はありますが、それを考える暇がない程、この本書の掲げているテーマは深いもの。 読後将来について不安を感じる後味は辛いですが、一読の価値はある作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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キャラ立ちや設定がよくて事件も把握しやすい。読みやすい海外ミステリでした。
窓際族のように警察内の地下室に新設された部署へ追いやられてしまう主人公のカール。 未解決となった事件を再調査すると言った名目の部署ですが、1度は警察が組織で調べた事件であるのに、それを1人で再調査という無理難題、閑職もいい所。そんな中、アサドと名乗る1人の部下が得られるのですが、この変人がいいキャラしていて、日本の小説でよくある、警察+変人(探偵)のタッグのような感覚が馴染みやすく楽しめました。 作りが巧いのが、人物構成と同時平行して展開される、未解決事件の猟奇性。 現在→未解決事件の過去→現在→未解決事件の過去・・・ と交互に展開される話の中で、サブタイトルにある監禁された状況の緊迫感が与えられます。 緩急つけた話の構成は、最後まで読ませるリーダビリティがありました。 主人公カールの家族は?アサド何者だよ。今後の特捜部Qの活躍は? など、シリーズの次作を期待させる内容としても十分で、面白い本に出会えました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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2作目も満足。シリーズが楽しみになりました。
前作ファンの期待に答えるロジカルな推理が健在。前作は1本の傘。今作はモップとバケツの手がかりから真相を導き出していく思考錯誤は楽しいです。 警察が高校生に事件捜査を頼ったり、アニメオタクな探偵など、読者を選ぶ要素がありますが、私は金田一少年の事件簿系統の学園かつ本格物はとても好物なのでハマります。 11人の容疑者から犯人を特定していく流れについても、前作同様に推理の過程が丁寧。 ○○だから、数人一気に除外という荒削りな消去法はなく、1人1人丁寧に論理的に除外されていきます。 犯人が絞り込まれていく過程は読んでいて大興奮でした。 ただ正直な所、事件やトリックなど特出して印象に残るものではありませんでした。また、分単位で事件を検証する所に、そんなに正確な時間をみんな意識して行動しないよなぁ、と感じたり、本当にこれが唯一の解なのか?と思えたりとするのですが、 そんな細かい事は気にせず、なんか推理している様子が単純に楽しいと思える作品なのが好みです。 2作目だから水車館をもじった水族館についても、言葉だけではなく、ちゃんと水族館ならではの事件・動機であり、とても考えられていて面白かったです。 また、製本の見返しや、しおりひもも水族館ぽく青に染めてあり、色々とこだわりを感じました。 次回作も楽しみです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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これは掘り出し物のミステリでした。
タイトルから歴史小説を感じさせており、2013年度の各ミステリのランキングでは圏外で、失礼ながら注目度はなかったと感じる本書。ランキングについては締め切りぎりぎりの出版だったので、10月ではなく、11月に出版していれば来年度ランキング30以内には名前が載っただろうなと感じる次第です。 完全にスルーしていたのですが、口コミでの評判の良さを知って手にとった所、なかなかの掘り出し物でした。 あらすじにある、本格推理小説の名の通りです。 期待度が低かったのに対して、この手法をこの本でやってきたのかと驚いたので、見慣れた仕掛けも使い方次第だと改めて感じた作品でした。 伊藤博文しかり、津田うめなど、実在の人物もよい塩梅に登場しており、歴史ミステリが苦手でも気にする必要なく、当時の雰囲気を味わった気持ちになる楽しい作品でした。 読み終わってから感じる人が多いと思いますが、構成が絶妙です。良かったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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世にも不思議な日常の謎。ブラックユーモアな短編集です。
最初の作品『宙の鳥籠』は、プロポーズ前の男女が二人の将来の為に解決しておきたい事があると、観覧車の中でとある出来事の話を始めます。観覧車1周の短い時間の密室の中で、男女の関係を推理・解決していく流れは、意識の中でタイムリミット、話を逸らせない緊迫感などを感じられて、コンパクトにまとまった短編ならではの良さを楽しみました。 その次の作品『転校』に至っては、全寮優等生学校で起きている、とある出来事を体験。これは1作目と雰囲気変わってブラックネタであり、全てを明かさずともラストで読者に意味が分かる黒いユーモアのさじ加減は絶妙です。個人的にベストです。 この序盤の2作品を読んで本作品の扱う物語が、「男女」、「ブラックネタ」が根底にあると感じました。 といいますか、これらは作者の過去作品から感じる要素でもあるので、作者らしさを感じます。 その他、自殺しようと現場に着いたら先客がいた『心中少女』。 家の中で殺虫剤を撒いたら化学薬品であったパニックもの&夫婦を描く『黒い方程式』。 が面白く読めました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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分類はミステリというより青春小説。
謎や驚きがなく、言葉を発せず解錠師となった主人公の成長を描く、ティーンエイジャー向けの物語。 本書は翻訳物ですが、とても読みやすかったです。 登場人物が、主人公、彼女と、その父親。あとは犯罪者数名ぐらいで少なく、カタカナ名でも人物把握は容易です。場面も主人公の身の回りなので混乱せず物語に没頭できました。 金庫破りの師匠ゴーストが、金庫は女として扱え。金庫を無傷で開けられるお前は芸術家だ。と、金庫破りの思考や、センスある表現を愉快に描かれているのが魅力的でした。原題もロック・アーティストと言うのが良いです。 若い主人公が他の犯罪者とタッグを組んで仕事をする時も、危険な目に合わず信頼をおいてもらえるのは、確固たる技術のおかげ。口がきけない、小僧といった弱みになりそうな点も確固たる能力があれば自信を持って立ち回れる姿に、何か感じる所がありました。 どんな鍵でも開けられる。でも声を発しない少年自身の心は閉ざされたまま。 なんとなくベタなのですが、それがとても把握しやすく安心して読める要素にもなってます。 ミステリとして読むと物足りなさを感じますが、 海外文学で青春物が読みたい方へは、とてもよい作品です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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個性的な自衛隊ミステリ。
自衛隊ならではの視点で戦争やそこに住まう人たち、民間との関わり方を触れていき、 そこで起こった事件を、謎の魅力、方法、調査、舞台の背景を知る、といった流れをミステリの様式でまとめてます。 事件は、射撃訓練中で起きた小銃の紛失ミステリで、人が死なないミステリとして読めます。 備品管理に徹底した場において、どうやったら小銃を無くせるのか、また何でそんな事をするのか。と、自衛隊特有の思考や場の状況で事件を考えて行くのが新鮮でした。 調査班の朝香二尉と野上三曹は、さながらホームズとワトソンの関係で、野上三曹の視点で朝香二尉の飄々した行動やここぞとばかりに魅せる知性に触れる点も楽しめます。 派手さも爽快さもなく、淡々と進むのですが、その流れが自衛隊の中の人々の描き方や緊張感にマッチしていて魅力的で好みです。ミステリ要素がメインではなく、それがきっかけで、そこに集う人々の気持ちに触れる事ができる不思議な印象を得られる作風です。 2001年の作品を今読んだわけですが、尖閣問題や朝鮮との関わりなどにも触れていたりと、今の世でも考えさせられるメッセージが生きているのに驚きました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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【ネタバレかも!?】
(1件の連絡あり)[?]
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過去作より、『花窗玻璃』での読者に与える文学表現や『ジークフリートの剣』を読んだ時の印象を融合して継承したような作品でした。作りが巧いです。
物語は将来を見出せない学生が単位取得を目的に高齢者向けのお弁当配達のボランティアを始め、そこで知り合ったおばあちゃんの過去に触れていく。 介護問題、戦争話など、高齢者と若者の関わりも描いており、要所要所で社会への訴えを感じたりしていましたが、雰囲気はユーモアが多く楽しいのが良かったです。 この方の本は、小説の作品として意味があるのが素晴らしく感動します。 映画を見てストーリーが良かった。という感想だけなら、それは映画じゃなくてもよいと思いますが、 この本は本だから受ける感じ方を操作されていて、文章を紡ぐ作家の凄さを感じました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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マンションを軸に、そこに住む者、関わる者の交差に謎を散りばめているのが面白いです。
上下左右の隣人がどんな人か分からない。人との関わり方が減った現代のマンション住民の模様を巧みに活用しています。 例えば、 ・上の階から聞こえてくる子供の騒音に苦情を申し出た所、幼児虐待疑惑の母親に遭遇。『子供を静かにさせる』と言ったあと、確かに足音はなくなった。騒音の悩みはなくなったが、子供はあれからどうなってしまったのか気が気でない・・・。 ・高齢のおばあちゃんを最近見かけない。部屋にいるのか。そういえば最近家から変な匂いがする気がする・・・。 と言ったマンション住民間で起きる疑惑の物語。 隣人との干渉、騒音問題、年金不正受給、高齢化社会、etc...。 社会的なテーマを持ちつつ、それでいて結末は予想外な方向へ展開するのでミステリとして面白いです。 著者の持ち味である、話の隠す所、見せる所の作り方がうまい。何が起きているのか気になって読めてしまいます。 さらに雰囲気もライトでテーマが圧し掛からず、読みやすかったのが良かったです。 こんなにも問題を抱えているマンションはどうなのよ。と言うのは気にせず、喜劇を見る感じて楽しみました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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好みの本格ミステリである事と読みやすさが良いです。
『館』の文字の使用を控えて、眼球堂の『堂』を選んだと思いますが、中身は館物でクローズド・サークル。 トリックあり、読者への挑戦ありと、直球の本格ミステリです。この手の本は好みで楽しいです。 少し厄介に感じたのが既視感が多い所です。 人物設定やトリックなど新本格時代の本を好んで読んでいる人には触れているだろう定番本のネタをいろいろ取り入れています。 が、それが悪いかというとそうではなくて、うまく組み合わせて作品を作ったなと思う次第です。 新鮮な驚きではなく、感心という気持ちでした。 ミステリ好き同士で感想を話すと、ここってこの作品のここだよね。こっちの設定はこの作品だよね。 と、他作の作品名はネタバレになるので言えませんが、そういう風に感じる本でした。 天才が集まる必然性が弱かったり、「ザ・ブック」と発言する主人公は数学者を超えたイタさを感じるなど、ひっかかる部分はあるのですが、本格が好きな気持ちと楽しさが伝わり良かったです。 次回作も楽しみです。 |
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警察小説、3億円事件。社会的で硬質漂うので、あらすじを読んだ印象では好みに合わない感じでした。ですが、評判で気になって読んだ所・・・当たりです。これは食わず嫌い本でした。
自殺とされた事件が殺人の可能性をおびて、時効寸前の前日に調査を再開。関係者を集めて過去を聞きだし真相を探っていく。 時効寸前というタイムリミットと、警察内の雰囲気がとても緊迫感をだしています。 容疑者達から過去の物語を聞いていくのですが、何が起きていたのか分らないもどかしさも重なって、ミステリの謎が気になる。という好奇心ではなく、真相がわからない事による『焦り』の雰囲気が巧かったです。 謎や伏線に至るミステリの面白さに、警察小説の雰囲気や人間模様などうまく絡んでおり、警察小説も悪くないと思わせる作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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いやはや。今回も楽しませて頂きました。この方の作品凄いです。
推理物のミステリとは違う小説ですが、『知るとは何か?』をミステリの謎と言うより哲学的に問いかけるSFよりな作品です。 堅物な作風だと頭が痛くなるような専門用語や論述をライトノベルの作風を使ってとても読みやすくしているのは毎回凄い所。 テーマの感じさせ方もうまく、読後余韻に浸り、いろいろと考えさせられました。 まず感じたのは『情報格差』です。 脳に付与された機器によって、得られ、隠せる情報制限を人々にランク付けさせる世界。 一般人はランク2。官僚はランク5。社会適性がないものはランク0で個人情報筒抜け。 コンピューターの進化や超情報化社会に発展する未来において起こり得る格差世界を体感させられます。 脳とコンピューターが接続する世界において知識とは、事前に知っている必要はなく、瞬時に検索してアウトプットできれば同義になるなど、未来における考え方の変化も興味深いです。 現代でもすでに知らない事はネットを活用して瞬時に回答を得られる能力があれば事足りる状況もあるわけで、その世界においての『知っている』『知らない』『知りたい』とは何なのかを感じる読書でした。 人間の生きるとは何なのか、全てを知るとはどういう事なのか、深いテーマを掲げて、 脳とコンピューターのSF世界をライトに楽しめる作品はそうそうないです。 ネタバレは後述するとして、作者の考え方の仏教や宇宙など巻き込んだ思考の到達点はかなり痺れました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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500Pを超えると読むのを躊躇ってしまうのですが、著者の本は読みやすい安心感があり手に取りました。本書も苦なく読めたので巧さは健在。
序盤から『何かの事件が起きた後』の事情聴取やインタビューの場で、登場人物達の供述でストーリーが進みます。 読者が質問者になったかのように、会話が一方的にこちらに話しかけてきます。 例えば、他人が携帯電話で誰かと話しているのを横で聞いているような印象を持ちました。 ですが、内容がよくわかる。片方の会話文が無いのに話がわかるのです。これはとても凄いと思いました。 不思議な構成や文章で読み進め、結局何が起きたのか?を悶々と考え、もどかしさを感じながら最後まで読んでしまいました。 読んでいて苦はなかったのですが、読み進めて行く最中に頭に過る、『何か』の想像を脱した結末ではなかったのが少し好みと逸れました。これは話のボリュームが長く、色々考える時間があった為です。もう少し話が短くて、心の準備をする間が無かったら違った印象を受けていたでしょう。 岡嶋二人作品で、話を短くシンプルにして勢いよく真相をぶつけてくる。あの感じを求めていたのかもしれません。 さて、長いから悪いとかそうではなくて、驚きよりも物語作りに唸ります。 顔が醜く社会と断絶していた人物が、とあるきっかけでモデルに心を奪われストーカーと化していきます。 『醜さ』が幾度となく表現され、それは見た目の顔だったり、歪んだ考え方だったりするわけですが、 『醜い』というのは相手があって初めて感じる表現なわけで、映像ではなく、文章で作っていった所の巧さを感じます。 構成のインタビュー形式にしても、相手の存在をなくして、独りで話していたりします。 ストーカーの一方向な思い込み、ビートルズの評論で自身の存在を認めていくのも然り、個の表現が不思議と目に留まりました。 いろいろな見方ができて面白い作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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深海4000メールの実験施設で起きる密室殺人。
SFミステリまで空想ではなく、理系ミステリと言った所です。 ミステリの舞台からしてシチュエーションの新鮮味を受けます。 外界から閉ざされたクローズド・サークルものであり、 犯行方法も然る事ながら何故ここで殺人を犯さなければならなかったのかの議論も魅力です。 登場人物達は施設にいる研究員なので、状況把握、思考回路も理路整然していているのもよいです。 事件が起きても他に影響されず、行動は自分で何事も判断。研究を続ける。個人の問題。無関心。 光が無い深海の冷たさ同様、『個』が強調されているのが魅力でした。 本書には地球の資源問題や深海を研究する上での土地問題、生物や食糧問題の解決、エネルギー問題の重要性などのメッセージ。 コンピュータが発達してネットワークでコミュニケーションが取れるようになった今、 人の繋がりを求める場合、物理的に同じ空間に人は必要なのか? コンピューターに映し出された文章に人を感じるなら、感情をもった人工知能が人の繋がりを代用できるのか。など、 人との触れ合い、孤独とは何かのテーマ性を色々と考えさせられました。 ミステリとしても、テーマ性にしても特徴的で面白く、 また、それらが巧く融合された作品となっています。 理系のミステリが好きなので満足でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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【ネタバレかも!?】
(1件の連絡あり)[?]
ネタバレを表示する
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事件の生存者、梢絵の疑問、
なぜ私は襲われなければならなかったのか?という犯行の動機から始まり、連続殺人のミッシングリンク、推理によっては犯行現場が密室や犯人消失模様になって混迷する真実など、序盤に事件の概要が展開されたあとは、ひたすら推理する作品です。 ロジカルな思考に触れる展開が好きなので面白かったです。 ただ、推理場面は良いですが、題材の謎自体の魅力が弱く、 惹きこまれて先が気になるような展開ではなかったのが残念です。 事件がサスペンスドラマな印象で、もっと不可解な怪奇性があれば良かったと思いました。 推理だけの本と思いきや、ミステリの要素はかなり豊富です。 盛りだくさんの要素を巧く組み合わせた、技巧的な作品でした。 |
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読み所が豊富で、1冊読んだだけなのに何冊も読んだ気分です。
冴えない二流作家のハリーはSF,ミステリ,ヴァンパイア,ポルノを描く時にそれぞれペンネームを使い分ける。 ペンネームをコロコロ変えて自分固有の名前で出版しないのは自己ができてなく自信が無いないからなど、作家ハリーの人柄がとても良く感じる事ができました。 著者近影を母親や友人に頼んだりと、自身をとにかく伏せているのですが、これらが相まって読後にふと思った事。 本書の著者デイヴィッド・ゴードンは何者なのでしょうか? 映画監督や実験新作などで使われたりしますが、著者はハリー同様に自身を伏せた名のある作家の別名義なのかもしれないと勘ぐってしまいました。 作家や作品作りの思い、 推理小説が一番面白いのはページの最初の方だ。というミステリの考え方。 (例えが多く、かなりのミステリ好きだと感じさせる雰囲気もある) 著者の様々な思いを登場人物達に語らせている所が興味深く面白かったです。 あと翻訳がとても凄いと思います。 キャラや物語など色々と詰め込んで盛りだくさんなのに、 それぞれの表現が分かりやすいし気持ちが伝わる。この感覚は久々でした。 |
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恋愛や友人関係、家庭事情、思い詰めての自殺願望など、
日常生活に入り込んでしまった歪んだ感情を"ノイズ"と表現している所が感慨深かったです。 闇に染まってしまう悪い感情もあれば、 よくよく考えると相手を思って生まれていた恋愛的なノイズもあるわけで、 複雑な寂しさや悲しさの感情が漂う作品だと思います。 さて、そんな世の中のノイズから耳をふさいでいるのか、 表紙に描かれたヘッドフォンを装着した少女が探偵役。 超頭脳で瞬時に解き明かす真相の流れは気持ちがよいです。 ヘッドフォンなどで外音をしっかり遮断した場合、 自分の血流のノイズを感じたりするわけで、 この少女が耳にしているものは自分自身の回想なのかと思いました。 連作集最後の『静かな密室』。 これはミステリとして、また、恋愛物としてもラストを飾るのに良い作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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