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梁山泊 さんのレビュー一覧

梁山泊さんのページへ

レビュー数105

全105件 41~60 3/6ページ

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No.65: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

最悪の感想

孫請け零細工場の社長、コネ入社の地銀窓口で働くOL、カツアゲ・窃盗を繰り返すチンピラ。
この一見何の関係もなさそうな3人の登場人物が「最悪」に向かって深みに嵌っていくという物語です。
この3人に共通するのは、何れも「ピラミッドの底辺」にいる人達だと言う事でしょうか。
(約一名、自業自得な人はいますが)即ちこの作品で描かれる「最悪」とは底辺ゆえの「理不尽な最悪」だと言えます。
「あぁ多分この人こうなっちゃうな~、最悪」通りの展開になってしまって「何の捻りもない」なぁ、とも思ったのですが、それだけリアリティがあるって事でしょうか。
正直、読んでいて辛くなってきますね。
そんな3人が「最悪」のタイミングで出逢うのですが、ここからは一転ハチャメチャになります。
さっきまでのリアリティが影を潜め、少し喜劇のようになるのですが、「最悪」を通り超しちゃって最早笑うしかない、って感じでしょうか。
人間、冷静さを失うとこうなってしまうのかも。こちらも意外とリアリティがあるのかも知れません。

最悪 (講談社文庫)
奥田英朗最悪 についてのレビュー
No.64:
(8pt)

七色の毒 刑事犬養隼人の感想

刑事犬養シリーズの2作目で7作の短編集です。
総ページがさほどない中の7作という事で、1作1作が相当に短くなっています。
そんな中で、作者が大好きなどんでん返しを、って感じになっていて、正直犯人はほぼほぼ予想できてしまいます。


▼以下、ネタバレ感想
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七色の毒 刑事犬養隼人 (角川文庫)
中山七里七色の毒 刑事犬養隼人 についてのレビュー
No.63:
(8pt)

本日は大安なりの感想

結婚式場を舞台に、ウエディングプランナーを主役とした4組のカップルの物語。
伊坂幸太郎を意識したような多視点構成で描かれていて、晴れの良き日に何を考えてるんだよ、な連中が巻き起こするドタバタ劇なわけですが、伊坂作品と違うのは、「あぁ、こういう人って実際いるよね」なところでしょうか。
最後上手く収束されるのですが、そこには男性が絡んでいるんですね。
結婚披露宴は勿論新婦が主役なのですが、それを裏からしっかり包み込む新郎、主人公の同僚など、脇役である男性の優しさを描いた作品だと思いました。
まぁ、約1名どうしようもないバカ男がいましたが・・・その男は例外ってことで。
彼だけは地獄に落としてもよかったんじゃないかな(笑)

本日は大安なり
辻村深月本日は大安なり についてのレビュー
No.62:
(8pt)

ヒポクラテスの誓いの感想

法医学教室を舞台とするヒポクラテスシリーズの1作目です。

「死体は嘘をつかない」
なる程その通りであり、正直者の死体さんから色々な情報を引き出し、ミステリで言えば、トリックを暴いたり、真犯人をあぶり出したりと、題材にされることは多いように思います。
とは言え、読み手には決して明るくない分野ですから、専門用語の羅列では厳しいですし、リアリティを追求せんとすればグロテスクになり引かれてしまいます。
この手の作品の場合、重要なのはこの辺りのバランスだと思いますが、このシリーズは、主要登場人物達のそれぞれの立ち位置が、上手く作品のバランスを取っていて、偏った方向へ深く進んでいかないようになってますね。読みやすいと思います。

「管轄内で既往症のある遺体が出たら教えろ」
凄腕光崎教授から、例の埼玉県警捜査一課古手川くんへのこの依頼が作品のキーとなっていて、各5つの章、1つの事件を扱うという形になっています。
それがラストで、上記教授の意図から、内科医を目指していた主人公真琴が法医学教室に派遣された理由など全てがきれいに繋がるという構成です。
これまでの作者の作風から、恐らく最後こうなる、というのは予測できてしまうのですが、無理くりのどんでん返しといった感じはなく綺麗にまとめたなという印象を受けました。

手違いで2作目を先に読んでしまっていたのですが、この作品の方が、綺麗にまとまっているというだけでなく、個性的な登場人物らの人間性や関係性の提示もあって面白いです。
それにしても、発掘される事なく埋もれたままでいる真実って実は沢山あるんでしょうね。怖いなー。

ヒポクラテスの誓い (祥伝社文庫)
中山七里ヒポクラテスの誓い についてのレビュー
No.61:
(8pt)

作家刑事毒島の感想

図書館本です、ごめんなさい。
好き勝手に書評書いてます、ごめんなさい。

「音楽モノ」に加えて「出版業界モノ」がラインナップに加わったと考えていいのでしょうか。
メッセージ性の高い作品を多く描く作者ですが、この作品は、「メッセージを発信する」というより、主人公の名前からも分かるように「毒を吐く」である。
対象は自身が身を置く出版業界。
刑事物であるから事件は当然起こるのだが、その裏で皮肉やら嘲笑やらをチクチク披露する。
主眼はそっちだろうと言わんばかりで、主人公の日頃の鬱憤を毒島の口を借りて晴らしているといった感じだ。
(さすがに自分が身を置く業界なので)キレたり、ドカーーーンと暴言を吐いたりはしない。
毒島はそういうキャラ設定にしてあり、サラッとキツイ事を言う。
作者が普段から思ってる事なのかなと勘ぐるっていうより半ば確信しています。
シリーズ化希望します。
次はお金払って読みます。
作家刑事毒島
中山七里作家刑事毒島 についてのレビュー
No.60:
(8pt)
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ヒートアップの感想

「魔女は甦る」の続編。
前作だけでは余りに消化不良なので、前作を読んでいるなら読むべき作品だと思いますし、勿論前作を先に読んでおくべきでしょう。

ひょんな事からヤクザとコンビを組んで、ヒートの売人を探す事になった主人公・七尾。
主人公・七尾は、前作にも少しだけ登場しており、(前作の主人公)宮條を慕っていた麻取のエース。
麻薬の効かない体質というのも、今までにない、中々に効果的な設定だと思います。

しかし、その売人が殺されて、殺人容疑をかけられてしまう。
追手の追従をかわしながら疑いを晴らし、という食欲をそそる展開なわけですが、その追手というのが、嘉手納基地から発進されたホーネットって・・・
正直、こういうのやめて欲しい。
「魔女は甦る」→「ヒートアップ」って、タイトルだけ聞いていると、どこか宮部みゆきっぽいな、なんて思ってたんですけど、こういう時、宮部みゆきならお得意の「魔術」が降臨するわけですが、この作者の場合は「バイオレンス」でオトスんですね。
どっちもどっちだけど「魔術」の方が全然マシです。
2点減点。

それにしても、宮條が生きていて、ヤクザの山崎とあの御子柴が繋がっているという・・・
出し惜しみしないという点は相変わらずです。
これは続編がなきゃウソだね。

ヒートアップ (幻冬舎文庫)
中山七里ヒートアップ についてのレビュー
No.59: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

わたしたちが少女と呼ばれていた頃の感想

碓氷優佳シリーズエピソードゼロ。
倒叙ミステリ三部作で探偵役として活躍する碓氷優佳の高校生時代を描いたエピソードゼロ的作品です。
タイトルからは、人間・碓氷優佳を形成するきっかけとなったエピソードでも描かれているのか、など期待していましたが、この頃からキレキレでした。

折り返しの「著者のことば」には、三部作を先に読んでいなくても楽しめるとありますが果たしてそうでしょうか。
三部作未読の方にとっては、少し読後感の良くない単なる日常の謎風ミステリと感じるのではないでしょうか。
しかし、三部作既読であれば、ラストの展開にはニヤニヤなはずです。
既読者にとっては、ある意味この作品も倒叙ミステリといえるのではないでしょうか。
表装の萌え絵でカムフラージュされていますが、登場するのがあの碓氷優佳である以上、ライトな物語であるわけはないですからね。
個人的には「扉は閉ざされたまま」くらいは先に読んでおいた方がいいかなと思います。
わたしたちが少女と呼ばれていた頃 (祥伝社文庫)
No.58:
(8pt)

ハーメルンの誘拐魔の感想

犬養シリーズの3作目。
いわゆる裏七里と言われている御子柴や犬養シリーズでは、メッセージ性の高い作品を多く世に送り出している作者ですが、この作品はそれらの中でも最もメッセージ性が高いのではないかと思います。
子宮頸がんワクチンの副作用を題材に薬害問題を描いた作品。
犬養の特性も発揮しづらい舞台であった事もあり、それを補うべく女性のパートナー、とも思ったのですが、そのパートナー、犯人推理には全く役に立っていません。
女性の代弁者として、男どもに物申すといった役どころで、正直捜査の場には邪魔者以外の何者でもなかったですね。
ってなわけで、ミステリー色は薄くなり、社会派に傾いています。
そもそも登場人物が少なく容疑者候補が絞られる上に、◯◯犯にしか思えない手口でしたから、読中から最後の展開が何となく予想できてしまいました。
お得意のどんでん返しも、着地点が予想できていたので効果半減といったところでしょうか。
だったら面白くなかったのか、というと決してそうではなく、これまでの無理くりなどんでん返し作品が安っぽく思えてしまえるくらい、読後はずっしりと印象深い作品になりました。

ハーメルンの誘拐魔 刑事犬養隼人 (角川文庫)
中山七里ハーメルンの誘拐魔 についてのレビュー
No.57: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)
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恩讐の鎮魂曲の感想

御子柴礼二シリーズ3作目。
今作ではこれまでのダークなイメージを払拭。
というのも、前作で明らかになった彼の過去による世間からの逆風の中、昔の恩師であり、自身のせいで半身不随、そして失職させてしまった稲見のために奔走する姿が描かれます。
前作で岬洋介の父を登場させたかと思ったら、今度は恩師稲見。
それにしても出し惜しみしない作家さんだ。
そして、メッセージ性の高いシリーズという点は今作も踏襲しており、今作は「介護施設」
自分の親ですら投げ出して全てを終わらせようとする人間もいる、ましてや赤の他人相手である。
劣悪過酷な仕事、だったらお前がやってみろよ、となるのは理解できるが、だからといって虐待が許されるわけない。
これが高齢化社会の現実なのかと思うと悲しくなってくる。

最終的には御子柴の敗北とも言える判決。
しかし、自分の罪を裁くのは裁判所ではなく俺なのだという頑なまでの恩師の姿に、新たに大切なものを教わったんじゃないでしょうか
この経験を機に弁護士御子柴がどのような変化を遂げるのか、次作が楽しみである。

恩讐の鎮魂曲 (講談社文庫)
中山七里恩讐の鎮魂曲 についてのレビュー
No.56: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

祈りの幕が下りる時の感想

テーマは親子愛でしょうか。
歪な形と言えますが、父娘の愛情の深さを痛感させられました。
物語の中心となる父娘には、かなり同情的な読み方になってしまいましたね。
正直、もっと違う方法があっただろうに、と思うものの、かと言ってじゃあどうするのが正解だったのかと聞かれても言葉に窮してしまいそうです。
裏切られて残された者の苦しみ悲しみ、ってな作品は数多く読んできた記憶がありますが、父と娘ってのが私にはツボだったかも知れません。

人間関係はかなり複雑となる今回の事件ですが、加賀母子も相関図に登場します。
これまでのシリーズで謎のままとされていた、加賀の母親の失踪の理由、そして加賀が日本橋の所轄に固執した理由が明らかにされました。
本庁復帰が決まり、私生活の方でも変化がありそうです。
新たなる加賀恭一郎の幕が開けられるのでしょう。
次回作を楽しみにしたいと思います。

祈りの幕が下りる時 (講談社文庫)
東野圭吾祈りの幕が下りる時 についてのレビュー
No.55:
(8pt)

海賊とよばれた男の感想

出光興産の創業者である出光佐三氏をモデルにした、ほぼほぼノンフィクションな作品だろうと私は解釈しています。
同じような事を言及されているレビュアーの方もいらっしゃる通り、私も少し「盛ってるなぁ」って感じます。
というのも、主人公を余りにも素晴らしい人物として描き過ぎているんですよね。
そうなると、どうしても作り物っぽく聞こえてしまいますよね。
主人公の振る舞いが全て正義であるわけがないのですから。(あれだけ目立ったことをして)
敵対勢力が幾つか登場してきますが、彼らにも彼らの正義があるわけで、もし彼らの視点からこの物語が描かれたならば、主人公はボロカスに言われることでしょう。
あと、章が短く区切られており読みやすいのですが、その分、苦難、苦悩に対する描写に深さがなくなっている気がします。
わずか数ページ後には解決してしまっているのはどうなんでしょう。浅くないですか。
なので短い章立てについては、どういう効果を狙ったのかは不明ですが、個人的には効果的ではなかったのでは、と感じています。

私がこの作品を読んで一番印象に残ったのが、
主人公が本を読まない、というか読めない人であったこと。 そしてそれが彼に「考え抜く」という力を与えたという下りです。
まぁ確かに、私なんぞは、本で仕込んだ事をまんま職場で実践してたりしますね。

主人公の、石油が世の中を動かすという先見の明や「ブレなさ」には大いに感銘しましたが、彼のやり方は、今の時代では通用しないですよね。
生きていくためにやるしかない、寧ろ「やらせて下さい」という時代だったわけですから。
それに今時、経営者に敬意を表する社員なんていないでしょうし。逆に上から目線です。
時代が違いすぎますね。
まぁ、「やりがい」があれば、どんなにキツイ仕事でも、人は喜んで働けるという事は今の時代でも変わらないと信じたいですが・・・
多分これも当てはまらなくなってきている気がします。

海賊とよばれた男 上
百田尚樹海賊とよばれた男 についてのレビュー
No.54: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

死神の浮力の感想

今作は長編。
伊坂らしい機知に富んだ発言の製造マシーン「千葉」は私にとって、No.1伊坂キャラであり、今作も十分に楽しめました。

しかし、同じ事を言及されているレビュアーもいらっしゃいますが、私も長編作品では「死神ルール」が活かされないように思います。
一番上手く活かせるのは、伏線の連鎖を楽しめるという意味で、前作のような連作短編ではないかな、と。
「決して贖うことの出来ない巨大な悪意や権力」が背後にデーンと存在する事が多い伊坂作品。
今作は、25人に1人存在するという、良識を持たない故に出来ないことがないというサイコパスが登場します。
しかし、千葉は死「神」なわけで、強大な敵が意味をなしません。読み手はそれを知っています。
子供を殺された被害者の復讐劇なわけですが、千葉は世間一般からは少しずれているわけで、そんな千葉と共有する時間が長いほど、復讐劇が滑稽なものに思えてきました。
今作のような緊迫感が必要な重いテーマに千葉の登場は合わないように思います。
ラストは良かったですけどね・・・
面白かったですけど、前作に軍配です。

死神の浮力
伊坂幸太郎死神の浮力 についてのレビュー
No.53:
(8pt)

銀翼のイカロスの感想

半沢直樹シリーズ第4弾。
前作のロスジェネの表紙が六本木ヒルズ、そして今作が国会議事堂という事からも分かるように、物語のスケールが飛躍的に大きくなっています。
航空会社再生がテーマになりますが、政権交代からの前政権の施策の無効化などなど、まさにあのJAL再生タスクフォースを容易に連想できてしまいます。
「お前は前原だと思えばいいのか」とか「ひょっとして蓮舫なのか、蓮舫なんだよな」なんて想像したくなくても、勝手に頭が置き換えてしまう、そんな読書タイムになりました。

今回は敵が余りにも大き過ぎてさすがに無傷ではいられず、というより失ったものも大きかった。
このシリーズの「正義は勝つ」的展開は、相変わらずスカッとはさせてくれるのですが、どこか予定調和になりつつあります。
後ろ盾も無くしてしまった事が、次作以降にそれがどう影響するのか楽しみでもあるのですが、ちょっと話のスケールが大きくなりすぎて「次どうすんのさ」という心配の方が大きいかな。
大和田はまだ健在、そして黒崎とのタッグなんかも読んでみたいですね。

銀翼のイカロス (文春文庫)
池井戸潤銀翼のイカロス についてのレビュー
No.52:
(8pt)

ロスジェネの逆襲の感想

半沢シリーズ3作目。

「危機感なきバブル世代」「割を食うロスジェネ世代」
主人公の半沢はバブル世代であり、ロスジェネ世代が敵意を剥き出しにするのはバブル世代だろうから、半沢VSロスジェネ世代という図式の物語なのかと思っていました。
このシリーズの代名詞にもなっている「倍返し」ですが、まさか後輩相手に倍返しするつもりか、なんて読む前は思ってましたが、ロスジェネ世代と半沢がダッグを組んで、という話でした。

テーマは「企業買収」
東京スパイラル社長の瀬名はどう考えてもホリエモンがモデルですね。
過去2作より、遥かに壮大なスケールとはなっていますが、弱者が強者に立ち向かうというこのシリーズの定番パターンは、子会社が親会社に反旗を翻すという形でしっかり踏襲されています。
っていうか、過去にこんな実例あるのか・・・と、無知な私などは考えてしまうのですが・・・

作者は、半沢の口を借りて「世代論に根拠などない」と発言させてますね。
しかし、私はロスジェネ世代はやっぱり割りを食っていると思います。(私はロスジェネ世代ではありません)
だから「世代論に根拠などない」には同意しかねるのですが、自分が育った時代に恨み言を言っていてもしょうがないですよね。
正直、作者の池井戸さんは、ロスジェネ世代に優しくないなぁ、と思いました。
厳しいながらもエールを送っているとは思いますけどね。

結局は半沢、になってしまうのは仕方ない気もしますが、このタイトルであれば、もう少しロスジェネ世代の活躍があっても・・・と思いましたね。

ロスジェネの逆襲 (文春文庫)
池井戸潤ロスジェネの逆襲 についてのレビュー
No.51: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

邂逅の森の感想

「読書をした」そんな気持ちにさせてくれた本。

時代背景は第一次大戦前後、場所は東北。
そこに生きる主人公であるマタギの少年期から初老期までの波乱万丈の人生を描いた物語である。
この地では、男は余程の事がない限り、大人になればマタギになる。
主人公の富治は、弱冠16歳にて、父や兄と同じようにマタギとなるのだが、女性関係によりマタギという職を奪われただけでなく村をも追われてしまう。
紆余曲折の後、再度マタギとしての第3の人生を歩み出す・・・という物語。
逞しいというか力強いというか・・・男とは本来どういう生き物であるかというのを表現しているように思いました。

そういう男達の逞しい人生の裏側で、貧困という厳しい現実を背負う女達がおり、その表現者として、富治の嫁となるイクを登場させています。
私が心を打たれたのは富治よりも寧ろイクの生き様でした。
僅か12歳で身売りに出され富治とは比較にならない薄幸な人生を歩みながらも、結婚を契機に別人のように変貌を遂げる。
当時の女性はいつ誰から男につくす事を学んだのだろう。
彼女たちは幸せだったのだろうか。

邂逅の森 (文春文庫)
熊谷達也邂逅の森 についてのレビュー
No.50: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

孤独の歌声の感想

ミュージシャン、刑事、サイコパス・・・三者三様、3種類の「孤独」が描かれており、物語は、この三人の視点が入れ替わりながら進行します。
この作品で言う「孤独」とは、いわゆる”ひきこもり”のような、集団に溶け込めず、世の中の困難から背を向けている、といった「孤独」ではありません。
彼ら彼女らは、積極的に誰かとの繋がりを求めている、強いメッセージを発しているのだ、悲痛な「叫び」である。

この作品では、サイコパスによる連続殺人事件が発生します。
読むに耐えない猟奇的な内容なのですが、「如何に解決されるか」は物語の本質ではない。そんな気がしています。
主要人物達の屈折した思考をトレースし、彼らの「叫び」に耳を傾け、何を感じるか、共感できるかできないか、そんな作品な気がします。

サイコパスを追う、ミュージシャンと刑事、孤独な彼らの繋がりを求める叫びが、リレーに比喩されています。
個人的にそこが凄く好きです。
というか、上手く言えないのですが、この作品の「ポイント」な気がします。
ミュージシャンとしてもランナーとしても抜けた能力を持つ主人公は第1ランナー。
彼が光り輝けるのは、バトンを受け取ってくれる第2ランナーのおかげ。
女刑事はアンカー走者。チームのエース。
しかし、誰かがバトンを渡してくれなきゃ存在価値がない。
後は頼んだぞと、誰かが背中を押してくれるのを孤独に待っている。

「誰か俺のバトンを受け取ってくれ」
「誰か私にバトンを渡して」

そんな2人が惹かれ合い最後サイコパスと対峙する。
サスペンスだと思いますが、全編暗く重く、スピード感には欠けます。
が、それを求めていい作品ではないでしょう。

孤独の歌声 (新潮文庫)
天童荒太孤独の歌声 についてのレビュー
No.49: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

奪取の感想

偽札作りの物語ですが、主人公がその困難に立ち向かい1つ成し遂げる度に、名前と顔を変え新しい目的に向かっていく。
新しい仲間が加わり、偽札作りの技術もレベルアップしていき敵も巨大化していくという。
こそ泥が最後天下の大泥棒に変貌を遂げるという感じでしょうか。
誰もが好きな展開と言えるかも知れませんね。
ただ、多くのレビュアーさんも語っているように、製法に関する薀蓄が過ぎる。
よく調べあげたなとは思うのだが、長編作品全体の1/4くらいがそれで、しかもリアリティの追求という事なのだろうが、読み手には詳細が過ぎないだろうか。
一方でその薀蓄を除く本編のノリは道尾秀介「カラスの親指」を髣髴とさせる軽さがあるのである。
「重い」「軽い」が交互に来るアンバランス感が最後まで拭えなかった。

そして「カラスの親指」との決定的な違いは物語のラストにある。
こういう終わり方もありだとは思うが、「カラスの親指」を意識させた分、その落胆は大きかった。
ただ標準点を大きく上回る面白い作品だったことは間違いない。

奪取(上)-推理作家協会賞全集(86) (双葉文庫)
真保裕一奪取 についてのレビュー
No.48: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

明日の記憶の感想

若年性アルツハイマーにかかった働き盛りの50才の男性が記憶を無くしていき、徐々に変わっていく日常生活を彼の一人称で描いた作品。

「記憶が消えても私が過ごした日々が消えるわけでない。私が失った記憶は私と同じ日々を過ごしてきた人たちの中に残っている」

これは人間の死に置き換える事も出来てしまう。
記憶を失うことは人間としての死を意味するのだろうか。
読んでいて相当に息苦しい。
その辺のミステリーよりよっぽど怖い。

最後残りページも少なくなってきて「作者は一体どのような形にこの物語をまとめようとしているのか」気になって仕方なかった。
正直少しイライラしていたかも知れない。息苦しいまま終わるのではないよな、と。
で、ラスト2ページ。
「あぁこういう終わり方ね」と最初思った。
わずか2ページ。
読み終わる頃には涙が止まらなかった。
妻の愛の強さに感動。

明日の記憶 (光文社文庫)
荻原浩明日の記憶 についてのレビュー
No.47: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

らせんの感想

15年ぶりの再読。

「このビデオを見た者は1週間後に死ぬ」
正直アイデアの勝利でこれに食いついた人は多い。
おまけに山村貞子を全国区に仕立てあげた映画のあのホラー演出。
山村貞子=リング であり リング=山村貞子 となるのもやむを得まい。
しかし小説の「リング」は消化不良な終わり方をしており正直単独では評価できない。
個人的には「らせん」あっての「リング」だと思っています。

得体のしれない恐怖が、浅川、高山、たった二人だけの世界で展開された前作から、
前作の主要人物であったその二人は姿を消し、徐々に真相が明らかになってゆき広がっていく。
その広がってゆく、最早止められないという恐怖。
小説では読んでいてドキドキするのは圧倒的に「らせん」なのだ。
それに、小説リングではTVから貞子は出てきませんが、小説らせんではFAXから出てきます(笑)
ほら、こっちの方が怖い(笑)

「呪い」だったものが「ウイルス」へ。
非現実的である「呪い」を主人公の医師が解き明かしてゆく。
前作の「呪いのビデオ」というオカルトを根底から否定して論理的に解き明かそうとするところが面白い。
その時点でこの作品はホラーではなくなっている。
そもそもビデオを見る事で人が死ぬというという事象に現実的な理由を付けることなど不可能な訳で、突拍子もない展開を見せるわけだが、決してトンデモ作品になってはいない。
医学に明るい人には「はぁ!?」なのかも知れないが、少なくとも私にはジャンルを突き抜けたスケールを感じる事ができた。
想像を遥かに上回る結末に舌を巻いた。
シリーズに相当な奥行きを与えたと思う。

らせん (角川ホラー文庫)
鈴木光司らせん についてのレビュー
No.46: 5人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)
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ダレカガナカニイル…の感想

某宗教団体が事件を起こし、そういう団体の存在や危険性がフューチャされる前に書かれた作品、という事にまず驚かされる。
「ポア」という言葉が作品のキーワードになります。
某宗教団体とは違った意味で用いられているのですが、何故この言葉を知っているのかと不思議に思ったくらいです。
どうやら「死後の意識の移し変え」を意味するチベット仏教用語らしいですね。

井上夢人としては初読。
裏表紙に多重人格ミステリとあり、文庫本表紙のあの雰囲気、そしてこのボリューム。
少し重い作品を想像していましたが、岡嶋二人の抜群のリーダビリティは健在でした。
・・・ていうか多重人格じゃないと思うけど。

正直謎解きの部分は並より少し下のレベルです。
私にとってハズレの少なかった岡嶋二人でしたが、う~ん、やっぱ(一人で描く)最初の作品ってこんなものなのかなー・・・って思っていたら最後の最後に突然それはやってきた。
余りにも唐突で、油断していると一瞬どうなってるのか分かんないかも知れません。
どんでん返しとは違うのだろうが、「ひっくり返される」ってこういう事を言うんだろうなと思います。


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ダレカガナカニイル… (講談社文庫)
井上夢人ダレカガナカニイル… についてのレビュー