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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数529件
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2017年、86歳になったル・カレが発表した新作長編。なんと、「スマイリー三部作」に決着をつける後日談という、大胆な作品である。
フランスの田舎で隠遁生活を送っていたスマイリーの愛弟子ピーター・ギラムは、英国情報部からロンドンに呼び寄せられ、冷戦時代の作戦で死亡した情報員の遺族から訴訟を起こされようとしていると知らされる。しかも、情報部だけでなく、スマイリーとギラムの個人的な責任も問われるおそれがあるという。作戦の詳細について、情報部から厳しく問いただされたギラムはやむなく、かつて隠しておいた作戦の資料を情報部に渡すことになった。資料に残されていた記録、ギラムや関係者の記憶が重なりあったとき、作戦に秘められていた真実が明らかになった。 手に汗握る情報戦が展開されたスマイリー三部作の裏に、何が隠されていたのか。巨匠は、大昔の作品のプロットや登場人物を巧みに動かしながら、冷戦時代とはまったく異なるスパイ小説を完成させた。情報戦のスリルとは異なる、冷酷で厳しいスパイの哀しみが胸を打つヒューマンドラマである。 スマイリー三部作時代からのファンはもちろん、ル・カレは初めてという読者も十分満足できるだろう。オススメだ。 |
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アメリカでは既に10作が発表されているという人気シリーズの第1作で、本邦デビュー作。凄腕のCIA秘密工作員が主役ながら、最初から最後まで笑わせてくれる、傑作ユーモアミステリーである。
中東で暴れて武器マフィアから命を狙われることになってしまったCIA秘密工作員のフォーチュンは、CIA長官の配慮で長官の姪に身分を偽ってルイジアナ州の田舎町シンフルに身を潜めることになった。小さな田舎町で静かに暮らすはずだったのだが、到着早々、保安官助手には目をつけられ、隠れ家の裏で人骨が発見されたことから、地元の殺人事件に巻き込まれてしまう・・・。 物語のメインは殺人事件の真相解明で、それなりに筋が通ったストーリー展開で楽しめる。しかし、最大の読みどころは、事件解明に積極的に関与してくる2人の老婦人との掛け合いである。とにかく元気いっぱいで、頭も腕も立つ老人たちと凄腕工作員のハチャメチャな活躍が楽しい。 犯人探しとは言え、警察小説ではなく、私立探偵ものの一種、ユーモア系のPI小説である。さらに、女性が主人公のPIものだが、ウォーショウスキーやキンジーなどとは異なり、アクション場面もユーモラスである。 笑えるミステリーが好きな人、例えばカール・ハイアセンのファンなどには絶対のオススメだ。 |
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2016年度英国推理作家協会の新人賞と最優秀長編賞をダブルで受賞した、アメリカの作家のデビュー作。クライムノベルであり、ロードノベルであり、成長物語であるという解説文の通りの力強いエンターテイメント作品である。
ロサンゼルスのギャングの末端で働いていた15歳のイーストは、組織のボスである叔父から、組織に不利な証言をする予定の証人を殺害するように命じられた。証人がいるのはLAから2000マイル離れたウィスコンシン州で、そこまで車で行けという。組織が同行メンバーに選んだのは、20歳、17歳の少年とイーストの弟で13歳のタイだった。組織と叔父に忠実なイーストは、バラバラな仲間たちに手を焼きながら必死で任務を果たそうとするのだが、思いがけない事態の連続で、心身ともに疲れ果ててしまう。苦労に苦労を重ねた末に任務を果たしたイーストたちだったが、帰り道はさらに過酷な物だった・・・。 ギャングが証人を消すというクライムの部分、2000マイルをドライブするロードの部分、そして15歳のイーストが世の中を知って行く成長物語の部分が様々に重なり、入れ替わり、入り交じり、実に多彩な顔を見せる作品である。最後も「少年は立派に成長しました」という単純なハッピーエンドではなく、作品の深さをあとからじわじわと感じることになる。 三つの側面を持つ作品だが、クライムノベルというより、ロードノベル、成長物語と思って読むことをオススメする。 |
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カーソン・ライダー刑事シリーズの第9作。邦訳ではシリーズの6作と8作が抜かされているので、7冊目になる。前作「髑髏の檻」がちょっとダレてきたように感じて心配だったのだが、本作は元のシリーズに戻ったような緊張感溢れる作品で安心した。それにしても第6作と8作が何故抜かされたのか?、シリーズ愛読者としては気になるところである。
自転車に乗っていた女子大生、車いすの黒人少年、若い白人男性の介護士が、相次いで殺害された。被害者の社会的属性に共通点は無く、犯行に使われた凶器もバラバラの事件だったが、これは犯人がライダー刑事に挑戦するための犯罪だったことが判明する。市警本部長を始めとする上層部や被害者家族からも「事件を引き起こした』として、いわれなき非難を浴びながら、ライダー刑事は相棒ハリーとともに犯人探しに奔走するのだが、犯人の手がかりはまったく掴むことができなかった・・・。 本作では、これまでのライダー刑事の一人称での語りだけでなく、随所に犯人グレゴリーの語りが挿入されており、犯人探しではなく、警察による捜査と犯行の背景の解明がメインストーリーとなっている。さらに、ライダー刑事の恋愛エピソードが花を添え、サスペンス一辺倒ではないエンターテイメント作品に仕上がっている。また、カーソン・ライダー自身に大きな変化が訪れそうな幕切れになっているのも見逃せない。 犯人の凶悪さが際立っているという点では、サスペンス小説として高ポイントだが、犯人の生い立ちを知ると暗くて重い気分になってしまう。残酷なシーンや嫌悪感を招きかねない描写がいくつもあるので、小説の描写に影響を受けやすい方にはおススメできない作品であり、ことに犯人グレゴリーのパートを読むときは気持ちを強く持って対応することをオススメする。 シリーズの流れに大きく影響しそうな作品だけに、できれば第1作から読むことをオススメしたいが、本作だけでも十分に楽しめることは確かである。 |
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オーストラリアの女性作家のデビュー作。大干ばつに襲われたオーストラリアの田舎町を舞台に、現在と過去の事件が複雑に絡み合う犯人探しミステリーである。
経済事件専門の連邦警察官フォークは、幼なじみのルークの葬儀のために二十年ぶりに故郷を訪れた。大干ばつに見舞われて農場経営に行き詰まり、妻と息子を道連れに無理心中したとされたルークだが、自殺にしてはつじつまが合わないことがあるとして、フォークはルークの両親から事件の真相を探るように依頼された。気乗りはしなかったが、幼い頃から自分を可愛がってくれたルークの両親のために、フォークは地元の警官と一緒に捜査を進めるが、疑惑が深まるばかりで真実は一向に見えてこなかった。さらに、二十年前にフォーク父子が故郷を追われる理由になった忌まわしい出来事が原因で、フォークは地元住民から様々な嫌がらせも受けるのだった。大干ばつの影響で崩壊しかけた田舎町では、過去と現在が影響しあい、人々は互いを傷つけながら生きていた。そんな中、苦労に苦労を重ねてフォークが解き明かした真相は、新たな悲劇につながる悲惨なものだった。 数年ぶりに帰郷した警官(探偵)が事件に巻き込まれ、昔の出来事の真相を発見するというのはよくあるパターンだが、決して陳腐な作品ではない。舞台設定の上手さと伏線になるエピソードのリアリティが物語に躍動感を与え、謎解きミステリーとしても、ヒューマンドラマとしても完成度が高い。本作の成功を受けてシリーズ化が決まっているというのもうなずける。 良質なエンターテイメント作品として、幅広いジャンルのミステリーファンにオススメできる。 |
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ウェブ連載の7本の連作短編に、単行本化に際して短編1本を追加し、共通テーマで仕上げた長編作品。ミステリーというよりは、筆者お得意の企業活動に絡むクライムノベル系のエンターテイメント作品である。
物語の舞台は、日本を代表する総合電機メーカーの子会社である中堅のメーカー。そこでの営業部、製造部の対立や上下関係、人事での思惑、親会社や協力会社との軋轢など、どこにでもある問題をピックアップしながら、企業活動とは何か、家族、仲間とは何かを問いかけてくる。 7本の短編が、それぞれに完成度が高くて読み応えがある。しかも、8本が連続して、さらに大きなストーリーを構成し、最後まで読者を引きつける強さを備えている。ミステリーとしてはさほどスリリングではないが、企業小説、家族小説としては非常に良くできている。さすが、池井戸潤。幅広い読者にオススメだ。 |
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「警察捜査小説の不朽の名作」という解説の通り、国内外のミステリ・ベストでは必ず名前が出てくる歴史的な作品。
カレッジの一年生で18歳の女子大生が学生寮から失踪した。成績優秀で浮ついたところは無く、家庭内の悩みも無いと思われていた女性が、なぜ姿を消したのか? 警察署長フォードは少ない物証に苦心しながらも、何事にも手を抜かない徹底的な聞き込みと熟考に熟考を重ねた推理で、犯行の真相に迫り、犯人を突き止めるのだった。 最初から最後まで、女子大生の失踪の真実と犯人探しに徹した、まさに「捜査小説」である。1952年発表なので、現在の基準からすると乱暴な捜査だし、犯人の意外性もストーリー展開のスリルもないのだが、警察捜査小説の基本パターンを確立したという点で、古典的名作と評価したい。 |
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「交渉人」シリーズで人気の作者が2013〜14年に雑誌連載した長編ミステリー。「誘拐」の星野警部が7年ぶりに再登場する警察小説である。
7月1日、東京杉並で小学生が誘拐され、切断された頭部が小学校の校門に置かれるという猟奇殺人事件が発生。翌2日、埼玉県和光市の山中で、胸にナイフが刺さった女子中学生の死体が発見された。3日、愛知県名古屋市で、スーパーの駐車場から1歳の幼児が行方不明になり、一週間後に駅のコインロッカーで死体になって発見された。警視庁、埼玉県警、愛知県警がそれぞれ必死の捜査を進めるのだが、犯人の手がかりさえ得られないまま、数ヶ月が過ぎて行った。そんななか、杉並の事件の捜査本部に配置されていた星野警部は、幹部たちの捜査方針に逆らって、相棒になった女性刑事とともに一人の人物を執拗に追いかけていた。そして、東京、埼玉、愛知の3カ所の決して諦めない捜査官たちが出会ったとき、事件の真相が明らかにされるのだった。 3つの事件の捜査が丁寧に描かれた警察小説の王道で、刑事コロンボを連想させる星野警部が中心の物語だが、読み終えてからの印象は犯人の方が主役である。読者には、最初から3つの事件が関係して来ることは予想でき、また犯人らしき人物も容易に想定できるので、犯人探しのミステリーというよりは犯行動機、背景を追求する社会派的な物語である。物語の結末も、現実の事件や世相を色濃く反映している。 映画またはドラマ化すれば面白そうで、その際は星野警部はだれが適役か? そう考えながら読み進めるのも一興である。 |
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スウェーデンの人気警察小説「ショーベリ警視』シリーズの初期三部作の完結編。前2作で積み残されてきたいくつかの疑問が解明され、ある面ではすっきりするのだが、作品のメインテーマは相変わらず重い、典型的な北欧ミステリーである。
フィリピンから移住してきた女性と子供二人の3人が自宅のベッドで殺されているのが発見された。女性はシングルマザーで、スウェーデン人である元夫からの援助は無く、ときどき掃除婦として働いていたというのだが、それにしては自宅は高級なアパートだった。ショーベリ警視のグループが捜査を始めると、女性と親しくしていた男の存在が浮かび上がり、アパートを買ったのも、生活費を援助していたのも、この男ではないかと推測された。大忙しの捜査班だったが、いつもの欠かせないメンバーであるエリクソン警部が無断欠勤し、連絡が取れなくなっていた。人付き合いが悪く、メンバーの中ではいつも孤立していたエリクソンだが、けっして無責任な男ではない。心配になったショーベリ警視は、他のメンバーには内緒でエリクソンの行方を探し始めるのだった。この二つのエピソードが最終的には絡まりあって、ショーベリ班は衝撃の事態に直面することになる・・・。 殺人事件の犯人探し、行方不明になったエリクソンの捜索の二つともスリリングかつ説得力があり、最後まで緊張感を持って読み終えられる。さらに、主要登場人物たちのエピソードもしっかりしていて、シリーズ作品ならではの楽しみもある。 北欧ミステリーファンには自信を持ってオススメできる傑作で、本作品単体でも面白いのだが、ぜひ第一作から順に読むことをオススメしたい。 |
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ショーベリ警視シリーズ三部作の第2作。スウェーデンに限らず、先進国では共通する機能不全家族の悲哀と地域社会の崩壊を描いた社会派警察小説である。
9月の土曜日の夜、ストックホルムからフィンランドへ向かう観光フェリー上で、背伸びして大人の遊びを楽しもうとしていた16歳の少女が殺害された。日曜日、早朝ジョギング中のペトラ刑事が公園でベビーカーのシートで凍死しかかっている赤ちゃんを発見し、さらに、近くで車にはねられたらしいベビーカーと、頭を殴られて殺されている母親らしき女性が見つかった。同じ頃、ストックホルムの集合住宅の1軒では、3歳の少女ハンナがひとりぼっちになり、不安な思いで混乱して過ごしていた。一見無関係に見えるハンマルビー署に持ち込まれた2つの事件と1つのトラブルは、意外な理由でつながっていた・・・。 警察による事件捜査の進展と並行して、ひとりぼっちにされた少女の救出というタイムリミットのエピソードが進行するので、最後までサスペンスに満ちたストーリーが展開される。犯人が解明されるまでの展開もスリリングで、読み応えがある警察小説に仕上がっている。ただ、事件の背景にあるのは無縁社会とも言われるコミュニティの喪失であり、家族の姿の変貌であるだけに、事件が解決してもカタルシスや爽快感は得られない。 シリーズ作品らしく、前作で積み残された感があったペトラ刑事のレイプ事件に関しても進展があり、腫瘍登場人物たちのキャラクターがさらに陰影豊かになっている。三部作の完結編に期待したい。 |
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日本でも「三秒間の死角」で人気になったスウェーデンの気鋭の作家が、実際に起きた強盗事件の関係者と組んで書き上げた傑作犯罪小説。文庫本2冊、1100ページ以上の大作なので読み切るには体力が必要だが、それだけの努力が報われる面白さが待っている。
1990年代のスウェーデンで、軍の武器庫から奪った軍用銃を使って現金輸送車や銀行を襲う強盗事件が続発し、彼らは「軍事ギャング」と呼ばれるようになった。その周到な準備計画、冷静な作戦実行ぶりからプロの犯罪者集団と見られていたギャング団だったが、実際に捕まってみると、犯罪歴の無い20代の3兄弟とその友人だった。 彼らはなぜ強盗になったのか、どういう手口で犯行を行ったのかを丁寧に、ダイナミックに、面白く描いて、まるでノンフィクションのような圧倒的なリアリティを感じさせる作品である。強盗の実際がサスペンスフルに描かれると同時に、犯人たちの生い立ちに潜む家庭内暴力の傷を丁寧かつ執拗に追求し、人間が暴力を振るうというより暴力が人間を振り回すようになっていく怖さを描いている。犯罪者にも、被害者にも深い洞察力を発揮しているところが、並の犯罪小説とは異なる、本作の素晴らしさと言える。 犯罪小説、ノワール小説という枠にはとらわれない、幅広い読者にオススメしたい傑作エンターテイメントである。 |
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マルティン・ベックシリーズの映画化を担当してきたという脚本家夫妻による、スウェーデンの人気シリーズの第一作。冒頭から結末まで読者を飽きさせない、完成度が高いエンターテイメント・ミステリーである。
1987年夏の大潮の夜、スウェーデンの小島の海岸で頭だけを出して砂浜に生き埋めにされた女性が満ち潮に溺れて溺死した事件は、未解決のままになっていた。2011年、警察大学の学生オリヴィアは、未解決事件を調べるという夏休みの課題に、この事件を選択した。実は、オリヴィアの亡き父親が捜査を担当した事件でもあった。オリヴィアは、事件当時の父親の同僚警官たちから話を聞こうとするのだが、捜査責任者だった警官は退職し、行方不明になっていた。それでも諦めきれないオリヴィアが調査を進めると、意外な過去の出来事が明らかになり、オリヴィアの身に思いもよらない危険が襲いかかってきた・・・。 未解決の殺人事件の再捜査を本筋に、ホームレス暴行事件、企業の横暴などの社会派アイテムをちりばめ、700ページあまりの全編にわたって緊張感があるストーリーが展開される。シリーズの中心になる人物たちはもちろん、本作にしか登場しないような人物までキャラクターがしっかり造形されていて、非常に読みやすい。また、ところどころに出てくるエピソードや警句が気が利いているのも、さすがに一流の脚本家である。 北欧の警察小説らしい社会派の視点を持ちながら重くも暗くもなく、幅広いミステリーファンにオススメできる。 |
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「時限紙幣」で鮮烈なデビューを飾った「ゴーストマン」シリーズの第2作でありながら、作者の急死によってシリーズ最終作となってしまったノワールの傑作である。
前作から一年後、潜伏していたゴーストマンのもとに、犯罪世界での師匠であり、家族以上に身近な存在であるアンジェラから「力を貸してくれ」というメールが届いた。アンジェラはマカオ近くの海上で密輸業者からサファイアを横取りする計画を立案し、信頼する仲間が実行したのだが、奪った宝石を待っていたアンジェラの元に届けられたのは、仲間の生首と「盗んだ物を返せ」という脅迫状だった。実は、その密輸船には狙ったサファイア以外にも積荷があり、とんでもない相手を怒らせたのだった。恩義のあるアンジェラの窮地を救うために、ゴーストマンは単身、マカオへと乗り込んだ・・・。 今回もまた、見事な犯罪計画が実行されるのだが、物語のポイントは凄腕の殺し屋とマカオのマフィアに狙われたアンジェラとゴーストマンの窮地からの脱出に置かれている。その分だけ、ハードボイルドなアクション小説よりノワールなアクションサスペンスになっている。特に、殺しの場面や対決の場面の描写はかなり残酷でホラー的で、前作のようなスタイリッシュなテイストは薄くなっているが、素晴らしいクライム・ノベルであることは間違いない。 作者がオーバードーズで28歳で急死したため、本作が遺作となってしまったのが誠に残念。まだまだシリーズ作品を読みたかった。 クライム・ノベルファン、ハードボイルドファンには、絶対のオススメ作である。 |
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アイスランドの人気ミステリー「エーレンデュル捜査官」シリーズの邦訳第4弾。今作も、期待に違わぬ骨太な社会派ミステリーである。
エーレンデュル、エリンボルク、シグルデュル=オーリという、いつものトリオが今回取り組むのは、水位が低下した湖の底から現われた白骨死体。頭蓋骨に、強く殴られてできたような穴が開いていたことから殺人事件と見なされた。白骨死体は死後30年以上が経過し、骸骨にはソ連製の通信機器がつながれていた。ということは、冷戦時代のソ連のスパイが絡んだ殺人事件なのか? 30年以上前の失踪者を丹念に探し歩くという地道な捜査の結果、被害者候補として1968年に行方不明になったままの農機具セールスマンが浮かび上がってきた。婚約者を残したまま失踪したその男は偽名を名乗っており、アイスランドでの生存や行動の記録は一切見つからなかった。白骨死体の正体はだれか?、なぜ殺されたのか? 物語の途中に挿入される、ある男の独白(回想)によって、早い段階からストーリーの大まかな展開は読めてくるのだが、作品の主題が犯人探しや事件の様相解明ではないため、最後まで緊張感をもって読むことができる。シリーズのこれまでの作品同様、個人と家族と社会のかかわり合いがメインテーマになっており、社会情勢や主義主張に振り回される人間の弱さと哀しみが深い印象を残す社会派ミステリーの傑作である。主要メンバーそれぞれの個人的事情の展開も、シリーズ読者には楽しい。 シリーズのファンにはもちろん、北欧ミステリーファンには自信を持ってオススメしたい。 |
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2016年のアンソニー賞最優秀長編賞受賞作。著者の作品では、おそらく本邦初訳だと思われる。
タイトル通り、殺し屋を専門に狙う殺し屋・ヘンドリックスを中心に、ヘンドリックスを消したい犯罪組織から仕事を請け負った殺し屋・エンゲルマンと、二人を追うFBI捜査官トンプソンの三つ巴の攻防を描いたアクション・サスペンスである。ストーリー展開が早く、登場人物もきちんと描かれていて、読み応えがある。ヘンドリックスが殺し屋になった理由とか、エンゲルマンの性格とか、トンプソンの捜査手法とか、細かい難点はあるものの、ストーリーの面白さに引かれてどんどん読める。 アクション系サスペンスがお好きなファンには、かなりのオススメ作品である。 |
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これは珍しい、フィンランドの1920年代を舞台にした警察小説である。本国では、ミステリー関係の賞を受賞するなど好評で、シリーズ化されているという。
ロシア革命とそれに続くドイツの干渉などによる内戦がようやく治まった、ヘルシンキ近郊の小さな都市ラハティの町外れで、青年の射殺体が発見された。地元警察は、密造酒を巡る内輪の争いとして処理しようとするが、まるで処刑のような現場の様子に疑問を抱いたケッキ巡査は納得できず、真相を究明しようとする。地道な捜査の結果、ラハティは内戦時の白衛隊関係者が敵対する赤衛隊支持者を処刑したとの疑いを深めるのだった。しかし、内戦で勝利した白衛隊側が絶対的な権力を持つラハティでは、白衛隊支持者を対象にした捜査はさまざまに妨害され、困難を極めた・・・。 フィンランドの、しかも1920年代が舞台とあって、当時の社会生活の描写が非常に興味深い。何しろ、密造酒業者は自動車で移動するのに警察には自動車が無く、車で逃走する犯人たちを見て悔しがるという有様。当然、事件現場での鑑識も、笑えるほどずさんである。それでも、正義感が強い警官がさまざまな妨害にも関わらず正義を貫こうとするという、警察小説の王道のストーリーがしっかりしているので、物語の完成度は高い。また、あまり知られていないフィンランド内戦の実態、フィンランド人の生活に溶け込んでいるサウナの話なども非常に興味深い。 警察小説というより、1920年代のフィンランドの庶民の生活を活写した社会派ミステリーとしてオススメしたい。 |
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幼稚園の先生をしているときの園児や母親たちの会話から着想を得たという、新人作家の長編デビュー作。語り手の誰もが全面的には信用できないという、よくあるパターンのサスペンス・ミステリーだが、現代の若い母親たちの揺れる心情が上手に描かれており、どんどん引き込まれていく。
シングルマザーでブロガーのステファニーは、幼稚園に通う息子マイルズの友だちニッキーの母親エミリーと知り合い、親友として付き合っていた。ある日、エミリーは仕事で遅くなるからといってニッキーをステファニーに預けたまま迎えに来ず、失踪してしまった。警察に訴えても単なる家出として真剣に取り合ってくれず、時間ばかりが経って行った。行方不明のエミリーに代わってニッキーの面倒を見るうちにステファニーは、エミリーの夫ショーンに恋心をいだくようになり、エミリーの死体が発見されたあとは、ショーンとステファニーのそれぞれの家を行き来しながら4人で暮らすようになった。息子を愛し、仕事でも成功していたエミリーが、何故失踪したのか? そこには隠された秘密があったのだった・・・ラストは、結構、怖い。 各章はステファニー、ステファニーのブログ、エミリー、ショーンという一人称視点で描かれていて、しかもそれぞれに他人には言えない秘密を抱えているので、物語が徐々に複雑になり、サスペンスが高まって行く。そういう点では、「ささやかで大きな嘘」や「ガール・オン・ザ・トレイン」などと同じく、ホームドラマ系サスペンスである。 現在的な舞台装置での心理サスペンスがお好きな方にはオススメだ。 |
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珍しいノルウェー発のサスペンス・ミステリー。最後がちょっと腰砕けな気がしないでもないが、読み応えがある警察小説である。
オスロ警察殺人捜査課特別班のメンバーだったミアは、双子の姉をジャンキーにして死に至らしめた密売人を事件現場で射殺したことから休職し、離れ小島に隠遁し、死んで姉のところに行くことを考える毎日だった。そこへ、田舎警察に左遷されていた元上司のムンクが訪れ、ノルウェー全土を震撼させている6歳の少女殺害事件の捜査に参加しないかと、持ちかけてきた。ミアの復帰を条件に、ムンクは特別班を再結成することを上司に認めさせていたのだった。気心の知れたメンバーが再結集し、ハッキングに精通した新人を加えたチームは捜査に取りかかるのだが、何一つ判明しないうちに、第二の少女殺害事件が発生し、しかも、遺体にはさらなる事件の発生を予感させるメッセージが残されていた・・・。 警察小説の王道であるチーム捜査を主軸に、個性の強いメンバーが難関を突破するという、北欧ミステリーではよくあるパターンの作品である。こうしたケースでは、犯人がいかに魅力的(悪魔的)であるかで、作品のイメージが大きく左右されるのだが、本作は、クライマックス寸前までは犯人の存在感が大きく、スリリングなのだが、最後の最後でぼろを出してしまったのが残念。しかし、ヒロインのミアは魅力的(キャシー・マロリーほどは冷たくないが、頭が切れるのは同様)だし、リーダーのムンクをはじめとする班のメンバーもきちんと人間として描かれている。「特捜部Q」や「刑事ヴァランダー」、「犯罪心理捜査官セバスチャン」のようにシリーズとしても成功するのではないだろうか。 北欧ミステリー・ファン、キャシー・マロリー・ファンにはオススメだ。 |
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【ネタバレかも!?】
(1件の連絡あり)[?]
ネタバレを表示する
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佐々木譲初めての法廷小説という紹介もあるが、より正確には前半は警察小説、後半は法廷小説と言うべきか。いずれにせよ、傑作であることは間違いないエンターテイメント作品である。
東京・赤羽で一人暮らしの初老男性が殺害され、重要容疑者として、フリーの家事代行業の女・山本美紀が浮上した。赤羽署員が女の自宅を訪ねると、埼玉県警大宮署の係員が先着し、彼女の身柄を確保していた。山本美紀の周辺では、何人かの一人暮らしの老人男性が死亡しており、第二の首都圏連続婚活殺人事件かと騒がれる事態となった。 山本美紀の弁護人となった矢田部は、検察側の証拠が状況証拠ばかりであることから自信を持って裁判に臨んだのだが、ある瞬間から山本美紀は一切の証言を拒み黙秘するようになった。このままでは無期懲役以上の判決になってしまうのは明白なのに、それでも沈黙を守る理由は何か? amazonなどのレビューでは、物足りない、どんでん返しがない、中途半端などの辛口な評価もあるが、ストーリー展開も事件の背景も、キャラクター設定も巧みで、警察小説としても、裁判小説としても読み応えがある作品に仕上がっている。まさに、佐々木譲が新境地を開いたと評価したい。 これまでの佐々木譲の警察小説ファンにはもちろん、さらに幅広いミステリーファンにオススメできる。 |
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「犯罪心理捜査官セバスチャン」シリーズの第3作。開かれた国・スウェーデンが抱えるテロ対策と移民の問題を背景にした社会派ミステリーである。
トレッキング旅行中の女性が偶然見つけた白骨は、ずいぶん前に埋められたらしい6人の死体の一部だった。トルケル率いる殺人捜査特別班が現地に入ることになり、セバスチャンも同行することになった。セバスチャンには、自宅に押し掛けてきて同居する女性・エリノールにうんざりしていたのに加えて、実の娘である刑事・ヴァニヤのそばにいたいという密かな願いもあった。ところが、ヴァニヤはアメリカでのFBIの研修を志願し、合格間違いなしと思われていた。ヴァニヤが離れることを阻止しようと考えたセバスチャンは、ヴァニヤを不合格にするために裏から手を回すことを決意する。 6人の死者の身元はなかなか判明せず、苦労する特別班メンバーたちだったが、地道な捜査を続けるうちに、関連がありそうな別の事件を発見する。 アフガニスタンからの移民・シベカは、9年前に夫とその友だちが失踪したことに納得がゆかず、警察やマスコミなどに訴え続けてきたが、誰も耳を傾けてくれなかった。ところが、公共テレビの記者が関心を示し、取材を持ちかけてきた。移民社会の反対に遭いながら調査を進めると、失踪には公安警察が関係している疑惑が浮かび上がってきた。 6体の白骨死体と失踪した移民の事件の捜査がクロスしたとき、見えてきたのは「開かれた国家」が抱える閉ざされた政治の闇だった。 2つの事件捜査も非常にレベルが高いストーリー展開で楽しめるのだが、それに加えて、セバスチャンを中心にした特別班メンバーの人間模様が非常に面白く、単なる社会派ミステリーでは終わらない作品である。特に、セバスチャンの変貌ぶりには驚かされる。さらに、シリーズの行方を大きく変えそうなエンディングには衝撃を受けた。 シリーズ未読の方は、第一作から読むことを強くオススメする。 |
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