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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数538件
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改めて奥田英朗の懐の深さを感じさせる、ユーモラスなエンターテイメント作品。
歌舞伎町で下っ端ヤクザとして生きている純平21歳が、親分から敵対する組の幹部を殺害する鉄砲玉を命じられる。一人前のヤクザとして認められたいと願っている純平は、喜んで役目を果たそうとするのだが、任務を果たすまでの三日間の猶予に、さまざまな人々に出会い、自分の生き方を改めて見つめることになる。さらに、軽い気持ちで付合った女がネットに「純平君が鉄砲玉として殺人事件を起こそうとしている」と書き込んだことから、さまざまな書き込みが寄せられ、周りが勝手に盛り上がってくる。そんな喧噪の中、純平は・・・。 いやぁ〜、面白い。現代の風俗を活写したエピソードとストーリー展開の面白さに、ぐんぐん引き込まれていく。あれこれ理屈を考えることなく、場面場面の面白さを堪能すればいい。 好き嫌いが分かれる作品だと思うが、愉快な物語を読みたい読者にはオススメだ。 |
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2002年に刊行された書き下ろし長編作品。誘拐のアイデアが秀逸な社会派ミステリーである。
政財界を巻き込んだスキャンダルの主役でバッカスグループの総帥である永渕を入院させている大病院の院長の17歳の孫娘・恵美が誘拐され、犯人は永渕が死亡すれば恵美を解放すると連絡してきた。院長と、恵美の父親である副院長は、警察や永渕に協力を求めて永渕の死亡を偽装し、恵美の解放に成功する。同じ頃、神奈川県で19歳になる男子大学生・工藤巧が誘拐され、身代金としてバッカスグループの株券を用意するようにという脅迫状が届いた。家族と警察は株券を用意して交渉に応じたのだが、犯人は現われず、工藤巧は自力で脱出し、保護された。 二つの誘拐事件は人質が無事解放されたのだが、被害者二人が捜査に協力的ではないため犯人像がまったく見えず、誘拐の動機にも疑問が残り、警察の捜査は難航していた。そんなとき、恵美と工藤巧が知り合いだという情報がもたらされ、警察は狂言誘拐を疑い始めるのだった・・・。 誘拐をテーマにしたミステリーは数々あるが、本作の身代金獲得手段、誘拐の目的達成のアイデアは斬新で、面白かった。犯行の背景となる出来事も、それなりの説得力があり、どんどん引き込まれていく。ただ、後半に近づくと堂々巡りが繰り返されて話の展開が遅くなってしまったのが、ちょっと残念。単行本上下2段組みで480ページが400ページぐらいでまとめられていたら、もっとスピード感があっただろう。 犯罪小説というより、社会派のエンターテイメント作品として、幅広いミステリーファンにオススメできる。 |
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2006年に発表された長編ミステリー。心臓血管外科という特殊な舞台装置に複雑な人間ドラマを上演した、上質なエンターテイメント作品である。
研修医・氷室夕紀が勤める大学病院に「医療ミスを公開しなければ病院を破壊する」という脅迫状が届いた。イタズラとして処理しようとした病院側だったが、2通目が届いたことから警察に届けて捜査が始まったのだが、金銭の要求は無く、脅迫犯の狙いは何か、どういう手段で「破壊」しようとしているのかが、まったくつかめないまま捜査は混乱するばかりだった。という、病院脅迫事件が物語の一つのテーマ。 もう一つのテーマは、氷室夕紀の指導医・西園教授は、氷室夕紀の最愛の父を死なせてしまった手術の執刀医で、彼女は手術ミス、あるいは意図的なミスではないかと疑い続けてきたという、真相究明の物語である。 二つの大きなストーリーが無理なく並行して展開し、最後にはヒューマニズムにあふれた幕が下ろされる。予定調和的といえばそれまでだが、それぞれのストーリーがしっかりしているので、読み応えがある。 心臓外科手術という特殊な世界の話だが非常に読みやすく、テンポもいいので楽しめる。ヒューマンドラマ系が好きなミステリーファンにオススメしたい。 |
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時代に押しつぶされながらも、流されながらも、自分一人の幸せを生ききった女の物語。読んでいる途中で何度も胸にこみ上げて来るものがある、強く情感に訴える物語である。
道東の貧しい開拓地で育った百合江は、看護婦になりたいという夢も叶わず、中学卒業と同時に奉公に出されるが、その町で見た旅芸人一座に心を惹かれ、奉公先を飛び出して一座に加わってしまう。だたひたすら歌うことだけを生き甲斐に、それなりに幸せな日々だったが、座長の病気を機に一座は解散し、百合江は一座の仲間だった宗之介と行動を共にすることになった。宗之介との間で妊娠したとき、故郷へ帰ろうとするのだったが拒絶され、妹・里実が働いていた釧路で生活することにした。しかし、娘・綾子が生まれると、宗之介は姿を消した。ミシンを使った縫製仕事で生きていた百合江と綾子に里実が縁談を持ち込み再婚したのだが、相手は金と女にだらしないマザコン息子だった。夫の借金を返すために温泉旅館で仲居と歌手として働き、借金を返済したのだが、二番目の子供・理恵を出産したとき、綾子を勝手によそにやられたことから、結婚生活が破綻し、再び釧路で暮らし始めることになった。 途中、穏やかに暮らす時期はあるものの、生涯のほとんどは貧困と悲惨な家族関係に翻弄される百合江だったが、本人は自分が選んだ人生だと諦観し、そんな人生にも幸せを見出している。対照的な性格の妹・里実だが、里実には里実の深い悩みがあり、けっして絵に描いたような幸せではない。 桜木作品の例に漏れず、出てくる男たちはほとんどがだらしなく、逆に女性が強すぎるのだが、強い女が持つ脆さ、というか強くならなければいけない流れが、非常に説得力がある。 人間の本当の強さとは何かを考えさせられる小説である。 |
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2006年本屋大賞の第2位にランクされた、痛快なエンターテイメント長編。これまで読んだ、どの奥田英朗作品とも違う面白さで、改めて奥田英朗の幅広さに感服した。
元過激派の両親と暮らす東京・中野の小学6年生が、友だちや周辺の不良たちに揉まれながら自我を確立して行く物語だが、凡百の成長物語とは違って説教臭さが微塵も無いのが心地よい。 映画化されればヒットするのではないかと思う。 |
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道東・釧路の新設高校の図書部で同期だった5人の少女たちが卒業後に歩んだそれぞれの道は、それぞれに悩み多きものだった。誰もが生きづらさを抱えており、平穏な人生ではなかったが、中でも、高校時代に教師に告白して拒絶され、就職先の和菓子店の主人と子供を作って駆け落ちした順子は、本人が「私は幸せ」と言えば言うほど、関わりがある周辺人物の心を波立たせ、不安にさせるのだった。順子が感じていた幸せを、周りが信じきれなかったのは何故か?
あまり器用とは言えない一人の女の25年の歳月を、時代を追いながら彼女に関係する6人の女の視点から描いた連作短編集である。しかも、それぞれの短編の主人公になる女性たちの生き方も鮮やかに描き出した、見事な展開力に驚嘆した。 ストーリーにも、情景描写にも、会話にも、心理描写にも、ぐんぐん迫ってくるリアリティがある、力強い作品である。 |
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前作「秘密」で日本での人気を確立したオーストラリアの女性作家の最新作。1930年代と現在を行き来しながら謎を解く、ゴシック風味のミステリーで、「大人のお伽噺」という訳者あとがきに出てきた言葉が、本作品の本質を的確に表現している。
母親に置き去りにされ、一週間、部屋に閉じ込められていた少女が発見された事件で、「育児疲れの母親が家出した」という結論での捜査打ち切りに納得できなかった刑事セイディは、新聞記者に内部情報を漏らすというタブーを犯し、上司から強制的に休暇を取らされた。傷心のセイディが訪れたのは、育ての親である祖父が引退して暮らしているコーンウォールの海沿いの小さな街だった。そこでセイディはジョギング中に迷い込んだ森で、打ち捨てられた古い屋敷を発見する。その屋敷「湖畔荘」は、70年前に一歳を迎える直前の男の子セオが行方不明になるという悲劇に見舞われ、その後、放置されたままだった。事件に興味を持ったセイディは古い記録を探し出し、事件の真相を解明しようとする・・・。 息子を亡くした両親から「湖畔荘」を受け継いだアリスは著名な推理小説家でロンドンに在住し、「湖畔荘」を訪れることはなかったのだが、弟であるセオの失踪事件に密かに責任を感じていた。アリスの姉デボラは、第一次世界大戦でPTSDを煩った父がセオを殺害したのではと疑い、そのきっかけを作ったのは自分ではないかと罪の意識に苛まれていた。さまざまに秘密を抱えた関係者が作り出す、複雑なストーリーが解き明かされたとき、その真相は思いがけない結末を迎えるのだった。 最後の最後のエピソードが、「おや、まあ、そう来ましたか」という感じで、まさにお伽噺である。ただ、そこまではきっちりした謎解きミステリーであり、読み応えがある。昔話と現在の諸事情が入り交じり、全体像を把握するまでは読みづらいのだが、下巻になる辺りからはテンポよく物語が展開し、納得がいく結末に治まって行く。 あまり血腥くない、派手なアクションが無い、落ち着いたミステリーを読みたいという読者には、絶対のオススメだ。 |
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2007年の柴田錬三郎賞を受賞した短編集。どこにでもいそうな現代人の「家族としての自分」を考えさせる、6作品である。
6作品とも主人公は30代(おそらく)の家庭人。主婦であったり、主夫であったり、夫であり妻である、ごく平凡な平均的な人々である。その日常に、ちょっとした変化が起きたとき、人は思いがけない心境になり、ちょっとドラマチックな出来事が起きたりする。けれども、瞬間的な興奮が冷めると、日常は案外力強く元の状態を取り戻していく。そんな小さな波風を、面白いエンターテイメントに仕上げて読ませてくれる作者の力量は、さすがである。 ユーモラスでハートウォーミングで、しかもちょっとだけ常識を外れたファンタジーを求めている読者には120%のオススメだ。 |
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アメリカではニューヨークタイムズのベストセラーリストの1位を数ヶ月も続け、映画化もされた、大ヒット作。人間が持つ「嫌な部分」をあえてあぶり出した、気分を悪くするけど目が離せなくなるサイコ・ミステリーである。
ニューヨークで雑誌のライターをしていたニックとエイミーの夫妻は、30代半ばにも関わらずネット社会の動きに着いて行けずに失職し、ニックの生まれ故郷であるミズーリ州に引っ越すことになった。ニューヨーク育ちのお嬢様であるエイミーは中西部の田舎暮らしになじめず、不満を募らせているようだった。結婚5周年の記念日に、突然エイミーが行方不明となった。室内に争ったあとがあったことなどから、ニックが重要参考人として追求されることになる。確たるアリバイが無く、疑惑を招くような言動も多いニックは、どんどん追い込まれて行くのだが・・・。 事件の様相は、警察の捜査によってではなく、ニックの告白とエイミーが残した日記によって読者に提示されるのだが、その二つのストーリーにはかなりの違いがあり、真相がまったく見えて来なくなる。夫婦それぞれの主張のどちらが真実なのか? どちらも真実ではないのか? ストーリーが進むほど、読者は真実と虚構の闇に迷い込むことになる。まさに予測不能で、スリリングでサスペンスフルな物語である。 サイコ・ミステリーの一種ではあるが残酷な描写で恐怖感を煽ることは無く、人間が普遍的に持つ心理的な怖さにスリルを覚える作品であり、いわゆる「イヤミス」ファンはもちろん、残酷ではないサイコ・ミステリーのファンにはオススメだ。 |
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2017年、86歳になったル・カレが発表した新作長編。なんと、「スマイリー三部作」に決着をつける後日談という、大胆な作品である。
フランスの田舎で隠遁生活を送っていたスマイリーの愛弟子ピーター・ギラムは、英国情報部からロンドンに呼び寄せられ、冷戦時代の作戦で死亡した情報員の遺族から訴訟を起こされようとしていると知らされる。しかも、情報部だけでなく、スマイリーとギラムの個人的な責任も問われるおそれがあるという。作戦の詳細について、情報部から厳しく問いただされたギラムはやむなく、かつて隠しておいた作戦の資料を情報部に渡すことになった。資料に残されていた記録、ギラムや関係者の記憶が重なりあったとき、作戦に秘められていた真実が明らかになった。 手に汗握る情報戦が展開されたスマイリー三部作の裏に、何が隠されていたのか。巨匠は、大昔の作品のプロットや登場人物を巧みに動かしながら、冷戦時代とはまったく異なるスパイ小説を完成させた。情報戦のスリルとは異なる、冷酷で厳しいスパイの哀しみが胸を打つヒューマンドラマである。 スマイリー三部作時代からのファンはもちろん、ル・カレは初めてという読者も十分満足できるだろう。オススメだ。 |
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アメリカでは既に10作が発表されているという人気シリーズの第1作で、本邦デビュー作。凄腕のCIA秘密工作員が主役ながら、最初から最後まで笑わせてくれる、傑作ユーモアミステリーである。
中東で暴れて武器マフィアから命を狙われることになってしまったCIA秘密工作員のフォーチュンは、CIA長官の配慮で長官の姪に身分を偽ってルイジアナ州の田舎町シンフルに身を潜めることになった。小さな田舎町で静かに暮らすはずだったのだが、到着早々、保安官助手には目をつけられ、隠れ家の裏で人骨が発見されたことから、地元の殺人事件に巻き込まれてしまう・・・。 物語のメインは殺人事件の真相解明で、それなりに筋が通ったストーリー展開で楽しめる。しかし、最大の読みどころは、事件解明に積極的に関与してくる2人の老婦人との掛け合いである。とにかく元気いっぱいで、頭も腕も立つ老人たちと凄腕工作員のハチャメチャな活躍が楽しい。 犯人探しとは言え、警察小説ではなく、私立探偵ものの一種、ユーモア系のPI小説である。さらに、女性が主人公のPIものだが、ウォーショウスキーやキンジーなどとは異なり、アクション場面もユーモラスである。 笑えるミステリーが好きな人、例えばカール・ハイアセンのファンなどには絶対のオススメだ。 |
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2016年度英国推理作家協会の新人賞と最優秀長編賞をダブルで受賞した、アメリカの作家のデビュー作。クライムノベルであり、ロードノベルであり、成長物語であるという解説文の通りの力強いエンターテイメント作品である。
ロサンゼルスのギャングの末端で働いていた15歳のイーストは、組織のボスである叔父から、組織に不利な証言をする予定の証人を殺害するように命じられた。証人がいるのはLAから2000マイル離れたウィスコンシン州で、そこまで車で行けという。組織が同行メンバーに選んだのは、20歳、17歳の少年とイーストの弟で13歳のタイだった。組織と叔父に忠実なイーストは、バラバラな仲間たちに手を焼きながら必死で任務を果たそうとするのだが、思いがけない事態の連続で、心身ともに疲れ果ててしまう。苦労に苦労を重ねた末に任務を果たしたイーストたちだったが、帰り道はさらに過酷な物だった・・・。 ギャングが証人を消すというクライムの部分、2000マイルをドライブするロードの部分、そして15歳のイーストが世の中を知って行く成長物語の部分が様々に重なり、入れ替わり、入り交じり、実に多彩な顔を見せる作品である。最後も「少年は立派に成長しました」という単純なハッピーエンドではなく、作品の深さをあとからじわじわと感じることになる。 三つの側面を持つ作品だが、クライムノベルというより、ロードノベル、成長物語と思って読むことをオススメする。 |
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カーソン・ライダー刑事シリーズの第9作。邦訳ではシリーズの6作と8作が抜かされているので、7冊目になる。前作「髑髏の檻」がちょっとダレてきたように感じて心配だったのだが、本作は元のシリーズに戻ったような緊張感溢れる作品で安心した。それにしても第6作と8作が何故抜かされたのか?、シリーズ愛読者としては気になるところである。
自転車に乗っていた女子大生、車いすの黒人少年、若い白人男性の介護士が、相次いで殺害された。被害者の社会的属性に共通点は無く、犯行に使われた凶器もバラバラの事件だったが、これは犯人がライダー刑事に挑戦するための犯罪だったことが判明する。市警本部長を始めとする上層部や被害者家族からも「事件を引き起こした』として、いわれなき非難を浴びながら、ライダー刑事は相棒ハリーとともに犯人探しに奔走するのだが、犯人の手がかりはまったく掴むことができなかった・・・。 本作では、これまでのライダー刑事の一人称での語りだけでなく、随所に犯人グレゴリーの語りが挿入されており、犯人探しではなく、警察による捜査と犯行の背景の解明がメインストーリーとなっている。さらに、ライダー刑事の恋愛エピソードが花を添え、サスペンス一辺倒ではないエンターテイメント作品に仕上がっている。また、カーソン・ライダー自身に大きな変化が訪れそうな幕切れになっているのも見逃せない。 犯人の凶悪さが際立っているという点では、サスペンス小説として高ポイントだが、犯人の生い立ちを知ると暗くて重い気分になってしまう。残酷なシーンや嫌悪感を招きかねない描写がいくつもあるので、小説の描写に影響を受けやすい方にはおススメできない作品であり、ことに犯人グレゴリーのパートを読むときは気持ちを強く持って対応することをオススメする。 シリーズの流れに大きく影響しそうな作品だけに、できれば第1作から読むことをオススメしたいが、本作だけでも十分に楽しめることは確かである。 |
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オーストラリアの女性作家のデビュー作。大干ばつに襲われたオーストラリアの田舎町を舞台に、現在と過去の事件が複雑に絡み合う犯人探しミステリーである。
経済事件専門の連邦警察官フォークは、幼なじみのルークの葬儀のために二十年ぶりに故郷を訪れた。大干ばつに見舞われて農場経営に行き詰まり、妻と息子を道連れに無理心中したとされたルークだが、自殺にしてはつじつまが合わないことがあるとして、フォークはルークの両親から事件の真相を探るように依頼された。気乗りはしなかったが、幼い頃から自分を可愛がってくれたルークの両親のために、フォークは地元の警官と一緒に捜査を進めるが、疑惑が深まるばかりで真実は一向に見えてこなかった。さらに、二十年前にフォーク父子が故郷を追われる理由になった忌まわしい出来事が原因で、フォークは地元住民から様々な嫌がらせも受けるのだった。大干ばつの影響で崩壊しかけた田舎町では、過去と現在が影響しあい、人々は互いを傷つけながら生きていた。そんな中、苦労に苦労を重ねてフォークが解き明かした真相は、新たな悲劇につながる悲惨なものだった。 数年ぶりに帰郷した警官(探偵)が事件に巻き込まれ、昔の出来事の真相を発見するというのはよくあるパターンだが、決して陳腐な作品ではない。舞台設定の上手さと伏線になるエピソードのリアリティが物語に躍動感を与え、謎解きミステリーとしても、ヒューマンドラマとしても完成度が高い。本作の成功を受けてシリーズ化が決まっているというのもうなずける。 良質なエンターテイメント作品として、幅広いジャンルのミステリーファンにオススメできる。 |
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ウェブ連載の7本の連作短編に、単行本化に際して短編1本を追加し、共通テーマで仕上げた長編作品。ミステリーというよりは、筆者お得意の企業活動に絡むクライムノベル系のエンターテイメント作品である。
物語の舞台は、日本を代表する総合電機メーカーの子会社である中堅のメーカー。そこでの営業部、製造部の対立や上下関係、人事での思惑、親会社や協力会社との軋轢など、どこにでもある問題をピックアップしながら、企業活動とは何か、家族、仲間とは何かを問いかけてくる。 7本の短編が、それぞれに完成度が高くて読み応えがある。しかも、8本が連続して、さらに大きなストーリーを構成し、最後まで読者を引きつける強さを備えている。ミステリーとしてはさほどスリリングではないが、企業小説、家族小説としては非常に良くできている。さすが、池井戸潤。幅広い読者にオススメだ。 |
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「警察捜査小説の不朽の名作」という解説の通り、国内外のミステリ・ベストでは必ず名前が出てくる歴史的な作品。
カレッジの一年生で18歳の女子大生が学生寮から失踪した。成績優秀で浮ついたところは無く、家庭内の悩みも無いと思われていた女性が、なぜ姿を消したのか? 警察署長フォードは少ない物証に苦心しながらも、何事にも手を抜かない徹底的な聞き込みと熟考に熟考を重ねた推理で、犯行の真相に迫り、犯人を突き止めるのだった。 最初から最後まで、女子大生の失踪の真実と犯人探しに徹した、まさに「捜査小説」である。1952年発表なので、現在の基準からすると乱暴な捜査だし、犯人の意外性もストーリー展開のスリルもないのだが、警察捜査小説の基本パターンを確立したという点で、古典的名作と評価したい。 |
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「交渉人」シリーズで人気の作者が2013〜14年に雑誌連載した長編ミステリー。「誘拐」の星野警部が7年ぶりに再登場する警察小説である。
7月1日、東京杉並で小学生が誘拐され、切断された頭部が小学校の校門に置かれるという猟奇殺人事件が発生。翌2日、埼玉県和光市の山中で、胸にナイフが刺さった女子中学生の死体が発見された。3日、愛知県名古屋市で、スーパーの駐車場から1歳の幼児が行方不明になり、一週間後に駅のコインロッカーで死体になって発見された。警視庁、埼玉県警、愛知県警がそれぞれ必死の捜査を進めるのだが、犯人の手がかりさえ得られないまま、数ヶ月が過ぎて行った。そんななか、杉並の事件の捜査本部に配置されていた星野警部は、幹部たちの捜査方針に逆らって、相棒になった女性刑事とともに一人の人物を執拗に追いかけていた。そして、東京、埼玉、愛知の3カ所の決して諦めない捜査官たちが出会ったとき、事件の真相が明らかにされるのだった。 3つの事件の捜査が丁寧に描かれた警察小説の王道で、刑事コロンボを連想させる星野警部が中心の物語だが、読み終えてからの印象は犯人の方が主役である。読者には、最初から3つの事件が関係して来ることは予想でき、また犯人らしき人物も容易に想定できるので、犯人探しのミステリーというよりは犯行動機、背景を追求する社会派的な物語である。物語の結末も、現実の事件や世相を色濃く反映している。 映画またはドラマ化すれば面白そうで、その際は星野警部はだれが適役か? そう考えながら読み進めるのも一興である。 |
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スウェーデンの人気警察小説「ショーベリ警視』シリーズの初期三部作の完結編。前2作で積み残されてきたいくつかの疑問が解明され、ある面ではすっきりするのだが、作品のメインテーマは相変わらず重い、典型的な北欧ミステリーである。
フィリピンから移住してきた女性と子供二人の3人が自宅のベッドで殺されているのが発見された。女性はシングルマザーで、スウェーデン人である元夫からの援助は無く、ときどき掃除婦として働いていたというのだが、それにしては自宅は高級なアパートだった。ショーベリ警視のグループが捜査を始めると、女性と親しくしていた男の存在が浮かび上がり、アパートを買ったのも、生活費を援助していたのも、この男ではないかと推測された。大忙しの捜査班だったが、いつもの欠かせないメンバーであるエリクソン警部が無断欠勤し、連絡が取れなくなっていた。人付き合いが悪く、メンバーの中ではいつも孤立していたエリクソンだが、けっして無責任な男ではない。心配になったショーベリ警視は、他のメンバーには内緒でエリクソンの行方を探し始めるのだった。この二つのエピソードが最終的には絡まりあって、ショーベリ班は衝撃の事態に直面することになる・・・。 殺人事件の犯人探し、行方不明になったエリクソンの捜索の二つともスリリングかつ説得力があり、最後まで緊張感を持って読み終えられる。さらに、主要登場人物たちのエピソードもしっかりしていて、シリーズ作品ならではの楽しみもある。 北欧ミステリーファンには自信を持ってオススメできる傑作で、本作品単体でも面白いのだが、ぜひ第一作から順に読むことをオススメしたい。 |
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ショーベリ警視シリーズ三部作の第2作。スウェーデンに限らず、先進国では共通する機能不全家族の悲哀と地域社会の崩壊を描いた社会派警察小説である。
9月の土曜日の夜、ストックホルムからフィンランドへ向かう観光フェリー上で、背伸びして大人の遊びを楽しもうとしていた16歳の少女が殺害された。日曜日、早朝ジョギング中のペトラ刑事が公園でベビーカーのシートで凍死しかかっている赤ちゃんを発見し、さらに、近くで車にはねられたらしいベビーカーと、頭を殴られて殺されている母親らしき女性が見つかった。同じ頃、ストックホルムの集合住宅の1軒では、3歳の少女ハンナがひとりぼっちになり、不安な思いで混乱して過ごしていた。一見無関係に見えるハンマルビー署に持ち込まれた2つの事件と1つのトラブルは、意外な理由でつながっていた・・・。 警察による事件捜査の進展と並行して、ひとりぼっちにされた少女の救出というタイムリミットのエピソードが進行するので、最後までサスペンスに満ちたストーリーが展開される。犯人が解明されるまでの展開もスリリングで、読み応えがある警察小説に仕上がっている。ただ、事件の背景にあるのは無縁社会とも言われるコミュニティの喪失であり、家族の姿の変貌であるだけに、事件が解決してもカタルシスや爽快感は得られない。 シリーズ作品らしく、前作で積み残された感があったペトラ刑事のレイプ事件に関しても進展があり、腫瘍登場人物たちのキャラクターがさらに陰影豊かになっている。三部作の完結編に期待したい。 |
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日本でも「三秒間の死角」で人気になったスウェーデンの気鋭の作家が、実際に起きた強盗事件の関係者と組んで書き上げた傑作犯罪小説。文庫本2冊、1100ページ以上の大作なので読み切るには体力が必要だが、それだけの努力が報われる面白さが待っている。
1990年代のスウェーデンで、軍の武器庫から奪った軍用銃を使って現金輸送車や銀行を襲う強盗事件が続発し、彼らは「軍事ギャング」と呼ばれるようになった。その周到な準備計画、冷静な作戦実行ぶりからプロの犯罪者集団と見られていたギャング団だったが、実際に捕まってみると、犯罪歴の無い20代の3兄弟とその友人だった。 彼らはなぜ強盗になったのか、どういう手口で犯行を行ったのかを丁寧に、ダイナミックに、面白く描いて、まるでノンフィクションのような圧倒的なリアリティを感じさせる作品である。強盗の実際がサスペンスフルに描かれると同時に、犯人たちの生い立ちに潜む家庭内暴力の傷を丁寧かつ執拗に追求し、人間が暴力を振るうというより暴力が人間を振り回すようになっていく怖さを描いている。犯罪者にも、被害者にも深い洞察力を発揮しているところが、並の犯罪小説とは異なる、本作の素晴らしさと言える。 犯罪小説、ノワール小説という枠にはとらわれない、幅広い読者にオススメしたい傑作エンターテイメントである。 |
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