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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数653件
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あの傑作「解錠師」のスティーヴ・ハミルトンのデビュー作。「私立探偵になりたくなかった私立探偵」シリーズとして、現在までに10冊が刊行されている(日本語訳は1~3作が既刊)らしいが、日本では2000年に出版され一度絶版になっていたものが、「解錠師」のヒットを受けて新版として再登場したといういわくつきの作品だ。
「私立探偵になりたくなかった私立探偵」アレックスは、元デトロイト市警の警官だが現在は、カナダ国境に近いミシガン湖畔の静かな町で父親が残した狩猟用貸ロッジの管理人として生計を立てている独り者。ロッジ管理人で十分に満足しているのだが、知り合いの弁護士に頼み込まれ、しぶしぶ探偵仕事を引き受けたことから、連続殺人事件に巻き込まれることになる。 アレックスには、14年前、警官時代に拳銃で襲われた時の銃弾がひとつ、摘出されないまま心臓のそばに残っているという体の傷とともに、襲撃され、相棒が殺害された現場で血の海を見たときの恐怖がトラウマとなって残っていた。そんなアレックスをあざ笑うかのように、州刑務所で服役中のはずの襲撃犯・ローズから「自分が連続殺人に関係している」という不気味な電話や手紙が届き始める。果たして、ローズは脱獄したのか? あるいは誰かがローズに成り替わっているのか? 「服役中の犯人からの脅迫」というのは、これまで何度か目にしたパターンで、スティーヴ・ハミルトンはどういうトリック(仕掛け)で驚かせてくれるのか興味津々だったが、予想を裏切る展開で最後まで謎を明かさずに引っ張ってくれた。 メインのストーリー、登場人物のキャラクター、謎解きの面白さ、情景描写の巧さなど、どれをとっても合格点で、デビュー作とは思えない上手さを感じる作品だが、ぜいたくを言えば“整いすぎている”感が否めない。多少の破たんはあっても、もっとインパクトがある方が好ましい。そこが、3作目までで翻訳がストップしている理由かなと思った。 ハードボイルド、サスペンスより抒情重視の読者におススメかな? |
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酒とギャンブルで身を持ち崩し、退職の瀬戸際に追い込まれた刑事が企んだ、起死回生の秘策とは?
ロンドンの高級住宅地で一人暮らしの大富豪の男性が行方不明になった。捜査を担当することになったベルシー刑事は、豪邸内の食料や酒をいただくばかりでなく、誰もいないのをいいことに寝泊まりし始め、さらには現金やキャッシュカードを使い、家財道具を売り払うことまでするようになった! これだけでもとんでもない悪党だが、さらに富豪に巨額の隠し財産があるらしいことを発見し、財産と身分を乗っ取って海外に逃亡しようと企てる。 いや〜、とんでもない悪徳警官がいたものだが、このベルシー刑事はなぜか自分の身の安全より事件のなぞの解明に心を奪われるようで、財産乗っ取り&海外逃亡計画と並行して、富豪の行方不明の追求にも身を入れ、とうとう自分の命まで狙われるようになる。果たして、ベルシーは富豪に生まれ変わって、大金とともに無事に海外逃亡できるのか? まずなにより、刑事でありながら犯罪者という、主人公の設定が面白いし、キャラクターの設定も上手だと思う。さらに、富豪の行方不明に絡む謎解きもしっかりした構成で、ミステリーとしての完成度も高く、これがデビュー作という作者の力量に感心した。 それでも評価を「7」にしたのは、文庫本で600ページという長さがマイナス。これが400〜450ページぐらいなら、もっと緊迫感のある作品になっていただろうと思うと、ちょっと残念。 それと、これは作者には関係ないことだが、表紙のイラストが「フロスト警部」シリーズと同じイラストレーター、同じタッチなのが、非常に残念。「早川さん、これは無いよ!!」 |
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コペンハーゲンの女性刑事ルイース・リック登場。デンマークでは人気を博しているシリーズで、本作はシリーズ第2作に当たるが、日本語では初お目見えとなった(英訳されているのも、第2作、3作のみ)。
出会い系サイトで知り合った男とデートした女性が激しい暴力を受け、瀕死の状態で発見された。事件を担当することになった殺人捜査課の刑事・ルイースは、心を開こうとしない被害者、少ない物証に苦労しながら捜査を進めるが、捜査が進展しないうちに第二の事件が発生してしまう。警察は事態の拡大に苦慮しながら、サイバー空間での捜査と現実社会での捜査を重ね合わせて、地道に犯人を追いつめていく。そして判明した犯人とは・・・。 犯罪捜査だけに限れば、まあありきたりな部分が多く、さほど目新しくもないし、スリルに満ちているわけでもない。しかし、それでも読ませるのは、30代後半、独身(パートナーあり)、刑事としてはタフでクールでカッコいいが、私生活ではさまざまな悩みを抱えているルイースの私生活が丁寧に描かれているからと言える。最近の北欧ミステリー・ブームは目覚ましく、新たなヒーロー、ヒロインが続々と紹介され日本でも人気を呼んでいるが、本作のヒロインもまた人気を呼ぶことだろう。 シリーズ2作目ということで前作のエピソードにちょっと触れられたりしているが、前作を読んでいないと分からないという部分はまったく無いので、ご安心を。 |
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死神を主人公にした作品6編で構成された連作短編集。それぞれ独立した作品として成立しているが、ある作品の登場人物やエピソードが、あとの作品でストーリーのポイントになっていたりするので、最初から順番に読むことをおススメする。
主人公の死神は、ある人が死を迎えるべきか否かを判断する重要な役割でありながら、たいていの場合は死を迎えるのが「可」と結論付けるし、その判断基準もきわめてあいまいで個人的で、「生と死を分ける」にしては緩いキャラクターといえる。半面、生きることにも死ぬことにも執着しない、ある意味ピュアな性格で、その言動は巧まずして人間社会の矛盾やあいまいさ、いい加減さをあぶりだしてゆく。死神とかかわりを深めるにつれて、判定を下される側の人間の本質がだんだん露わにされ、読者は普遍的な人間性について考えさせられるようになってくる。ミステリーというよりは、明るい人情話と言った方が妥当だろう。 死神は、情報部からのデータを頼りに判断対象に接触する“調査部員”という身分だった! あるいは「ミュージック=音楽」が大好きで、CDショップに入り浸っては試聴機のヘッドホンを装着している、あるいは人間界に来るときには様々な年齢や外見に自由自在に変身できる、あるいは死神が人間に素手で触ると、たちどころに人間は意識を失い、寿命が一年縮まる、などなど。読み進めるほどに死神の謎がどんどん明かされていくのが、なんとも面白かった。 |
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トラベルミステリーの古典というか、時刻表トリックの傑作として名高い「点と線」。東京タワーも新幹線も夢のまた夢だった、半世紀以上前に書かれた作品だが、今読み返しても十分に楽しめた。
本作のポイントは、時刻表を使ったアリバイ作りと警察によるアリバイ崩しのプロセスで、鉄道のダイアグラム図上のトリックと、捜査陣の頭上の謎解きのどちらが勝つか? 事件解明のための伏線やヒントも丁寧に書かれていて読者も謎解きに参加できる楽しさがあった。ただ、時刻表トリックに力を入れ過ぎており、犯罪の実行や動機に関する部分はちょっと物足りなさを感じたのも正直なところ。これはおそらく旅行雑誌「旅」での連載であったことが大きな影響を及ぼしたのだろう。 事件の背景が中央官庁と業者の癒着というところが社会派・松本清張らしさで、事件関係者の行動心理の分析の鋭さは、まさに面目躍如と言える。 |
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かつて「死ねばいなくなる」として刊行された短編集が、文庫化に際して改題されたもの。収録されているのは、「探偵はバーにいる」(1992年)でデビューする前の作品5点と書き下ろしの1点。つまり、本格的な作家として認められる前の作品が中心なのだが、どの作品もきわめて完成度が高いのに驚かされる。さらに、作品のジャンルというか、作品傾向が「ススキノ探偵シリーズ」の軽快なハードボイルドにとどまらず、コミック系、シュール系、SFとか幻想とかに区分されそうなものなどなど、非常に幅広く、しかも読み応え十分なことに舌を巻いた。
ススキノ探偵ファンはもちろんのこと、軽妙な短編集ファンにもオススメしたい。 |
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お馴染の道警シリーズの第6弾。今回は、警察内部の腐敗を追求するのではなく、人質事件を通して、官僚機構と政治家の腐敗を描いている。
えん罪で4年間の服役をしいられて出所した中島が、逮捕当時の県警本部長(現在は、警察庁の刑事局長)の妻、娘、娘婿、孫を監禁し、刑事局長に「人間として謝ってもらいたい」と要求する。中島の仲間として、支援者を自称する刑務所仲間が加わっていた。現場は札幌郊外のワインバーで、そこにたまたまシリーズの登場人物、小島百合巡査部長が居合わせたことから、おなじみのメンバーが事件解決に奮闘する・・・。 一方、北海道を地盤にする国会議員の下に脅迫状が届き、絶対に表に出せない金の所在を指摘し、三億円を払うように要求された。単なるいたずらとして片付けようとした議員、秘書たちだったが、いたずらとは言えない事実が判明し、追い込まれて行く。 監禁事件の膠着状態が続く内に、関係なく見えた二つの事件がつながり、事件の構図が逆転し始めて行く。 これまでの道警シリーズに比べると、ストーリーがやや緊迫感に欠けるし、組織対正義派のぴりぴりしたエピソードが無くて、ちょっと物足りない感じは残るが、物語の構図のユニークさで十分に楽しむことが出来た。 |
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冒険小説界の大型新人と言われるトム・ウッドの第二作は、前作に続く暗殺者ヴィクターの冒険アクション小説だ。前作「パーフェクト・ハンター」が大ヒットしたということで(未読)、同じ路線で、緊迫感とアクションをさらに高めたということのようだ。
CIAから世界的な兵器密売買の大物ディーラーに絡む暗殺を依頼されたヴィクターは、様々な困難な状況に直面しながら持ち前の技術、体力、知力を総動員して仕事を遂行して行く。そして、これが終れば自由の身になるという確約の下に最後のターゲットを指示されるが、そのターゲットは思いもかけない人物だった。それでも着実に仕事をこなして行くヴィクターの周りに謎の組織が出没し、行く手を阻もうとする。果たして、ヴィクターは最後の任務を無事に果たして自由の身になれるのか? 最初から最後まで、ヴィクターの超人的な暗殺者ぶり、スナイパーぶりに圧倒される。いわば、ゴルゴ13とランボーを合わせたような活躍ぶりなのだ。 暗殺と国際的な陰謀を絡めたサスペンス・アクションといっても、フォーサイス「ジャッカルの日」よりラドラム作品の方が好き、という方にオススメしたい。 |
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ハリー・ボッシュでもなく、リンカーン弁護士でもなく、新聞記者・ジャック・マカヴォイが主役のサイコ・ミステリー。
LAタイムズからレイオフを宣告され、新人への引き継ぎのため最後の2週間を勤めることになったマカヴォイは、殺人で逮捕された黒人少年の祖母から「息子はやっていない。あんたの記事はデタラメだ」という電話を受け、とりあえず取材を始めた。すると、思いもかけない連続殺人の疑惑に遭遇し、最後の特ダネとして真剣に取材し始めたことから、ネットを駆使する天才的な殺人鬼から命を狙われることになる。 マカヴォイが、優秀なプロファイラーでFBI捜査官のレイチェル・ウォリングと組んで犯人の正体を暴き、追いつめるのがストーリーの中心ではあるが、実は真犯人は最初から読者には分かっている。それでもなおかつ、犯人追求のサイコ・ミステリーとして非常に面白く読めるところは、さすがマイクル・コナリー! 謎解きでもなく、アクションでもなく、人間心理を描くことで良質なエンターテイメントに仕上げて楽しませてくれた。 本編が終ったあとに、「作者質疑応答」という付録があって、マイクル・コナリーが新聞業界の行方についての懸念を率直に語っているのが興味深かった。ここで取り上げられている問題は、まさに今、日本の新聞業界が直面している課題でもあると思った。 |
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イタリア版「羊たちの沈黙」としてヨーロッパで大人気を呼んだサイコ・ミステリー。さすがにマカロニ・ウェスタンを生み出した文化背景の産物というべきか、被害者の少女たちは全員左腕を切断されるわ、捜査官は自傷傾向があって、捜査に行き詰まると自らを傷つけるわで、全編血まみれ、味の濃いスパゲッティ・ナポリタンのような(笑)作品だった。
森で発見された6本の左腕が、連続少女誘拐事件として捜査中の事件の被害者のものだと判明する。ところが、被害者として分かっているのは5人だけ。では、6人目の少女は誰なのか? 左腕をなくした被害者の死体が発見されるたびに、捜査が大きく動き、犯人と思われる人物に迫っていく。だが、犯人と思われた人物が実は真犯人ではなかったことが分かってくる。どんでん返しに次ぐどんでん返しでサスペンスが高まり、最後のクライマックスが待ち遠しくなってくる・・・。天才的な連続殺人鬼対美人捜査官という構図も本家「羊たちの沈黙」にそっくりで、犯罪の発覚から犯人の解明までのプロセス、捜査陣の人間関係の緊張感もスリリングで、非常に読み応えのあるストーリーだった、全体の3/4ぐらいまでは・・・。 連続殺人の全容がほぼ明らかにされ、犯罪心理面から殺人鬼に迫っていくという一番重要なところで描かれる、どんでん返しのための仕掛けがかなりチープ(捜査の一環として、死の床にある富豪から霊能力者が重要な証言を引き出したり、きわめて重要なシーンで捜査官が簡単に騙されたり)で、ちょっと白ける部分があったのが残念。これがなければ、8点か9点でも良かったのだが。 |
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ボストンの私立探偵、パトリック&アンジー・シリーズの第5作。今回は、アンジーと別れてひとりで営業していたパトリックにストーカー被害を受けている女性からの依頼があり、盟友ブッパの手助けを得て一件落着。簡単なケースだったと思っていたのだが、半年後、依頼人の女性が全裸で飛び降り自殺を図ってしまう。しかも、自殺の前に、パトリックに「連絡がほしい」と言う電話があったのに、パトリックは電話するのを忘れてしまっていた。自責の念に駆られたパトリックが、誰に頼まれたのでもなく自殺の背景を探り始ると、裕福な一家に隠された意外な事情が浮かび上がってきた・・・。
本作で目を引くのは、何と言っても犯人の残虐さ。シリーズ史上、最も悪辣な犯人と言えるだろう。さらに、真犯人が判明するまでのプロットが二転、三転、複雑に入れ替わるところはジェフリー・ディーヴァー並のジェットコースター展開で読者を引っ張っていく。 今回はアンジーと同等以上にブッパの登場部分や役割が大きく、シリーズに新味が加わったと言える。 作者は、本作を終えて「二人を少し休ませてやりたい」と言っているそうだが、最強の悪人を相手に心身ともに深く傷ついた二人には、しばらく休養が必要だろうと納得できる。 |
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1990年に「パソコン通信殺人事件」として刊行された作品に加筆修正して、1997年に文庫化された作品。ここで刊行年代を明記したのは、急速に変化してきたネット世界の大衆化の第一段階だったパソコン通信(今は死語、SNSというべきか)が舞台になっているためである。「パソコンで会話ができるらしい」、「知らない人と仲良くなれるんだって」という話が、パソコンの専門家や理系の学生以外の普通の人の会話に出始めたころの話であることに留意して読む必要があるだろう。
主人公の小田切薫は三浪中で、目下の一番の楽しみは深夜のパソコン通信の世界で遊ぶこと。そこでは「KAHORU姫」として仲間の中心になり(女性になっているのは、通信の仲間が勘違いしただけで、彼がネカマになろうとした訳ではない)、時間を忘れて会話を楽むことができる。受験勉強のプレッシャーとも、半ば引きこもり状態の孤独感とも無縁でいられる夢の世界だった。ところが、「KAHORU姫」に恋をして、現実に会うために上京した男性が次々に殺される事件が発生する。犯人は小田切薫なのか、それとも他の誰かなのか? 真犯人が判明するプロセスや犯行動機などに多少の物足りなさを感じるが、浪人という中途半端な状況とネットの仮想社会との間で揺れ動く若者の心理描写には、「さすが、乃南アサ」と思わせる力量が現れている。ミステリーとしてはいまいちだったが、テーマの先見性で評価したい。 |
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「禿鷹シリーズ」の最初の作品。久し振りに「人がいっぱい殺される日本の作品を読んだ」というのが最大の感想。船戸与一作品以来かな?
渋谷を縄張りとするやくざ組織が、南米マフィアから派遣されて親分を狙う凄腕の殺し屋と死闘を繰り返す。そこに、やくざ側の強力な助っ人として登場するのが、禿鷹こと、刑事・禿富鷹秋。しかし、この刑事は一筋縄ではとられられない、とんでもないハードボイルド刑事だった・・・。 主人公のキャラクターも、ストーリーも刑事物の枠を大きく外れており、そのテイストは「マカロニ・ウェスタン」に近いと言えば、分かりやすいだろうか? 渋谷が舞台とはいえ、和風なところは皆無で、ラテンや東南アジアのテイストといった方がよいだろう。 同じ刑事が主役の小説といっても「百舌シリーズ」とはまったく異なる、劇画風ハードボイルドで、これは好みが相当分かれる作品だと思う。 |
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リンカーン・ライム・シリーズの9作目は、電気を武器にするテロという、これまでにはない犯人との知恵比べが展開される。目には見えないが、我々の周囲には必ずある電気を使ってニューヨークを人質にとろうとする犯人の狙いは何か? 地球環境破壊につながる化石燃料発電を止めさせようとする環境保護団体のテロなのか? 東日本大震災を経験した日本人には身につまされるような電力と人命や環境との対立というジレンマを背景に、意外な犯人像が浮かび上がってくる。だがしかし、最後の最後で、さらに驚愕の犯人が登場する・・・。
物語の冒頭から読者を引きつけ、ハラハラドキドキのジェットコースター展開で楽しませる巨匠の腕は、本作でも遺憾なく発揮されている。また、チーム・リンカーンともいうべき仲間たちが、それぞれの魅力を発揮して物語に味わい深さを加えて、シリーズ作品ならではの楽しみも用意されている。 ただ今回は、微細証拠物件から犯人を割り出して行く「科学的捜査」の側面より、心理や人間関係から犯人像を描いて行く「プロファイリング」的な側面が強くなり、通常の警察小説に近くなったような気がした。 犯人逮捕後のエピローグ部分で、シリーズの今後を予測不可能にするような展開があるのも、リンカーン・ライムファンには気になるところだろう。 |
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3部作、それぞれが700ページを超える超大作で登場人物も多いが、人物関係が複雑ではないので、意外と楽に読むことができた。
クリスマスイブの深夜、校舎屋上から落ちて死んだ同級生の事故?、自殺?、事件?をめぐって、学校や親や警察を信じきれなかった中学三年生たちが、自分たちの手で真実を見極めるために法廷を開く・・・。まず、舞台設定で驚かせてくれる。しかも、主要な役割の人物はスーパー中学生というか、大人顔負けの論理的な論陣を張ってくる。「こんな中学生、いるわけないじゃん」と思った時点で、この作品はまったく面白くなくなるだろうが、そこはそれ、フィクションの面白さと思えれば、楽しめる青春小説を言えるだろう。 同級生は自殺したのか、だれかに殺されたのかという謎解きミステリーとして読むと、特別なトリックや驚くほどの動機や犯行形態があるわけではなく、さほど面白くはない。また、最後にどんでん返しがあるわけでもない(むしろ、勘のいい人なら途中で結末が予想できる?)。だれもが通ってきた道を振り返る、中学生の青春ドラマとして読むのが正解だろう。 |
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高村薫の最新作は、合田雄一郎シリーズの新作だけに、「晴子情歌」から前作まで続いてきた読みづらさが薄らぎ、エンターテイメントとして楽しめる作品だ。ただ、警察小説、ミステリーを期待していると裏切られる結果になるだろう。
物語は、実際の事件(いまだ未解決だが)を想起させる「歯科医一家4人殺し」の事件発生から裁判、死刑執行までを追うもので、犯人、被害者の背景描写から捜査の在り様、裁判過程における関係者の言動まで、いかにも高村薫らしい緻密な描写(ことに、犯人の歯痛、歯科治療の詳細さと言ったら・・・)で展開される。しかし、すべてが明らかにされたようでありながら、犯人の実像、心理、犯行動機などは、すべて霧の中での手探りの記録でしかなかったという茫漠さが最後に残り、きわめて微妙な読後感に悩まされることになる。作者は、合田雄一郎と読者を真実と虚偽が絡み合って延々と続く、広漠な精神世界に放り出すことを狙っているに違いない。 そこが高村ワールドであり、好悪が分かれるところだろう。 |
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引退した捜査官が断りきれない事情から再度、捜査現場に戻って活躍するというのはよくあるパターンだが、主人公が60歳近い女性と言うのは初めて読んだ気がする(すでにあるのかもしれないが)。しかも、本筋はサイコパスを追いかける異常心理ものなのに、犯人の心理や行動の描写は少なく、ヒロインの心理描写の部分が多いのも異色だ。
女性対象の性犯罪者を捕らえるための囮捜査のプロとして活躍していたFBI捜査官ブリジッドが、若い女性の囮の役目を果たせなくなり、後継者として育てたFBI捜査官が殺された「ルート66連続殺人事件」は、犯人を逮捕できないまま7年が経ち、ブリジッドは引退して新婚生活を送っていた。そこに、犯人逮捕の報が届くが、担当の女性捜査官コールマンは犯人の自白に疑問を持ち、真犯人かどうかの確認のためにブリジッドに協力を要請する・・・。 捜査権限がない立場での厳しい捜査に、果敢に立ち向かう中年女性。体力、気力とも現役に負けないのだが、いかんせん警察力を駆使できない弱みがあり、非常に苦しい戦いとなり、自分自身はもちろん、最愛の夫までも苦しめる展開になってゆく。 若い女性の役ができなくなった中年女性が、老嬢専門の連続殺人鬼に遭遇するところからスタートするストーリーは、異色と言えば相当に異色で、問題解決までの道のりにややご都合主義的なところもあるが、最後まで犯人が分からず面白く読めた。 主人公のキャラが独特過ぎて、シリーズにするのはちょっと難しいかなと思うが、次回作はあるかどうか? その点も興味深い。 |
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1931年生まれのジョン・ル・カレが2010年に発表した最新作。御年79歳での作品とは思えない、みずみずしい作品だ。
ロシアの新興マフィアのマネーロンダリングの第一人者が、犯罪組織を裏切って英国への亡命を希望し、イギリス人の若いカップルに英国情報部との架け橋を依頼したことから物語がスタート。果たして亡命は成功するのか? 最後まで先が読めないスリリングなストーリーが展開される。 本作品の最大の特徴は、登場人物がきわめて緻密に描かれていて、まさに生きて動いていることだろう。大学講師と弁護士のカップル、亡命しようとするマフィアとその家族、情報部のスタッフなど、主要な人物はすべて個性的で、その心理や行動に読者はリアルな共感や反発を覚えずにはいられない。ル・カレのスパイ小説には欠かせない神経をすり減らす情報戦の要素はやや薄いといえるが、それを補って余りある人間ドラマとしての面白さが光る。 ル・カレの本領ともいえる冷戦時のスパイ小説とはやや趣が異なるものの、人間観察の鋭さと人物造形の上手さで、スパイ小説ファン以外の読者にとっても読みごたえがある作品と言えるだろう。 |
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宮部みゆきの長編デビュー作。プロローグでの伏線の張り方から主人公の設定、周辺のキャラクター、事件の背景まで、実に巧みな設定で、さすがに宮部みゆき、栴檀は双葉より芳ばしである。ただ、最後の詰めが後々の長編作に比べると多少甘く、評価を減点せざるを得なかった。
まず、主人公が元警察犬・マサで、犬の視点からの一人称語りというのが、なんとも人を食っていて面白い。また、マサの飼い主である探偵事務所のスタッフや、一緒に真相究明に当たる被害者の弟などのキャラクターが青春小説っぽいところも、殺人の様相や事件の背景が凄惨であるにもかかわらず読後の印象がどろどろしない要因となっている。 ミステリーとしては物足りない部分も多いが、宮部みゆきの才能の芽が随所に感じられる佳作といえる。 |
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それぞれの時代性が重要なスパイもので、しかも25年以上昔の作品なのに、文句無く楽しめるスパイアクション。アメリカがロシアからアラスカを買い取った時の協定には、実は買い戻し条項があった! という、史実と虚構を大胆に組み合わせた“ホラ話”で最後までハラハラドキドキが楽しめる、アーチャーの名人芸が堪能できる良質なエンターテイメント作品だ。
ロシア革命時、皇帝ニコライ二世が条約書をイコンの裏にかくして国外に持ち出したことを確信したソ連指導部は、1966年5月19日、イコンの発見と奪還をKGBに命じ、最も優秀で非情な情報部員ロマノフが調査を開始する。定められた期限は1966年6月20日。そのころ、イコンはナチス・ドイツの高官が偽名で預けたままスイスの銀行に眠っていた。 そのイコンを受け取る正当な権利(必要な書類)は、父親の遺産としてイギリスの退役軍人、アダム・スコットに引き継がれ、スコットは中身の詳細を知らないまま、遺産を受取に行く。そこに待っていたのは・・・。 知力、体力、行動力をぶつけ合い、逆転に継ぐ逆転で突っ走るというストーリー展開はまさにスパイ小説の王道だ。さらに主人公が、アメリカでもロシア(ソ連)でもなく、第三国のイギリス人の退役軍人ということから巧みなユーモアも加味されており、アクション一本槍ではない面白さがある。 |
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