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ニコラス刑事 さんのレビュー一覧
ニコラス刑事さんのページへレビュー数324件
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一応、物語の背景を多少は理解しておいた方が良いでしょう。この小説が発表されたのは1956年。大戦後のドイツのハンブルグで暮らすヒルデガルデ・マエナーは34歳の独身女性。爆撃で両親も友人もすべて失くし未来には何の希望も見いだせない毎日。翻訳の仕事で生活費を
稼いでいるが、何も考えずにいられるのは一ヶ月のうちわずか10日ほど。食べるものや家賃の支払にに頭を悩ます日々のヒルデガルデ・マエナーには毎週金曜日に新聞に載る求縁広告が楽しみでした。 そうです、彼女は現在の暮らしにウンザリし玉の輿を狙っていたのです。こんな背景を綴りながらヒルデガルデの行為を正当化するように作者は描いていきます。この辺はロジックがしっかりしていて 納得されられます。歳いった身寄りのない大富豪の妻の座を得る行動もブレのない彼女の信念と行動が読んでいるこちらの理解を得られるように上手く書かれています。身寄りのない独身のドイツ女性。そして身寄りのない老齢の大富豪。二人の対決が見ものです。大富豪であるがゆえ、人を人とも思わない態度が常で召使のジャマイカ人や豪華なボートの船長までも大声で罵倒するのが大富豪カール・リッチモンドのやり方です。こんな男に取り入るのはどうするのか。そこが巧妙で、誰もが彼の云うがままになっている現実に目をつけて、わざと彼に楯突くような態度に出ます。カンカンに怒るリッチモンドですが自然と彼女に歓心を寄せていき、最後には二人は結婚となります。こう書くとハッピーエンドのように思われますが、この二人の結婚にはある人物のお膳立てがありました。その人物の細かい指示に基づいた行動でリッチモンドはヒルデガルデとの結婚に踏み切ったと云えるでしょう。前半はこの結婚までに至るプロセスが描かれていますが、後半からは事態が一変します。これまで書かれてなかったミステリの常識を覆すアルレーのこの本ですが、当時は大変なショックをミステリファンに与えたことでしょう。今読めばこのラストはそれほどの驚きはないでしょう。それでもこの本の価値が下がることはありません。あの当時にこの内容で書かれたミステリ。その事実が燦然と輝いています。 |
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いつもはワトソン役の有栖川有栖が今回は探偵役に回っていろいろと調べ回る話です。全体を見てもとても自然だというのが私の印象です。著者の都合に沿った作為的な部分がまるでありません。
この点だけでもすごいと思います。唯一ツッコミどころとしては例の電車内でのトラブルを撮影していた、という件ですが。しかし、現実にも生のニュースショーで視聴者提供という動画が リアルタイムで流れる現代です。そう見ればこの設定も無理があるとは言えません。始めから最後まで細かく計算された構成のストーリーで流石有栖川有栖と云えます。他殺の根拠がないから自殺。 その警察の見解を覆すべく奔走するワトソン。この図式が面白いです。自殺との見解ですから警察もそうキメ細かく関係者の証言に当たっていません。そこを丹念に当たりこれまで出てこなかったちょっとした 話を耳にする有栖。そんな調べ方で少しずつ死んだ男の過去が浮かび上がってくるところが読ませどころですね。こういう形態のストーリーはどちらかと云うと好きな方なので楽しみながら読み進みました。 決定的な過去の出来事と現在との接点。そこに矛盾する行動をとる人物を指摘する火村。うん、久しぶりに楽しい時間を過ごさせてもらいました。有栖川有栖さん、もっと長編をお願いします。(笑) |
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シチュエーションとしては紛れもなく「雪の山荘」もので、これはもう期待して読みます。今さらながらこの難しいジャンルに手をだそうという姿勢に感心します。が、しかし、本書はこういったジャンルにおいて成功例として認めるかと問われるとう~ん、と唸ってしまいます。あ、個人的にはってことですが。まず冗長だと思います。もっと切り詰めてサスペンス感を盛り上げるべきでしょう。犯人は意外でもなく何となくそうだろうなと読んでいて感じてしまいます。クリスティに対してのリスペクトでしょうが、すこし幅を広げ過ぎたのではないでしょうか。それよりもこのページにある外部リンク、アンネ・ホルト/枇谷玲子訳『ホテル1222』ここだけのあとがきWebミステリーズ!の方がよほど楽しめます。こちらをクリックしてぜひご覧になってください。なるほど『スターウォーズ』のねえ・・・・・・。
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警察小説においてありがちな、政治的なネタをバックにした人間味溢れる物語、というスタイルは実はあまり好きじゃない。派閥だのなんだのってのに主人公が翻弄されて難事件に孤軍奮闘って図式は
ある意味安易で読む意欲が沸かない。キャリア組と現場からのこつこつ叩き上げ組の対立という図式も、もういいよって感じになってしまう。これもガチガチの警察内部の対立をメインにしたストーリーだと思っていたが ある意味裏切られた面があり最後まで読むことが出来た。それは主人公が広報官という立場での活躍を描いたからだろう。警察組織といえども事務方と現場組との軋轢は多々あるだろうが、ここまで露骨とは思っていなかったので驚いた。記社歴のある著者のスキルを活かしたマスコミ対広報官とひいては警察との対決も真に迫っており、そうなんだろうなと思ってしまう。記者の一人一人の人物造形もしっかりしていて ストーリーが動いていく部分で大事な要素になっているところがキメ細かい構成に繋がっている。よくある無言電話が前振りとラストのオチに繋がっているとは思わなかったので驚きました。 なるほどねぇと感心しました。かなりのボリュームですが少しづつ見えてくる物語の芯の部分にワクワクしながら読み進みました。この構成の見事さは話題作を連発する著者の力量を示していると思います。まさか警察の狂言じゃないだろうなと思いつつ読む後半はページを捲る手が止まらなくなります。明るくお気楽な小説世界とは違ってリアルな人間模様と現実社会にもある組織内部の軋轢をベースにした物語にミステリというスパイスをしっかりと効かせたお話しでしたね。 どっちかと云うと、妬みや嫉みを盛り込んだ汚い一面を見せる警察内部の模様を描きながら読ませる話は苦手ですが、敬遠していたところを気分を変えて読んでみて、あ、読んで良かったと思いました。 主人公の三上も人物造形が良く出来ていると思います。彼の美人と云われる妻との馴れ初めもピッタリのエピソードで細部にもきちんと書き込む著者の精神というか姿勢が好感に繋がります。登場人物のそれぞれの想いや感情、生きる姿勢などが、その配置されたポジションにしっかり合う書き方は流石と云えます。 |
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物語そのものはシンプルで、だれが犯人なのかを推察するだけだ。はっきりした物証があるわけでもないので、その行為を成し得たのは一体誰かと調べる主人公の行動を追いながら読み進む内容だ。
しかし、考えれば考えるほど容疑者は自分以外にあり得ないとなる現場の状況というところがこの本の面白さである。大学での研究生活。師と自分と研究生。それに安泰とは言えない立場。その立場に何かと プレッシャーをかける妻。妻との会話も現代的で面白く苦笑を禁じ得ない。いつの世になっても男と女のこういった点の会話は同じなんだと笑ってしまう。しかし、不利な自分の立場にも顧みず犯人探しに乗り出す 主人公。論理的に犯人を指摘できるのはどの部分か。最後に謎解きが語られるが、うん、と納得しました。ついでに良く耳にする象牙の塔の意味や語源も調べられて二重に納得のいった一冊でした。 アシモフ先生の初の長編とのことですが悪くは有りません。現在に溢れるミステリの一つのプロトタイプであります。 |
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読んでいて、ピカレスクロマンの物語なんだなと思った。各章の人物目線で語られる話は面白く、ある人物が陰に居るのがはっきりとしているので、ボチボチと警察関係者のアンテナに彼女の存在が
知られていく件も当然その予感を抱かせる。ダークヒーローものはけっこう個人的には好きで、過去には面白いものを読んだ記憶がある。このスタイルものは着地をどうするかに成否がかかっていると いっても過言ではないだろう。緻密な構成と大胆な仕掛けで警察に尻尾を掴ませない主人公の行動がある意味爽快となり読者の共感を得るのがピカレスクロマンの面白さであると思う。もちろん結末の様子が どうであるかも重要だけれど、いろいろな出来事をどう読ませるかにもかかっている。その点この本は工夫が凝らしてあると認めても良いだろう。始めに出てくる人物も最後には重要なファクターになるし、各章のエピソードも面白い。その手口は実際使えるのかというツッコミはなしにして、何故という行動にもきちんと心理面が綴られているので納得してしまうのは作者の上手さでしょう。 一点どうなのかな、と感じるところは主人公の内面というか、何故そのような人間なのかという部分が描かれていず彼女の行動原理が不明であるところが残念であると思う。幼少のころの父親との関係がそうさせたと推察されるけれど、彼女自身の口からはっきりと語られていないのであくまで推察でこの部分は不明だ。もっとも作者はこのところは逆にハッキリさせない方が、この人物のカリスマ性みたいなものが増すと 計算したのかも知れない。それ以外ははじめから最後まで楽しめたので良しとしましょう。 |
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現実味は余りなく、すべて架空の話しとして読むと納得できる内容です。ミステリっぽいドタバタは裏返しだし、人情話にも実は、といったドンデン返しがあったりとします。盛りだくさんといえば
そのようですが少し無理やり感があったりします。ラジオのパーソナリティとリスナーとの邂逅もご都合主義というかちょっと出来過ぎでしょう。まぁ、マイナス評価のような話が続きましたが、全体的には 読ませます。世界観がどうのこうのといっても最後まで読ませるのは作者の力量が並ではない証明です。アクション場面の描写も秀逸で映像を見ているように頭の中で再現されて読み進みます。オチの部分は 人間は誰にでも何かしらの不幸な目にあうことがあり、それらを乗り越えて生きていくことが大切であると、そんな普遍的なテーマであるのかなと思ったりします。主人公も周りの人も人間味あふれる人物ばかり で、当然その部分がこの物語の重要なファクターです。こういった話をこのように料理するのは私自身は嫌いではありません。ガチガチの本格ミステリの合間に読むのにはとても良い一冊とあると云えるでしょう。この著者のファンやお気に入りの作家としている人には読んで損のない物語です。 |
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「星降り山荘の殺人」でお気に入りの一人になった作家さんです。しかし、猫丸先輩とかの類は読んでいません。壺中の天国はなかなかやられた感があって良かったですが。さて、この中編四作からなる
ミステリ。楽しみながら読んでいて、最後の一篇がこれがまたやってくれた感の強い作品で、このやり口が私には爽快で参ってしまう所以です。キャラクターやらはドルリー・レーン作品へのオマージュ で、まぁ名コンビとして明るく描かれていて楽しく読めるのが良いと思います。同じものを見て、同じ話を聞いて真相に至る探偵と、?が頭の中でぐるぐる回るワトソン役の乃枝は読んでいる私と同じレベルだと 笑ってしまいます。設定に拘った事件とその真相に至る探偵の推理力。軽く読めば十分に楽しめます。そして油断と共に予想外のサプライズ。最後の一篇が効いています。一点、予想外というかアノ凶器だけは ちょっと引いてしまいますが・・・・・・。 |
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DVDを観るのを我慢して先に本をよんで良かった。( ´艸`)文庫本二冊のボリュームだけれど一気読みに近いぐらいに読み進んだ。特に上巻は面白い。
突然消えた妻。事件か失踪か?夫ダンの胸の内の独白と行動。そして消えた妻エミリーの日記が示す二人の出会いと結婚生活。やむをえず警察に知らせ捜査が始まるが 荒らされた室内と拭き取られた血痕の意味。型通りの捜査でただの手続きさ、まず初めに君を除外したいんだと話す二人の刑事。こういうケースではまず夫が第一の容疑者よと心配する エミリーの両親。妻の行方を探すダンだが小さなウソを重ねていく不自然さ。事が公になり世間の注目を集めるが徐々に追いつめられる夫ダン。アメージング・エミリーとして広く 知られた存在の妻エミリー。その特殊な環境がもたらす影響。設定がとても上手いと感じる。語彙も豊富で訳者もなかなか良い訳でとても読みやすい文章になっている。 宝捜しゲームも面白い考えで、エミリーの思考とダンを追いつめていく材料になっているところがひとつの手法として上手いなと思う。真相はどこにあるのか、上巻はページをめくる 手が止まらなかった。時代背景や地方の空気感、人々の生活感がちゃんと伝わる細やかな筆致。下巻も楽しみに広げた。結末は意外といえばそうだけれど一般的な小説読みの人には受け入れられるだろうか と疑問に思う。もっとはっきりした出来事の顛末としての最後が読みたいのではないだろうかと思いました。深いと云えば深い、そんなラストで幕を閉じるのですが、その辺がマイナス1ポイントとして9ポイントにしなかった理由になります。 上巻に比べて下巻は少し勢いが落ちるが、それでも展開として目が離せない動きを重ねてそれぞれの胸の内を読者に示して納得させるものになっている。上巻のサスペンス感たっぷりの出だしから 最後の有り様は少し尻すぼみと受け取られるかも知れないけれど、巧みな人物描写と的確なモノローグを効果的に使ってここまで書くのは達者な作家だと思わざるを得ません。 総じて面白かったという感想です。 |
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三作目でもありこれまでのキャラクターが一層際立って描かれるようになっていて楽しめます。適材適所のポジションにいるキャラクター達や天馬と袴田妹の関係の進展?などを絡めながらいつものように
殺人事件の犯人を天馬が論理で指摘する内容です。断っておきますが動機を云ってはいけません。天馬の謎解きのロジックを楽しむのがこの本の面白さです。消えた本にも犯人にとっては危うい意味があって 隠された一つの真相という役割と犯人寄りの立場で見れば重要な小道具になるように計算されています。ダイイングメッセージってそんなものを今時?という感じですがミスリードの材料にしても最後まで 引っ張ってあのオチは中々上手いと思います。普通、人通りの少ない裏通りで殺人があった場合警察の初動捜査は被害者の私生活を調べてあらゆる可能性を視野にいれた捜査を余儀なくされるでしょう。通り魔、会社の同僚や友人関係のトラブル、金銭のもつれ、恋愛関係のもつれ、本人は意図しなくても深い恨みを買っていたとか、捜査対象を絞り込むまで広範囲に調べるでしょう。ミステリ好きならこの程度の想像が出来るのですがそんなに大きく間違ってはいないと思います。しかし、現場は図書館です。それも閉まった夜間の犯行なので無差別の通り魔の仕業で起きた事件ではないとある程度確信はできます。となると容疑者は被害者の身辺に居る人物となります。この点を踏まえて余計な方向に神経を配らずに現場の様子から導かれる論理で天馬が犯人に迫っていく様子を描くのがこの著者のウリであり平成のクイーンと(誰が言ったのか)呼ばれる所以であります。キッチリと祖語のないように計算されて書かれているのは流石というところです。この謎解きの部分が楽しみで読んでいるのですから。 世界観は多少漫画チックではありますが天馬の知られざる部分が柚乃の調べで少しづつ明らかになっていくようでこの後にもその設定で書かれていくのかと楽しみです。 |
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満願とは氏のことで今はとても旬な作家と云うことになるでしょう。六つの短編が収められたこの本、それぞれ味も色彩も違う内容ですが、高い位置での水準を保った作品であると思います。
熟成された文章とシャープな感性で深みのある物語を見せてくれます。ただ、短編集であり、この年に他の作家が出した本はどのような内容なのかすべて熟知している訳ではありませんが、他に抜きんでて これがベストワンと云うのはどうなんでしょう。大人の事情などがあったのでしょうか。と、こう書いても別に貶している訳ではなく、楽しめる一冊であることに変わりません。 着想の妙から描いたミステリ仕立ての大人の絵本といった感じです。好みから言えば「関守」で安っぽい話からホラー風味とミステリ的手法を上手く融合させていて似たような話とは一味違う一篇になっていると思います。 「死人宿」もそういった裏の事情が隠された場所がいかにもありそうに見えて妙なリアル感を覚えました。長編とは違い短編集ですから根を詰めて読むこともしなくて良いので気分的に楽だということもあります。 さらっと読める内容と相まって気分転換には良い一冊でした。ただ、しつこいですがこの本に負けた他の本はもっとしっかりしなくてはいけません。他の作家さんは打倒満願の心意気を示してください。 |
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これを読む前にマーガレット・ミラーの「狙った獣」読みました。両方ともにまさかの同じネタでした。「狙った獣」は1956年のエドガー賞受賞作です。1956年にこんな内容のサスペンスを書いていたことには驚きですが、井上夢人のこの本も中々良く出来たミステリです。冒頭に不可解な謎が読者に示されます。一人の女性が夫の出張中に初めて町の図書館に行きますが、昨日あなたは登録を済ませて貸し出しを受けていますと告げられます。名前、住所はまったく同じでした。しかし、この図書館は利用したことはなく今回初めて来た場所です。何がどうなっているのか女性は混乱します。そして・・・。各人の名前で出来事が綴られたファイルが読者に示されますが、始めのころは主人公同様に何が起きているのかまったく分かりません。この辺の構成が良く出来ています。殺人があった部屋から気が付けば向かいの部屋で目覚めた女性。殺された女性は一体誰なのか。夫はどこに消えたのか謎は尽きません。後半いったん明らかにした事実を最後にさらに覆すなど手の込んだ内容です。ただ、あまり詳しくは書けません。何故ならすぐにネタバレになるからです。でも、読みやすい文章でのめり込んでいきます。一時期このネタは流行りました。有名な海外の本や映画もあります。でもこれは井上夢人らしいミステリとして評価できると思います。
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最後の一撃をするためには、①「そこまでにすべてデータは揃っている」のに
②「読者はずっとミスリードされていて」 ③「最後のたった数行でどんでん返しを行い」つつ ④「実は過不足なく説明されている事がちゃんと分かる」 といった四つの要素が必要になるわけだが 1~3だけでも十分アクロバティックなのに、そのうえ4を満たすのはまた思いの外難しいことなのだ。 これは瀬戸川猛資(夜明けの睡魔で有名)氏のクイーンの「フランス白粉の謎」について書いた文章です。 さて、マーガレット・ミラーの本書も最後の一撃が楽しめる一冊であることに間違いはないでしょう。 未読の方にはおススメのミステリと云っておきましょう。 |
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エラリー・クインの遺稿が見つかった。それを北村薫が訳して出した本、というふうな体裁で書かれた華麗なるクイーンのパスティーシュです。物語自体の内容は出版社の招きで来日したクイーンが幼児連続殺害事件を解決する
話しですが、そのストーリーに絡めてクイーン諭が展開される楽しさです。女子大生の小町奈々子が書店でアルバイト中に一人の男から五十円玉二十枚を千円札に両替を頼まれます。男は始終顔を伏せボソボソ喋り札を手にすると急いで 店から姿を消すので印象は余りないのですが、五十円玉二十枚を千円札に両替という変わった行為が記憶に残りました。そして小町奈々子は大学のミス研にいる関係から出版社と関わりがあり、来日したエラリー・クイーンの日本滞在の 案内役をすることになります。その時期発生していた幼児連続殺害事件を新聞で読んだクイーンはこの事件に強い関心を持ちます。そして奈々子から聞いた不思議な両替客のことを知り事件の真相に迫る推理を繰り広げて・・・という趣向 です。まぁ本全体が一冊のクイーン諭と云っても良いような内容でミステリファンであれば始めから終わりまで楽しく読み進められるでしょう。いわずもがなのあとがきも非常に興味深く、書店でアルバイトをしていた若竹七海さんが実際に 経験したことのある両替客のことで、小町奈々子とは若竹七海さんがモデルとなっているそうです。未だに根強いファンを持つエラリー・クインを主人公にして諭とミステリと両方を楽しめる内容は北村薫氏ならではの世界と云えます。 氏のデビューのいきさつなども記されていて色んな意味で楽しい一冊です。 |
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世界中でテロ事件が起きている。宗教と戦争、それは人類の歴史。だがこの日本は誰もが認める安全な国。しかし、日本は世界が経験したことのないテロ事件を起こされている。そう、地下鉄サリン事件だ。これは近未来に向けた
平和ボケの日本に警鐘ともいえる物語だ。利益誘導型の無秩序な都市開発。コンクリートジャングルの都市特有の自然災害。珈琲専門店ペーパー・ムーンのアルバイト店員篠崎百代は自らが神となって世の中の間違いを正すことを 決意する。ペーパー・ムーンの常連客五人が百代にサゼッションするがあくまでも行動するのは百代ひとり。武器は自然界に生息する毒。ターゲットは汐留にある大型ショッピング・モール。そこで百代の恋人が不慮の死を遂げた。 その原因はゲリラ豪雨。すべての意味で選ばれた舞台。百代は行動を開始する。見送った五人委員会のメンバーで一人現れない男がいた。いつもどうりの日常を送るはずの一人が携帯にも出ないのを不審に思った四人は彼のアパートに 向かうが見つけたのは彼の死体。計画の中止を伝えるため四人も汐留のショッピング・モールに向かうがすでに百代は作戦を実行していた。百代は綿密な作戦をもとに大量殺戮を始めている、その様子をいろいろな視点から息もつかせぬ 展開で描いている本書。正義感溢れる人や物語はハッピーエンドじゃなきゃダメというような人には不快感しか感じないような内容だ。動機がどうとかあり得ない話とかで片ずけるのは簡単だけれども作者の意図も読み取って欲しい。 読み物としても一気読み必至のこの物語、石持浅海らしいスキのない緻密さで構成されたストーリー。こういう社会性のある内容もたまには良いと思う。 |
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お通夜の席で顔合わせした面々が故人のエピソードを語っているうちに意外な方向に向かっていき、果たして故人は生前受けていた評判どうりの人だつたのか、それとも隠れた犯罪者だったのかというストーリーです。
著者は元お笑い芸人だったそうで、そのせいかどことなく落語の世界のような不思議な雰囲気とユーモアを感じるのは私だけでしょうか。次々と語られる故人のエピソードは現実にあった事件に微妙に当事者として成立する 部分があり皆は次第に疑心暗鬼に囚われていきます。この過去の出来事と個人の行動が語られて徐々にもしかしたらと読者も登場人物たちのように思わせるように持って行くところは中々面白く上手く書けていると思います。 各人の話しはすべて状況証拠ですが告発には十分な内容です。さて、この後どのようになっていくのか?面白い展開です。そしてミステリですから読者の予想を裏切らなければいけません。着地はある手を使って話を収めていますが 話しの流れや全体から見ても違和感はなくそれで良いと思いました。文章も読みやすく人物もキチンと書き分けられていて物語世界を楽しめました。大賞受賞作として品格と個性と完成度のある作品だと思います。 |
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ミステリ色は少し薄味ですが家族の物語として読めば中々読ませる物語だと思います。個人的には好きな言葉使いであったりして文章も気に入ったので物語の世界にすっかり浸って読み進めました。
曖昧なところは曖昧なままにしてあるのでその辺のところが厳しい評価で見る人も居られるようです。だが、個人的にはすべて白黒つけた解決のあり方で読ませる内容ではなく、メインは主人公アダムの 心のうちに燻る怒りや家族、特に父に対する複雑な感情の流れなどを描きながら彼が新しい人生に踏み出す物語と捉えれば良いと思います。実際彼を取り巻く人たちにはいろいろな人物が揃っています。 元恋人や義理の妹たち、そして農場の使用人でありながら父と深い絆で結ばれている信頼の厚いドルフと云う男とアダムの交流。保安官や刑事と判事。過去の事件と新たに発生した事件や出来事。 それらに振り回されながらアダムは過去は過去として捉え新しい生き方を選び出す、そんな家族の中の個人個人にスポットを当てたエピソードが織りなす物語であって家族の再出発という物語でしょう。 深い謎に包まれたミステリとしてではないものの読みごたえはあり、個人的には三日で読み終えるほど集中して読み耽りました。ありがちな家族の再生物語といえばそうかも知れませんが最後のページの 余韻の良さもあり楽しめた一冊でした。そう残酷な事件が続いて起こるといった展開ではないところがかえってこの本の良さと思います。 |
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いろいろと趣向を凝らした短編集です。伊坂ワールドが好きな人には楽しめるでしょう。一見関連のない短編を七つ集めたように見えますが、首折り男というキーワードで話が繋がっているものもあります。
個人的には「月曜日から逃げろ」ですね。チャップリンの映画という言葉を出して、ネタバレに近いと思わせておいて読者をうっちゃる手の込んだ話で、また読み直してみるとちょっと頭がこんがらがる内容です。 いろいろと味のある話が収められており、ジワッと胸に沁みる話などもあって幅広い作者の見識によって書かれていると思える内容です。じっくり読み込む本格物のミステリから比べれば薄味かも知れませんが ただ単にこれまで発表したミステリを集めて短編集として刊行されるものよりはグッと上質なお話が詰まった一冊であると思います。伊坂ファンでなくともミステリ好きなら楽しめる内容と云えるでしょう。でも個人的には 黒澤というキャラクターが出てきますが、探偵仕事をすることと空き巣仕事をする人物となっていますが、この点がどうも馴染めません。空き巣なんてチンケな仕事をする男というのはどうなんだろうと思います。簡単に忍び込める腕を 持った動かしやすい人物でルパン三世のようなイメージで作ったのか、あるいはそのイメージを読者に持って貰いたいのか分かりませんがちょっと設定についていけません。この人物をもう少し考えて作り込んで欲しかったと 思います。 |
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物語の背景が昭和二十年から平成の二桁までになっている。この時間の流れの中に当時の世相を表す出来事や社会現象が脚色なしにそのまま物語の中に取り込まれ描かれている。
映画で云うならファーストシーンから作者は仕掛けを施している。すべてが計算されたものであることを読み終わって初めて気付くことになる。正直に言えば読んでいる途中で少し退屈に感じた。 だけれどその部分は我慢して読み進むしかない。その結果がラストの爽快さであることにこれも読み終わってから気付いた。この本の謳い文句に「他者にその存在さえ知られない罪を完全犯罪と呼ぶ、では 他者にその存在さえ知られない恋は完全恋愛と呼ばれるへきか?」とある。これはある意味ネタバレになると思うのだけれど作者はあえてこの一文を載せた。そう、作者はある程度読者に推察されてもかまわない と云う余裕のスタンスである。一片は推察どうりであってもそれはホンの一部であり背後の隠された真相は見抜けない、という自信たっぷりの作者の態度である。確かに世相のエピソードが紹介されているが そんなところは漫然と読むのが普通であり本筋と結び付けて考えないだろう。だからこの部分はアンフェアだと指摘出来るかも知れないが、作中で語られている本格のルールによれば隠された部分をどう推理するかは 読者の責任なのであって作者は手掛かりはキチンと示しているということになる。とにかく一筋縄ではいかない仕掛けが施されたミステリでいろいろなガジェットも使われており、読後の爽快感を考えれば途中の 退屈な部分もスルーすることなく注意を怠らずに読むべきであると未読の方に注意をしてさし上げたい。 |
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ある出来事で警察を辞めた男が、ちょっとした係わりから一つの殺人事件について調べを進めるうちに、自身の過去とも向き合うようになり立ち直りのきっかけを掴むようになる。簡単なストーリー紹介で云えばこんな内容で、よくある話といえば
まぁそのとうりだけれど主人公を現実逃避からアルバイトで山小屋で働く男にしてあるところが舞台背景として面白い。山小屋の様子や山歩き、登山に関したエピソードがいろいろ書かれていてちょっとした山岳小説のようになっているところがミソだ。ちょっとしたことで助けた人間の人となりから感じた印象から殺人事件のあり方に違和感を感じ、携帯に残されたメッセージをどうしても忘れ去ることができず調べ始める主人公。この辺の心情は読者の心をつかむようにしっかりと書かれているので主人公の行動にそのまま感情移入していきます。でも、正直に言えば関係者の証言を得るのに都合よく次々と一週間で会える展開が少しアザトイと思います。でも出てくる人物がみんな人間臭く上手く主人公が調べまわる過程がみられるのでその辺は良しとしましょう。山の仲間や警官時代の先輩刑事など周りの人物たちとの交流というか関わり合いが物語の中での色合いとして良い味を出している一因になっていると思います。事件の結末は意外とはいっても始めからしっかり伏線は張られていますからその辺は作者も抜かりは有りません。ちょっとした山岳小説風を楽しめて絡まった糸が解れていく様子がキチンと描かれており一味違うミステリとして楽しめるのではないかと思います。 |
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