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ニコラス刑事 さんのレビュー一覧
ニコラス刑事さんのページへレビュー数154件
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雫井修介の『火の粉』に似たような内容。しかし、あれは読んでいる方は隣人の異常さが何となく分かっているが、物語の中の家族五人が気付かずにいて、途中で不審を覚えた一人が家族に訴えるが「いい人なのに何を言っている」と
取り合わずにいる展開が緊迫感を盛り上げ作品世界を作り上げているわけだが、でもこれは古くからあるスリラー映画などのひとつのパターンではある。この「クリーピー」も異常者が出てくるが、読者は主人公と同時進行で事件に遭遇する書き方なので不審者がハッキリ そうだと分からない部分が読んでいる方にあり、薄気味悪さが増幅されそのため余計に異常さが際立って感じる。でもひとつ残念なのは主人公の大学教授が読み始めのところにはキチンとした人物設定が書かれていないと云う事。 そのため曖昧な印象で彼の行動原理もよく分からない部分がありストーリーに素直に入り難い。このため良くある例のパターンかと深読みしてしまった。もう少し主人公であるならばどの様な人物なのか説明して欲しかった。 さて、異常者が起こす異常な犯罪。その結末はどうするのか。ありきたりに逮捕されてそこで終わりとしてはつまらない。ここが腕の見せ所である。結果からするとけっこう捻ってある。その落としどころが評価の分かれ目だけれど ホンの脇役だった筈の人物が最後に絡んでくる展開は、良くあるパターンとはいえ意外さが成功していると思うのでOKとしましょう。ラストも余韻があり良い幕切れと思う。「火の粉」とは一味違うストーリーでこれはこれで面白い。 |
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保険業界のことはあまり知らないことなので興味深く読んだ。調査員には何の権限も無いので人とのコミニュケーションが大事で信頼されないと何も話してもらえない。そんな難しい立場で何があって何が真実であるのかを調べる
ベテラン調査員村越を主人公にした物語。明確な遺書が無くても複数の状況証拠を積み重ねると一応の推定として自殺と認定される判例があるんだそうです。タイトルはそこから来ていますが、保険会社と残された家族の物語で 死因の本当の原因を停年間近のベテラン調査員村越が死者の行動を追う展開です。若いデスクワークしか知らない保険会社の社員と相棒になって調査会社の村越とのコンビが調べを進める課程がとても興味深く語られていて面白く感じました。 遺された家族には事情があり保険金を早く欲しい。しかし、保険会社は無責を勝ち取りたい。(無責、つまり自殺であれば保険金は下りない)二人の調査は二転、三転する。最後の真相が明るみに出るまで村越の人柄などもあり 一気に読み進んだ。面白い分野の物語でもあり読後感も良かった。ミステリ色は弱いけど面白さは有る、そんな本です。 |
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刑法第39条を扱った作品。中山七里の「連続殺人鬼カエル男」もこの刑法39条を扱っていたがこの「虚夢」の方が真正面から取り組んでいる。我が子を殺されたことから離婚した夫婦。そして社会に戻ってきた統合失調症の若い男。
その男と元夫婦の二人。そしてキャバクラで働く若い女。絡み合う人間模様が上手く書かれている。どうするのか?復讐なのかそれとも・・・。この先の展開にとても興味が惹かれる。簡単に犯人に復讐とはいかない。苦悩する被害者家族。 それらの縦軸に法的な問題や病理的な見解が書き込まれ問題の奥深さが浮き彫りになる。そして意外なファクターがあり物語が通り一遍な問題提起だけに終わらずミステリとしても成功している。なかなか読み応えのある内容で最後まで 飽きることなく読み終えた。タッチが雫井修介に似ているような気がするけれど気のせいかな。 |
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けっこう島田氏の作品は読んできた。読み疲れといった部分もあると思う。だから読んでいる途中でもあまりワクワク感は感じなく読んでいた。出だしは34階にいた人物が1階にいた人物を殺害したと告白する。わずか10分の犯行時間。
物理的に不可能なこの告白に御手洗潔はどのような答えを出すのか。そして都市の成り立ちや文明との係わりによって変貌していく過程が著者視点のウンチクをもって語られる。ネタのバックボーンとなる建築物がこの物語のすべてであるが 挟まれるひとつひとつの謎はそう興味を惹かない。窓に見えた怪人、姿が透けて見える怪人、どう解釈するのかと思ったらそのへんかといったところである。動機は端的にいえばそれでも良い。だから停電の夜34階にいて1階の人物をわずか10分 でどう殺害する。その答えを知りたくて最後まで読んだ。ひとつの都市伝説がミスリードの役割で抽入されているがこれは著者のいつもの手だ。鮮烈なデビューから数十年が経った。あの頃のドキドキはもう無い。 私にとって島田荘司は龍臥亭事件まででした。 |
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著者のデビュー作で、あれこれと事情があり73年双葉社から単行本として出版された。この時一部のミステリマニアで評判になった本でした。そして87年徳間文庫の一冊として世に出、2004年創元推理文庫で過去に加えられた加筆修正を再度
見直し決定版として出版されたものです。始めは「そして死が訪れる」のタイトルでしたが、その後「新人賞殺人事件」に改題され更に「模倣の殺意」に変わったと云うことです。一部マニアに評判になった時のタイトルは「新人賞殺人事件」なので世間的にはこのタイトルの方が認知度は高いかも知れません。この本はその特徴として本邦初の叙述トリックで書かれたミステリと云う事です。今でこそいろいろな作家から素晴らしい名作と言われる作品が生み出されていますが、すべては この本の後に書かれたものです。これがこの本の価値を高める理由です。絶対騙される。そう云える内容です。ミステリを愛する人は一度は読んでみるべきです。 |
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久しぶりの倉知淳氏の作品。短編はあまり読む気がしないので手にしなかった。これは久しぶりの長編で小さな町で起こる連続殺人を巡るお話。そう言えば本の装丁もなんでこんなのだろう、電車のなかではカバーをしなければ
とても読めないじゃないのと思っていたが、フフフそう云う事だったのね。本の装丁からして伏線なんてやってくれるよ。連続殺人の動機はなにか?被害者に共通するものは何か?それがこの物語の主題。壺中の天国の話。おかしな怪文書。オタクのモノローグ。被害者の日常のなかにあるさりげないある一点。散りばめられたそれらの伏線を読み解くのは正太郎しかいない。昼行灯と形容される正太郎が可笑しい。すべてのエピソードがある一点を指しているこの爽快感。読んで良かった。 さすが倉知 淳。もっと長編を書いて欲しい。猫丸先輩もいいけどね。 本の装丁のことですが、私が読んだのは角川書店の単行本です。 |
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女性らしい筆致で書かれた一人の女性を取り巻く環境を暖かい目線で綴ったミステリっぽい要素のあるハートフルなストーリーです。ゆったりまったりとした気分になります。たまにはこんな本も良いでしょう。涙腺が緩みそうに
なるほど真正面からひとりの女性の生きかたを描いています。暖かい隣人たちや触れ合う人たちのこころが素直にこちらの胸にも響きます。サヤを助ける幽霊の夫。トランジット・パッセンジャーとなった彼が不可思議な出来事の 解決に手を貸しながら、サヤが子育てにそしてひとりの女性としての生き方を見守る様子が清々しい。七つのエピソードが描かれているが個人的には待っている女がいいですね。人情話はやはり胸に響く。 |
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今読めば、クラシックなスタイルで書かれているミステリなのでゆるさを感じてしまうかもしれない。でも殺伐とした感じがないからこそ純粋に謎解きを楽しめると思う。当事流行ったようで巻末に作中の手がかり
一覧が示されている。なんと合計で29もの手がかりが物語の中に散りばめられているのだ。そういったお遊びは別にして肝心のミステリとしての出来具合はというと、けっこう本格的な味わいの物語で私自身は楽しめた。 館に滞在する8人。使用人を含めて11人。この中に犯人がいる。動機の見えない犯行。ミッシングリンクはあるのかどうか。誰がウソを言い、そのウソを暴くのは誰なのか。けっこう洒落た会話で謎解きに奔走する滞在客たち。 緊迫したゲームのような臨場感はなくても古き良き時代のミステリの趣を感じながら楽しむ一冊といえます。 |
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灰色の脳細胞私立探偵エルキュール・ポアロが16年前に起きた事件の真相を娘の依頼で調べていく物語です。運よく関係者5人は全員存命していたが16年というのには何か理由があるのかと思っていたが
それほどの意味はないようで、一人ひとりに会い話を聞いていくポアロの行動とともにその時の状況が再現されていく展開です。人が人を評するのにはそれぞれの感情が主に起因している部分が大で冷静に彼もしくは 彼女を分析する人間のほうが少ないでしょう。たとえその時の状況から有罪は間違いないとしても本当のところはどうだったのか。ポアロが話を聞き更に手紙で記憶を掘り起こし当事のことを知らせてくれる五人の関係者。 ひとつひとつの事象は彼女の有罪を示している。しかし、ポアロが辿り着いた結末は・・・。そんな物語ですが、表に見えている事柄も一歩裏側から見ればまた違った画に見える、そんな良くあるパターンとはいえ 当事ではこのスタイルは斬新だったことでしょう。さまざまな人間模様を描き事件に迫っていくポアロの調べ。予定調和ともいえなくもないラストですがすんなりと胸に入るのはそれまでの描き方が上手いと評する他にないと 思います。クリスティらしい一冊と感じます。 |
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ジヨン・ディクスン・カーが、カーターディクスン名義で書いた作品です。カーといえば密室です。この作品も密室状態の部屋で殺された男がいて、そのそばに一人の男が気を失って倒れていた。そんなシチュエーションで始まる
ストーリーです。多くは法廷のシーンで被告の弁護人であるH・M卿が検察側の追求を交わし徐々に真相を顕わにしていく展開となっています。法律家を志していたというカーです。法廷の裁判を進行させていく手順や検察、弁護側双方の やり取りなど読者を惹きつける描写はさすがです。密室トリックも中々よく考えられていて今読んでも納得のトリックです。時系列に犯行を見ていけばおよそ犯人の予想がつくものですが、そこはストーリーテラーのカーです。 そっちの方向には向かせないように法廷のシーンでの緊迫した状況を描き、読者をH・M卿の謎解きの行く先に興味を持たせるように書いており筆の上手さを感じさせます。 隠れた犯人、そして犯行方法。隠されていたスキャンダル。それぞれが絡まった事件。最後のH・M卿の事件を解き明かす話のところも納得でよく考えられたプロットと思います。 始めに派手な不可能状況をみせると最後の辻褄あわせに苦労するわけですが、この作品の場合はうまく着地していると思います。今読んでも楽しめる古典といえます。 |
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【ネタバレかも!?】
(1件の連絡あり)[?]
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本格の謎解き小説である『歳時記ダイアリイ』。多根井理が読む作中作のミステリ。叙述トリックにアナグラム。そして、すべての人物が話す言葉が手がかりとなっており、それらを論理的に解きほぐしていくスタイル。
クラシックなスタイルではあるがひとつひとつのピースが最後にピタッと嵌まる快感。主人公の探偵役の多根井理(たねいさとし)。名前の由来はエラリー・クイーンの生みの親フレデリック・ダネイとマンフレッド・B・リーの 名前から作られている。余計な描写は極力省きミステリとしての面白さ楽しさだけを追求したストーリーであり謎解きに特化した本です。今時には奇異に映るかも知れませんが初めてコナン・ドイルの本に触れた時のような興奮を 覚えます。それがミステリの楽しさを知った最初の興奮だったことを思い出させてくれます。こういったスタイルの本はロジックパズルが好きな人には楽しめるでしょう。例えば問い。赤か白の帽子をかぶっている人が三人縦に並んでいます。自分の帽子の色は分かりませんが、前から二番目の人は自分の前にいる一番前の人の帽子の色が見え分かります。一番最後の三番目の人は前二人の帽子の色が見えて分かります。後ろを振り返るのはダメとします。この三人のなかで一人が赤の帽子をかぶっていることを告げます。自分の帽子の色が分かった人は言いなさいと告げると、少しの沈黙のあと一番前の人が自分の帽子の色は赤だといいました。赤と答えた彼の答えの根拠を示しなさい。 |
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鮎川哲也と十三の椅子1990年の最終候補四作のなかの一冊です。最後の解説に鮎川哲也氏が書かれていますが、有栖川氏ものんびりとは構えているわけにはいくまい。有望な新人が出現したものだ。と。しかし、この後この人はこの『記念樹メモリアル・トゥリー』の他に『歳時記ダイアリー』、『肖像画ポートレート』『夜想曲ノクターン』の四作と短編数作を書かれたあと作品を発表されていません。クイーンに傾倒する作者らしい論理でストーリーを構築する作品で物語のなかのすべてのエピソードが謎解きの手がかりとなっています。お約束どうりフェア・プレイで書かれていることを証明するために読者への挑戦をしますというページがあり、必要な手がかりはすべて提出されました。論理的に犯人を決定することが可能です。とあります。この本は密室がテーマで、物語に出てくる全員の云った言葉、行動、表情までもが解決へのヒントとなっています。本格ファンには充分楽しめる内容といえるでしょう。
大阪市役所職員とありますから市民のため職務に勤しんでおられるのでしょうが、ちょっと残念です。ミステリ作家として活躍してもらいたい人だと思いました。四作のうち三作は読みました。最後の一冊『歳時記ダイアリー』も近々読むつもりです。 とにかく近年の有崎有吾氏の『体育館の殺人』や『水族館の殺人』が楽しめたという人にはこの本も楽しめると思います。 |
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初めて読む人です。コバヤシタイゾウと思っていたらコバヤシヤスミだそうです。ビックリ。
この本は賛否が分かれる本だろうと思います。と云うよりも最後までガマンして読んでくれる人がどれほどいるか、そこで意見が分かれるでしょう。ほぼ、会話のみで物語が進行します。その会話も少しくどくてイライラします。でも私の場合ガマンして最後まで読みました。そこで気がつきます。しつこい会話も作者のワナです。伏線を悟られないようにしている策略でした。結果まんまと騙されました。異世界とこの世界で起きる殺人。人物はどうやらリンクしている模様です。特殊な世界観を設定していますが中味は本格ミステリのガジェットを使ったもので、会話のみで進む内容もその世界観に合わせたものです。中盤で「犯人しか知らない事実をペラペラ喋った人物がいる」と云うものがいますが、何のことかまるで分りませんでした。すっかりやられました。私的にはこのスタイルはアリと思います。最後まで読めばこの本の面白さが解ります。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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横山秀夫氏の幻のデビュー作が2005年にカッパノベルスとして出版されたもの。加筆訂正をしたとあるが、警察内部の各部署の動きや本庁、所轄の軋轢とか叩き上げ組み、キャリア組みといった人事面や人間臭い刑事たちの描写が
このころから書かれていて興味深い。時効というタイムリミットを設け自殺として処理された案件を白紙の状態から洗いなおす刑事達の活躍や、ルパン作戦に係わった三人の調書から推理していく過程が中々読ませる。 硬派な警察小説という雰囲気がすでににじみ出ている文体と、男臭い主人公たちの事件解明に賭ける一直線な気持ちがよく表わされている文章がストーリーとマッチしており時間を忘れて読んでしまった。 登場人物も多彩で殺人事件に3億円事件が絡んでくるところも着想の面白さを感じる。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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先に「桑潟幸一助教授のスタイリッシュな生活」を読んでいる。こちらは爆笑ミステリだったが、このモーダルな事象は、また違った色合いのミステリだった。クワコーの脱線ぶりは同じだけれど、起きる事件は本格ミステリのように
謎めいている。そして探偵として活躍する北川アキと元夫の諸橋倫敦のコンビが動き出す、第二章のミステリーへの実践的アプローチから二人の謎への挑戦を読者も一緒に追うことになる。この二人の行動がいろいろ調べまわる合間に飲んだり 食ったりするわけだけれど、その辺の描写というか書き方が、さすが芥川賞作家だけあって上手い。下手なグルメレポーターのコメントよりよほど伝わる。読んでいて咽喉が渇いたり腹がへって何かつまみたくなってしまう。飲み食いしながらの推理と閃きなどが二人を突き動かし真相へと導くわけだけれど、合間に入るクワコーの行動と妄想じみた話の流れが実は最後の方で交差する仕掛けになっている。文章は確かに深い語彙をさらりと使って上品な感じで読ませるが、くだけたクワコーの 生活の様子や下品なところも適切な言葉で笑いを誘うなどその筆力は本物で、かなりの長編であるが読み疲れなどは感じない。ミステリ部分は結局人の繋がりで、この部分を解していけば真相に至るわけだ。事件はやはり痴情のもつれ、怨恨、物取りなんだね。100%通り魔の犯行ならば探偵の出る幕はないわけだ。手にしたとき予想外の厚さで驚いたが、そう時間もとらずに読み終えた。もと夫婦の探偵コンビが面白かった所為でしょう。本文の一節に、なるほどと、クワコーは頷き、いわゆるマルチというやつですねと、余計な世辞を口にすると、女と新城が声を合わせて笑い出したのは、マルチなる言葉の時代遅れ感に反応したからだったが、クワコーは笑いの意味がよく分からず、特に悪い気もしなかったので、一緒になって笑った。〔なるほどと〕以下はクワコー視点寄りの記述ですが、そこに〔余計な〕といういわば神の視点からの形容詞がはいり、続いて〔マルチなる言葉の時代遅れ感に反応した〕は女と新城の視点、続いて〔笑いの意味がよく分からず、特に悪い気もしなかった〕はまたクワコー視点、というふうに一文で目まぐるしく焦点化のピント合わせがやり直されます。等筆者の解説がありますが、これは読ませる側が意図して書くテクニックでしょうが、読む側はなんの違和感もなく読み進むので、これは読ませる側と読む側がシンクロしているといえると思います。本を読むという行為はこういったことなのだと今さらながら感じました。このあたりがすれ違うと苦手な作家という認識になるのでしょう。 |
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イコロジー(図像解釈学)とイコノグラフィー(図像学)を使って絵画に秘められている真実に迫る。そんな手法が新鮮で面白かった。わずか数年の製作期間に絵を描き自殺した地方の名もなき画家。東条寺桂という人物の足跡を追う美術館の
学芸員の様子が雰囲気ある文章で書かれていてこの部分がとても良い。彼、東条寺桂の心情にはとても共感できる。無骨な男の心情が素直にこちらの胸に沁みる。発見した彼の手記からクリスマス・イブの夜に起きた惨劇の様子が明らかになる 展開だけれど、後半の一転したミステリとしての部分は先にさりげなく張られた伏線なども有効に作用して中々考えられている。ふたつの密室殺人はトリックとしては古典作品からの流用だけれど、刑事たちの密室談義や一見正解のような解釈を 見せた後、さらに東条寺桂と従兄の河野との推理をみせるのだが・・・。これらすべてを覆す真実が最後の最後に明らかになる展開は良く考えられており、手記を使ったトリックはよくあるパターンとは云えこの場合有効で上手く犯人を隠すことになっている。しかし、ミステリ部分よりも自分は彼、東条寺桂の無骨な生き方に感情移入してしまい何だかやるせない気分になってしまった。前半と後半がまるで違う雰囲気で手記を紐解くところから俄然ミステリになる構成が面白かった。 |
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相変わらずの十和田只人が高等数学の学問的なあれこれを長々と語るシーンが多く、いったいこの本は誰に向けて書かれたものかと首を傾げる思いです。単にページ数を増やすだけで原稿料の水増し請求じゃないのかと勘繰ってしまいます。トリックはネタばれのところで書くとして、前作はオーソドックスな書き方でしたが、今回は十和田只人が犯人として初めに逮捕されます。つまり、彼はアームチェア・ディテクティブの立場になるのです。東京から来た警視が動き回り調べた結果を彼に聞かせ、情報を組み立てた彼が犯人を指摘すると云う展開になっています。前作はハウダニットがメインでしたが今回はフーダニットです。トリックは単純ですが、ストーリーは良く組み立ててあります。彼女はどうやら魔賀田四季博士のような存在に見えます。このあとは主人公の十和田只人をもう少し魅力的な人物にしていくことでしょう。小難しい話ばかり喋る変人のようではついていけません。次回作に期待しましよう。
▼以下、ネタバレ感想 |
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ジッチャンの名にかけて、の金田一一のノベルス版ですが、ミステリのガジェットをいくつも使った本格ものでけっこう楽しめました。雪で閉ざされた山荘を舞台にしたクローズド・サークルものですが、集まった七人はチャットでミステリ談義に盛り上がる仲間のオフライン・パーティという設定です。この設定で思い起こすのは歌野晶午の「密室殺人ゲーム王手飛車取り」でしょう。しかし、こちらは1996年4月。歌野晶午のは2007年1月でアイデアとしてはこちらが先といえます。ハンドル・ネームを使い、本名も素性も明かさない七人。何者かに次々と犠牲になる七人。動機は読む者に入り込みやすい良く考えた設定で、被害者となる人物を上手く動かす犯人のアリバイ・トリック。ハンドル・ネームだけの事実誤認などが読者を迷わせるトリックとして有効に使われています。一の邪な計画で美雪と二人が偶然辿り着いた吹雪の山荘で遭遇する連続殺人事件。ミステリの王道ですがプロットがしっかりしているので犯人が簡単には読めません。そこを金田一一が推理で追い込んでいくところは楽しめます。
▼以下、ネタバレ感想 |
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下巻を読み終えました。少し時間を置いて読んだせいか興奮も醒めフラットな気分で読みました。思うのは上巻が「動」なら下巻は「静」と云った印象です。逮捕された二人の取調べでの供述の裏付け捜査の様子や、地検とのあれこれ。そして調書を読む合田を通して、二人の生い立ちやこれまでの人生が浮き彫りになるが、何故一家四人を殺害したのかがハッキリしない。二人の行動の元になったものとはいったいなんだったのか。金が目的だった訳でもなく、ケータイサイトで知り合った二人が郵便局のATMを襲い失敗したあとも、別れるでもなくずるずると16号線を流れて赤羽まで行き四人を殺害した。混迷する合田雄一郎。そういった様子が長々と続きます。二人の行動を描写するところはその確かな筆力で読み応えがあります。生まれも育った環境もまるで違う二人。その二人の内面は調書を読む合田にはどれほど理解できたのかと思います。でも、こういった系統のものは久しぶりに読んだので面白かったです。佐木隆三の「復讐するは我にあり」や西村望の「丑三つの村」、宮部みゆきの「火車」などを読んで面白いと感じた人にはおススメできます。
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