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ミノタウロス



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【この小説が収録されている参考書籍】
ミノタウロス
ミノタウロス (講談社文庫)

ミノタウロスの評価: 3.85/5点 レビュー 34件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.85pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全22件 1~20 1/2ページ
12>>
No.22:
(5pt)

問題なし

問題なし
ミノタウロスAmazon書評・レビュー:ミノタウロスより
4062140586
No.21:
(5pt)

訳本?と思わせる文体だが

徹底的に神も仏も正義も悪も無い、ただ漠然と生きる事を前提に何もかも失った男が略奪、強姦、虐殺を重ねていく。
必ず二度繰り返して使用される動詞の語彙が広く、辞書片手に読む楽しみがある。他のレビューにもある通り、物語の舞台がロシア南部である必要性は無いのだが、文章が訳本の世界文学全集を思わせる感じなので著者の趣向か。
甘さを排したハードボイルドな世界を昭和的な筆致で描写した力作で、その密度の高さは凄いものがある。
吐き気をもよおす程の残虐非道の小説だが手に取って絶対に損は無い一冊ではないだろうか。
ミノタウロスAmazon書評・レビュー:ミノタウロスより
4062140586
No.20:
(4pt)

気分が悪くなる、でも面白い

第29回吉川英治文学新人賞受賞作。帝政ロシア崩壊直後が舞台のピカレスク小説。

帝政ロシア崩壊直後の混乱の中で、人間が単純な生と単純な快楽を貪り食う存在となってうごめく様を描いている。語り手である主人公はそれを美しいと語っている。確かにそれはまぎれもない「自然」で、この世界の見事な景色や動物たちの営みがもつ美しさと共通するものがある。弱肉強食、それはこの世界のシンプルな真理であり、余計なものを取り去ったシンプルなあり方こそ自然で美しい。
が、現代日本の「真っ当な」道徳観では、そんなものを見ても美しさに陶酔する前にどうしても吐き気を催してしまう(苦笑)。よって面白くて一気に読んだが胸が悪くなってしまった。

主人公含め登場人物全員が屑と悪人。作中で主人公がやたらと屑呼ばわりされているが、まあ屑なのだけれども特別腐っているわけでないような気がする。皆が皆殺しも強姦も略奪も平気でやるので。それでもそんな「のらくらども」にも主人公が屑呼ばわりされるのは「人の心が最初から備わっていない」のと「相手を選ばない」かららしいのだが、私にはよく理解できない。皆惨たらしく人を殺す屑だと思うのだが……。ごろつきにしかわからない線引きがあるのだろうか。
村が崩壊したのも兄が死んだのも主人公に原因がある。が、確かに主人公は女を孕ませたり強姦したりして女の兄や恋人をキレさせたが、この作品世界では何も特別なことではない。主人公の母親にしたって強姦されているわけで、そのおかげで主人公の本当の父親はわからないのだし。兄の死だってギャンブルで全財産擦った自業自得ともいえるし。
まあ、皆五十歩百歩のろくでなしだ。主人公が百歩の方だったとしても。

ただまあこの主人公(と他の悪人も)、本当に人の心がないとも断言できない。終盤の「トリスタンとイゾルデ」の映画上映のシーン、あそこで本人たちにとっても不思議なことだが皆静かに涙を流すのだ。「どうしようもない代物」と評していた映画なのに。
それからつるんでいたウルリヒの女を殺されて主人公も何か思ったようだし、ウルリヒが描く最新型の飛行機を見てこれを作ろうと考えたり。他にも時たま人の心が垣間見える。
余計なものを剥ぎ取って生そのものになった「悪人」の中にも、人として生まれた以上は人の心がこびりつくように残ってしまうものなのだろうか。人間のふりをして立たざるをえないのだろうか。
ミノタウロスAmazon書評・レビュー:ミノタウロスより
4062140586
No.19:
(5pt)

快楽としてのピカレスク小説

小説を読むことが快楽であるということを純粋に教えてくれる一作。
 第一次世界大戦前後のウクライナの地主の息子であるヴァシリ・ペトローヴィチ・オトレーシコフはフランス語とドイツ語とロシア語を操る天才児でありながら、その本質は獣そのものである。「僕はけだものだったし、けだもの以上のものになろうとしたことは一度もない」という本人のセリフが、その単純極まる性質を見事に言い表している。

 二十世紀初頭のウクライナを舞台とした綿密な取材と描写、そしてところどころに挟まれる切れ味溢れる一節は、読む度に読者に快い思いを味あわせてくれる。「学の無い奴は皆シェイクスピアが好きだ」「首を吊るロープに石鹸を塗ることを思いつくのに大学を出る必要はない」など。
 ただ、個人的にはこの小説は根本の部分で少女漫画の構造を持っていると思う。ところどころで、『けだもの』であるところのヴァシリはロマンを解し、激情に身を委ねる。虚栄心に突き動かされる美女マリーナのために眠れぬ夜を過ごし、僚友ウルリヒのの復讐に共鳴し放擲の人生へと身を投じる。『けだもの』の一言では表わせきれない人間性の理不尽さを随所に併せ持つヴァシリは、どこかしらロマンを内に秘めた憎めない人間像を覗かせる。途中、サイレント映画の脚本作成に加わる場面においてはその人間の理不尽さは極地に達する。        .

 彼のもう一人の保護者とも言えるアナトーリ・ティモフェイヴィチ・シチェルパートフ、恋人のテチヤーナ、シェイクスピアを愛好する革命志向の小男グラバク、魅力的なキャラクター達が織り成す物語は一切を否定しながら突き進み、終着を迎える。女性作家の鋭い感性が描き出す批判的人間像を愉しみながら、何度と無く読み返したくなる小説である。
ミノタウロスAmazon書評・レビュー:ミノタウロスより
4062140586
No.18:
(5pt)

時計じかけのオレンジ(時代劇版)?

一般的なキャラクターの立ちかたとか、ストーリやオチや
テンポを期待する方にはあまり勧められません。
出来事はいつも唐突、人々はこすい。
ミノタウロスAmazon書評・レビュー:ミノタウロスより
4062140586
No.17:
(4pt)

ちょっとだけ残念

非常によく書けているにもかかわらず、読後感の悪さ、達成感のなさに、作者が書こうとしたものが不明になる残念な作品でありました。

 書評家の豊崎さんは、何巻にもなるはずの内容をここまで凝縮していると誉めていましたが、わたしは、この小説は書きすぎてしまったのだと思います。
 筆を置くべき位置は、主人公がシチェルパートフを殺し、グラバクたちの宿舎に火を放って逃げるところではなかったでしょうか。

 主人公の死で終わる古典的な物語形式にこだわらず、最も効果的な位置にピリオドを打ってもらいたかったです。
ミノタウロスAmazon書評・レビュー:ミノタウロスより
4062140586
No.16:
(5pt)

やくざものたちの流浪

主人公もたしかに暴君だが、まわりの人間も劣らぬ暴君が多い。
 みんなやくざものである。
 そもそも第一次大戦からソ連が成立するまでの状況というものが、凶暴な人間を跋扈させるのに良い環境、温床となっている。
 バイオレンスが炸裂する状況を描く筆は実に堅牢にして端正。暴力をかように整ったエクリチュールとして差し出すのはさすがだ。
 ただ、もう少し歴史小説としての蘊蓄とかを混ぜ込んでくれればもっと良かったかも。
 終盤の主人公の独白が心に残る。
 「人間を人間の格好にさせておくものが何か、ぼくは時々考えることがあった。それがなくなれば定かな形もなくなり、器に流し込まれるままに流し込まれた形になり、さらにそこから流れ出して別の形になるのを・・・ごろつきどもからさえ唾を吐き掛けられ、最低の奴だと罵られてもへらへら笑って後を付いて行き、殺せと言われれば老人でも子供でも殺し、やれと言われれば衆人環視の前でも平気でやり、重宝がられせせら笑われ忌み嫌われる存在になるのを辛うじて食い止めているのは何か。サヴァが死んだ時、ぼくはその一線を跨ぎ越しながら、それでもまだ辛うじて二本の脚で立っていた。」
ミノタウロスAmazon書評・レビュー:ミノタウロスより
4062140586
No.15:
(5pt)

小児科医杉原のお薦め

残忍.気分が悪くなりました、というコメントもあると思いますが戦争を直視する、という意味では良い教科書になりうると思っています.天才マルクスがいくら立派な理想をとなえても、現場ではしょせんこんなもの.それは過去だからではなく、第二次世界大戦も日本のみならず、どこでもそうだったろうしいまだって、中国によるミャンマー、アフリカ諸国の紛争も同じでしょう.願わくはここから私たちが、何を学ぶか.どんな世界を作りたいのかということにつながれば・・・殺人を法律で犯罪とする国は多いですが戦争を犯罪と法で定めたところはありません.
ミノタウロスAmazon書評・レビュー:ミノタウロスより
4062140586
No.14:
(5pt)

小児科医杉原のお薦め

残忍.気分が悪くなりました、というコメントもあると思いますが
戦争を直視する、という意味では良い教科書になりうると思っています.
天才マルクスがいくら立派な理想をとなえても、現場ではしょせんこんなもの.
それは過去だからではなく、第二次世界大戦も日本のみならず、どこでもそうだったろうし
いまだって、中国によるミャンマー、アフリカ諸国の紛争も同じでしょう.
願わくはここから私たちが、何を学ぶか.どんな世界を作りたいのかということにつながれば・・・

殺人を法律で犯罪とする国は多いですが
戦争を犯罪と法で定めたところはありません.
ミノタウロスAmazon書評・レビュー:ミノタウロスより
4062140586
No.13:
(5pt)

ピカレスク浪漫

ピカレスクの語源は悪漢小説。この小説の主人公、自由奔放に生きる地主の息子ヴァシリも見事な悪漢です。とにかく密度が濃いです。時代設定も二十世紀初頭ロシアという知る人ぞ知る非常にマニアックな選択。裕福な地主の次男として生を受けたヴァシリは、成り上がりの父を継ぐことを夢見て農業を学ぶも生来女好きな放蕩癖あり、下宿先の叔父の家の女中や故郷の娘とたびたび関係を持っていた。しかしそんなヴァシリの運命はロシアに迫り来る戦火に煽られ風雲急を告げる。強盗・強姦なんでもあり。人倫を踏み外す行為全般に一切ためらいない主人公の破滅的生き様は凄い。殺人や悪事に手を染めても一切心を痛めず自分を貫き生きるさまはいっそ清清しい。良心の所在が人間を定義する必須条件ならヴァシリの生き様はけだものさながら自由で獰猛で野蛮。常識に束縛されず倫理に唾し欲望に正直に生きるヴァシリはやがて脱走兵のイタリア人少年・ウルリヒと出会い意気投合する。このウルリヒがすっごいいいキャラしてるんですよ!ニヒルでいながらユーモアセンスに冴えて、飢えと寒さに苛まれたみじめな逆境でも軽口を忘れない。これにフェディコというびびりの少年をくわえ、やがて三人で盗んだ馬車を駆り、略奪と殺戮とどんちゃん騒ぎをくりひろげつつロシアを縦横無尽に奔走する帰るあてなき旅が始まる。そんなヴァシリたちのやりたい放題の暴走ぶりを「おいおいそのうち因果応報天罰がくだるぞ…」と眉をひそめ読んでいくと案の定後半で…ラストは言わぬが華ですがああ無情なかんじです。天罰というか人誅のほうでしたが。ヴァシリは自業自得だけどなあ…ウルリヒ…。文章の密度もかなり濃い。主人公が初めて人を射殺するシーンは比喩の秀逸さに感動しました。嗚呼美しい、官能的…ため息。 佐藤賢一さんの「傭兵ピエール」や森博嗣さんの「スカイクロラ」なんかが好きな方にもおすすめです。
ミノタウロスAmazon書評・レビュー:ミノタウロスより
4062140586
No.12:
(4pt)

嫌いではない。

心地よく物語世界に身を委ねることができた。一息で読み切れたといっていい。だが、読後感は《ただ物語を消費しただけ》といった印象である。類似の印象は、たとえばサバチニ『スカラムーシュ』などがそうだった。ただ、サバチニが痛快なる大団円の冒険ロマンであるのに比べ、こちらの物語はどこか露悪的で、ときに不快でしかないような展開をする。嫌いではない。質も、翻訳で読むサバチニなどよりはずっと上等だろう。だが、作品の売りがみえない。何を徹底的に研ぎ澄ました作品なのか、よく伝わらない。少なくとも、突き抜けて訴えかけてくる強烈な要素はなかった。ある種の読書家にとっては手堅い作品なのだろうか。しかし、まず万人向けの浅く親切なエンターテイメントといったようなものではないし、また、作品の先に一言では語りきれない「何か」を求めるような読者にも、得られるものは少ないかもしれない。追記:鴻巣友季子さんが朝日新聞に書いた書評が興味深かった。
ミノタウロスAmazon書評・レビュー:ミノタウロスより
4062140586
No.11:
(5pt)

理屈で読むものではない

 デビュー作からずっと読んできたが、初めて「私ってちゃんとわかっているのだろーか」という不安を抱かずに読了できた作品だ。ファンとしてこれほど幸せなことはない。読んだ後のそういう屁理屈を一切寄せ付けない。最初に2〜3ページ立ち読みしてみて(幸か不幸か、賞を受けたので書店に平積みされている)、文章の勢いにのれない方はさっさとおりた方がいい。行けると思った方は、そのまま勢いにまかせて最後まで読めば、それでいい。感情移入まではいかなくても、魅力に富んだ強情っ張りが山ほど出てきて、そのあたりが実に美味しい。
ミノタウロスAmazon書評・レビュー:ミノタウロスより
4062140586
No.10:
(4pt)

ひたすらな暴力

 ロシア革命期,革命の奔流とは全く無関係なところで,アナーキーな暴力に明け暮れた「ぼく」たち。やりたいだけの暴力を振るい,敵対グループなどに捕まったら強姦などの暴力を振るわれながら生きていく姿は,なんともつらく,戦争や革命の持つ「恐ろしい」側面をうまく描き出していたように思う。
 「ぼく」は,次のように思う。
《人間を人間の格好にさせておくものが何か,ぼくは時々考えることがあった。(中略)ぼくはまだ人間であるかのように扱われ,だから人間であるかのように振舞った。それをひとつずつ剥ぎ取られ,最後のひとつを自分で引き剥がした後も,ぼくは人間のふりをして立っていた。数え切れないくらいの略奪と数を数えることさえしなくなった人殺しの後も,人を殺して身ぐるみを剥ぎ,機銃と手榴弾で襲って報酬を得ることを覚えても,ぼくはまだ人間のような顔をしていることができた。》(269〜270頁)
 しかし,仲間から離れ,独りっきりになった「ぼく」は,「人間の格好をしていない」(270頁)何者かになってしまった。
 重苦しくて,嫌な話だけど,佐藤亜紀の作った壮大な(虚構の)叙事詩に浸ってみるのも,悪くないのではなかろうか。
ミノタウロスAmazon書評・レビュー:ミノタウロスより
4062140586
No.9:
(5pt)

人間が昆虫のように見えてしまう

 ロシア革命の混沌を、架空の農村を舞台に描いた。ヴァーシャは、出会うものすべてを殺してしまう。友人も、気にくわない知り合いも、悪人も、ずっと行動を共にしてきた仲間も…。修羅であり、ミノタウロスだ。損得ではない。論理でもない。スイッチが入り、泣きながら殺してしまう。
 人が生きるというのはどういうことなのか。人が集まって社会ができる。国ができる。それは立派なことでもなんでもなく、カエルが交尾を求めてひしめき合うように、ただそんな風にスイッチがはいってしまうだけなのだ。
ミノタウロスAmazon書評・レビュー:ミノタウロスより
4062140586
No.8:
(5pt)

前半の語りのすごさ

物語は、社会や周囲の人間を軽蔑しきったヴァシリの視点から一人称でシニカルに語られていきます。
そして、当然ヴァシリは、自分の行動を正当化しようとします。
しかし、その一方で、作者は主人公のナイーブさを一人称の語りのなかにそっと忍びこませています。
たとえば、恋人テチヤーナに対する描写の箇所。
だからテチヤーナは、十八で、はちきれんばかりに健康で、(中略)信じられないくらい無邪気だった。抱きしめると一抱えもあって、裏返すと広い背中が馬の毛並みのように輝いて、肌は柔らかいというより針で突いたらはじけそうで、こんがり焦げた焼き菓子のような匂いがした。
ここなんていわゆる19世紀ヨーロッパの大衆小説の典型的な修辞で、恥ずかしくなるような紋切り型の連続です。かつて『皆殺しブックレビュー』で、作者がデビッド・ロッジの評論を紹介していましたが、底意地の悪さはまさにロッジ的です。
ある女性評論家が、この主人公と作者は似ていると言っていましたが、それは間違っているような気がします。
作者のほうが主人公より二枚も三枚も上手です(というより、物語と登場人物の操り具合がすさまじい)。
その後、ヴァシリのヘタレっぷりは、どんどん顕在化していきますが、前半部分の最後で、ついに信頼していたシチェルパートフという資本家に7ページに渡って罵倒されまくることで、彼のダメさ加減は、読者の前にすべてさらけだされます。
と、このように、シニカルでニヒリストであるはずのヴァシリのヘタレさが徐々に明らかになっていくというかなり難易度の高いベクトルが、前半部分の修辞と行間には巧妙に織り込まれています。しかも一人称視点であるにもかかわらず…。これだけとってみても「ミノタウロス」は傑作だと思います。
ミノタウロスAmazon書評・レビュー:ミノタウロスより
4062140586
No.7:
(5pt)

前半の語りのすごさ

物語は、社会や周囲の人間を軽蔑しきったヴァシリの視点から一人称でシニカルに語られていきます。
そして、当然ヴァシリは、自分の行動を正当化しようとします。
しかし、その一方で、作者は主人公のナイーブさを一人称の語りのなかにそっと忍びこませています。
たとえば、恋人テチヤーナに対する描写の箇所。

だからテチヤーナは、十八で、はちきれんばかりに健康で、(中略)信じられないくらい無邪気だった。抱きしめると一抱えもあって、裏返すと広い背中が馬の毛並みのように輝いて、肌は柔らかいというより針で突いたらはじけそうで、こんがり焦げた焼き菓子のような匂いがした。

ここなんていわゆる19世紀ヨーロッパの大衆小説の典型的な修辞で、恥ずかしくなるような紋切り型の連続です。かつて『皆殺しブックレビュー』で、作者がデビッド・ロッジの評論を紹介していましたが、底意地の悪さはまさにロッジ的です。
ある女性評論家が、この主人公と作者は似ていると言っていましたが、それは間違っているような気がします。
作者のほうが主人公より二枚も三枚も上手です(というより、物語と登場人物の操り具合がすさまじい)。

その後、ヴァシリのヘタレっぷりは、どんどん顕在化していきますが、前半部分の最後で、ついに信頼していたシチェルパートフという資本家に7ページに渡って罵倒されまくることで、彼のダメさ加減は、読者の前にすべてさらけだされます。

と、このように、シニカルでニヒリストであるはずのヴァシリのヘタレさが徐々に明らかになっていくというかなり難易度の高いベクトルが、前半部分の修辞と行間には巧妙に織り込まれています。しかも一人称視点であるにもかかわらず…。これだけとってみても「ミノタウロス」は傑作だと思います。
ミノタウロスAmazon書評・レビュー:ミノタウロスより
4062140586
No.6:
(4pt)

大蟻食は「今までいったい何を読んできたのだ!」と、読者に問いかける。

舞台は、革命前後のウクライナ。
豊かな地主の家に生まれた若者は、激動する時代にすべてを失いながらも、
力強く、したたかに、生と死の挟間をかろうじて生きる。
乾いた大地でくり広げられる壮大なドラマは、
生半なヒューマニズムなど寄せつけない。
ミノタウロスとはギリシャ神話で、ミノス王の子にして
上半身が牛で下半身が人間というモンスター。
長じるにつれ凶暴の度を増し、最後はアテナイの王子に討たれる。
主人公はまさに、革命が産み落としたミノタウロスだ。
予備知識がなければ、翻訳文学と見紛うだろう。
80年代後半に突然あらわれ、当時の私のゆる〜い読書に冷水を浴びせた、
アゴタ・クリストフさんの『悪童日記』から連なる三部作を思い起こさせる。
そして、中上健次さん亡き後「日本文学は終わった」と嘯き(汗)、
しばらくこの国の作家の作品を手にしなかった私は・・・
予備知識がなかった。
わずか数ページ。
すでに、これから展開するだろう酷薄な世界を予感させ、
あれ?日本人の作品だったよな──と改めて奥付の著者名を確認する。
佐藤亜紀・・・女性と知って、少し納得する。
佐藤さんのブログ「新大蟻食の生活と意見」を読む。
舌鋒鋭く、楽しい。
今回初めて、『鏡の影』をめぐる騒動を知る。
なるほど。読まざるをない。
いずれにしても、『ミノタウロス』は
読み手のこれまでの読書歴と世界観を問うている。
全霊を傾けて臨むべき、骨太の作品である。
ミノタウロスAmazon書評・レビュー:ミノタウロスより
4062140586
No.5:
(4pt)

戻れなくなります。ご注意を。

「バルタザール」以来の著者のファンなので、途切れ途切れ読みが勿体無く
一日どっぷり浸かろうと、午前中から読み始め、読み終えたのが黄昏時…
日常に感覚が戻るまで、かなり長い時間を要しました。
黄昏時も悪かったのでしょうが、かなりやばかったです。
ありとあらゆる、暴力の限りを与え、与えられる。
銃器を備えた馬車で、大地を走り回り、襲い、奪って食べる時間の自由さ
(&もしかして彼の幸福)。
最後に一瞬、獣だった彼も「土地にへばりついて生きる人生」を夢見る。
でもそんな夢はやっぱり冗談でしかなくて。
完全に持って行かれ、圧倒されましたが
やはり「バルタザール」「天使」「1809」のような
ロマンティックが入った作品のほうが好きと言わざるを得ないかも。
ミノタウロスAmazon書評・レビュー:ミノタウロスより
4062140586
No.4:
(5pt)

この水準の作品が日本語で読めることの幸せ

筆者は本当にこの第一次世界大戦前後の時代が好きなのだろう。
しかも本書の舞台ははまだメジャーなウィーンを遠く離れ、
ヨーロッパの辺境の地、ウクライナである。
理解するに困難な時代設定など、背景の説明さえ
一切捨て去ることで文体の格調を維持し
安易な歴史モノにありがちな凡庸さを回避している。
よって気軽に手に取れるエンターテイメント作品ではないが、
紛い物の歴史に飽き飽きした読者にとって
この水準の作品が日本語で読めることは幸せである。
ミノタウロスAmazon書評・レビュー:ミノタウロスより
4062140586
No.3:
(5pt)

文体が見事な、悪党2人の物語です

ロシア革命前後のウクライナを舞台に、地元社会の崩壊をきっかけに「(あらゆる意味で)やっちまえ!」と突っ走っていく地主の息子とオーストリア軍の脱走兵の物語です。
標題の「ミノタウロス」が示すものは日本人にはイメージしにくいのですが(ギリシャ神話ではあっさり死んでる感じだし)、暴虐と殺戮など、あらゆるダークサイドのイメージをはらむキャラクターです。主人公のうち地主の息子は、流行りの幼児期トラウマなどはどこ吹く風。ナチュラル・ボーンで堅気じゃないし、相方となる兵士もまともそうで壊れています。この2人が地元のギャング集団や軍隊の間をすり抜けながら生きていくさまは壮絶そのもの。とはいっても文体自身は格調高く、下品なところは皆無です。新潮社クレスト・ブックスにそっと入れられていても気づかないほどの良質の文体だと感じました。結末は救いのかけらも何もないのですが、なぜかほっとさせるような切れのよい結末です。
主人公と相方のキャラクター造形もさるものですが、前半で異彩を放つのが主人公の兄。もともと影が薄い存在なのですが、傷痍軍人として故郷に帰ってきた後の存在感の不気味さが重たくのしかかってきます。
小悪党ものでも大悪党ものでもないけれど、疾走感あふれるダークな物語をこんなにキレイに読めたというのは驚きでしたのでこの評価としたいと思います。
ミノタウロスAmazon書評・レビュー:ミノタウロスより
4062140586

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