吸血鬼
- 怪異 (278)
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ゴシック小説のようなものだろうか、と読みはじめ、確かにそういう様相を呈し、濃密に殷々と怪奇な雰囲気が募ってゆきますが、しかしながらそれは反転し、現実としての事件としての様相が表れてきて、終結します。反転というとすっかり切り替わるようですが、そうではなく、紙縒りのようよじれて繋がっている感じ。怪奇な現象が、超自然な存在として現れてくるかというと、実体としては出てきませんが、顕現化されていない形では確かにあり、それはこの特殊な環境下のみにあるものではなく、人がいればそこに起こりうる、いや、必ず起きるものであり。その形態や、表れは違えど。・・・オーストリア帝国の支配下にあるポーランド。役人であるゲスラーは、若き妻を伴い陰鬱な寒村にやってきた。その地の領主クワルスキは往年の天才詩人。赴任後、村で不審な死が続き、ウピル(吸血鬼)の仕業ではと、村人に動揺が起こり、暴挙にまで発展させないためにゲスラーは土俗的な迷信を断行し、対処する。大切な存在に対してまで。そんななか、独立蜂起の焦臭い動きがあり。・・・ウピルとはなんであったか、ということ。ゲスラーは善良な、常識的な、怪奇現象を見て驚く役回りなようでいて、この人こそが怪奇現象そのものであったような気のされてなりません。そして騒動の真の黒幕の存在。一見、綺麗に、ユーモアを交えて幕を閉じますが、そういう引っかかりは残ります。ゲスラーが見ていたものはなんであったのか、を分かりやすい形では記されてありませんし。よく、心の闇と語られますが、闇というのか不可解さ、薄気味悪さも感じもしました。 | ||||
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ガリチアのジェキという村に新しく赴任してきた役人・ゲスラーと、その妻・エルザ。ゲスラーの助手に取り立てられたマチェク。かつて詩集を出したことのある土地の領主・クワルスキと、その妻・ウツィア(クワルスキ夫人)。 以上、五人の主要登場人物のキャラが、くっきりと描写されていたところ。読み進めるに連れて、巧妙に裏側に隠されていたそれぞれの人物像が浮かび上がってくるところ。見事だと唸らされました。 また、舞台となる僻村(へきそん)ジェキ、その「いかにも、こういう村があったろう」リアルな感触も素晴らしいものでした。言ってることの大まかな意味はつかめるんだけども、なに言ってんのか分かりにくい、訛(なま)りの強い村人たちの言葉遣いなど、よくこんな言葉を創造したもんだなって思いましたよ。素晴らしいっす。 そして、このレビューの見出しで私は、「美しい将棋の棋譜を見るかのよう」てなこと書きましたが、そこには、登場人物のひとりの運命が絡(から)んでいます。名前は言いませんけど、この人、最後のほうで自死するんですね。それがまるで、将棋の〈王〉て駒が詰ませられたみたいな、そんな風に感じられたんですよ。そうなるに至る作者の企みてば凄いなと、ため息が出ました。 ところで、私が購入した単行本の帯には、皆川博子氏の推薦文が記されています。でも、このおすすめの言葉って、ほんのエッセンスなんですよね。このエッセンスとも言うべき文章の元である、なんとも魅力的な水先案内文が、皆川博子の書評集『辺境図書館』(講談社)に載っています。未読の方は、ぜひ! | ||||
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クワルスキの詩の朗読会は地下に武器を隠すための装置として描かれているが、作者の意図はそこにあらず。後々強烈な比較で陶酔は地に堕ちる。 物語は隅々まで緻密に組み立てられている。 プロットの組み立てもすごいのだけれど、もっと地理的な、または建築的な組み立てもリアルに作者の頭のなかに出来上がっている。 プロットを何度推敲したらこうなるのやら。 | ||||
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吸血鬼とはいっても農奴に寄生する領主の比喩ですし、悪魔もおそらく主人公の妄想に近い存在なので、ホラー要素を期待しないほうがいいかもしれません。本書はむしろ、大国による重層的支配に喘ぐ19世紀ウクライナ西部の社会や暮らしを文学的に活写した歴史小説です。 これぞ文学と思わされたシーンがあります。薄緑色の夜会服で完璧に装われた妻の遺体を前にした主人公は、実は僅かな不完全さや微かな不均衡こそが、その動きの中で妻という存在を造り出し続けていたことに気づきます。髪のたわみ、襟の歪み、落ちてくる袖といった動作に伴う小さな乱調にこそ彼女の本質が有ったと悟るのです。ここで読者としては主人公にこう告げたくなる。あなたこそが詩人に違いないと。 | ||||
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16世紀末~17世紀の東ヨーロッパの国はどこも貧困であった。ルネッサンスの啓蒙思想に縁を持たない文盲農民たち、そのうえ異端審問を行わない宗教的な理由からも吸血鬼信仰が根付いた。この物語はそうした背景をもとに組み立てられたパワーバランスの物語だと感じた。領主の力、役人の力、農奴の力、夫の力、妻の力、迷信の力、宗教の力、そしてかそけきは詩の力、理知的に執り行われる迷信に満ちた儀式の所詮は気休めで、現実の災禍は現実に訪れる。郷に入って郷に従えば正気の儘、狂気に堕ちていくが、最後は詩人領主の青臭いアジテーションを農奴の損得をわきまえた正論が撃ち破る。 | ||||
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