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吸血鬼
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吸血鬼の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.59pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全22件 1~20 1/2ページ
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ゴシック小説のようなものだろうか、と読みはじめ、確かにそういう様相を呈し、濃密に殷々と怪奇な雰囲気が募ってゆきますが、しかしながらそれは反転し、現実としての事件としての様相が表れてきて、終結します。反転というとすっかり切り替わるようですが、そうではなく、紙縒りのようよじれて繋がっている感じ。怪奇な現象が、超自然な存在として現れてくるかというと、実体としては出てきませんが、顕現化されていない形では確かにあり、それはこの特殊な環境下のみにあるものではなく、人がいればそこに起こりうる、いや、必ず起きるものであり。その形態や、表れは違えど。・・・オーストリア帝国の支配下にあるポーランド。役人であるゲスラーは、若き妻を伴い陰鬱な寒村にやってきた。その地の領主クワルスキは往年の天才詩人。赴任後、村で不審な死が続き、ウピル(吸血鬼)の仕業ではと、村人に動揺が起こり、暴挙にまで発展させないためにゲスラーは土俗的な迷信を断行し、対処する。大切な存在に対してまで。そんななか、独立蜂起の焦臭い動きがあり。・・・ウピルとはなんであったか、ということ。ゲスラーは善良な、常識的な、怪奇現象を見て驚く役回りなようでいて、この人こそが怪奇現象そのものであったような気のされてなりません。そして騒動の真の黒幕の存在。一見、綺麗に、ユーモアを交えて幕を閉じますが、そういう引っかかりは残ります。ゲスラーが見ていたものはなんであったのか、を分かりやすい形では記されてありませんし。よく、心の闇と語られますが、闇というのか不可解さ、薄気味悪さも感じもしました。 | ||||
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ガリチアのジェキという村に新しく赴任してきた役人・ゲスラーと、その妻・エルザ。ゲスラーの助手に取り立てられたマチェク。かつて詩集を出したことのある土地の領主・クワルスキと、その妻・ウツィア(クワルスキ夫人)。 以上、五人の主要登場人物のキャラが、くっきりと描写されていたところ。読み進めるに連れて、巧妙に裏側に隠されていたそれぞれの人物像が浮かび上がってくるところ。見事だと唸らされました。 また、舞台となる僻村(へきそん)ジェキ、その「いかにも、こういう村があったろう」リアルな感触も素晴らしいものでした。言ってることの大まかな意味はつかめるんだけども、なに言ってんのか分かりにくい、訛(なま)りの強い村人たちの言葉遣いなど、よくこんな言葉を創造したもんだなって思いましたよ。素晴らしいっす。 そして、このレビューの見出しで私は、「美しい将棋の棋譜を見るかのよう」てなこと書きましたが、そこには、登場人物のひとりの運命が絡(から)んでいます。名前は言いませんけど、この人、最後のほうで自死するんですね。それがまるで、将棋の〈王〉て駒が詰ませられたみたいな、そんな風に感じられたんですよ。そうなるに至る作者の企みてば凄いなと、ため息が出ました。 ところで、私が購入した単行本の帯には、皆川博子氏の推薦文が記されています。でも、このおすすめの言葉って、ほんのエッセンスなんですよね。このエッセンスとも言うべき文章の元である、なんとも魅力的な水先案内文が、皆川博子の書評集『辺境図書館』(講談社)に載っています。未読の方は、ぜひ! | ||||
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クワルスキの詩の朗読会は地下に武器を隠すための装置として描かれているが、作者の意図はそこにあらず。後々強烈な比較で陶酔は地に堕ちる。 物語は隅々まで緻密に組み立てられている。 プロットの組み立てもすごいのだけれど、もっと地理的な、または建築的な組み立てもリアルに作者の頭のなかに出来上がっている。 プロットを何度推敲したらこうなるのやら。 | ||||
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吸血鬼とはいっても農奴に寄生する領主の比喩ですし、悪魔もおそらく主人公の妄想に近い存在なので、ホラー要素を期待しないほうがいいかもしれません。本書はむしろ、大国による重層的支配に喘ぐ19世紀ウクライナ西部の社会や暮らしを文学的に活写した歴史小説です。 これぞ文学と思わされたシーンがあります。薄緑色の夜会服で完璧に装われた妻の遺体を前にした主人公は、実は僅かな不完全さや微かな不均衡こそが、その動きの中で妻という存在を造り出し続けていたことに気づきます。髪のたわみ、襟の歪み、落ちてくる袖といった動作に伴う小さな乱調にこそ彼女の本質が有ったと悟るのです。ここで読者としては主人公にこう告げたくなる。あなたこそが詩人に違いないと。 | ||||
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16世紀末~17世紀の東ヨーロッパの国はどこも貧困であった。ルネッサンスの啓蒙思想に縁を持たない文盲農民たち、そのうえ異端審問を行わない宗教的な理由からも吸血鬼信仰が根付いた。この物語はそうした背景をもとに組み立てられたパワーバランスの物語だと感じた。領主の力、役人の力、農奴の力、夫の力、妻の力、迷信の力、宗教の力、そしてかそけきは詩の力、理知的に執り行われる迷信に満ちた儀式の所詮は気休めで、現実の災禍は現実に訪れる。郷に入って郷に従えば正気の儘、狂気に堕ちていくが、最後は詩人領主の青臭いアジテーションを農奴の損得をわきまえた正論が撃ち破る。 | ||||
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2016年刊行。タイトルとあらすじからてっきりオーストリア帝国支配下のポーランドを舞台にした吸血鬼小説だと思って読んでみたら、そんなことはぜんぜんなかった! 吸血鬼の迷信は作中で描かれますが、吸血鬼が直接登場して人々を脅かすという内容にはあらず、祖国独立の理想に捉われた旧支配層のインテリを吸血鬼になぞらえていたわけですね。 思っていたのとは大違いのストーリー展開でした。理想主義のインテリとは対照的な、農民たちの無学でも現実的でしたたかな姿が印象深くて、歴史観が揺さぶられる一冊であります。 | ||||
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中古の本なので、ある程度の使用感は覚悟していましたが、新品のような本が届きました。勿論、多少のキズなどはありますが、書店で売っている本にもキズはあります。十分、許容範囲でした。 | ||||
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戦争の法、ミノタウロスと並ぶ傑作でした。 冒頭から最後の1行まで美しい。 グリゴローヴィチ版のジゼルのような、誰しもいつか訪れるかもしれない静かな闇に引き込まれて、少しだけ生きていくのが楽になる作品です。 | ||||
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19世紀のオーストリア支配下のポーランドが舞台である。 赴任した地方役人とその若く美しい妻、詩人であった地主とその妻、役人の助手と貧しい農民たち・・・。 闇にうごめいて、人の命を奪っていく小鬼。 虚か実かの境も不分明なままに話は推移し、蜂起の話が重なるが、それも所詮は泡沫のように終わる。 この作家の作品は『ミノタウロス』が初めてで、そこで強烈な印象を受けた。 内戦下のウクライナだったか白ロシアでのワルたちが主人公のピカレスクだった。 こうした異国の過去を舞台にした作品が、この作家は異様なまでに上手い。 蜂起の泡沫さは、ミノタウロスにも通じるところがある。 それにしても、他の作家では得られない読後感である。 | ||||
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吸血鬼文学というとふつうはキワモノ的で怖がらせることに主眼が置かれるが、この作品は吸血鬼習俗の実体もきちんと踏まえ、近代東欧の村世界の様子がしっかり描き込まれている。閉ざされた農村世界に送り込まれた都市的教養をもつ主人公と吸血鬼を信じる土俗的象徴界の対立がこれからサスペンスフルに展開されるのだろうと想像する。果たして吸血鬼は実際に存在するのか。まだ読みかけなのに投稿してすみません。 | ||||
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時代背景の説明がないのは作者の特徴なのでいいとして、訛りなどはもう少しやわらかい文章でもよかったのではと思ったりもしましたが、万人受けを意識される方ではないし、読みにくい方が「主人公にもこういうふうに聞こえてるんだな」と臨場感を感じるような気もしてきました(笑) まるでその時代にいる(しかも西洋)人間が書いたような物語の緻密さには毎度驚くばかりですが、暗いどころではない鬱々とした物語で、硬質な文体なのに、なぜこうも美しいんですかね。作者は雑音のない確固たる世界をもっているんでしょう。圧倒されるばかりです。 twitter文学賞受賞ということで、この作品を評価する方々がいてうれしく思いました。だってこんなの書ける人いないもの。 | ||||
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作品を追うごとに洗練されていく気がします。 こういう作品をかける作家がいないでしょう。 翻訳されれば、村上なにがしなど通り越して ノーベル章候補なのでは?とさえ思う。 | ||||
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題名は特にルーマニアの吸血鬼と関係なし。 古くは『バルタザールの遍歴』『天使』、 最近では『ミノタウロス』の系譜に連なる作品。 作者が得意とするオーストリア=ハンガリー帝国時代、 そして陰鬱な東欧の風景描写は相変わらず秀逸。 村で起こる怪死事件と、ポーランド独立志士たちの 物語が絡み合って進む展開は興味深いが ヨーロッパ文化や歴史にある程度知識がないと すんなりとは受け入れがたい作品ではある。 そこを許容してしまえば、頽廃的文化の香り高い、 高水準の満足感が得られる一冊。 | ||||
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ネタバレとでも見られて削除されたのかなあ。いや19世紀ポーランドの革命の話で、吸血鬼は出てこないし、特に面白くはないよ。 | ||||
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19世紀半ば、ポーランドの辺境の地ジェキにオーストリアの中年官吏ゲスラーが年の離れた妻エルザとともに赴任してくる。地元の領主は詩作をたしなむアダム・クワルスキで、文学の素養があるゲスラーは心通じるものがあると感じる。折しもこの地域で、住民の間に不穏な死者が相次ぐ。死の連鎖を断ち切るためにはその墓を暴き、遺体の首をはねるという風習があり…。 --------------------- 西欧と東欧の狭間の地を舞台に選び、欧州西端の地に比べればまだまだ近代の端緒の時期にある小村で巻き起こるただならぬ雰囲気をたたえた物語が展開します。 そうした時代の空気を、凝った――ただし徒(いたずら)に豪奢と衒学の域に陥ることのない――文体で巧みに描出していきます。 「村は寝静まっている。蹄の音が聞こえ、エルザは耳を澄ます。襲歩は次第に近付き、蹄の音は寝室を夜の闇で満たす。彼女は寝床の中で身を縮め、夫の暖かく弛緩した背中に顔を寄せる」(85頁) 「軽蔑と倨傲が血の中を満たす。長い煩悶の果てに、漸く出口が見える。天上的な軽やかさに包まれて、彼の心は勝利の叫びを上げる」(109頁) ことほどさように馥郁たる文学の香りを漂わせながら、やがては禍々しい事件の顛末が記されていくことになります。 そして書名が詠う吸血鬼とは果たして誰のことなのか。その真意が突如明らかになるとき、欧州の諸処で確かに暮らしながらも、史書に刻まれることのなかった多くの民衆の叫びが立ち現れてくるのです。そのことに虚を衝かれ、強い驚きを感じます。 吸血鬼に託されて描かれた存在について今一度、自らの傍らを眺めまわす必然にとらわれる気がする小説です。 | ||||
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非常に素晴らしい作品だと思いましたまる 冗談でなくそんな陳腐な感想しか出てこない。 詩人が作中に出るとか関係なく誌的な美しさを感じさせる文体。 会話文が「」でなく棒線で区分されてるのもすぐに慣れました。 作品に没頭するのではなく、美術館で作品を鑑賞するような感覚。 作中の緩急があるのにそれに感情を左右されることなく陶酔して眺めていられます。 グロテスクであったり汚らしい表現・演出があっても気分が滅入ったりしませんでした。 割と読書歴は長く量もジャンルを選ばず量もそれなりにある方ですが これほど「美しい」作品には初めて触れました。 タイトルの『吸血鬼』はあくまで象徴に過ぎず、前面には出てきませんので オカルトやホラー的な物を期待すると肩透かしになるでしょうが それは抜きにして世界や人物を鑑賞するだけでも一読の価値ありです。 評価が、母数が少ないとは言えオール5なのも納得、ケチを付ける箇所も見当たりません。 強いて言うならとある人物についてついにぼかされたまま終わったのが少し引っかかるくらいかな? | ||||
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ポーランドとウクライナの境界に位置するガリツィアの小村(人口328名)を舞台に、若妻を伴って新たに赴任したオーストリア帝国の行政官を軸として、1846年9月から翌1847年4月までの出来事が語られる.こんなマイナーな舞台/時代のディテールをここまで手触り感を持って描写できるのが凄いが、このリアルさに夢遊病的幻想性や終末的不安感/緊迫感を一体化して表現しきる文体がまた凄い.この平民出で禿頭で短躯でアラフィフで大人の分別を備えた「どこからどうみてもぱっとしない」下級官吏が物語の中心人物として機能するのもこれまた凄い(時々立ち現れる内面の別人格は「バルタザールの遍歴」を想起します).地味なのに異様な日常が叙述されてますが、その奥に恐ろしく複雑で入り組んだ内部構造を有し、それらがつなぎ目が全く見えないほど滑らかに結合され、全ての謎はテクストに明瞭に明示されており(例えば行政官の名はヘルマン・ゲスラー)、何処まで深く読み込めるかは全て読者に委ねられている、恐ろしく閉じていながら同時に恐ろしく開いている小説です.勢力均衡の地政学を夢想する元詩人のゲスラー、ロマンの亡霊として生きる勘違い領主クワルスキ男爵,的確な判断と実際的な行動ですべてを司るその妻ウチィア、資本論を正しく語る無教養な密猟者=「父」(まるで「戦争の法」での父!)等々、全ての登場人物が魅力的です(もちろん料理や酒や銃や亜麻布も).正直言って私ごときへなちょこ小説読みではとても歯が立ちませんが、ただ私としては、かなうものなら「密猟者」として生きたいものです. (2016年5月29日追記)今日、カトリックのある神父さんから「古来、イスラエルでは命は血に宿ると考え、ギリシャ人は頭に宿ると考えていた」という話を聞きました.これはミサでのパンと葡萄酒に関するお話でしたが、出産での大量の出血や死後の斬首が鮮烈に描出される本作において読解の糸口のひとつに思えたので追記しときます. (2016年5月30日追記)恥を忍んでおそるおそる追記すると、本作にも「男性への底知れぬ呪詛と嘲笑」を読み取りました.男性である私が本作を褒める事自体、脱出不能な蟻地獄か底なし沼に捕われる訳で、といってこの魅惑的な小説には抗し難く、つまり完璧な罠です.ただひたすら恐怖と畏怖を感じます... | ||||
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19世紀の東欧の田舎の雰囲気がとてもよく出ていました。 翻訳本かと思うほどにポーランドの片田舎の情景が描写されています。 クライマックスもなるほどと思いました。 ただ、あまりに難しい漢字が多々使用されており、少々読みずらい面もあります。 | ||||
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吸血鬼は出てこないです。 唯一現れる超自然的存在も、実在なのか主人公の心のなかにいる存在なのか最後までわかりません。 全編現在形で書かれているせいか、その場に居合わせているかのような臨場感が素晴らしい。 今年上半期読んだ中で一番かも。 | ||||
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YoYo!今は読書の秋?ではないが佐藤亜紀?の新作『吸血鬼』。出てくる詩人はアダム・クワルスキ。住んでる村はジェキ!Check it! 吸血鬼といえば、黒い蝶ネクタイ、しめた紳士みたい、な男連想するけどルーマニア、のトランシルバニア、のドラキュラ、はまだいない世界。十九世紀半ばのオーストリアの領土、に収まってるポーランド、の貧しき農奴、ばっかいる貧しき村。昔もてはやされた詩人クワルスキ、は今や大きな屋敷、に籠もりくすぶる大地主。そこへ赴任してきたのは理想に燃えるヘルマン・ゲスラー。 その名はウイリアムテル、の悪代官の名に似てる、ってゆーかそのまんま。かつて革命の理想を謳いあげた、にも関わらずただの地主になりさがった、 クワルスキはいわばウイリアムテルになれなかった、男。だから敵対する代官の名がゲスラー、なのは皮肉がきいてますなー。 〈赤毛のはげ〉!とか言われても健気、に〈異例に属する腰の低さ〉で村人に受け入れられるゲスラーはちっともゲスじゃねー。ゲスの極み乙女。じゃねー。それは、ぱねー事なかれ主義の前任者パネーンカ、とはすげー違いでゲス。このゲスラーの高潔、さがさらに際立つ、のは狡猾、な男、村で唯一の医者に して欲の権化バルトキエヴィッツ、がいるからっす。さらに話を盛り上げる小悪人はヤン・クワルスキ。叔父貴のアダムが屋敷で詩の朗読会を開く日にあえてご禁制の、銃と弾丸をせっせーと納屋に持ち込み悪だくみ。 この村の「吸血鬼」とは屍が蘇り村人に悪さするゾンビみたいな存在。信仰が死ぬ。と迷信が蘇る。だから切る。首を切る。墓をあばいて死者をもいちど殺す。だから来る。きっと来る。「やれやれ」と首切り職人ヤレクがオノ持って来る。村に〈文明をもたらす〉と使命感に燃えてたあのゲスラーも、首切りに思いきり踏み切る。そこで理想は単なる〈郷愁〉に成り下がる。 映画の手法に通じた亜紀、が描く雪、の日の首切り、直前のシーンはとっても映画的。まるで残酷な殺戮シーンと幼な児の洗礼式が同時進行する『ゴッド・ ファーザー』みたいに、女たちが教会で祈りを捧げ、男たちが墓場で準備をすすめるシーンが交互に展開してしびれる。続く首切りシーンもまるで「見てきたみたい」に語る細部の描写もさすが亜紀の筆ぇーの冴えーのすげーうめー。オノに映る炎。棺を開けた時の臭気。ヤレクは死体の首を持ち上げる。〈眠ってる子供にやるようにそっと〉。首の下に〈角材〉。首切 りの瞬間〈棺の底が鈍く鳴る〉音。切った後ヤレクは職人肌の床屋みたい最後チョイとずれた〈首を元に戻す〉仕上げするんだ。 でもけっきょくゲスラーもクワルスキも負けていく。そこで輝くのは〈泥のように〉生きてる名も無き村人の言葉。理想とか美徳とかにゃかまってらんねー。ここがポーランドだろーとオーストリアだろーとオーストラリアだろーと知ったこっちゃねー。偉いヤツぁみんな余所者だ。オレらは足んなく なったら余所から盗ってくるだけぜ。 語る場を持たぬ者らの声を聴け。それが文学なんだし、ラップなんだし、そこのお前もすぐに本屋にDash!すべきだし! | ||||
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