■スポンサードリンク


月とアマリリス



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!
【この小説が収録されている参考書籍】
月とアマリリス

月とアマリリスの評価: 4.21/5点 レビュー 14件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.21pt


■スポンサードリンク


Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(3pt)

みちる、都合の良い偶然に助けられすぎ

みちる、都合の良い偶然に助けられすぎ。

☆3としたが3.5位。町田そのこ初読み。面白かったし意欲作だと思うけど、所々腑に落ちない箇所や疑問な点が多く、他の人のように手放しに絶賛できない。
まずみちるが記者を辞めるきっかけになった中学生のいじめ自殺事件。みちるは「被害者を加害者として扱って傷付けてしまった」って繰り返し悔やむんだけど、主犯・従犯の違いはあれ共犯には違いないし、本当の被害者からすれば西だって卑劣極まる加害者。

一度は助けてくれると期待させといて写真を流出したのだから、ぶっちゃけ一番憎いまである。

彼にも同情の余地はある。ある意味被害者でもある。
とはいえ一回裸にされただけ、全身に卑猥な落書きをされネットに拡散されたわけでもない。そして彼がその恥(と言えること?)に耐え切って告発に踏み切れば、被害者は今も生きていた。私が自殺した女子だったら西が一番憎い、裏切り者の偽善者だもの。

女性が抑圧される地域社会や家父長制の加害性にフォーカスした構成は時代性にコミットしているし、相棒がトランスジェンダーの男性なのも新しい。センシティブな社会問題を扱った令和なヒューマンドラマとしては評価できる。
が、主人公が甘い。甘すぎる。
タウン誌ライターを軽んじるっぽい冒頭の独白でも「ん?」となったものの、一番引っ掛かったのは推し活に命をかけてる風俗嬢に対し思ったこと。

「残虐に搾取されてるのにも気付かないで(以下略)」

……いや、真っ当な大人の意見として見れば間違ってない。みちるは正しい。
だからといって哀れむのは傲慢。

「自分で働いて稼いだお金を自分の為に使ってほしい」って、それがこの子にとっちゃ推しに貢ぐことなんじゃない?搾取されてるのに気付いた上で、自分が気持ちよくなる為にやってるんじゃない?

世間的に不道徳不健全だろうとそれが今この子を生かす理由になってるなら、「男に搾取されている馬鹿で可哀想な被害者」と決め付けて一方的に見下すって、すげー失礼なことなんじゃないか?

確かに男に貢ぐのはやめた方が健康に生きられる。推し活なんてやめたほうがいいかもしれない。
結果、推しと切れたこの子は立ち直るかもしれない。立ち直れないかもしれない。人生に楽しみがなくなるかもしれない。生きる目的を失って空っぽになるかもしれない。人の形をした虚無になるかもしれない。

どっちがマシか選ぶのは彼女自身。
自分を救えるのは自分しかいない。
故に彼女を哀れむ資格はない、いわんや蔑む資格もだ。

自分の物差しで他者をジャッジする危険性や愚かさを説くみちる自身が、無自覚にこの手の「善なる哀れみ」を振りかざしまくるせいで萎えてしまった。せめて自らの傲慢さを省みる描写が欲しい。(井口にちょっと言われてけど)

ミステリーとして読むと都合の良い偶然が多すぎるのもネック。井口に偶然会って助けられること三度、たまたま立ち寄った書店じゃ十数年没交渉だった元同級生とバッタリ再会、ライバル雑誌の記者とも偶然三度ご対面。何なら事件の犯人も知り合いでした。
待て待て北九州どんだけ狭いの、近距離で人間関係完結しすぎ!?東京に次いで何番目かに人口多くて栄えてる都会のはずでは……。

元記者の人脈を駆使してとか粘り強い調査の末に掴んだ新事実とかならわかる。が、単なる偶然。スミの事件調べ始めた途端何故か昔の知人や関係者に会いまくり、その人たちが絶妙のタイミングで絶妙な情報ドロップしてくれるって、幾らなんでもご都合主義が過ぎる……。
お陰でみちるが頑張って何かを掴んだ、成し遂げたっていうより、ただひたすらツイてるだけの女性って印象に堕ちてしまった。取材に行き詰まったら必ず親切な他人が助けてくれるんだもの。
主人公を記者にした以上、事件の核心に迫るピースは実力で掴んでほしい。人口密度的にあり得ない偶然があんまり連鎖するもんで、みちるの再生物語に没入する前に、作者の作為を感じて冷めてしまった。

全体の二割から三割を占める後日談も蛇足な感は否めない。
美散が半生を回想するルポルタージュは読みごたえがあったものの、要所要所のみちるの声がデカすぎて、感傷過多な説教臭さを感じた。ルポルタージュの体裁をとるなら淡々と進行してくれたほうが、フィクションで語られた「事実」の重みがズシッときた。

私が読んだ中では川上未映子『黄色い家』+柚木麻子『BUTTER』に近い印象。が、どちらの深みにも届いてない。『黄色い家』の行き場のない女たちの絶望や『BUTTER』の女記者のガッツと比べてしまうと、みちるの幼稚で独善的な考え方が共感を妨げる。「記者を辞める」と宣言した数ページ後にあっさり翻したりどっちやねん!?
彼女の心情も描かれてはいるものの、そこそこ経験を積んだ三十代の働く女性として見ると、「そんなことでウジウジするの?」「それは予めわかってたんじゃないの?」と言いたくなる。

大前提として、加害者支援施設に転職したところで「もうだれも、わたしの手で新しい傷を付けられることはない」はずがない。
そんなの絶対無理。

人は人で歪む。
だけど生きてく限り人との関わりはやめられない。
だからみんな人との関わりで傷付きながら懸命に生きているのに、十年以上記者として生きてきた人が今回の経験踏まえた上で、なんでそんな軽率に断言できるの……?
私たちにできるのはせめて人を傷付けることに自覚的になって、対面時に感情をセーブすることだけ。

タイトルの「アマリリス」が生かされてなかったのも勿体ない。作中みちると吉永が語っていたように女子会してほしかったとまでは言わないが、何か重大な意味が潜んでいるのかなと思ったら、予想外にサラッと流されてしまっていた。「月」は何……スミを埋める時に美散が仰いだ月?男(太陽)のお零れで光る女性の暗喩?
元カレの強い言葉が決定打になるラストも残念。きっかけは例のニュースだとして、他人(特に男性)の叱咤で心変わりするんじゃなく、きちんと自分の頭で考えて、取材対象や関係者を傷付けるリスクを自覚した上で、覚悟と責任をもって復帰してほしかった。
支配的な男性に搾取される女性の更生をテーマに引っ張ってきたのに、最後で結局そっちに行くのかよ、とガッカリ。
月とアマリリスAmazon書評・レビュー:月とアマリリスより
4093867453

スポンサードリンク

  



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!