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(短編集)
主の変容病院・挑発
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主の変容病院・挑発の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点3.67pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全3件 1~3 1/1ページ
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スタニスワフ・レムの非SF小説『主の変容病院』では、レムがこうむったナチによるポーランド侵略の一端が、若い医者である主人公が赴任した精神病院を舞台にして描かれる。 私が興味を覚えたのは、病院を制圧し、医者たちを脅し、患者たちを殺戮するのが、ドイツ将校と彼らの手先となったウクライナ兵士たちであることだろう。ドイツとロシア(ソ連)に挟まれたウクライナは(もちろんポーランドもだが)この時代、二つの強国に蹂躙される。ウィキペディアによれば第二次世界大戦におけるウクライナの《犠牲者は800万人から1,400万人とされている。ウクライナ人の間では5人に1人が戦死した》とあるが、同時に多くのウクライナ人がソ連赤軍の先兵にもなれば、ナチの手先にもなったのだ。 レムのこの小説は戦後、ソ連の支配下にあった共産主義国ポーランドで書かれたため、ソ連(ロシア)に批判的な言葉は許されなかった。著者は細心の注意を払ったであろうが、『主の変容病院』は社会主義リアリズムの枠組みに合わないとして出版が許可されない。 レムはこれに続く部分を書き、三部作『失われざる時』を『主の変容病院』執筆から八年も経て、やっと出版にこぎつける。だが第二部『死者たちの中で』、第三部『帰還』はその後、レムによって封印され、再刊も翻訳も許可されていない。今世紀に完結した三十巻以上のレム著作集にも、一部断片しか収録されなかったようだ。 『主の変容病院』においてレムは、後に『宇宙戦争』論(『高い城・文学エッセイ』収録)でも記すように、いかに人々が無慈悲な制圧下のなかで隷属化され、仲間を裏切り、自分が助かろうとするかを描いている。それはソ連のスターリン体制のなかで蔓延した悍〔おぞ〕ましいばかりの人間のありようであったが、レムは小説のなかでそれにふれることができなかった。 この小説の後、レムはSF『金星応答なし』を書くが、レム初めての単行本となるその著作には、レムが生きる世界をおおうロシア共産主義への妥協がみてとれよう。 | ||||
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「主の変容病院」は精神病院で働くことになった青年の話、それ以上でも以下でもない。 独創的なものは特になく、中途半端な感じがしたし、そもそも青年の成長物語の序章のように思えたのだが、解説でこの作品に長い続編があることを知って納得した。 ただ、レムが精神病院を書いたことに、しかも処女作の舞台に選んだことには大きな意味がある。他者とわかり合えないこと、それでもわかり合おうとすること。主人公の青年の苦悩や葛藤は、その後、遠い未来の遠い宇宙にまで伝播されていくのである。 | ||||
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本書はレムコレクションの最終巻。レムの処女長編である「主の変容病院」や、晩年のメタフィクション「挑発」などが収録されており、作品年代的にはかなり極端な構成になっている。 「主の変容病院」は非sf小説で、写実、リアリズムの習作と位置付けられている。1939年9月のドイツ軍によるポーランド侵攻後、ナチスの気配が濃密になる世相が背景。叔父の葬儀に参列するため帰郷した青年医師ステファンは、学友のスタシェクに誘われ、小高い丘の上に立つ療養所(サナトリウム)「主の変容病院」に勤務することになる。 設定は「魔の山」を想起させる(実際、作中に「魔の山」も登場する)のだが、入院患者は肺結核ではなくみな精神を患っている。同僚の医師は患者の症例を好奇の研究対象にする者や、手術マニアなど曲者揃い。ステファン自身も医師の仕事はするものの、患者で詩人のセクウォフスキと文学や哲学談義に耽ったり、変電所で働くパルチザンと関わったりもする。 「主の変容」という言葉はマタイ、マルコ、ルカの福音書に記されたイエスの奇蹟に因むが、作中でその意図が明かされることはない。9の章から成る構成も各章の接続がぎこちなく、そういう点では習作とされるのも納得できる。 けれども、外科医カウテルスが執刀する無謀で乱暴な開頭手術の凄まじさ、また、ドイツ兵とウクライナ兵が病院を占拠するラストはぶっ飛んでいて、やはりレム恐るべしと溜飲が下がる。ことに後者の場面は、ドイツ語とウクライナ語のセリフをカタカナ表記するという翻訳の手柄により、あたかも異星人の襲来を思わせ、作品全体に漂う無機質な空気と相まってすでにレムの世界観が現れており、これは習作だとかリアリズムだとかのレベルを超えている。 ただひとつ残念なのは、この小説が3部作の第1巻に過ぎないということ。訳者後記によれば、続編にあたる第2巻の「死者たちの中で」と第3巻の「帰還」を合わせることで、「失われざる時」という叙事詩的な大河小説が形を成すのだが、日本語による翻訳はない。そして、このコレクションも完結してしまった。なんとか読めないものだろうか。 | ||||
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