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(アンソロジー)

淑やかな悪夢



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【この小説が収録されている参考書籍】
淑やかな悪夢―英米女流怪談集
淑やかな悪夢 (創元推理文庫)

淑やかな悪夢の評価: 3.75/5点 レビュー 12件。 Dランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.75pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全8件 1~8 1/1ページ
No.8:
(4pt)

「黄色い壁紙」をようやく読みました

本書には、女性作家たちのみが書いた怪談話が12編収められていますが、そのなかにシャーロット・パーキンズ・ギルマン(1860-1935)の短篇「黄色い壁紙」(1892年)が挿まれています。
 長く気になっていたこの作品をようやく読んだしだい。

 この作品は、簡単にいえば、出産後特有の神経不安に陥った「わたし」の手記と捉えることができ、その「わたし」が医師である夫とともに、田舎に借りた邸で療養をかね夏を過ごすという状況から手記ははじまります。

 主要人物は、手記を書く女-妻-患者の「わたし」と、その「わたし」の治療にもあたっている男-夫-医師のジョン。 
 邸にはほかに、赤ちゃんの面倒を見る乳母(?)のメアリー、家政婦(?)のジェニーがいるようですが、「わたし」にとってふたりの女性は自明の存在なので手記のなかではあらためて人物紹介はなされておらず、身分や夫婦との関係性など詳細は不明です。

 「黄色い壁紙」は、ホラー文学として読むほかに、フェミニズム文学と神経症文学といった観点から読まれているようです。

 まあでもべつだんそういうふうに事々しく構えなくても、女-妻-患者のためを思ってあれこれ適切な指示をしているつもりでも実は女-妻-患者をまるで理解できていない男-夫-医師という像がこの手記=小説からまずはかんたんに浮かびあがってきます。
 「一時的に神経の不調、軽いヒステリーの徴候」と分かったような分からないような診断をして、治療の名のもとに女-妻-患者を有無をいわさず階上のかつて子ども部屋だった部屋に閉じこめようとする男-夫-医師。
 いっぽうの女-妻-患者は自分のことばを発そうとしても、男-夫-医師には、自分が言いたいことは言えず、というよりむしろことばを発すれば男-夫-医師からさえぎられ、黙らせられる。自分の好きな書き物さえも身体にさしつかえるとばかりに禁じられ、話すことでも書くことでも自分のことばが奪われてゆく。それでかえってますます神経症状をこじらせ、状況はいよいよ悪化していくばかり――よくあるといえばよくある男-夫-医師と女-妻-患者の関係がそこから読みとれます。

 「わたし」は手記のなかで、男-夫-医師のジョンは「わたし」の身を気づかい、「わたし」のことを優しく思ってくれているからこそ、このような療法やアドバイスを「わたし」にするのだという理路でくりかえし自分を納得させようとしています。これも人間心理としてよく見られるものです。

 では、フェミニズム的観点からすると、この関係でやはり家父長的権威、学問的権威に居すわる男-夫-医師が本質的に悪いのでしょうか。そういう一般化も可能な関係がここで描かれているのでしょうか。まあいかにもだれにでもすぐ思いつきそうなごく単純な図式的読みかたですが、ともあれしかしまずはそういうことになるのでしょう。
 ただ、性急にそのようなフェミニズム的読解に飛びつくより先に、女性の産後ノイローゼにたいする作者が生きていた当時の医学的な理解やその標準的な治療法、少なくとも人びとの一般的な理解やその対応がどうであったか、そのこともこの小説の理解のためにまず確かめておく必要があるかもしれません。
 この点については、作者のギルマン自身が出産後鬱状態になり、小説のなかにも登場する実在のウィア・ミッチェル博士の治療をうけたものの、彼が薦めた「安静療法」によって、かえって鬱が悪化したという、彼女の実際の経験がこの小説に反映されているという指摘がすでになされていますが、いっぽうで、ミッチェル博士が提唱した「安静療法」は、正確には、小説のなかで語られている療法とは異なる、という医学史的な指摘もあるようです。

 さらに、手記からは、上で挙げた対比項である男/女、夫/妻、医師/患者にくわえ健常者/病人とさらに対比項をふやしていけそうで、関係構造として広く前項の後項へ向けたまなざしには無理解ばかりか抑圧的、差別的なものがはらまれているという読み方へとつなげ、拡張してゆけるところもあります。

 ようは、フェミニズムばかりかケアの観点からしても先駆的で問題提起的なところもある作品というわけです。

 たとえば、男-夫-医師の位置に義母あるいは実母、女-妻-患者の位置に産後うつの嫁あるいは実家で過ごす産後うつの娘を置いてみればどうでしょう。
 そこでの義母と嫁、あるいは実母と娘との関係構造にあっても、ケアにかかわって、手記に見られるような男-夫-医師と女-妻-患者の関係とよく似た抑圧的な構造がときに生まれうるのではないかということです。
 これはすべてあなたのためを思ってのこと、といいながら、ああすればいい、こうすればいいとか、怠けていてはダメだとか、みずから出産経験者であるにもかかわらず、あるいはむしろみずからも出産経験者であるだけに、うるさくそして厳しく干渉してくることはないのかどうかということです。

 また、精神分裂病になった少女が書いた手記に精神病医セシュエが解説をくわえた『精神分裂病の少女の手記』(みすず書房)という本がありますが、この短篇は精神疾患に罹った女性のじっさいの手記としても読めなくもありません。
 内容は結果としてなにか怖ろしい幻覚にまでいたるもので、それがこの手記をホラー小説にもしています。つまりこの短篇はそのジャンルの文学作品としても傑作と呼べるものです。

 それにしても、ひとが「這う(creep)」ことの恐怖!
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4488507026
No.7:
(5pt)

女流作家ら渾身の珠玉短編集

19世紀終盤ごろの12編の作品集です。「黄色い壁紙」は非常に視覚的な恐怖で「トワイライトゾーン」を観ている様に没頭させてくれます。とても怖いです。静養に来た婦人が壁の古い模様に違和感を覚えることからエスカレートしていく恐怖。婦人の狂気が部屋を呑みこんでいきます。描写が巧いです。
他にも「告解室にて」「蛇岩」「冷たい抱擁」「郊外の妖精物語」「追われる女」「故障」あたりがオススメです。
いきなりびっくりさせるのではなく、ジワジワ迫ってくる恐怖を描写する作品が多いのが特徴と感じました。
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4488507026
No.6:
(4pt)

お化け屋敷ホラー

日本人の感覚に近いイメージのお化け屋敷系のホラー短編集です。
すごく怖いと言う訳では有りませんが、読み易いホラーですね。
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4488507026
No.5:
(5pt)

「黄色い壁紙」がすごい!!!

「黄色い壁紙」がすごい点は2つある。
1.手記であることを利用して、メタレベルで読者を狂気の淵に引きずり込む。これは筒井康隆「驚愕の荒野」でも類似の手法が取られている。
2.本編が終わった後も物語中では何も解決しておらずこの先どうなるのかは読書の想像にお任せ。まだ何かが起きるのでは、という不穏な空気を漂わせたまま終了する。この不穏な空気はジュブナイルホラー「アクアリウムの夜」やケリー・リンク「スペシャリストの帽子」にも見られる。(特に後者のラストで双子が階段を上がっていくシーンの怖さ)
さらに巻末の訳者対談によれば、もうひとつ興味深い手法で狂気を表現しているとのことである。これは実際に読んでみてほしい。

こんなレベルの高い作品を120年も前に生み出してることが驚きである。読後、ホラーにもかかわらず思わずニヤリとしてしまった。

他の作品も佳品揃いであるが、語り口がよかったり雰囲気が怪談らしく楽しめるといったレベル。「黄色い壁紙」のみがずば抜けており、他のレビュアーの方とかぶる内容だが、本作品が読めただけでも本書を購入したかいがあった。
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No.4:
(5pt)

楽しめるが、怖いわけでは無い。

既に、クリスマス休暇であり、通貨に主軸を移して
仕舞ったので、日経先物の頃よりも早く、年末年始の
休暇に入っている。休暇の過ごし方自体は例年通りだが・・・。

さて、女性作家たちによる恐怖小説集の本書について。

此れは、決して「性差別」的な意図での発言ではないのだが、
どうも、「女性の怖がり方」と言うのは「女性特有」の
ものの様に、男の私には感じられる。
・・例えば、テーマパークの「ホーンテッドハウス」での
デート等が、最も判り易い例だと思うが、女の子たちは
自ら、率先して「怖がろう、怖がろう」としている。
丸で、彼女たち自身の「先入観」で怖がろうとして
いるかの様である。・・

本書収録作品も同様で、「積極的に怖がろう」として
読まなければ、怖くは無かろう。尤も、怖くは無くとも
怪奇短編小説として、楽しめるし、面白いのだが。

本書収録作の中での「目玉商品」の様な位置づけの
『黄色い壁紙』にしても、「読み方」次第では
「精神衛生養生訓」の様にも読める。
詰まり、メンタル・ヘルスの点では以下の2点が肝要と判る。

1.睡眠を良くとる。
2.プライヴァシーを確保する。

21世紀現在では日本でも「睡眠障害」は特別な問題ではない。
精神科でなくとも、内科・心療内科で催眠剤・睡眠導入剤を処方してくれる。
2については、ヴァージニア・ウルフが「19世紀以前に、女性が
一人きりでものを書ける『スペース・空間』が確保出来ていれば・・・」と
言っていた、豪く大時代な問題。家族の「過干渉」にそれほどまでに悩んでいる
日本人女性が、2008年末現在にどの程度いるのだろう。
明治時代の閉塞的な寒村じゃあるまいし・・・。

少し、話が逸れるが『ねじの回転』の様なジェイムズの作品も
あの時代のイギリスと言う時代状況・社会環境だから、「文学的意義」が
あったのだろう。今、読んでみると「家庭教師のヒロインが、外部的環境や
人間関係に悩みまくってノイローゼになっただけの話」とも読める。
・・「ヴォイジャー」では、キャサリン・ジェインウエイ艦長が
ホロプログラムの「趣味の世界」として気分転換的に楽しんでいた。・・

話を、本書に戻すが、『蛇岩』等は、岸田今日子の朗読で
ラジオ番組にしても、30年前なら兎も角、現在では大して
聴取率が取れそうも無い。今日的状況では、そんな風である。

夢もロマンも、身も蓋もないレヴューになってしまったが
「本気・マジ」になって読むと本当にメンタルの点で
一寸した「クライシス」を体験する可能性あり。

補足
『空地』は不動産投資を遣っている方や、これから
始めようとする方、また、マンション・一戸建てを問わず
マイホーム購入を考えている方は、若しかすると
怖いかも・・・。
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4488507026
No.3:
(4pt)

彼女たちはとても早く這う。

19世紀半ばから20世紀半ば頃に書かれた12の短篇。
特に、ギルマンの 『黄色い壁紙』 に満ちた 「嫌な感じ」 は凄い。ぞわぞわと怖い。

 彼女たちはとても早く這う。

少し古い時代の怪奇小説には好みのものが多い。
想像の余地を残しているものがいい。
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No.2:
(4pt)

なかなか楽しめました

英米の女流作家たちの怪談集

読後の印象がそれぞれに深く、楽しめる怪談集。

「黄色い壁紙」

 最初に読んだ時、意味が分からずもう1度読み返してようやく意味を知り、いや〜な気持ちにさせられた作品。語り手の内的変化を表す描写がない分、情け容赦がない。このねじれに最初に読んだ時、気付いてなかった。

「名誉の幽霊」

 ユーモラスな筆致でありながら、最後にドキッとさせられる。落ちは誰もが気付くようなものだが、それまでがユーモラスであった分、効果は倍増。

「蛇岩」

 絵画的な描写で幻想の世界の話を読んでいるような気にさせられた。描写が頭の中で映像化され、それでいながら幻想的な靄がかかる。静かな余韻に浸れた逸品。

 その他、計12編を収めた短編集です。
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4488507026
No.1:
(5pt)

シャーロット・バーキンズ・ギルマンの「黄色い壁紙」は必読!!

当代を代表する名アンソロジストにして稀代の怪談翻訳家・西崎憲をして、本書の目玉と言わしめたニューロティック・ホラーの傑作「黄色い壁紙」を読むだけでも、本書は一読の価値がある。静かな文体ながら、頻繁に改行を繰り返す文章が続く内に、読者は語り手の歪んだ脳内へと迷い込み、計算し尽くされたようにも思えるラストの一文に至り、もはや引きずり込まれた迷宮に出口がない事を悟るだろう。
 その他の収録作品も、オーソドックスながら質の高い怪談作品ばかり。キャサリン・マンスフィールドの「郊外の妖精物語」が哀切で良かった。
淑やかな悪夢―英米女流怪談集Amazon書評・レビュー:淑やかな悪夢―英米女流怪談集より
4488013139

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