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弁護士ダニエル・ローリンズ
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弁護士ダニエル・ローリンズの評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.13pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全20件 1~20 1/1ページ
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物語は面白かった。法廷もので、麻薬と人種と未成年が絡む、事件だ。この裁判一つで人種問題が解決するはずもなく、痛快というところまではいかなかったが、読者をうまく翻弄してくれた。 さて、Black Lives Matterでもそうだったのだが、理解ある人々が旧態依然とした仕組みに立ち向かうという構図で描かれる。なんというか、人種問題については、少しでも改善している、前よりはよくなっているという視点が欠けていて、悪くなったり、変わってないことを部分を強調するパターンは、双方の利益にならない気がする。売れるのかも知れないが。「理想」「法律」はこうあるべきということなんだろうと思う。でも、少しずつよくしていく、よくなっていく、賛同者が増えているという風潮を作るべきなんじゃないかと思う。 知的障害のある少年が訴えられる物語なのだが、人種人権に敏感なダニエルでさえ、スポンジボブを見せておけばいい的な解決法に頼る。物語の後半、彼の可能性を見出すことで救われるが、当初は、彼女でさえ、知的障害者を誤解しているように描かれる。他の人が、何度か助言しているにもかかわらず。これは、人種に関わる問題とオーバーラップすると思う。この点に限って言えば、彼女も差別側の人間だ(かなり穏やかではあるが)。 エンターティメントなのだから目クジラ立てる必要はないのだが、人種問題を理想とのギャップだけで描く物語があるかぎり、人種問題は永遠に解決しないし、歩み寄れないと感じた。まぁ、それを面白いと言っている私も同罪ではある。 | ||||
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早い段階で真相がそうなんじゃないかなあってのはあった。 裁判で勝つというカタルシスを求めていたので少しがっかり。 とはいうものの国内このミス一位より楽しめた国外19位。 | ||||
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奇しくも今年BLM運動が起きましたがアメリカ社会だけで無く全世界の根底に渦巻いている人種差別について考えさせられる内容でした。今の歴史はヨーロッパを起源としておりその文明が発展しそれを我々は享受しているのですがその発展途上で虐げられてきた人々についてどの様に考えるべきかを思い起こさせてくれました。 | ||||
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強い信念から来る正義感ではなく、どうしようもなく突き動かされてしまう熱さがかっこいい。損をするとわかっていても、弱者の味方でいる姿がかっこいい。 法廷でテディの知能を陪審に示すためにわざと辛い質問をしなくてはならないダニエルの姿に泣ける。 元夫・ステファンへの未練についての親友ミシェルの助言、パーフェクト! 作中にヒールを履かずにコンバースを履くダニエルが出てくるが、杉田比呂美さんによる表紙がそれをちゃんと反映していて素晴らしい。 やり手でユーモアがありかっこいいウィルが好きなので、シリーズ化を希望!! | ||||
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テーマが最近のトランプ大統領の大統領選挙に関しての考え方と似ている アメリカの人種差別の根深さを感じる 時節に合致している | ||||
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本の状態には何の問題もありませんでした。内容はとても面白く大満足しました。 | ||||
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その人物が次にどの様な言動を起こすか期待してしまい、そして気付けば応援している自分がいる。 本書の主人公である弁護士ダニエル・ローリンズは、まさにそのような魅力に満ちた主人公だ。 特に個人的に気に入っているダニエルの魅力は、どこまでも自分に正直なところである。 何度法廷侮辱罪を宣告されるも、腐った判事や検察官に自らの意見を述べる姿はヒーローそのものだ。 (法廷以外の場所でも、知的障害者であるテディに対して差別的扱いをした店長と対峙するシーンもカッコイイ。) またカッコイイだけでなく、酒に逃げたり別れた夫に未練たらたらな弱い一面もダニエルを魅力的にさせている要因の一つであろう。 主人公の魅力のみならず、ユーモアに満ちた皮肉の応酬等のコメディ要素が本作をとても読みやすくしている。 別れた夫の再婚相手につけたあだ名の数々や、判事及び検察に対する皮肉などとても面白かった。 上記した通り、魅力的な主人公とコメディ要素を多分に含んだ会話と聞くと軽く読めるエンターテインメントを想像されるかもしれない。 もちろん本作は読みやすいエンターテインメント作品ではあるのだが、本作で扱われている事件の背景は私たちがいまなお解決できていない人種差別問題である。 いかに法が不平等で、黒人が不条理な扱いを受けているか。 いかに肌の色に対して固執し、偏見にまみれているか。 ダニエルがそれらを「白い罪悪感」に訴えかけるシーンは多くの人に読んで欲しい。 「きっと人間は、進化の過程で他人の苦しみに鈍感になっていき、それによって正気を保っているのだろう。」 と述べられているが、ダニエルは違う。 誰よりも他人の苦しみに寄り添い、誰もが見て見ぬふりをしている不都合な真実に対して声を上げることの出来る素晴らしい人物である。 私もダニエルの様な人物に少しでも近づけたらと思わずにはいられなかった。 | ||||
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硬派なメインストーリーと楽しいエンタメテイストが融合した素晴らしい小説です。 正義感と人情に溢れた飲んだくれのやさぐれ女性弁護士ダニエルのキャラクター設定がまず秀逸。 どんな困難にも立ち向かい、いつも自分らしく生きようとする彼女はしかし人一倍繊細で傷つきやすい女性。 あんなにステファン(元・夫)やジャック(息子)のことを愛している彼女がなぜ浮気をしたのかが読みながら疑問でしたが、その理由が実に大人というか人間臭く、さらに彼女を好きになりました。 ダニエルを取り巻くステファン、仕事上のパートナーのウィル、親友のミシェルといった人たちもとても魅力的です。 ストーリーの根本には今のアメリカの宿痾とも言うべき根の深い差別問題があり、法廷描写や個人を圧殺しようとする権力に対する主人公の苛立ちのリアルさは、現役弁護士である著者の面目躍如たるものがあります。 本書が初の邦訳ということで、他の作品の出版が待ち遠しい限りです。 | ||||
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主人公の型破りな女性刑事弁護士は、サラパレツキーのV.I.ウォーショースキーを彷彿させます。 | ||||
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人種差別と犯罪が蔓延するアメリカ・ユタ州のある地域で、黒人で知的障害者である被告が、司法当局による故意の冤罪に陥れられようとしているのを見かねて、主人公の弁護士ダニエル・ローリンズが奮闘して、圧倒的な法廷の不合理に戦いを挑む。明らかな事実を見ずに、形式的で、ある意味欺瞞的な法解釈を押し付けようとする検事、判事および刑事たちの描写は迫真的で、日本の裁判の傍聴でも同じような種類の人たちがいくらも見受けられ、単なる作り物の小説ではない迫力を感じる。登場人物の会話は意表を突く退屈させないものだが、それに引きずられるわけでもなく、ストーリーの展開が理解しやすく、わかりやすく紹介されていく。原文はどうなっているのか、興味をそそられるが、翻訳者の技量はかなり高く、それが小説の面白さにずいぶん貢献しているだろうと思う。 どのような社会でも、裁判とは公正、公平と正義によって人を裁くものでなければならないという建前であるが、いかなる社会でも、そんなに理想的に裁判が実施されているわけではないようだ。人種差別が深刻な社会問題であり続けるアメリカでは、この点が裁判をゆがめさせる大きな要因であることは、だれでも想像できる。偏見に満ちた裁判の被害者になる主人公の依頼人は、主人公の体当たりの努力にもかかわらず、陪審員の評決で有罪とされる。量刑は終身刑の可能性もある長い拘束を伴うもので、上訴している間の環境の悪い刑務所の日々を被告は生き抜けないのではないかと、主人公は恐れる。 主人公には、離婚して未練を感じている元夫と、彼が引き取っている息子がいて、彼女を理解してくれる女友達や友達以上恋人未満の男友達がいて、検事や判事たちの怪物の様なキャラクターに加え、重層的な登場人物が説得力のある人間関係を表現していて、単なる法廷のゲームや謎解きではない厚みを与えている。 ラストのほうで、友人たちの協力もあり、隠された真相を突き止めた主人公が被告人を救出し、それに至る過程での不合理な裁判の重苦しさが尋常ではなかったので、読者の救いも大きい。 筆者は、しかし、最後の救出に眉唾を感じ、やはり作り物のお話ではないのかなと、一歩引いた。そんなに、うまく物事が進むのだろうか。 著者のあとがきを見ると、「本はとても面白かったけれど現実には絶対に起きないことだ」という多数の感想が著者に寄せられたということで、やはりそうだなと一瞬勘違いしたが、意味が違っていた。いわく、「実際の法制度ではありえない」。ありえないというのは、前半の、少年法や訴訟法を無視して、あるいは明らかな事実を無視して、黒人の少年が冤罪に陥れられるという、検察、裁判所の悪意が実際にはありえないという意見だということである。しかし、著者はアメリカの刑事弁護人をながく勤めているアメリカのマイノリティーで、彼が実際に経験した多くの例を小説に書いたのだという。法がどうであろうと、人権を無視する違法な裁判がまかり通っているというのだ。 読者の違和感は、最後に違法を跳ね返したハッピーエンドにではなく、そもそもそのような不正が法の支配の民主主義国ではありえないというものだったようだ。人質司法で有罪率100パーセントの日本では、類似の冤罪がまかり通っていると私は思うのだが、一般の日本の読者はどう思うのだろうか。多くの読者は、自分の属する社会とはかけ離れた人種差別の外国での社会不正の話であり、日本には人種差別がないのだからとかいうような感想の中に安住するのかもしれない。 ラストの大逆転が、アメリカの裁判所で、どのくらい実現しているのかどうかはわからない。しかし、上級裁判所に訴えたり、マスコミを利用したり、あるいは怪物の様な検事や判事に直接語りかけたりする主人公に対し、それぞれが人間として、意思や苦悩を示し、事情を話して、別の視点からの事件への見解がのぞかれる。そのような複合的な見解の総合において、正しい決定が導かれ、冤罪による司法の人権侵害が克服されるというのが、この本の結論である。なんと、著者はあとがきで、「この国の法制度にはまだ望みがある」と書いている。善き人々が不正を目にして、それを放置しなければ、絶望しなくともよいというのである。 この健全な弁護士の精神について、筆者は日本の司法制度とつい比較してしまう。日本では、刑事裁判は、弁護士の立ち合いのない長期拘留の取り調べののちに、検事が起訴したときに、結論が出ているので、主人公の様な弁護士の活躍はほとんど意味がない。裁判官は検事の提出資料を批判的に判断する気力も能力もないようであり、上訴しても、裁判官を忌避しても、金太郎あめのようにクローンのような別の裁判官が出てくるだけで、前の担当者の仕事を批判的に見直すなどということはありえない。だから、主人公のように頑張る弁護士はいても全く報われないだろうし、弁護士も検事、判事らとともに、司法村を形成する住民であり、村の外の人々に対し、独特の法の世界を押し付けるだけである。だから、この本のような状況が起きた場合には、それを逆転するなどというのは、水戸の御老公様がわざわざ訪ねてきて、悪代官を懲らしめてくれるというような奇跡でも起きない限り、考えられないことであり、「実際にはありえない話」だと思うのである。 少なくとも、日本の司法を前提にして、このようなリーガル小説、夢物語として以外に書くことが困難であることは、だれも否定できないのではないか。 | ||||
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主人公のキャラクターが魅力的。楽しめました。 | ||||
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主人公の探偵さんが、憎めない人です。「これはアメリカの人物か?」と思うような啖呵もあり、筋立てはすっきりしてるし展開もほどよく複雑で、翻訳小説としては読みやすかったです。 | ||||
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主人公が『男前』、『熱血漢』と言った男性向け賛辞が似合う女性、いわゆる『ハンサムウーマン』な魅力にあふれているところが良い。 また、調査員のウィルが万能すぎるきらいがあるが、主人公に協力する登場人物達が皆好感が持てるよう造形されている。 最近の法廷小説や推理ものはハリウッド映画的な銃撃戦や暴力が差し込まれる傾向があるのが嫌いだが、本作ではそれが無いことにも好感が持てる。 あくまでも裁判の駆け引きでハラハラさせてくれるのだ。 難を言えば、前半の暫くは彼女の人となりを描くために本編とは別の細かな弁護のシーンが多数挟まれるので話が進みにくいのは玉に瑕かも。 ともあれ本題の弁護に突入すると怒涛の展開が待っているため、一気読みしてしまった。 お勧め! | ||||
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文の構成も簡単で、すぐ読み切ってしまいました。 中学生くらいから大人まで幅広い年齢層にオススメできる小説です。 | ||||
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主人公に好感が持てる。結末が知りたく知りたくて一気読み。爽やかなラストでホッと安心。続編に期待! | ||||
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作者のお名前、聞いたことがないと思ったら、日本において翻訳版が発売されるのはこれが初めてということです。アメリカではすでに50冊以上作品を発表している(しかも10年で)ベテラン作家であると同時に弁護士でもあると紹介されていました。その物珍しさと表紙のイラストの柔さから思わずポチってしまいましたが、購入して良かったと思える作品でした。イメージとしては「デンジャラス・ビューティー」という映画でサンドラ・ブロック氏が演じた刑事みたいな感じでしょうか(化粧っけがなく男勝り的な感じが笑)。ただ、少しやりきれない感じがしました。後味が悪いと言うよりも、読後、深く考えさせられたと言うほうが近いかと思います。主人公ダニエルの弁護する少年が黒人の上に知的障害であるということが、事件から捜査、裁判、判決に至るまで影響を及ぼし、また、利用されていくさまに、作者はアメリカ社会の抱える暗い問題点をくっきりと浮かび上がせています。痛快な法廷勝負物でありながら、人種差別問題の根の深さも見事に描いた作品と言えるでしょう。おすすめです。 | ||||
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面白かったです。 差別や人権抑圧などの社会問題が重要なモチーフになっていて、いろいろ考えさせられますが、堅苦しくなくスラスラ読めて、読後はすっきり。 最後の種明かしに、ちょっと雑なところがあるけど、全体としては、笑いあり、しんみり涙あり、背筋がぞくっとする恐怖あり、悪役をコテンパンにやっつける爽快感あり。いろんな要素がてんこ盛り。 | ||||
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なんて素敵な小説なんだ? これは読み終わったときの感想でもあり、読んでいる途中の感覚でもある。そう、ミステリーのプロットのみならず、読んでいる時間が充実している小説なのだ。 軽妙な一人称文体による、ぱっとしない女性刑事弁護士の日常を活写しながら、重厚で手強いテーマへのチャレンジング精神豊かな、骨のある小説なのである。弁護士ヒロインの名前を邦題タイトルにしているので地味な印象を受けるが、映画されても素敵だろうなと思うくらい、ヒロイン以外にも忘れ難く味のある個性派キャラクターが脇を固める。 騒がしいダニエルの生活基盤に入り込んで来るのは、捨て子で黒人で知的障害を抱える、まさに三重苦の少年テディ。この少年の描写が良い。この少年が生きて読者の傍らにいるんじゃないかと思うくらいに、優れていて、そんな彼の苦境に、きっと母性もあるのだろうな、女性主人公のダニエルは任侠道みたいな救済欲望を激しく感じてしまうのだ。 ダニエルの境遇は活き活きと描かれる。行きつけのバーの女店主ミッシェル、70代の隣人ベス、秘書のケリー、調査員のウィル。癖がありながらも優しさに包まれた境遇はきっとヒロイン自身の人柄の反映であるのかもしれない。 しかし、そんなダニエルは孤独にも苛まれる。ふとした浮気が元で離婚され、元夫ステファンは全米ライフル協会を代表するような狩猟マニアのタフ・レディとの再婚を待つばかり。一人息子のジャックともどもハッピーかつゴージャスな生活を送っている。そのジャックはなぜかダニエルに対して以上に優しく大人びて見える。ダニエルは完全な人格どころかアル中一歩手前の破滅的な生活で危ういバランスを取りつつ日々を送っているのだ。 そのダニエルと事件の渦中にある少年との出会いが本書のすべてである。彼女自身も捨て子という過去から、自分を投影するが、テディはさらに黒人で知的障害である。そして彼はコカイン取引の首謀者として逮捕される。証人は四名。警察も検察も判事もすべてが敵という四面楚歌。 作品世界はユタ州ソルトレイク。架空の町フーヴァー郡は、かつて犯罪者どもを隔離した町とのことで、州法も及ばないくらい警察や法廷の力が強い。さらに人種、人権などでの差別化を広げようと画策する権力者たちの動きが事件の背後に見えてくるにつれ、本書はリアリティと重さを増す。 本書の作者は実際にユタ州で刑事弁護士を務め、日々権力と闘い、弱者たちを救うことに命を賭けている当事者であるそうだ。道理でリアリティのあるアメリカの法解釈の病的な問題ににかくも鋭いメスを入れてきたわけだ。 ダニエルやテディのどこまでも魅力的な人柄と、まっすぐな正義を求める浪花節的プロット、巨悪に立ち向かう心意気。人間と人間が激しく情動を闘わせつつスリリングな展開に終始する熱い一気読み作品。 最近お気に入りのロバート・ベイリーと言い、今やアメリカン・ミステリ独自の売りどころは、<胸アツ小説>と言って良いのではなかろうか。 | ||||
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「弁護士ダニエル・ローリンズ "A Gambler's Jury"」(ヴィクター・メソス ハヤカワ・ミステリ文庫)を読みました。作者の初めての邦訳だそうですが、コンパクトで、とても手馴れたリーガル小説の秀作だと思います。(作者は、本国では既に50作以上の著作があるそうです。どおりで) 舞台は、米国、ユタ州。女性刑事弁護士・ダニエルは、バツイチ、アルコホリック、別れた夫・ステファンには未練タラタラ、ストーカー行為も厭いません。尚且つ、一人息子のジャックに対しても深い愛情を注いでいます。 事件は、人種差別が根強く残る土地で(人種のせいで有罪にしかねない陪審)、白人少年3人から少年・テディが麻薬取引の実行犯と名指しされたことに始まります。そして、テディは、知的障害を持ち、黒人で、尚且つ「少年」であるにも関わらず少年裁判所ではなく、地方裁判所宛訴追されてしまいます。対するは、検察+判事?。果たして、女性弁護士・ダニエルは、少年・テディを救い、無罪評決を勝ち取ることができるのか?(言ってしまっていいのか、最後まで「殺人」が起こることはありません(笑))ストーリーについて語るのは、ここまでだと思います。 弁護士ダニエルは、血が熱く、感情をぶん回し、己が正義のためであれば、最後まで「権威」を怖がることはありません。破天荒ギリギリのキャラクターのまま、警察、検察、判事と(収監されることも承知の上で)やり合います。脇役たちも輝いていますね。元夫ステファンの現婚約者・ペイトン(私は、ステファンが彼女に惹かれる理由が理解できます(笑))、ダニエルに対して無償の愛を注ぐ調査員・ウィルの存在。 少年法に人種差別、知的障害者を絡ませながら構築された「事件」はテーマ性が高く、実は、そのことが小さく収束してしまう点が少し不満でもあるわけですが、でも、最後まで物語を楽しめなければ意味がないことも確かだと思います。今回は、楽しめました。事件は、いくつかの伏線を回収してエピローグを迎えます。そして、「弱者」に身を寄せる作者の清潔な視点を思う時、本作が少しでもこの国で売れてくれたらいいなと思います。売れなければ、次はない。 原題は、「ギャンブラーの陪審」。そんな勝ち目のない事件を背負うのは、ギャンブラーかおバカさんぐらいと言う意味らしい。グッとくるいいタイトルだと思います。 | ||||
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ものすごく面白いリーガル小説でした。 原題は〈A GAMBLER’S JURY〉なんですが、これは本文でも言及されている〈ギャンブラーの陪審〉という、弁護士のあいだで交わされる俗語のような意味です。 アメリカの「陪審員」制度の、その真の問題点を示す言葉。 たとえば、状況証拠や能力的に十中八九無罪だと確定していている被告人がいたとして、いざ証言台に立つ人物が貧困層の黒人だった場合、陪審員の殆どが白人だと内なる差別感情から有罪にしてしまい、これまでの審理が覆ってしまう状況があるそうです。 それが〈ギャンブラーの陪審〉。 この用語は、そういった判例を受け持つことが、法律家たちにとって一種の「賭け事(リスク)」であるため〈ギャンブラーの陪審〉と呼んでいるのかな? キャリア重視社会の内幕が垣間見えるような言葉ですね。 本来、この〈ギャンブラーの陪審〉ケースは誰にとっても良い事なしのリスクなのに……それがしばしば発生するのはなぜか?というのがこの物語の裏のテーマです。 若竹七海「葉村晶シリーズ」を手掛けた杉田比呂美さんのカバーは素敵で、コミカルなキャラクターが大勢登場するのですが、テーマ的にはシーラッハの『コリーニ事件』並みに重厚な社会派ミステリーという贅沢な小説ですね。 主人公のダニエル・ローリンズはいわゆる〈刑事弁護人〉です。 そういった職業があるわけではなく、軽犯罪で思いがけない重罪を科せられそうになる被告人を弁護する事の多い弁護士の通称です。日本でも亀石倫子さんの著書『刑事弁護人』などで有名ですね。 亀石さんの著書は国家的陰謀の端緒につながる事件を描いているのですが、ダニエルが扱うのは訴訟大国アメリカで、治安のよくない地方で毎日のように起こる軽犯罪です。 ユタ州のフーヴァー郡。この地域的設定が面白くて、ユタ州は治安の良いことで有名な州なんですが、なぜかフーヴァー郡は治安が悪い。お行儀のよいクラスの中にポツンと1人不良が混じっている感じです。 ご多分にもれずヒスパニックや黒人との軋轢があるのですが、それよりもカッとなって女性を車ではねちゃったオッサンとか、家出してへべれけになってるJKとか、何度もムショにぶちこまれてるのに付き合いでマリファナの移送をやっちゃった老ヤクザとか……「あぁー……」と嘆息がもれるしかない、正直言って人種はあんまり関係ないようなロクデナシたちがダニエルのクライアントです。 そんな日々に舞い込んできたのが、コカイン移送の容疑をかけられた知的障害の17歳の黒人少年、テディの弁護。 テディの知的障害は重度で、どう見ても4,5歳の幼児ほどの知能しかない。それなのにコカインの詰まったバッグを売人に届けた疑いで、「少年犯罪」ではなく「成年犯罪者」として有罪判決を受けようとしている。 色々な映画・ドラマでご存知の通り、アメリカの自由な学校のような刑務所で、テディのような自己防衛できない知的障害の少年が長く生き延びられるわけがありません。 ダニエルは嫌な予感がしながらも義憤にかられて弁護を請け負います。 リーガル小説は厳密には推理小説ではないと思うのですが、最初から不気味な謎が横たわっていて戦慄します。上述の通り、誰が見ても知的障害が明白なテディを、精神鑑定無しで有罪にするのはあり得ない暴挙です。 ではなぜそんな無茶を? 誰がそんなことを望んでいる? そこに〈ギャンブラーの陪審〉としての疑惑が絡んできます。つまり、テディが黒人であり、このような舞台を用意した者がいるのではないか?というのは物語の骨子ですね。 二転三転していく真相もおもしろいのですが、やっぱりダニエルのキャラクターが痛快ですね。 刑事弁護人という仕事は「どうしてそんなクズの弁護なんかするんだ!」という世間一般の非難を浴びざるを得ない役割です。 しかし、ダニエルが不幸な生い立ちや生来的なタフな性格もあって、あまりそういった人間の善悪に頓着しない部分がものすごく好意的に描かれています。 「法律は常に社会的弱者を叩きつぶすために存在する」というのが彼女の心情で、リーガル小説になれてない読者には「あれ?逆じゃないの?」と意外に思う事でしょう。 でも、そうなんですよねぇ。 これぞハードボイルド。 女性を主人公にしたハードボイルドはたくさんあるのですが、ちょっとユーモアがなさすぎですね。 ダニエルはドン・ウィンズロウ『ストリートキッズ』の「ニール・ケアリー」や、デイヴィッド・ハンドラー『笑いながら死んだ男』の「ホーギー」のような、センスの良いジョークやアイロニーを常に忘れず、タフで前向きで健全なのに悲観的で繊細な神経を持ち、不幸な身の上の人々から付かず離れず節度を守ってスジを通す〈本物のハードボイルド探偵〉の系譜を継ぐキャラクターです。 たちはだかるのはホワイトカラーでありながらソシオパスな人々。人間社会にはやむにやまれぬ事情があるのだということをまるで解すことのできない、精神的サディストたちです。彼らはFBIのプロファイリングに登場する犯人ような貧困と暴力の生んだ犯罪者ではなく、十分に練り込まれた絶大なる権力でもって犯罪を起こします。 その被害者数は連続殺人鬼の比ではありません。 今こそ必要なヒーローですね。 今こそ読むべき物語をどうぞ。 | ||||
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