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(短編集)

こちらあみ子



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【この小説が収録されている参考書籍】
こちらあみ子
こちらあみ子 (ちくま文庫)

こちらあみ子の評価: 4.22/5点 レビュー 117件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.22pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全90件 61~80 4/5ページ
No.30:
(5pt)

自らの感覚に従って生きる

まず、あみ子の幼稚さに無性にイライラした
私…真っ当に子供時代を生きられなかったせいか?嫉妬のような腹立たしい気持ちと、どこか懐かしさと物哀しさの入り混じった、奇妙な思いが最後まで続いた。
この時代に、都市部でこういう子は大体が特殊学級行きになるだろう。
あみ子は知性はちゃんとある子供。が、いわゆる「普通の人生」を歩む事を、自らの感覚で拒否しているように見える。
あみ子のような人生を選択しても、ちゃんと受け入れてくれる場所が、今の日本から消えないで欲しいと思う。
こちらあみ子 (ちくま文庫)Amazon書評・レビュー:こちらあみ子 (ちくま文庫)より
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No.29:
(5pt)

あみ子の感性が愛おしい

あみ子の感性が愛おしくて、たとえ世界があみ子を見離しても、僕はあみ子を側で見ていたい。側に居れたらどんなに楽しいだろう。あみ子の性格や生き方は発達障害とかなんとか病名を付けて安心したがる人がいるでしょうが、そんなの無駄です。あみ子はあみ子、竹馬に乗ってくるさきちゃんはきっとあみ子の良さを知っています。成長するということが、あみ子のような女の子を爪はじきにすることであるなら、この世界はすごくくだらない。
あみ子の目から見た世界が強烈で、新鮮で、騙し騙し生き残っていた自分の魂が生き返った気がしました。あみ子に直接ありがとうって伝えたい気分です。
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No.28:
(5pt)

奇妙なざわめき

「こちらあみ子」「ピクニック」「チズさん」の三篇をおさめたこの小説は、いずれも通常の生活の中に微かな差異(ズレ)を持ち込むことで派生する奇妙なざわめきを描いている。つまり、あみ子やチズさんや七瀬さんの存在それ自体がぼくたちの日常や社会の見え方をある意味で異化する効果をもつ仕組みとなっているからだろうか。
だが、彼らに特別な問題行動があるわけでもなく並はずれた能力があるわけでもないけれど、ただただ一生懸命さと純粋で一途なふるまいがきわだっているといえる。それゆえに物怖じすることもなく一途にふるまえることが日常的な常識や通念に対して微かな変化をもたらすというということなのだ。

あみ子の症状がどういうものであるか定かではないがある種の知的障害であることは文脈を通して理解できる。また、学校へは行ったり休んだりしていて、その気ままなふるまいもクラスから容認されていることも何となく分かってくる。お母さんの書道教室があるときは部屋の出入りが禁止されているがあみ子はその書道のようすを別の部屋からのぞいて見ている。
あみ子は教室に通う同級生のり君に対してある意味で憧れと好意的な気もちをもっているがまともには相手をしてもらえない。周囲からもあみ子には親切にしてあげるように注意されていることも理解できる。
ついに、あみ子はのり君に自らその気もちを打ちあけるのだが・・・

かすれて、苦しそうな声だった。のり君はあみ子が手にしている一枚のチョコレートクッキーを見てから、机の上に並べてある二枚に視線を移した。その二枚は、たった今あみ子がハートの形をしたチョコレートクッキーから、ただの丸いクッキーに変身させたものだった。湿っている。のり君の口から震えた声が出た。あれは、と発声したようだったが、はっきり聞き取ることはできなかった。少しの間があって、次にのり君が言葉を発しようと口を開きかけたその瞬間にあみ子が叫んだ。「好きじゃ」「殺す」と言ったのり君と、ほぼ同時だった。(p102-103)

無垢なる者にはけっして効率や計算や利害はない。その一途な気もちと行動がストレートであるがゆえにある種の混乱と常識を揺さぶる力があるということなのかもしれない。そのことによって互いの関係性や周囲の見え方に奇妙なズレと変化をひき起こすのだ。だが、物語は劇的に変化するのではなく僅かに少しづつ変わっていくだけで切ないほどに静かに閉じられている。

書道教室の先生でお腹に赤ちゃんのいる母、一緒に登下校してくれる兄、やさしい父、穏やかな三人のくらしも母の出産をきっかけにして大きく変化していく。兄が不良になり家族のようすも少しづつ変化し事態はだんだん深刻になっていくのだが、作者はその状況を丹念に描くことで物語を成立させる。
この変化の意味するものは何か、静かに閉じられた物語の読後に広がる名状しがたい切なさとやるせない不思議な気持ちは何処に由来するのか。
あみ子にしてもチズさんや七瀬さんにしてもどちらかというと社会的にはやや弱者といえるところが共通しているけれど、この作品が切なさとともに小説の強さとなっていることもそのことに起因しているのかもしれない。
『こちらあみ子』はそういう作品で心に響くきわめて印象深い小説といえる。
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No.27:
(5pt)

パソコンの中を整理していたら出てきた、7年前に書いたレビューの下書き

要領の悪い主人公の少女。何が取り柄なのだろうと思いながら取り留めのない回想を読む。
文章は絵画のように明確だが、この子に何かいいところはないのだろうかと、いぶかりながら。
途中からは幻覚ともつかない音まで現われて、作者は何を言っているのかとまで思う。
しかし、一番最後になって、そういう話だったのかと不思議に腑に落ちて、この少女を抱きしめたくなる。
オチは物語に不可欠なものでしょうが、こういう種類の人間の心を描いたものはこれまでにないのでしょうか。
作者の文学に対する誠実さと、才能を見せられました。
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No.26:
(5pt)

あまりにも残酷で、純粋で、どこまでも鮮やか

あみ子の突拍子もない言動、行動のひとつひとつに苛立ちを隠せない。許せないようなシーンも出てくる。

しかし中盤で気付く、断定はできないが、彼女は発達障がい(それともまた別のなにか)を抱えているのではないか。
そう感じた瞬間、作者の強烈な表現力と世界観が私をあみ子の見ている世界へ連れて行く。
彼女の見ている世界は、あまりにも残酷で、純粋で、どこまでも鮮やかだった。

あみ子が規格外の形で伝える想いはいつも誰とも交差しない。あみ子はその理由がわからない。
無垢は時に凶器となる。常識は時に誰かの首を絞める。そうやって彼女とその周りの人間たちはお互いを傷つけ合っている。気付かないうちに。救いようがなく、ひたすらに清かった。

この本は読んでいてとても辛かった。けれど作者の凄まじい筆力により、ラストまでページをめくる指は止められず、駆け抜けるように読了した。読んでいる最中は、まるで誰かに殴られながら走り続けているような感覚だった。あみ子もこんな気持ちだったのだろうか。

今まで自身が苛酷な目に遭っていることにも気付けなかった彼女が終盤、『こわい、こわい、こわい』と泣け叫ぶシーンで胸が張り裂けそうになる。
不憫で、ひたむきで、愛おしいこの子をめいっぱい抱きしめてあげたかった。
読了後も、心のなかにあみ子が居るような気がして、しばらくずっと苦しかった。
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No.25:
(5pt)

心にたくさんのキズを残すような作品。

読みやすい、直木賞作家の本ばかり選んでしまうため、芥川賞作家の本はあまり読んだことがありませんでした。
人に勧められて手に取り、あまりの衝撃に一気に読みきりました。

あみ子は、ちょっと変わった女の子。家族からも、周りからも少し疎まれているけれど、それに気がつけずに生きている。

こう書いてしまうと、どこにでもある普通の小説の主人公のようにも思えますが、あみ子はいわゆる発達障害の子供です。
読めば読むほど、今村さんの表現力に驚かされます。あみ子の行動、あみ子の障害に気づかずに『変な子』として忌み嫌ってしまう周囲の反応。胸の奥の辺りが疼いてしまうぐらい、リアルに描かれています。

あみ子の認識の外で、周囲はどんどん変わっていきます。きっかけがあみ子であっても、あみ子はそれがわかりません。

あみ子と社会、噛み合わないふたつがもどかしく苦しい。あみ子だけではなく誰しも、自分の気づかぬ間に人を傷つけ壊してしまう可能性があるかもしれません。社会で生きることの難しさと、人の個性への理解、受容が大切であると改めて感じさせられました。

書評やレビューでは、あみ子に勇気付けられたというようなものも多くありました。確かにそう感じられないこともないのですが、どちらかといえば、社会の難しさや気味悪さをあみ子という切り口から書き上げた風刺のきいた作品であると感じました。

多く考えさせられる作品で、何度か読み返すとまた見え方が違う気がします。
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No.24:
(5pt)

解説も必読!

文庫の解説というのは、むしろない方がいいと思うことが多いのですが、この町田康解説は、それ自体作品として成り立っているといえます。
 あみ子を読んで感じる共感と困惑の原因がどこにあるのかを、みごとに表現しており、まさに解説の絶品です。
 私は本作で、西加奈子の一連の小説や、松本大洋の鉄コン筋クリートを連想しました。
 あみ子の救いは、まだ姿を見せない竹馬の少女にありそうです。どんな距離でも竹馬をコツコツ鳴らしながら近づいてくる小学生が、いいコンビになってくれそうな気がします。
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No.23:
(5pt)

「芥川賞」らしい作品

「芥川賞2年連続ノミネート」の言葉が帯を飾り、裏には太宰治賞・三島由紀夫賞ダブル受賞と言う言葉も踊ります。
そして、「こちらあみ子」を読み終えた時、それらの評価が紛れのないものであることを感じずにはいられません。
「あみ子」と言う、普通とはちょっと変わった、と言うか世の中を超越した子どもを主人公にしたことにより、周りの様々な環境や条件などが消去され、人間の行為の本質的なものだけが見えてくる、そんな作品でした。
ちょっと知恵足らずのあみ子が、男の子を好きになり、一途に愛します。
けれど、彼との別れが来て初めて彼の名前を知ります。
彼女の行動は、周りに誰もいないかの様に、彼だけを見ています。
全く他人を気にしないあみ子の純真な行動が、日頃様々な雑事に追い回されている日常生活を忘れさせてくれる様な気がします。
何も考えずに行動できた幼児に戻った様な行動です。
私は、この作品こそ「芥川賞」らしい作品の様に思えました。
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4480431829
No.22:
(5pt)

すみれ色の不条理

読了時、呆然とさせられる作品、読了後もなお登場人物達の声が、映像が、消えることなく胸を締めつけてくる作品を、久しぶりに読みました。

デビュー作にして、代表作。デビュー作にして、文芸賞受賞。という肩書きや世評といった物差しを抜きにしても、この作品は、それまでのどの作品にも似ていないという点において、傑出していると思います。

優しく暖かみのある語り口、読みやすく簡潔な文体で、突きつけられる容赦なく残酷な世界。子供の視点で描かれていますが、読者の目に映るのは、あみ子が見ている世界だけではありません。読者を、いつの間にか傍観者から、そこに引きずり込む筆力には、圧倒されました。まるで、鼻先に突きつけられた様に、色彩が、匂いが、音が、押し寄せてくるのです。ただ、言葉の力だけで。むしろ、言葉だからこそ、言葉による表現だからこそ、これほどまでに、心を揺さぶる事が出来たのではないかと思えるほどに。
その手法には、賛否両論あるとは思います。それほど、この作者の描く世界は残酷です。あたかも背後から殴られたような気持ちになってしまう人もいるかもしれません。
しかし、それがたとえ不快感やざわざわとした違和感であったとしても、言葉の力だけで、読者をその世界に誘い込み、心に触れてくる。これは、素直に凄い事だと思います。
今村夏子さんだけが描ける世界だと思います。
時代を越えて、読み継がれる傑作だと思います。

『回想の太宰治』のなかで、美知子夫人は、売れない新人時代の太宰について「少数でも、次回作を待ちわびる熱烈な読者がいた」と書いています。太宰はその読者達の為に作品を書いたそうです。芥川賞が欲しくて欲しくて、川端康成に「刺す」とまで書いた太宰。「芸術は、権力を得ると同時に死滅する」と自らを路傍の辻音楽師にたとえた太宰。どちらも、太宰治ですが、個人的には、後者の境遇と信念と読者への心づくしが、数々の傑作を生み出す原動力になったのではないかと思います(あくまで私見です)。

この作品を越える作品を、いつか読める日が来ると信じて、今後も今村夏子さんを、応援します。
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No.21:
(5pt)

何年経っても色あせない本です。

あみ子の強烈なキャラや登場人物、背景、話の展開が全て面白く、読み始めてすぐ話の中に引き込まれました。
あみ子の初恋が粉々に砕け散った場面では悲しさよりも切なく、やりきれない気持ちにもなりました。
3作の短編集でどの話もインパクトが強く、心に住み着く本です。
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4480431829
No.20:
(5pt)

せつなさと愛おしさー静かな熱量が伝わってくる傑作

あみ子は変わっている。
あみ子はみそっかすだ。きっとクラスの隣の席に、あみ子がいたら困ってしまう。
担任に世話をしてねと言われたら、死にそうな気分になるかもしれない。
隠しても隠しきれない気持ちを、あみ子はひきだす。けれどあみ子はなにもしない。
ただそこに居るだけで、わたし達を落ちつかせなくする。なのに決定的にキライにはなれない。
これがデビュー作とは思えない。作者の確かな書く力と、静かな熱量が伝わってくる傑作。
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No.19:
(4pt)

買いです。

曰く言い難い余韻を残す短編がふたつ収められています。
どちらの作品も発達障害か、性格の偏りを持った少女と女性を軸にしているのですが、周囲との繋がりや関係性に重きを置いて物語を進めているので、読みながら自分のすぐそばで起きている出来事のような気持ちになって息苦しさを覚えます。
久しぶりに他の作品も読みたい作家に出会いました。
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4480431829
No.18:
(4pt)

さらっと読めました

あみ子の視点で書かれています。
切ないです。
坊主頭の男の子、好きです。
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4480431829
No.17:
(5pt)

うーん

「夫のちんぽがはいらない」を執筆した「こだま」さんのブログ上で紹介されていた本を一通り読んでみようと思って、読みました。
「こちらあみ子」の物語は、読んでいてしんどくて、でも読み進めたくて、でも読んだらやっぱりしんどくて…を繰り返しました。

あみ子は悪気はないけど人を傷つけてしまう。
お風呂も何日も入らなくても気にならないし、起きる時間も適当で。
親もあみ子を諦めてしまった。

私なら、発達障害があっても、少しでも困っている事を無くしてあげたいと、指導しようとすると思うけれど、
もう「あみ子には何を言っても通じない」ぐらいに思っていたのかもしれない。

とてもしんどくて、あみ子が不憫で、でも最後はおばあちゃんの家に一人だけで引っ越しさせられた中でも、
幼い友達が出来て、歯を見せて笑うあみ子を想像できました。

読後感は爽やかではありませんが、こういう小説読んだことがありません。新しいなぁと思いました。
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No.16:
(5pt)

こういう小説を書く作家がいたんだという驚きと、奇妙な喜びを感じる短編集

◆「こちらあみ子」
:あみ子は祖母と暮らしているが、15歳で引っ越すまでは田中家の長女として育てられた。あの頃は父と母、それと不良の兄がひとりいた…。

 登校したところで先生たちから叱られてばかり。保健室で寝て過ごしたり、図書室でマンガを読んだりと、授業にはほとんど出ません。ですから漢字もろくすっぽ読めません。
 あみ子は思ったことを平易な言葉で直截にしか語ることができません。その発言は同年代の子どもに比べても後先の深慮がないように聞こえるので、同級生の軽侮の対象になるばかりです。

 世間とか人間関係は、年齢が長じるにつれてますます難度を増していくものです。相手の顔色を読んだり、胸中を忖度したりの積み重ねで毎日が暮れていくことも珍しくありません。ですが、あみ子はそうした社会規範からは降りたところで日々を送っています。彼女を自由闊達な存在と呼べるのか、社会性を備えない<可哀そうな子>ととるべきなのか。頁を繰りながら私の気持ちは揺れ続けます。

 いじめの対象であったはずのあみ子に狂暴な兄がいるとわかった途端、同級生の態度が一変する過程が読ませます。あみ子自身には人間関係をうまく結ぶ力がないにもかかわらず、出自によって築かれただけの彼女の続き柄が周囲の人間の行動を縛ったり緩めたりします。彼らの変転する行動規範の胡散臭さと息苦しさは、この私にも共通してあることを突きつけられた気がするのです。

 物語の終盤、坊主頭の同級生に「気持ち悪い」と言われたあみ子が、「どこが気持ち悪いか教えてほしい」と頼む場面があります。彼女はこの同級生に憤っているわけではありません。純粋に「教えてほしい」と好奇の気持ちに従って尋ねただけ。ですが同級生は、固く引き締まった顔をしながらも目を泳がせて、「そりゃ、おれだけの秘密だ」とはぐらかしてしまいます。中学生ともなればこの同級生も立派な大人。自分の発言の及ぶ先を瞬時に読み取ってお茶を濁す社会的な知恵を有しているのです。
 けれどもそれはあみ子との間に人間関係を結ぶ意思がないことを示す行為でもあります。
「こちらあみ子、応答せよ」と呼び掛けても誰一人応えてくれない彼女の世界の寂寥感が際立つばかり。

 救いのない物語かもしれません。それはあみ子が孤独であるからではなく、私たちが社会に張り巡らされた強固な網にからめとられながら生きていることが浮き彫りになって見えてくるからです。
 二度三度と読み返したくなる誘惑にかられる小説です。

◆『ピクニック』
:ビキニ姿の女の子たちが接客する飲食店で働き始めた、ちょっと年齢が上の七瀬さん。彼女は物腰が柔らかく、年下の“先輩”たちにも丁寧に接してくれる女性です。七瀬さんのカレシはタレントの春げんき。彼は七瀬さんと付き合い始めてから運気が増して、テレビのレギュラーにも選ばれる。店の女の子たちは七瀬さんのアパートでいっしょにテレビを見て春げんきを応援するのだが…。

 ちょっと年上で礼儀正しい七瀬さんにルミを中心にした<先輩>たちも敬愛の念を抱くようになり、少しずつ距離を縮めていきます。タレントの彼氏とはなかなか会えない七瀬さん。春げんきが落としたと話す携帯電話を探して炎天下でどぶさらいを延々と続けるも、なかなか見つけられない七瀬さん。テレビ画面を通じて静かに応援するだけの糟糠の妻的存在の七瀬さんです。
 そこへ斜に構えた新人の女の子がある日、分け入ってきます。七瀬さんのことを目の敵にし続けて、<ルミたち>の注意をたびたび受けますが、当人はまるで気にする様子がありません。

 このあたりから読者はこの異分子的新人ちゃんの目を通して、献身的に見えた七瀬さんに、どことなく胡散臭さをかぎ取り始めることでしょう。そもそも本当にタレント春げんきは恋人なのか――その疑問をどうしても抑えられなくなってしまうのです。そして物語の最後に明らかになるに違いない真実を予測して、落ち着かない思いを膨らませながらの読書になるはずです。

 しかし予想外に――見方によってはむしろ想定したとおりに――物語は幕を閉じます。その幕切れを目にして感じるのは、自分ではない誰かを十全に理解することなど叶わない世の常のこと。物語の末にたどり着いた先の地平でまず一度大きく吐息をついた後、<ルミたち>と同じように屋外で缶ビールのプルトップを軽やかに開けたくなります。
 それもまた、私自身が<ルミたち>同様、世間の側に立つ者であることの証(あかし)なのかもしれません。

◆『チズさん』
:近所にチズさんというおばあさんが住んでいた。「私」は青い植木鉢の下に隠してある鍵を使ってはチズさんのところへ遊びにいっていた。その日もいつものように鍵を開けて家の中に入ったが、チズさんの家族が遊びに来て、思わず「私」はトイレに隠れてしまう…。

 わずか15頁の短編小説です。チズさんは「私」をはじめ、家族ともコミュニケーションが取れない老婆です。世間一般の通り相場の行動様式からはもう降りてしまって、二度と戻ることはなさそうなチズさん。「私」は、ほかの人とは違うペースでチズさんと一緒に過ごす時間を楽しんでいるようです。
 不思議な小説です。
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4480431829
No.15:
(5pt)

ゑんがわ

途中まであみ子の気持ちに寄り添える、私は気持ちの広い人、と思いながら読み進み、途中ある個所で許せなくなる。目線が180度変わってしまう。作者さんの手法が鮮やかで、それに乗せられる自分も納得できて。
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4480431829
No.14:
(5pt)

読書の楽しみとはこういうものだ

ひとりでも多くの人に読んでもらいたい。
そう思わずにはいられない作品である。

私は今村夏子さんのように、文才がないから伝えられないけれど。
繰り返し繰り返し読みたい、それだけでなく、ひとりでも多くの人に彼女の才能を、読んでもらいたいです。

作品に魅了されるとは、こういうことなのか。
こちらあみ子 (ちくま文庫)Amazon書評・レビュー:こちらあみ子 (ちくま文庫)より
4480431829
No.13:
(5pt)

絶妙な温度感。純粋すぎて切ない

あみ子の同級生たちは、将来大人になって、あみ子をどういう風に思い出すのだろう。そんなことを思いながら読みました。
その場の情景、空気感がとても鮮やかに描かれていて、正直何度も読むのがつらくなりました。
でも、読んでよかった。薦めてくれた友人に感謝です。
単行本収録の『ピクニック』も風変わりな主人公七瀬さんが愛おしい作品です。
こちらあみ子 (ちくま文庫)Amazon書評・レビュー:こちらあみ子 (ちくま文庫)より
4480431829
No.12:
(4pt)

直球すぎるあみ子

あまりにも直球過ぎて辛くなる。
私達が失くしてしまった物を大切に持ち続けているあみ子が愛おしくなる。
こちらあみ子 (ちくま文庫)Amazon書評・レビュー:こちらあみ子 (ちくま文庫)より
4480431829
No.11:
(5pt)

特異な物語

小説の趣味に関して信頼の置ける友人に薦められて読んでみたが、傑作だった。
特異としか言いようのない語りが紡ぎあげる極上の世界観。
文学好きな人にぜひ読んでみて欲しい。
こちらあみ子 (ちくま文庫)Amazon書評・レビュー:こちらあみ子 (ちくま文庫)より
4480431829

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